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最終章 数多の未来への選択編

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「それで?いつまで鈴ちゃんを抱きしめてるつもり?」
ゲシッと葵お兄ちゃんの蹴りが樹先輩の腹に入れられた。
「しかも何泣いてるの?蹴るよ?」
「もう蹴ってるだろうが。っとに、お前達兄妹はほんと容赦ねぇな」
服の袖で涙を拭い、次の瞬間には樹先輩は私からそっと身を離して、立ち上がった。
首と肩を軽く鳴らし、背後のカプセル型の機械を睨み付け、また私達に視線を戻した。
「それで?なんでここに葵がいる?美鈴の後ろにいる女は誰だ?それに美鈴もだ。何でここにいる?俺は逃げろと言った筈だ」
「樹先輩が逃げろ何て言うから私はそれに逆らうしかなくなったんじゃないっ。ドヤッ」
「何でだよ。いらねぇよ、そのドヤ感」
呆れたように溜息をつく私に、樹先輩は説明を要求した。
説明と言われても…。
私は記憶を辿りながら樹先輩に説明する事にした。

葵お兄ちゃんを見つけて、抱き付こうとしたあと私は穴に落ちて、本当のゴミ貯めに落ちた。
生ゴミから粗大ゴミまで選り取り見取りな本当のゴミ貯めだ。
辺りを見渡してみても本当にゴミしかなく、更に言うなれば超臭い…。
「鈴ちゃーんっ!!」
上の方から声がして、見上げると上の方で葵お兄ちゃんが叫んでくれていた。
「葵お兄ちゃんっ!!」
「待っててっ、今そっちに行くからっ」
「ふみっ!?駄目だよっ!!ここ超臭いよっ!?」
と叫んでいる最中に葵お兄ちゃんは飛び降りて来た。
私みたいにただ落ちた訳じゃなく、きちんと着地した葵お兄ちゃんはゴミに下半身を埋めている私を引っ張りだしてくれた。
「大丈夫?怪我はないっ?」
「ないけど…臭い…」
顔を覆って泣き真似したいけど、したら悪臭被害が顔にまで行くからそれは避けたい。
「…良かった。鈴ちゃんっ」
「ふみっ!?駄目だよっ、葵お兄ちゃんっ!汚れちゃうっ!」
「そんなの構わないよ。そんな事より僕は鈴ちゃんが無事だって確かめたい」
そう言って私は葵お兄ちゃんにぎゅっとされた。
ちょっと力が強いかなって感じるけど、これも愛ゆえにっ!昔からだからねっ!もう、慣れたものだよねっ!ぐえっ。
「良かった…本当に良かった…」
「ごめんね、葵お兄ちゃん、心配させちゃって」
「…うん。心配したよ、鈴ちゃん。でも無事だったから」
「うん」
「さて、ここから脱出しようか」
「とは言っても、葵お兄ちゃん?ここよじ登るのは不可能じゃない?」
「確かに」
私と葵お兄ちゃんは上を見上げて、う~んと考え込む。
「上がダメなら下じゃない?」
「下?」
二人で辺りを見回すと、山の様になっているゴミが一か所だけない場所に気付く。
「業者用の通行口があるよ」
「みたいだね。まずはあそこに行こうか」
頷いて、葵お兄ちゃんの先導の下そこへ移動する。
その途中に。
「……あーゆー何とか家って奴なかったっけ?」
「犬神?」
「そうそう」
ゴミ山から足が生えてる。
えーっと…観察してる場合じゃないよね。
助けなきゃ。
ゴミ山をどうにか歩いて、私はゴミ山に生えてる足を引き抜いた。
無事心愛さんを救出。
「…おっかしいなー。前回落ちた時はちゃんと樹総帥がいた場所に落ちたのにー」
「逆さまになりながら悩む事じゃないと思うのー」
「と思うなら鈴ちゃん。降ろしてあげなよ」
「確かに」
葵お兄ちゃんん言われて、私は彼女をゴミの山に降ろした。
「ありがとうございます。白鳥総帥。お蔭で助かりました。臭すぎてかなり意識が遠のいていたので」
「まずはここから出ようよ」
私達はゴミの山から下りて、さっき見つけていた業者用の通行口へと急いだ。
ドアは古い所為か解らないけど、建て付けが悪く中々開かなかったけれど、葵お兄ちゃんの蹴り一発ですんなり開いた。
結構暗いけど、緑色の非常灯が付いているから、周りが見えない訳でもない。
ひとまずはこの明かりを頼りに進んでみようか。
ゴミの処理場を出て、暫く廊下が続く。うぅ~…お風呂入りたい…。
壁の色も黒い所為か歩き辛い。それでも壁に手を当てて進んでいると、別れ道に着いた。
真っ直ぐ進む道と左に曲がる道。
「鈴ちゃん。どうする?」
「…うぅ~ん…」
「確か、真っ直ぐは上に上がる道だった気がします」
「そうなの?」
葵お兄ちゃんが心愛さんの言葉に反応するが私は素直に納得出来ない。だって、さっきゴミの山に落ちてるからね?心愛さん。
「う、うぅ~ん…」
……心愛さんには悪いけど、ここは一つ。
「どこかにフロアマップあると思うんだ。まずそれを探さない?」
「あぁ、それは確かに」
「ふろあまっぷ?」
「地図の事ね」
「地図ですかっ!それならっ!」
履いているポケットの中から小さく折りたたまれた紙を取りだした。
心愛さんが持っている紙を、なるべく非常灯の側に寄ってから開く。
すると、手書きではあるもののそれは確かに地図だった。
「今私達が立ってるのはココですっ!」
指で示された場所は確かに道が三つの交差する所だった。ならゴミが会った場所がこっちだとして…。
「心愛さん。このマップの通りだと左の方が上に上がる道っぽいよ?」
「あれ?そうでしたか?」
「鈴ちゃん。一先ず僕達も地図を書きながら進もうか」
「うん。そうしよう。上階までの地図は私の頭の中に入ってるから、心愛さんの地図に加筆修正しとくね」
言って紙に今解るマップ情報を書き記す。
「じゃあ、まずは上に行ける道だと言う左を確認してから真っ直ぐ行こう」
「はいっ!では私が先に進みますねっ!」
張り切って前を歩き出した心愛さんに私と葵お兄ちゃんは慌てて後を追う。
見失わないようにしないと。この手のタイプは必ず穴に落ちるか迷子になるから。
「……ねぇ、鈴ちゃん」
「?、なぁに、葵お兄ちゃん」
「…彼女は…少し、その…おかしくない?」
小さな声で問いかけて来たその言葉に私は素直に頷いた。
「私もそれには気付いていたの。…でも、彼女は」
言葉を言いかけたその時、
「白鳥総帥っ!階段がありますっ!」
「階段?どれどれ?」
呼ばれたまま葵お兄ちゃんと二人駆け寄ると、そこにはちゃんと上に伸びた階段があった。
「なら、今度は戻って真っ直ぐ進んでみよう」
「はいっ!」
提案すると心愛さんは数段登っていた階段を元気よく飛び降りて、来た道を戻って行く。
「…鈴ちゃん。さっき言ってた事だけど」
「うん。…私も最初は心愛さんがクローンじゃないかって疑っていたの。葵お兄ちゃんもそうでしょ?」
「うん」
「でも、違う。心愛さんは【クローン】じゃない。人間だよ」
「白鳥総帥ーっ!」
こっちに向かって手招きする心愛さんに私は苦笑して駆け寄った。勿論葵お兄ちゃんも一緒に。
私と葵お兄ちゃんは一旦会話を中断して、心愛さんに付いて行く。付いて行くって言ったって一本道だ。迷う事もないんだけどね。
行き止まりの正面と右側にドアがある。
「まずこっちのドアを開けようか」
そう言って葵お兄ちゃんがドアをあっさりと蹴破った。
警戒したけれどそこに人はいない。あったのは…まさかの白骨。
「え?…えっ?ちょっと待ってっ!?誰の骨っ!?」
「鈴ちゃん。落ち着いて。…心愛さんと後ろに下がってて」
「う、うん。心愛さん、こっちおいで」
「…白鳥総帥。あれって何?」
「……心愛さんは今はまだ知る必要ない物だよ」
心愛さんを連れて外に出る。葵お兄ちゃんが調べて戻って来てくれるのを二人で待っていると、葵お兄ちゃんが白骨が着ていたジャケットとカードキーを手に戻って来た。
「葵お兄ちゃん、それは?」
「ジャケットは何処にでも売ってるジャケットだったよ。問題はこっちで」
「カードキーの方?」
「これはカードキーじゃないよ。これは社員証だ」
「社員証?誰の?」
葵お兄ちゃんは無言でそれを私に手渡した。名前は…?
【SIZURU TOKI】
……んんっ!?
「ど、どう言う事?どうして、この名前がここで出るの?」
「鈴ちゃん。この名前の人物知ってるの?」
「知っていると言うか…いいタイミングだからちょっと順を追って説明するね」
私は樹先輩と二人で今まで仕入れていた情報を葵お兄ちゃんに全て説明した。
途中額に青筋が浮かんでた事もあるけど、それでも葵お兄ちゃんは全ての内容を聞いてくれた。
「さっきまで会話をしていた?なのに、ここにあるのは骨?となると可能性としては、その鈴ちゃんが聞いた声や会話した物は全て録音したものだったって事になるけど…」
「その割にはきちんと会話が出来ていた気がするの。多分樹先輩もそう言うと思うの」
「……どう言う事なんだろう…?」
「…解らない」
「……解らない事を今こうして考えていても仕方ないね。兎に角もう一つのドアを開けてみよう」
「そうだね」
葵お兄ちゃんの提案通り、私達は真正面にあるドアをぶち破る事にした。
そこからやっぱり廊下が続いている。ドアを良く見ると関係者以外立ち入り禁止って書いてたから選ばれた人以外は入れないんだと思う。と言う事は樹先輩がいた場所により近くなったって事だ。
私達は急いで樹先輩の場所へ行く為走りだした。
暫く一本道を走っていると、ビチャッと何かを踏んで。
驚いて踏んだ足を上にあげると、足元にはクローンが溶けた跡が…。
何で解るかって?そこに鍵が一つ落ちてたからです。
どうせだから鍵を拾って、なるべくクローンの溶けた液体を避けて走る。何でって?いや、何となく。
すると、樹先輩が落ちたであろう貯水プールらしき場所に辿り着いた。
「樹先輩はっ!?」
「探さなくてはっ!!」
ダッシュッ!!
心愛さんが私の横を駆け抜けて行って、ドボンッ!
「何でドボンしちゃうのーっ!?」
まさかのっ、貯水プールにダイブっ!!
心愛さんの行動ってまるで読めないんだけどーっ!?
「心愛さん、それはいけませんっ!戻って来なさいっ!」
お母さん、怒るよっ!とまでは言わないけど、私は心愛さんを呼び戻す。
心愛さんはびしょびしょに濡れつつ、尚且つしょんぼりしながら戻って来た。
「……ごめんなさい」
「もう…こんなに濡れたら風邪引くでしょう?それに、どんな液体かも解らないんだから。危険なことしちゃ駄目」
背負っていた鞄からタオルを取りだして心愛さんの髪から水気を拭きとる。
「鈴ちゃん。こっち」
「え?」
「ここ見て。濡れてる。…足跡だ」
心愛さんにタオルを渡して私は葵お兄ちゃんの横に並んだ。
確かに足跡がある。しかも濡れてる。
「上の方を見ると、ほら。一か所だけ濡れてる場所がある」
どこどこ?…あ、貯水プールの角の所に濡れた痕跡がある。
「って事は、この足跡は間違いなく樹先輩のって事だね」
「そうだね。そうと分かったら話は早いよ。この足跡を追おう」
葵お兄ちゃんを先頭に足跡を追跡する。
直ぐにドアに突き当り、私達は躊躇いなくドアを開けた。
すると、そこには大きな機械とそれに繋がるカプセルが壁を埋め尽くすように並んでいる。
「なに、ここ…」
「鈴ちゃん。周りを見て。……カプセルの中に、人がいる」
言われてカプセルの中に注視すると、コポコポと泡を出して呼吸だけしている人がいた。裸の人もいれば服を着ている人もいる。
「一体、なんなの?ここ…」
「……鈴ちゃんっ、あれっ」
今度は一体何っ!?
葵お兄ちゃんの声に反射するように指さされた場所を見ると、そこには樹先輩の姿がっ!?
しかも、苦しそうだっ。
「葵お兄ちゃんっ。早く助けないとっ」
「うん。破壊しようっ」
葵お兄ちゃんが何度も蹴りを入れて漸く、カプセルのガラスが割れて、樹先輩が落ちて来た。

「…と言う事なのです」
「…大体は解った」
粗方の説明を終えると、樹先輩は視線を中央の巨大な機械へと向けた。
暫く何かを探すように視線を巡らせて、私へと視線を戻すと、
「……美鈴。都貴の社員証を寄越せ」
真剣な表情で言われた。
「え?良いけど、何に使うの?」
用途がさっぱり解らない私に、樹先輩はにやりと笑った。
「……決まってるだろ。破壊するんだよ。アレを」
そう言って親指で中央の機械を指示した樹先輩の顔は、ここ数日で一番良い顔をしていたのは、何で何だろう…?
とは思ったものの、私は樹先輩に素直に社員証を渡すのだった。
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