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幼児編小話

夏なのに?(日常:誘拐事件後:葉)

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「美鈴ちゃん。お米蒸かしましょう?」
お祖父ちゃんがどっから発掘したのか分からない謎なビニールプールを畑の隅に設置してくれたのを利用して遊んでいた僕達の前にお祖母ちゃんは突然現れて言った。
米を蒸かす?って事はお盆だしおはぎでも作るのかな?
僕が葵と目を合わせ首を捻っていると、言われた鈴自身も首を傾げていた。
「そうよねぇ。そう言う反応になるわよねぇ。あの糞じじ…こほん。お祖父ちゃんが突然餅つきをするなんて言い始めるから」
今お祖母ちゃん糞爺って言い掛けたような…?でもそこに触れるのは危険そうだ。うん。血は繋がってない筈なのに佳織母さんにこんなに似てるんだからびっくり。
「どのくらい蒸かすの?」
「えーっと…時間を競うとかふざけた事ぬかしてたから…鴇ちゃん、大ちゃん、葵ちゃん、ボケナス…八合くらいかしらね」
「結構蒸かすんだね~。うん、分かった。着替えて行くね」
ザバァッと美鈴はプールから上がる。
僕達プールで遊ぶって言いながら、まるで温泉みたいに浸かってたからね。だって動かずに浸かってると気持ちいいんだもん。
「じゃあ、僕達も行こうか、棗」
「だね。何かさっきお祖母ちゃんの呟きに葵の名前が入ってた気がするし…」
「あぁ…うん」
ザバッとプールを出る。あぁ、そうだ。プール片づけないと。
葵と美鈴も同じ考えに至ったようだけれど。
「あらあら。そのままで大丈夫よ。どうせだからスイカ冷やすのに使いましょう」
お祖母ちゃんが片付けなくてもいいと言ったので素直に頷いた。
「だったら、お言葉に甘えて着替えに行こうか」
「うんっ」
「鈴ちゃん、はい、手」
鈴を真ん中に僕達は手を繋いで歩く。こうやって三人で歩くのが実は僕達のお気に入りだった。
だって、鈴が。
「えへへ~。嬉しいな~」
って嬉しそうに笑って、ぎゅっと手を握り返してくれるんだ。可愛いっ!
家の中へ戻って、鈴が脱衣所。僕達は一緒に行く訳には行かないから部屋で体を拭いてから水着から手早く私服に着替える。
そのまま台所へ向かうと、タライに多分もち米らしきお米が盛りっと盛られていた。
「あら?葵ちゃんに棗ちゃん。髪乾いてないわよ?ちゃんと拭かないと」
タオルを持って僕達の頭を優しく拭いてくれるお祖母ちゃん。何かくすぐったくて照れる。
「お祖母ちゃん、お待たせ~」
髪を拭いて貰ってる最中に鈴がパタパタと走って来た。鈴の髪もやっぱり乾いてなくて、葵が鈴の髪をタオルで乾かす。
「皆可愛いわ。流石私の孫ね」
満足そうに微笑んで、僕達から離れると早速お祖母ちゃんは作業に移った。
あれ?山盛りのお米は使わないんだ?
お祖母ちゃんが違う方へ歩いていったから首を傾げると。
「もち米は最初水に浸しておいてから蒸かすんだよ~」
鈴がお祖母ちゃんの後を追いながら言った。そうなのかと慌てて追いかける。だってきっと力仕事だ。水が入ってるなら尚更。
「もち米が余ってうるち米と一緒にして炊いておいたから、おはぎも作りましょうね」
「ついたお餅はどうするの?きな粉?お汁粉?砂糖醤油?胡麻?雑煮風?」
「そうねぇ。それは食べれるものが出来たら考えましょう」
……ん?食べれるものが出来たら?何かまた聞いてはいけない事を聞いてしまったような…?
鈴とお祖母ちゃんの代わりにタライを持ち、ざるにもち米をあけて、水気を払ってから蒸かし器へ入れる。昔ならではの蒸かし器だから三つコンロがあっても二つ置けばコンロは使えなくなる。
蒸かすのを待っている間、僕達はおはぎ作りに取り掛かった。
麺棒を持った鈴に僕達はお米の入った器を掴む。
「えいっ、えいっ。半殺し~♪」
…うん。意味は知ってるんだ。お米の状態を残す事だって。でもそんな明るく言う言葉でもないと思う。
程よく潰されたもち米を今度は丸く形作っていく。
一緒になって丸くしていると、ちょっと楽しくなってくる。
「葵お兄ちゃん、見てみて~」
「……ひとで?」
「むむっ、星だもんっ!…って同じ五芒星型っ!?」
ショックッ!
と鈴が崩れ落ちるのを微笑ましく見ながら、僕は手元のおはぎをハートの形にしてみた。
「鈴。どう?ハートに見える?」
「え?あ、可愛いっ」
鈴が嬉しそうに微笑み、だったらと葵がもう一つ作り始める。意図が読めて僕ももう一つ作りその三つを尖ってる方を中心に組み合わせた。
「三つ葉のクローバーだっ。可愛いっ」
「ふふっ。どうせなら四つ葉にしちゃいましょう?」
そう言いながらお祖母ちゃんがもう一つ追加してくれる。綺麗な四つ葉のクローバーが出来上がった。
キラキラと目を輝かせる鈴を可愛いなぁと思いながら、次のモチーフを考えた。
次々と形を作り、器が空になった所でお祖母ちゃん特製の、あんこがかけられる。あの緑のはずんだ餡?きな粉も胡麻もあるんだ。
何だかんだで用意してたんだ、お祖母ちゃん。
出来上がったおはぎが並んだ器をお盆に載せて、僕達は縁側へ向かった。何故縁側?とお祖母ちゃんに問いかける前に到着したその光景をみて納得した。
「ふんっ、ふんっ」
「祖父さん、そんなに腰回してたら痛めるぞ?」
「そーそー。源祖父ちゃん、引っ込んでなよー」
「ふおっ!?大地よっ!鴇と全く意味が違う様に聞こえるぞっ!?」
「気のせい気のせい。源祖父さん、耳悪くなったんじゃねぇ?」
「全くや」
「貴方達。あまり父さんを苛めないの。もっとやれ」
六人が五つの臼の前で話し合っていた。一番端っこに小さいの二つある。あれが僕達のかな?あれでも二つ?
「あなた。おはぎが出来ましたよ~。蒸かすまでの間、これを食べて待ちましょう?」
「おー、出来たかっ」
ぞろぞろと集まって皆でおはぎを食べる。
鈴も嬉しそうに食べている。っと、ほっぺにあんこが付いてる。
「鈴、頬にあんこ付いてるよ」
指でとってやると、えへへと照れて僕に抱き着く。うん、可愛い。
「ほおおおおっ!?」
唐突な雄叫び。慌ててそっちに目をやるとお祖父ちゃんが口を抑えて血眼で走り回っている。
「どうしたっ!?祖父さんっ!?」
って言いながら透馬さんは一歩も動かない。
「わさびじゃっ!わさびじゃああああっ!!」
「おほほほほっ、いやぁねぇ。あなたったら。そんな訳ないじゃない。ほら、食べて食べて」
「ふごおおおっ!」
…あれ、ずんだ餡じゃなくて山葵だったんだ…。
「用意するの大変だったのよ~。大ちゃんに取りに行って貰ってやっと作ったんだから。あなた、はい、あ~ん」
「ぬおおおおおっ!」
皆、お祖父ちゃんからそっと視線を外し、
「おいしいね~」
とニコニコ微笑んで食べる鈴で目を癒した。
美味しい美味しいおはぎを食べて、いざ蒸かしあがったもち米で餅つきだ。二つで一気に蒸かしたんだね、八合分。
一番端っこの臼に佳織母さんとお祖父ちゃん、次に鴇兄さんと透馬さん、真ん中に大地さんと奏輔さん、次に僕と葵、最後に鈴とお祖母ちゃんだ。八合だから2:2:2:1:1の割合かな?
最初の下準備で杵に水を付けてぎゅっぎゅっと軽く潰していく。
葵が杵を持っていると、若干ふらついている。
「え?そんなに重い?」
「重いと言うか、重心が取り辛い」
「へぇ~」
となると…。隣を見ると、同じように鈴がふらふらしていた。うぅん…危ない…。
僕と鈴代わった方がいいんじゃ…?あぁ、でも鈴の目はキラキラしてる。やる気満々だ。止められない。
「準備、出来たぁ?お米の形がなくなってきちんとつきあがったら杵を置いて、そこで勝負終了ね。オッケー?」
佳織母さんの説明にオッケーと返す。
「じゃあ、よーい、どんっ!」
一斉に突き始める。一部、音声だけ届けると…。

「おりゃあああああっ!!」
「ほぎゃああああああっ!!佳織っ!儂じゃなくて臼を狙わんかいっ!!」
「よっと、これ、結構難しいな」
「頼むから、鴇。手だけは狙ってくれるなよ?」
「なら、交代するか?」
「えいっ!!」
「ちょっ、大地っ。手加減せぃっ!臼が割れるでっ!」
「あ、そっか。ごめんごめん。…でも佳織さん所のもう割れてない?」
「…見たらあかん。その内屍が出来るかもしれへんけど見なかった事にしとけ」
「了ー解ー」
「うんしょっ…あれ?」
「美鈴ちゃん。頑張って。もう少し力入れないと駄目よ?」
「う、うんっ。えいっ」
「そうそう。上手上手」

…カオス。
「あ、佳織母さんの所と、大地さんの所の臼壊れた」
「……餅は無事?」
「木片入ってるから無理じゃない?」
「何か駆け出してる音がするんだけど」
「…佳織母さんが杵を持ってお祖父ちゃんを追い掛けてる」
「………うんしょっと。はい、こねたよ、葵」
「うんっ。えいっ」
僕達は身の安全の為、見なかった事にした。
「な、棗お兄ちゃん。代わって~…もう、無理ぃ~…」
杵を置いてお餅を捏ねていた僕にぎゅっと抱き着いてくる。やっぱり体力の限界だったか。
「うん。分かった。じゃあ、鈴は僕の代わりに葵とペアね」
コクコクと頷き僕の代わりにお餅を捏ねる鈴の安定の可愛さに満足しつつ、僕は杵を持った。
あぁ、確かに重心取り辛い。でも、そこまで重くもなさそうだし。
お祖母ちゃんに確認をとって、お餅をつく。あれ、結構楽しい。
そのまま、ぺったんぺったんとやっているとお餅が出来上がった。
因みに勝者は、鴇兄さんの所だった。でもそもそも勝負になっていなかった気がする。
プールで遊んで餅つきして。夕日を浴びながら遊びきった僕と葵は縁側でゆったりと座っていた。同じく疲れ切った鈴は僕の腕の中でおねむだ。
兄さん達は後片付けをしている。佳織母さんにずるずると引き摺られてるお祖父ちゃんには誰も視線をおくらない。
佳織母さんの持ってた杵が鉄パイプに見えたり、佳織母さんがヤンキーに見えたのは内緒。
出来上がったお餅は晩御飯のお雑煮となって出て来た。またお祖父ちゃんが苦しんでいたけど、これはきっと気のせいだね、うん。
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