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最終章 数多の未来への選択編
※※※
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「…なんでボクの家にお前がいるんだっ!」
「そもそもここお前の家じゃねぇし」
そう。ここは海里くんの家ではないし、寮の部屋でもない。
もっと言うなら、そもそも家じゃない。
私が急遽取った旅館の一室でございます。
ホテルでも良かったんだけど、環さんの強い希望で旅館になった。
そして…何故私まで…?
「透馬お兄ちゃん、詳しく」
「いや、俺も解らない。むしろ何でここにいるんだ、俺達…」
「……ねー」
仲良く湯呑に入れたお茶を飲んでいる場合じゃないってのは解ってるんだけどね。
海里くんと環さんが一色触発状態でほっとく訳にも…ね。
「とにかく落ち着けよ。猿じゃあるまいし」
……うーん。
なんか楽しそうだな~、環さん。
ちょっと見守ってようかな。
「この俺がわざわざ収録終わりの眠りこけてるお前を運んで来てやったんだろうが。感謝しろっての」
「感謝ってっ!」
「あ、それはちゃんと感謝しようね。海里くん。いつも思ってたけど、所構わず寝ちゃ駄目だよ?もう有名人だって自覚しようね」
「えっ!?あ、はい…」
「じゃあ、海里くんと環さんもお茶飲む?淹れるよ?」
「俺は酒の方がいいなぁ」
「この後お仕事ないんだったら構いませんよ~?ご飯食べに行く~?この旅館、飲食スペースあるらしいからさ。この部屋のお向かいがそうらしいよ?」
「あ、あのっ、鈴先輩っ」
「ご飯食べながら環さんに話を聞いたらいいよ~」
「だな。そうするか」
透馬お兄ちゃんが湯呑を置いて席を立ち、それにならって私も立つ。
環さんが暴れる海里くんをあっさりと小脇に抱えて一緒に部屋を出た。
目の前にある飲食スペースには机と椅子が四脚。
私と透馬お兄ちゃんが並んで座り、向かいには環さんと海里くんが座った。
丁度食事の時間だった事もあり、仲居さんが食事をお持ちしますと一言告げて廊下との境にある仕切りを閉めてくれた。
「鈴先輩。本当に聞いても良いでしょうか」
「どうぞー。好きに問い詰めてー」
許可を出した途端、海里くんはくるっと首を環さんの方へと向け立ち上がった。
何を言うのかな?と。私達は海里くんの行動を見ていたのだけど。
しゅるるぅと座り込んでしまった。
「何だ?何も言わないのか?」
環さんがニヤニヤと海里くんを煽る。
「………言う必要がなくなったので」
「ほぅ?何でそう思う?」
「……鈴先輩が警戒していないから」
「ん?」
「鈴先輩が警戒せずにいる人が悪い訳ないから」
「あ?なんだそれ」
ガシッと海里くんの頭を鷲掴んだ環さんの表情はアイドルとはとても言い難い。
ヤのつく職業の人かな…?
「てめぇ、その目、何の為についてる?」
「…は?」
「その頭もだ。何の為についてんだ?」
「ちょっ、痛い、痛いっ」
「女に、しかも惚れてる女に、全部判断させてんのか?だっせぇっ」
「なっ!?」
「ガキ中のガキじゃねぇか。あーあー。見込み違いだったか」
「なーっ!?」
掴まれた腕をどうにか外そうと頑張っているけど、うん…完全に遊ばれてるね。海里くん。
「お前から言う事がねぇなら俺から言わせて貰うが。お前、今度の新作ドラマ。主役降りろ」
「な、なんでアンタにそんな事言われなきゃ」
「決まってるだろ。お前の相棒役は俺だ」
「えっ!?」
「一緒に演じる人間の名前も見てない。演技力もない。頭も悪い。良い所なしじゃねぇか」
滅多打ちにされてません?海里くん。
環さんにも何か思う所があるんだろうから口出しはしないでおくけども。
透馬お兄ちゃんも何も言ってないし。
「どうせセリフもまだ入ってないんだろ?演技の仕事をこんなやつに簡単に与えるとか、ありえねぇ。総帥、あんたの目も曇ってんじゃね?」
おっとぉ?こっちに刃が飛んできたよー?
ま、こんなの私にはぜーんぜん気になりませんけども。
「曇ってますか~?」
にっこり笑って流します。
タイミング良くご飯も来たのでそれを食べます。
「いただきまーす」
「姫。ちゃんと食えよ」
「はーい」
もっくもっく。
私が食べている間も海里くんは環さんに言われ放題言われている。
勿論何度か言い返してはいたけれど、それもあっさりと打ち返されていた。
お酒が入ったら増々環さんは饒舌になり、海里くんはボロボロに。
ズタボロになった海里くんはご飯食べるのもそこそこ透馬お兄ちゃんに部屋に連れられて行った。
残された私と環さん。
「全く止めなかったな、総帥」
「止める必要ありましたか?本当の事しか仰っていないでしょう?まぁ、多少…だいぶ?口は悪いですが」
にこにこ。
私は笑顔のまま言うと、環さんは目を丸くして顔を逸らした。
「……あの子達には発破をかける人間が必要だから。ライバルでも良い、目標でも、何でもいいんです。それが向上心に繋がるのなら」
もぐもぐ…。
食べながらそう伝えると、環さんはそうかと頷いてお酒を一口飲んだ。
「…所で話変わるんだけどよ」
「はい?」
「お前食べる量、少な過ぎねぇか?ダイエット中か?」
「………えーっと……ダイエット中ですっ!」
誤魔化してみる。
「嘘だろ、それ」
即バレる。
「小食って言っても程があるだろ。うちの娘もダイエット中とか言ってあんまり食わねーけど。ダイエットするならバランス良く食わなきゃダメってのは分かり切った事だろうが」
言いながら、目の前に取り分けられたおかずの皿が何枚も並べられていく。
……ノルマが、増えた…ふみぃ~…。
「………ん?うちの娘?あれ?環さん、結婚されてるんですか?」
「ん?おう。嫁と娘が二人」
「しかも二人?…アイドルしてて良いんですか?奥様、焼き餅とか…」
「あー、あいつは俺が色々やってた頃を知ってるからな。今更この程度の事で嫉妬なんかしてくれねーよ。むしろ俺としてはして欲しいくらいだ」
おお、環さん、奥様の事溺愛してるんだ。良い事だね。
「あー、そういや、俺も聞きたかったんだけどよ」
話しかけられて、何だろうと首を傾げたその時。
廊下を走る何人もの足音がした。
何が起きたのか解らず私と環さんは顔を見合わせて、そっと廊下の方へ近寄り仕切り戸を開ける。
『―――見ぃ~つけた』
ガタンッ!!
突然に何かが倒れる音がして、一気に館内の明かりが全て消えた。
「おいっ、総帥っ、大丈夫かっ!?」
「な、んとかっ」
幸い隣に環さんがいてくれてるのが解って、少し平常心を取り戻す。
「今、見つけたとかなんとか声が聞こえなかったか?」
明かりが消えたり何だりした所為で、記憶から飛ばしがちだったけど言われてみたら確かに、声がした。
ぞわりと全身に鳥肌が立つ。
落ち着け…私の事じゃないかもしれない。だから、落ち着け、私。
いざとなったらここを出て透馬お兄ちゃんの側に駆け込めばいいんだから。
「大丈夫…大丈夫だから…」
自分に言い聞かすように何度も何度も大丈夫と呟く。
『本当に、大丈夫、なのかなぁ~?』
「ヒッ!?」
耳元で聞き慣れない声がした。
声が変えられているから男なのか女のか解らない。
だけど、私はこの気配を、恐怖を知っている。
声が出ない。
怖いっ。
「おいっ!総帥っ!!大丈夫かっ!?」
環さんが声をかけてくれるけれど、恐怖で反応する事が出来ない。
『…いいの?答えなくて。まぁ、答えさせる気は、ないけどね』
「姫っ!!無事かっ!!」
透馬お兄ちゃんの声っ!
何か、何か言わなきゃっ!振り絞ってでもっ!
「ぅ、ま、お、にぃちゃ、ふぐっ」
絞りだした声は途切れ途切れで、口を何かで塞がれてしまったけれど。
「総帥、そこかっ!!」
「姫っ!今助けるっ!!」
バンッ!
二人が叫んだと同時に明かりが復活した。
私の背後に誰がいるのかは解らない。
だけど私の口を塞いでいた手が私を引き寄せて、抱え込み何処かへ連れて行こうとする。
嫌だっ、嫌だっ、怖いぃぃぃっ!!
「てめぇっ、その女を離せっ!!」
恐怖の涙で前が見えなくなっている私の腕を掴み引き寄せようとして環さんは力を込める。
しかし、背後の人物は私を離すつもりはないのか、引っ張られる腕が痛い。
だけど、私は攫われたくない。だから、握ってくれている環さんの手をもう一方の手で掴む。
「姫っ!!」
透馬お兄ちゃんが飛び込んできて、その拳が私の頭上に振られる。
瞬間、腕の拘束がなくなり、私はバランスを崩してしまうが、環さんが私を引き寄せて抱き止めてくれた。
私を連れ去ろうとしてきた人は深いフード付きのコートを着ていて顔が見えない。
そいつが私に向かってまた手を伸ばしてくるが、環さんが私を庇うように間に体を滑りこませ遮ってくれる。
その間に透馬お兄ちゃんの蹴りが飛ぶ。
それを犯人はひらりと回避して、窓を開け外へと飛び出した。
私達のいる階は3階だ。
透馬お兄ちゃんが窓まで駆け寄るが、犯人はどうにも屋根に降りて走って逃げたようだ。
「鈴先輩っ!!無事ですかっ!?ああーっ!?」
海里くんが何かに驚いている。
一体何に…ふみっ!?
あー、これ傍から見たら、私環さんに押し倒されそうになって泣いている、の図?
「アンタ、何してっ、とにかく鈴先輩から離れろ、変態っ!!」
環さんに駆け寄った海里くんが拳を振り上げたけれど、それはあっさりと環さんに手の平に受け止められた。
海里くんはもう私の事は見えていないらしいので、私は環さんにお礼を言いつつ、彼の下から抜け出して透馬お兄ちゃんにそっと近づく。
「大丈夫か、姫」
「怖かった、けど、…なんとか…」
「良く頑張ったな。遅くなって悪かった」
「うぅん…ありがとう、透馬お兄ちゃん」
コソコソと言葉を交わしていると、
「そこまで言うなら、勝負するかっ?」
「いいよっ!受けて立ってやるっ!!」
海里くんが環さんの挑発に乗ってしまったらしい声が私達に届いた。
「おもしれぇっ!そうこなくちゃなっ!なら、こいつで勝負だっ!」
…もしかして環さんって顔に似合わず勝負事大好き?
「『アイドル頂上決戦』…?」
「これの演技の部に出ろ。そこで俺と勝負だ。いいか。俺に勝つだけじゃ話にならねぇからなっ。優勝だ。優勝をとったらお前の言う事を一つ聞いてやる」
「……その言葉、絶対ですねっ!?」
「二言はない」
立ち上がった環さんはくるっと振り返って私に向かってシッシッと手を振った。
「こっからは俺達タレントの世界だ。お前はもう帰れ。トマ連れ帰れ」
「…だな。ここにいたら色んな意味で危ない。姫、家に帰るぞ。…暫くは外出禁止な」
「ふみーっ?」
問答無用で透馬お兄ちゃんに抱き上げられて、私は強制送還を余儀なくされた。
家に帰ると、何故か既に待機していた華菜ちゃんにくどくどとお説教をされました。何故…。
そうして、一ヶ月後。
私は華菜ちゃんと逢坂くんの三人でテレビの前に座り待機していた。
外出禁止、自宅謹慎していた私に透馬お兄ちゃんから連絡が来て。
『海里と環が面白い事になってるから、見てやってくれよ』
と言う連絡が来たのです。
面白い事って何?と興味津々でテレビを点けて待機していました。
勿論海里くん達を応援したいっのが主だよ?
番組名は『アイドル頂上決戦!一番輝いているアイドルは誰だっ!?』。
アイドル対抗番組で男子の部、女子の部と別れており、更にその中で競い合う競技が別れている。
歌、ダンス、トーク力、演技力、他にも色々な部門がありアイドル達が自分の実力を発揮し得意分野で競えるようになっていた。
女子の部にはユメも出るらしく、私はユメを全力で応援する為にしっかりと応援うちわを用意している。任せてっ!
海里くんと環さん、それからユメは演技の部に、陸実くんはダンス。空良くんは歌の部にエントリーしてるらしい。
審査員は有名事務所の社長とか番組のスポンサー、アイドルでデビューして今はマルチな有名タレントさん、他には各部門のプロの人がいる。
後はこの番組は視聴者も審査をする事が可能らしい。一番投票数が多かった人に視聴者票として他審査員が保有している最高点と同じだけの点数が加算される。
しかも高得点を出し優勝した人にはスポンサー企業のCMの出演権利を得る事が出来る。
この番組にアイドル人生をかけているアイドルは多い。
そんな大事な番組に出るのなら見ない訳にはいかない。
うちの子達がどんだけ凄いかを見逃す訳にはいかないのですっ!
お茶とお菓子もばっちり準備完了してますっ!
番組始まる前から華菜ちゃんにちょこちょこ食べられてますが問題なしっ!おかわり沢山あるからねっ!
夜七時から始まる特番。
「美鈴ちゃんっ、始まったよっ!」
「うんっ!まずは誰のうちわを用意したらいいのかなっ!?」
わっくわっくと各種うちわを持ちながら私達はテレビ画面に注目した。MCの進行で対決が始まり、最初に歌対決で空良くんが出て来た。
空良くんも頑張ったんだけど結果は三位。残念。
次にダンス対決。陸実は健闘しました。でも結果は二位。一位の人の日舞に負けてしまった。ダンス対決でまさか日舞が見れるとは思わなかった…けど!
「陸実くん、頑張ったよっ!」
「美鈴ちゃん美鈴ちゃん。感情移入し過ぎてうちわ折れてるよ」
「あ、あら?」
「折角作ったのにへし折るとか、白鳥、お前あほだろ」
「大丈夫!予備はあと9つあるから!」
「いや、作り過ぎ」
…確かに、作り過ぎ…。いや、いいんだ。どうせあの子達を応援し続ける限りは使うんだしっ!
「あー、陸実、泣いてるじゃねーか」
「うんうん。頑張ったもんね」
「むしろ美鈴ちゃんが泣きそうだよ。ティッシュいる?」
「大丈夫。タオルがあるから」
「それ、食器拭きだよね?…タオル持ってくるね」
華菜ちゃんが席を立ってタオルを取りに行ってくれてる間に、CMが終わり演技力の部が始まった。
一人目は有名アイドルで女優としても人気のある女性だった。
「あれ?女性から?さっきまで男性からだったよね?」
「今回は男性の演技力対決がレベルが高いから最後に持って行くんだとよ」
「へぇ~、そうなんだ~。はい、美鈴ちゃん、タオル」
戻って来た華菜ちゃんにタオルを渡されて、お礼を言いつつ受け取り、テレビに注目する。
演技力対決。ユメが出てくるよねっ!
演技力はエチュード、即興劇での対決らしい。
テーマは女性の部、男性の部、どちらも『自分が憧れている人』と発表された。
即興劇だから、その場でテーマを聞いてシナリオを頭で構成して演じなければならない。しかも、同時に発表されると後半の人に考える時間を与えてしまい有利になってしまう為、テーマは舞台に上がったその場で渡される紙に書かれている。
楽屋ではテレビやスマホなどは回収されスタジオの状況が一切解らないようにされているそうだ。
憧れてる人、かー。
私だったら…ママ、かな。うん。
ユメは誰を選ぶのかな?わくわくとユメの出番をうちわを持ちつつ待っていると、ユメの順番が回って来た。
MCにお題の紙を渡され、一瞬悩みつつ、直ぐに切り替えて舞台のセンターに移動した。
MCの開始の合図と同時にユメの空気が変わった。
『私の憧れている人は、世界でただ一人です』
ユメは髪ゴムで髪を一本に結い上げた。そして、凛と背を伸ばし、真っ直ぐに前を向く。
『私は、あの人に救われた。だから、あの人の為になりたかった』
ユメの目から意志が消えた。ぼんやりとした瞳で遠くを見つめる。
『あの人の為になれるなら、死すら構わない。あの人の為にこの身を捧げようとしていたのに、私は失敗した。あの人に私の存在を知られてしまった。あの人の足枷になってしまった!こんな、こんなに苦しくて悲しい事なんて、この世にあるんだろうかと…。私は、なんてことをしてしまったのだろうか、と…』
切なくて苦しくて、誰にも知られたくなかったと。ただ一人で消えて行きたかったと。ユメの憧れの人への想いが痛い位に胸に刺さる。
『だけど、あの人は、私をまた助けてくれた。全てを失ったと思ったのに、あの人は、私を真っ直ぐに見て、微笑んで手を差し伸べてくれた』
涙を流して胸を抑えていたユメが、ゆっくりと震えていた手を降ろして、真っ直ぐに前を見て、それはそれは綺麗に微笑んだ。
柔らかい笑顔で、『あんなにも優しくて』、何かを手に持って奮う仕草と凛々しい表情で、『あんなにも強くて』、そして最後に不敵に笑い、『あんなにもカッコいい』、
『そんな彼女に私は憧れて、愛してやまないのです』
最後に結んだ髪をふわりと崩して、ユメは優雅に礼をした。
ユメの世界感に取りこまれ、会場は一瞬言葉を失い、そして盛大な拍手に包まれた。
「……美鈴ちゃんの、事だね」
「だな。あんな風に白鳥を好きだって、愛してるって言うから、白鳥大洪水だぞ」
「ユメぇぇぇぇぇ……私も愛してるぅぅぅぅぅ…」
ぼったぼったと涙が零れて、嗚咽も混じって、私もう死にそう。
憧れてくれてるのぉーっ?こんな私なのにぃーっ?
今度あった時、全力で抱き付いてやるぅぅぅーっ!うわああああんっ!!
「美鈴ちゃんへの愛だったら私だって負けないんだから!」
「うわあああんっ!華菜ちゃんも大好きぃぃぃっ!!」
「私も大好きーっ!!」
「華菜。収集つかないから止めろ」
タオルで涙を拭いている間に、他の出演者の演技も終わり、そして女子の部の結果が発表された。
優勝のトロフィーはユメへと渡された。
『優勝おめでとうございますっ!MEIさん、やはり今のお気持ちは憧れの人に伝えたいですか?』
『はい!今の私の演技は『王子』に捧げたいと思いますっ!』
『王子、ですか?それは一体どう言う…』
『ふみ?…んー、内緒です!』
和やかな雰囲気で笑う画面の向こう。
そして画面の手前では号泣再来の私。
華菜ちゃんが水分が消えると心配してお茶を淹れ直してくれた。ありがとう。
逢坂くんがティッシュを差し出してくれたので、鼻をかんで、涙をタオルで拭いて華菜ちゃんが淹れてくれたお茶を飲む。
女子の部が終わり、続いてラスト部門。男性の部演技対決が始まった。
演技力に出場している人はどうやら少ないらしく、あっという間に環さんの順番になった。
環さんが演じたのは、もう亡くなっている有名な俳優さんだった。
真似てドラマのワンシーンを演じたが完コピかって位に上手く、自分がどう憧れているのかもまとめられていて、綺麗にまとまりその演技力もかなりのものだった。
終わった時、会場中拍手の渦で。
元々アイドルとしてのキャリアもあるから、自分の魅せ方も知っていたのだろう。
うーん…確かに彼は俳優の方へ仕事依頼を切り替えた方がいいかもしれないね。……子持ちだってバレた時の為にも早めに切り替えた方がいいかも。
あとで環さんに相談してみよう。うん。
「海里の出番来ないな」
「この感じだとラストなのかもしれないな」
「うん」
番組は進み、そして最後。
海里くんが登場した。
MCから紙を渡されて、お題を見て。
海里くんは舞台センターへと向かった。
MCの開始の合図があり、海里くんは笑った。
『ボクの憧れの人。ボクは沢山の人に支えられてここにいます。一人や二人じゃない。だから憧れている人は沢山、ほんっとうに沢山いるんです。中でも最近一番憧れている人は』
海里くんの雰囲気が変わる。
スーツの様なアイドル衣装を着ていた海里くんが襟元のネクタイを緩める。少し後ろに体重を落とし何かに背を預ける様なポーズをして、煙草をふかしている。
…?、誰の事だろう?
『あーあー…ガキがうるせぇな。騒ぐんじゃねぇよ、猿みたいに』
……あ、あー、成程?環さんの事だ。
『あの人、いつもこう言う話し方をするんです。もしかして、ボクを揶揄うのが趣味なのかもしれない。まぁ、いつも眠っちゃってるボクも悪いんですが』
ふふふっと笑う海里くんに私達も釣られて笑ってしまう。
『でも、あの人と付き合ってる内にボク、解って来たんです』
えへんと胸を張る姿にまたくすくすと笑いが漏れる。
だけど、次の瞬間海里くんの表情と態度が変わる。
色気たっぷりに髪を気だるげに掻き上げて、仕方ないなと呆れたような、それでも相手を慈しむような顔に変わっていた。
『おい、風邪引くぞ…って、ボクが疲れ過ぎて寝てる時は毛布をかけてくれる。逆にただ眠ってる時は』
今度は笑顔なのに、怒ってる、とテレビ画面を通してでも恐怖を肌で感じれるような圧を出して、
『てめぇ、何寝てんだ、こら。余裕だなぁ、あぁ?アイドルさんよ?、って叱ってくれるんです。この時の顔が怖くて怖くて。だけど、さっきも言ったように解って来たんです。これってボクに愛情をもって接してくれてるからなんだって』
海里くんが嬉しそうに、海里くんの笑みで笑う。
『だから、ボク、嬉しくて』
海里くんがもう一度煙草を壁に背を預けて煙草をふかす仕草をして、
『あ?今何つった?…は?俺がお前に愛情?…ハッ、馬鹿言うな』
バッと顔を背けたその顔は真っ赤で、ツンデレを完璧に表現しており、
『これはもしかして揶揄い返すチャンスではっ?と思って更に、ボクが見直したと告げると』
ニヤリと悪そうに笑って、『バーカ』と楽しそうに笑った。
『って。バカって言われた筈なのに、ボクはこれで確信したんです。あぁ、この人はとても愛情深い人なんだって。ボクが誤解してただけなんだって。最初苦手だったんですよ?でも、今ではすっかり憧れの人なんです』
そうしめくくり、海里くんは深々と礼をした。
海里くんが頭を上げた直後、大きな拍手が会場に響いた。
「すっご…。海里、喜怒哀楽、全て今のエチュードに入れこんだじゃん」
「だな。しかも、自分と憧れの人との使い分け、完璧だったな」
「……頑張った!海里くん、頑張ったねぇぇぇぇ…っ」
私も海里くんの頑張りに盛大に拍手を贈った。
うちわが二本ほど駄目になったけど、仕方ない。それほど、海里くんの成長に感動したんだ!
ラストの海里くんの演技が終わり、審査の時間に入る。
その間テレビのこちら側は、CMである。
「海里、今頃やり切ったって寝てるんじゃねぇか?」
「流石に結果聞くまでは寝ないんじゃない?そう言えば美鈴ちゃん、海里くんの憧れの人って天川先生の事であってる?」
「んー…ある意味で合ってる、かな?」
ふふっと笑って答えると華菜ちゃんは首を傾げた。
そうこうしてる間にCMが開けて、優勝者の発表となった。
MCのコメントとドラムロールが鳴り響き、そして―――。
『優勝者はっ、―――アッフェ、海里くんっ!!』
スポットライトが舞台上にいるアイドル達の中にいる海里くんに当たる。
『おめでとうございますっ!』
『ありがとうございますっ』
海里くんが前に出てトロフィーを受け取った。
「華菜ちゃん」
「ん?どうしたの?美鈴ちゃん」
「泣いていいかなぁぁぁっ!!」
「いいよっ!」
「うわああああんっ!!皆立派になってぇぇぇぇっ!!」
「白鳥、それもうオカンの立場じゃね?」
今頃明子さんも泣いてるって断言出来る。
『今回の対決で、演じられた憧れの人。海里くんの憧れの人って誰だったの?』
MCが問いかけた瞬間、ごふっと咳き込んだ人がいた。
視線は一斉に彼に集まる。
『もしかして、縁舞のカンくん?』
『あ、ばかっ、やめっ』
『はいっ!』
あー、良い笑顔だ、海里くん。環さん、顔真っ赤にして恥ずか死にしそうだよ?
こっちから見たら微笑ましいけどね。
『あぁ、そう言えば二人は同じ事務所でしたね。昔から仲が良かったり?』
『いいえ。最近、ちょっとここでは言えない事がありまして、そこを助けてくれたのがカンさんで。そこから憧れの人です』
『おまっ、あんま言うな、恥ずかしい』
あぁ、何これ、微笑ましいやりとり。ドルオタにありがたい絡みじゃない?
アイドル同士のじゃれあい、楽しい、これ常識。
優勝者にヘッドロックをかける環さん、楽しそうだな。
『あー、そうだ、そうだ。忘れてた。俺達勝負してたんだよなー?海里、俺に何を命令する?』
…あ、やり返してるな、環さん。
『ボクがお願いするのは一つだけです!ボクと一緒のドラマ、全力で演じてくれますか?』
海里くんの言葉に環さんは一瞬だけキョトンとすると、
『当り前だろ、ばか』
そう言って、髪を掻き上げて笑った顔は大人の色気が溢れていて、海里くんが演じたそのままだった。
会場も視聴者も一緒になって息をのむ。
『で?本当にそれでいいのか?じゃあ、俺も優勝者に一つ質問してもいいか?』
『え?』
『お前が本当に演じたかった憧れの人へ、お前が向けた言葉』
『え?えっ!?』
環さんがスッとまとう雰囲気を変えた。
笑った顔も動きも海里くんそのままで。
『……絶対言える訳ないけど。まだボクこんなだから、言える訳ない。だけど、誰も、聞いてないし。この場だったら良いよね』
凄い。
話し方も動きも完全に海里くんだ。
『………鈴先輩。だ』
『うわああああっ!』
海里くんの声が環さんの声を掻き消し、手が口を塞いだ。
『え?なになに?今何て言ったの?』
MCが興味津々に環さんと海里くんに詰め寄る。
『な、何でもないよな!な?空良』
『………うんっ』
『えー?怪しいなー?』
今度はMCが陸実くんに攻寄る。たじたじな陸実くん。
『本当にー?』
『お、おうっ。本当だっ。海が鈴先輩が好きだなんて誰も知らないっ!!』
………は?
一瞬の間。
後、崩れ落ちる海里くんと腹を抱えて笑う環さん。
おろおろとする陸実くんと遠い目をする空良くん。
鬼の形相で怒るユメ。
色々な感情が交差した状態で番組は終了した。
放心状態の私に、一通のメールが届く。
『……明日からまた暫く自宅謹慎な』
透馬お兄ちゃんの外出禁止命令だった。
その後。
暫く外出禁止を経て、やっと事務所に辿り着いた私に海里くんは真っ直ぐに告白してくれた。
「鈴先輩が男性恐怖症だって解ってます。でも、好きなんですっ!ボクの気持ちだけ、知っていてください。ボクは今この気持ちを鈴先輩に知って貰えてるだけで、視界に入れてるだけで幸せですから」
そう言って、海里くんは笑った。
私は恐らく彼の気持ちに答える事はないだろう。
男の人と付き合うと言う選択肢がもとよりない私を想うのは海里くんにとってただの時間の無駄遣いになるんじゃないかな。
そんな罪悪感を海里くんに告げると海里くんは静かに頭を振って。
「大丈夫です。ボクはアイドルになるんですよ?皆に愛される存在になるんです。ボクが鈴先輩を想ってあいた時間はファンの皆が埋めてくれるから。その時間は絶対に無駄にはならないです」
そう言って笑って真っ直ぐ私を見つめてくれた。
海里くんにそこまでの覚悟があるのなら。
彼の気持ちはありがたく受けとろうって、そう思う。
いずれ、彼にとって、私を想うよりも大事な人が出来るまで。
私は―――何も言わずに受け止めようと、そう思うんだ。
海里編 完
「そもそもここお前の家じゃねぇし」
そう。ここは海里くんの家ではないし、寮の部屋でもない。
もっと言うなら、そもそも家じゃない。
私が急遽取った旅館の一室でございます。
ホテルでも良かったんだけど、環さんの強い希望で旅館になった。
そして…何故私まで…?
「透馬お兄ちゃん、詳しく」
「いや、俺も解らない。むしろ何でここにいるんだ、俺達…」
「……ねー」
仲良く湯呑に入れたお茶を飲んでいる場合じゃないってのは解ってるんだけどね。
海里くんと環さんが一色触発状態でほっとく訳にも…ね。
「とにかく落ち着けよ。猿じゃあるまいし」
……うーん。
なんか楽しそうだな~、環さん。
ちょっと見守ってようかな。
「この俺がわざわざ収録終わりの眠りこけてるお前を運んで来てやったんだろうが。感謝しろっての」
「感謝ってっ!」
「あ、それはちゃんと感謝しようね。海里くん。いつも思ってたけど、所構わず寝ちゃ駄目だよ?もう有名人だって自覚しようね」
「えっ!?あ、はい…」
「じゃあ、海里くんと環さんもお茶飲む?淹れるよ?」
「俺は酒の方がいいなぁ」
「この後お仕事ないんだったら構いませんよ~?ご飯食べに行く~?この旅館、飲食スペースあるらしいからさ。この部屋のお向かいがそうらしいよ?」
「あ、あのっ、鈴先輩っ」
「ご飯食べながら環さんに話を聞いたらいいよ~」
「だな。そうするか」
透馬お兄ちゃんが湯呑を置いて席を立ち、それにならって私も立つ。
環さんが暴れる海里くんをあっさりと小脇に抱えて一緒に部屋を出た。
目の前にある飲食スペースには机と椅子が四脚。
私と透馬お兄ちゃんが並んで座り、向かいには環さんと海里くんが座った。
丁度食事の時間だった事もあり、仲居さんが食事をお持ちしますと一言告げて廊下との境にある仕切りを閉めてくれた。
「鈴先輩。本当に聞いても良いでしょうか」
「どうぞー。好きに問い詰めてー」
許可を出した途端、海里くんはくるっと首を環さんの方へと向け立ち上がった。
何を言うのかな?と。私達は海里くんの行動を見ていたのだけど。
しゅるるぅと座り込んでしまった。
「何だ?何も言わないのか?」
環さんがニヤニヤと海里くんを煽る。
「………言う必要がなくなったので」
「ほぅ?何でそう思う?」
「……鈴先輩が警戒していないから」
「ん?」
「鈴先輩が警戒せずにいる人が悪い訳ないから」
「あ?なんだそれ」
ガシッと海里くんの頭を鷲掴んだ環さんの表情はアイドルとはとても言い難い。
ヤのつく職業の人かな…?
「てめぇ、その目、何の為についてる?」
「…は?」
「その頭もだ。何の為についてんだ?」
「ちょっ、痛い、痛いっ」
「女に、しかも惚れてる女に、全部判断させてんのか?だっせぇっ」
「なっ!?」
「ガキ中のガキじゃねぇか。あーあー。見込み違いだったか」
「なーっ!?」
掴まれた腕をどうにか外そうと頑張っているけど、うん…完全に遊ばれてるね。海里くん。
「お前から言う事がねぇなら俺から言わせて貰うが。お前、今度の新作ドラマ。主役降りろ」
「な、なんでアンタにそんな事言われなきゃ」
「決まってるだろ。お前の相棒役は俺だ」
「えっ!?」
「一緒に演じる人間の名前も見てない。演技力もない。頭も悪い。良い所なしじゃねぇか」
滅多打ちにされてません?海里くん。
環さんにも何か思う所があるんだろうから口出しはしないでおくけども。
透馬お兄ちゃんも何も言ってないし。
「どうせセリフもまだ入ってないんだろ?演技の仕事をこんなやつに簡単に与えるとか、ありえねぇ。総帥、あんたの目も曇ってんじゃね?」
おっとぉ?こっちに刃が飛んできたよー?
ま、こんなの私にはぜーんぜん気になりませんけども。
「曇ってますか~?」
にっこり笑って流します。
タイミング良くご飯も来たのでそれを食べます。
「いただきまーす」
「姫。ちゃんと食えよ」
「はーい」
もっくもっく。
私が食べている間も海里くんは環さんに言われ放題言われている。
勿論何度か言い返してはいたけれど、それもあっさりと打ち返されていた。
お酒が入ったら増々環さんは饒舌になり、海里くんはボロボロに。
ズタボロになった海里くんはご飯食べるのもそこそこ透馬お兄ちゃんに部屋に連れられて行った。
残された私と環さん。
「全く止めなかったな、総帥」
「止める必要ありましたか?本当の事しか仰っていないでしょう?まぁ、多少…だいぶ?口は悪いですが」
にこにこ。
私は笑顔のまま言うと、環さんは目を丸くして顔を逸らした。
「……あの子達には発破をかける人間が必要だから。ライバルでも良い、目標でも、何でもいいんです。それが向上心に繋がるのなら」
もぐもぐ…。
食べながらそう伝えると、環さんはそうかと頷いてお酒を一口飲んだ。
「…所で話変わるんだけどよ」
「はい?」
「お前食べる量、少な過ぎねぇか?ダイエット中か?」
「………えーっと……ダイエット中ですっ!」
誤魔化してみる。
「嘘だろ、それ」
即バレる。
「小食って言っても程があるだろ。うちの娘もダイエット中とか言ってあんまり食わねーけど。ダイエットするならバランス良く食わなきゃダメってのは分かり切った事だろうが」
言いながら、目の前に取り分けられたおかずの皿が何枚も並べられていく。
……ノルマが、増えた…ふみぃ~…。
「………ん?うちの娘?あれ?環さん、結婚されてるんですか?」
「ん?おう。嫁と娘が二人」
「しかも二人?…アイドルしてて良いんですか?奥様、焼き餅とか…」
「あー、あいつは俺が色々やってた頃を知ってるからな。今更この程度の事で嫉妬なんかしてくれねーよ。むしろ俺としてはして欲しいくらいだ」
おお、環さん、奥様の事溺愛してるんだ。良い事だね。
「あー、そういや、俺も聞きたかったんだけどよ」
話しかけられて、何だろうと首を傾げたその時。
廊下を走る何人もの足音がした。
何が起きたのか解らず私と環さんは顔を見合わせて、そっと廊下の方へ近寄り仕切り戸を開ける。
『―――見ぃ~つけた』
ガタンッ!!
突然に何かが倒れる音がして、一気に館内の明かりが全て消えた。
「おいっ、総帥っ、大丈夫かっ!?」
「な、んとかっ」
幸い隣に環さんがいてくれてるのが解って、少し平常心を取り戻す。
「今、見つけたとかなんとか声が聞こえなかったか?」
明かりが消えたり何だりした所為で、記憶から飛ばしがちだったけど言われてみたら確かに、声がした。
ぞわりと全身に鳥肌が立つ。
落ち着け…私の事じゃないかもしれない。だから、落ち着け、私。
いざとなったらここを出て透馬お兄ちゃんの側に駆け込めばいいんだから。
「大丈夫…大丈夫だから…」
自分に言い聞かすように何度も何度も大丈夫と呟く。
『本当に、大丈夫、なのかなぁ~?』
「ヒッ!?」
耳元で聞き慣れない声がした。
声が変えられているから男なのか女のか解らない。
だけど、私はこの気配を、恐怖を知っている。
声が出ない。
怖いっ。
「おいっ!総帥っ!!大丈夫かっ!?」
環さんが声をかけてくれるけれど、恐怖で反応する事が出来ない。
『…いいの?答えなくて。まぁ、答えさせる気は、ないけどね』
「姫っ!!無事かっ!!」
透馬お兄ちゃんの声っ!
何か、何か言わなきゃっ!振り絞ってでもっ!
「ぅ、ま、お、にぃちゃ、ふぐっ」
絞りだした声は途切れ途切れで、口を何かで塞がれてしまったけれど。
「総帥、そこかっ!!」
「姫っ!今助けるっ!!」
バンッ!
二人が叫んだと同時に明かりが復活した。
私の背後に誰がいるのかは解らない。
だけど私の口を塞いでいた手が私を引き寄せて、抱え込み何処かへ連れて行こうとする。
嫌だっ、嫌だっ、怖いぃぃぃっ!!
「てめぇっ、その女を離せっ!!」
恐怖の涙で前が見えなくなっている私の腕を掴み引き寄せようとして環さんは力を込める。
しかし、背後の人物は私を離すつもりはないのか、引っ張られる腕が痛い。
だけど、私は攫われたくない。だから、握ってくれている環さんの手をもう一方の手で掴む。
「姫っ!!」
透馬お兄ちゃんが飛び込んできて、その拳が私の頭上に振られる。
瞬間、腕の拘束がなくなり、私はバランスを崩してしまうが、環さんが私を引き寄せて抱き止めてくれた。
私を連れ去ろうとしてきた人は深いフード付きのコートを着ていて顔が見えない。
そいつが私に向かってまた手を伸ばしてくるが、環さんが私を庇うように間に体を滑りこませ遮ってくれる。
その間に透馬お兄ちゃんの蹴りが飛ぶ。
それを犯人はひらりと回避して、窓を開け外へと飛び出した。
私達のいる階は3階だ。
透馬お兄ちゃんが窓まで駆け寄るが、犯人はどうにも屋根に降りて走って逃げたようだ。
「鈴先輩っ!!無事ですかっ!?ああーっ!?」
海里くんが何かに驚いている。
一体何に…ふみっ!?
あー、これ傍から見たら、私環さんに押し倒されそうになって泣いている、の図?
「アンタ、何してっ、とにかく鈴先輩から離れろ、変態っ!!」
環さんに駆け寄った海里くんが拳を振り上げたけれど、それはあっさりと環さんに手の平に受け止められた。
海里くんはもう私の事は見えていないらしいので、私は環さんにお礼を言いつつ、彼の下から抜け出して透馬お兄ちゃんにそっと近づく。
「大丈夫か、姫」
「怖かった、けど、…なんとか…」
「良く頑張ったな。遅くなって悪かった」
「うぅん…ありがとう、透馬お兄ちゃん」
コソコソと言葉を交わしていると、
「そこまで言うなら、勝負するかっ?」
「いいよっ!受けて立ってやるっ!!」
海里くんが環さんの挑発に乗ってしまったらしい声が私達に届いた。
「おもしれぇっ!そうこなくちゃなっ!なら、こいつで勝負だっ!」
…もしかして環さんって顔に似合わず勝負事大好き?
「『アイドル頂上決戦』…?」
「これの演技の部に出ろ。そこで俺と勝負だ。いいか。俺に勝つだけじゃ話にならねぇからなっ。優勝だ。優勝をとったらお前の言う事を一つ聞いてやる」
「……その言葉、絶対ですねっ!?」
「二言はない」
立ち上がった環さんはくるっと振り返って私に向かってシッシッと手を振った。
「こっからは俺達タレントの世界だ。お前はもう帰れ。トマ連れ帰れ」
「…だな。ここにいたら色んな意味で危ない。姫、家に帰るぞ。…暫くは外出禁止な」
「ふみーっ?」
問答無用で透馬お兄ちゃんに抱き上げられて、私は強制送還を余儀なくされた。
家に帰ると、何故か既に待機していた華菜ちゃんにくどくどとお説教をされました。何故…。
そうして、一ヶ月後。
私は華菜ちゃんと逢坂くんの三人でテレビの前に座り待機していた。
外出禁止、自宅謹慎していた私に透馬お兄ちゃんから連絡が来て。
『海里と環が面白い事になってるから、見てやってくれよ』
と言う連絡が来たのです。
面白い事って何?と興味津々でテレビを点けて待機していました。
勿論海里くん達を応援したいっのが主だよ?
番組名は『アイドル頂上決戦!一番輝いているアイドルは誰だっ!?』。
アイドル対抗番組で男子の部、女子の部と別れており、更にその中で競い合う競技が別れている。
歌、ダンス、トーク力、演技力、他にも色々な部門がありアイドル達が自分の実力を発揮し得意分野で競えるようになっていた。
女子の部にはユメも出るらしく、私はユメを全力で応援する為にしっかりと応援うちわを用意している。任せてっ!
海里くんと環さん、それからユメは演技の部に、陸実くんはダンス。空良くんは歌の部にエントリーしてるらしい。
審査員は有名事務所の社長とか番組のスポンサー、アイドルでデビューして今はマルチな有名タレントさん、他には各部門のプロの人がいる。
後はこの番組は視聴者も審査をする事が可能らしい。一番投票数が多かった人に視聴者票として他審査員が保有している最高点と同じだけの点数が加算される。
しかも高得点を出し優勝した人にはスポンサー企業のCMの出演権利を得る事が出来る。
この番組にアイドル人生をかけているアイドルは多い。
そんな大事な番組に出るのなら見ない訳にはいかない。
うちの子達がどんだけ凄いかを見逃す訳にはいかないのですっ!
お茶とお菓子もばっちり準備完了してますっ!
番組始まる前から華菜ちゃんにちょこちょこ食べられてますが問題なしっ!おかわり沢山あるからねっ!
夜七時から始まる特番。
「美鈴ちゃんっ、始まったよっ!」
「うんっ!まずは誰のうちわを用意したらいいのかなっ!?」
わっくわっくと各種うちわを持ちながら私達はテレビ画面に注目した。MCの進行で対決が始まり、最初に歌対決で空良くんが出て来た。
空良くんも頑張ったんだけど結果は三位。残念。
次にダンス対決。陸実は健闘しました。でも結果は二位。一位の人の日舞に負けてしまった。ダンス対決でまさか日舞が見れるとは思わなかった…けど!
「陸実くん、頑張ったよっ!」
「美鈴ちゃん美鈴ちゃん。感情移入し過ぎてうちわ折れてるよ」
「あ、あら?」
「折角作ったのにへし折るとか、白鳥、お前あほだろ」
「大丈夫!予備はあと9つあるから!」
「いや、作り過ぎ」
…確かに、作り過ぎ…。いや、いいんだ。どうせあの子達を応援し続ける限りは使うんだしっ!
「あー、陸実、泣いてるじゃねーか」
「うんうん。頑張ったもんね」
「むしろ美鈴ちゃんが泣きそうだよ。ティッシュいる?」
「大丈夫。タオルがあるから」
「それ、食器拭きだよね?…タオル持ってくるね」
華菜ちゃんが席を立ってタオルを取りに行ってくれてる間に、CMが終わり演技力の部が始まった。
一人目は有名アイドルで女優としても人気のある女性だった。
「あれ?女性から?さっきまで男性からだったよね?」
「今回は男性の演技力対決がレベルが高いから最後に持って行くんだとよ」
「へぇ~、そうなんだ~。はい、美鈴ちゃん、タオル」
戻って来た華菜ちゃんにタオルを渡されて、お礼を言いつつ受け取り、テレビに注目する。
演技力対決。ユメが出てくるよねっ!
演技力はエチュード、即興劇での対決らしい。
テーマは女性の部、男性の部、どちらも『自分が憧れている人』と発表された。
即興劇だから、その場でテーマを聞いてシナリオを頭で構成して演じなければならない。しかも、同時に発表されると後半の人に考える時間を与えてしまい有利になってしまう為、テーマは舞台に上がったその場で渡される紙に書かれている。
楽屋ではテレビやスマホなどは回収されスタジオの状況が一切解らないようにされているそうだ。
憧れてる人、かー。
私だったら…ママ、かな。うん。
ユメは誰を選ぶのかな?わくわくとユメの出番をうちわを持ちつつ待っていると、ユメの順番が回って来た。
MCにお題の紙を渡され、一瞬悩みつつ、直ぐに切り替えて舞台のセンターに移動した。
MCの開始の合図と同時にユメの空気が変わった。
『私の憧れている人は、世界でただ一人です』
ユメは髪ゴムで髪を一本に結い上げた。そして、凛と背を伸ばし、真っ直ぐに前を向く。
『私は、あの人に救われた。だから、あの人の為になりたかった』
ユメの目から意志が消えた。ぼんやりとした瞳で遠くを見つめる。
『あの人の為になれるなら、死すら構わない。あの人の為にこの身を捧げようとしていたのに、私は失敗した。あの人に私の存在を知られてしまった。あの人の足枷になってしまった!こんな、こんなに苦しくて悲しい事なんて、この世にあるんだろうかと…。私は、なんてことをしてしまったのだろうか、と…』
切なくて苦しくて、誰にも知られたくなかったと。ただ一人で消えて行きたかったと。ユメの憧れの人への想いが痛い位に胸に刺さる。
『だけど、あの人は、私をまた助けてくれた。全てを失ったと思ったのに、あの人は、私を真っ直ぐに見て、微笑んで手を差し伸べてくれた』
涙を流して胸を抑えていたユメが、ゆっくりと震えていた手を降ろして、真っ直ぐに前を見て、それはそれは綺麗に微笑んだ。
柔らかい笑顔で、『あんなにも優しくて』、何かを手に持って奮う仕草と凛々しい表情で、『あんなにも強くて』、そして最後に不敵に笑い、『あんなにもカッコいい』、
『そんな彼女に私は憧れて、愛してやまないのです』
最後に結んだ髪をふわりと崩して、ユメは優雅に礼をした。
ユメの世界感に取りこまれ、会場は一瞬言葉を失い、そして盛大な拍手に包まれた。
「……美鈴ちゃんの、事だね」
「だな。あんな風に白鳥を好きだって、愛してるって言うから、白鳥大洪水だぞ」
「ユメぇぇぇぇぇ……私も愛してるぅぅぅぅぅ…」
ぼったぼったと涙が零れて、嗚咽も混じって、私もう死にそう。
憧れてくれてるのぉーっ?こんな私なのにぃーっ?
今度あった時、全力で抱き付いてやるぅぅぅーっ!うわああああんっ!!
「美鈴ちゃんへの愛だったら私だって負けないんだから!」
「うわあああんっ!華菜ちゃんも大好きぃぃぃっ!!」
「私も大好きーっ!!」
「華菜。収集つかないから止めろ」
タオルで涙を拭いている間に、他の出演者の演技も終わり、そして女子の部の結果が発表された。
優勝のトロフィーはユメへと渡された。
『優勝おめでとうございますっ!MEIさん、やはり今のお気持ちは憧れの人に伝えたいですか?』
『はい!今の私の演技は『王子』に捧げたいと思いますっ!』
『王子、ですか?それは一体どう言う…』
『ふみ?…んー、内緒です!』
和やかな雰囲気で笑う画面の向こう。
そして画面の手前では号泣再来の私。
華菜ちゃんが水分が消えると心配してお茶を淹れ直してくれた。ありがとう。
逢坂くんがティッシュを差し出してくれたので、鼻をかんで、涙をタオルで拭いて華菜ちゃんが淹れてくれたお茶を飲む。
女子の部が終わり、続いてラスト部門。男性の部演技対決が始まった。
演技力に出場している人はどうやら少ないらしく、あっという間に環さんの順番になった。
環さんが演じたのは、もう亡くなっている有名な俳優さんだった。
真似てドラマのワンシーンを演じたが完コピかって位に上手く、自分がどう憧れているのかもまとめられていて、綺麗にまとまりその演技力もかなりのものだった。
終わった時、会場中拍手の渦で。
元々アイドルとしてのキャリアもあるから、自分の魅せ方も知っていたのだろう。
うーん…確かに彼は俳優の方へ仕事依頼を切り替えた方がいいかもしれないね。……子持ちだってバレた時の為にも早めに切り替えた方がいいかも。
あとで環さんに相談してみよう。うん。
「海里の出番来ないな」
「この感じだとラストなのかもしれないな」
「うん」
番組は進み、そして最後。
海里くんが登場した。
MCから紙を渡されて、お題を見て。
海里くんは舞台センターへと向かった。
MCの開始の合図があり、海里くんは笑った。
『ボクの憧れの人。ボクは沢山の人に支えられてここにいます。一人や二人じゃない。だから憧れている人は沢山、ほんっとうに沢山いるんです。中でも最近一番憧れている人は』
海里くんの雰囲気が変わる。
スーツの様なアイドル衣装を着ていた海里くんが襟元のネクタイを緩める。少し後ろに体重を落とし何かに背を預ける様なポーズをして、煙草をふかしている。
…?、誰の事だろう?
『あーあー…ガキがうるせぇな。騒ぐんじゃねぇよ、猿みたいに』
……あ、あー、成程?環さんの事だ。
『あの人、いつもこう言う話し方をするんです。もしかして、ボクを揶揄うのが趣味なのかもしれない。まぁ、いつも眠っちゃってるボクも悪いんですが』
ふふふっと笑う海里くんに私達も釣られて笑ってしまう。
『でも、あの人と付き合ってる内にボク、解って来たんです』
えへんと胸を張る姿にまたくすくすと笑いが漏れる。
だけど、次の瞬間海里くんの表情と態度が変わる。
色気たっぷりに髪を気だるげに掻き上げて、仕方ないなと呆れたような、それでも相手を慈しむような顔に変わっていた。
『おい、風邪引くぞ…って、ボクが疲れ過ぎて寝てる時は毛布をかけてくれる。逆にただ眠ってる時は』
今度は笑顔なのに、怒ってる、とテレビ画面を通してでも恐怖を肌で感じれるような圧を出して、
『てめぇ、何寝てんだ、こら。余裕だなぁ、あぁ?アイドルさんよ?、って叱ってくれるんです。この時の顔が怖くて怖くて。だけど、さっきも言ったように解って来たんです。これってボクに愛情をもって接してくれてるからなんだって』
海里くんが嬉しそうに、海里くんの笑みで笑う。
『だから、ボク、嬉しくて』
海里くんがもう一度煙草を壁に背を預けて煙草をふかす仕草をして、
『あ?今何つった?…は?俺がお前に愛情?…ハッ、馬鹿言うな』
バッと顔を背けたその顔は真っ赤で、ツンデレを完璧に表現しており、
『これはもしかして揶揄い返すチャンスではっ?と思って更に、ボクが見直したと告げると』
ニヤリと悪そうに笑って、『バーカ』と楽しそうに笑った。
『って。バカって言われた筈なのに、ボクはこれで確信したんです。あぁ、この人はとても愛情深い人なんだって。ボクが誤解してただけなんだって。最初苦手だったんですよ?でも、今ではすっかり憧れの人なんです』
そうしめくくり、海里くんは深々と礼をした。
海里くんが頭を上げた直後、大きな拍手が会場に響いた。
「すっご…。海里、喜怒哀楽、全て今のエチュードに入れこんだじゃん」
「だな。しかも、自分と憧れの人との使い分け、完璧だったな」
「……頑張った!海里くん、頑張ったねぇぇぇぇ…っ」
私も海里くんの頑張りに盛大に拍手を贈った。
うちわが二本ほど駄目になったけど、仕方ない。それほど、海里くんの成長に感動したんだ!
ラストの海里くんの演技が終わり、審査の時間に入る。
その間テレビのこちら側は、CMである。
「海里、今頃やり切ったって寝てるんじゃねぇか?」
「流石に結果聞くまでは寝ないんじゃない?そう言えば美鈴ちゃん、海里くんの憧れの人って天川先生の事であってる?」
「んー…ある意味で合ってる、かな?」
ふふっと笑って答えると華菜ちゃんは首を傾げた。
そうこうしてる間にCMが開けて、優勝者の発表となった。
MCのコメントとドラムロールが鳴り響き、そして―――。
『優勝者はっ、―――アッフェ、海里くんっ!!』
スポットライトが舞台上にいるアイドル達の中にいる海里くんに当たる。
『おめでとうございますっ!』
『ありがとうございますっ』
海里くんが前に出てトロフィーを受け取った。
「華菜ちゃん」
「ん?どうしたの?美鈴ちゃん」
「泣いていいかなぁぁぁっ!!」
「いいよっ!」
「うわああああんっ!!皆立派になってぇぇぇぇっ!!」
「白鳥、それもうオカンの立場じゃね?」
今頃明子さんも泣いてるって断言出来る。
『今回の対決で、演じられた憧れの人。海里くんの憧れの人って誰だったの?』
MCが問いかけた瞬間、ごふっと咳き込んだ人がいた。
視線は一斉に彼に集まる。
『もしかして、縁舞のカンくん?』
『あ、ばかっ、やめっ』
『はいっ!』
あー、良い笑顔だ、海里くん。環さん、顔真っ赤にして恥ずか死にしそうだよ?
こっちから見たら微笑ましいけどね。
『あぁ、そう言えば二人は同じ事務所でしたね。昔から仲が良かったり?』
『いいえ。最近、ちょっとここでは言えない事がありまして、そこを助けてくれたのがカンさんで。そこから憧れの人です』
『おまっ、あんま言うな、恥ずかしい』
あぁ、何これ、微笑ましいやりとり。ドルオタにありがたい絡みじゃない?
アイドル同士のじゃれあい、楽しい、これ常識。
優勝者にヘッドロックをかける環さん、楽しそうだな。
『あー、そうだ、そうだ。忘れてた。俺達勝負してたんだよなー?海里、俺に何を命令する?』
…あ、やり返してるな、環さん。
『ボクがお願いするのは一つだけです!ボクと一緒のドラマ、全力で演じてくれますか?』
海里くんの言葉に環さんは一瞬だけキョトンとすると、
『当り前だろ、ばか』
そう言って、髪を掻き上げて笑った顔は大人の色気が溢れていて、海里くんが演じたそのままだった。
会場も視聴者も一緒になって息をのむ。
『で?本当にそれでいいのか?じゃあ、俺も優勝者に一つ質問してもいいか?』
『え?』
『お前が本当に演じたかった憧れの人へ、お前が向けた言葉』
『え?えっ!?』
環さんがスッとまとう雰囲気を変えた。
笑った顔も動きも海里くんそのままで。
『……絶対言える訳ないけど。まだボクこんなだから、言える訳ない。だけど、誰も、聞いてないし。この場だったら良いよね』
凄い。
話し方も動きも完全に海里くんだ。
『………鈴先輩。だ』
『うわああああっ!』
海里くんの声が環さんの声を掻き消し、手が口を塞いだ。
『え?なになに?今何て言ったの?』
MCが興味津々に環さんと海里くんに詰め寄る。
『な、何でもないよな!な?空良』
『………うんっ』
『えー?怪しいなー?』
今度はMCが陸実くんに攻寄る。たじたじな陸実くん。
『本当にー?』
『お、おうっ。本当だっ。海が鈴先輩が好きだなんて誰も知らないっ!!』
………は?
一瞬の間。
後、崩れ落ちる海里くんと腹を抱えて笑う環さん。
おろおろとする陸実くんと遠い目をする空良くん。
鬼の形相で怒るユメ。
色々な感情が交差した状態で番組は終了した。
放心状態の私に、一通のメールが届く。
『……明日からまた暫く自宅謹慎な』
透馬お兄ちゃんの外出禁止命令だった。
その後。
暫く外出禁止を経て、やっと事務所に辿り着いた私に海里くんは真っ直ぐに告白してくれた。
「鈴先輩が男性恐怖症だって解ってます。でも、好きなんですっ!ボクの気持ちだけ、知っていてください。ボクは今この気持ちを鈴先輩に知って貰えてるだけで、視界に入れてるだけで幸せですから」
そう言って、海里くんは笑った。
私は恐らく彼の気持ちに答える事はないだろう。
男の人と付き合うと言う選択肢がもとよりない私を想うのは海里くんにとってただの時間の無駄遣いになるんじゃないかな。
そんな罪悪感を海里くんに告げると海里くんは静かに頭を振って。
「大丈夫です。ボクはアイドルになるんですよ?皆に愛される存在になるんです。ボクが鈴先輩を想ってあいた時間はファンの皆が埋めてくれるから。その時間は絶対に無駄にはならないです」
そう言って笑って真っ直ぐ私を見つめてくれた。
海里くんにそこまでの覚悟があるのなら。
彼の気持ちはありがたく受けとろうって、そう思う。
いずれ、彼にとって、私を想うよりも大事な人が出来るまで。
私は―――何も言わずに受け止めようと、そう思うんだ。
海里編 完
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夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
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