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幼児編小話
七海の恋(日常:如)
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「は?何言ってんだ?お前」
「だーかーらー。明日、美鈴ちゃんに会いに行ってくるって言ってんの」
伝えておかなきゃダメかな?って思って、わざわざ透馬の部屋に来て、透馬の作業を中断させて、報告に来たのに、なんなの?この態度。
「意味わかんねぇ。なんでお前がいきなり姫に会いに行くんだよ」
「そんなの、透馬には関係ないでしょっ」
「あるっ!!大いにあるっ!!」
大いにって…。んもう…何なのよっ。透馬がいたら私と美鈴ちゃんの作戦が…。
「とにかくっ!私は明日美鈴ちゃんの家に行ってくるからっ!絶対ついて来ないでよねっ」
「ちょ、七海、待てっ」
待たないってのっ!
私は透馬を無視して部屋を出た。
昨日の内に、必要な物の買い出しは済ませたし。多分問題ないと思うんだけど…。
まぁ、足りなかったら買い出しに行けばいいんだしね。うんうん。
明日に持って行く物を鞄の中へ詰めて確かめる。
(ラッピングの袋も入れたし、リボンも入れた…。うん…。大丈夫。チョコレートは明日持って行けばいいし…)
自分の作るものと、これからする事を考えると顔が火照る。
(おいしいの、作ろう…。美鈴ちゃんがいればきっと大丈夫っ!今年は大丈夫っ!)
うんっと大きく頷いて。
私はいそいそとベッドへ潜り込んだ。
寝て体調を万全にするために。
その日の夜はぐっすり寝て。がっつりぐっすり寝て。
翌日。準備を済ませた私は早速美鈴ちゃんの家へ向かった。
そんなに遠くはないけど、坂道が結構きついよね。
サッカーの練習に比べたらどうって事ないけどさ。
到着した白鳥邸。玄関に立って、チャイムを押すと、家の中からテテテッと音がしてドアが開いた。
「七海お姉ちゃん、いらっしゃーいっ」
満面の笑みっ!可愛いっ!!
しかも、エプロン姿っ!超かわっ!!
眼福っ!!……って違う。今日は確かに眼福も目的だけどもう一つの目的があるのだ。
「美鈴ちゃん。こんにちは。お邪魔するね」
「うんっ!」
挨拶をして中へと入る。靴を脱いで家へと上がると、美鈴ちゃんがぎゅっと手を繋いで来た。
か、かわ、かわい、かわいい…死ぬ…。
「七海お姉ちゃん。部屋に紅茶とお菓子用意してるのっ!まずは作戦を練ろうよっ!」
「う、うんっ。そうねっ。どんなの作るか決めないとねっ」
美鈴ちゃんの部屋かぁ。どんなのだろう…。
先導されるまま階段を登ってると、途中鴇君とすれ違った。
「七海?なんで家に?」
「鴇君。お邪魔してます。美鈴ちゃんと遊びに来たの。ねー?」
「うんっ!」
あぁぁ…満面の笑み。超ラブリー…。可愛い、頬擦りしたい。超スリスリしたい…。
「……美鈴。身の危険を感じたらさっさと逃げろよ」
「?、身の危険?」
小首を傾げる美鈴ちゃん、可愛いっ!
鴇君が頭を撫でると嬉しそうに微笑む美鈴ちゃん、可愛いっ!!どうしてくれんだっ!こらっ!!
「大丈夫だよぉ。だって七海お姉ちゃん、女の人だもんっ。七海お姉ちゃんかっこいいもんっ」
ぎゅぎゅーっと腕に抱き着いてくれる。
あ、だめだ、これ。私もう死ぬかも。ここ天国すぎる…。帰りたくない…。
もう、触ってもいいよね…。だって美鈴ちゃんから触ってくれたし…じゅるり…。
「……美鈴。念の為に、葵か棗、側に置いとかないか?」
はっ!?
いけないいけない。ついつい…。鴇君が本気で美鈴ちゃんの身を案じ始めてしまった。これはどうにかして誤解を解かないとっ。
でも、私より美鈴ちゃんが先に口を開いた。
「駄目っ!今日は七海お姉ちゃんと女子会なのっ!男の人は駄目なのっ!」
駄目なのっ!と言いながら胸を張る美鈴ちゃん、萌えーっ!!
私は美鈴ちゃんに引っ張られるまま、美鈴ちゃんの部屋へ入る事となった。
その部屋を見て、私は滅茶苦茶ときめいた。
女の子の部屋だ。ぬいぐるみが飾られて、桃色のモフモフラグに猫足ガラステーブル。うわー…めっちゃ似合う…。
「お姉ちゃん座って座ってっ。えっとね、今、本出してくるねっ。はい、クッションっ」
鞄を床に置いて、美鈴ちゃんが渡してくれたクッションを受け取りそれを背に座る。
美鈴ちゃんは本を持って私の前に置くと、紅茶を淹れてくれる。
「えへへっ。嬉しいなぁ。七海お姉ちゃんが私を頼ってくれるなんて」
紅茶を受け取り私は顔が熱くなるのを感じた。
「まさか、七海お姉ちゃんが、将軍お兄ちゃんの事を好きだったなんて思わなかったな~」
「ちょ、美鈴ちゃんっ、しーっ、しーっ!」
慌てて私は人差し指を口に当てて、声のトーンを落とすように懇願する。
すると慌てて自分の口を塞いだ美鈴ちゃんに私はほっとする。
「ご、ごめんね。七海お姉ちゃん」
「う、うん。それは良いんだけどね…。お願いだから、他の人には内緒にしてね」
こくこくと真剣に頷いてくれたから多分大丈夫だよね。
「さて、じゃあ早速。お姉ちゃん、どんなの作るの?」
「…その…。彼、あんまり甘いの食べないみたいだから…」
「甘いのがダメ、か~。それじゃあ、ビター系にしないとね」
「…クッキーとか、どうかな?」
「むむっ?…あのお兄ちゃんなら意味なんて知らないかもしれないけど…。でも七海お姉ちゃん?クッキーって『友達でいよう』って意味があるって聞いた事あるよ?一説だけどね」
「えぇっ!?うそぉっ!?じゃ、じゃあ、ま、マシュマロとかは?」
「マシュマロっ!?それって『貴方が嫌いです』ってなっちゃうよっ!?」
「ええええっ!?」
そんな意味があるなんて知らなかった…。ホットチョコレートにマシュマロ溶かして渡すのもありかなって思ってたのに…。
「あ、でも中にチョコレートが入ってると逆意味になるともネットの記事に書いてたよ?えーっと何だっけ?『純白の愛で包みこむ』だっけ?」
…それはそれで恥ずかしくて無理…。
「んー…ねぇ、七海お姉ちゃん。マカロン、とかどう?」
「マカロン?美味しそうだけど、難しいんじゃない?前に電話でも話したけど。私のお菓子作りの腕前は壊滅的だよ?」
「ふふーんっ、大丈夫っ!私がいるもんっ!任せてっ!」
任せるっ!任せちゃうっ!可愛いよぉっ!!あぁ、もう、涙が出そうっ!!
「キャラメル味のマカロンにしようねっ!」
キャラメル味?なんでまた…?
あ、甘いの苦手だから少しビターにする為かな?キャラメルにもあんまいのとちょっとほろ苦いのと二種類あるもんね。
「紅茶飲んだら、早速作ろうねっ」
「うんっ、作る作るっ」
紅茶を飲んでまったりして。
私達はキッチンへ向かった。家から持って来たエプロンを装着して、美鈴ちゃんに言われた通りに道具を揃え、材料も並べる。
「お菓子作りの基本は分量をきっかり量ることだよ~」
必要な分だけ、ちゃんと秤で量って小皿に取り分けて行く。
こう言う細かい作業が苦手なんだけどな…。こう、くしゃみがしたくなるというか…ふぇ…あ、やばっ!?
「ふぇっくしょんっ!!」
やばっ!!やっちゃったっ!?
…ってあれ?粉が舞ってない?なんで?
「大丈夫。寄せといたから。さ、続きやろっ」
美鈴ちゃん…流石だわ…。計量していた器を私のくしゃみから退避させるとは…。
そんなこんなで美鈴ちゃんに…六歳の女の子にフォローされまくりながら、なんとっ、マカロンが完成したんですっ!
しかもっ!!
「おいひ~い」
「美味しいねー」
滅茶苦茶美味しく出来たんですっ!
ほろ苦いキャラメルクリームがチョコ味のマカロン生地と相性バッチリっ!!
もぐもぐと咀嚼するたびに口の中が幸せ一杯になる。
「後はラッピングして、勝負に挑むだけだねっ」
「そ、そうねっ」
そうだ。渡すと同時に告白が待ってるんだった…。
でも、美鈴ちゃんとここまで美味しいマカロンが作れたんだから、きっと行けるっ!!
美鈴ちゃんの部屋に出来上がったマカロンを持って行って、早速ラッピングをする。
箱の方がいいかな?袋だと幼く見えるかな?
相手は一応社会人だ。しかも大ちゃんの兄なだけあってモテるし…。
なるべく勝率は上げて挑みたい。…嫌われてないとは思うの。
いつも野菜を買いに行くと、
『あれ?七海ちゃん?いらっしゃい』
って微笑んでくれるし。
『今日も元気だなぁ。あ、そうだ。なぁ、七海ちゃん。今度一緒に遊び行かない?』
そう言って誘ってくれた事もある。
嫌いな相手なら誘わないよね?
もしかしたら、透馬の妹だからって理由だけかもしれないけど。嫌われてないならチャンスはある。
「七海お姉ちゃんっ、これ可愛いっ」
それにこうやって美鈴ちゃんが背を押してくれてるんだもんっ!絶対大丈夫だっ!
美鈴ちゃんが押してくれた箱に入れてラッピングを完成させ、私はその完成度の高さに感動した。
そこからもう暫く美鈴ちゃんと会話を楽しみ、帰宅した。
勝負は明日。バレンタインデー当日だ。
そして、当日。
八百屋に向かうと女の人だかりが出来ている。勿論あの三兄弟目当てだろう。
私はその人だかりを掻き分け、八百屋の中へと入った。
「あれ?七海ちゃんー?」
「大ちゃんっ、将(しょう)さんどこっ?」
「将軍兄貴?兄貴ならあそこでおばさん達にチョコ貰ってる」
指さされた方を見ると、確かに奥の方で商店街の常連オバサン達が将さんにチョコを渡していた。
うぅぅ…先、越されたけど、でも負けないっ!
「将さんっ!」
名を呼びながら駆け寄る。
「ん?七海ちゃん?」
その逞しい体の前に立ち、私は彼を見上げる。
彼はいつもと変わらないその温和な顔つきで何?と聞いてくれた。
心臓はバクバクいってるし、一度気を抜いたら足を後ろに向けて逃走しそう。
でも…。
『七海お姉ちゃん、頑張ってっ!』
昨日の帰り際、美鈴ちゃんが私にかけてくれた言葉が脳を過る。
美鈴ちゃんが折角手伝ってくれたんだからっ!
ごくんっと唾を飲みこんで。
大きく息を吸って。
きっと顔は真っ赤に染まってるだろうけど…でもっ。
「将さんっ、好きですっ。付き合ってくださいっ!」
震える声を誤魔化すように叫んで、チョコを差し出した。
今、目を逸らしちゃいけない。
ぐっと将さんの目を見詰める。
すると、将さんの目尻が赤くなって、その赤みは顔全部に広がって。
こっちまで恥ずかしくなってくる。
一瞬、視線を彷徨わせて…。
私の手にあったチョコの重みが消えた。
将さんの手にチョコは移動していて、将さんは赤い顔のままはにかんだ笑みを浮かべて、
「俺で、良ければ…喜んでっ」
そう、言ってくれた。
「ほ、んと、に…?」
確かめたくて。今の言葉、聞き間違いじゃないよね?
じっと、彼を見ると、大きく頷いてくれた。
ほんとにほんとなんだっ!!
急に実感が沸くっ。
やったっ!!やったよっ!!美鈴ちゃんっ!!
「嬉しいっ!!ありがとっ!!将さんっ!!」
「こっちこそっ、嬉しいよっ。ありがとう、七海ちゃんっ」
感極まって抱き着く私に、その腕は優しく抱き締めて返してくれる。
嬉しくて堪らないっ。
私は将さんの腕の中で、明日絶対美鈴ちゃんにお礼を言いに行こうと誓った。
―――キャラメルの意味は一緒にいると安心する。
そして、マカロンの意味は『貴方は特別な人』………。
「だーかーらー。明日、美鈴ちゃんに会いに行ってくるって言ってんの」
伝えておかなきゃダメかな?って思って、わざわざ透馬の部屋に来て、透馬の作業を中断させて、報告に来たのに、なんなの?この態度。
「意味わかんねぇ。なんでお前がいきなり姫に会いに行くんだよ」
「そんなの、透馬には関係ないでしょっ」
「あるっ!!大いにあるっ!!」
大いにって…。んもう…何なのよっ。透馬がいたら私と美鈴ちゃんの作戦が…。
「とにかくっ!私は明日美鈴ちゃんの家に行ってくるからっ!絶対ついて来ないでよねっ」
「ちょ、七海、待てっ」
待たないってのっ!
私は透馬を無視して部屋を出た。
昨日の内に、必要な物の買い出しは済ませたし。多分問題ないと思うんだけど…。
まぁ、足りなかったら買い出しに行けばいいんだしね。うんうん。
明日に持って行く物を鞄の中へ詰めて確かめる。
(ラッピングの袋も入れたし、リボンも入れた…。うん…。大丈夫。チョコレートは明日持って行けばいいし…)
自分の作るものと、これからする事を考えると顔が火照る。
(おいしいの、作ろう…。美鈴ちゃんがいればきっと大丈夫っ!今年は大丈夫っ!)
うんっと大きく頷いて。
私はいそいそとベッドへ潜り込んだ。
寝て体調を万全にするために。
その日の夜はぐっすり寝て。がっつりぐっすり寝て。
翌日。準備を済ませた私は早速美鈴ちゃんの家へ向かった。
そんなに遠くはないけど、坂道が結構きついよね。
サッカーの練習に比べたらどうって事ないけどさ。
到着した白鳥邸。玄関に立って、チャイムを押すと、家の中からテテテッと音がしてドアが開いた。
「七海お姉ちゃん、いらっしゃーいっ」
満面の笑みっ!可愛いっ!!
しかも、エプロン姿っ!超かわっ!!
眼福っ!!……って違う。今日は確かに眼福も目的だけどもう一つの目的があるのだ。
「美鈴ちゃん。こんにちは。お邪魔するね」
「うんっ!」
挨拶をして中へと入る。靴を脱いで家へと上がると、美鈴ちゃんがぎゅっと手を繋いで来た。
か、かわ、かわい、かわいい…死ぬ…。
「七海お姉ちゃん。部屋に紅茶とお菓子用意してるのっ!まずは作戦を練ろうよっ!」
「う、うんっ。そうねっ。どんなの作るか決めないとねっ」
美鈴ちゃんの部屋かぁ。どんなのだろう…。
先導されるまま階段を登ってると、途中鴇君とすれ違った。
「七海?なんで家に?」
「鴇君。お邪魔してます。美鈴ちゃんと遊びに来たの。ねー?」
「うんっ!」
あぁぁ…満面の笑み。超ラブリー…。可愛い、頬擦りしたい。超スリスリしたい…。
「……美鈴。身の危険を感じたらさっさと逃げろよ」
「?、身の危険?」
小首を傾げる美鈴ちゃん、可愛いっ!
鴇君が頭を撫でると嬉しそうに微笑む美鈴ちゃん、可愛いっ!!どうしてくれんだっ!こらっ!!
「大丈夫だよぉ。だって七海お姉ちゃん、女の人だもんっ。七海お姉ちゃんかっこいいもんっ」
ぎゅぎゅーっと腕に抱き着いてくれる。
あ、だめだ、これ。私もう死ぬかも。ここ天国すぎる…。帰りたくない…。
もう、触ってもいいよね…。だって美鈴ちゃんから触ってくれたし…じゅるり…。
「……美鈴。念の為に、葵か棗、側に置いとかないか?」
はっ!?
いけないいけない。ついつい…。鴇君が本気で美鈴ちゃんの身を案じ始めてしまった。これはどうにかして誤解を解かないとっ。
でも、私より美鈴ちゃんが先に口を開いた。
「駄目っ!今日は七海お姉ちゃんと女子会なのっ!男の人は駄目なのっ!」
駄目なのっ!と言いながら胸を張る美鈴ちゃん、萌えーっ!!
私は美鈴ちゃんに引っ張られるまま、美鈴ちゃんの部屋へ入る事となった。
その部屋を見て、私は滅茶苦茶ときめいた。
女の子の部屋だ。ぬいぐるみが飾られて、桃色のモフモフラグに猫足ガラステーブル。うわー…めっちゃ似合う…。
「お姉ちゃん座って座ってっ。えっとね、今、本出してくるねっ。はい、クッションっ」
鞄を床に置いて、美鈴ちゃんが渡してくれたクッションを受け取りそれを背に座る。
美鈴ちゃんは本を持って私の前に置くと、紅茶を淹れてくれる。
「えへへっ。嬉しいなぁ。七海お姉ちゃんが私を頼ってくれるなんて」
紅茶を受け取り私は顔が熱くなるのを感じた。
「まさか、七海お姉ちゃんが、将軍お兄ちゃんの事を好きだったなんて思わなかったな~」
「ちょ、美鈴ちゃんっ、しーっ、しーっ!」
慌てて私は人差し指を口に当てて、声のトーンを落とすように懇願する。
すると慌てて自分の口を塞いだ美鈴ちゃんに私はほっとする。
「ご、ごめんね。七海お姉ちゃん」
「う、うん。それは良いんだけどね…。お願いだから、他の人には内緒にしてね」
こくこくと真剣に頷いてくれたから多分大丈夫だよね。
「さて、じゃあ早速。お姉ちゃん、どんなの作るの?」
「…その…。彼、あんまり甘いの食べないみたいだから…」
「甘いのがダメ、か~。それじゃあ、ビター系にしないとね」
「…クッキーとか、どうかな?」
「むむっ?…あのお兄ちゃんなら意味なんて知らないかもしれないけど…。でも七海お姉ちゃん?クッキーって『友達でいよう』って意味があるって聞いた事あるよ?一説だけどね」
「えぇっ!?うそぉっ!?じゃ、じゃあ、ま、マシュマロとかは?」
「マシュマロっ!?それって『貴方が嫌いです』ってなっちゃうよっ!?」
「ええええっ!?」
そんな意味があるなんて知らなかった…。ホットチョコレートにマシュマロ溶かして渡すのもありかなって思ってたのに…。
「あ、でも中にチョコレートが入ってると逆意味になるともネットの記事に書いてたよ?えーっと何だっけ?『純白の愛で包みこむ』だっけ?」
…それはそれで恥ずかしくて無理…。
「んー…ねぇ、七海お姉ちゃん。マカロン、とかどう?」
「マカロン?美味しそうだけど、難しいんじゃない?前に電話でも話したけど。私のお菓子作りの腕前は壊滅的だよ?」
「ふふーんっ、大丈夫っ!私がいるもんっ!任せてっ!」
任せるっ!任せちゃうっ!可愛いよぉっ!!あぁ、もう、涙が出そうっ!!
「キャラメル味のマカロンにしようねっ!」
キャラメル味?なんでまた…?
あ、甘いの苦手だから少しビターにする為かな?キャラメルにもあんまいのとちょっとほろ苦いのと二種類あるもんね。
「紅茶飲んだら、早速作ろうねっ」
「うんっ、作る作るっ」
紅茶を飲んでまったりして。
私達はキッチンへ向かった。家から持って来たエプロンを装着して、美鈴ちゃんに言われた通りに道具を揃え、材料も並べる。
「お菓子作りの基本は分量をきっかり量ることだよ~」
必要な分だけ、ちゃんと秤で量って小皿に取り分けて行く。
こう言う細かい作業が苦手なんだけどな…。こう、くしゃみがしたくなるというか…ふぇ…あ、やばっ!?
「ふぇっくしょんっ!!」
やばっ!!やっちゃったっ!?
…ってあれ?粉が舞ってない?なんで?
「大丈夫。寄せといたから。さ、続きやろっ」
美鈴ちゃん…流石だわ…。計量していた器を私のくしゃみから退避させるとは…。
そんなこんなで美鈴ちゃんに…六歳の女の子にフォローされまくりながら、なんとっ、マカロンが完成したんですっ!
しかもっ!!
「おいひ~い」
「美味しいねー」
滅茶苦茶美味しく出来たんですっ!
ほろ苦いキャラメルクリームがチョコ味のマカロン生地と相性バッチリっ!!
もぐもぐと咀嚼するたびに口の中が幸せ一杯になる。
「後はラッピングして、勝負に挑むだけだねっ」
「そ、そうねっ」
そうだ。渡すと同時に告白が待ってるんだった…。
でも、美鈴ちゃんとここまで美味しいマカロンが作れたんだから、きっと行けるっ!!
美鈴ちゃんの部屋に出来上がったマカロンを持って行って、早速ラッピングをする。
箱の方がいいかな?袋だと幼く見えるかな?
相手は一応社会人だ。しかも大ちゃんの兄なだけあってモテるし…。
なるべく勝率は上げて挑みたい。…嫌われてないとは思うの。
いつも野菜を買いに行くと、
『あれ?七海ちゃん?いらっしゃい』
って微笑んでくれるし。
『今日も元気だなぁ。あ、そうだ。なぁ、七海ちゃん。今度一緒に遊び行かない?』
そう言って誘ってくれた事もある。
嫌いな相手なら誘わないよね?
もしかしたら、透馬の妹だからって理由だけかもしれないけど。嫌われてないならチャンスはある。
「七海お姉ちゃんっ、これ可愛いっ」
それにこうやって美鈴ちゃんが背を押してくれてるんだもんっ!絶対大丈夫だっ!
美鈴ちゃんが押してくれた箱に入れてラッピングを完成させ、私はその完成度の高さに感動した。
そこからもう暫く美鈴ちゃんと会話を楽しみ、帰宅した。
勝負は明日。バレンタインデー当日だ。
そして、当日。
八百屋に向かうと女の人だかりが出来ている。勿論あの三兄弟目当てだろう。
私はその人だかりを掻き分け、八百屋の中へと入った。
「あれ?七海ちゃんー?」
「大ちゃんっ、将(しょう)さんどこっ?」
「将軍兄貴?兄貴ならあそこでおばさん達にチョコ貰ってる」
指さされた方を見ると、確かに奥の方で商店街の常連オバサン達が将さんにチョコを渡していた。
うぅぅ…先、越されたけど、でも負けないっ!
「将さんっ!」
名を呼びながら駆け寄る。
「ん?七海ちゃん?」
その逞しい体の前に立ち、私は彼を見上げる。
彼はいつもと変わらないその温和な顔つきで何?と聞いてくれた。
心臓はバクバクいってるし、一度気を抜いたら足を後ろに向けて逃走しそう。
でも…。
『七海お姉ちゃん、頑張ってっ!』
昨日の帰り際、美鈴ちゃんが私にかけてくれた言葉が脳を過る。
美鈴ちゃんが折角手伝ってくれたんだからっ!
ごくんっと唾を飲みこんで。
大きく息を吸って。
きっと顔は真っ赤に染まってるだろうけど…でもっ。
「将さんっ、好きですっ。付き合ってくださいっ!」
震える声を誤魔化すように叫んで、チョコを差し出した。
今、目を逸らしちゃいけない。
ぐっと将さんの目を見詰める。
すると、将さんの目尻が赤くなって、その赤みは顔全部に広がって。
こっちまで恥ずかしくなってくる。
一瞬、視線を彷徨わせて…。
私の手にあったチョコの重みが消えた。
将さんの手にチョコは移動していて、将さんは赤い顔のままはにかんだ笑みを浮かべて、
「俺で、良ければ…喜んでっ」
そう、言ってくれた。
「ほ、んと、に…?」
確かめたくて。今の言葉、聞き間違いじゃないよね?
じっと、彼を見ると、大きく頷いてくれた。
ほんとにほんとなんだっ!!
急に実感が沸くっ。
やったっ!!やったよっ!!美鈴ちゃんっ!!
「嬉しいっ!!ありがとっ!!将さんっ!!」
「こっちこそっ、嬉しいよっ。ありがとう、七海ちゃんっ」
感極まって抱き着く私に、その腕は優しく抱き締めて返してくれる。
嬉しくて堪らないっ。
私は将さんの腕の中で、明日絶対美鈴ちゃんにお礼を言いに行こうと誓った。
―――キャラメルの意味は一緒にいると安心する。
そして、マカロンの意味は『貴方は特別な人』………。
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