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最終章 数多の未来への選択編
※※※
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………徹夜ってしんどいよ、ね…。
いやね、頑張ったんだよ。
私めっちゃ頑張ったの…。
違うの。本当は…本当はっ、止め時が見つからなかったんだっ!
すっごい楽しかったのー。ゲームって楽しいよねー。
しかも練習モードで歌唱力のメーターゲージが貯まるまですっごく時間かかってね。
そのー……今日で完徹三日目です。
「てへっ!」
「王子。てへ、じゃねーし」
「いやんっ、ユメの口調が怖い事にーっ!」
「王子、目の下に隈とか。あり得ないから。取りあえず、今日のレッスン見てなくて良いから、寝て」
「えーっと…」
棗お兄ちゃんいないし、鴇お兄ちゃんもいないしなー…。優兎くんもいないし…あんまり眠れないから結果は一緒かもしれないと言うか何と言うか…。
「眠れないならせめて、目を閉じて休んでて」
「…はぁーい…」
こう言う時のユメと華菜ちゃんは強いのです。
仕方なく椅子に座って目を閉じようと思っていると、
「姫さん。こっちにおいで」
「?、奏輔お兄ちゃん?」
レッスン室の壁に背を預けている奏輔お兄ちゃんが私を呼んだ。
素直にそちらへ行くと何故か奏輔お兄ちゃんがポンポンと自分の太ももを叩いた。
「?」
理解出来ずに首を傾げていると、苦笑した奏輔お兄ちゃんが私の肩を掴んで、…これは膝枕でしょうか?
「奏輔お兄ちゃん?」
「今日はレッスン言うても陸実も海里もまだ学校の補習から来てへんし、空良は今から歌レッスンやからそれを子守歌にして寝たらええ。空良の奴、爆発的に歌上手くなったから、良い子守歌になると思うで?」
そう言って笑う奏輔お兄ちゃんを見上げると、奏輔お兄ちゃんは真っ直ぐ空良くんの方を向いていた。
歌の練習…。
天井を向いていた体を横にして、奏輔お兄ちゃんと一緒に空良くんを見守る。
「~~♪………ちょっと、違う?もう少し、低めに…~~~♪、……うん、こうだ…。じゃあ、一回通して歌ってみよう」
楽譜を持って立ち上がった空良くん。
「準備はええか?空良」
「はい。奏輔様」
しっかり頷いた空良くんに頷きで返した奏輔お兄ちゃんは手早くスマホを操作して音楽を流した。
あれ?この曲って…。
私が朝までしつこくしつこーくやり続けた練習モードの曲では…?
あぁー、やばい。
イントロ流れただけで、指がコントローラーを握る形になるぅ~…。
――――あなたが側にいてくれる。それだけで僕の心が温かくなる。
あ…。
空良くんが歌い始めた瞬間。
動き出そうとした私の指が動きを止めた。
そっか。あの曲には歌は入ってなかったから。
――――そう…、思っていた筈なのに…。おかしいよ。だって、側にいるのに、あなたの心がここにないって温かいはずの心で感じるんだ。
しかも、これ、悲恋ソングなんだ…。
バラード調ではあるなぁとは思ってはいたけど。
――――心が冷えきっていく。苦しい。お願いだよ。僕の心の温もりを返して。あなたしか温められないんだ。…僕を見て。ねぇ、僕を見てよ。
あ、どうしよう。
表現力が高過ぎて、胸がギュゥとなる。
本当に空良くんが辛くて苦しくて仕方ないんだって。
――――こっちを見て。僕の側にいるのなら、心も僕に置いて行ってよ。出来ないなら、僕を置いていって。振り向かずに前に進んでよ。
この歌詞誰が作ったんだろう?
側にいてくれる女性は別の人が好きで、でも側にはいてくれるんだ。それが彼にとっては嬉しいけれど、こっちを向いてくれないならせめて憧れの存在のままいさせてほしい、みたいなことかな?
年下の男性目線の歌なんだね。
――――あなたの背中を追うから。僕の方からあなたに追い付いて。あなたを振り向かせるから。………あなたは僕にとって唯一の温もりなのだから…。
………空良くんの声。
少し低めで、でも相変わらずの柔らかい声だな…。
奏輔お兄ちゃんの、良い子守歌って言葉の意味が分かる気がする。
この声は、確かに、心地いい…。
空良くんの歌声に誘われるように私は気付けば眠りについていた。
そんなに長い間は寝てなかったと思う。
棗お兄ちゃんがいる訳じゃないから熟睡も出来ないしね。そもそもこの態勢で熟睡したら体が痛くなっちゃう…。
頭を誰かが撫でてる。
鳥肌が立たないって事は、奏輔お兄ちゃんの手なのかな?
「……ふみ…」
「ん?起きたんか?姫さん。もう少し眠っとっても良かったんよ?」
「…んみー…」
言葉にならん声を出しつつ、目を擦って…。
「ふみっ!?」
目の前に空良くんの度アップっ!?
「何事っ!?」
「………………おれの歌、気持ち良かった?」
「うんうんっ、うんっ!?」
気持ち良かった?ってなんだ?
寝起きに言われるセリフかっ!?セリフなのかっ!?
「…………気持ち良く、眠れた?」
あ、そっちね。あーびっくりした。
「うん。とっても良い歌声だったよ」
「…三回程音外しとったけどな」
「…………………バレてた……」
「そして、取りあえず私の顔を眺めるのやめてくれるかな?」
「そうやで。空良。もう一度歌い直しだ」
奏輔お兄ちゃんのデコピンが空良くんのおでこに直撃した。
奏輔お兄ちゃんのデコピンって…。
「……うぉぉ…」
痛いらしい。空良くんが額を抑えて苦しんでいる。
デコピンのおかげで空良くんがどいてくれたから、私はゆっくりと起き上がった。
「ごめんね、奏輔お兄ちゃん。重かったでしょ」
「全然?それより少しは休めたか?」
「うん」
ごしごしと目を擦って、化粧をしていた事を思い出してハッとする。
急いでトイレに駆け込んで化粧を直して戻ってくると、空良くんが本格的に奏輔お兄ちゃんと歌の確認し合っていた。
確か申護持の三人は三猿をモデルにしてるんだよね。
陸実くんが聞かざる。
海里くんが見ざる。
空良くんが言わざる。
……言わざるの子が担当するのが歌、ってのがまた何とも言えないなー。
暫く練習風景を見学して、どうせだからこれも動画サイトに流せるかな?とカメラを用意して貰って撮って貰う事にした。
勿論、奏輔お兄ちゃんの所は上手く切り取って貰うよ。
じゃないと奏輔お兄ちゃんにファンが流れて行きそうだからねっ!
スーツに弱い女子は多いんだよっ!どやっ!
なんてアホな事を考えている間に、陸実くんと海里くんが戻って来た。
「車走らせたオレ達に感謝しろよー、お前らー」
「全くだ。俺達は仕事があるから仕方ないとしても、補習で遅刻って情けねぇ事してんじゃねーぞ」
「だって師匠っ」
「陸っ。言い訳したらまた何倍ものお説教が返ってくるよっ、シー」
海里くんが陸実くんの口を抑え、自分の口元に人差し指を立てていた。
「(ダンスレッスンで疲れ切ってて、あんな静かな空間にいたら眠くなるだろ)」
「(実際寝てたからボクと陸が零点になったんだけどね)」
ほーーーう?
二人共こそこそと話しているけどしっかり聞こえてるからね?
後で私からしっかりとお説教が飛びますよ。
「で?どうなんだよ、奏輔。空良の出来は」
「んー。結構良いんちゃう?一回合わせてみるか?」
「だなー。ほら、お前らとっとと着替えて準備準備ー」
完全にお兄ちゃん達三人が陸実くん達のマネージャー通り越して保護者になりつつある。
陸実くんと海里くんがレッスン用の服に着替え終わって、空良くんも合流。
それから今日は歌のレッスンに入るんだけど…合わせてみて驚いた。
空良くんの歌の上手さがずば抜けている。
これは…逆の意味で不味いのでは?
「…白鳥様。これは…」
「う~ん…ねぇ、王子。いっそアイツ等三人共バラで売りだした方が良くない?」
「うーん…どうなんだろー?でもやっぱり三つ子ってのを売りにしたいんだよね。何より三人一緒の方が何かあった時カバーと言うか、フォローしやすいと思うんだよ」
「それはー、確かに」
「にしても、空良くんは余程練習したんですね。こんなに短期間であんなに上達するなんて」
「………ん?」
莉良さんの言葉が何かにひっかっかった。
確かに言われてみたらそうなんだよね。
「この曲って楽譜渡されたの何時だっけ?」
「一昨日ですよ」
「え?本当に?」
驚いて思わず聞き返すと、莉良さんはしっかりと頷いた。
一昨日に渡されてもうこんなクオリティになってるの?
だとしたら、空良くんの能力って凄くないっ!?
それこそ莉良さんの言葉じゃないけど余程の練習を…。
「おいっ、空。お前いつの間にそんな上手くなったんだよっ」
「ボクが知ってる限りでも練習してる姿なんて殆ど見なかったよ?元々歌は上手かったとは知ってたけど」
陸実くんと海里くんが驚くほどの急激な成長って事?
「………………オレも解らないけど…、何か上手く歌える気がして、歌ったら気持ち良く歌えてた…」
んんんーっ!?
空良くん本人も驚くほどの急成長って事なのかなーっ?
ちょっと待って。
何か嫌な予感がスルヨーっ!?
「…オ兄チャン達ー。私嫌ナ予感ガスルカラ一旦帰ルヨー」
「お、おう?」
「気を付けてなー?」
「姫ちゃん。何故カタコトー?」
真珠さんに急いで車を回して貰って全速力で帰宅。
家に帰りついて、手洗いうがいはしっかりと済ませてから部屋へダッシュ。
ゲームを起動して、真っ先にEASYモードを選択して練習モードを選択。そこにある歌唱力のゲージはMAXになっている。
続いて画面を戻して通常ステージモードを選択。…やっぱり練習モードで練習していた曲をプレイする事が出来ないままだった。
曲名は出ているのに、文字の色が灰色になっていて選択する事が出来なくなっている。しかもそこを押すと。
『緑の猿だけ上手なっとるで。他も平等にあげんとな』
とコーチ役のハムスターがプレイヤーにそう言ってくるのだ。
そして強制的に画面を戻される。
…今度はもう一つ前の画面に戻って、NORMALモードを選択する。
案の定練習モードがあった。練習モードを起動すると、こちらにはポニー?かな?可愛いお馬さんとハムスターのどちらかを選べるようになっていた。
NORMALモード…EASYモードよりは絶対難しいとは思うんだけど…。
まずはハムスターを選択。すると下に歌唱力のゲージが出て来た。
あれ?EASYモードの時よりゲージ幅が短い。これは、早く終わるかもしれない。
早速プレイしてやっぱりEASYモードより難しいんだけど、何とかパーフェクトではないけど、程々のコンボをだして一曲終了した。
ここで思い出す。さっきの嫌な予感。
私は、ちょっと集中してゲームをやり込んで、ゲージを満タンにしてみた。
そして、スマホを取りだして、透馬お兄ちゃんに連絡をする。
今、三人の成長はどんな感じ?と。
すると、こう返って来た。
『海里の成長が異常』
と。うん。確定だわ。
私がこのゲームをクリアしていけば行くほど、三人の能力値が上がるんだ。
だから、空良くんの歌唱力が鬼の様に爆上がりしたんだ。私が昨日やり込み過ぎた所為で。
…待って?
となると、彼らのスペックの上昇は私のプレイ次第って事になる?
何それ。責任重大過ぎない?
ひ、一先ず、選べるポニーさんの方は選択しないで、HARDモードの、陸実くんの歌唱力を上げよう。
それから、海里くんの歌唱力もMAXまであげなきゃ…。
恐らくだけど、陸実くんの歌唱力ゲージも空良くんの歌唱力よりも低い筈。
蝶ネクタイでこのマスコット的お猿さんが誰が誰の事を表しているのかは解るのは助かるんだけどねー。
って事は、このハムスターってネズミって事で奏輔お兄ちゃんなのかな?馬は透馬お兄ちゃん?だとしたら、NORMALモードでお馬さんの練習モードをクリアしたらきっと他のモードにもお馬さんが出てくるって事だよね?
じゃあ、HARDモードには牛さんが出てくるのかな?大地お兄ちゃん、って事だろうし。
あ、待って待って?
その流れで行けば、通常ステージモードで流れてくる四角い箱。あれって個人能力値なのかも。
って事は、お馬さんは演技力?牛さんはリーダーシップって事かな?あーでも、HARDモードにだけは紫の箱もあったよね。…そこはプレイしてみなきゃ解らないか。
とにかく、まずは歌唱力をMAXにしましょうっ!
…………ほら、ね。
このゲームは三人が立派に成長する為の手助けとして絶対に必要な事じゃない?
だからね?
全身全霊で挑む必要があると思ったのよ。
あの三人にとって苦しむことが少しでも減る様に、ね?
私は保護者みたいなものだから、さ?
だからね?
「……それで?美鈴ちゃん?そんなに目の下にハッキリと解る隈を作って、私達に何か言い訳ある?」
「…………ないです」
「さっさと帰って寝てっ!今日は棗さんも家にいるんだから、ちゃんと丸一日怠惰に過ごしてっ!分かったっ!?」
「ふみぃ~…はぁい…」
また三徹してしまい、棗お兄ちゃんのベッドに投げられてしまったのは、まぁ、その…仕方のない事だと思うの…。
思う、よね…?
いやね、頑張ったんだよ。
私めっちゃ頑張ったの…。
違うの。本当は…本当はっ、止め時が見つからなかったんだっ!
すっごい楽しかったのー。ゲームって楽しいよねー。
しかも練習モードで歌唱力のメーターゲージが貯まるまですっごく時間かかってね。
そのー……今日で完徹三日目です。
「てへっ!」
「王子。てへ、じゃねーし」
「いやんっ、ユメの口調が怖い事にーっ!」
「王子、目の下に隈とか。あり得ないから。取りあえず、今日のレッスン見てなくて良いから、寝て」
「えーっと…」
棗お兄ちゃんいないし、鴇お兄ちゃんもいないしなー…。優兎くんもいないし…あんまり眠れないから結果は一緒かもしれないと言うか何と言うか…。
「眠れないならせめて、目を閉じて休んでて」
「…はぁーい…」
こう言う時のユメと華菜ちゃんは強いのです。
仕方なく椅子に座って目を閉じようと思っていると、
「姫さん。こっちにおいで」
「?、奏輔お兄ちゃん?」
レッスン室の壁に背を預けている奏輔お兄ちゃんが私を呼んだ。
素直にそちらへ行くと何故か奏輔お兄ちゃんがポンポンと自分の太ももを叩いた。
「?」
理解出来ずに首を傾げていると、苦笑した奏輔お兄ちゃんが私の肩を掴んで、…これは膝枕でしょうか?
「奏輔お兄ちゃん?」
「今日はレッスン言うても陸実も海里もまだ学校の補習から来てへんし、空良は今から歌レッスンやからそれを子守歌にして寝たらええ。空良の奴、爆発的に歌上手くなったから、良い子守歌になると思うで?」
そう言って笑う奏輔お兄ちゃんを見上げると、奏輔お兄ちゃんは真っ直ぐ空良くんの方を向いていた。
歌の練習…。
天井を向いていた体を横にして、奏輔お兄ちゃんと一緒に空良くんを見守る。
「~~♪………ちょっと、違う?もう少し、低めに…~~~♪、……うん、こうだ…。じゃあ、一回通して歌ってみよう」
楽譜を持って立ち上がった空良くん。
「準備はええか?空良」
「はい。奏輔様」
しっかり頷いた空良くんに頷きで返した奏輔お兄ちゃんは手早くスマホを操作して音楽を流した。
あれ?この曲って…。
私が朝までしつこくしつこーくやり続けた練習モードの曲では…?
あぁー、やばい。
イントロ流れただけで、指がコントローラーを握る形になるぅ~…。
――――あなたが側にいてくれる。それだけで僕の心が温かくなる。
あ…。
空良くんが歌い始めた瞬間。
動き出そうとした私の指が動きを止めた。
そっか。あの曲には歌は入ってなかったから。
――――そう…、思っていた筈なのに…。おかしいよ。だって、側にいるのに、あなたの心がここにないって温かいはずの心で感じるんだ。
しかも、これ、悲恋ソングなんだ…。
バラード調ではあるなぁとは思ってはいたけど。
――――心が冷えきっていく。苦しい。お願いだよ。僕の心の温もりを返して。あなたしか温められないんだ。…僕を見て。ねぇ、僕を見てよ。
あ、どうしよう。
表現力が高過ぎて、胸がギュゥとなる。
本当に空良くんが辛くて苦しくて仕方ないんだって。
――――こっちを見て。僕の側にいるのなら、心も僕に置いて行ってよ。出来ないなら、僕を置いていって。振り向かずに前に進んでよ。
この歌詞誰が作ったんだろう?
側にいてくれる女性は別の人が好きで、でも側にはいてくれるんだ。それが彼にとっては嬉しいけれど、こっちを向いてくれないならせめて憧れの存在のままいさせてほしい、みたいなことかな?
年下の男性目線の歌なんだね。
――――あなたの背中を追うから。僕の方からあなたに追い付いて。あなたを振り向かせるから。………あなたは僕にとって唯一の温もりなのだから…。
………空良くんの声。
少し低めで、でも相変わらずの柔らかい声だな…。
奏輔お兄ちゃんの、良い子守歌って言葉の意味が分かる気がする。
この声は、確かに、心地いい…。
空良くんの歌声に誘われるように私は気付けば眠りについていた。
そんなに長い間は寝てなかったと思う。
棗お兄ちゃんがいる訳じゃないから熟睡も出来ないしね。そもそもこの態勢で熟睡したら体が痛くなっちゃう…。
頭を誰かが撫でてる。
鳥肌が立たないって事は、奏輔お兄ちゃんの手なのかな?
「……ふみ…」
「ん?起きたんか?姫さん。もう少し眠っとっても良かったんよ?」
「…んみー…」
言葉にならん声を出しつつ、目を擦って…。
「ふみっ!?」
目の前に空良くんの度アップっ!?
「何事っ!?」
「………………おれの歌、気持ち良かった?」
「うんうんっ、うんっ!?」
気持ち良かった?ってなんだ?
寝起きに言われるセリフかっ!?セリフなのかっ!?
「…………気持ち良く、眠れた?」
あ、そっちね。あーびっくりした。
「うん。とっても良い歌声だったよ」
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「そして、取りあえず私の顔を眺めるのやめてくれるかな?」
「そうやで。空良。もう一度歌い直しだ」
奏輔お兄ちゃんのデコピンが空良くんのおでこに直撃した。
奏輔お兄ちゃんのデコピンって…。
「……うぉぉ…」
痛いらしい。空良くんが額を抑えて苦しんでいる。
デコピンのおかげで空良くんがどいてくれたから、私はゆっくりと起き上がった。
「ごめんね、奏輔お兄ちゃん。重かったでしょ」
「全然?それより少しは休めたか?」
「うん」
ごしごしと目を擦って、化粧をしていた事を思い出してハッとする。
急いでトイレに駆け込んで化粧を直して戻ってくると、空良くんが本格的に奏輔お兄ちゃんと歌の確認し合っていた。
確か申護持の三人は三猿をモデルにしてるんだよね。
陸実くんが聞かざる。
海里くんが見ざる。
空良くんが言わざる。
……言わざるの子が担当するのが歌、ってのがまた何とも言えないなー。
暫く練習風景を見学して、どうせだからこれも動画サイトに流せるかな?とカメラを用意して貰って撮って貰う事にした。
勿論、奏輔お兄ちゃんの所は上手く切り取って貰うよ。
じゃないと奏輔お兄ちゃんにファンが流れて行きそうだからねっ!
スーツに弱い女子は多いんだよっ!どやっ!
なんてアホな事を考えている間に、陸実くんと海里くんが戻って来た。
「車走らせたオレ達に感謝しろよー、お前らー」
「全くだ。俺達は仕事があるから仕方ないとしても、補習で遅刻って情けねぇ事してんじゃねーぞ」
「だって師匠っ」
「陸っ。言い訳したらまた何倍ものお説教が返ってくるよっ、シー」
海里くんが陸実くんの口を抑え、自分の口元に人差し指を立てていた。
「(ダンスレッスンで疲れ切ってて、あんな静かな空間にいたら眠くなるだろ)」
「(実際寝てたからボクと陸が零点になったんだけどね)」
ほーーーう?
二人共こそこそと話しているけどしっかり聞こえてるからね?
後で私からしっかりとお説教が飛びますよ。
「で?どうなんだよ、奏輔。空良の出来は」
「んー。結構良いんちゃう?一回合わせてみるか?」
「だなー。ほら、お前らとっとと着替えて準備準備ー」
完全にお兄ちゃん達三人が陸実くん達のマネージャー通り越して保護者になりつつある。
陸実くんと海里くんがレッスン用の服に着替え終わって、空良くんも合流。
それから今日は歌のレッスンに入るんだけど…合わせてみて驚いた。
空良くんの歌の上手さがずば抜けている。
これは…逆の意味で不味いのでは?
「…白鳥様。これは…」
「う~ん…ねぇ、王子。いっそアイツ等三人共バラで売りだした方が良くない?」
「うーん…どうなんだろー?でもやっぱり三つ子ってのを売りにしたいんだよね。何より三人一緒の方が何かあった時カバーと言うか、フォローしやすいと思うんだよ」
「それはー、確かに」
「にしても、空良くんは余程練習したんですね。こんなに短期間であんなに上達するなんて」
「………ん?」
莉良さんの言葉が何かにひっかっかった。
確かに言われてみたらそうなんだよね。
「この曲って楽譜渡されたの何時だっけ?」
「一昨日ですよ」
「え?本当に?」
驚いて思わず聞き返すと、莉良さんはしっかりと頷いた。
一昨日に渡されてもうこんなクオリティになってるの?
だとしたら、空良くんの能力って凄くないっ!?
それこそ莉良さんの言葉じゃないけど余程の練習を…。
「おいっ、空。お前いつの間にそんな上手くなったんだよっ」
「ボクが知ってる限りでも練習してる姿なんて殆ど見なかったよ?元々歌は上手かったとは知ってたけど」
陸実くんと海里くんが驚くほどの急激な成長って事?
「………………オレも解らないけど…、何か上手く歌える気がして、歌ったら気持ち良く歌えてた…」
んんんーっ!?
空良くん本人も驚くほどの急成長って事なのかなーっ?
ちょっと待って。
何か嫌な予感がスルヨーっ!?
「…オ兄チャン達ー。私嫌ナ予感ガスルカラ一旦帰ルヨー」
「お、おう?」
「気を付けてなー?」
「姫ちゃん。何故カタコトー?」
真珠さんに急いで車を回して貰って全速力で帰宅。
家に帰りついて、手洗いうがいはしっかりと済ませてから部屋へダッシュ。
ゲームを起動して、真っ先にEASYモードを選択して練習モードを選択。そこにある歌唱力のゲージはMAXになっている。
続いて画面を戻して通常ステージモードを選択。…やっぱり練習モードで練習していた曲をプレイする事が出来ないままだった。
曲名は出ているのに、文字の色が灰色になっていて選択する事が出来なくなっている。しかもそこを押すと。
『緑の猿だけ上手なっとるで。他も平等にあげんとな』
とコーチ役のハムスターがプレイヤーにそう言ってくるのだ。
そして強制的に画面を戻される。
…今度はもう一つ前の画面に戻って、NORMALモードを選択する。
案の定練習モードがあった。練習モードを起動すると、こちらにはポニー?かな?可愛いお馬さんとハムスターのどちらかを選べるようになっていた。
NORMALモード…EASYモードよりは絶対難しいとは思うんだけど…。
まずはハムスターを選択。すると下に歌唱力のゲージが出て来た。
あれ?EASYモードの時よりゲージ幅が短い。これは、早く終わるかもしれない。
早速プレイしてやっぱりEASYモードより難しいんだけど、何とかパーフェクトではないけど、程々のコンボをだして一曲終了した。
ここで思い出す。さっきの嫌な予感。
私は、ちょっと集中してゲームをやり込んで、ゲージを満タンにしてみた。
そして、スマホを取りだして、透馬お兄ちゃんに連絡をする。
今、三人の成長はどんな感じ?と。
すると、こう返って来た。
『海里の成長が異常』
と。うん。確定だわ。
私がこのゲームをクリアしていけば行くほど、三人の能力値が上がるんだ。
だから、空良くんの歌唱力が鬼の様に爆上がりしたんだ。私が昨日やり込み過ぎた所為で。
…待って?
となると、彼らのスペックの上昇は私のプレイ次第って事になる?
何それ。責任重大過ぎない?
ひ、一先ず、選べるポニーさんの方は選択しないで、HARDモードの、陸実くんの歌唱力を上げよう。
それから、海里くんの歌唱力もMAXまであげなきゃ…。
恐らくだけど、陸実くんの歌唱力ゲージも空良くんの歌唱力よりも低い筈。
蝶ネクタイでこのマスコット的お猿さんが誰が誰の事を表しているのかは解るのは助かるんだけどねー。
って事は、このハムスターってネズミって事で奏輔お兄ちゃんなのかな?馬は透馬お兄ちゃん?だとしたら、NORMALモードでお馬さんの練習モードをクリアしたらきっと他のモードにもお馬さんが出てくるって事だよね?
じゃあ、HARDモードには牛さんが出てくるのかな?大地お兄ちゃん、って事だろうし。
あ、待って待って?
その流れで行けば、通常ステージモードで流れてくる四角い箱。あれって個人能力値なのかも。
って事は、お馬さんは演技力?牛さんはリーダーシップって事かな?あーでも、HARDモードにだけは紫の箱もあったよね。…そこはプレイしてみなきゃ解らないか。
とにかく、まずは歌唱力をMAXにしましょうっ!
…………ほら、ね。
このゲームは三人が立派に成長する為の手助けとして絶対に必要な事じゃない?
だからね?
全身全霊で挑む必要があると思ったのよ。
あの三人にとって苦しむことが少しでも減る様に、ね?
私は保護者みたいなものだから、さ?
だからね?
「……それで?美鈴ちゃん?そんなに目の下にハッキリと解る隈を作って、私達に何か言い訳ある?」
「…………ないです」
「さっさと帰って寝てっ!今日は棗さんも家にいるんだから、ちゃんと丸一日怠惰に過ごしてっ!分かったっ!?」
「ふみぃ~…はぁい…」
また三徹してしまい、棗お兄ちゃんのベッドに投げられてしまったのは、まぁ、その…仕方のない事だと思うの…。
思う、よね…?
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