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第一章 幼児編

※※※(透馬視点)

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「鴇兄さんっ!!」

血相を変えて、鴇の弟が職員室へ飛び込んできた。
その尋常じゃない様子に俺達も慌てて駆け寄る。
「どうしたっ?葵っ。何があったっ!?」
「兄さんの言う通り、生徒会室で待ってたら、変な奴らがいきなり入って来てっ」
「なんやて?それでっ?大丈夫だったんかっ?」
「隠れて何とかやり過ごしたからっ。でもっ」
そう言って、言葉を続けようとした矢先に、

「いやああああああああっ!!」

女の子の声が学校内に響き渡った。
今校内にいる女の子なんて、美鈴ちゃんしかいないっ!
「美鈴っ!?」
弾かれた様に弟と鴇が走り出す。
「俺らも行くぞっ、大地っ」
「了解っ」
「俺は奴らが逃げへんように包囲網を張るっ!そっちは任せたっ!」
奏輔とアイコンタクトをとり、大地と共に走り出す。
全力で走ったのにも関わらず、鴇には追い付けない。
だが、声がした方へ向かえばいいと走って、ついたその場所には伸びたモヒカン…もとい学生がいるだけだった。
「この制服…。星ノ茶(ほしのざ)高校の制服だな」
「あぁ。間違いないね。とうとう、馬鹿もここまで来たか」
「わざわざ、手を出さないでいてやったってのに。鴇を怒らせやがって」
「どうする?こいつ」
「放置しとけ。どうせ、奏輔の奴がどうにかするだろ。それより、後を追うぞ」
「オッケ」
止めを刺すようにダメ押しで俺達は奴を踏みつけると、そのまま鴇の後を追った。
「あの、美鈴ちゃんの叫び方。…無事だといいけど」
「だな。…最悪、星ノ茶に血の雨が降んぜ」
「最悪って言うか、この様子だと確定、だろ」
普段切れる事のない鴇は、一度キレたら相手を徹底的に叩き潰す。再起なんて出来ようがない程に。小学からの付き合いである俺達はそれを良く知っていた。
小学校入りたての頃、俺は鴇と同じクラスになった。だが、正直鴇は俺にとって苦手なタイプだった。そのお綺麗な顔で取り澄まし、俺達とは違うと見下しているようで。それに腹が立って、俺と実は同じクラスだった大地の二人で鴇に喧嘩を売った。鴇はその見た目と中身のギャップが半端なく、俺達はボコにされた。その綺麗な顔でそこまでするか、と周りが引く程に鴇は一度切れると手を付けられなくなる。それがきっかけで互いにわだかまりもなくなり仲良くなったんだが。
後から転校してきた、奏輔も同じ事をして、鴇にボコられ俺達の中に加わった。
鴇のブチ切れを経験してからと言う物、そうならない為に、俺達は極力奴が怒るような事は避ける傾向にあった。何事も先回りして。
おかげで、白鳥の取り巻きだのエイト学園御三家だの、色々言われてきたが、大して気にもならない。まぁ、刷り込みかもしれないが、別に今更何か言う必要もないし、あいつの側にいると楽しいから離れる気もない。
「…俺達の努力が無になる瞬間って奴か?」
「いやー、この場合は俺もキレてるから鴇の事言えないかなー」
「確かに。美鈴ちゃんに手を出す奴は万死に値するな」
「むしろ、潰す」
普段はまったりとしている大地だが、運動部を統括するだけあり、喧嘩には滅茶苦茶強い。これでまたこいつも切れたら手をつけられないタイプで、本当に鴇とは類友であるとつくづく思う。
足を止めず走っていると、近くに設置されたスピーカーから音がした。マイクを叩く音がして、直ぐに奏輔の声が校内に響き渡った。

『全校生徒に告ぐっ!校内に侵入者ありっ!侵入目的は『学校破り』だっ!至急校舎を取り囲めっ!尚、白鳥鴇の妹が連中に人質にされているっ!見つけた侵入者は躊躇せず捕らえろっ!繰り返すっ…』

近くにある教室からガタガタと立ち上がる音が聞こえ、

「鴇様の妹がっ!?」
「そりゃ絶対に助けなきゃだろっ!!」
「鴇様の妹なら可愛いに決まってるっ!!」
「一目でも拝んでおかなきゃ後悔すんぞっ!!」

叫びながら、一目散に走って行く。
俺達はその姿を若干呆れながら横目で見送った。
「鴇の下僕志願者って、年々増えてるよな」
「その筆頭が、前生徒会長だしねー。入学してすぐ、鴇の凄さに中てられて生徒会長の座を譲ったし」
「ま、鴇はめんどくさそうだったがな」
「実は上に立つのに向いてないからなー、鴇は。他人を使うより自分でやった方が早いってタイプだし」
足を止めずに、会話する。
そして、ようやく彼らに追い付くと、そこは地獄絵図だった。
辺りには星ノ茶の生徒が軒並み血だらけで倒れている。そして、手から血を滴らせながらも、本人達は一切の怪我もない兄弟が一人の黒髪タレ目を牽制していた。
そのたれ目の腕にはぐったりとしている美鈴ちゃんが小脇に抱えられている。
顔は見えないが、意識を手放しているようだ。
「あーあ。馬鹿だな。お前ら。白鳥兄弟を本気で怒らせるなんて」
「全くだ。何のために俺達『エイト学園』が『学校破り』に参加していないか、理解出来ないなんて」
俺と大地は、強いとはいえ年下である鴇の弟達を庇う様に前に出て、鴇の両サイドに並ぶ。
「鴇、落ち着いてるか」
「…これで落ち着けると思うか?」
「ですよねー」
口調だけは普段と同じにしつつも、俺達は目の前に立つそタレれ目野郎を睨み付ける。
だが、そいつはやけに自信満々の顔をして、酷く厭らしい笑みを浮かべた。
「へっ、俺達、星ノ茶の人間が何の作戦も立てずにくるような馬鹿だと思ってるのかよ」
「…へぇ、面白い。それは、どんな作戦なんだ?」
大地が挑発するように笑うと、タレ目野郎は、ピィーッ!!と盛大に指笛を鳴らした。
すると、俺達の背後とタレ目の背後から星ノ茶の生徒がぞろぞろと現れる。
ぞろぞろぞろぞろとまぁ、よくもこれだけ隠れてたもんだ。
ざっと見て三十人くらいか?
「……で?」
「たったこれだけの人数で俺達をどうにか出来るって?」
「本気で思ってたなら、舐められたもんだな」
こいつらは目の前で血だらけで転がってる奴らをみても何とも思わねぇのかよ、と突っ込みを入れたくなる。
「てめぇらっ、やっちまえっ!エイト学園の生徒会長から生徒会バッジを奪い取れば、この地区最強は俺達だっ!」
「おおおぉぉっ!!」
手に鉄パイプやら、石やらを持って連中は一斉に飛び掛かってきた。
おいおい、武器を持って挑むのは、『違反行為』だろ。
俺達は各々散らばり、攻撃を回避して、一人一人伸していく。
復活されたら面倒だから、確実に意識を失わせる。ふと、背後を見ると、鴇の弟が背後から殴られかかっていて、それを庇いつつ相手を殴りつける。
「無事かっ!?」
「はい。問題ありません。僕の事よりっ」
弟の視線はたれ目の腕の中にいる美鈴ちゃんに注がれていた。
飛んでくる拳を回避しつつ、俺も視線をそちらへ向けると、タレ目野郎は美鈴ちゃんを連れて逃亡しようとしている。
だから、弟達の意識がそぞろになってるのか。
「美鈴ちゃんは大丈夫だっ。必ず助けるっ。だから、お前達は目の前の馬鹿共を全て叩く事に集中しろっ!」
「でもっ」
「お前らの兄ちゃん見てみろっ!」
言うと、双子は視線で鴇を見る。迫り来る相手の顔面に一発叩き込んで、即KO。
あ、見せるんじゃなかったか。いや、でも、事実、鴇は馬鹿共を叩く事に集中しているから、俺の発言は間違いじゃないはず。
そして、俺達がこんなに落ち着いている理由。それは…。

「どこへ行く気や?このボケがっ!!」

これだ。俺達の顔に知らず笑みが浮かぶと同時に逃げ出そうとしたタレ目野郎の顔面に拳が叩き込まれる。よたついたタレ目野郎から美鈴ちゃんを奪い取り、奏輔は少しずれた眼鏡を中指で戻す。
「相変わらず、いいとこどりだよなーっ。おらぁっ!!」
大地が最後の一人を叩き潰した。ほんと、大地も喧嘩になると性格が変わる。俺位だぜ?冷静なの。いや、ホントに。
「鈴っ!」
「鈴ちゃんっ!」
慌てて奏輔の下へ走り、片方が美鈴ちゃんを受け取り、抱き締めた。
それを見守りつつ、俺達は奏輔に殴られたタレ目野郎を取り囲む。
「さて、どうしてくれようかなー?」
「く、くっそっ!こうなったらもっと仲間よんでっ、がはっ!?」
指笛を鳴らそうとした、その顔を鴇が蹴り飛ばし、そしてそのまま顔を踏みつける。
「俺らが、どうして『学校破り』に参加してへんか、教えてやろか?」
「鴇様っ!外の制圧完了しましたっ!」
「校舎内の星ノ茶生徒も全て捕らえましたっ!」
ニヤリと口の端だけで笑う奏輔に次々と報告が入る。
「参加せずとも、ここいらで俺達と対等に戦える奴がいねぇからだ」
ぐっと鴇の足に力が込められる。鴇の足の下で唸り声が聞こえてくるが、俺達はそれに目もくれず、更に言葉を続ける。
「『学校破り』はこの地区の男子校は絶対参加の裏イベント。全ての男子校から生徒会長が持っている生徒会バッジを奪えれば地区最強を手に入れて、裏でトップに立つことが出来る、だったか?」
「オレ達、正直そんなのに興味なかったんだよねー。ほら、前の生徒会長は参加してたけど、直ぐに負けて奪われちゃったらしいしー。オレ達も正々堂々挑みにくるようなら、大人しくバッジをあげる気だったんだよー。面倒だからねー」
「くだらん遊びに付き合う気はなかったんや。けどな。あんたらはやっちゃならんことしたんや」
俺達は冷えた瞳で鴇の足の下にいる奴を睨む。
「俺達の『姫』に手を出したんだ。覚悟は出来てるんだろうな…?」
「ひっ!?」
怯えた声を吐いた所で、今更遅い。
星ノ茶高校の生徒や他の学校の生徒達も含め、二度とエイト学園に喧嘩を売る気が起きなくなる様に、完膚なき迄に叩き潰した。
暫くして、教師が駆け付けた。しかし、この『学校破り』に関して、教師は黙認すると決まっていた。これは生徒同士が外で暴れるより、校舎内で暴れてくれた方がいいと言う、片寄った意見から『学校破り』が行われている時はある程度の殴り合いは不問となるのだ。
だが、今回は違った。相手方が武器を持っていたからだ。
『学校破り』には、決められた規則三つある。

一つは、争いは校内に限る。
一つは、武器を使わない。
一つは、関係ない人を巻き込まない。

この規則を星ノ茶は、二つ犯していた。
そして、それを立証出来る物がそこかしこに転がっており、人質にされた美鈴ちゃんは鴇弟の腕の中でいまだ意識を取り戻さない。
教師は後の片づけを任せて今日は全ての生徒は帰宅するようにと促された。
鴇が美鈴ちゃんを抱き上げて、俺達は鴇の鞄と美鈴ちゃんが持って来たものを分担して持ち、校舎を出る。
因みに、俺達が教師連中に状況を説明している間、鴇達兄弟は美鈴ちゃんを保健室へ連れて行き、診て貰っていた。
結果は気を失っているが、体に別状はないらしい。それを聞いて俺達はほっと胸を撫で下ろした。
帰り道。俺達は護衛を兼ねて、全員で鴇の家へ向かった。
辿り着き、家へ入ると、鴇のお袋さんが出て来て、美鈴ちゃんの姿を見て血相を変えて駆け寄ってきた。
「ど、どうしたのっ!?」
「とにかく、部屋に行く。寝かせたいから」
「そ、そうねっ」
ん?鴇が怒ってる?
さっき学校を出る時は普通だった気がするが、なんでだ?
靴を脱いで階段を上がる鴇に双子がくっ付いて行く。
「皆も上がってって。お茶出すから飲んでって」
「あ、はい。失礼します」
奏輔が礼をしつつ靴を脱ぐので、倣って俺と大地も靴を脱いで揃えて置くと鴇のお袋さんが促すままリビングへと入る。
ここには、何回か来ているが、いつ来ても片付いて居心地がいい。
これも美鈴ちゃんがやってるんだろうな。ほんと凄い六歳児がいたもんだ。
ソファへと座ると、麦茶と羊羹をトレイに乗せて持って来てくれた。
「全部美鈴の手作りだけど」
これも手作りとか、美鈴ちゃんどんだけ…。
でも、もう慣れてしまったし、美鈴ちゃんが作ったものは何でも美味しいと実証されてるので、俺達は素直に頂く事にした。
羊羹を一口齧ると、口の中にさっぱりとした甘みが広がる。甘いものが苦手でもこれなら食べれるって人結構いるんじゃないか?
あまりの旨さに感動していると、リビングのドアがだんっと開けられた。
「佳織母さん」
「鴇…」
「なんで、美鈴を俺達のもとに寄越したんだ」
隠される事のない怒気に慣れた俺達ですら怯んでしまう。だが、鴇のお袋さん、佳織さんは真正面からその目を見返した。
「美鈴が男を怖がっているって分かっていた事だろっ!」
「えぇ。勿論。娘の事だもの。分かっているわ」
「だったらっ。…だったらなんでっ!?娘の事が大事じゃないのかっ!?」
そんな訳ないだろ。それは、流石に言い過ぎだ。
「おい、鴇っ」
同じことを思った奏輔が鴇を諫めるが、俺達を抑えたのは怒っている鴇ではなく、佳織さんだった。
ただ、手を俺達の前に出し、首を振る。
「私は鴇にそう言われるだけのことをしたの。でも、あの子には必要な事なのよ」
「どういう意味だ…?」
「あの子がこれから迎える未来には、必ず男性が関わってくる。美鈴が嫌がろうと何だろうとそう言う運命にあるの。決して逃れる事が出来ない運命。その運命はどうあがいても美鈴一人が立ち向かわなければならない」
真剣な眼差しで鴇を見据える佳織さんを俺達は黙ってみているしか出来ない。
けれど、鴇はぐっと拳を握り佳織さんを睨み付けた。
「なんでだよ。美鈴には俺達がいる。俺達家族が助けてやれるだろ。なんで一人で立ち向かう必要があるんだっ。大体、まだ迎えてない未来が何で佳織母さんに分かるんだっ!?」
「それは…」
「未来より、今だろっ!今、美鈴はこうして苦しんでるんだっ!それに追い打ちをかけて、苦しめて弱まったままで運命になんて立ち向かえる訳がないっ!!佳織母さんは美鈴をただ悪戯に苦しめただけだっ!!」
「貴方に…貴方に私達親子の何が分かるのっ!?」
言われ放題だった佳織さんがそこで初めて声を荒げた。その瞳から涙を溢れさせながら。
「美鈴を苦しめただけっ!?そんなの分かってるわよっ!!でも、私は今度こそあの子に幸せな人生を歩んでほしいのよっ!!本当に好きな人と結ばれて、子供を産んで、幸せな家庭を築き上げて、笑顔で人生を終わらせて欲しいのっ!!」
「佳織、母さん…」
「貴方に分かるのっ!?子供を残して『逝く』苦しみがっ!!なにも出来ない悔しさがっ!!笑って無理する我が子を抱きしめる事も出来ない不甲斐無さがっ!!今なら出来るのよっ!!あの子が毎日楽しそうに笑って人生を歩んでいる今なら出来るのっ!!」
その綺麗な顔を歪ませて泣く姿を俺達は茫然と眺めていた。
「鴇の通う学校にあの子は必ず進学するっ!!そこであの子はきっと凄く辛い思いをするっ!!その時に私は何も出来ないのよっ!!だったら、少しでも逃げ場を作ってあげなければっ!!少しでもあの場所を把握しなければならないのよっ!!」
俺達の通う学校に?だが、エイト学園は男子校だ。美鈴ちゃんは女の子だから通える訳がない。
けれど、佳織さんの言葉は揺るぎない。確証を得ている言葉だった。
鴇が驚いたように目を丸くする。その表情にはっと我に返った佳織さんが静かに瞳を閉じて首を振ると、もう一度鴇を見返して自嘲気味の笑みを浮かべた。
「でも…そうね。鴇の言う通りだわ。こんなのはただの自己満足。結局私は、いつもあの子を苦しめてるだけなんだわ。どうして、どうしていつもこうなのかしら…。あの子はいつも私の為に動いてくれて笑ってくれるのに。私は何一つあの子に報いる事が出来ないのよ」
顔をその細い震える手で覆う。
「あの子と『また』会えた事が嬉しかった。あの子が『また』私の娘として生まれてきてくれて、私と『また』親子になってくれた事が泣けるくらい嬉しかった。でも、どうして、『ここ』なの?もっと、別の世界ならあの子はもっともっと笑ってくれた筈なのに」
がくんっと膝が折れ、崩れおちる佳織さんを鴇が慌てて抱きとめた。
俺達も慌てて佳織さんに駆け寄る。
佳織さんは嗚咽をもらし肩を震わせる。そんな佳織さんに鴇は努めて優しい声で問いかけた。
「佳織母さん。ずっと聞こうと思っていた。美鈴は…貴女達は何を隠しているんだ?」
びくっと体が震えた。けれど、佳織さんは覆っていた手を外し、鴇の目を見てはっきりと答えた。
「言えないわ」
たった今泣いていたか弱い女性とは思えない程の確かな意志を瞳に宿して。その瞳を真っ向から受け入れ鴇はそれでも聞き返す。
「何故?」
鴇の視線が俺達に向いた。
もしかして俺達部外者がいるからか?
そう思って、彼女を見つめると、その表情は優しく、苦笑して頭を振った。
「貴方達がいるからではないの。例えここに家族しかいなくても『今』は言えないのよ」
「それは俺達を信用していないからか?」
「いいえ。それは違うわ。貴方達の事は信用している。きっと美鈴を助けてくれるだろう事も分かっているの。でも、それとこれとは話が別なの。あの子が自分から話さない限り私がその『秘密』を口にする訳にはいかないのよ。あの子の矜持の為にも」
俺達の口から言葉が消えた。
あの子は、美鈴と言うあの六歳の女の子は一体どれだけの思いを抱えているのだろうか。
実の母親が、これほどまでに覚悟を決める程の何を…。
「俺達には…何も出来ないのか?俺達は母さんを、美鈴を助ける事は出来ないのか?」
「鴇…」
「美鈴から聞けばいいのか?だったら、美鈴に直接聞く」
鴇が思いつめた表情を浮かべた。
けど、鴇。それは少し違うだろ。
「やめて。もし、鴇が美鈴に無理矢理聞き出そうとするのなら、私達はこの家を出て行きます」
「なっ!?」
鴇は自分の優しさから、佳織さんに言ってるのは理解出来る。
美鈴ちゃんをどうにかしてやりたいって思ってる事も分かる。でも…。
「鴇、佳織さん。ちょっと落ち着いて」
場違いな人間だと分かっている。けれど、そのままにしておけず俺は口を出した。
二人の視線が俺に向けられる。俺は真っ向からその視線を受けた。
「色々、論点がずれてきてる。二人が美鈴ちゃんを大事に思ってるってのは分かったから、とりあえず頭を冷やせ」
「せやな。鴇、女っつーのは一つや二つ誰にも言えない秘密抱えてるもんや。それを掘り返そうなんてするもんやないで。俺が姉ちゃん達にそれをやった日にゃ、一週間はお日さん拝めへんわ」
「そーなの?それは解らないけど、でも佳織さんも反省しなきゃだねー。実際貴女が守ろうとした美鈴ちゃんは怖い目にあって、意識を失ったんだから。ちょっと荒療治過ぎたんじゃない?」
鴇と佳織さんが驚いて、俺達を見る。
実際俺も少し驚いている。まさか、二人がこっちのフォローに出るとは思わなかったから。
でも、この機を利用させて貰おう。
「なぁ、佳織さん。美鈴ちゃんがこれから苦しい思いをするって、だから美鈴ちゃんの為に行動を起こさせたってのは分かったよ。でもさ、美鈴ちゃん、まだ六歳だろ?」
「えっ…?」
「ははっ、そこで驚いちゃうんだもんな。佳織さんと美鈴ちゃんの会話を聞いてると、親子の会話だって思うよ。思うけど、でも六歳児に対する対応じゃないよ?」
苦笑して言うと、佳織さんは目を白黒させる。本当に驚いているようだった。
「秘密が何なのか、問う気はないけど。美鈴ちゃんはまだ自分に迫る脅威に対抗出来るだけの力を持ってない。六歳児が出来る事なんてたかが知れてるだろ。例え中身が優秀で賢くても、大人の女性ですら敵わない高校生男子の中に男を恐れ怖がり意識を失うような女の子を放り込むのは流石にどうかと思うぜ?」
「そう…ね。そうよね…」
佳織さんが静かに俯いた。佳織さんはこれで落ち着いた。
こんな若い見た目でも、大人の女性だ。で、問題は、こっちのガキだ。
俺はそのガキを睨み向かい合う。
「んで、鴇。お前も反省しろ」
「…透馬」
「ちょっと八つ当たりが過ぎるぞ」
「八つ当たり、なんて…」
視線を逸らした地点でしたと言っているようなもんだろ。
佳織さんは自分の非を認めたってのに、コイツは…。普段頭が回る分だけ気付かれ辛いが鴇と言う男は実は凄くお子様だ。キレたら手が付けられないなんてその最たるもんだ。
「してへん、って言いきれるんか?」
「オレには鴇が弱いもの虐めしてるようにしか見えなかったけどー?」
「自分の手で美鈴ちゃんを守り切れなかった。むしろ、危険な目に合わせて気を失わせるまでの恐怖を味わわせた。その苛立ちを佳織さんにぶつけるのはお門違いだろ」
「俺は…」
「鴇のお袋さんは、俺達を信用して、鴇を信用してるから、美鈴ちゃんを寄越したんや。その信用に応え切れなかったのは俺達や。…違うか?鴇」
「それとも実は美鈴ちゃんと佳織さんを嫌ってるとか?佳織さんを追い詰めて、美鈴ちゃん共々家から追い出したかったのー?」
「違うっ、俺は…」
「大地、あまり苛めてやるなって。鴇、俺達は分かってる。お前が美鈴ちゃんを必死に守ろうと思ってる事も、佳織さんを大事にしてる事も、ちゃんとな。佳織さんと美鈴ちゃんの秘密を知らない限り守り切る事が出来ない悔しさも感じてる。でも、もう少し時間を取ってやれ」
「透馬…」
「佳織さんは言ってただろ。美鈴ちゃんの矜持の為だって。それに『今』は言えないとも。だったら、いつかは話してくれるはずだ。それを待ってやるくらい出来るだろ。『家族』なんだから」
鴇の顔が泣きそうに歪んだ。
ったく、馬鹿だな。こいつは。本当に昔から不器用の塊だ。
素直に泣けばいいのに。変な所でかっこつけなんだから。
「鴇…」
すっと鴇の頭を細く白い腕が抱き寄せた。
「ありがとう。鴇…。私達を、美鈴を大事に思ってくれて。ありがとう、助けてくれて…。ありがとう」
「かあ、さん…くっ…」
佳織さんの腕の中で声を殺して泣く鴇に俺達部外者三人は顔を見合わせ苦笑した。
鴇が一頻り泣いて、それを宥める佳織さんの姿を暫く見守っていると、何故か外からすすり泣く声が聞こえた。そして、唐突にそのドアが開かれた。
「感動いたしましたっ!!」
だ、誰っ!?この人っ!?
驚いたのは俺達だけでなく、鴇と佳織さんですら驚き動きを止めていた。
執事服を着たロマンスグレー的なおっさんが、滝の涙を流して入口で執事立ちをしている。
こっちは驚いて、何も出来ないのに、彼の話は続く。
「奥様っ!!坊ちゃまっ!!不肖この金山っ!!全力で、皆様を支えたい所存にございますっ!!こうしてはいられませんっ!!直ちにあちらの件を片付けなくてはっ!!」
「え、えーっと…、金山さん?」
「奥様、坊ちゃまっ!!これにて失礼いたしますっ!!」
執事らしく、音も立てずに静かにドアを閉めて、「うおおおおおおおんっ!!」と地響きのような泣き声だけが外に響いた。
えーっと、何が何だかさっぱりわからないが、怖いもの見たさにそっと廊下に出てみると、そこに彼の姿はなく、ちょっと背筋がぞっとした。
だって足音もさせずに声だけ聞こえるとか、わけわからない。
「……うん。忘れましょうっ!」
佳織さんがきっぱりと今見た謎の光景の忘却宣言をしたことに、反対した奴は誰もいなかった。
「さて、と。鴇の癇癪も一段落したし、皆、帰ろか」
奏輔の言葉に俺と大地は笑いながら頷くと、鴇は明らかにはっきりとむくれる。
だから、そう言う所がガキっぽいんだっての。と俺達三人は苦笑を深めた。そんな俺達の空気を壊すような声が唐突に乱入してきた。
「あら。まだ帰らなくてもいいじゃないっ!是非、私達のご飯を作ってってっ!」
『…は?』
男四人でぽかんと口をあけ、マジマジと佳織さんをみた。
何か変な事言った?と言わんばりに首を傾げるその姿は美鈴ちゃんそっくりだ。そっくりだけれども…。
「ふはっ!」
最初に噴きだしたのは誰か。ほぼ同時だったかもしれない。皆大声で腹を抱えて笑いだす。
「ちょ、ちょっとっ、皆笑いすぎよっ」
むっと膨れる佳織さんがまた面白くて。でも流石にこれ以上笑う訳にもいかない。
俺達は必死に笑いを堪えて、言われた通りキッチンに向かった。
「鴇ー。冷蔵庫あけるぞー」
「あぁ」
一足先に手を洗った俺は冷蔵庫を開けて、唖然とした。
「うわっ。すごいな、これっ」
後ろから覗き込んでいる奏輔も驚く。
何が凄いって、この冷蔵庫内の食材の管理のされ方だ。鮮度を保つための工夫や、味をつけるための一手間、逆に素材の味を生かす為の下拵え。
これを全部美鈴ちゃんがやってるってんだから。驚いて当然だ。
そっと冷凍庫の方を開けてみると、そこには非常食と書かれて冷凍されたものがタッパやジップロックに小分けされてあった。
でもなんで非常食?
一つ取り出すと、そこには『私が動けなくなった時の食料』と『カレーコロッケ×8』と書いてある。
「何かあった時まで想定してるとかー。すごくね?」
「じゃあ、これ使わせて貰おうぜ」
「他に何あるん?」
「探るのはいいけど、食わないやつはちゃんと戻しとかないと後で美鈴に怒られるぞ」
わいわいと男四人で騒ぎながら冷蔵庫を物色する。
そいや、米は?ふと炊飯器に目をやると、しっかりと三十分後に炊き上がる様になっていた。
美鈴ちゃんのハイスペックさにほとほと感心しつつ、俺達は晩飯の準備をして、誠さんが帰宅するのを待ち、美鈴ちゃん以外の皆で飯を食った。
因みに、美鈴ちゃんの作り置きは、最高に旨かった。
冷凍してあるのを電子レンジで温めただけなのに、自分の母親が作るコロッケより上手いとか。マジ、凄い。
鴇に玄関で見送られ、三人で手を振って別れの合図を交わすと、俺達は家路へとつく。
「あー…ほんっと美味しかったー。美鈴ちゃんのご飯ー」
「ホンマになぁ。ただレンチンしただけやってのに、あれだけ旨いって不思議やわ~」
「だな。何よりあの冷蔵庫にはびっくりしたぜ」
「それ言うなら、鴇のお袋さんの発言やろ」
「あぁっ、私達のご飯を作ってってっ!!だもんなー」
「良く考えたら、いっつも美鈴ちゃんが『ご飯食べってって』って言ってくれてたけど、佳織さんは一度も言ってなかったもんな。料理駄目って本当なんだな」
三人で思い出し笑いをしつつ、暗い坂道を下る。
「しかし…久しぶりに見たなぁ。鴇が泣くとこ」
俺がぽつりと呟くと、二人は頷く。
「あいつが泣いたのって、小学校の時以来じゃねー?」
「本当のお袋さんが亡くなった時も、親父さんは泣いてたのにあいつは涙一つ零さんかったからな」
「鴇ん家の奴らは我慢するのがうまいんだろ。きっと」
何の得にもならない我慢が得意なんだ。そう言う所、きっとあの弟達も似たんだろうな。
けれど、誠さんが佳織さんと再婚してから、その雰囲気が変わった。
良い意味で、佳織さんと美鈴ちゃんがあの男達を変わらせたんだろう。
「所で、明日のデートってどうなるのかなー?」
ぼんやりと思考の渦にぐるぐるしていると、大地が何気なく聞いた来た。
そういやそんな事で盛り上がってたな、今日。でもなー。あの状況じゃあなぁ…。
「俺らのお姫さん次第やな」
「ははっ、だなぁ」
奏輔も意外と諦めきれていなかったらしい。笑って流し…ん?流そうと思ったがちょっと待て。
「そうだっ!思い出したぞっ!奏輔、お前、何の試練もなしに美鈴ちゃんにお兄ちゃんて呼ばれてただろっ!」
ずるいぞ、てめーっ!
恨みと妬みの念を込めに込めて訴えると、「そういえばそうだっ!」と大地が便乗してきた。
「別に問題ないやろ。鴇もなんも言わへんかったしな」
うぐぐ…、差別だ…。脳内で「区別だろ、馬鹿」と言われてる気がするが無視だ無視っ!
「それはさておきー。さっさと帰って、オレは兄貴達に美鈴ちゃんのご飯食ってきたって自慢してやろー」
大地のあっけらかんとした態度に、俺と奏輔は呆れると、そのまま各々の家へと帰っていった。
閉店作業中の実家である肉屋の裏側に周り、玄関から家へ入る。
「あれ?透馬お帰り」
「おー。って、おい、七海(ななみ)。お前、兄貴の名前を呼び捨てにすんなっての」
「あーはいはい。透馬お兄様、お帰り。んな事より、ちょっと聞きたいんだけど」
「なんだよ」
「ここの問題なんだけど」
「あぁ?」
靴を脱いで、可愛げのない妹の前に立ち、持っていた教科書を覗き込んで、解らない問題とやらを見る。
「あぁ?こんな簡単なのも解らねーのか?」
「解らないから聞いてるんだろ」
「っとに、仕方ねぇな。ここにこっちの数字を代入して…」
ペンを奪い取り、そのノートに問題を解き方を書く。
「はー?なに、どゆこと?全然流れが解らないんだけど」
「なんでだよ。だーかーらー。ここが…」
同じ説明を、回を増す毎に噛み砕き、砕いて砕いて、六回目で漸く理解した。
「あー、ほんっと透馬って説明下手くそ」
「自分の理解力がないのを俺の所為にしてんじゃねぇよ。んな事言うなら今後教えねぇぞ。てめぇ一人でやれ」
「えーっ!?ちょっと、透馬、心狭すぎでしょっ!」
「どこがだよっ!お前ちょっと鴇んトコの妹見習えよっ!」
美鈴ちゃんの可愛さを、俺達の姫の可愛さをマジでこの妹に見習ってほしい。
俺達兄妹は親父譲りの紫髪。お袋譲りの赤い瞳。だが決定的に違うのは肌色だ。俺は、シルバー細工が好きでもっぱら家から出ない所為でどちらかと言えば白い方だが、妹は女子サッカー部に所属している所為で真っ黒に焦げている。
顔はそっくりでもその所為で、妹は昔から弟に勘違いされる位だ。ボーイッシュな髪形がまたそれを増長させている。
「鴇君とこの妹?あぁ、父さんと母さんが溺愛してるって言うあの美少女?なに?そんなに可愛いの?」
「お前とは月と鼈、いや月と饅頭位の差はあるな」
「ふぅん…。様々な女を見てきた透馬がそう言うならよっぽど可愛いんだね。会ってみたいな~」
「許さんっ」
「何でよっ!」
「汚れるっ!!」
「それどういう意味よっ!!」
美鈴ちゃんが七海に似たら、俺は鴇にどうやって誤ればいいか…。土下座しか思い浮かばない。
…鴇が俺達に近づけたがらない理由が少し分かった気がした…。
七海と丁々発止やり合いながら、自室へ戻って、鞄をベッドに放り投げる。
机の上にある作りかけのシルバーアクセを手に取って、ふと思う。
(…美鈴ちゃんに何か作ってやろうか…)
今日怖い目に合わせたお詫びと何時も美味しい食事を出してくれるお礼に。
(何の形がいいだろう…?)
椅子にどっかりと座り込み、ノートとシャーペンを手に思い浮かぶ図案を書き記していく。
(野郎に作る分にはドクロとか十字架とか少しゴシック系の何かでいいし、同い年位の女子ならクラウンとか蝶とかモチーフは色々あるけど。六歳の女の子、かぁ…。やっぱり指輪やブレスレットよりはネックレス、だよなぁ…)
ノートにネックレスの案を何通りか書いてみる。
(桜とか花も良いけど…)
でもなんでだろう。美鈴ちゃんには花ってイメージがまだ浮かばない。年齢的なものだろうか?
何度も言うが六歳児だからな…。
そう言えば…。ふと今日美鈴ちゃんが生徒会室へ入って来た時の姿を思い出す。フリフリレースの真っ白チュニックに同じく真っ白なふわふわミニスカート。そして熊のリュック。
「あぁっ、熊っ。熊にしようっ」
熊にクラウン被せたりしたら可愛いだろう。うんうん。
一つモチーフが決まると、すらすらと形が思い浮かぶ。
決まった図案に満足すると、早速作業に入る。
俺は、朝日の神々しい光が俺の目を突き刺すまで、作業へ没頭するのだった。
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