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最終章 数多の未来への選択編

※※※

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「ハニーっ!!」
「ダーリンっ!!」
ガランガランッ。
鐘の音が消されるくらいの声で愛を伝えあっている二人を私達はとぉーい目で眺めていた。
今日は結婚式だ。
…………樹財閥の幹部社員の。
じゃあ最初の声は何?ってそれは勿論、桃と巳華院くんの声である。
で、何で桃と巳華院くんの言葉が聞こえるかと言うと。
隣で、「いつかこんな結婚式がしたいねー」「そうだねー」「でも私は神社、和風でもいいなー」「私もそう思うー」「じゃあ、二つやっちゃう?結婚式なんて何回あってもいいよねー?」「そんな事したらダーリンの格好良さが皆に伝わっちゃう」「それを言ったら私だってそうだよー」「ダーリンっ!」「ハニーっ!」ぎゅー。
って流れが隣で繰り広げられているからである。
「おい、美鈴。主役を食うなって言ってやれよ」
「樹先輩こそ言ってあげてよ」
「いや、無理だろ。あれ」
「うん。無理だよね。あれ」
私と樹先輩は再びとぉーくに目をスッ飛ばした。
「…さて。俺の役目は果たしたし。俺は行くが、美鈴はどうする?」
「皐月さんのお見舞い?行く行く」
結婚式に顔を出した事で義理は果たせたと、私と樹先輩は盛り上がってる二人に後を任せて会場を出た。
樹先輩の車に二人で乗り込んで、私がシートベルトをしたのを確認して樹先輩が車を発進させた。
「美鈴。次の会合なんだが…」
「だから、何度も言ってるけど、ここは絶対専属契約しておいた方がいいよ。二年、ううん、もしかしたら今年中にヒット商品を出すよ」
「……だが、あそこの社長は…」
「大丈夫っ!樹先輩のお尻触られても私は痛くも痒くもないよっ!どやっ!」
「お前はなっ!」
「あははっ。冗談だって。大丈夫。私もこの会合には顔出すよ。丸め込もう」
「……はぁ、分かった。やるからには徹底的にやるぞ」
「おーっ!いたっ」
「お前、車内だって忘れて思い切り手あげただろ」
「うんっ!」
「あほか」
丁々発止しながら、それでも互いに笑いながら私達は病院へと向かった。
何で病院に向かっているのか。
それはさっきの会話で出て来たとおり、皐月さんが入院しているからだ。
何で皐月さんが入院しているのか。
これは樹先輩から後で聞いた話なんだけど、皐月さんはあの都貴静流って奴に刺されたらしいんだ。
そもそもね?そもそもどうして樹先輩も皐月さんも都貴家にいたんだろう?って当然思うじゃない?
それを確かめようと樹先輩に聞いたら、樹先輩も解らないって言うんだよね。
何なら樹先輩はあのクローンホテルに閉じ込められた時の事も曖昧だって言うの。
それを改めて聞いた時、私の事は覚えてるのっ!?と襟首掴んでゆっさゆっさと揺さぶっちゃったよ。
気持ち悪くなるから止めろと言いつつもちゃんと覚えてくれてたから良いとして。でも、クローンホテルの中での事は殆ど記憶からなくなってるって言ってたから、都貴静流と樹先輩の間にあったいざこざ?らしきものは完全になくなっちゃったんだろうなぁ、って思う。
そうそう。都貴静流と言えば、あの都貴社長が率いていた都貴グループは樹先輩の財閥に吸収された。事実上の倒産である。
当然と言えば当然だね。だって、社長も跡取りも既に亡くなっていて、奥さんと娘である心愛さんは都貴に関わるのはもう嫌だと宣言しているのだから。
因みに都貴社長の奥さんは都貴社長と無事離婚した。クローンとは言え、一応都貴社長として動いていたので、しっかりと離婚は成立した。その後は、白鳥の方で面倒をみている。
生粋のお嬢様の面倒を見るのは慣れてるからねっ!…と言うより、生粋のお金持ち集団が我が家には何人もいるし、それをフォローする皆様も沢山いるし…。庶民感覚もある家だからどっちの感性も鍛えられるよ、うん。
あと私が嫁に行ったから、家の管理を頼みたいってのもある。お兄ちゃん達も独り立ちしちゃったしね。優兎くんもFIコンツェルンの立て直しにいなくなっちゃったし。
今家には家事が出来る人が少な過ぎるのよねっ!たまに私が里帰りして掃除とかしてるけど、おっつかないっ!
旭や三つ子は、流石にまだ家事を全てやるにはちょっと…だし。居て貰えると逆に助かる。ママの家事能力皆無なスペックが全部三つ子に行っちゃったのかもしれない。しくしくしく…。
「…美鈴?」
ぼんやりと脳内散歩していた所為か、病院に着いたのに気付かなかった。
私の方の助手席のドアが開けられて、樹先輩が身をかがめて私の顔を覗き込んだ。
「ふみ?」
「ふみ?じゃねぇよ。どうした?どっか痛いのか?」
「ううん。大丈夫。ちょっと脳内散歩してた」
「…脳内で転ばないようにな」
「樹先輩、そのやれやれって仕草はどう言う意味?」
とりあえず樹先輩に噛み付きつつ、私は車を降りた。
樹先輩と並んで歩きつつ、病院の側にある花屋さんでお見舞いの花を購入して皐月さんがいる病室へと向かう。
病室の中は相変わらず静かで。
「母上。今日も随分気持ち良さそうに寝ていますね」
言いながらゆっくりと皐月さんに歩み寄り、その手にそっと触れた。
樹先輩が言うには、皐月さんが刺された場所はもうすっかり完治しているらしいんだけど、刺された時の精神的なショックで意識を閉ざしてしまい目を覚まさなくなってしまったんだって。
何時目覚めてもおかしくないし、逆に言えばいつまでも目を覚まさないかもしれない。
精神的な大ダメージを受けたからそうなったのであれば、逆に嬉しい精神的なショックを受ければ戻るのかもしれないね。
私は樹先輩が皐月さんと話している間に前に来た時に飾った花瓶の花と今日持って来た花束を生ける為に病室を出た。
しかし、皐月さんが受けた精神的なショックってなんなんだろう?
樹先輩が刺されそうになったのを庇った時にナイフで刺されたって言ってたよね?
じゃあ、大事な息子が刺されそうになったから、そのショックで?
でも、皐月さんってそれでショックを受けそうなタイプではないと思うんだよね。
だってママと良くお茶してるし。ママの友達って皆強いからさー。皐月さんだって怒って反撃に出るのはあり得そうでも、ショックを受けて寝込む、まして意識を失くす、閉ざすなんてあり得るのかな~?
何て言うの?こう…そう、違和感があるんだよね。
例えて言うなら、私から前世の記憶を全て抜き取られた、…的な?
本来の自分には無かった筈の物が、ある時を境に急に入れこまれて、そしてそれが馴染んだ時に急に抜き取られた…みたいな?
そんな感じ。
自分でもどう言う例えよ?、と思うけど、何かそんな感じがするんだよね。
これもゲームヒロインの勘って奴なのかな?察知能力?
花瓶にもう散ってしまった花を抜き取って持って来た花束をまとめて活けて来た道を戻る。
空いた穴を元通りに戻すのは難しいって言うけど、それを違うもので埋めてあげるってのは鉄則と言うか定番、だよね?
多分なんだけど、皐月さん、私達の声は聞こえてるんじゃないかなぁ?
それと言うのも、実は樹先輩が仕事に行っている間、私何度か個人的にお見舞いに来てるんだよね。
その時、何度も話かけるんだけど、樹先輩の事を話すと寝顔が穏やかになるの。
きっと楽しいんだと思うんだ。樹先輩の話を聞くのが。
無意識なのに、樹先輩の事ずっと気にしてるって事だよね。流石母親。
で、もし皐月さんに私達の声が届いてたとして、少し前に考えていた事に戻るんだけど。
嬉しい衝撃、みたいなショックを皐月さんに与える事が出来たら、ワンチャンあるんじゃないかなぁ。
なんてことをつらつら考えつつ病室に戻ると、樹先輩が皐月さんの横に椅子を移動させて座っていた。
今日あったことをゆっくりと説明している樹先輩の顔からは優しさが溢れていた。
それが少し嬉しくなり、私はその空気を邪魔しないようにそっと足音立てずに近づいた。
「ん?あぁ、美鈴。悪いな」
「気にしない気にしない。どう?皐月さん」
「…相変わらずだよ」
「そっか」
花瓶をベッド脇の棚に置いて、私は樹先輩の隣に椅子を移動させて座った。
「…美鈴。さっきお前が花瓶に花を活けに行っている間に主治医が来てな」
「あ、そうなの?それで?どうだって?」
「……色々近況とか状態とか聞いて」
「うん」
「……連れ帰る事にした」
「そうなの?」
「あぁ」
「看病する為の準備は出来てるの?」
「いや。これからだ。……なぁ、美鈴」
「なぁに?」
樹先輩に呼ばれたので樹先輩の方を向く。
俯いてる先輩が、何か覚悟を決めたようにグッと顔を上げた。
「……離婚、しよう」
「え?」
「ずっと考えてた。お前は俺の会社の為に結婚してくれた。所謂政略結婚だ。それでも、お前が手に入るならそれで良いと俺はそう思っていた。だが…」
「うん。だが?その先は?」
「…白鳥財閥は、元々この事件には関わり合いがなかった。お前の…お前と白鳥の一家の総力で守られていた。なのに全く関係なかったのにお前は手を差し伸べてくれた。いつも、お前はそうだ。俺が苦しい時にいつも手を差し伸べてくれる」
「…そんな事はないと思うけど。…まずは全部聞くよ。それで?」
「そんな、そんな情けない状態のままで俺はいたくないんだ。それに、今のままだとお前は強制的に介護だってついてまわる。そんなの嫌だろう?」
苦笑を浮かべて樹先輩が私を見た。
樹先輩。解ってないね。うん。全く解ってない。そう言う事言う自体が―――。
「情けな「情けないわっ!!」」
………ん?
何かセリフをジャックされたぞ?
私が目を真ん丸にしていると、樹先輩がニヤリと笑った。
あ、これは、気付いてたな。
「ちょっと、龍也くんっ!?貴方情けなさ過ぎるわっ!!今すぐにその根性を叩き潰す…叩きなおすからちょっと表に出なさいっ!!」
声の主は私の母親である。
相変わらず全く年のとらない容姿でつかつかとヒールを鳴らして私の側にまでくると、樹先輩の頭をぺしぺしと叩いた。
「男ならねぇっ、女の一人や二人、政略結婚とか理由がどうでも幸せにしてみせなさいっ!!結局男と女なんて相性よ、相性っ!!性格にしても、セッ」
「そぉーいっ!!」
ここに取り出したりますは、セロハンテープでござーい。
すぐに二枚きり取り、バッテンを作ってママの口にてーいっ!
「ふごーっ!」
「ふぅ。何とかなったわ」
「美鈴。お前母親にこの仕打ちか?」
「大丈夫。ママは慣れてるっ!」
腕を組んで大きく頷くと、隣でママも大きく頷いた。
「ふふっ。相変わらずですわね」
その声に驚いてベッドを見ると、そこには柔らかく微笑む皐月さんの姿があった。
「母上。いつから意識がお戻りに?」
「たった今ですよ。あまりにも情けない息子の発言が聞こえて、どうしても一言言いたくてもがいていたら目が開きました」
「……大丈夫ですよ。あれは方便ですから」
「…本当ね?」
「本当です。俺は、今更美鈴を手放す事なんて出来ないんですよ。例え、美鈴が俺を嫌っていたとしても」
「知ってます?皐月さん。しつこく女性を追い掛ける人の事を世間ではストーカーって言うんですよ?」
「あら?初耳ですわ」
「おい。ひそひそ話してる風でいるが全部聞こえてるからな」
全員で笑い合う。
「意識戻ったのなら、看護婦さん呼ばないと」
私は立ち上がり廊下の方へと行くと看護婦さんを呼び止めて、皐月さんが意識を取り戻した事を伝えてまた戻る。
そう言えば、ママは何しに来たんだろう?
「ママ。ママも皐月さんのお見舞いなの?」
「そうね。お見舞いと言うか、誠さんから手紙を預かったのよね」
言いながら、二本の指で手紙をピッと取りだした。
「誠パパから?」
「そう。でも今は起き上がれないだろうし、はい、龍也くん。貴方が代わりに読んであげなさい」
差し出された手紙とママを交互に見て、樹先輩はその手紙をゆっくりと受け取った。
そのまま皐月さんの方を向くと、皐月さんは一言「読んで」と答え、樹先輩は封筒を開けて中から一枚の便箋を取りだした。
四つ折りにされているそれを開くと、樹先輩は読むぞと一言言って皐月さんの同意を確認して言った。
「『償いは終わった。もう解放されていい。―――ありがとう、そして、すまなかった…』…償い?…これは一体…母上っ?」
樹先輩が驚くのも無理はない。だって皐月さんが泣いているんだものっ。
私は慌てて拭くものを探す。
あぁっ、ハンカチがこう言う時に限って見つからないっ。
一先ずボックスティッシュを取って樹先輩にパスした。
受け取った樹先輩も困惑しつつ、ティッシュを二枚とって皐月さんの眦を拭った。
「龍也。私の手にそれを握らせてくれるかしら?まだ、思うように力が入らないの」
「分かった」
樹先輩は皐月さんに便箋の文章をきちんと見せてから綺麗に折り畳み、その手に握らせた。
「ありがとう…。龍也。本当に、ありがとう…。それから、ごめんなさい」
「何で謝るんだ?」
「……何ででしょうね。私にも解らないのだけど。そう、言いたくなったの」
微笑む皐月さんの顔は言葉とは裏腹にとても柔らかい。
「さて、それはそれとして」
「そうね。それはそれとして」
「「さっきの離婚についてなんだけど」」
あ、樹先輩の顔が笑顔のまま凍った。器用な事を。
「行くぞ。美鈴」
「ふみ?ふみみ?」
ガシッと腕を掴まれ、早足で歩きだす樹先輩に引き摺られるまま私は病室を出た。
一応二人に手を振ったけれど、二人は気にせずに何かを会話をし始めたので、気付いては貰えなかった。寂しー。
さっさかと病院を抜けて、車に乗りこみ、樹先輩は車を走らせる。
「樹先輩、何処行くの?」
「……お前にご当地のソフトクリームを奢ってやろうと思ってな」
「うむ。行こうっ」
ご当地名物、好き。素直に助手席の背もたれに体を預ける。
「お前、簡単に釣れ過ぎだろ」
「えー?そんな事ないよー」
「ちゃんと人を見極めろよ」
「選んでるでしょう?ちゃんと」
胸張って言えるんだけど?
ちゃんと自分を守ってくれる人の側にいるでしょう?
樹先輩はどんな時だって自分の体張ってくれたじゃない。
自分が大変な時だって私を優先してくれたじゃない。
ちゃんと…解ってるよ。例え樹先輩が覚えていなくても。私は全て覚えてる。
「…そう言えば、心愛の事だが」
「ふみ?」
急な話題転換に疑問を覚えつつも私は素直にそれに乗っかった。
恐らく樹先輩の中で整理がついていないのだろう。
私はそれを大人しく待つ事にした。
車は高速に乗り、途中サービスエリアで唐辛子ソフトを購入し、うまうまとそれを食べつつまた車に乗りこんで辿り着いたのはちょっとした小高い丘の小さな自然公園だった。
私達の暮らす街が一望出来る場所で。
「おおー。絶景だねー」
「…幼い時に父上と一緒に来た場所だ。あの時は父上が、あんな愚行を行う人だと思わなくて。ただただ父上を尊敬していた」
「ん。分かるよ。…父親だもんね」
頷いて微笑むと樹先輩も同じように微笑む。
きっと樹先輩の中で色んな感情がぐるぐる渦巻いているんだろう。
樹先輩は深く深く息を吐いて、私と真っ直ぐ向き合った。
「…美鈴。俺はさっき佳織さんをあの場に引き出す為にあの言葉を言った。でも、そうでなくてもいずれ言うつもりだった」
「うん。それで?」
「あの言葉は本音だ。俺はお前の横にいる資格なんてきっとないんだ。覚えている限りでもお前に俺は酷い事しかしてないだろ?」
「うん。まぁね」
「くくっ。ハッキリ頷きやがるなぁ、お前は」
「事実だよ?」
「そうだな。事実だ」
「だけど、まだ、続きがあるんでしょう?」
私がそう返すと樹先輩は驚いて、苦笑して頷いた。
「……母上が刺されたあの時から、俺の記憶は所々欠如した。美鈴の話を聞く限りだと【都貴静流】の事に関する所だけが全てごっそりとなくなっている」
「うん」
「俺はもうハッキリと断言は出来ないが、恐らくその記憶の中に、俺がお前に惚れていた記憶も入っていた」
「そう…」
「そうだ」
成程。樹先輩が私に恋愛感情を持っていない。離婚の理由はそれもあったんだね。
だとしたら、互いに一緒にいてもただ苦痛なだけかもしれないね。
何でだろう?
胸がチクンと痛む。
……少なからず、私も樹先輩を好いていた所もあるってことなんだろうか?
失恋、とまではいかないけど、それでも何処か寂しいと思っている自分がいる。
でも、受け入れなきゃね。
私は、中身が樹先輩の倍大人なんだから。
樹先輩が楽に生きられるように。笑おう。
微笑みを浮かべようとした、その時だった。
私は樹先輩に抱き寄せられた。
「………俺は駄目みたいだ」
「樹先輩?」
「こうしてお前が俺に抱きしめられて、震えるの分かってるのに、お前が俺を怖がっているって、男を怖がってるって分かってるのに……どうしようもなく、お前が好きなんだっ」
「え…?」
抱き締められる腕に力が込められる。
「好きだっ。絶対に幸せにしてみせるからっ。俺を好きになれっ、美鈴っ」
突然の告白。
その言葉は大きな熱を持って私を包んだ。
知らず笑みが浮かんでくる。嬉しいと心で感じてしまう。
「―――龍也さんらしい告白だね。相変わらず傲慢で。しかも命令してくるんだから」
「……うるさい」
「…それでも、【龍也さん】らしい言葉に私はホッとする」
「美鈴…」
私は龍也さんの胸に頬を寄せた。
「……お手並み拝見と行こうかな。言っとくけど、私のハードル、かなり高いからね」
「望む所だ」
「まず第一に私の家族を納得させてね。私が幸せでないと樹財閥壊滅くらいにはなるからね」
「………あ、あぁ」
「ちょっと、いきなり頼りなくない?ふふふっ」
「お前のハードルが高過ぎるからだろ」
「頑張れ、旦那様」
言いながら背を伸ばして、私はその綺麗な顔の頬にキスをする。
すると嬉しそうに笑って龍也さんはまた私を抱きしめた。

これから、恐らく私達は一杯一杯喧嘩するだろう。

でも、その度に仲直りして二人の絆を深めていく。

男性恐怖症はきっと治らないと思うけど、彼はそれすらも受け入れてくれたから。

メインヒーローの懐は思ったよりも深くて―――。

メインヒーローの愛は思ったよりも重くて―――。

それでも、私はそのメインヒーローの行く末を誰よりも側で見ていたい。

それを支えて、彼を守って、共に歩いて行きたい。

だから、少しだけ待ってて。

私の貴方への感情もきっと遠くない日、【恋】になるから―――。




樹編完
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