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最終章 数多の未来への選択編
※※※(陸実視点)
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初めての歌番組の収録も無事終了ー。
美鈴センパイが出した宿題も何とか終了させた。
そして、今日の現場から近さを考えて施設の方に帰って来たんだけど…。
「むつみにいちゃんっ!あーそーぼーっ!!」
「かいりおにいちゃん、ねてないのー?じゃあいっしょにねんねしよー」
「あきらにいにー、とどめをさすよ」
新しく施設に入った奴らもプラス状態で飛び掛かってこられた。
「……ちょっと失敗したな」
「ちょっとどころかだいぶ、だよ」
「……………………とどめ、くらった……」
「ほらほら3人共、子供達の相手してたら寝れなくなるわよ。明日は朝早くから現場入りなんでしょう?」
母さん先生がオレ達三人を客間(オレ達の部屋はもう弟妹達に引き継がれている)に荷物を放り投げた。
鞄の中からスマホを取りだして、社長からの連絡がないかのチェック。
今日は特に連絡はないみたいだ。
宿題もさっき言ったように終わってるし…。
「今日はもう風呂入って寝るかー」
「……………すよー………」
「もう寝てんのかよっ!海、せめて布団敷けよっ」
「………………陸。おれが敷いておく」
「自分の分だけなっ!海の分も敷いてやれよっ!」
「…………………風呂、行ってくる」
「うぉーいっ!!……結局オレが敷くのかよ」
襖の奥から布団を取り出して、敷いていく。
海をわざわざ布団に寝かすのも面倒だな…転がしてやれ。
あ、上下逆さまになった。…枕をそっちにおいてやるか。せめもの優しさ。
さて、オレも風呂にするかな。
着替え着替え、っとー?
~~~♪
スマホの着信音?
スマホを持つと画面には白鳥美鈴と映っていて、即電話に出た。
『やっほー、陸実くん。こんばんわ』
「おうっ、こんばんわっ。美鈴センパイ」
うわーうわーっ。電話越しでも美鈴センパイの声って可愛いよなっ!
『ごめんねー?夜遅くに。ちょっと今日の感触を聞きたくてねー。どうだった?楽しかった?』
「おうっ。楽しかったぜっ」
『大成功だったんだ?』
「んー…ちょこちょこ失敗したけど、バレた感じはしなかったな」
『そっかぁ。うんうん。失敗をちゃんとカバー出来て楽しく終われたのなら良かったねぇ』
電話のむこうで美鈴センパイがにこにこ笑って頷いている姿が想像出来て嬉しくなる。
気にかけてくれて、しかもオレに電話してくれた。
これで喜ばないで何に喜べとっ。
『あ、それでね?陸実くん』
「?、なんだ?」
『明日から、それぞれ番組や動画、収録とか色々分かれて動く事になると思うんだけど』
「おう?」
『陸実くんには大地お兄ちゃん、海里くんには透馬お兄ちゃん、それから空良くんには奏輔お兄ちゃんがマネージャーにつくから、そのつもりでいてね?』
「えっ?でも」
『莉良さんはこれから社長業務に専念して貰う事になるから、華菜ちゃんと一緒に仕事を一から学んで貰うの』
「いや、でも美鈴センパイ?師匠達だって仕事が」
『それは大丈夫。莉良さんに余裕が出来るまでは、私達兄妹が全力で補佐するから』
「そうなのか?」
『うんうん。だから陸実くん達は自分の事に専念してね』
「お、おうっ。分かった。全力で頑張るからなっ」
『うんうん。応援してるからね。あ、それからこんな時間に電話しておいてなんだけど、ちゃんとお風呂入って寝るんだよ?』
「おうっ」
『うん。良いお返事。それじゃあね?お休み』
「おやすみっ」
通話が切れた。
う、うあああああっ!
何だ、今の電話っ!?
美鈴センパイがオレと電話してくれて、しかも、お、お休みってっ!
幸せ過ぎてオレは全力で布団の上を転げ回った。
その間に何回か寝ている海にぶつかって、海が目を覚まし、風呂に行った空も戻って来て。
オレが幸せそうな理由を直ぐに察知して、オレは二人から制裁を受けた。
…が、そんなのちっとも怖くなかった。
何せ、【美鈴センパイ】が【オレ】に電話をかけてきてくれたんだからなっ!
そうして威張り散らしていた夜が明けた朝。
オレは最高に落ち込んでいた。
昨日の逆襲かのように二人が笑うかと思ったら、二人も一緒に落ち込んでいる。
理由は…目の前にいるお腹を抱えて笑っている母さん先生の一言だった。
その一言とは、オレ達が朝食を食べていた時の事だった。
朝、母さん先生が起こしに来てくれて。
オレ達は前日の夜に騒ぎ過ぎたのが原因で明らかに寝不足状態だった。
が、ここで起きないと母さん先生は容赦がないから、気合で起き上がる。…海だけはまだ寝てたけど、それはもういつも通りだ。
「私に起こされるなんて珍しいこともあるものねぇ。特に陸実。いつも6時には準備終えてランニングに行ってるのに」
「いや、それは、そのー…」
「………………陸の抜け駆けが原因」
「抜け駆け?なになにー?恋話ー?ちょっと母さんに話してみなさいよー」
「い、いやいやいやっ!朝飯食うんだろっ。遅刻しそうなんだろっ。早く準備しようぜっ」
「なーに?母さんに聞かれたくない話なのぉ?だったら尚更聞かなきゃでしょっ。ほらっ、下の子達はまだ寝てるから、安心してご飯の時話して頂戴」
強引な母さん先生に連れられて、オレ達は現場へ行く準備を済ませて、居間へと向かった。
朝早くに行くオレ達の為に母さん先生はご飯を作ってくれていて。
その事に感謝しながら、オレ達は食べ始めた。
「それで?抜け駆けって?陸実に美鈴さんから電話が来たんでしょう?」
「うぐっ!?げほっ、ごほっ!」
「ほら、むせてなくていいから教えてっ。それで?どう抜け駆けしたのよっ」
母さん先生が元気だ…。
オレが何か言うと絶対今眠気と食い気が争っている海ですら起きて空と二人がかりで突っ込んでくるに違いない。
これはオレだけの記憶にするんだっ!
とだんまりを決め込むことにしたオレ。
「……もしかして、美鈴さん以外の人を好きになった、とかっ!?」
ぶほっ!
食べてた朝食の卵が口からふっとんだ。
だって急にそんな事言われると思うかっ!?思わないだろっ!?
「お、オレはそんな簡単に惚れる奴じゃねぇっ!」
「ふぅん?そぉなのぉ?」
「な、なんだよ、母さん先生、その目は…」
すっげ生暖かい視線を感じて、どうにも居心地が…。
「別に?息子達が可愛い恋愛をしていて、本当可愛いなぁって思ってね。青春してるねぇ」
「………言われてるよ、陸」
「青春だってさ、陸」
「母さん先生が言ってただろ。息子達って。お前らも加味されてるっての」
「まさか、陸実が電話を貰っただけでそんなに喜んでるなんて、ねぇ。それで?何の話したの?」
「なんのって、別に大した事は…今日の予定とか…その、マネージャーに師匠達がついてくれる、とか」
「え?ちょっと陸。それ聞いてないんだけど」
「昨日電話で言ってた。オレには師匠が、海には天川先生、空には嵯峨子先生がマネージャーにつくって」
「……………マジか」
「透馬兄が…」
うんうん。二人の気持ちは良く解る。昨日寝る間際、美鈴センパイから浮かれた気持ちを静めて冷静に考えたら、恐怖しかねぇもんな。
容赦ねぇからな、師匠達…。
ご飯を掻っ込んで、茶碗をテーブルに置いて、目の前の母さん先生の生暖かい目がオレを捕らえていて若干引いた。
そんなオレを見て先生は変わらず生暖かい目でうんうんと頷いている。
「本当にそれだけだったみたいね。もう、可愛いったら。心配する事なさそうだわ」
「何だよ、それ。可愛いって褒め言葉じゃねぇよっ」
「ちょっと待って。陸、今突っ込みいれるべきな所はそこじゃないよ」
「へ?」
「…………………うん。そこじゃない。母さん先生、心配いらないってどう言う意味?」
「あら、昔から言うでしょう?初恋は実らないって」
オレ達は一瞬何を言われたのか解らなくて首を傾げた。
「……この反応、逆に心配になってきたわ。トラウマになる前にちょっと釘刺しておこうかしら」
「母さん先生?」
「美鈴さんから電話貰ったりして嬉しくなる気持ちは解るけれど、その想いを貫く覚悟がないのなら程々にしておきなさい。深入りしては駄目よ」
「さっきから本当に意味が解らないんだけど。どう言う意味なの?母さん先生」
「言葉の意味そのままよ。ハッキリ言って、美鈴さんがそう言う意味での想いを貴方達に抱くとは思えないのよね」
「………………え?」
「貴方達、自分に優しくしてくれる美鈴さんにそれだけで喜んでいるのはいいけれど、そこに貴方達が美鈴さんから感じているような、そうね…言うなれば、色っぽい何か貴方達から美鈴さんが受け取っていると感じる?」
「母さん先生、もっと噛み砕いて言ってくれよっ。ってか、ハッキリ言ってくれよっ」
「ふぅ…。要するに、男として意識して貰ってるのか?ってことよ」
男として…?
「オレ達が女だと思われてるって事か?」
「陸実、そうじゃないよ」
「……………母さん先生が言いたいのは、…おれ達はとり先輩の守備範囲外、もっと言えば子供扱いされてるってこと」
「……はっ!?」
嘘だろっ!?
だってオレあんなにアピールしてるんだぞっ!?
それで子供扱いとかないだろっ!?
キスだってしたのにっ!?
横を見ると海と空が最高に落ち込んだ顔をしている。
「陸実はまだ納得してなさそうねぇ~。アピール頑張ってるもんねぇ~。空回ってるけど」
「そうだっ、ろ……?」
そうだろそうだろって言う筈だった声が尻すぼみになる。
母さん先生の言い方、話し方に既視感を感じたからだ。
「うんうん。努力は大事だからねぇ。応援はしてるよ?母さんは」
『うんうん。応援してるからね』
………あ……。
今理解した。
母さん先生の話し方と美鈴センパイの話し方が、一緒だ…。
って事は、ってことは…美鈴センパイ、本当にオレの事ガキ扱い…?
「おはよー。母さんせんせー」
「あら?おはよう。早起きね」
新入りの妹だ。
まだ眠いのか目はとろんとしている。まだ慣れなくて緊張してるんだろうな。だから早く目が覚めた。
こういう妹はオレがいつも外に連れ出して一緒に走りに行ったりするんだけど。
「どしたの?陸実お兄ちゃん?かおがこわいよ?どしたの?なにかこわいこと、あった?」
……そうだ。この子も一応小さいと言えど女だっ。
「な、なぁ?オレって女の目から見てどう見える?」
「え?」
目をぱちぱちして今オレに言われた質問に首を傾げる。
そ、そうだよな。解る訳ないよな。こんなまだ小学一年くらいの子に。
「どうって、カッコいいと思うよ?」
「ほ、本当かっ!?」
「ただ、それだけだけど」
グサッ!
見えない言葉のナイフが胸を刺した。
「だってやってることぜーんぶ子供っぽいんだもん。女なんて好きって言えばこっち向いてくれるとかおもってるんでしょ?サイテーだしガキっぽさ丸出し」
グサグサッ!
や、刃が二重になって飛んでくる。
「あ、もしかして、お姉ちゃんに子供あつかいされたとか?あははっ」
グサグサグサッ!
滅多刺しにされてる、オレ…。もう、勘弁してくれ。ライフはゼロなんだ…。
「白鳥のお姉ちゃん。かなり高ランクの、女の子ですらあこがれるお姉ちゃんだよ?しかも、そのお姉ちゃんのまわりにはビックリするくらいイケメン。おとなな男の人ばーっかり。お兄ちゃんたちのまけ。かちめなし」
ドスッ!!
大きな止め刺された…。
もう立ち直れない…。
そんなオレ達を見て腹を抱えて笑う母さん先生。
ハードル(イケメン達)しかない走のしかも長距離走の向こうにいる美鈴センパイ。
諦めないとは宣言したものの…辿り着ける気がしない…。
「ごめんくださーい」
声がした。
師匠の声。
行かないと…。
よろよろとオレ達三人が立ち上がる。
鞄を持って玄関まで行くと、師匠が待っていた。
「なんだ~?お前らヨボヨボして」
「………………女子達に滅多打ちにされた…」
「なんだ、そりゃ?透馬や奏輔みたいな事言ってんな~。大体お前達は贅沢だぞ~?側に女子がいるだけで良いと思え~?」
「女子って、師匠…。ここにいるのは本当に女子で…。それにオレ達が好きなのは」
「はいはい。解ってる解ってるー」
師匠が笑いながらオレの頭を掻きまわした。
反抗する気もおきない。
「ほら、元気だせ。お前らがそんなだと姫ちゃんが気にするだろー」
「それはオレ達がガキだから?」
「ん?ハハッ、誰かにそう言われたのかー?っと、時間がヤバい。ゆっくり聞いてやるからまず車に乗れー」
トボトボ歩く。
こんなに後ろ向きになオレ、マジ、レア。
車の助手席に乗り込む…。海と空は後部座席に乗りこんだ。
「それじゃあ、お預かりしますねー」
車の外で師匠と母さん先生が挨拶してる。
ぼーっと外を見てると母さん先生がオレ達を見て苦笑して、近寄って窓ガラスを爪で叩いた。
これ以上追い打ちかけられるのかと覚悟を決めて窓を開けると、師匠と同じように母さん先生はオレの頭を撫でて言った。
「さっきも言ったでしょ。応援してるから、今は目一杯頑張る事からはじめなさい」
「母さん先生…」
さっき腹抱えて笑っておきながら言うセリフじゃねぇ…。
「美鈴さんの闇は…深いと思うから」
「え?」
「……あくまでも母さんの予想だけどね。だからこそ、貴方達みたいな子と出会えるのは救いかもしれないから…」
そっと母さん先生の視線は師匠に向けられた。師匠は苦笑で返して一礼すると運転席に乗り込んだ。
手を振ってる母さん先生に手を振り返して、オレは窓を閉めた。
車が動き出して、オレはゆったりと車に背中を預けた。
そんなオレを見て師匠は笑う。
「で?なんだっけー?姫ちゃんに子供扱いされてるってー?」
「うぐっ…師匠…傷えぐるなよ」
「傷ー?そんなんで傷ついてんのか、お前らはー」
そんなんって、オレ達には充分デカい壁でっ!
カチンと来たオレはつい言い返してしまう。
「そりゃ師匠は大人だからっ」
「そうだぞー。オレは成人してる。ホントこれでも大人なんだよなー。けど姫ちゃんはオレ達ですらガキ扱いするぜー?」
「「「え?」」」
オレ達三人の声が重なった。
「姫ちゃんがガキ扱いしない相手なんて、恐らく姫ちゃんの両親。それと鴇くらい、だろうなー」
「え?なんで?」
「さぁー?」
「丑而摩先生ですらガキ扱いなら、もしかして、そんなに気にする事でもない?」
「……………でも、海。逆に言えばとり先輩は周りに沢山イケメンがいても男らしいって感じる人はいないってことにもなる」
「まぁ、考え方は人それぞれだー。頑張るなり当たって砕けるなりしたらいいさー」
「でも昨日透馬兄が…」
「透馬?何か言われたのかー?気にすんなー。オレなんて小学の時から小言言われてんぞー?」
「師匠。気にしなくて良いと思うか?」
「やることさえやってればいいと思うけどなー。…ただし、姫ちゃんを泣かせたら許さねぇけどな」
隣からの怒気がやべぇーっ!?
オレ達は心の底で絶対に美鈴センパイを泣かさない事を誓った。
「ほら、お前らしっかり切り替えていけよー。男を上げるなら少しでも姫ちゃんに良い所みせてかないとなー」
確かにそうかもっ!
そうだよ。母さん先生も師匠も言ってたじゃん。
努力する事は出来るって。
仕事こなして、美鈴センパイに仕事とって来て貰わなくても、仕事の方から来て貰えるようにっ!
まずはやれることをガンガンこなしていくんだっ!!
「よっし!!まずはやれることからっ!!第一の目標は美鈴センパイにオレを男として見て貰うことからだっ!!」
グッと拳を突き上げる。
「うんっ!ボクも頑張るっ!!」
「……………おれもっ!」
おおっ!!二人も賛同してくれたっ!!
その事に喜びを感じていたんだけど、
「ハハッ。頑張るのはいいけど、お前ら同じ女の子に惚れたんならライバル同士なんじゃねーのー?」
師匠が朗らかに言うその言葉に、オレ達三人が固まったのは言うまでもない。
美鈴センパイが出した宿題も何とか終了させた。
そして、今日の現場から近さを考えて施設の方に帰って来たんだけど…。
「むつみにいちゃんっ!あーそーぼーっ!!」
「かいりおにいちゃん、ねてないのー?じゃあいっしょにねんねしよー」
「あきらにいにー、とどめをさすよ」
新しく施設に入った奴らもプラス状態で飛び掛かってこられた。
「……ちょっと失敗したな」
「ちょっとどころかだいぶ、だよ」
「……………………とどめ、くらった……」
「ほらほら3人共、子供達の相手してたら寝れなくなるわよ。明日は朝早くから現場入りなんでしょう?」
母さん先生がオレ達三人を客間(オレ達の部屋はもう弟妹達に引き継がれている)に荷物を放り投げた。
鞄の中からスマホを取りだして、社長からの連絡がないかのチェック。
今日は特に連絡はないみたいだ。
宿題もさっき言ったように終わってるし…。
「今日はもう風呂入って寝るかー」
「……………すよー………」
「もう寝てんのかよっ!海、せめて布団敷けよっ」
「………………陸。おれが敷いておく」
「自分の分だけなっ!海の分も敷いてやれよっ!」
「…………………風呂、行ってくる」
「うぉーいっ!!……結局オレが敷くのかよ」
襖の奥から布団を取り出して、敷いていく。
海をわざわざ布団に寝かすのも面倒だな…転がしてやれ。
あ、上下逆さまになった。…枕をそっちにおいてやるか。せめもの優しさ。
さて、オレも風呂にするかな。
着替え着替え、っとー?
~~~♪
スマホの着信音?
スマホを持つと画面には白鳥美鈴と映っていて、即電話に出た。
『やっほー、陸実くん。こんばんわ』
「おうっ、こんばんわっ。美鈴センパイ」
うわーうわーっ。電話越しでも美鈴センパイの声って可愛いよなっ!
『ごめんねー?夜遅くに。ちょっと今日の感触を聞きたくてねー。どうだった?楽しかった?』
「おうっ。楽しかったぜっ」
『大成功だったんだ?』
「んー…ちょこちょこ失敗したけど、バレた感じはしなかったな」
『そっかぁ。うんうん。失敗をちゃんとカバー出来て楽しく終われたのなら良かったねぇ』
電話のむこうで美鈴センパイがにこにこ笑って頷いている姿が想像出来て嬉しくなる。
気にかけてくれて、しかもオレに電話してくれた。
これで喜ばないで何に喜べとっ。
『あ、それでね?陸実くん』
「?、なんだ?」
『明日から、それぞれ番組や動画、収録とか色々分かれて動く事になると思うんだけど』
「おう?」
『陸実くんには大地お兄ちゃん、海里くんには透馬お兄ちゃん、それから空良くんには奏輔お兄ちゃんがマネージャーにつくから、そのつもりでいてね?』
「えっ?でも」
『莉良さんはこれから社長業務に専念して貰う事になるから、華菜ちゃんと一緒に仕事を一から学んで貰うの』
「いや、でも美鈴センパイ?師匠達だって仕事が」
『それは大丈夫。莉良さんに余裕が出来るまでは、私達兄妹が全力で補佐するから』
「そうなのか?」
『うんうん。だから陸実くん達は自分の事に専念してね』
「お、おうっ。分かった。全力で頑張るからなっ」
『うんうん。応援してるからね。あ、それからこんな時間に電話しておいてなんだけど、ちゃんとお風呂入って寝るんだよ?』
「おうっ」
『うん。良いお返事。それじゃあね?お休み』
「おやすみっ」
通話が切れた。
う、うあああああっ!
何だ、今の電話っ!?
美鈴センパイがオレと電話してくれて、しかも、お、お休みってっ!
幸せ過ぎてオレは全力で布団の上を転げ回った。
その間に何回か寝ている海にぶつかって、海が目を覚まし、風呂に行った空も戻って来て。
オレが幸せそうな理由を直ぐに察知して、オレは二人から制裁を受けた。
…が、そんなのちっとも怖くなかった。
何せ、【美鈴センパイ】が【オレ】に電話をかけてきてくれたんだからなっ!
そうして威張り散らしていた夜が明けた朝。
オレは最高に落ち込んでいた。
昨日の逆襲かのように二人が笑うかと思ったら、二人も一緒に落ち込んでいる。
理由は…目の前にいるお腹を抱えて笑っている母さん先生の一言だった。
その一言とは、オレ達が朝食を食べていた時の事だった。
朝、母さん先生が起こしに来てくれて。
オレ達は前日の夜に騒ぎ過ぎたのが原因で明らかに寝不足状態だった。
が、ここで起きないと母さん先生は容赦がないから、気合で起き上がる。…海だけはまだ寝てたけど、それはもういつも通りだ。
「私に起こされるなんて珍しいこともあるものねぇ。特に陸実。いつも6時には準備終えてランニングに行ってるのに」
「いや、それは、そのー…」
「………………陸の抜け駆けが原因」
「抜け駆け?なになにー?恋話ー?ちょっと母さんに話してみなさいよー」
「い、いやいやいやっ!朝飯食うんだろっ。遅刻しそうなんだろっ。早く準備しようぜっ」
「なーに?母さんに聞かれたくない話なのぉ?だったら尚更聞かなきゃでしょっ。ほらっ、下の子達はまだ寝てるから、安心してご飯の時話して頂戴」
強引な母さん先生に連れられて、オレ達は現場へ行く準備を済ませて、居間へと向かった。
朝早くに行くオレ達の為に母さん先生はご飯を作ってくれていて。
その事に感謝しながら、オレ達は食べ始めた。
「それで?抜け駆けって?陸実に美鈴さんから電話が来たんでしょう?」
「うぐっ!?げほっ、ごほっ!」
「ほら、むせてなくていいから教えてっ。それで?どう抜け駆けしたのよっ」
母さん先生が元気だ…。
オレが何か言うと絶対今眠気と食い気が争っている海ですら起きて空と二人がかりで突っ込んでくるに違いない。
これはオレだけの記憶にするんだっ!
とだんまりを決め込むことにしたオレ。
「……もしかして、美鈴さん以外の人を好きになった、とかっ!?」
ぶほっ!
食べてた朝食の卵が口からふっとんだ。
だって急にそんな事言われると思うかっ!?思わないだろっ!?
「お、オレはそんな簡単に惚れる奴じゃねぇっ!」
「ふぅん?そぉなのぉ?」
「な、なんだよ、母さん先生、その目は…」
すっげ生暖かい視線を感じて、どうにも居心地が…。
「別に?息子達が可愛い恋愛をしていて、本当可愛いなぁって思ってね。青春してるねぇ」
「………言われてるよ、陸」
「青春だってさ、陸」
「母さん先生が言ってただろ。息子達って。お前らも加味されてるっての」
「まさか、陸実が電話を貰っただけでそんなに喜んでるなんて、ねぇ。それで?何の話したの?」
「なんのって、別に大した事は…今日の予定とか…その、マネージャーに師匠達がついてくれる、とか」
「え?ちょっと陸。それ聞いてないんだけど」
「昨日電話で言ってた。オレには師匠が、海には天川先生、空には嵯峨子先生がマネージャーにつくって」
「……………マジか」
「透馬兄が…」
うんうん。二人の気持ちは良く解る。昨日寝る間際、美鈴センパイから浮かれた気持ちを静めて冷静に考えたら、恐怖しかねぇもんな。
容赦ねぇからな、師匠達…。
ご飯を掻っ込んで、茶碗をテーブルに置いて、目の前の母さん先生の生暖かい目がオレを捕らえていて若干引いた。
そんなオレを見て先生は変わらず生暖かい目でうんうんと頷いている。
「本当にそれだけだったみたいね。もう、可愛いったら。心配する事なさそうだわ」
「何だよ、それ。可愛いって褒め言葉じゃねぇよっ」
「ちょっと待って。陸、今突っ込みいれるべきな所はそこじゃないよ」
「へ?」
「…………………うん。そこじゃない。母さん先生、心配いらないってどう言う意味?」
「あら、昔から言うでしょう?初恋は実らないって」
オレ達は一瞬何を言われたのか解らなくて首を傾げた。
「……この反応、逆に心配になってきたわ。トラウマになる前にちょっと釘刺しておこうかしら」
「母さん先生?」
「美鈴さんから電話貰ったりして嬉しくなる気持ちは解るけれど、その想いを貫く覚悟がないのなら程々にしておきなさい。深入りしては駄目よ」
「さっきから本当に意味が解らないんだけど。どう言う意味なの?母さん先生」
「言葉の意味そのままよ。ハッキリ言って、美鈴さんがそう言う意味での想いを貴方達に抱くとは思えないのよね」
「………………え?」
「貴方達、自分に優しくしてくれる美鈴さんにそれだけで喜んでいるのはいいけれど、そこに貴方達が美鈴さんから感じているような、そうね…言うなれば、色っぽい何か貴方達から美鈴さんが受け取っていると感じる?」
「母さん先生、もっと噛み砕いて言ってくれよっ。ってか、ハッキリ言ってくれよっ」
「ふぅ…。要するに、男として意識して貰ってるのか?ってことよ」
男として…?
「オレ達が女だと思われてるって事か?」
「陸実、そうじゃないよ」
「……………母さん先生が言いたいのは、…おれ達はとり先輩の守備範囲外、もっと言えば子供扱いされてるってこと」
「……はっ!?」
嘘だろっ!?
だってオレあんなにアピールしてるんだぞっ!?
それで子供扱いとかないだろっ!?
キスだってしたのにっ!?
横を見ると海と空が最高に落ち込んだ顔をしている。
「陸実はまだ納得してなさそうねぇ~。アピール頑張ってるもんねぇ~。空回ってるけど」
「そうだっ、ろ……?」
そうだろそうだろって言う筈だった声が尻すぼみになる。
母さん先生の言い方、話し方に既視感を感じたからだ。
「うんうん。努力は大事だからねぇ。応援はしてるよ?母さんは」
『うんうん。応援してるからね』
………あ……。
今理解した。
母さん先生の話し方と美鈴センパイの話し方が、一緒だ…。
って事は、ってことは…美鈴センパイ、本当にオレの事ガキ扱い…?
「おはよー。母さんせんせー」
「あら?おはよう。早起きね」
新入りの妹だ。
まだ眠いのか目はとろんとしている。まだ慣れなくて緊張してるんだろうな。だから早く目が覚めた。
こういう妹はオレがいつも外に連れ出して一緒に走りに行ったりするんだけど。
「どしたの?陸実お兄ちゃん?かおがこわいよ?どしたの?なにかこわいこと、あった?」
……そうだ。この子も一応小さいと言えど女だっ。
「な、なぁ?オレって女の目から見てどう見える?」
「え?」
目をぱちぱちして今オレに言われた質問に首を傾げる。
そ、そうだよな。解る訳ないよな。こんなまだ小学一年くらいの子に。
「どうって、カッコいいと思うよ?」
「ほ、本当かっ!?」
「ただ、それだけだけど」
グサッ!
見えない言葉のナイフが胸を刺した。
「だってやってることぜーんぶ子供っぽいんだもん。女なんて好きって言えばこっち向いてくれるとかおもってるんでしょ?サイテーだしガキっぽさ丸出し」
グサグサッ!
や、刃が二重になって飛んでくる。
「あ、もしかして、お姉ちゃんに子供あつかいされたとか?あははっ」
グサグサグサッ!
滅多刺しにされてる、オレ…。もう、勘弁してくれ。ライフはゼロなんだ…。
「白鳥のお姉ちゃん。かなり高ランクの、女の子ですらあこがれるお姉ちゃんだよ?しかも、そのお姉ちゃんのまわりにはビックリするくらいイケメン。おとなな男の人ばーっかり。お兄ちゃんたちのまけ。かちめなし」
ドスッ!!
大きな止め刺された…。
もう立ち直れない…。
そんなオレ達を見て腹を抱えて笑う母さん先生。
ハードル(イケメン達)しかない走のしかも長距離走の向こうにいる美鈴センパイ。
諦めないとは宣言したものの…辿り着ける気がしない…。
「ごめんくださーい」
声がした。
師匠の声。
行かないと…。
よろよろとオレ達三人が立ち上がる。
鞄を持って玄関まで行くと、師匠が待っていた。
「なんだ~?お前らヨボヨボして」
「………………女子達に滅多打ちにされた…」
「なんだ、そりゃ?透馬や奏輔みたいな事言ってんな~。大体お前達は贅沢だぞ~?側に女子がいるだけで良いと思え~?」
「女子って、師匠…。ここにいるのは本当に女子で…。それにオレ達が好きなのは」
「はいはい。解ってる解ってるー」
師匠が笑いながらオレの頭を掻きまわした。
反抗する気もおきない。
「ほら、元気だせ。お前らがそんなだと姫ちゃんが気にするだろー」
「それはオレ達がガキだから?」
「ん?ハハッ、誰かにそう言われたのかー?っと、時間がヤバい。ゆっくり聞いてやるからまず車に乗れー」
トボトボ歩く。
こんなに後ろ向きになオレ、マジ、レア。
車の助手席に乗り込む…。海と空は後部座席に乗りこんだ。
「それじゃあ、お預かりしますねー」
車の外で師匠と母さん先生が挨拶してる。
ぼーっと外を見てると母さん先生がオレ達を見て苦笑して、近寄って窓ガラスを爪で叩いた。
これ以上追い打ちかけられるのかと覚悟を決めて窓を開けると、師匠と同じように母さん先生はオレの頭を撫でて言った。
「さっきも言ったでしょ。応援してるから、今は目一杯頑張る事からはじめなさい」
「母さん先生…」
さっき腹抱えて笑っておきながら言うセリフじゃねぇ…。
「美鈴さんの闇は…深いと思うから」
「え?」
「……あくまでも母さんの予想だけどね。だからこそ、貴方達みたいな子と出会えるのは救いかもしれないから…」
そっと母さん先生の視線は師匠に向けられた。師匠は苦笑で返して一礼すると運転席に乗り込んだ。
手を振ってる母さん先生に手を振り返して、オレは窓を閉めた。
車が動き出して、オレはゆったりと車に背中を預けた。
そんなオレを見て師匠は笑う。
「で?なんだっけー?姫ちゃんに子供扱いされてるってー?」
「うぐっ…師匠…傷えぐるなよ」
「傷ー?そんなんで傷ついてんのか、お前らはー」
そんなんって、オレ達には充分デカい壁でっ!
カチンと来たオレはつい言い返してしまう。
「そりゃ師匠は大人だからっ」
「そうだぞー。オレは成人してる。ホントこれでも大人なんだよなー。けど姫ちゃんはオレ達ですらガキ扱いするぜー?」
「「「え?」」」
オレ達三人の声が重なった。
「姫ちゃんがガキ扱いしない相手なんて、恐らく姫ちゃんの両親。それと鴇くらい、だろうなー」
「え?なんで?」
「さぁー?」
「丑而摩先生ですらガキ扱いなら、もしかして、そんなに気にする事でもない?」
「……………でも、海。逆に言えばとり先輩は周りに沢山イケメンがいても男らしいって感じる人はいないってことにもなる」
「まぁ、考え方は人それぞれだー。頑張るなり当たって砕けるなりしたらいいさー」
「でも昨日透馬兄が…」
「透馬?何か言われたのかー?気にすんなー。オレなんて小学の時から小言言われてんぞー?」
「師匠。気にしなくて良いと思うか?」
「やることさえやってればいいと思うけどなー。…ただし、姫ちゃんを泣かせたら許さねぇけどな」
隣からの怒気がやべぇーっ!?
オレ達は心の底で絶対に美鈴センパイを泣かさない事を誓った。
「ほら、お前らしっかり切り替えていけよー。男を上げるなら少しでも姫ちゃんに良い所みせてかないとなー」
確かにそうかもっ!
そうだよ。母さん先生も師匠も言ってたじゃん。
努力する事は出来るって。
仕事こなして、美鈴センパイに仕事とって来て貰わなくても、仕事の方から来て貰えるようにっ!
まずはやれることをガンガンこなしていくんだっ!!
「よっし!!まずはやれることからっ!!第一の目標は美鈴センパイにオレを男として見て貰うことからだっ!!」
グッと拳を突き上げる。
「うんっ!ボクも頑張るっ!!」
「……………おれもっ!」
おおっ!!二人も賛同してくれたっ!!
その事に喜びを感じていたんだけど、
「ハハッ。頑張るのはいいけど、お前ら同じ女の子に惚れたんならライバル同士なんじゃねーのー?」
師匠が朗らかに言うその言葉に、オレ達三人が固まったのは言うまでもない。
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