82 / 359
幼児編小話
泣けるほどに…。(過去:葉)
しおりを挟む
『お母さんっ、お母さんっ…やだよぉっ…一人にしないでっ…私を一人にしないでよぉっ』
華…。私の可愛い華…。
私だって一人にしたくない。私だって貴女の側にいたいのよ。
『お母さんっ』
泣かないで。
私だって泣きたくなるわ。
でも、私の体はもう、動かないのよ。こんなに側にいる大事な大事な愛おしい娘の涙を拭う事すら出来ないのよ。
何で、私の体はこんなにも役立たずなのかしら。
『出来うる限りの事はしましたが…もう…』
本当に出来うる限りの事をしてくれたの?
私が知らないとでも思ったの?
動かない視線で私は自分を診た医者を睨み付ける。
華を犯した、私の体で投薬実験して、失敗して、死期を早めた癖に。
抗えないのを良い事に、華を蹂躙して、私を殺そうとしている。
あぁ、なんで私は病気になどなったのだろう。治療方法が確立していない病気になどかかったのだろう。
華を守ると誓ったのに。あの人の前で誓ったのに。
何でこんなにも…。
悔しくて涙が伝う。
『お母さんっ、苦しいのっ!?』
苦しいわ。
華の側にいられない事が、華の大人になった姿が見れないのが。
苦しくて堪らないわ。
悔しくて堪らないわっ!!
せめて、せめてこの男だけでも…。
今にも死にそうな私を見て嘲笑う視線を向けるこの医者だけでも道連れにしてやるっ!
残りの力を振り絞り、ここで全ての力を使いきってでもっ!
視線を巡らせる。華の後ろに一人の男性がいた。スーツ姿の男性。誰かは知らない。けれど、その瞳を見る限り、誠実そうな人な事は間違いない。
なら、彼に託そう。
華の事を託すんじゃない。この医者の行く末を託すのだ。
決意して。
私は酸素マスクを外し、医者を睨み付け力の限りで叫んだ。
『許さないわっ!!私は絶対に貴方を許さないっ!!私の体で実験し、私をだしに娘を強姦した事も絶対に許さないっ!!』
『な、なにを言ってるんですかっ!?私がそんな事を』
『してないとでもっ!?現に貴方はマスクを取ったら死んでしまう私より自分の保身を考えて抗議しているじゃないっ!!騙されないし、許さないっ!!例え、この命がここで失われるとしても貴方だけは絶対に許さないわっ!!』
病院中に響き渡る様に叫ぶ。
息が、続かない。苦しい…。涙が零れる。
あぁ、死ぬってのはこんなに苦しいものだったのか。
『お母さんっ!?』
私の剣幕に呆気にとられていた華が苦しむ私の手を取る。
華。私の可愛い華…。
『華…。幸せに。どうか、どうか幸せに…』
『お母さん…やだ…。いかないでっ…。おいて、いかないでっ…』
『華…。可愛い可愛い華…。幸せに、なりなさ、い…』
『お母さんっ!?お母さんっ!?いやっ、いやだよっ!!お母さんっ!!』
華の声が遠ざかる。
苦しい。クルシイ…。
息が、じゃない。
心が、クルシイ
華…。愛してるわ…。
私の、命より、―――大事な華。
暗闇が続く。深淵の闇。
「………」
何もない、何も見えない空間。ただただ彷徨う心。
私の心は華を見守る事が出来なかった後悔だけが残って燻り続けている。
「……?」
誰かが私の名前を呼んだ?
耳を澄まし、次の音を待つ。
それは確かに私の名を呼んでいる。
その声はとても懐かしくて、優しい…この声は…?
声がした方向から大きな光が放たれて…。
「ママっ!」
愛おしい声と体を揺さぶられた感触に目を開くと、目の前に可愛い娘の顔があった。
「た、たすけっ、助けてぇっ!鴇お兄ちゃんがっ、怖いぃっ」
鴇?
ソファで転寝していた私は体を起こして、必死に抱き着いてくる美鈴の後ろを見ると、私の息子とその手には紙が一枚。
目を細め良く見てみると答案用紙だった。
「?、鴇?それは何?」
冷静に怒れる鴇に問いかけると、鴇はそれはもういい笑顔で。
「美鈴がどれだけ知識を持ってるかみようと思って、作ってみたんだよ。お遊びのふりして。そうしたら俺のふりを感じ取った美鈴が、わ・ざ・と・点数を悪くとったんで、お仕置きをしようと思ってな」
「…成程ね。それは美鈴が悪いわね。はい、どうぞ」
私はあっさりと美鈴を鴇に差し出す。
「ふにゃーっ!!ママの裏切り者ーっ!!」
「あら?酷いわねぇ。私は娘を裏切った事なんて一度もないわよ。ずっとずーっとママは『娘』の味方よ?」
「それは知ってるけどっ!でもっ」
「さぁ、美鈴。もう一度、テストやろうな?」
「いやーっ!!」
美鈴が鴇から逃走した。
そんな美鈴を楽し気に歩いて追い掛ける鴇に騒ぎに気付いた葵が鴇サイドに、棗が美鈴サイドに付いてワイワイと騒いでいる。
きっと鴇は美鈴が知っている事を、覚えてる範囲を把握しておきたいのね。兄であるために。
葵は鴇と同じ、かしら?棗は皆が鴇の味方になると美鈴が可哀想と思って美鈴の側にいるのね。
美鈴も本当はそれを分かってる。分かってるから、嫌と言いながらも楽しそうに、幸せそうに笑ってる。
知らず私にも笑みが零れた。
今度こそ…今度こそ守るわ。
脳内に浮かんだ乙女ゲームの事を考える。
あれが本当にこれから娘が歩く道ならば。私に出来る事は少ない。
けれど、幸せにしてみせる。
―――貴女の笑顔を今度こそ手にしてみせる。
華…。私の可愛い華…。
私だって一人にしたくない。私だって貴女の側にいたいのよ。
『お母さんっ』
泣かないで。
私だって泣きたくなるわ。
でも、私の体はもう、動かないのよ。こんなに側にいる大事な大事な愛おしい娘の涙を拭う事すら出来ないのよ。
何で、私の体はこんなにも役立たずなのかしら。
『出来うる限りの事はしましたが…もう…』
本当に出来うる限りの事をしてくれたの?
私が知らないとでも思ったの?
動かない視線で私は自分を診た医者を睨み付ける。
華を犯した、私の体で投薬実験して、失敗して、死期を早めた癖に。
抗えないのを良い事に、華を蹂躙して、私を殺そうとしている。
あぁ、なんで私は病気になどなったのだろう。治療方法が確立していない病気になどかかったのだろう。
華を守ると誓ったのに。あの人の前で誓ったのに。
何でこんなにも…。
悔しくて涙が伝う。
『お母さんっ、苦しいのっ!?』
苦しいわ。
華の側にいられない事が、華の大人になった姿が見れないのが。
苦しくて堪らないわ。
悔しくて堪らないわっ!!
せめて、せめてこの男だけでも…。
今にも死にそうな私を見て嘲笑う視線を向けるこの医者だけでも道連れにしてやるっ!
残りの力を振り絞り、ここで全ての力を使いきってでもっ!
視線を巡らせる。華の後ろに一人の男性がいた。スーツ姿の男性。誰かは知らない。けれど、その瞳を見る限り、誠実そうな人な事は間違いない。
なら、彼に託そう。
華の事を託すんじゃない。この医者の行く末を託すのだ。
決意して。
私は酸素マスクを外し、医者を睨み付け力の限りで叫んだ。
『許さないわっ!!私は絶対に貴方を許さないっ!!私の体で実験し、私をだしに娘を強姦した事も絶対に許さないっ!!』
『な、なにを言ってるんですかっ!?私がそんな事を』
『してないとでもっ!?現に貴方はマスクを取ったら死んでしまう私より自分の保身を考えて抗議しているじゃないっ!!騙されないし、許さないっ!!例え、この命がここで失われるとしても貴方だけは絶対に許さないわっ!!』
病院中に響き渡る様に叫ぶ。
息が、続かない。苦しい…。涙が零れる。
あぁ、死ぬってのはこんなに苦しいものだったのか。
『お母さんっ!?』
私の剣幕に呆気にとられていた華が苦しむ私の手を取る。
華。私の可愛い華…。
『華…。幸せに。どうか、どうか幸せに…』
『お母さん…やだ…。いかないでっ…。おいて、いかないでっ…』
『華…。可愛い可愛い華…。幸せに、なりなさ、い…』
『お母さんっ!?お母さんっ!?いやっ、いやだよっ!!お母さんっ!!』
華の声が遠ざかる。
苦しい。クルシイ…。
息が、じゃない。
心が、クルシイ
華…。愛してるわ…。
私の、命より、―――大事な華。
暗闇が続く。深淵の闇。
「………」
何もない、何も見えない空間。ただただ彷徨う心。
私の心は華を見守る事が出来なかった後悔だけが残って燻り続けている。
「……?」
誰かが私の名前を呼んだ?
耳を澄まし、次の音を待つ。
それは確かに私の名を呼んでいる。
その声はとても懐かしくて、優しい…この声は…?
声がした方向から大きな光が放たれて…。
「ママっ!」
愛おしい声と体を揺さぶられた感触に目を開くと、目の前に可愛い娘の顔があった。
「た、たすけっ、助けてぇっ!鴇お兄ちゃんがっ、怖いぃっ」
鴇?
ソファで転寝していた私は体を起こして、必死に抱き着いてくる美鈴の後ろを見ると、私の息子とその手には紙が一枚。
目を細め良く見てみると答案用紙だった。
「?、鴇?それは何?」
冷静に怒れる鴇に問いかけると、鴇はそれはもういい笑顔で。
「美鈴がどれだけ知識を持ってるかみようと思って、作ってみたんだよ。お遊びのふりして。そうしたら俺のふりを感じ取った美鈴が、わ・ざ・と・点数を悪くとったんで、お仕置きをしようと思ってな」
「…成程ね。それは美鈴が悪いわね。はい、どうぞ」
私はあっさりと美鈴を鴇に差し出す。
「ふにゃーっ!!ママの裏切り者ーっ!!」
「あら?酷いわねぇ。私は娘を裏切った事なんて一度もないわよ。ずっとずーっとママは『娘』の味方よ?」
「それは知ってるけどっ!でもっ」
「さぁ、美鈴。もう一度、テストやろうな?」
「いやーっ!!」
美鈴が鴇から逃走した。
そんな美鈴を楽し気に歩いて追い掛ける鴇に騒ぎに気付いた葵が鴇サイドに、棗が美鈴サイドに付いてワイワイと騒いでいる。
きっと鴇は美鈴が知っている事を、覚えてる範囲を把握しておきたいのね。兄であるために。
葵は鴇と同じ、かしら?棗は皆が鴇の味方になると美鈴が可哀想と思って美鈴の側にいるのね。
美鈴も本当はそれを分かってる。分かってるから、嫌と言いながらも楽しそうに、幸せそうに笑ってる。
知らず私にも笑みが零れた。
今度こそ…今度こそ守るわ。
脳内に浮かんだ乙女ゲームの事を考える。
あれが本当にこれから娘が歩く道ならば。私に出来る事は少ない。
けれど、幸せにしてみせる。
―――貴女の笑顔を今度こそ手にしてみせる。
10
お気に入りに追加
3,733
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる