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最終章 数多の未来への選択編

最終話 無限の終わりに辿り着くまで…。

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カタカタカタ…。
キーボードを叩く音とマウスを動かす音。それに電話の音に人の話し声。
色々な音が混ざり合っている。
「……やっぱり年下組に美鈴の相手は荷が重過ぎる、か。手を貸さないと、都貴の転生体の内の一人ですら倒す事が出来ない…」
はぁ、と溜息をついて、またキーボードを叩く。
「四従士は、四聖と一緒にいた方が【美鈴】の人生では安定する。ここを崩すのは悪手だ」
「………!」
「となると…」
「遼一っ!!」
「うわぁっ!?」
耳元で叫ばれて驚きのあまり椅子から転げ落ちた。
一体誰だ、人の耳元で叫ぶのはと顔を上げるとそこにいたのは腰に手を当てておれを見降ろしていた。
「み、澪か。驚かせないでくれ」
「後ろから刺さないだけマシだと思いなさいよ。それよりもほら、薫からお手製の」
「えっ!?もしかしてお弁当っ!?」
「お弁当箱」
「箱ーーーっ!?中身はーーーーっ!?」
「薫が料理下手なのは知ってるでしょう?」
「それでも手料理が食べたいってのが男心でしょうっ!?」
「煩い、黙れ、そして消えて」
「酷いなっ!?」
相変わらずの岩塩+鬼対応。
澪がこの態度なのは昔からだけど。
「……それで?どうなの?」
おれが必死に作っているゲームのデータが映し出されている画面を澪は覗き込む。
「正直苦戦してるよ。…マコトの記憶を弄るのもそろそろ限界だし」
「だからさ。勝手に人の記憶を弄らなければいいでしょ」
「仕方ないよ。そうでもしないと美鈴を守れない」
椅子を起こして座りなおすと、隣から椅子を引っ張って来た澪も座り一緒に画面を覗き込む。
「今はどの時点なの?」
「…申護持空良のルートが終わった所だよ。途中嵯峨子奏輔が出て来て、ちょっと方向は変わったけれど」
「奏輔くんが?……ふぅん。成程ね。彼も大概義理堅い子よね」
「…おれとしては一番気に食わないけどね」
「アンタの意見は聞いてないわよ」
「ねぇ、さっきからおれに対する態度酷くない?」
「まだレベル1なんだから感謝しなさいよ」
「これでレベル1っ!?」
「当り前でしょ」
椅子のタイヤを蹴られ、おれは後ろへと流される。
「アンタには私恨みしかないもの」
「……そりゃそうか」
「認められるのもムカつくんだけど?」
「えー?じゃあどうすりゃいいのさ。土下座でもしようか?」
鼻で笑って言ってやると、澪の目が吊り上がった。
あ、やべっ、と思った時にはもう遅く椅子のタイヤを思いっきり蹴られて椅子から転げ落ちたおれの背を思い切り踏みつけられた。
「して貰おうじゃない、土下座を。人を舐めるのも大概にしなさいよ。そもそも、アンタが神の位置についてるのが間違いなのよ。なんで私はこんなのの巫女になったんだろう。人として屑な癖に」
「……」
何も言わずに澪の怒りが収まるのを待った。
こうして床に頭をこすりつけてると、眠くなってくるんだよね。暫く寝てないし…。
「…そう言う所も腹立つのよ。アンタが薫を好きなのは知ってる。だけど、分かっているの?それが【カオリの娘】を苦しめているんだと。私は、あの時カオリを貴方とくっつけるべきではなかったと、心底後悔したわ」
「…………そうか」
「そうよ。バカ兄と…マコトとくっついてさえいれば、こんなに苦しむこともなかった。アンタがっ、神にさえならなければっ、私はこんなにカオリを失わずにすんだのよっ!」
もう、何度この慟哭を聞いただろう。
けれど、おれは、酷い奴だから。この叫びをいくら聞いても心一つ動かない。
おれは、カオリが生きて、腕の中にいてくれるだけでいい。
「………全部、全部アンタが悪いのよっ。アンタがいつも私から全て奪っていくっ。身内も、親友もっ、息子さえっ!」
「………ミオ…、すまな」
「本心でない謝罪なんていらないのよっ!」
ベシッと頭を何かで叩かれた。
その手にあるのは、【輝け青春☆エイド学園高等部】の設定資料集だった。
「なんだかんだで仕事はしっかりしてくれるんだよな。助かる。ありがとう」
足がどけられて、おれは立ち上がりつつ設定資料集を受け取った。
改善出来る点はまだまだある。
例えば天川透馬ルート。あのルートはミオが作った世界だけれど、そこでカオリと戦う必要はなかった。回避出来るならその手段を講じる必要がある。
花島優兎ルート。あのルートは美鈴と優兎の感情のリンクが激し過ぎる。優兎の直ぐ死へと繋がってしまう思考が美鈴の数多の転生した時の死を無意識下で呼び起こさせてしまうんだ。だから、優兎ルートではもう少し美鈴の記憶にフィルターをかけなければならない。
猪塚要ルート。あのルートは少々真っ当過ぎた。確かに美鈴は純粋な子だ。けれど、猪塚の真っ直ぐさとは違う。彼にはもう少し暗さが必要だ。そうでないと美鈴は引け目を感じてしまう。
ペラペラと資料を捲りながら、考える。
「そっちを修正するの?」
ミオが隣から資料を覗き込みながら言うので、おれは静かに首を振った。
「こっちは…美鈴用のデータだ。おれが今修正しているのは【無限ーエイトー】の方。こっちはカオリに渡すデータだから。もう少し綿密に練る必要がある」
「……要注意なのはやっぱり樹龍也?」
「そうだな。あとは四従士の一人。近江虎太郎もか」
「ショウコの子、か…。あの娘は、悪くはないのよね。こんな事になるなんて、予想出来る訳ないわよ。【カオリの娘に執着したまま私の息子に殺された子が転生してショウコの子になった】だけ。下手にショウコに力があっただけ、それが最悪な結果へと向かった。ショウコが鬼になる必要なんてなかったのよ」
「……だけど、そこがショウコだからね」
「責任感の塊の様な子だからね」
「そもそもおれの巫女は皆責任感が強いよ」
「おれの巫女って言わないでくれる?殴りたくなるから」
これ以上言ったらまた殴られる。
大人しく椅子に座って、もう一度パソコンと向き合った。
「四従士で思い出したけど、四聖の子達もちょっと予想外の動きしたわよね?」
「まぁ…確かに予想外だった」
「どうせアンタの事だから、美鈴ちゃんの盾代わりに使おうと思ってたんでしょ」
「……否定はしない」
「出来ないの間違いでしょうがっ。でも、強い子達よね。自分が選ぶべき人をちゃんと選び取って、幸せになってる。神の力なんて必要なかったわね」
「おかげで四従士達が良い働きをしてくれるようになった」
「風間犬太、巳華院綺麗、近江虎太郎、未正宗。この四人が美鈴ちゃんと付き合うパターンもあったんでしょう?」
「当然あった。けど、美鈴は必ず譲ってしまうんだよ。自分に巻き込まれるより、ライバル達、一之瀬夢子、向井円、綾小路桃、新田愛奈の誰かとくっついてくれた方が良いと。身を引くんだ」
「ホント、アンタの子とは思えないわよね。アンタは一切引かなかったものね。少しは引けばいいものを」
「欲しい物は確実に手に入れたいんだ」
「そんなんだから【佳織】に逃げられるんでしょ。ばーかばーか」
ほんっとうに遠慮がなくなったな、澪。
「………ん?ちょっと待て。何でおれが【佳織】に逃げられた事知ってるんだ?」
「旦那から聞いたからに決まってるでしょ」
「は?いや、絶対おかしい。【澪】が【誠】と結婚したのは【佳織】と再会する前だし、何ならお前は先に死んでた筈だ」
「だから、そっちの【誠】じゃなくて、この世界の【真】だってば」
「それもおかしいだろ。だってこっちの【真】はお前と会えたのは数回で。しかもおれが記憶操作して前世の記憶にフィルターを」
「………フィルターを?」
「かけた……って、ちょっと待て。お前、今絶対鎌かけただろっ?」
「ちっ。バレた。まぁ、いいわ。情報は得たし」
「お前、お前ほんっと油断なんねーなっ!」
バンッ!
あ、あいあんくろー、かけて、くんな…げふっ。
普通、顔面叩くほどの力と圧かけてアイアンクローしないだろ。
とは言えない恐ろしい程の般若顔におれは言いかけた文句を飲みこんだ。
「誰に言ってんの?誰に。あぁ?」
…誰か、マジでこいつどっかに連れてってくれないかな?恐ろしいんだけど…。
「そう言えば、ちょっと。丑而摩大地くんと嵯峨子奏輔くんの設定は大丈夫なの?天川透馬くんは【私の作った世界】に飛ばせたからいいとして。人のみであり得ない長寿だったり、時を移動したり。結構ギリギリなラインだと思うんだけど」
「あー…一応、どっちも対処済みだ。丑而摩大地は諸事情から寿命の譲渡が完了しているし、嵯峨子奏輔は、ショウコの力を吸収させている。問題はないが、なんでだ?」
「なんでって、自分の息子の親友を助けるのは当然でしょ」
「親友、ね」
「あぁ?頭潰すよ」
「いでででででっ!」
だから、アイアンクローやめろってのっ!!
「それで?」
「それで?ってなに?」
何とか澪の手を外して、握り潰されそうになった顔を撫でて形を戻し…もとい、痛みを緩和しつつ聞き返すと、不穏な澪の空気にまた手が飛んできそうなので、後ろに下がって回避する。
「前から言ってたでしょ?私の大事な息子は幸せになれるようにしろって」
「…一応、白鳥葵、白鳥棗も良い感じにマコトとミオの力を受け継いで、美鈴を守れてるし幸せになるルートだけど」
ベチンッ!!
今度は平手が飛んできた。回避出来ずにもろに受けてしまう。
「態とはぐらかしてんじゃないわよっ!私が言ってるのは、ミオ(私)の子って意味よっ!鴇の事よっ!」
「………あー…」
「【あー】ってなに?まさか、忘れてたとか言わないわよね?言わせないけども」
バキバキッ。
澪さん?指を鳴らすならせめて手同士をくっつけてならしてくれるかな?
こう、手の平上向けて指だけでバキバキ鳴らすのは、格闘家とかそこらのお強い人達の技だからさ。
とは言え、こうも真剣な顔されるとはぐらかす事も出来ず、おれは頭を掻いた。
「……白鳥鴇、か。お前の血を強く引き過ぎてるんだよな」
「私の子だからね。それが?」
「……その所為か、おれの力と反発しやすいんだ」
「だから?」
「だから?って。そのまんまの意味だよ。おれが加護を与えたくてもお前の力が反発するんだ」
「そんな訳ないじゃない。私の力はアンタの力。アンタの巫女としての力なんだから」
「昔はな。けど今はお前もある種の神になってる。おれと同等の位置に立ってるんだよ」
「へぇ~」
「へぇ~じゃない。その所為で美鈴を助け辛くなってるんだからお前も少し反省をだな」
「する訳ないでしょう、この金クラゲ男が」
「お前、段々悪口のグレード上がってないか?」
「私がこんなに能力が上がったの何でだと思う?アンタの所為だよね?アンタだけでいつも処理出来ないから私もつき合って強くなったんだよね?私だってね、出来るなら【神】なんて面倒な役職に付きたくなかったのよ?だって言うのにアンタがカオリを救うのに一人じゃ無理だとかほざくから」
「わ、分かった分かったっ、おれが悪かったから。もういい」
「いや、解ってない。こうなったら、とことん話し合おうじゃないの。ちょっと椅子から降りて床に座りなさいよ」
「せめて椅子に座らせてくれよ」
「嫌よ。そもそもよ?そもそも私は、アンタの巫女になったのはただ単に、【カオリと一緒にいられるから】だった訳よ。ただそれだけ。私は他に旦那もいたし、なんなら旦那の巫女になろうか悩んでいたくらいだったのよ」
「それは、知ってる」
「そうよね?知ってるわよね?アンタとバカ兄と私の旦那。三人で親友だったものね?」
「はい」
「覚えてるわよね?当然。私も込みで良く四人で飲みに行ったものね?」
「はい。重々覚えております」
「で、私がカオリに会って。カオリを飲みに連れて行ったら、アンタが一目惚れした。正しくはバカ兄とアンタが一目惚れしたんだけど」
「あの時のカオリは滅茶苦茶可愛かった」
「ふざけないで、カオリは何時でも可愛いのよっ」
「君のそう言う所おれは好きだ」
「私はアンタのそう簡単に好き好き言う所大っ嫌いよ。兎に角、その後カオリはバカ兄に惹かれるようになった。それが許せなくて、側にいさせたくてアンタは【神】の採用試験を死ぬ気で通過して、私達を巫女にした。ホントあり得ない執着だったわ」
「ふへへ」
「褒めてもいないし気持ち悪いから止めて。まぁ、その後カオリは自分からアンタを真っ直ぐに見る様になりアンタに惚れた。その後アンタが死んだりカオリが死んだり…。きつい事は一杯あった。沢山沢山あったけど、何よりもきつかったのは、息子の…【ホークス】の叫びよっ!」
「……」
「アンタはいつもいつもいつもっ、カオリの事しか見ていないっ!!ねぇ、解るっ!?全てが終わった後に、全てが蘇るこの辛さがっ!!ホークスが叫んでいたのよっ!!どうしたらカオリの子を救えるのかってっ!!自分の子が苦しんで苦しんで、なのに私は何も出来ないのよっ!!アンタの所為でっ!!」
「…………」
「私だってそうよっ!!私はいつもカオリを失ってから記憶が戻るっ!!こんなのどうしたらいいのっ!?ショウコだって、好きで維持する力を持った訳じゃないっ!!全部全部アンタが考えてやったことよっ!!責任とりなさいよっ!!」
「おれだって…おれだって好きでこんな風になった訳じゃないっ!!」
「ッ!?、遼一…?」
「お前だって考えた事あるのかっ!?お前達が苦しんでいる能力、全て元はおれの能力だっ!!お前に解るのかっ!?全てを失いっ、一人宇宙空間に投げ出されたおれの気持ちがっ!!望んでもいないのに最初から【次代の神】にされていたおれの孤独がっ!?寂しかったんだよっ!!親友も、仲間も、好きな女も、守り続けた世界もっ、全て一瞬にして奪われたおれの気持ちがお前なんかに解ってたまるかっ!!」
「遼一…」
「…くそっ」
涙が溢れてくるのが情けない。
目元をごしごし拭っていると、澪がおれと同じ目線に合わせるように座り、バァンッと平手を喰らわせてきた。
地味に痛ぇ…。
そしてそんなおれに澪は容赦が欠片もない。
「だから、なに?」
「へ?」
「だから何なのよっ!アンタの苦しみなんて等に知ってるっ!アンタの補佐としてここにこうしている今、全て知ってるわよっ!だから、それがなんなのっ!?アンタはもう孤独でも何でもないでしょっ!?バカ兄の記憶を弄りたい放題弄って」
「え?、ちょ、それ語弊がある」
「カオリがマコトに惹かれる度にマコトの記憶を操作してるの、私が知らないとでもっ!?」
「うぐっ」
「言っておくけれど、葵と棗の二人には私の力が行ってない訳じゃないのよっ!?あの子達のルートでアンタ随分好き勝手に言ってたじゃないっ!!」
「ふぐっ!?」
「自分の娘に良い顔したいからって、自分の事を良く見せ過ぎて棗に釘刺されたの知った時は腹抱えて笑ってやったわっ!!」
「………容赦ねぇな…」
「当り前でしょうっ!!泣いてる暇あるならどうにかしなさいよっ!!それから、お願いだから鴇と美鈴ちゃんをくっつけてあげてっ!!お願いだから…」
「………これでも全力尽くしてるんだよ、澪」
「………足りないのよ」
「お前の息子の白鳥鴇はショウコの息子である都貴静流との縁が深すぎるんだ」
「どう言う事…?」
「ショウコの息子は、誰の子か、お前は知ってるか?」
「え?確か、幼馴染と結婚したでしょう?名前、確か…シルバー、だったかしら?」
「違う」
「えっ!?…じゃあもしかして、噂通りアンタの子?」
「それも違う。お前がさっき言っていた通り、表向きは幼馴染と結婚したと言っていたが…。覚えているか?一度馬鹿みたいに飲んで全員がべろべろになって帰った飲み会の日があっただろ」
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「……ショウコはマコトに惚れていた」
「そんな事聞いた事、なかったわ」
「おれも知らなかった。けど、ショウコの本を見て知った。マコトを酔わせて襲い、子を成したと」
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「…そうだ。どちらもマコトの力を継いでいる。白鳥鴇と都貴静流。それが二人の縁だ。マコトは己の能力を【身体的な力】だと思い込んでいるが、実際は違う。アイツの能力を正しく言うならば【破壊】の力なんだよ」
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「アイツの力は唯一おれの力を左右させる事が出来る。どんなものも破壊の前には無力だ。澪も解るだろ?マコトにどんな攻撃を仕掛けても全て破られる事を」
「でもそれはただ【力】が強いだけだと思っていたから。怪力で破るなんて凄いなって思ってただけで」
「怪力だけでおれの力を退けられる訳ないだろ」
「ま、待って?じゃあ、鴇と都貴静流は…」
「おれの力も、マコトの力もどちらも継いでいる事になる」
「ちょっと待ってよ。じゃあ、ショウコの子がカオリの子を狙う理由は」
「おれの力を得て、更に大きな力を無意識下に求めているからだ」
「でも鴇は?私の息子はカオリの子だけを求めてるわっ。力なんて求めてないものっ」
「そこはお前の力と、ショウコの力の違いだな。ショウコの力は【維持】だ。ショウコの力は全てを維持する力がある。感情も力も記憶も全て維持する事が可能でそれによりショウコの子は力への執着を維持し続けてしまった。しかもカオリの子から力を得る快楽を最初に知ってしまったから尚更。逆にお前は蘇生の力を持つが為、息子にはその力が引き継がれ、感情、力、記憶、最初は全てゼロの状態から築き上げられていき、そしてきっかけと共に全てが蘇生される。最初に本人の意思があるかどうか。これはかなり大きい違いだ」
―――バチンッ!!
「なんで今ビンタなんだよっ!」
おれの顔に沢山の手形がついてるだろ!これっ!
恨みがましく睨みつけたら、それ以上の睨みで返された。
「今の話を聞いて、カオリの子が狙われる理由がはっきりと分かったわ。カオリの力は【忘却】…。ショウコの子も私の子も苦しくてもがいて必死に【想い】を【忘れる】為にカオリの子を求めていたのよ。時の力に狂わされていたんだわ。と言う事は、…やっぱりアンタの所為じゃないっ!」
「ええっ!?」
「ほんっと、許せない。…さっさと馬車馬のように働きなさいよっ!!」
「ええー…」
「…私も手伝うから。私達の、私達親世代が子供達を苦しめてるんだから。一刻も早くこの流れに終止符をうってあげましょう?」
「……そうだな」
「そしてアンタはカオリに振られたらいいわ」
「すっげー良い笑顔で怖い事言わないでくれ」
「振られたらいいわ」
余程大事な事なのか、二度も言われた。
「話は終わったかーい?」
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
背後から突然ポンッと肩に手を置かれて言われたら誰だって飛びあがる。
「二人共、職場で叫びながら言い争うのは止めよーね」
「あ、はい…」
「申し訳ありません…」
「それからどっちが悪いかは解らないけど、暴力は駄目だなぁ」
「重ね重ね」
「すみません…」
上司が真ん丸な体でどうやって背後で手を掴んでいるかは解らないけれど、ふむふむと頷きながらいうので素直に謝罪した。
「で?進捗状態はどうなのかな?遼一くんの新作は手がこんでいてとても楽しみにしているんだ」
「あ、ありがとうございます」
「ただ、ちょっと細部までこだわり過ぎじゃないかい?設定でそこまで作りこまなくても」
「そ、そうですか?アハハハハ」
乾いた笑いと言うなかれ。
澪と二人笑って誤魔化す。
「それから、鷹村くん。今日提出の書類は出来たのかな?」
「………もう少しで出来ま~すっ☆」
嘘をつけ、嘘を。
「じゃあ、三十分後に提出をよろしくね」
「げっ!?」
「げ?」
「はぁ~い、了解で~すっ☆」
課長がノシノシと去って行ったのを笑顔で見送り、瞬時におれ達は目の前のパソコンへ向かう。
「ちょっとっ、本当にもう限界なんだけどっ。この【世界】に居座るのっ!」
「待てって。契約ではもう少しいれる筈だろっ」
「それはこの世界の神様の寛大さのおかげだってばっ!本当は私だってこんなに飛んではこれないんだからっ!」
「解ってるってっ!お前が資料読み込む邪魔するからだろうがっ!」
残された時間は後三十分。
おれ達必死に手に入れた資料を読み込み、必死にゲームを作り上げる。
この世界の技術は進んでいてくれてるおかげで助かった。
おれ達が今邪魔している世界の神は寛容で、事情を話したら快く頷いてくれた。
特にこの日本は、神様が多く味方になってくれる神様もいて助かる。
ゲーム会社に潜り込んで、おれはゲームを二つ作り上げた。

【無限ーエイトー】と【輝け青春☆エイド学園高等部】

出来上がったゲームのデータを持ち、おれ達はこの世界から姿を消した。
最初から誰もこの席にはいなかったかのように…。

―――世界を越えて時を遡る。

そして、また新たな時が進む。


カタカタカタ。
トゥルルルルー。
電話と、パソコンのキーボードを叩く音。そして社内の人達が仕事をしている声が聞こえる。
出来上がったゲームの資料を見比べつつ、おれはゲームの製作をしていた。
「遼一ーっ♪ご飯に行こーっ!」
愛してやまない薫の声がしたおれは振り返り笑顔で答えた。
「おー、今行くーっ!あ、そうだっ、薫っ」
おれは急ぎ出来上がったゲームを持ち、薫に駆け寄った。
それを満面の笑みで薫に手渡すと、薫は首を傾げながらもそれを受け取ってくれた。
「なに?どしたの?」
「これ。おれが作ったゲーム。やってみてよ」
「えーっ!?出来たのーっ!?勿論やるよーっ!」
喜ぶ薫の顔を見るこの瞬間がおれにとって堪らなく幸せな気分にさせる。
おれはゲームに目を輝かせている薫の腰を抱いて、エントランスへ向かって歩きだした。

この数か月後、おれはもう一つゲームを作り上げてからこの世界を去る。

そして薫は真と出会い、華が産まれる。

薫と真は華を残しこの世を離れ、華は鷹村浩時と出会い、都貴静流の転生体によりこの世を去る。

鷹村浩時の母である鷹村澪はこの惨劇を産み続けているおれを探し当てると誓い、結果を見届けに来たおれと再会する。

おれの力を限りなく分け与え、神に近いほどの力を得た澪とおれはそこから他世界の神に願い、その世界の一部を借りて【ゲーム】を作り上げる。

この流れをおれは何度繰り返しているか、もう覚えていない。

この恐ろしい時の流れを、知るのはおれとミオのみ。

抜け出す事の出来ないこの恐ろしき流れを作ったのはおれだ。

だが…そんなおれだって、いつも―――願っている。


今度こそ、

無限に続く水の流れのような時の流れを断ち切り、

満開の笑顔の華が子供達を包み、

星のような眩い輝きに満ちた希望と未来を歩めるように、と―――。




乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも、私男性恐怖症なんですけど…。 完

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