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最終章 数多の未来への選択編

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「鈴ちゃん。魚の玩具一通り持って来たけど」
帰って来た葵お兄ちゃんの手にはリュックがあり、その中を覗くと大量の魚の玩具が入っていた。
一先ず床に全部出して、それぞれ確認してみる。
うぅ~ん?それらしいのは一つも…ないなぁ。
適当に一つずつ投げ入れて見る?ってあれ?
「葵お兄ちゃん?これは何?」
「うん?あれ?こんなの僕入れたかな?そこにあった魚の玩具をガサッと入れて来たから横にあったのも入ってしまったかも」
「そうなんだ。…これってあれだよね?」
私はリュックからセーラー服の女の子のフィギュアを取りだした。
「あ、制服の色が違うだけで同じフィギュアだね」
「うん。ゲームで言う所の2Pカラーみたいな?」
「え?」
「いや、なんでもないです。はい」
私が持っていたのは青と白のセーラー服。葵お兄ちゃんが持って来たのは赤と白のセーラー服。
「……あ、もしかして…」
さっきのケンタウロスと同じで神話繋がりじゃない?
私は手近にあった水槽にセーラー服の女の子を付けてみた。すると…。
「これは…凄いね」
「うん」
セーラー服の女の子のフィギュア2体が光を放って、足が魚に…要するに2体とも人魚になった。
「…うん?見て、葵お兄ちゃん」
「どれ?」
「水槽の下の方に何かいる」
「…ヒドラ?」
「にしては形がおかしいよ…えっ、ちょっと待ってっ」
嫌な予感がして私は大慌てで、人魚に変わったフィギュアを取りだす。
そして水槽から距離を取る。
水槽の中にいる何か。最初は黒い影にしか見えなかったそれがどんどん膨らみ大きくなって行く。
影は人の形を成型して行き…やがて肩と思わしき場所から何匹もの蛇が現れて…。
顔の目の位置に赤い火の様な目が…これ絶対ヤバい奴っ!
「間違いなくテュポーンじゃんっ!」
「テュポーンは諸説あるけど、確か倒したのはゼウス…」
「ゼウスと言えば…」
周囲を確認して何か、【電化製品】を探す。
あぁ、もうこれで良いかっ。
水槽に酸素を送り込む機械を水槽から取り外して、コードが繋がれたままその水槽の中に放り込んだ。
水槽の中に一気に電気が走る。
バチバチと火花を散らして走った電気はテュポーンを見事感電させ、もう一度影へと戻し霧散させた。
するとその影の代わりに現れたのは、またしても水槽一杯のメダルが現れた。
葵お兄ちゃんが確認すると、それはやはり魚座のメダルだったようだ。
「これで、メダル全て揃ったねっ」
「そうだね。それで鈴ちゃん。どうする?」
「まず備品室に行って、このメダル、はめ込んでみよう」
「分かった。備品室だね」
使ったフィギュア関係を鞄に詰め直して、私と葵お兄ちゃんは備品室へと向かった。
目的はこの床にあるメダル穴である。
私はリュックを置いて、中から各一枚ずつ取りだして目の前に並べた。
「どこに何を嵌めるか、鈴ちゃんはもう分かってるの?」
「……何となく検討は付いてるの」
前に私が閉じ込められていた部屋で見た、ドイツ語のメモ。

【12の星。正しき配置】

と言うあの言葉。それから、気になっていたことが四つある。

【『ヤギ』は『北』の山へ向かう】
【『双子』の写真が置かれていた『南』棚】
【『ラム』肉お徳用パック。お肉の都『東』店限定販売】
【『秤』が『西』洋の物】

この四つだ。
広告の内容だったり写真だったり、そこを気にするのは可笑しいと理解はしている。偶然の可能性だって勿論ある。
でも、おかしく感じない?
こんなクローンの廃棄所に何故広告が?
写真だって南棚に置く必要はある?
秤だってデジタルがある時代に、西洋のものをわざわざ選んで置くだろうか?
間違ってたら間違ってたでまた考察したらいいんだし。
私は9×9のタイルの上段真ん中に山羊座のメダルを嵌めた。そこから時計回りにメダルを嵌め込んでいく。
二つ穴が開いている所には勿論二枚入れこんだ。
結果として、上段真ん中が山羊座、右上が水瓶座と魚座、右真ん中…ようは東に牡羊座、右下に牡牛座と…あれ?
「おかしいな?」
「何がおかしいの?」
「私の考えたのは双子座が南。下の方の真ん中にはまる筈なの。だけど…」
「順番に入れるなら、右下に牡牛座と双子が一緒に入る事になるね」
「うん。…おかしい」
「一回試しに入れてみたら?」
「うん…」
すっきりしない気持ちで一先ず順番通り嵌めてみると、タイルはファンッと音を立ててメダルを消してしまった。
「……やっぱり違うんだ」
「鈴ちゃんの予想だとおかしいのは、この双子座の所、なんだよね?」
「うん」
ちょっとタイルを調べてみようかな?
良く見ると穴が開いてたりするかもしれないし。
と思ったのが成功だった。良く調べてみると右下と下段真ん中のタイルに触れるとカタカタと動くのだ。
これはもしかしてと右下のタイルの角に手を置いて力を込めてみたら、案の定逆角が浮いたのだ。
葵お兄ちゃんがすかさずそこに手を入れてタイルを持ちあげてくれた。
で私は下段真ん中にあるタイルをスライドさせて右下へ移動。
空いた下段中央に葵お兄ちゃんは持っていたタイルを嵌め込む。すると何処に力を入れてもカタカタ言わなくなった。
改めて私はメダルを入れこんでいく。
上中央に山羊座、右上に水瓶座と魚座、東に牡羊座、右下に牡牛座、南に双子座と蟹座、左下に獅子座と乙女座、西に天秤座、左上に蠍座と射手座。
全てにメダルを嵌め終えると、さっきとは違いヴォンッと重い音を鳴らして、九つのタイルが緑色に光りだした。
「メダルが消えない。じゃあ成功したんだっ」
「でも鈴ちゃん。メダルは正しいみたいだけど、何かまだあるみたいだよ」
「え?」
「見て。あそこ。メダルが二枚ある場所」
「え?あ…。双子座と蟹座の所だけ緑で他はの三角が青い光だ」
葵お兄ちゃんがこくりと頷いた。
え?なんでだろう?
双子座と蟹座の所と他の二つメダルを嵌めるタイルの所は何が違うの?
「メダルが消えないって事は、この部屋に要因は無いって事だよね」
「そう考えるのが妥当だよね」
「と言う事はこの部屋じゃなくて他の部屋に何かあるって事?」
「双子と蟹…あ、そう言えばっ。蟹座のマークが浮き出た机のあった場所。あれって確か双子座の部屋じゃなかったっけっ?」
「あぁ、確かに」
「って事は…」
リュックに入れといた地図とメモを取りだして、えっと行く場所は水瓶座、蠍、それから……ん?これってどっちだろう?
一応、女の子のフィギュアもあるし、獅子…ライオンのフィギュアもあるんだよね。
それに乙女座の鍵で開けられる部屋と獅子座の鍵で開けられる部屋もある。
「鈴ちゃん。今度は何処で悩んでるの?」
「選択肢が二つある所があるの」
私は今考えていた事を葵お兄ちゃんに説明すると、あっさりと答えが返って来た。
「消去法にしたら良いんだよ。解る所から行こう」
「そうだね。こんな所で止まってる時間はないもんね」
出してくれた答えに納得して、リュックを背負って私達は部屋を出る。
まずは水瓶座の部屋だ。
確認の意味を込めて水瓶座の部屋の前でドアノブにある鍵穴に鍵を通して開けてみる。
うん。問題なく開いた。
早速ドアを開けて中に入る。前に入った時と特に違いはないけれど…。
部屋に置かれている真っ直ぐに机に向かうと、予想通り凹みがある。
「隣にある山羊座の部屋の方に水槽が一杯あって水瓶座とか魚座っぽいのって、ずるいよね」
ぼそりと文句を言いつつも私は凹みを確認する。
「…あれ?二つある?」
二つあって魚座っぽい物と言えば、この人魚のフィギュアだよね。元セーラー服女の子のフィギュア。
私は凹みにフィギュアを嵌めた。するとかっこを左右逆にして真ん中に横棒を入れたようなマークが机に現れた。
「…魚座のマーク。これでここは間違いなさそうだね。じゃあ、次に行こう」
頷いてくれる葵お兄ちゃんと水瓶座の部屋を飛び出し、次に行くのは蠍座の部屋。
樹先輩が最初に捕まっていた部屋だ。
蠍座の鍵を鍵穴に刺して合っている事を確認してからドアを開ける。
「でもここ、机らしい机ってあったっけ…?」
中に入って確認するも薬品棚やベッドは目に入るものの、机の様な物は…ないよね?
「鈴ちゃん。多分これじゃないかな?」
葵お兄ちゃんが何かを発見して持って来てくれた。
それは木の板で。
「これの真ん中に凹みがあるんだよ」
言いながら葵お兄ちゃんは板を床に置いた。
確かに言われた通り真ん中に凹みがある。
じゃあ、ここに置くには…多分ケンタウロスだね。射手座のフィギュア。
凹みにフィギュアを嵌め込むと、右上に向けた矢印に一本線が入ったようなマークが浮かび上がる。
うん。これは射手座のマークだ。
ならここもこれでオッケーっ!
「後は獅子座か乙女座だね」
「とは言っても手元に残ってるフィギュアはライオンだけじゃない?」
「そう言えば、そうだね」
「じゃあ行く場所は決まってる」
「乙女座の部屋、だねっ」
私と葵お兄ちゃんは乙女座の部屋へ急ぐ。
乙女座の部屋の鍵も念の為に合ってるか鍵で確認してから中へ入る。
そう言えば、ここのテーブルには凹みがあることは実証済みだ。
急いでリュックからライオンのフィギュアを取り出し凹みへとはめ込む。すると蛇の様な、Uを逆さまにしたようなマークが浮かび上がる。
獅子座のマークだっ。
「これで間違いないねっ!戻ろうっ、葵お兄ちゃんっ」
「分かったっ」
さっきっから走りっぱなしだけど、樹先輩も心愛さんも頑張ってるんだから、二人に託されたんだから休んで何ていられない。
けど、階段はしんどいっ!
と、ぐったりしてたら葵お兄ちゃんが私を抱き上げて階段を登ってくれた。うぅ、情けない…。
四階の備品室へ戻ると、タイルが放つ光は全て緑へと変わっていた。その緑の光が向かうのは…中央のタイル?
そう言えば中央のタイルって何も凹みなかったよね?
…光の中通っても平気かな?
葵お兄ちゃんに降ろして貰おうとしたら、先に私の意図を組んでくれた葵お兄ちゃんが私ごと光のタイルの上を歩いて中央のタイルを見せてくれた。
でも直に触って見たいので降ろして貰う。
慎重に中央のタイルに触れると、そのタイルだけ他のタイルと肌触りが違った。
あれ?これって…?
リュックを漁って、メダルがはまりそうな凹みがある鉄板を取りだした。
これ鉄板だと思ってたけど、ここのタイルの欠片なんじゃ…?
恐る恐るその鉄板をはめてみるとサイズがぴったりだ。
だけど…足りない。
このタイルの半分が足りないのだ。
「…どこにあるんだろう?」
「この半分のタイルだよね。…探してみるしかないかな?」
「…謎が解けてない場所、もう一つあるからまずはそこに行こう」
「分かった。案内して、鈴ちゃん」
ひょいっと軽々と葵お兄ちゃんに抱き上げられて、私は天秤座の部屋へと向かった。
ドアをぶち破って中に入るとパソコンが置かれている。
私はそのパソコンを起動すると、画面に黒い箱が映った。
だけどその画面上の箱は前と違って、各それぞれメダルがはまっていた。
大きな一面に九つのメダルがはまっている。
「ねぇ、鈴ちゃん。これってもしかしてルービックキューブ?」
「え?」
「ちょっと、いいかな?」
言いながら葵お兄ちゃんは私の背後から手を伸ばしてパソコンを操作して行く。
とても早い操作なので私は何がどうなってるかさっぱり解らないけど。メダルが葵お兄ちゃんが操作する度に変わってるのは解る。
「中央が変化ないのは解る。だから…こっちが獅子のメダル。こっちを一列にするには射手のメダルを…」
あっという間に葵お兄ちゃんは操作を終わらせたと思えば、バキンッと音を立ててパソコンが割れた。
「ふみっ!?」
ノートパソコンのキーボードの下から何か外れたよっ!?
「…あ、これタイルの残り?」
「戻るよ、鈴ちゃん」
「イエッサーっ!」
再度私は葵お兄ちゃんに抱き上げられて、四階の備品室へと戻る。
そこで手に入れたタイルの欠片を嵌め込むと、タイルの放つ光は中央のパネルへと集まる。
すると開いていたメダルの凹みが十二か所、全て緑の光を放つ。
…メダルを入れてみよう。まだ在庫は一杯あるし。
私は上から順番に嵌め込んでみる。すると、メダルが金色のメダルから、緑のメダルへと変化した。
メダルはどれも床と一体化して取り外せそうにない。
何に変化が…あれ?
他のタイルから光が消えたのは解ってたけど、良く見ると各タイルから緑のコードのようなものが見える。
それは何処に繋がって…?
目でそのコードを辿って行くと、以前操作したホログラムがある操作パネルへと繋がっていた。
その操作パネルへ駆け寄ると、パネルに『脱出操作可能』と表示されていた。
「脱出操作?…屋上への鍵が開くって事だね」
「みたい。早速動かしてみるね」
「うん」
さて、脱出するには…。どうしたらいいかな?
ここもやっぱり【正しき配置】ってのが関わってくるのかもしれない。
今、現状は上中下、右中左となってて。バラバラだからちょっと解り辛いけど、左側の真ん中に牡羊座の表示にしたんだよね。
うん。間違いない。
で、正しき配置にする。
要は、タイルに嵌めた図と同じにするってことだよね?
じゃあ…。
私は試しに下段の天秤座を左の真ん中にスライド移動させた。
ゴゴゴゴゴッ。
建物全体が揺れる。だけど、今は耐える。壊れる事はないって解ってるから、続けて行く。
遠慮も無く次々へと移動させる。
そして最後の水瓶座を移動させて…うん。これでこの建物を上空から見降ろした時、部屋の配置はパネルの配置と全く同じになった筈。
私が手を離すとまた大きく揺れ動き、音が収まると同時にガチャリッと何処かで鍵が開いた音がした。
すると突然、ビービーと建物から警戒音が鳴り響く。

『全ての謎が解き明かされました。これより復元プログラムへ移行します。建物内にいるかたは速やかに外へと非難頂きますようご案内いたします』

更に突然の館内放送。
「え?ちょっと待ってっ。どう言う事っ!?」
「鈴ちゃん?」
「復元って…。私謎だってもしもの時の為に【全て解いてはいない】のにっ!?」
「鈴ちゃん?どう言う事?」
「樹先輩の馬鹿っ!絶対に嘘だと思ったのよっ!」
「鈴ちゃんっ!?」
足が自然と走りだしていた。

全力で地下へと向かって。

葵お兄ちゃんの制止も振り切って。

葵お兄ちゃんが追ってこようとしたけれど、プログラムの起動により建物が揺れそれが拒まれた。

揺れの影響を受けないように私は中央の吹き抜けから飛び降りた。

さっきまで怖いと思っていたのに…。

思わず笑みが浮かぶがそれ以上に私は怒っていた。

―――今度こそっ、ちゃんと謝らせるんだからっ!樹先輩、覚悟してなさいよっ!!

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