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第二章 小学生編

閑話1 豊穣祭恒例アスレチックレース

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「ねぇねぇ、美鈴ちゃん」
「なぁに?七海お姉ちゃん」
わくわくした様子で聞かれたから、自作スイーツである牛乳寒天を食べていた手を休め七海お姉ちゃんに笑いながら聞き返す。
「はぅっ、可愛いっ!」
そう言って畳に崩れ落ちる。あのー?今呼びかけた理由は何だったのか教えてくださいなー?
小学生にあがって夏休みに入り、今年もこうやって里帰りをしている。
今回は七海お姉ちゃんも参戦と言う事で非常に、ひっじょーうに私は嬉しいっ。
透馬お兄ちゃんは何かしら叫んでたけど、私は七海お姉ちゃんがかっこよく見えて仕方ないのだ。
だって、男を寄せ付けないかっこ良さがあるんだっ!美人でかっこいいとか女子の憧れでしょっ!?
そんな七海お姉ちゃんと今日は二人でお留守番。源おじいちゃんもヨネおばあちゃんも祭りの為の会合に出ちゃってるし、お兄ちゃん達はお祭りの準備に駆り出されてる。
ママは誠パパと、嶺一パパのお墓参りに行くとかで金山さん引き連れて一旦村を離れた。
だから本当に二人きりでお留守番である。でも、七海お姉ちゃんと二人なら楽しいし全然OKだっ。
「ねぇねぇ。七海お姉ちゃん。何が聞きたかったの?宿題の問題?分からないとこでもあった?」
どうせだから宿題を片付けようと二人で宿題をしていた時、話しかけられたから続きが気になるんだけど。
そう思って、正面で倒れるお姉ちゃんを机越しに覗き込むと、お姉ちゃんはぐわっと勢いよく復活して、私の頭を只管撫で続けた。
「お姉ちゃん?」
「はっ!?いけないけないっ!!美鈴ちゃんの恐ろしき魅力に惹きこまれる所だったわ…。えーっと、あ、そうそう。聞きたかったんだけど、明日豊穣祭?だっけ?あるんでしょ?」
「うん。あるね」
「あれに皆は去年も出たのよね?」
「うん。出たよ」
「どんな感じだったの?」
「どんな感じって?」
「レース中とかどんなかな?って覚えてる範囲でいいから教えてよ」
どんな、って言われてもなぁ~…。どんなだったっけ?
私は自分の記憶を少しずつ引き出していった。



※※※



初期配置に着く為に去っていったお兄ちゃん達を見送りながら、私は誠パパを見上げた。
「誠パパ。本当に大丈夫?」
この村のアスレチックレースは本当にやばいと聞く。
私はまだ参加資格がなかったり、見れたとしても子供部門だけだから大人のレースがどんなものか知らない。
けど、毎年山から絶叫が聞こえるから、相当酷いんだろうなって想像は付く。
そんな危険極まりないレースに都会育ちの誠パパを参戦させていいのだろうか。
不安で仕方ない。
誠パパの手を握ると誠パパは鴇お兄ちゃんと同じ、唇の端をあげるようにニヒルに微笑んで、
「この位どうってことないさ」
と断言した。顔が良いとどんな表情も似合うね。
どうでも良い事で感心していると、ママが司会者の方へ走って行った。
「…あー、あれは横取りする気だね」
「だなぁ。参加出来なかったのがそんなにストレスだったのかな?」
「だろうねぇ」
二人でママを見送ると、スタート位置に着くようにママの声がマイクを通して響く。
スタート位置に立って、ママのアナウンスを聞き流しつつ私はもう一度誠パパを見上げた。
「ねぇ、誠パパ。どうする?手、繋ぐ?それとも俵抱き?」
「あぁ、そうか。どこか触れてないといけないんだったね」
「うん」
頷くと、誠パパは私の前に立ち、しゃがんだ。
これは、おんぶって事でいいのかな?
よいせっと。
誠パパの背中に乗っかると、誠パパはふらつく事もなく、あっさりと立ち上がった。
うわー…凄い高い。そっか。そう言えば誠パパ、鴇お兄ちゃんより背が高いんだっ。まぁ、鴇お兄ちゃんはこれからきっと追い越すだろうけどね。
「ふわー…凄い景色ー…」
見慣れない光景についついキョロキョロと辺りを見渡してしまう。
そして、見てはいけない物を見てしまった…。
チーム『1』にいる怪物…げふんげふん。かなり巨体な男の子を。
男の子って言って良いのか?いや、でも、ほら半ズボン履いてるし。サスペンダーしてるけど下に着てるのはシャツで蝶ネクタイだし。男の子、だよね?
ついまじまじと見ていたら…げっ、視線が合ったっ!?
えっ?えっ?ちょっ、何で頬を赤らめるのっ!?鼻息荒くこっちを見てるのっ!?
「ま、誠パパっ、あ、あの、あの、あれ、あれっ」
「美鈴?どうした…って、うっ…」
本当は人を指さすなんてしちゃいけないって分かってるけど、今は身の安全の方が優先だよねっ!?
誠パパが私の指さす方を見て、顔を顰めた。だよねっ、そうなるよねっ!?
誠パパはすーっと顔を前方へと戻すと、
「美鈴。しっかり捕まってるんだよ。…逃げ切るから」
と、言い切った。一位とかじゃなくて逃げ切ると言い切った。そして、私も、
「うんっ。絶対離さないから。任せて、誠パパっ」
必死に頷き、誠パパの首に腕を回して、苦しくない程度にしっかりと捕まった。
そして、ママのカウントダウンが始まり、スタートの声で一気に全員が走り出した。
誠パパは私が上に乗ってるのを全く感じさせず、一気に山を下っていく。他の追随を許さずに駆け抜ける。
『誠さんのスタートダッシュ、素敵ーっ!』
……ママ。それは、マイクを通して言う事なの?
「ははっ。佳織にそう言われたら、調子にのっちゃいそうだな」
誠パパは嬉しそうだから、…まぁいっか。ほのぼのとしていると…。

―――ゴロンゴロンッ。

「えっ!?何の音っ!?」
突然近寄ってきた何か大きな物が転がる音に私は咄嗟に振り返る。
そこにはさっきの男の子らしき物体が坂道を転がり、その上をサーカスの玉乗りのように乗っかってる男性がいた。
「って言うか、あり得なーいっ!!誠パパっ!轢かれちゃうよっ!急いで急いでっ!!」
「わ、分かったっ!」
迫りくる巨体に誠パパがスピードを上げる。
スピードの恐怖より、背後から落ちてくる巨体の恐怖っ。
振り返る度に、その巨体の顔が覗き見えて、しかも私の顔見てニタッと笑うとか、何なのーっ!?
誠パパは坂道の加速も糧にぐんぐんスピードを上げて坂道を下った。
山を下り終わると、その出口に葵お兄ちゃんが立っている。
「父さんっ!鈴ちゃんっ!」
両手を振ってるそこへ誠パパがラストスパートをかける。
流石に全速力で逃げてきた所為か、誠パパの息も上がっていた。
やっと葵お兄ちゃんの側に辿り着き、私は葵お兄ちゃんが伸ばしている両腕の中へ自分から飛び込む。
お姫様抱っこに切り替えて、葵お兄ちゃんは私を落とさないようにぎゅっと抱きしめた。
「じゃあ、父さんっ」
「あぁ、行って来いっ。って言うか早く逃げろっ!あいつが来るっ!絶対追い付かれるなよっ!」
「了解っ」
くるっと進行方向に葵お兄ちゃんが向き直り、私を見て微笑んだ。
「鈴ちゃん。しっかり捕まっててっ。行くよっ!!」
「おーっ!!」
ぐっと拳を突き上げて、声を上げると同時に葵お兄ちゃんは走り出した。
「図書館までの道ってどっちだっけっ!?」
走りながら問われ、私は指であっち、こっちと指示を出す。
そして、図書館まであと一歩って所で、ママのアナウンスが入る。
『続いて~、撒菱ならぬ去年とった毬栗の道でーすっ!』
「はぁっ!?」
「ええっ!?」
曲がり角を曲がって突然現れた、毬栗が敷き詰められた道。
思わず急ブレーキをかけてしまった葵お兄ちゃん。でも、これは仕方ないと思う。
「葵お兄ちゃん、どうする…?」
私が問いかけると…。

―――ドスドスドスッ。

不穏な足音…。こ、こわ…。そっと葵お兄ちゃん越しに振り返ると。
「にゃーーーーっ!!?」
キターーーーっ!?!?
巨体が凄まじい勢いで走ってくるーっ!!
「あ、あ、葵お兄ちゃんっ!奴が来るーっ!!」
それ以外言いようがないっ!なんか巨体の上で小さな子が棚引いてるのがまた怖いっ!!更に、私を見て笑ってるのが尚更怖いっ!!
「逃げろってこういう事なんだね。ごめんね、鈴ちゃん。僕の首にしっかり捕まっててくれる?」
「う、うんっ」
私は言われるまま葵お兄ちゃんの首に腕を巻き付けしっかりと捕まる。
それを確認すると、葵お兄ちゃんは跳ねた。
「ふわっ!?」
トンと軽く着地したかと思うと、再び跳ねる。それを幾度か繰り返して、しかも勢いがついてるのか、スピードや飛距離が上がっており、気が付くと毬栗エリアを乗り越えていた。
「す、凄いねっ、葵お兄ちゃんっ」
「そう?でも、流石にきついね」
とか言いつつ、汗一つ掻いてませんけど?
しかも爽やかな雰囲気のまま、駆け抜ける。後ろが気になってもう一度葵お兄ちゃん越しに窺い見ると、巨体男子は体中に毬栗をさして走っていた。
え…?刺さった毬栗食べて…。
「…鈴ちゃん。奇妙なものは視界に入れない方がいいよ」
「…そうだね」
私達は見なかった事にした。身の安全の為に。精神の安全の為かもしれない。
『チーム5、毬栗エリア、隙間を縫って跳躍し難なくクリアーっ!その後ろをチーム1が追随しておりますっ!毬栗は食べてはいけませんっ!繰り返しますっ!毬栗は去年の物なので食べてはいけませんっ!せめて煮るか焼いてからご賞味下さいっ!』
「煮ても焼いても食べたら駄目でしょーっ!」
『毬栗が食べられた為、道が開きチーム4、10、6、21の順で後に続きますっ!食べられるってのは考えておりませんでしたっ!次回に活かしますっ!』
ママ…。
「佳織母さん、絶好調だね…」
葵お兄ちゃんと二人で静かに溜息をついた。
そんな葵お兄ちゃんの本気ダッシュのお陰であっという間に図書館前に辿り着く。
「葵っ、鈴っ!」
手を振る棗お兄ちゃんに私は手を振って応え、葵お兄ちゃんは棗お兄ちゃんの前に立った。
「棗っ。やばいっ。次に来るの本気でやばい奴だからっ。兄さん達は登り道だし、何があるか分からない。僕と棗の所で距離を稼いだ方がいいっ」
「分かったっ。鈴、おいでっ」
「うんっ、棗お兄ちゃんっ」
本気で訴える葵お兄ちゃんに棗お兄ちゃんはしっかりと頷く。そして私を受け取ると走り出した。
スピードはぐんぐん上がってるけど、私は今盛大に嫌な予感がしている。
「…絶対に何か仕掛けてるよね。佳織母さん」
「うん。あるよね。絶対…」
そして、村役場前のカーブを曲がって、さっきと同じようにママの声が響き渡る。
『お次は粘着エリアーっ!』
粘着エリア?
私と棗お兄ちゃんは道の先を見た。
確かにアスファルトの上に板があって、その上に白い何かが敷かれている。
これが、粘着?
「…普通なら、この程度の粘着、剥がしながら行けるだろうって想う所だけど、相手はあの佳織母さんだからね。…用心に越した事はない、か」
そう言って、棗お兄ちゃんはキョロキョロと顔を動かし、何かを発見した。
そこへ歩いて近づく。
何を見つけたんだろう?
私が下を向いた所で見えないし、危ないから出来ない。
でも、それが何かは直ぐに分かった。それを棗お兄ちゃんが蹴ったから。
そしてその反応を見て棗お兄ちゃんは眉間に皺をよせた。葵お兄ちゃんが今蹴ったのって…。
「…石?」
「あり得ない。どれだけ粘着性の高いのを使ってるんだ。少なくともバライティー番組とかで使われてる粘着シートなら最低一回は跳ね返るはず」
『そうでーすっ!特別製でーすっ!ママ頑張って作ったわーっ!!』
ママ…。
棗お兄ちゃんが蹴った石は、直ぐにそのシートに張り付いてしまった。
「何個か石を蹴ってその上を走って行ってもいいんだけど、失敗したら…」
『髪の毛とかくっ付くとホントに取れなくなるから気を付けてー。切らないといけないかもーっ!』
ピシッ。
あ、棗お兄ちゃん、怒ってる…?
表情が固まってるけど、何かブリザードが棗お兄ちゃん中心に吹き荒れてるよ?
「佳織母さん。後でヨネお祖母ちゃんに怒られてね」
『えっ!?い、いや、棗、それは、ちょっと…』
「お・こ・ら・れ・て・ねっ!!」
『………ハイ』
おおおっ!!
ママが言い負かされたっ!!
凄い、棗お兄ちゃん凄い凄いっ!!
尊敬の眼差しで棗お兄ちゃんを見詰めてると、その視線に気付いた棗お兄ちゃんは苦笑して、私を抱えなおした。
「落ちないようにするけど。もしもの時の為に、鈴、頭を両手で守ってて」
「んっ!分かったっ!」
ぐっと両手で頭を抱えてなるべく小さくなる。
両手に力を入れてしっかりと私を抱えた棗お兄ちゃんは、少し後ろへ下がると、勢いを付けて駆けだした。
そして、片側にある民家の壁に向かって跳び、更に壁を蹴って大きく跳躍して、なんと対岸へ辿り着いてしまった。
「もう、大丈夫だよ。鈴」
「す、凄いっ!葵お兄ちゃんも凄かったけど、棗お兄ちゃんも流石っ!」
「そう?でも、良かった。鈴の髪が触れるような事にならなくて」
「髪?私は少しくらい切っても大丈夫だよ?」
「僕が嫌なんだよっ。僕は鈴のそのふわふわしたその綺麗な髪がお気に入りなんだ」
「そうなの?」
「うん」
「んー…。じゃあ、私棗お兄ちゃんの為に伸ばすね」
今までは寝癖を避ける為に伸ばしてきたけど、これからは棗お兄ちゃんの為に伸ばす事にしよう。うん。
だって、その一言だけでこんなに嬉しそうな顔をするんだもの。切るなんて言えないよね。
二人でにこにこと笑い合っていると…、

―――ドスドスッ、バタンッ!!

盛大にぶっ倒れた音がした。
「……鈴。行こうか」
「オッケー」
見ない。もう振り返らない。何故って?怖いからよっ!
『チーム1、顔面から行っちゃいましたねーっ!おおっとー、チーム1を踏み台にして、チーム9、14、4、10の順番で粘着エリアを続々クリアしていきますっ!いい踏み台ありがとうございますっ!!』
これで、チーム1はビリ確定かな?
棗お兄ちゃんは一気に駆け抜けて、お祖母ちゃんの下へ急ぐ。
『おっ!?チーム1粘着を全身に張り付けたまま爆走中ですっ!砂煙をあげて走ってますっ!!前が見えなさそうなので誰か顔の部分だけ剥いであげて下さいっ!』
怖いわー。
気にしない。気にしないぞーっ。
やっとお祖母ちゃんがいる村役場前に辿り着く。
「あらあら。一位で来るなんて、凄いわねぇ。お疲れさま。棗ちゃん」
「お祖母ちゃんっ。鈴の事、よろしくっ。それからっ」
私は棗お兄ちゃんの腕から降りて、お祖母ちゃんと手を繋ぐ。因みにこの時も棗お兄ちゃんの腕から手を離していないので失格条件にはなっていません、ご安心を。
それはそれとして、お祖母ちゃんと棗お兄ちゃんと三人並んで歩き始める。
「ふふっ。分かってるわ。佳織は私がちゃーんと、叱っとくから、ね?」
ゾワッ!
「あ、ありがとう。お祖母ちゃん」
どうやら鳥肌が立ったのは私だけではなかったみたいだ。棗お兄ちゃんも腕を擦っている。
お祖母ちゃんの担当エリアに入った途端に、ママの実況中継が止まった。
これはどうとるべきか。
お祖母ちゃんに怒られるのが怖いからか、それとも次の罠を仕込むのに忙しいからか。
うぅ~ん。何とも言えない。
「僕は前者に一票」
「私は後者に一票ね」
「…二人共、私今口に出して言ってた?」
にこにこにこ。
笑顔が怖い。私ってそんなに読まれやすい?
「あ、やっと追い付いたっ!棗っ!」
振り返ると、コースとは関係ない所から葵お兄ちゃんが棗お兄ちゃんを呼び留めた。
「葵?どうかしたの?」
「父さんが呼んでるんだ。多分、会場の設営の事に関してだと思うんだけど」
「うん。分かった」
私とお祖母ちゃんはレースの最中だから、二人を手を振って見送って、そのまま簡易休憩所へ向かう中間地点に向かった。
仲良く世間話。でもあれだね。世間話しつつも、私達ついレースを意識しちゃって早歩きしちゃうね。
せかせかと進んで、お祖父ちゃんがいる所へ到着。
「おおー、来たか来たかっ。どれ、美鈴。祖父ちゃんが肩車してやるぞっ」
「いやー」
はっきりと答えてみる。勿論冗談ですよ?
でもね、ほら、一応お祖父ちゃんの年齢とか考えるとね?
お年寄りは労わらないと、ね?
それにどうせ、
「まぁ、そう言わずにっ」
「きゃっ」
こうやって問答無用で抱き上げて肩車するんだから。
気になんて止めない。
スカートで肩車って普通は嫌がらせだよ?全く。
ん?でも待って?普通の女の子なら気にしないのかな?んんー?分かんないや。
お祖父ちゃんがひょいひょいと小走りに進むから、あっという間に奏輔お兄ちゃんが待つ簡易休憩所に辿り着いた。
元気だよねー。お祖父ちゃん。
「ほいっ、奏輔。受け取れっ」
「はいはい。お姫さんおいでー」
「はーいっ」
奏輔お兄ちゃんが背中を向けてくれたので、お祖父ちゃんの頭を踏んで、奏輔お兄ちゃんの背中に乗った。どさくさにお祖父ちゃんの顔を蹴飛ばしてしまった気がするがまぁいいことにする。
「ほな、行くでっ」
「おーっ!!」
双子のお兄ちゃん達も速かったけど、やっぱりコンパスの差かな?
そして、誠パパやお祖父ちゃんとはきっと若さの、体力の差だよね。
山登りなのに、もの凄く速いっ!
『おおーっ!チーム5っ!独走状態ですっ!そんなチーム5には試練ですよーっ!!』
「…は?」
ママ。アナウンス再開したかと思ったら、いきなり何を言うのかな?
『じゃあ、盛大に石を転がしてみようっ!!そーれ、ごーろごーろっ!!』
石?

―――ゴロゴロゴロゴロッ!!

「あれは石じゃなくて岩じゃないっ!!」
目の前に巨大な丸い岩が転がり落ちてくる。奏輔お兄ちゃんの身長の半分くらいの大きさの岩。
しかも一つや二つじゃない。連続でゴロゴロと転がって来ていた。
「なんや、嫌な予感はしとったけど、まさかこんなんとは思わへんかったわっ!」
植わってる木まで薙ぎ倒して進む。
これどうやって避けるのよーっ!!
「しゃあないなぁ…―――よっ!」
「わっ!?」
いきなり跳ねたかと思うと、奏輔お兄ちゃんは手近にあった枝に片手で捕まり、その上へ軽々と乗り上げ、更に手近にある枝に捕まってを繰り返して、木から木へ、枝から枝へ飛び移っていく。
岩が来ない方向へ移動を繰り返した結果、全ての岩を奏輔お兄ちゃんはやり過ごした。
「ぎゃあああああああっ!!」
「なんじゃこりゃあああああああっ!!」
「ほげえええええええっ!!」
下の方から絶叫が聞こえる。
「えーっと…」
「気にしたら負けやで、お姫さん」
「確かに」
そのまま奏輔お兄ちゃんは駆け上がる。
すると、透馬お兄ちゃんの姿が見えてきて、その奥に湖が見えた。
山を登る為足元を見ている奏輔お兄ちゃんには見えないだろうから、私が代わりに手を振る。
すると透馬お兄ちゃんはにこっと微笑んだ。
「奏輔っ!ここだっ!」
透馬お兄ちゃんが叫んでくれて、やっと奏輔お兄ちゃんが透馬お兄ちゃんの存在に気付き、一気に距離を縮める。
「透馬っ。あかんっ。このレース、マジで鬼畜過ぎるっ。湖も絶対何かあるから気ぃつけやっ!」
「マジかよっ。了解っ。姫、俺の背にっ」
「うんっ」
おおっ。お兄ちゃん達が珍しく焦ってる。
透馬お兄ちゃんの背に移り、私がきちんと首に腕を回して掴まっている事を確認すると直ぐに走りだす。
「怖くなったら言ってくれよなっ」
「うんっ。大丈夫っ」
心配そうに伺いかけてくれる透馬お兄ちゃんに元気よく答える。
すると、透馬お兄ちゃんもやっぱり軽々一本目の杭へ飛び乗った。
それと同時にまたアナウンスが流れる。
『はいはーいっ!チーム『5』が湖エリアに入りましたーっ!その湖には何故かピラニアと鮫が愛の共同生活をしておりますっ!落ちないように気を付けてねーっ!』
「はあぁっ!?」
うん、まーそう言う反応になるよね。って言うか皆同じ反応してきたよ、うん。
「ママ…。いくら参加出来ないからって、急ごしらえでここまでしなくてもいいのに…」
「ははっ…」
ついつい零れた溜息に、多分透馬お兄ちゃんは同情してくれたんだろうな。乾いた笑いをくれた。
順調に透馬お兄ちゃんが進んでいると…。

―――バキィンッ!!ドスドスドスッ!!

背後から何かを砕いた音が聞こえ、恐ろしい足音が近づいて来てる。
ひいぃっ!!
絶対あいつが来てるーっ!!
ビリだった筈なのに、そんなに追い上げてきたのーっ!?
『あらあらーっ!?チーム1に岩が砕かれていくーっ!!』
「岩を砕くって…マジか?」
「あれならあり得る…絶対あり得る…」
「姫、耳元で呪文唱えるのやめてくれ」
透馬お兄ちゃんに言われ、言葉が口から出ていたのが分かって口を紡ぐ。言霊になったら怖いからねっ!
湖の杭を渡り終えて、そのまま駆け抜ける。
「透馬っ!こっちだっ!!」
大地お兄ちゃんが手を振っている。それを確認した透馬お兄ちゃんが真っ直ぐそこへ向かって走り、問題なく大地お兄ちゃんに私は渡される。
あくまでも私はバトンですからねー。襷でも可。ってそんな事どうでもいいか。
『おおーっとっ!チーム1湖に落ちてしまったーっ!でも何か気持ち良さそうですっ!!あぁ、生魚を食べてはいけませんっ!!肩に噛り付いている鮫をとってヒレに噛り付いてはいけませんっ!!確かにそこはフカヒレと申しますがいけませんっ!!』
チーム1の巨体ってホントに人間ですか?
「…何か怖いねー。早く行って距離開けようねー」
「うん。そうだね。大地お兄ちゃん」
本気でそう思うわー。
大地お兄ちゃんが山を登るスピードを上げていると、
『はーいっ!ここでまた石を落としますよーっ!!今度はさっきの倍ですよーっ!!』
「えっ!?」
倍っ!?どう倍なのっ!?
「ねぇ、姫ちゃん。さっきって何個転がってきた?」
「えっ!?えーっと…」
必死にさっきの、奏輔お兄ちゃんの背中にいた時を思い出す。
「な、七つ?八つ?十には満たなかったと思うの」
多分。ごめんっ、大地お兄ちゃん確かな事言えないっ!
「そっかー。その倍って言うと…二十はあると思った方がいいかなー?」
おお?大地お兄ちゃん余裕そうっ!
なんだろう、今日のお兄ちゃん達凄くかっこいいねっ!!
そう言えば……男が色気を放つ瞬間って死に直面した時って言うよね…。

―――ズゴゴゴゴゴゴッ!!

「えええええっ!?」
大地お兄ちゃんより大きい岩が落ちてくる。
「ママ、殺す気なのっ!?」
『あ~い、ゆえに~』
「五月蠅いわっ!!」
思わず全力で突っ込んでしまう。
どうやってこんなの避けるのよっ!!
奏輔お兄ちゃんみたいに木を伝っていくのも無理があるし、どうしたらっ!?
「大丈夫、大丈夫ー。ちゃーんと姫ちゃんを無事にゴールまで届けてあげるよ。まぁ、見ててよ」
「え?大地お兄ちゃん…?」
「大きい岩でも、岩は岩ってね」
そう言って真正面から向かっていく。
ひええええっ!!怖いいいいっ!!
すると大地お兄ちゃんは背中におぶっていた私を前の方で抱っこして、転がってきた岩の跳ねた瞬間にその下を潜り込んでいく。
私に岩がかすったりしないように、胸に抱え込み体で守ってくれる。
そっか。岩だってこの落ちてくる岩は上手く落下させる為に球体に近い。って事は、必ず跳ねて地面を離れる瞬間がある。
そこへ潜り込んで、岩を回避してるんだ。
一杯ある岩でそれを見極めて進むなんて、凄い…。
大地お兄ちゃんは躊躇せずガンガン進んで、何と鴇お兄ちゃんの所まであっさり辿り着いてしまった。
「よっ、お疲れー」
「大地…。お前、土まみれじゃねぇか…」
「いやー。だってこうでもしないと、進めなかったからねー」
因みに私は大地お兄ちゃんの腕の中に常にいたので、葉っぱ一枚付いてません。
鴇お兄ちゃんの腕の中に移動して、鴇お兄ちゃんは走り出す。

―――バキバキバキィンッ!!どどどどどどっ!!

「なんの地鳴りだっ!?」
「チーム1の巨体男児の発する音です」
「……そうか」
もう突っ込みを入れる事も疲れて私は素直に鴇お兄ちゃんに身を任せた。
『あぁーっ!!私の力作の石がーっ!!それは食べ物じゃありませんっ!!食べ物じゃありませんよーっ!!口に含んじゃ駄目ーっ!!』
ママが絶叫してる。
『あ、ごめんっ。忘れてたっ。頂上へ向かう最後の難関がありまーすっ!!』
……あー。なんかもう想像つくわ。
「鴇お兄ちゃん。バライティ番組の最後と言えばー」
「…はぁ。分かってる。爆発だろ」
私達が二人同時に溜息を落とす。
それと、同時に、

―――チュドーンッ!!

どこかで何かが爆発した。
ふと影が落ちて、私と鴇お兄ちゃんが空を見上げると、円形のゲームにありそうな爆弾がばらばらと撒かれた様に落ちてくる。
「うそーーーっ!?」
「佳織母さん、馬鹿だろっ!?」
これは本気でヤバいっ!!
「悪い、美鈴っ!ちょっと抱えるぞっ!」
「全然OKっ!早く逃げようっ!!」
鴇お兄ちゃんは私を小脇に抱えるようにして、駆け抜ける。
たまに足元へ転がってくる爆弾は蹴って遠くへ飛ばしてしまう。
誰か私にヘルメットを、ヘルメットをーっ!!
爆弾エリアを駆け抜けた鴇お兄ちゃんは、頂上に辿り着き一息ついた。
流石にお社のあたりで爆弾を投げ飛ばすほど、ママは罰当たりではないようでほっとした。
もしそんな事したら、お祖母ちゃんだけでなく私も全力でお説教するわ。
「美鈴、ほら、お賽銭」
地面に降ろして貰い、手を繋ぎながら片手でお賽銭を受け取り、賽銭箱へ入れる。
ねぇ、これどうやって二礼二拍一礼するわけ?
考えた末、しゃがみこんだ鴇お兄ちゃんに後ろから抱きしめられつつ、お参りする。
『あああっ!!爆弾を全身で受けて嬉しそうな顔をしてはいけませんっ!!っと、何とか頑張っていたチーム7もリタイア決定ーっ!!後はチーム1とチーム5の一騎打ちですっ!!』
私と鴇お兄ちゃんは顔を見合わせた。
普通に考えて、あの岩は無理だし爆弾はあり得ないって事だよね。うん。
「…ここまで来たらリタイアするよりゴールした方が速い。行くぞ、美鈴」
「オッケ」
そこから本来ママが担当するはずだった場所で、透馬お兄ちゃんが待つ所へ私達は向かった。



※※※



「……マジ?」
「マジ」
七海お姉ちゃんが私の話したとんでもないレース内容に驚愕している。
でも、本当の事だから仕方ない。
「その後もワイヤーが切れたりして大変だったんだけど…透馬お兄ちゃんに怪我させちゃったり…ごめんね?七海お姉ちゃん」
透馬お兄ちゃんに怪我させたから、身内としては怒るだろうと思って謝ると。
「あ、いや。透馬が怪我したとかそんなのどうでもいいんだけど」
どうでもいいんですか?そうですかー…。
「凄いレースなんだね…」
あ、七海お姉ちゃんが俯いちゃったっ!
しかも震えてるっ!?
そうだよねっ!怖いよねっ!
「七海お姉ちゃんっ!レース辞退するっ!?お、お祖父ちゃんに伝えてくるからっ!」
慌てて立ち上がった。…んだけど、七海お姉ちゃんが顔を上げてその表情を見てお祖父ちゃんの所まで走る気が失せた。
「楽しそーっ!!やだっ!!俄然楽しみになってきちゃったーっ!!」
嬉しそうに、期待を含んだ満面の笑みできゃっきゃするものだから、私は静かに席に戻る。
こんな七海お姉ちゃん止めれる訳がない。
だって、ママそっくりなんだもの…。
「はぁ~…」
私の盛大な溜息は宙に消えた…。
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