294 / 359
最終章 数多の未来への選択編
※※※
しおりを挟む
書斎を抜けて走っていると、心愛さんが私に並走して問いかけて来た。
「白鳥総帥。さっきのあれ。あの文章。どう言う意味ですかっ?」
「さっきの文章?」
「ほら。あの、こう小さな機械の…」
「あぁ、あれね。あれはそんな大した内容じゃないよ。区切られ方はおかしかったけど、そのまま続けて読めば『神々の道具は月を導く』って書いてるの」
「神々の道具、とは?」
「心愛さんは気付いているよね?この建物は十二星座が関係してるって」
「…はい」
今の間はなんだろう…?
気になるけど、それより説明を優先しよう。心愛さんの目が教えて教えてと訴えてる。
「十二星座と言えば、牡羊、牡牛、双子、蟹、獅子、乙女、天秤、蠍、射手、山羊、水瓶、魚の十二なんだけど。星座は神話と繋がっていて。その神話で道具が出てくるのが、天秤座、射手座、水瓶座の三つ」
「なるほど。ではその三つを…いえ、違いますね。あそこにあった入力装置は数字を入力する物だった」
「うんうん。そうだね。だから数字に置き替えなきゃいけない。あのパネルに入力出来る文字は3桁だった。で、月を導くって言葉がここで重要になるの」
「月を導く」
「そう。良く星座占いとかであるでしょう?何日~何日は何座だよ~って区切り。あれを照らし合わせてみると、まぁ、たまに違うのもあるけど大体は、天秤座が9月の24日~10月の23日まで。射手座は11月の23日~12月の22日まで。水瓶座は1月29日~2月の19日までなのね?」
「はい」
「でもう一度月を導くって言葉を思い出してみて。月日の月の部分だけを抜き出すと、天秤座が910、射手座は1112、水瓶座は12となる。すると三桁なのは?」
「天秤座の910っ?」
「そう言う事。もしかしたら違うかもと思ったけど、一先ず入力したら成功だったね」
「す、凄いっ…」
「凄く何てないよ~。簡単な謎解きだったもの」
……心愛さんの尊敬の眼差しが痛い。
そこまで凄い事してないのよ?本当なのよ?
階段を駆け下りようとして、私は一歩踏み止まった。
破壊したドアの前に立ち、キョロキョロと辺りを見渡して、とあるものを探す。
「何を探しているのですか?」
「うん。パイプみたいな、トンカチみたいなのないかなー?って」
「パイプ?トンカチ?」
「こう、鉄で出来た棒みたいなのが欲しくて」
「鉄で出来た…ちょっと待ってて下さいねっ」
心愛さんが走って行ってしまった。
何か心当たりでもあるのかな?
心愛さんは思いの外早く戻って来て、その手には立派なバールがあった。
「これでどうですか?」
「とってもいい感じっ。借りて良い?」
「はいっ、どうぞっ!」
受け取って、そのバールをマジマジと見る。
いや~、ホラーゲーム、脱出ゲームと言えばバール、だよね。
まぁ、私は正攻法に使う訳じゃないけどさ。
バールの先端をメダル入れの所に引っ掛けて、引っ張るっ!
メキメキメキ。
お、剥がれた。
剥がれた場所には当然、メダルが一杯入っている。
「え?うそっ!?」
「入れる場所があるなら、貯める場所もあるよね、そりゃあ」
心愛さんが驚いてるけど、それは今だけ置いといて。メダルを詰めよう。ちょっと重くなるかもしれないけど、全部を鞄に詰めて…よし、オッケーっ!
バールはこれからも絶対使えるから持って行く。
肩に担いで、心愛さんに合図を出して、階段を駆け下りる。しかし、こんな立派なバールどっから持って来たんだか。助かるけど。
一階のドアの前に辿り着いた。
適当にメダルを一つ取り出して、穴に入れるとドアが開く。
目の前には樹先輩が落ちた穴がそのままになっていた。この穴も一階のスタッフルームに入るには塞がないといけない。
「穴を飛び越えますか?」
「大丈夫。穴を塞ぐから」
「穴を塞ぐ?どうやって?」
ニッコリ微笑みながらバールを装備。
「ドアって言うのはねー?こーゆー所に蝶番ってものがりましてねー?」
私がドアと壁の間にある蝶番を指さして心愛さんに教えると、彼女もそれを真剣に見ながら頷く。
「で、ここの接続部分にこのバールを、ガッと差し込みまして」
「差し込みまして」
「バキッと壊すんですのよ」
「壊す」
「同じように蝶番と言うのはいくつかございまして、ガッと差し込んで」
「バキッと壊す」
「はい、その通り。そうすると、ドアが外れまして、これをドーンと押すと穴を塞げる立派な橋になるんですねー」
「わぁっ!凄いっ!」
「で、ついでなんで、さっきやったようにメキメキっと壊しまして、中からメダルをゲットしてっと」
「それを回収してバッグに入れるんですね」
「その通りっ!さ、行こうっ!」
メダルを心愛さんがバッグに入れてくれたので、私は薬液の入った水鉄砲を構えて走る。
まだうじゃうじゃいるクローンの頭のみを狙い撃つ。
心愛さんの加勢も入り、スタッフルームへ真っ直ぐ向かう事が出来た。
にしても、この水鉄砲、手に入れて本当に良かった。無駄に薬液を使う事がなくなった。
え?どうして銃が使えるのかって?
……鴇お兄ちゃんと前に海外に出張に行った時、ちょっとね。てへっ☆
あ、でも水鉄砲は昔からお兄ちゃん達とお庭で遊んでた時に使ってたからそれもあると思うの。むしろそっちが主かも。
心愛さんが先導してくれるから、それに遅れないように付いて行く。
スタッフルームのドアを開けて、中へ入る。
そう言えば、ここってクローンが大量に出て来た時、ドア開いてたよね?
と言う事は中からは開けられるのかな?もしくはどこかで誰かが操作していたって事…?どちらにせよ、用心しなきゃ。
慎重にスタッフルームを歩く。
って言うか、暗い。この部屋窓がないんだ。
「白鳥総帥?」
「心愛さん。どっかに電気のスイッチないかな?」
「電気?」
「明かりのスイッチ」
「あかり…明かりっ!はいっ!」
タタタッ…足音。
カチッ。スイッチを切り替えた音。
それで、電気がつくっと。
スタッフルームはどんな感じなの?
「白鳥総帥っ。点けましたっ」
「うん。ありがとう。心愛さん」
……気のせいかな?心愛さんにわんこ尻尾が見える…。…気の所為にしとこうか。うん。
心愛さんが私の横に立ったのを確認して、改めて周囲を見渡す。
ロッカーが並んで、その真ん中に一人掛けのソファが六脚置かれている。
「心愛さん?」
「はいっ」
返事が良過ぎる…、いや、気にしたら負けだ。
「ここから樹先輩のいる場所へ行けると言っていなかった?」
「はいっ!行けますよっ!」
「えっと、何処から?」
見渡す限りロッカーと壁なんだけど。
「こっからですっ!」
指さしたのはロッカーの一つ。
「ロッカー?」
「はいっ。このロッカーをこうして」
「開けて?」
「こうっ!」
「スイッチを押す?」
「すると、足下に穴がガタンッと開きましてっ」
ガタンッ。
「ふみっ!?」
「落ちる様になっておりますぅぅぅ~……」
シュルルルル~………ボチャンッ!
「心愛さーんっ!?」
さーん、さ-ん、さーん………。
私の声だけが木霊した。
だって心愛さんの足下だけ、一人分穴が開いて落ちて行ったんだもの。
ボチャンッて水音したし、穴を覗いてみる感じ滑り台の様になっているみたいだ。
落ちて後を追っても良いんだけど、先にこの周辺を捜索してからの方が良さそう。
ロッカーの中は調べておきたいよね。
えっと、ロッカーは全部でひーふーみー…12、あるね。
私が二人は入りそうな大きめなロッカーだから12もあれば十分この部屋埋める事出来るか。
一番端から調べてみよう。
右端一つ目。特に何もない。二つ目…もない。
あれ、これ何にも入ってないパターンかな?
三つ目、四つ目、…順番にロッカーを開けて行ったけど、やっぱり特に何もない。
順番に開けて行って、七つ目が心愛さんが落ちた場所。
その次は何もなくて、九つ目のロッカーの戸を開けると、そこには一枚の紙の切れ端があった。
何が書いてるんだろ?
紙を拾って見ると、それは広告の切れ端だった。
「ラム肉お徳用パック。【お肉の都】東店限定販売……。ジンギスカン食べたい…じゅる…ハッ!?いけないいけない。ただの広告に意識を奪われちゃったよ」
広告をペイッと放り投げて、次のロッカーを開ける。
中は空っぽ。次のロッカーは?…空っぽ。
次で最後だね。最後のロッカーを開けたら…。
「これは…板?鉄板?たこ焼き器?」
鉄で出来た凹みのある板の破片?があった。
「この凹み円型だ…あー、これもあれかな?メダルをはめ込む奴かな?と言う事はどっかに一枚の鉄板になるような他の欠片も落ちてるかも。一応持って行こうかな」
背負ってるリュックに鉄板の欠片を入れてもう一度背負う。……重い。良く考えたら重い物ばっかり入ってるよね、このリュック…。
あと、調べてない所はない、よね?
ぐるりと周囲を見渡して、……あれ?
もう一つ怪しい所を発見した。
壁の、電灯のスイッチの横に別のスイッチがある。
あのスイッチ押したらどうなるんだろう?
ひとまず何のスイッチなのか、調べよう。何か書いてるとは思えないけどねー。
スイッチの側に歩み寄り、スイッチの周辺を調べてみる。すると、電灯のスイッチの上には明かりと書いていた。そして、もう一つのスイッチには隠し通路と書かれている。
「隠してる通路のスイッチを書き記すって、それ隠しの意味あるのかな…?」
でも隠されているのが何処にある通路なのか書かれてないからそれなりに考えられてるのかな?
落とし穴が出て来ても回避出来るように警戒しつつ、スイッチオーン。
カチッ。
ズゴゴゴゴゴ……。
な、何か凄い音がするんですけどーっ!?
私やらかしたっ!?やらかしちゃったっ!?
でも押してみないと解らないじゃーんっ!?
落とし穴じゃなかった事だけ、良かったとして。
一体何の変化が起きたのか、キョロキョロと辺りを見渡す。
見える限りに変化はない。
「あっ、しまったっ!?」
心愛さんが降りた、…落ちた?穴を塞いでしまったっ。
あわわわわっ!?
急いで駆け寄ってみたけれど、穴はしっかりと塞がっており、ロッカーの中のスイッチを落下覚悟で押した。だが…。
「えーっ、スイッチが壊れてるーっ!?」
カチカチカチカチッ。オンオフ繰り返してみたけれど意味はないようで。
「ちょ、えぇーっ!?どうしよーっ!?」
樹先輩が落ちた穴も残っていたから、普通にこの穴も残ってるもんだと思ってたよ~。
あー……思考が停止しそう。
…だけど、駄目だね。停止させて良い場面じゃないもんね。
二人が上に上がって来れる場所、探さないと。
そう言えばさっきのスイッチ。隠し通路って書いてたね。
それを探してみよう。
スタッフルームを出て、私は変化がある場所は無いか、くまなく探す。
そして、見つけた。
休憩スペースの各場所に穴が開いているのを。そしてそのど真ん中の穴に地下へと続く階段が出来ているのを。
「もしかして…あのスイッチ正解だった?まぁ、なんでもいいやっ!あとは樹先輩が上がってくるまでここを護り通すっ!」
階段のある穴まで、他の穴を避けて近寄る。
辿り着いて私はその階段をマジマジと見つめた。うん…下までちゃんと続いてそう。
私は右手に水鉄砲、左手にバールを持って私は二人が戻ってくるまで、この穴を維持する覚悟を決める。
どうして降りないのかって?
ここで私が行ったら、樹先輩が私を守る方に気を取られてしまうから。
だから私はここで樹先輩が自分で戻って来てくれるのを待つよ。
「……戻って来ないと承知しないんだから…。二人共。ちゃんと戻って来てよね…」
階段の下へ向かって呟く。
「それにしても…心愛さん。貴女、樹先輩のゴミ捨て場に近寄ったらいけないんじゃなかったの…?落下したけど大丈夫なのかな…?」
心愛さんはどうやら天然が強いお人のようで…。
「お願いだから樹先輩、心愛さんも一緒に助けてあげてよ…?」
武器を握りしめながら、若干不安に思っていると…。
「鈴ちゃんっ!!」
聞こえた、この声は…。
その声が空耳じゃない事を確かめたくて周囲を見回す。
そして、玄関…入口の方を見て、そこに見えた姿は、
「葵お兄ちゃんっ!!」
頼もしい兄の姿だった。
この時、私は思ったんだ。
他人の事を天然だ、とか言ったら駄目だって。
ほら、言葉ってブーメランで返ってくるって言うじゃない?
「葵お兄ちゃーんっ!!」
「す、鈴ちゃんっ!前っ、前見てっ!」
「ふみ?前?」
いつの間に出来たのか?
いや、さっきからあった。あったんだけど…。
「ふみゃあああああっ!!」
葵お兄ちゃんの姿に安心し過ぎて、穴があることを綺麗さっぱり、すっかりぽんと忘れていた天然と言う言葉のブーメランを受けた私はモノの見事に落下していくのであった…。
「白鳥総帥。さっきのあれ。あの文章。どう言う意味ですかっ?」
「さっきの文章?」
「ほら。あの、こう小さな機械の…」
「あぁ、あれね。あれはそんな大した内容じゃないよ。区切られ方はおかしかったけど、そのまま続けて読めば『神々の道具は月を導く』って書いてるの」
「神々の道具、とは?」
「心愛さんは気付いているよね?この建物は十二星座が関係してるって」
「…はい」
今の間はなんだろう…?
気になるけど、それより説明を優先しよう。心愛さんの目が教えて教えてと訴えてる。
「十二星座と言えば、牡羊、牡牛、双子、蟹、獅子、乙女、天秤、蠍、射手、山羊、水瓶、魚の十二なんだけど。星座は神話と繋がっていて。その神話で道具が出てくるのが、天秤座、射手座、水瓶座の三つ」
「なるほど。ではその三つを…いえ、違いますね。あそこにあった入力装置は数字を入力する物だった」
「うんうん。そうだね。だから数字に置き替えなきゃいけない。あのパネルに入力出来る文字は3桁だった。で、月を導くって言葉がここで重要になるの」
「月を導く」
「そう。良く星座占いとかであるでしょう?何日~何日は何座だよ~って区切り。あれを照らし合わせてみると、まぁ、たまに違うのもあるけど大体は、天秤座が9月の24日~10月の23日まで。射手座は11月の23日~12月の22日まで。水瓶座は1月29日~2月の19日までなのね?」
「はい」
「でもう一度月を導くって言葉を思い出してみて。月日の月の部分だけを抜き出すと、天秤座が910、射手座は1112、水瓶座は12となる。すると三桁なのは?」
「天秤座の910っ?」
「そう言う事。もしかしたら違うかもと思ったけど、一先ず入力したら成功だったね」
「す、凄いっ…」
「凄く何てないよ~。簡単な謎解きだったもの」
……心愛さんの尊敬の眼差しが痛い。
そこまで凄い事してないのよ?本当なのよ?
階段を駆け下りようとして、私は一歩踏み止まった。
破壊したドアの前に立ち、キョロキョロと辺りを見渡して、とあるものを探す。
「何を探しているのですか?」
「うん。パイプみたいな、トンカチみたいなのないかなー?って」
「パイプ?トンカチ?」
「こう、鉄で出来た棒みたいなのが欲しくて」
「鉄で出来た…ちょっと待ってて下さいねっ」
心愛さんが走って行ってしまった。
何か心当たりでもあるのかな?
心愛さんは思いの外早く戻って来て、その手には立派なバールがあった。
「これでどうですか?」
「とってもいい感じっ。借りて良い?」
「はいっ、どうぞっ!」
受け取って、そのバールをマジマジと見る。
いや~、ホラーゲーム、脱出ゲームと言えばバール、だよね。
まぁ、私は正攻法に使う訳じゃないけどさ。
バールの先端をメダル入れの所に引っ掛けて、引っ張るっ!
メキメキメキ。
お、剥がれた。
剥がれた場所には当然、メダルが一杯入っている。
「え?うそっ!?」
「入れる場所があるなら、貯める場所もあるよね、そりゃあ」
心愛さんが驚いてるけど、それは今だけ置いといて。メダルを詰めよう。ちょっと重くなるかもしれないけど、全部を鞄に詰めて…よし、オッケーっ!
バールはこれからも絶対使えるから持って行く。
肩に担いで、心愛さんに合図を出して、階段を駆け下りる。しかし、こんな立派なバールどっから持って来たんだか。助かるけど。
一階のドアの前に辿り着いた。
適当にメダルを一つ取り出して、穴に入れるとドアが開く。
目の前には樹先輩が落ちた穴がそのままになっていた。この穴も一階のスタッフルームに入るには塞がないといけない。
「穴を飛び越えますか?」
「大丈夫。穴を塞ぐから」
「穴を塞ぐ?どうやって?」
ニッコリ微笑みながらバールを装備。
「ドアって言うのはねー?こーゆー所に蝶番ってものがりましてねー?」
私がドアと壁の間にある蝶番を指さして心愛さんに教えると、彼女もそれを真剣に見ながら頷く。
「で、ここの接続部分にこのバールを、ガッと差し込みまして」
「差し込みまして」
「バキッと壊すんですのよ」
「壊す」
「同じように蝶番と言うのはいくつかございまして、ガッと差し込んで」
「バキッと壊す」
「はい、その通り。そうすると、ドアが外れまして、これをドーンと押すと穴を塞げる立派な橋になるんですねー」
「わぁっ!凄いっ!」
「で、ついでなんで、さっきやったようにメキメキっと壊しまして、中からメダルをゲットしてっと」
「それを回収してバッグに入れるんですね」
「その通りっ!さ、行こうっ!」
メダルを心愛さんがバッグに入れてくれたので、私は薬液の入った水鉄砲を構えて走る。
まだうじゃうじゃいるクローンの頭のみを狙い撃つ。
心愛さんの加勢も入り、スタッフルームへ真っ直ぐ向かう事が出来た。
にしても、この水鉄砲、手に入れて本当に良かった。無駄に薬液を使う事がなくなった。
え?どうして銃が使えるのかって?
……鴇お兄ちゃんと前に海外に出張に行った時、ちょっとね。てへっ☆
あ、でも水鉄砲は昔からお兄ちゃん達とお庭で遊んでた時に使ってたからそれもあると思うの。むしろそっちが主かも。
心愛さんが先導してくれるから、それに遅れないように付いて行く。
スタッフルームのドアを開けて、中へ入る。
そう言えば、ここってクローンが大量に出て来た時、ドア開いてたよね?
と言う事は中からは開けられるのかな?もしくはどこかで誰かが操作していたって事…?どちらにせよ、用心しなきゃ。
慎重にスタッフルームを歩く。
って言うか、暗い。この部屋窓がないんだ。
「白鳥総帥?」
「心愛さん。どっかに電気のスイッチないかな?」
「電気?」
「明かりのスイッチ」
「あかり…明かりっ!はいっ!」
タタタッ…足音。
カチッ。スイッチを切り替えた音。
それで、電気がつくっと。
スタッフルームはどんな感じなの?
「白鳥総帥っ。点けましたっ」
「うん。ありがとう。心愛さん」
……気のせいかな?心愛さんにわんこ尻尾が見える…。…気の所為にしとこうか。うん。
心愛さんが私の横に立ったのを確認して、改めて周囲を見渡す。
ロッカーが並んで、その真ん中に一人掛けのソファが六脚置かれている。
「心愛さん?」
「はいっ」
返事が良過ぎる…、いや、気にしたら負けだ。
「ここから樹先輩のいる場所へ行けると言っていなかった?」
「はいっ!行けますよっ!」
「えっと、何処から?」
見渡す限りロッカーと壁なんだけど。
「こっからですっ!」
指さしたのはロッカーの一つ。
「ロッカー?」
「はいっ。このロッカーをこうして」
「開けて?」
「こうっ!」
「スイッチを押す?」
「すると、足下に穴がガタンッと開きましてっ」
ガタンッ。
「ふみっ!?」
「落ちる様になっておりますぅぅぅ~……」
シュルルルル~………ボチャンッ!
「心愛さーんっ!?」
さーん、さ-ん、さーん………。
私の声だけが木霊した。
だって心愛さんの足下だけ、一人分穴が開いて落ちて行ったんだもの。
ボチャンッて水音したし、穴を覗いてみる感じ滑り台の様になっているみたいだ。
落ちて後を追っても良いんだけど、先にこの周辺を捜索してからの方が良さそう。
ロッカーの中は調べておきたいよね。
えっと、ロッカーは全部でひーふーみー…12、あるね。
私が二人は入りそうな大きめなロッカーだから12もあれば十分この部屋埋める事出来るか。
一番端から調べてみよう。
右端一つ目。特に何もない。二つ目…もない。
あれ、これ何にも入ってないパターンかな?
三つ目、四つ目、…順番にロッカーを開けて行ったけど、やっぱり特に何もない。
順番に開けて行って、七つ目が心愛さんが落ちた場所。
その次は何もなくて、九つ目のロッカーの戸を開けると、そこには一枚の紙の切れ端があった。
何が書いてるんだろ?
紙を拾って見ると、それは広告の切れ端だった。
「ラム肉お徳用パック。【お肉の都】東店限定販売……。ジンギスカン食べたい…じゅる…ハッ!?いけないいけない。ただの広告に意識を奪われちゃったよ」
広告をペイッと放り投げて、次のロッカーを開ける。
中は空っぽ。次のロッカーは?…空っぽ。
次で最後だね。最後のロッカーを開けたら…。
「これは…板?鉄板?たこ焼き器?」
鉄で出来た凹みのある板の破片?があった。
「この凹み円型だ…あー、これもあれかな?メダルをはめ込む奴かな?と言う事はどっかに一枚の鉄板になるような他の欠片も落ちてるかも。一応持って行こうかな」
背負ってるリュックに鉄板の欠片を入れてもう一度背負う。……重い。良く考えたら重い物ばっかり入ってるよね、このリュック…。
あと、調べてない所はない、よね?
ぐるりと周囲を見渡して、……あれ?
もう一つ怪しい所を発見した。
壁の、電灯のスイッチの横に別のスイッチがある。
あのスイッチ押したらどうなるんだろう?
ひとまず何のスイッチなのか、調べよう。何か書いてるとは思えないけどねー。
スイッチの側に歩み寄り、スイッチの周辺を調べてみる。すると、電灯のスイッチの上には明かりと書いていた。そして、もう一つのスイッチには隠し通路と書かれている。
「隠してる通路のスイッチを書き記すって、それ隠しの意味あるのかな…?」
でも隠されているのが何処にある通路なのか書かれてないからそれなりに考えられてるのかな?
落とし穴が出て来ても回避出来るように警戒しつつ、スイッチオーン。
カチッ。
ズゴゴゴゴゴ……。
な、何か凄い音がするんですけどーっ!?
私やらかしたっ!?やらかしちゃったっ!?
でも押してみないと解らないじゃーんっ!?
落とし穴じゃなかった事だけ、良かったとして。
一体何の変化が起きたのか、キョロキョロと辺りを見渡す。
見える限りに変化はない。
「あっ、しまったっ!?」
心愛さんが降りた、…落ちた?穴を塞いでしまったっ。
あわわわわっ!?
急いで駆け寄ってみたけれど、穴はしっかりと塞がっており、ロッカーの中のスイッチを落下覚悟で押した。だが…。
「えーっ、スイッチが壊れてるーっ!?」
カチカチカチカチッ。オンオフ繰り返してみたけれど意味はないようで。
「ちょ、えぇーっ!?どうしよーっ!?」
樹先輩が落ちた穴も残っていたから、普通にこの穴も残ってるもんだと思ってたよ~。
あー……思考が停止しそう。
…だけど、駄目だね。停止させて良い場面じゃないもんね。
二人が上に上がって来れる場所、探さないと。
そう言えばさっきのスイッチ。隠し通路って書いてたね。
それを探してみよう。
スタッフルームを出て、私は変化がある場所は無いか、くまなく探す。
そして、見つけた。
休憩スペースの各場所に穴が開いているのを。そしてそのど真ん中の穴に地下へと続く階段が出来ているのを。
「もしかして…あのスイッチ正解だった?まぁ、なんでもいいやっ!あとは樹先輩が上がってくるまでここを護り通すっ!」
階段のある穴まで、他の穴を避けて近寄る。
辿り着いて私はその階段をマジマジと見つめた。うん…下までちゃんと続いてそう。
私は右手に水鉄砲、左手にバールを持って私は二人が戻ってくるまで、この穴を維持する覚悟を決める。
どうして降りないのかって?
ここで私が行ったら、樹先輩が私を守る方に気を取られてしまうから。
だから私はここで樹先輩が自分で戻って来てくれるのを待つよ。
「……戻って来ないと承知しないんだから…。二人共。ちゃんと戻って来てよね…」
階段の下へ向かって呟く。
「それにしても…心愛さん。貴女、樹先輩のゴミ捨て場に近寄ったらいけないんじゃなかったの…?落下したけど大丈夫なのかな…?」
心愛さんはどうやら天然が強いお人のようで…。
「お願いだから樹先輩、心愛さんも一緒に助けてあげてよ…?」
武器を握りしめながら、若干不安に思っていると…。
「鈴ちゃんっ!!」
聞こえた、この声は…。
その声が空耳じゃない事を確かめたくて周囲を見回す。
そして、玄関…入口の方を見て、そこに見えた姿は、
「葵お兄ちゃんっ!!」
頼もしい兄の姿だった。
この時、私は思ったんだ。
他人の事を天然だ、とか言ったら駄目だって。
ほら、言葉ってブーメランで返ってくるって言うじゃない?
「葵お兄ちゃーんっ!!」
「す、鈴ちゃんっ!前っ、前見てっ!」
「ふみ?前?」
いつの間に出来たのか?
いや、さっきからあった。あったんだけど…。
「ふみゃあああああっ!!」
葵お兄ちゃんの姿に安心し過ぎて、穴があることを綺麗さっぱり、すっかりぽんと忘れていた天然と言う言葉のブーメランを受けた私はモノの見事に落下していくのであった…。
0
お気に入りに追加
3,733
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる