乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも、私男性恐怖症なんですけど…。

最終章 数多の未来への選択編

※※※

「陸実っ。お前また人の話を聞いてなかったなーっ？そこは右回転ー」
「へっ！？あれっ！？おっかしいなっ。師匠、今の所もう一回っ！」
「次間違ったら、姫ちゃん特製クッキー没収なー」
「マジでっ！？」
「じゃあ、陸実くんが次間違えたら、大地お兄ちゃんの報酬も没収ねー」
「陸実。死ぬ気でやれ」
「う、うすっ」

「おい、こら。海里。寝てんな。今二番の歌詞歌ってたぞ」
「………ネテマセン…、ボク、寝てナンカ、いません…」
「いや、寝てるだろ」
「……ネテマセン。透馬兄、ボク、ネテナイ…ヨ」
「…駄目だ。姫ー。海里がぶっ壊れたぞー」
「え？大変っ。じゃあ、透馬お兄ちゃんにあげるはずだった今日のおやつのシフォンケーキを海里くんの口に」
「起きろ、海里。今すぐ起きなければ命は無いと思え」
「ヒィッ！？」

「ワン、ツー、スリー。ワン、ツー、空良。踏み出しが遅い。もう少し早く」
「…………解りました。奏輔様」
「ワン、ツー、スリー…空良、変わってへん。もう一度や」
「…………………」
「違う。そうやない。もう一回や」
「……………………」
「奏輔お兄ちゃーん。空良くん、酸欠でーす」
「へ？お前、それを早く言わんかいっ！あーっ、倒れるな倒れるなっ！まず座れーっ！」

以上で、ここ数日のレッスン風景をお届けいたしました。
あの三人に教えるのって本当大変なんだけどねー。
流石お兄ちゃん達と言うか何と言うか。
ちゃーんと勉強もさせつつ、レッスンもしてくれていた。
でもね。いくらなんでも頼み過ぎかなーとは思ったんだけど、お金とか受け取ってくれないと思ったので。
実際にお礼をしようときちんと契約してお金をーって思ってお兄ちゃん達を家に呼んで、ご飯を振る舞いながら聞いてみたんだけど。
「金？別にいらねーよ？」
「そうそう。別に困ってへんし。教師やってた手前な」
「副業とかちょっと、だしねー」
「あー、そっかー。そうだよねー。んー…それじゃあこうしよう。お兄ちゃん達に自由な時間をプレゼントしますっ」
「ん？姫ちゃん、自由な時間って？」
「むしろ拘束時間増えてるしな」
「まぁまぁ、最後まで話を聞いてよー。透馬お兄ちゃんには七海お姉ちゃんを連れ出して欲しい時、七海お姉ちゃんを何回でも連れ出してなだめてあげる」
「っ！？」
「奏輔お兄ちゃんには週一回桜お姉ちゃんと咲お姉ちゃんを連れ出してデートしてくる」
「ッ！？」
「大地お兄ちゃんには丑而摩家にご飯のデリバリー」
「っっ！？」
「どう？」
「「「のったっ！！」」」
こうして契約は成立しました。
透馬お兄ちゃん達にこのご褒美は本当に効いたらしく、何なら彼ら三人の専属マネージャーになってくれました。
「白鳥さん」
「はいー？」
椅子に座ってレッスンを見ていたんだけど、後ろから話かけられ振り返るとそこには書類を大量に抱えた莉良さんが立っていた。
「あの…彼らのデビューの話なんですが…」
「あ、決まった？どこのライブハウス使う？」
「それなんですけど…」
言って渡された書類の一枚。
「…………」
「あ、あのっ、言いたい事は解りますっ。規模が大き過ぎるって事ですよねっ？でもでもっ、私は彼らに本当に期待していて」
「……莉良さん。ごめんね。折角用意してくれたんだけど…ハッキリ言って、足りない」
「えっ！？」
「このリストの中で一番広い会場がここ、だよね？」
「はい」
「この会場の倍は入る会場を用意してくれる？」
「倍、って、えぇっ！？」
「普通のデビューなんてさせないよ。盛大なデビューをさせる。莉良さんだってあの三人にはその可能性を感じてるでしょう？」
「は、はいっ！」
「私だってそうだよ。その為には色々準備が必要だし、彼ら個人でも動いて貰う必要がある。まず知名度をあげなきゃ。彼ら個人のね」
「はいっ！では、まず私は会場の用意ですねっ！」
「うん。あと、脇役でも入れそうなドラマの仕事と後、ソロ曲の作成依頼、それからバライティ―番組の出演枠を探して貰っても良い？」
「あ、はいっ。ちょっと待ってくださいっ。今メモを……出演枠、と。了解ですっ！一先ず今事務所に来ている物をファイリングして持ってきますので少々お待ちをっ！」
莉良さんが意気揚々と駆け抜けて行った。
まぁ、少し時間がかかるかな？
じゃあ、そろそろ皆に一旦休憩を入れさせよう。
「皆ー。休憩しなーい？おやつにシフォンケーキ作ってきたよ～」
「お、じゃあ、休憩前に一回だけ全体で合わせてみるぞ」
「「「はいっ！」」」
お兄ちゃん達が私の横に立ち、陸実くん達が曲に合わせて踊り始めた。
「…また右回転してるなー」
「歌詞に集中し過ぎて、笑顔がねぇ」
「少しは早くなったか？…でもやっぱり遅れとる」
良い感じで厳しい。
でもこうやって言って貰えるのは有難い事だからね。見捨てられてないだけ感謝しなきゃね。うん。
私はおしぼりと取り皿を用意しておこう。
後は紅茶。まぁ、本当ならスポドリとかが良いんだろうけど、毎回それじゃあ可哀想じゃない？
今日はご褒美的に美味しい物ね。
曲が終わりポーズを決めた瞬間、年下組達は崩れ落ちた。
三人共大の字でぜーはーぜーはー息切れを起こしていた。
「おー…皆頑張ったねー。ほら、まず水分取りなよ。お菓子はその後ね。まずはお水」
三人にペットボトルのお水を渡すと、ぷるぷると手を震わせながら受け取り、ごっごっごっと喉を鳴らして一気に飲み干しちゃった。
水分をとって体力を多少取り戻したのか、年下組は一斉に私のお手製シフォンケーキへと向かった。
「多めに作ったから、カロリー消費出来る程度に食べたら良いよ」
「うぅ…上手い…」
「おいしぃー」
「………………………うまっ……」
「何も泣きながら食べなくても…」
「あー…姫の作った物は相変わらずなんでも上手いなー」
「七海ちゃんの作った料理もおいしかったよー？」
「アイツが作った成功作を食った記憶なんてねぇよ」
「透馬。贅沢やで。お姉達の魔界食に比べたら七海ちゃんのが圧倒的に美味いやろ」
皆の言葉が消えた。
え？ちょっと待って？食べた事ないけど、お姉ちゃん達の料理ってそんななの？
「王子のおやつの匂いがするーっ！」
バァンッ！
またしてもドアを破壊する勢いで入って来たユメ。
…毎日の事過ぎてもう慣れちゃった。
毎度毎度三人からおやつを奪い取ろうとするからユメの分と、必ずついてくる未くんの分も作ってくるようになった。
「夢芽。あんまり食べ過ぎないようにな。明日のステージ衣装入らなくなるぞ」
「大丈夫っ。ちゃんとカロリー消化する為に動くからっ！」
「そうか。あぁ、ほら、生クリームが頬に付いてるぞ」
親指で拭ってそれを自分で舐める未くんを見て、動きを止める年下組と全く欠片も気にしないお兄ちゃん達。これが年の差なのかしら？
え？私？私は、自分がその対象でなければ別に…。
微笑ましく、まるで母親の如く眺めております。ユメが幸せそうなので私は幸せです。
で、皆を幸せな気分で眺めていると、足音が聞こえて来た。
「白鳥様っ。お待たせしましたっ！会場は運営側との交渉でまだなのですが、仕事に関しては一覧をご用意しましたのでっ！」
「ありがとう。莉良さん。もし良ければ莉良さんもケーキ如何？紅茶もあるよー？」
「よろしいんですかっ？」
「どうぞどうぞ」
莉良さんがシフォンケーキに夢中になっている間に、私は莉良さんが用意してくれた書類を確認することにした。
一番上から、これは駄目、これも駄目、と×代わりのレ点をつけていく。
中から三つ。良さ気な仕事を選ばなければ。
「…姫。何見てるんだ？」
「なんや。出演オファーか？」
「誰に何あてるのー？」
「それなんだけど、ちょっと悩んでてねー」
「悩む？なんで？」
「誰に何を当てようかなー？って」
「あぁ、成程な」
お兄ちゃん達は頷いて、私が持っていた書類を一枚ずつ取って行った。
「海里にバライティは無理だ。ドラマの仕事が向いてるだろ」
「陸実は逆にドラマとか無理だろー。バライティ一択だなー」
「となると空良は歌に集中した方が良さそうやね」
おー…あっさりと決まった。
ならお兄ちゃん達の判断に任せよう。
「あと三人で動画サイトも作った方が良さそうだね」
「ある程度したら夢芽とのコラボも考えた方がいいな」
「あぁ、うん。それもありだね」
頷いて、莉良さんに報告しつつ年下組の様子を覗きみると、
「ちょっ、夢姉っ！それオレのーっ！！」
「だまらっしゃいっ！！弟のモノは姉のモノって言うでしょっ！」
「………スー……スー……」
「………ごちそうさまでした」
こっちを意識なんて全くしていませんでした。
四人共…君達の事で私達はこんなに頭を捻ってるんだけどね…？
と言いたい所だったけど、楽しそうだったから。
私はただ苦笑してそれを見守った。

今日もまた一日の業務を終えて帰宅して、部屋に戻るとゲームを起動した。
「あれ？モードが増えてる？」
練習モードってやつ。
タイトル画面に練習モードが追加されましたってチュートリアルが入っていた。
通常ステージモードと練習レッスンモードの二つが各それぞれのモードに増えたらしい。
試しにＥＡＳＹモードを押して、通常と練習とどちらかを選択する画面になって…練習モードを押してみた。
すると緑色の蝶ネクタイをつけたお猿さんに眼鏡をつけたハムスターさんがタクトを持ってお猿さんに何かを伝えてる画面に切り替わった。
このハムハムが先生って事かな？
練習モードって何するんだろう？
画面下の方に、歌唱力のメーターゲージが出来ていた。
今はまだ何もないゲージ。
こっからどうするんだろう？
前はラインがあって奥から流れて来た玉に合わせてボタンを押してたけど、今回は？
曲をスタートさせると、今度は上から下にラインがあって、
『ええか？緑の歌唱力が流れて来たら、△ボタンを押すんや。それ以外は押したらあかんで？』
と説明されて、曲が流れ始めた。
えっ！？ちょっ！？練習モードのスピードが早いっ！？
上から色んな色の箱が落ちて来て、それには全て歌唱力と書かれている。
緑の歌唱力だけ押すんだよね？
間違って他のを押したらどうなるの？
下に横一本線が引かれていて、そこに箱が重なったらボタンを押すんだね。しかも緑の時だけね？でも今は失敗のパターンが見てみたいから、赤い箱の時にボタンを押してみる。
すると、
『失敗や。また一からやるで』
「ええええっ！？間違い一回で失敗扱いになるのーっ！？」
こ、これはしんどいかも…。
試しに一つ前の画面に戻って通常モードにしてみる。
すると前にやった時と同じ画面のままで。
あ、これ練習モードクリアしないと通常モード更新されない奴だ、と察した。
あー…、これは覚悟を決めてやるしかない、か。
私のゲーマー魂に火をつけられたので、今日もまた徹夜を覚悟で練習モードをクリアすると決意した。