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幼児編小話
タイミング(五話誘拐事件中:葉)
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姫ちゃんが橋から落とされて。
そのまま遊ぶことも出来ず、オレ達は家へ帰って来た。
幸い、姫ちゃんに怪我はなかったけど、それでも怖かったと震えていた。当り前だ。あんな高さから落ちたら誰だって怖いに決まってる。
同じ恐怖を味あわせてやったつもりだけど、これで手を引くかどうか、正直分からない。
本当は村の住人の話だし、源祖父ちゃんやヨネ祖母ちゃんに言うのが一番いいのかもしれないけど…。
佳織さんに報告しといた方が良い気がして。
オレは帰ってくるなり、佳織さんの姿を探した。
部屋にはどうやらいないらしい。ノックしても、悪いとは思ったけど部屋を覗いてもそこに姿はなかった。
(うーん…あといるとしたら何処だろう?)
佳織さんが行きそうな所を考えて、考えた結果、姫ちゃんのいる場所にいるんではないかと結論付けた。
姫ちゃんはこの時間だと部屋にいるかな?
まだ夕方には早いけど、大抵この時間帯の姫ちゃんは双子と一緒に昼寝をしている。
それを佳織さんは穏やかに眺めている事があるのだ。
足を姫ちゃんの部屋へ向けて歩き出す。
到着してこっそりと部屋を覗き込む。すると、そこには姫ちゃんと双子しかいない。
あれ?佳織さん、ここにもいない?
お昼寝の邪魔をしたら悪いから、そっとドアを閉める。
本当に何処にいるんだろう…?
…いるはずないけど…道場に行ってみようかな?
そんな遠い距離を歩く訳でもない。
いなかったら直ぐ戻ってきたらいいし。
オレは、道場へと足を向けた。
道場の中に人の気配がしてオレは足を止める。
そっと気配を消して近づく。もしも不法侵入者だったら捕らえる必要があるし。
壁に近づき耳をくっつけた。
女性の話し声…?
ぐっと耳を更にくっつけて中の様子を探る。
「………嶺一…。貴方との約束を破ってしまったわ…。貴方は怒るかしら…。例え貴方に怒られたところで痛くもかゆくもないけれど…」
痛くもかゆくもないんだ…。
って言うかこの声ってもしかしなくても佳織さん?
「ねぇ、嶺一?私がやってることってただ美鈴を危険にさらしてるだけなのかしら?透馬君に言われたのよ。美鈴はまだ六歳だって。六歳に対する態度じゃないって。でもね?『今』が一番いいタイミングなのよ。これからの事を考えると『今』が一番いい時期なの。これを逃したくなかったのよ。でもそれって、私の自己満足に過ぎなかったのかしら?…ねぇ、嶺一?あのね、私、不安なのよ…」
佳織さんの声が震えてる…。泣いてるのかな?
「美鈴を守りたい。貴方と一緒にいた『証』を。私の何よりも大事な宝を守りたいの。けど、私は本当に守れているの…?もし、これが少しでも裏目に出てしまえば…そう考えるだけで私は震えてくるの。情けないでしょう?……。駄目ね。昔から私は逃げる事ばかり。こんなんじゃ駄目よね?嶺一に馬鹿にされちゃうわね。嶺一に馬鹿にされるのだけはごめんだわ」
消えかけそうな声が、いつもの張りのある声に戻る。
「絶対に、絶対に守るわ。今度こそ、私はあの子を幸せにしてみせるっ。だから、嶺一……」
後半の言葉はもう、聞こえなかった。
流石にこんな状況の佳織さんにあの話をする気にはなれず、オレはその場を離れた。
何だか、真っ直ぐ家に帰る気にならず、村の中をぐるっと巡回してから帰る事の決めた。
「……なぁ、美鈴のおみまい、いく?」
「い、いかねぇっ。だって母さんがいくなっていってたっ」
「そりゃ、そうだけど…。でも、美鈴のかお、みたい…」
「お、おれだってみたい、けど…」
何やってんだ、あのガキ共。植木に向かってしゃがみ込んで。ブツブツと…。
「母さんたち、美鈴がきたないっていってた。でも、どこがきたないのか、わかんない…」
「うん。美鈴、きれいだよな」
「うん。かわいい…」
「美鈴みてると、こう…むずむずしねぇ?」
「……する。…ぎゅっとしたくなる」
………やっぱり川原の上に落とすべきだったんじゃないだろうか…?
とりあえず、こいつらは無視して帰るとする。
その帰り道。
「あら?大地君?そんな所で何をしてるの?」
「…佳織さん」
どうしよう。ここで今日あった事を言ってしまおうか…。
周りには誰もいないし、いいチャンスかもしれない。
思って佳織さんと目線を合わせて、オレははっとした。
佳織さんの目元が赤くなっていたから。……泣いてたんだ…。
こんな状態の佳織さんに言ってもいいんだろうか…。
「なーに?大地君。さては、何か隠し事ぉ?」
「えっ!?」
急に確信をド突かれ、心臓が跳ねあがる。
「……大地君」
「な、なーに?佳織さん」
すっと真剣な表情になる佳織さんに肝が冷える。別に何か悪い事をしたわけじゃないのに。
「……女で遊んでもいいけど、避妊はちゃんとするのよ?」
「あ、はいー。わかってま…って、なんでやねんっ!!」
思わず奏輔がでちゃったよー。
「ふふふっ。冗談よ冗談。それじゃ、私は先に家に戻るわね。今日、やっと誠さんがこっちに合流するのよ」
「あ、そうなんだー」
走って行く佳織さんの背を見送り、オレはゆっくりとその後を追った。
あー…ドキドキした。
そして、言い逃しちゃったー…。
その時、オレは後でもう一度タイミングを見計らって言えば良いやと思っていた。
今このタイミングで言わなかった事を盛大に後悔するのをこの時はまだ知らなかったから…。
そのまま遊ぶことも出来ず、オレ達は家へ帰って来た。
幸い、姫ちゃんに怪我はなかったけど、それでも怖かったと震えていた。当り前だ。あんな高さから落ちたら誰だって怖いに決まってる。
同じ恐怖を味あわせてやったつもりだけど、これで手を引くかどうか、正直分からない。
本当は村の住人の話だし、源祖父ちゃんやヨネ祖母ちゃんに言うのが一番いいのかもしれないけど…。
佳織さんに報告しといた方が良い気がして。
オレは帰ってくるなり、佳織さんの姿を探した。
部屋にはどうやらいないらしい。ノックしても、悪いとは思ったけど部屋を覗いてもそこに姿はなかった。
(うーん…あといるとしたら何処だろう?)
佳織さんが行きそうな所を考えて、考えた結果、姫ちゃんのいる場所にいるんではないかと結論付けた。
姫ちゃんはこの時間だと部屋にいるかな?
まだ夕方には早いけど、大抵この時間帯の姫ちゃんは双子と一緒に昼寝をしている。
それを佳織さんは穏やかに眺めている事があるのだ。
足を姫ちゃんの部屋へ向けて歩き出す。
到着してこっそりと部屋を覗き込む。すると、そこには姫ちゃんと双子しかいない。
あれ?佳織さん、ここにもいない?
お昼寝の邪魔をしたら悪いから、そっとドアを閉める。
本当に何処にいるんだろう…?
…いるはずないけど…道場に行ってみようかな?
そんな遠い距離を歩く訳でもない。
いなかったら直ぐ戻ってきたらいいし。
オレは、道場へと足を向けた。
道場の中に人の気配がしてオレは足を止める。
そっと気配を消して近づく。もしも不法侵入者だったら捕らえる必要があるし。
壁に近づき耳をくっつけた。
女性の話し声…?
ぐっと耳を更にくっつけて中の様子を探る。
「………嶺一…。貴方との約束を破ってしまったわ…。貴方は怒るかしら…。例え貴方に怒られたところで痛くもかゆくもないけれど…」
痛くもかゆくもないんだ…。
って言うかこの声ってもしかしなくても佳織さん?
「ねぇ、嶺一?私がやってることってただ美鈴を危険にさらしてるだけなのかしら?透馬君に言われたのよ。美鈴はまだ六歳だって。六歳に対する態度じゃないって。でもね?『今』が一番いいタイミングなのよ。これからの事を考えると『今』が一番いい時期なの。これを逃したくなかったのよ。でもそれって、私の自己満足に過ぎなかったのかしら?…ねぇ、嶺一?あのね、私、不安なのよ…」
佳織さんの声が震えてる…。泣いてるのかな?
「美鈴を守りたい。貴方と一緒にいた『証』を。私の何よりも大事な宝を守りたいの。けど、私は本当に守れているの…?もし、これが少しでも裏目に出てしまえば…そう考えるだけで私は震えてくるの。情けないでしょう?……。駄目ね。昔から私は逃げる事ばかり。こんなんじゃ駄目よね?嶺一に馬鹿にされちゃうわね。嶺一に馬鹿にされるのだけはごめんだわ」
消えかけそうな声が、いつもの張りのある声に戻る。
「絶対に、絶対に守るわ。今度こそ、私はあの子を幸せにしてみせるっ。だから、嶺一……」
後半の言葉はもう、聞こえなかった。
流石にこんな状況の佳織さんにあの話をする気にはなれず、オレはその場を離れた。
何だか、真っ直ぐ家に帰る気にならず、村の中をぐるっと巡回してから帰る事の決めた。
「……なぁ、美鈴のおみまい、いく?」
「い、いかねぇっ。だって母さんがいくなっていってたっ」
「そりゃ、そうだけど…。でも、美鈴のかお、みたい…」
「お、おれだってみたい、けど…」
何やってんだ、あのガキ共。植木に向かってしゃがみ込んで。ブツブツと…。
「母さんたち、美鈴がきたないっていってた。でも、どこがきたないのか、わかんない…」
「うん。美鈴、きれいだよな」
「うん。かわいい…」
「美鈴みてると、こう…むずむずしねぇ?」
「……する。…ぎゅっとしたくなる」
………やっぱり川原の上に落とすべきだったんじゃないだろうか…?
とりあえず、こいつらは無視して帰るとする。
その帰り道。
「あら?大地君?そんな所で何をしてるの?」
「…佳織さん」
どうしよう。ここで今日あった事を言ってしまおうか…。
周りには誰もいないし、いいチャンスかもしれない。
思って佳織さんと目線を合わせて、オレははっとした。
佳織さんの目元が赤くなっていたから。……泣いてたんだ…。
こんな状態の佳織さんに言ってもいいんだろうか…。
「なーに?大地君。さては、何か隠し事ぉ?」
「えっ!?」
急に確信をド突かれ、心臓が跳ねあがる。
「……大地君」
「な、なーに?佳織さん」
すっと真剣な表情になる佳織さんに肝が冷える。別に何か悪い事をしたわけじゃないのに。
「……女で遊んでもいいけど、避妊はちゃんとするのよ?」
「あ、はいー。わかってま…って、なんでやねんっ!!」
思わず奏輔がでちゃったよー。
「ふふふっ。冗談よ冗談。それじゃ、私は先に家に戻るわね。今日、やっと誠さんがこっちに合流するのよ」
「あ、そうなんだー」
走って行く佳織さんの背を見送り、オレはゆっくりとその後を追った。
あー…ドキドキした。
そして、言い逃しちゃったー…。
その時、オレは後でもう一度タイミングを見計らって言えば良いやと思っていた。
今このタイミングで言わなかった事を盛大に後悔するのをこの時はまだ知らなかったから…。
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