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最終章 数多の未来への選択編

第三十三話 兎の涙は報われる?彼の心を奪還せよっ!

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「これっ、絶対に死ぬ奴じゃなああああああいっ!!」
全力で叫んだ所で状況は変わらないのよーっ!!
落下してますっ!落下してるんですよーっ!
一先ず気味の悪いクローンは体から引きはがして、蹴り飛ばす。
私が離れてもあっちが離れても問題はない。恐怖から離れられるならそれでいい。
発狂する前に離れられてホッとしつつ考える。
何を考えてるかって?勿論、生存方法である。
そもそもさぁー。ヘリから落ちるなんて体験普通にする人いなくなーい?いたとしても少数派だよねー。
「私落下経験多いよねー。その度に皆に助けて貰ってるけどさー。そろそろ自力でどうにかする術を覚えるべき?」
落下中だけど、空中で正座しつつ考える。
「美鈴ちゃんっ!!」
「へっ!?」
頭上から声が響いた。
ちょっと待ってっ!なんでっ!?
「優兎くんっ!?」
「美鈴ちゃんっ!手をっ!って、何で正座してるのっ!?落ち着き過ぎでしょうっ!?」
手を伸ばせと再度言われたので私は手を伸ばす。
すると優兎くんは私の手を取りぐっと自分を私の側に寄せて来た。
先に下に落ちてるのは私だからね。そこは優兎くんの方が体を寄せなきゃ追い付けない。
「何で優兎くんまで落ちて来てんの?」
「何でってっ、ほらっ」
優兎くんが指さした場所を見上げると、そこには落下しているヘリと落下している樹先輩と猪塚先輩が。
「もしかしてあっちもクローンが?」
「そう言う事。ただあっちは僕達三人しか乗ってなかったから、争った上でこうなったよ」
こう?とは、どう言う事?
と問う前に、優兎くんが答えをくれた。
私の腰に手を回して、がっちりと捕まえてくれると、バンッと布の開く音が聞こえて体が上へと引っ張られた。
「もしかして、パラシュート?」
「その通り。暫く風に流されるだろうけど」
「それはまぁ仕方ないよ。命があるだけ恩の字ってね。ゆらゆら流されようよ」
「美鈴ちゃんってそう言うとこ、変に肝が据わってるよね」
「ふみー?」
「…まぁ、美鈴ちゃんだもんね。美鈴ちゃんも僕にちゃんと捕まっといてね。僕も離すつもりはないけど」
「了解っ!」
ガシッと私も優兎くんの腕をしっかりとつかむ。
風に流されつつも、海の上を旋回する。
「う~ん…危機的状況なのは変わらないけど、夜の海って綺麗ねーと思う自分もいる」
「美鈴ちゃん。もう少し緊張感持とうか」
「だって、正直今出来る事って他になくない?」
「それはそうだけど」
「緊張状態をキープしてたら返って神経やられちゃうよ」
「…うっかり頷きそうになるけど、騙されないからね」
「駄目かー」
そろそろ海に着水しそうだなー。

―――パンッ。

「えっ!?」
今の音、何っ!?

―――パンパンッ。

「今度は二回?」
一体何の音?
「…くっ」
えっ!?今の声はっ!?
私は嫌な予感がして、振り返った。
「優兎っ!?」
慌てた。思わず、体を動かしてしまう位に。
「美鈴ちゃんっ。駄目だ。離れないでっ」
「だ、だってっ、優兎っ、怪我っ」
「だからだよっ。君を落とす可能性があるんだから、動かないでっ」
「こんだけ海が近かったらむしろ落としてくれて構わないよっ!死んだりする高さじゃないものっ!それより優兎が海に落ちる方がヤバいでしょうっ!」
「…大丈夫だよ。ただのかすり傷」
「そんな訳ないでしょ!頭からそんなに血を流してっ!」
今の音は銃声だった。
しかもそれは、優兎くんを狙っていた。
一発は優兎くんの額を。一発は優兎くんの右肩を。一発は優兎くんの左腕を。
「大丈夫だよ。本当に全部かすっただけなんだ」
「でも、それで海に落ちたり、血を流し過ぎたりしたらっ!」
「大丈夫。大丈夫だから」

―――パンッ!

またっ!?
「優兎っ!」
「大丈夫、僕には当たってないよ」
「えっ!?本当、にっ!?」
ガクンッ。
一気に重力が増した。
「…やられた。美鈴ちゃん。パラシュートをやられたみたいだ」
「えっ!?」
「美鈴ちゃん。海に落下するよ。構えて?」
パラシュートで抑えられていたスピードが銃で撃たれた事により増していく。

ボチャンッ!!

あー…落ちた。
アクセ外しとこ。失くしたら嫌だし。…うん。オッケ。
まだ海水は冷たいなぁ…って私がそう感じるんだったら、怪我をしてる優兎くんはそれ以上にっ!
慌てて体ごと振り返る。
優兎くんもこっちを見て笑ってる。
「いや、笑ってる場合じゃないからっ!」
「あはは」
「あははじゃないっ!どっか陸地に、海から上がって止血しないとっ」
「そうだね。美鈴ちゃんを乾かさないと」
「私じゃなくて優兎が先っ!ほら、力抜いて。私が運ぶから」
「え?いや、大丈夫だ」
大丈夫だから、と優兎くんは言おうとしたんだろう。
だけど、優兎くんは言わなかった。
…正しくは、言えなかった。
急に頭上からの風圧。風の所為で波が起こり、私と優兎くんの体が引き離されて行く。
バラバラバラとプロペラの回る音がする。
両腕が上手く動かせない優兎くんは風で起こされた波に抗えず流されて行く。
「優兎っ!!」
私は咄嗟に手を伸ばす。だけど、その手は―――。

「触らないで頂こうか。白鳥の小娘」

ある声に遮られた。
白鳥の、小娘ですってっ?
顔を上げた。
優兎くんの側に縄梯子が降ろされて、それに捕まりながら私を睨み付ける仮面の男。
「貴方は…」
「……解る、か。一度しか私とは会った事がないはずだが」
「残念ながら私、自分に喧嘩を売って来た人の事を忘れる程馬鹿じゃないの」
「…気味の悪い女め」
仮面の奥の目が嫌悪で細められる。
「…まぁ、いい。まずは、私の―――を返して貰おう」
男の手が優兎くんの腕を掴む。
「優兎っ!?」
私は慌てて優兎くんの逆腕を掴んだが、優兎くんの反応がおかしい。
普通なら暴れるなり私の腕を逆に掴んでくれたりしてくれそうなのに。
「優兎くん…?」
嘘、もしかして、意識、ない?
「……何したの?」
グッと優兎を掴んだ。そして仮面の男を睨みつける。
「優兎に何をしたのっ!?」
「お前に言う必要はない、と言いたい所だが、特別に教えてやろう」
何コイツ。
声だけでも解る。……笑ってる。
「今の優兎は私の敵なんでね。味方になって貰うにはしっかりと説得する必要がある。一対一で『会話』しないといけないだろう?だから、一先ず眠って貰ったんだ。二人っきりで『会話』をする為にな」
「そんなことさせないっ!」
「…今のお前に何が出来る?海の真っただ中で、小娘一人意識を失った男を抱えて何が出来る?」
「少なくとも優兎の心を守る事は出来るわっ!」
「『心』とな?ははっ、ふはははははっ!いいかっ!コイツに心は要らないのだよっ!」
「優兎っ!!」
こんな奴と会話なんか意味がない。優兎を取り戻すのが私の今出来る事だ。
掴んだ腕を力の限り引っ張る。
「小娘、手を離せっ」
「離してたまるもんですかっ!」
全体重をかけて優兎の腕を引っ張る。
「ッ…」
優兎の痛がる声が聞こえた。そうだった。腕を、肩を怪我してるんだった。
…でも。
「優兎っ、ごめんっ、だけど我慢してっ!」
今手を離したら駄目だっ。優兎にも我慢して貰う。
力の限り引き寄せる。すると、やはり下から引っ張る力の方が強いのだ。
仮面の男が縄梯子を掴んでいるから尚更バランスを崩しやすいのだろう。
「チッ」
舌打ちが聞こえた。
男が私の肩の方へ足を向けた。
ガツッ。
「…っ、…!」
肩を蹴られた。
けど、手は絶対離さない。
ガツッ、ガツッ!
絶対に、絶対に離すもんかっ!!
何度蹴られても私は優兎くんの腕を絶対離さなかった。だけど…。
「おいっ!こいつを撃てっ!死んでも構わんっ!!」
上へと向かって仮面の男は叫んだ瞬間、

―――パンッ!

男がして、肩に熱が走った。
しまったっ!?
と思った時には遅かった。
一瞬だけ力が抜けてしまい、その隙に仮面の男は優兎くんを担ぎ上げて。
私が手を伸ばした時にはヘリは上昇してしまい、
「優兎っ!!優兎ぉっ!!」
必死に追い掛けるも、空にいる相手に水中にいる私が追い付けるはずもなく。
遠ざかる仮面の男が高笑う声だけが響いた。
「………やられたわ」
かすり傷の一つや二つ、我慢出来たのに。
目の前で優兎くんを持って行かれるとは…。
右肩に手を当てると、ぬるりと水とは違う感触がした。
「…あーあ、どうしようかな…」
ぼそりと呟きながらも私は自分の耳に触れた。
そこにはもうイヤリングは無い。
さっき外したから、と言うのもあるけど、外した物を入れた私のポケットにもない。
何故なら、私が優兎くんの服の袖に咄嗟にくくり付けたから。
あのイヤリング、華菜ちゃんに貰ったんだけど、絶対に何か仕込んでるだろうなと思っていた。
だからきっと優兎くん追跡に役立ってくれると思ったんだ。
…それはそれとして。
「どうしよっかなー…」
ゆーっくりと背泳ぎするようにぷかぷかと浮く。
優兎を追い掛けなきゃいけない。
けど、それよりまず私を発見して貰わないといけないんだよねー…。
こんな広い海の真っただ中。
そんな簡単に私を見つけるなんて出来ないよねー。
漁船でも陸地でも何でもいいから見つけないと、だわ。
まずはかすり傷と言えどきちんと縛って止血して、と。
口と無事な手で服の肩を千切って、手早く止血をする。
で、いざ泳ぎ出そうとした時。
私が進もうと思っていた方向から、エンジン音が聞こえた。
船?
だとしたらラッキーっ!乗せて貰おうっ!……男性じゃない事を祈りつつ…。
一先ず手を振って…?

「美鈴ーっ!!何処だーっ!?」

ラッキー所じゃなかった。
もう確実に助かる。だって。

「美鈴ーっ!!返事しろーっ!!」

鴇お兄ちゃんの声なんだもんっ!!
私は大きく息を吸って、
「鴇お兄ちゃあああんっ!!私はここぉーっ!!」
全力で叫んだ。
私の声に直ぐに気付いてくれた鴇お兄ちゃんは、水上バイクを走らせて私の方へと来てくれた。
「美鈴っ!無事かっ!?ほら、手を貸せっ!」
「無事と言えば無事。無事じゃないと言えば、無事じゃないかも」
と言いつつ無傷な方の手を伸ばして鴇お兄ちゃんに引き上げて貰うと、まぁ、バレますよね。肩の傷。
「…急いで船に戻るぞ。そこで話も聞く。いいな」
「うん…。ごめんね、鴇お兄ちゃん」
「どうした?どこか他にも痛い所でもあるのか?」
「ううん。そうじゃなくて。あのね?私、今すっごく怒ってるの。助けてくれて本当にありがとう。だけど全速力で戻ってくれる?手当てしたら即行動に移りたいの」
にこにこと怒りながらも言うと、鴇お兄ちゃんは盛大に呆れたと言いたげな顔をしながらも頷いてくれた。
「……はぁ。分かった。しっかり捕まってろよ」
「うんっ」
鴇お兄ちゃんの後ろに乗って、私はがっつりと鴇お兄ちゃんに掴まった。
そして、鴇お兄ちゃんは私のお願い通り全速力で安全な場所へ戻ってくれた。
立派な船で私を迎えに来てくれた皆は、私の姿を見るなり顔を青褪めさせたが、それ以上に私が怒っている事に気付いて、話を聞く為に手当てを優先してくれるのだった。
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