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最終章 数多の未来への選択編

※※※(空良視点)

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じー…。
何度眺めても全く飽きない。
むしろ可愛くて仕方ない。
寝顔すら綺麗なのってもう犯罪だと思う。
「空良。歌を止めないのは良い事やと思うけど、姫さんに近寄り過ぎやで。あと、また同じ所外してる。それから何かおかしいな思とったら、お前歌詞間違えとるで。そこは「ゆいいつ」や。「ゆーーつ」じゃない」
そうなのか…。
「お前達が漢字を間違えやすいのは、意味を知らないからや。解らない事があればまず調べてみる癖をつけろ」
頷いて、早速辞書を取りだそうとしたが、「今やない」とあっさり奏輔様に止められてしまった。
……一先ず歌い続けよう。
……じー…。
「だから、姫さんを見過ぎやって言ってるやろ」
あっ、隠されたっ。
奏輔様の手がとり先輩の顔を覆ってしまった。酷い…。
折角のおれの癒しタイム…。
歌い終わり、奏輔様がおれに改善点を告げてからもう一度曲を流す。
それにしても、なんでだろう?
昨日より歌いやすい気がするのは…。
とり先輩が来てくれてるからやる気も出るし。
…そう言えば、とり先輩の顔、もう見れるかな?
そっと奏輔様にばれないように視線を送ると、奏輔様の手はとり先輩の頭を撫でていた。
羨ましい…。
おれもとり先輩の頭撫でたいし、奏輔様に撫でられたい…。うん?何かおれ変な事思った気がする。…気のせいかな?
まぁ、細かい事はいいや。
それよりも、とり先輩の寝顔…。
じー…。
「ふみっ!?」
とり先輩が驚いてる。
いつの間に起きたんだろう?
ベシっとデコピン喰らったから戻る事にする。
そうこうしてる間に陸と海が合流した。
とり先輩も帰っちゃったし、今日もレッスンして終わりかな?
「どう思う?透馬」
「…俺としては、やるのもありだと思うが」
「でもそれだとソロ活動になっちゃうんじゃねー?」
「いや、だからやるならまず動画サイトにアップする所からだろ」
「…ほんなら、一度とるだけ撮って見るか?」
「だな。えっと、姫が言ってた動画投稿開始日いつだっけ?」
「来月の14日って言ってたはずー。本当は12月の14日にしたかったらしいけどねー」
「?、12月の14日?」
「猿の日って奴だろ」
なんか奏輔様達が笑ってる。
一体何に笑ってるのか解らないけど。
「おーい、聞いてんのかよー、空」
「聞いてないんじゃない?」
「……………………全く聞いてなかった」
「これ、本当に聞いてなかったパターンだぞ、海」
「みたいだね。もう一度説明するけど、空のソロパート増やした方がいいって、さっき透馬兄が言ってて」
「…………ソロパート…」
「どうする?増やす?」
海に顔を覗かれて、おれは考える。
多分増えた所でおれはあんまり困らない。
困らないとは思うんだけど…。
「……………とり先輩は、三人で頑張って欲しいって言ってた」
だから、まだ出来る事はやるべきだと思う。
「確かに…。透馬兄から直に伝えられた訳じゃないし」
「余計な事するくらいなら、まずは出来る事からすっか」
「……………うん」
そこからおれ達はまた歌の練習を始めた。
気付けば奏輔様達がカメラを回し始めていて練習風景を録画された。
…練習の終わり頃。
海里の歌い方が爆発的に良くなった。
奏輔様が言うにはおれの方がまだ上手いけど、とても良くなったらしい。
「そんな、一朝一夕に上手くなるもんやろか?」
と奏輔様は首を傾げていたけれど、正直おれ達もそう思ってる。
なんでか解らないけど、自分の中で急激に理解する一瞬がある。それを越えると出せなかった音とか取れなかった音とかとれるようになる。
今一良く解らない現象だけど、向上してるんだし良い事にした。
今日のレッスンも終わり、家に帰宅。
そう言えば、おれ達三人、この前から施設を出たんだった。
これは夢姉からの提案で。
『いつまでも施設に居る訳にはいかないでしょ。私も事務所所属したら直ぐに事務所の寮に移ったし。アンタ達もそうしなさい』
と、言われたからだった。
おれ達もいつまでも施設の世話になるのもなと思って、直ぐに頷いて施設を出た。
…そう言えば、これ、とり先輩知ってるのかな?
もしかしたらまだ知らないかも…?
「……おーい、空ー?」
「また聞いてねぇな」
「………………ん?」
知らない内に寮の部屋の前まで来てたけど、二人がまたおれの顔を覗き込んでいた。
「どうせ聞いてなかっただろうから、言うけど飯どうする?」
「多分今寮の食堂込んでると思うんだけど」
「…………作る?」
料理、作れなくはない。おれ達、三人共。
作れなくはないが、何故か味付けが上手くなく、いつも出来上がるのは微妙な味の料理だ。
「………美味しい物、食べたい」
「美鈴センパイの飯食いたいよなー」
「高校生活ですっかり鈴先輩の味に慣れちゃったもんね」
「…………確かに」
言いながら、おれ達は来た道を引き返し、寮の食堂へと足を向けた。
「衣装合わせっていつだっけー?」
「鈴先輩が作ってくれるって言ってたよね、確か」
「作るって言うか、デザインするって張り切ってたよな」
「……………無理しないといい」
「それなー」
「うんうん。ここ数日鈴先輩の顔色の悪さが半端ないし」
確かに。
頷きながら雑談を聞いている間に、食堂に到着した。
予想通り込んでたけど…座る場所がないって程ではない。
三人で座れそうな丸いテーブル席を見つけて、バイキング形式になっている料理を適当にとって、とっとと席に着いた。
「いっただきまーすっ!」
「いただきます」
「…………………ます」
手を合わせてちゃんと頂きますしてから食べる。
これしないと怒られるから。
ご飯は綺麗に食べる。話ながら食べても良いけど、ちゃんと綺麗に食べる。それが大事だってとり先輩言ってた。
「…あー…美鈴センパイの飯食いてー」
「だねー。暫くは無理だろうけど」
「………頑張ったご褒美におねだり…」
「駄目だって。空。今現在ボク達の方が迷惑かけてるんだから」
「だよなー。そういやさ。さっき帰り際に師匠達から渡された紙。なんだったんだ?」
「?、そう言えばなんだったんだろう?ちょっと待ってね」
海が箸を置いて、ポケットから四つ折りの紙を取り出した。
それをおれに渡してくるから、おれも箸を置いて受け取った紙を開いて、テーブルの真ん中に置いた。
「…練習メニューかと思ったら、これからのスケジュールか?」
「めっちゃ詰まってるね…」
「………………しかも上の方にでかでかと全てこなす事、って書いてある…」
「マジか」
「これは、手分けした方が良さそうだね。一人で三人でやらなきゃいけないのをまず抜き出して」
食事する手を動かしつつ、相談し合う。

「いいよなぁ。コネがある奴はぁ」

突然の声に、おれ達はその声がした方を見た。
隣のテーブルでニヤニヤとおれ達を見ている二人の男。
…………誰?
口に出さなかったおれと、首を傾げた海、そして、
「誰だ、お前」
とはっきり口にした陸。
「あん?誰にもの言ってんだよ、俺達はお前らの先輩様だぞ?」
先輩様?
…確かにアイドル系の顔をしてるけど…。
「はぁ?先輩?っつーことは何?あんたらもアイドルな訳?の割には、スタイルも顔も…」
その先を言わなかったのは陸の優しさ?
かえって煽ってる気もするんだけど。
「スタイルも顔もなんだよっ!てめぇ、馬鹿にしてんのかっ!?」
「誰が馬鹿だっ、こらぁっ」
陸、誰も馬鹿だとは言ってない。正しくはおれ達には言ってない。
あー…陸に火がついちゃった。
どうしようか。
何か止められるもの…視線をずらすとその先輩と同じテーブルについていたもう一人と目があった。
糸目な人だな。もう一人、陸と今だ言い合ってる人はすんごい垂れ目なんだけど…。
……糸目なのに目が合うとか、凄いね。
「ごめんね~。うちのが喧嘩売っちゃって」
「…………」
「あれ?無視?」
無視はしてない。視線を逸らしても無い。
ただ返事し逃しただけで。
「ふぅ~ん。確かに先輩相手にこの態度はいただけないよねぇ」
「……………」
「……ちょっと失礼」
立ち上がったその糸目はズカズカとおれ達の席まで来ると、真ん中に置いた紙を取り上げた。
「ふぅん…。随分良い仕事貰ってるじゃない。ほら、これなんか、先日まで僕達の仕事だった奴だ」
「え?」
反応したのは海だった。
「人の仕事を奪って、社長に媚売って。やだねぇ、ほんと」
こいつ…あの垂れ目より質悪い。
態と食堂中に聞こえる様に言ってる。
「そう言えば、この前私も新人のあの子、MEIとか言う娘。あの子も今の社長に変わってから急激に仕事量増えたよね。あれでしょ?あの白鳥財閥の総帥に気に入られてるって。枕営業でもしたんじゃないの?」
「ありえるー。だってあれでしょ?白鳥財閥の総帥ってカッコいいんでしょ?イケメンって聞いたけど」
……イケメン?
確かにとり先輩はカッコよくもあるけど、男ではない。
一度火がついた話題は広がるのが早い。
あっという間に食堂内は、おれ達と夢姉、それからとり先輩の悪口へと変わっていった。
いっそ陸を連れてここから出るべきか。
でもそれしたら、この目の前の二人のニヤニヤが増すかと思うとそれはそれでムカつく。
「………海、どうする?」
「…………………すよー………」
活動限界だったか。
さて、本当にどうしよう?
陸はまだぎゃんぎゃん言い合ってるし…、目の前の糸目はまだおれ見て笑ってるし。
こう言うのなんて言うんだっけ?えっと、確か……。
「…………カオス?」
だっけ?
意味は忘れたけど、こう言う時にとり先輩が言ってた気がする。
そのカオス状態をどうしようと本格的に考え込んだ所で、

「なにここー。超うるっさいんですけどー」

入口の所で声がした。
「し、か、も、私だけじゃなく、王子の悪口まで聞こえた気がするんだけど?」
「夢芽。程々にな」
夢姉の後ろで未先輩が止めるでもなく、ただ程々にしろと見守っている。
「あー…うんうん。成程ー?ここにいる人みーんな前の社長のコネで入った人達だねー」
一斉に話し声が消え、沈黙が落ちる。
「どうせアレでしょー?王子に何かしら言われるの嫌で、新社長と二人の面談しかしてないんでしょー?」
誰も何も言葉を発しない。
「ほーんと馬鹿みたい。…王子がそんなに甘い訳ないのに」
夢姉がに~んまりと笑って、全員に視線を送りそして言った。
「ねぇ、知ってる?あんた達がこの前すれ違う時にブスだ何だと言った清掃員の服着た女の子いたでしょ?あれ、白鳥財閥の総帥だからね?」
「えっ!?」
「それから、そこにいる男共。あんた達が自分カッコいいーと勘違いして、ナンパした女の子。あれ、白鳥財閥の総帥だからね?」
「なっ!?」
「あと、私の弟達を弄ってるそこの垂れ目と糸目。その子達がいたから白鳥財閥はこの会社の後ろ盾になってくれてるの。その子達いなくなったらこの会社は潰れるからね?」
夢姉、凄ぇ…。
あっという間に皆を抑えてしまった。
でもなんで、夢姉がここに?
夢姉は大抵部屋で未先輩と一緒にご飯食べてるんじゃ…?
「人を見下してる暇あるなら自分でも磨けば?自分磨きもしない奴に仕事が来る訳ないでしょ。社会人ならそれ位考えたらどう?」
言い切って静かな空間をずかずかと歩いて、夢姉はおれ達の方へ来て、真っ先にしたのは陸の頭にゲンコツを落とす、だった。
「いってぇーっ!?」
「このお馬鹿っ!何余計な騒ぎ起こしてんのよっ!」
「だって夢姉っ」
ガシッ!
ヘッドロック…?
「だってもあさってもないのよ…?王子に迷惑かけんなってあれほど言ってるでしょお?」
ここここここわいっ!!
夢姉の声が根底を這ってるっ!
海も夢姉の恐ろしい声にすっかり目を覚ましている。
「今度からぁ、ご飯は食堂じゃなくてぇ、私達と食べるわよお?―――解ったわね?」
おれ達は全力で頷いた。
糸目から紙を奪い返して、超特急でご飯を掻っ込んで急いで食堂を出た。
夢姉がどっかんと爆弾を落としたから、この件は終わったんだと思っていたけれど、それがそうでもなかったらしい。
後日、こいつらは色々な事をやらかすのだが、今のおれ達はそんな事に気付く訳もなく。
「さぁ、勉強するよっ、陸海空っ!」
機嫌最悪の夢姉からどうやって逃げるかと、それだけを考えていた。

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