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最終章 数多の未来への選択編
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「ふみみみみぃ~……」
あれから暫く弄ってたけど、全然動かない。
やっぱりロックかかってるのかなぁ?
でもさぁ?ロックって電気が流れてこそかけれるものじゃない?電子ロック、だもんね。
だとしたら、これ純粋に壊れてるって可能性もあるのでは?
型も古いしね。昔良く見たドでかいタイプの画面があるパソコンだし。
…あ、私、今あり得ないけど有り得そうなこと思い付いたかも。
ここさ?この部屋さ?鍵かかって開けられないとか思わせといて実は引き戸だったってオチだったじゃん?
もしかしてさ~?
思い至って、もしかしてと思いつつも私はパソコンのディスプレイを両手で掴み、持ち上げてみた。
すると、想定していたよりもずっと軽くそれは持ちあがり、その下から小さなノートパソコンが出てきた。
「やっぱりかいっ!」
思わず全力で突っ込みを入れてしまう。でもねっ?これは仕方ないと思うのっ!
何なのよ、もうっ。
パソコンの電源を入れて起動させる。
当然ロックはかかってるだろうから、それを考えてみる。
どんなロックだろう?
一先ず、この部屋…乙女座の部屋な訳だから…VIRGO(ヴァルゴ)と試しに入力。Enterっと。
「……開いたんですけど。セキュリティになってるの?これ」
まぁ、折角開いたんですから?
弄れるところは一通り弄ってみる。
カタカタカタとパソコンのキーボードを叩く音だけがこの部屋に響く。
うぅ~ん…?特にこの建物の情報らしきものは入ってないのかな~?
思わしきファイルは全て確認したし、怪しい所も潜ってみたけど特にこれと言った情報はない…あ、そうだ。
ネットに繋がってるなら外にも連絡出来るんじゃない?
……ってあれ?待って待って?ネット回線繋がってないの?あらー?そう言えば無線が入ってそうな感じはしない。
有線も…繋がってない。LANケーブル繋がってないもん。まぁ、そうか。監禁する場所の近くに連絡ツールは置かないよね。
でもそれって逆に言えば、このパソコン持ってっても良いって事じゃない?
そうだそうだ。持って行こう。ここに長くいるのももしかしたら危険かもしれないしね。
パソコンを一旦閉じて手に持ち、私は天秤座の部屋へとトイレから戻った。
ベッドの上に座り改めてノートパソコンを開く。
中に入ってるデータとか取りだせないか試してみる。と言えど、こう言うのは華菜ちゃんの方が上手いんだよね…。私はどっちかと言うと作り上げる方が得意だったり…うむむむ…。
暫くカタカタとキーボードを叩いていると、
『MISSION START』
と突然画面が切り替わった。
「ふみ?ヤバいとこ触っちゃったかな?」
ちょっと焦りつつも、画面の流れを見守っていると、画面に数字入力画面が表示された。
……アンダーバーの数からいくと、五桁か。
失敗は何回出来る?…特に回数はなさそうだね。ふむ。
一先ず、12345と入力してみよう。
すると、ブーと音が鳴り、画面はリセットされる。…画面上に変化はないかな?
あ、アンダーバーが一か所が青く、二ヵ所が赤くなってる。青くなってる所は3を入力した場所。赤が2と5を入力した場所だ。
良し。じゃあ試しにもう一度。今度は67890と入力。するとまた画面はリセットされて、今度は青がなく、7と9の入力した場所だけが赤くなった。
「あ、これ解ったかも」
では早速。
と入力を開始しようとしたら、トイレの方から音がした。
樹先輩が帰って来た?
その割にはちょっと早い様な…あ、ヤバいかも。
急いで試験管を一つ手に取り、トイレのドアをほんの少しだけ開けて様子見を…。
そっとドアを開けて、
「―――ヒッ!?!?」
こっちを同じく覗いているクローンの目があった。
にたりと笑ったその顔が気持ち悪いっ!
「ニンゲン……シャチョー…イッショ…。ハ……ス…」
「いやぁっ!!」
バンッ!!
思わず力の限りドアを閉めて戸を抑えた。
どうしようっ、どうしようっ。
クローンと言えど男だ。怖いっ、怖いぃっ!!
ドンッ!ドンッ!
ひぃぃぃっ!!
ドアを叩いてるぅーっ!!
『逃げても、無駄だよ…。ねぇ、華…?』
ひぐっ!
だ、駄目っ。今思い出したら絶対に駄目っ!
た、戦わなきゃ…っ。鴇お兄ちゃんも言ってた。自分から戦いを挑まなきゃ勝てない事もあるって。
そうだ。少しずつでも…勝ちに行かなきゃっ…。
ぐっと歯を食いしばって、握っている試験管をもう一度確認する。
大丈夫…大丈夫。やれる。私はやれるっ。
ドアを勢いよく開けて、一瞬の隙を作ってクローンを蹴り飛ばして、薬液をかけるっ。
カウントダウン…3…2…。
「…1っ…行くよっ!!」
バンっ!!
ドアを勢いよく開けて、目の前にあったクローンの顔を思い切り蹴り飛ばし、便器に向かって吹っ飛んだ所に薬液の入った試験管を思い切り投げつけた。
「ブアァァッ…」
じゅううと音を上げてクローンの体は溶けていく。奇襲攻撃に成功はしたけど、溶けて行くその姿は見ていたい物ではなかった。…って言うか、普通に気持ち悪いよぅ…。
クローンの顔を狙えた訳じゃなかったから、体から溶けているんだけど、顔はまだニタニタと笑って口は泡を噴いている。
「…シャチョウ…メイレイ…オンナ…ハラマス…」
なに、言って…?
何かずっとブツブツ言っているけど、この言葉をそのままの意味に取るなら、『社長の命令。女を孕ます』って言ってるの?
ぞわっと鳥肌が立った。
駄目だっ。無駄遣いしちゃ駄目だって解ってるけど、ごめんっ、樹先輩っ。無理っ。
もう一本急いで手に取り、クローンの頭にぶち当てた。
するとクローンは、何故か気持ち悪い笑みではなく、普通の優しいおじさんの表情になり、「あぁ……やっと、地獄の苦しみから解放された……。ありがとう、白鳥美鈴、総帥」とそう呟いて液状化した。
その液状化した中央に、鍵が落ちている。
これって…鍵?
そうっと近寄って鍵を手に取る。なんで、このクローンは私の事を知ってたんだろう…?
そもそもここはどう言う用途で建てられたの?
てっきりクローンを隠す為かと思ってたんだけど、それ以外にも理由はありそう。…しまったなぁ…。何とか閉じ込めておいて樹先輩に知ってる事を聞き出して貰えば良かった。
でも正直あの状態のクローンと一緒にとか…無理だし。
あぁ、もう…後悔しても意味ないし。やれることを今やるだけ。それで樹先輩とここを脱出してお兄ちゃん達と皆でご飯食べるんだっ!
トイレを出て、もう一度パソコンと向き合う。
そうだそうだ。さっきのミッションの続きを、ガタンッ。
……ガタン?
ねぇ、ちょっと待って?
さっき私クローン倒したよね?倒したばっかりだよね?
え?もう次のが来たの?違うよね?誰か違うと言って…。試験管を握りしめてまたトイレへと近づく。
さっき覗いた時も滅茶苦茶怖かったし…覗くのも怖いんだけど。
それでも身の安全の為に覗かない訳にはいかない。
そっと、ホントに少しだけ1センチくらいだけ開けて、中を覗くとそこには一人の女性が立っていた。
服も髪もボロボロで、異様に痩せている。
「………」
キョロキョロと辺りを見ては、何かを探している。
「……ハズレ、かしら?」
背中しか見えないけど…クローンの様によたよたと歩いてる訳じゃないし。もしかしてクローンじゃない普通の人間なんだろうか?
「念の為、そっちも見て行こうかしら」
くるっとこっちを向いた顔は半分前髪で隠れているのだけど、その前髪は真っ白で。露わになっている方の髪は真っ黒だけれど途中から茶髪に切り替わっている。
細いけれど、半分だけ見えるその顔は意志の強さが感じられる顔をしていた。
あ、こっちに来る。
逃げようとしたけれど、あちらの方が早かった。
あっさりとドアを開けられて、動けなかった私と視線がバッチリ合ってしまう。
「……白鳥、総帥?」
「は、はい。そうです、が…」
頷くしかないじゃない。私が答えた瞬間彼女の瞳は一際大きく見開かれ、そして泣きそうな程に目を潤ませて微笑まれたんだから。
「あぁ…やっと、やっとまともな人に会えたっ…」
ぐっと手を握られる。
「えっと、どちら様でしょう?」
物凄い気の抜けた返答をしちゃったよ。
けれど彼女は気にも止めずに微笑み、そして言った。
「ご挨拶が遅れました。私は都貴心愛と申します」
「ときここあさん?」
「はい。白鳥総帥をずっとずっと探しておりました」
「探してたって…何で?」
彼女は微笑みはするものの答えてはくれない。悪い人ではなさそうだけど…。
「きっとここに閉じ込められているだろうと、思ってました。【あの人達】なら絶対にそうすると」
「あの人達って?」
「私の家族だった人達です」
「だったって、どう言う意味?」
聞き返したけれど、やはり笑顔だけで。
「とにかく、今はここから出ましょう。出口に案内します」
「……何故?」
「何故?とは?」
「色々含まれてるわ。【何故、案内してくれるの?】【何故、出口を知っているの?】【何故、私を助けようとするの?】【何故、貴女はここにいるの?】他にもまだまだあるわ。貴女に対して私は今疑問しかないの」
「…それは…」
「それに出口に行けない理由はもう一つあるわ」
握られた手をそっと撫でて彼女に離して貰って、私は背筋を伸ばして真っ直ぐに向き合う。
「ここには先輩が…私の夫もいますから」
「夫…まさか、樹龍也総帥もここにっ!?」
私は頷いた。
瞬間彼女の顔がどんどん青褪めていく。
「そんな…まさか、あの人達が、ここまで馬鹿だったなんてっ…」
「ここあさん?」
「…っ、いえ…何でもありません。…そうですか。ならば、二人分の逃げ道が必要ですね。解りました。どうぞここでもう暫くだけお待ちくださいっ。必ずお二人を逃がしてみせますっ」
そう言って彼女はくるっと引き返し、トイレのダクト穴に戻って行った。
気になる所があり過ぎる。一体何だったのだろう?
…樹先輩が戻ってきたら何か解るかな?
なんてぼんやり考えていたら。
「…あー…くそっ。せめぇ…」
樹先輩の声がした。
ダクト穴から樹先輩が顔を出した。
「ん?美鈴?んな所で何してんだ…って、これっ、この液体っ。まさかクローンがここまで来たのかっ!?」
「え?あ、うん。そうだ、ごめん樹先輩。こいつに二本使っちゃった」
「いや、無事なのが優先だろ。お前に怪我がなきゃそれでいい」
ダクト穴から降りて、直ぐに私の側に来る樹先輩の慣れてきた感が凄い。
「…こいつ、変に復活されても厄介だな」
言って樹先輩は近くにあったサニタリーボックスを手に取りそれで液体を掬い取ってトイレに流した。
「これで復活は出来ないだろ。…なんだよ?」
「あ、うぅん。珍しく頼れるなぁって思って」
「…おい、珍しくってなんだ」
「さぁてと。樹先輩、下の階、どうだった?」
「無視か」
樹先輩に下の階の様子を聞いている癖に無視して先に進むと言う高等技術を駆使して私は部屋に戻ると樹先輩ももう慣れたものなのか普通に後を追ってきた。
トイレのドアをしっかりと閉めて、樹先輩は持っていたものを床に置いた。
さっきは気付かなかったけど、樹先輩背中に携帯型のガスコンロを持っていたらしく、それと薬缶、それからカップ麺を何個か床に転がした。
「カップ麺とか、どうしたの、これ」
「金を手に入れたから、自販機で買ってきた」
「お金?何処にあったの?」
「それも含めて今説明する」
言いながら樹先輩はテーブルに向かうので私もそれに倣って樹先輩の反対に立つ。
それから暫く樹先輩の説明を聞いて、地図に書き込みを入れて行く。
「で、金庫を開けたんだ」
「…成程。点灯パズルだったんだね。全てを点灯させるってなると…順番は、15729の順番で嵌めた?」
「……お前、なんでそうあっさりと」
「パズルの基本だよ、き・ほ・ん」
「何が基本だ。ったく」
「で、樹先輩?」
「なんだよ」
「その他の石は入れてみた?」
「?、何でだ?」
「樹先輩がやったのは基本。なら応用編が何処かにあってもおかしくないじゃない?」
「応用?」
「そう。例えば石を違う順番で入れてみる、とか。点灯する形を意味のあるものにするーとか」
「……いや。そう言うのは全く考えなかった」
「そっかぁ」
「だが待て?違う石を入れたら弾かれたのは覚えてる」
「あ、そうなんだ。じゃあ、点灯かな?もしかしたら何処かに違うのがあるかもしれないし。そこはまた要捜索かな」
「あぁ。そうだな。後は…そうだ。書斎があったんだがそこにはパソコンがあって…」
樹先輩の説明を聞いて驚く。
「ちょっと待って。先輩。さっき私も…」
私もさっき会った都貴心愛さんの事を樹先輩に話す。すると、樹先輩も不審に思ったのか、眉間に皺が寄った。
「待て。俺が見た【ここあ】って奴とイメージが違い過ぎるぞ」
「うん。私もそう思う」
考えられる事は多々あるけど…今は情報が少なすぎて断定が出来ない。
「…一つ思ったんだが、俺はそんな女の姿見なかったぞ?」
「うん?だって出て行ったのは結構前で、私トイレで大分考え事してたし」
「それは、そうかもしれない。だが、そいつも動いていたのなら、何かしら俺が気付いても良さそうなもんだろ」
「確かに」
「……胡散臭いな。美鈴。そいつにあまり気を許すなよ」
「え?でも」
それじゃあ情報集められなくね?
そう言おうとしたけど、樹先輩がガンガン睨んでくるからその言葉は大人しく飲みこんだ。
「…もう、暗くなるな。美鈴。飯食うぞ」
「はいはーい」
樹先輩もそれ以上話に触れたくないのか、話を逸らしたので私もそれに便乗した。
さて、夜が明けるまで私達は待機タイムだ。
その間に出来る事ってなんだろうか?
樹先輩が持って来てくれたペットボトルの水を薬缶に入れながら私は考えるのだった。
あれから暫く弄ってたけど、全然動かない。
やっぱりロックかかってるのかなぁ?
でもさぁ?ロックって電気が流れてこそかけれるものじゃない?電子ロック、だもんね。
だとしたら、これ純粋に壊れてるって可能性もあるのでは?
型も古いしね。昔良く見たドでかいタイプの画面があるパソコンだし。
…あ、私、今あり得ないけど有り得そうなこと思い付いたかも。
ここさ?この部屋さ?鍵かかって開けられないとか思わせといて実は引き戸だったってオチだったじゃん?
もしかしてさ~?
思い至って、もしかしてと思いつつも私はパソコンのディスプレイを両手で掴み、持ち上げてみた。
すると、想定していたよりもずっと軽くそれは持ちあがり、その下から小さなノートパソコンが出てきた。
「やっぱりかいっ!」
思わず全力で突っ込みを入れてしまう。でもねっ?これは仕方ないと思うのっ!
何なのよ、もうっ。
パソコンの電源を入れて起動させる。
当然ロックはかかってるだろうから、それを考えてみる。
どんなロックだろう?
一先ず、この部屋…乙女座の部屋な訳だから…VIRGO(ヴァルゴ)と試しに入力。Enterっと。
「……開いたんですけど。セキュリティになってるの?これ」
まぁ、折角開いたんですから?
弄れるところは一通り弄ってみる。
カタカタカタとパソコンのキーボードを叩く音だけがこの部屋に響く。
うぅ~ん…?特にこの建物の情報らしきものは入ってないのかな~?
思わしきファイルは全て確認したし、怪しい所も潜ってみたけど特にこれと言った情報はない…あ、そうだ。
ネットに繋がってるなら外にも連絡出来るんじゃない?
……ってあれ?待って待って?ネット回線繋がってないの?あらー?そう言えば無線が入ってそうな感じはしない。
有線も…繋がってない。LANケーブル繋がってないもん。まぁ、そうか。監禁する場所の近くに連絡ツールは置かないよね。
でもそれって逆に言えば、このパソコン持ってっても良いって事じゃない?
そうだそうだ。持って行こう。ここに長くいるのももしかしたら危険かもしれないしね。
パソコンを一旦閉じて手に持ち、私は天秤座の部屋へとトイレから戻った。
ベッドの上に座り改めてノートパソコンを開く。
中に入ってるデータとか取りだせないか試してみる。と言えど、こう言うのは華菜ちゃんの方が上手いんだよね…。私はどっちかと言うと作り上げる方が得意だったり…うむむむ…。
暫くカタカタとキーボードを叩いていると、
『MISSION START』
と突然画面が切り替わった。
「ふみ?ヤバいとこ触っちゃったかな?」
ちょっと焦りつつも、画面の流れを見守っていると、画面に数字入力画面が表示された。
……アンダーバーの数からいくと、五桁か。
失敗は何回出来る?…特に回数はなさそうだね。ふむ。
一先ず、12345と入力してみよう。
すると、ブーと音が鳴り、画面はリセットされる。…画面上に変化はないかな?
あ、アンダーバーが一か所が青く、二ヵ所が赤くなってる。青くなってる所は3を入力した場所。赤が2と5を入力した場所だ。
良し。じゃあ試しにもう一度。今度は67890と入力。するとまた画面はリセットされて、今度は青がなく、7と9の入力した場所だけが赤くなった。
「あ、これ解ったかも」
では早速。
と入力を開始しようとしたら、トイレの方から音がした。
樹先輩が帰って来た?
その割にはちょっと早い様な…あ、ヤバいかも。
急いで試験管を一つ手に取り、トイレのドアをほんの少しだけ開けて様子見を…。
そっとドアを開けて、
「―――ヒッ!?!?」
こっちを同じく覗いているクローンの目があった。
にたりと笑ったその顔が気持ち悪いっ!
「ニンゲン……シャチョー…イッショ…。ハ……ス…」
「いやぁっ!!」
バンッ!!
思わず力の限りドアを閉めて戸を抑えた。
どうしようっ、どうしようっ。
クローンと言えど男だ。怖いっ、怖いぃっ!!
ドンッ!ドンッ!
ひぃぃぃっ!!
ドアを叩いてるぅーっ!!
『逃げても、無駄だよ…。ねぇ、華…?』
ひぐっ!
だ、駄目っ。今思い出したら絶対に駄目っ!
た、戦わなきゃ…っ。鴇お兄ちゃんも言ってた。自分から戦いを挑まなきゃ勝てない事もあるって。
そうだ。少しずつでも…勝ちに行かなきゃっ…。
ぐっと歯を食いしばって、握っている試験管をもう一度確認する。
大丈夫…大丈夫。やれる。私はやれるっ。
ドアを勢いよく開けて、一瞬の隙を作ってクローンを蹴り飛ばして、薬液をかけるっ。
カウントダウン…3…2…。
「…1っ…行くよっ!!」
バンっ!!
ドアを勢いよく開けて、目の前にあったクローンの顔を思い切り蹴り飛ばし、便器に向かって吹っ飛んだ所に薬液の入った試験管を思い切り投げつけた。
「ブアァァッ…」
じゅううと音を上げてクローンの体は溶けていく。奇襲攻撃に成功はしたけど、溶けて行くその姿は見ていたい物ではなかった。…って言うか、普通に気持ち悪いよぅ…。
クローンの顔を狙えた訳じゃなかったから、体から溶けているんだけど、顔はまだニタニタと笑って口は泡を噴いている。
「…シャチョウ…メイレイ…オンナ…ハラマス…」
なに、言って…?
何かずっとブツブツ言っているけど、この言葉をそのままの意味に取るなら、『社長の命令。女を孕ます』って言ってるの?
ぞわっと鳥肌が立った。
駄目だっ。無駄遣いしちゃ駄目だって解ってるけど、ごめんっ、樹先輩っ。無理っ。
もう一本急いで手に取り、クローンの頭にぶち当てた。
するとクローンは、何故か気持ち悪い笑みではなく、普通の優しいおじさんの表情になり、「あぁ……やっと、地獄の苦しみから解放された……。ありがとう、白鳥美鈴、総帥」とそう呟いて液状化した。
その液状化した中央に、鍵が落ちている。
これって…鍵?
そうっと近寄って鍵を手に取る。なんで、このクローンは私の事を知ってたんだろう…?
そもそもここはどう言う用途で建てられたの?
てっきりクローンを隠す為かと思ってたんだけど、それ以外にも理由はありそう。…しまったなぁ…。何とか閉じ込めておいて樹先輩に知ってる事を聞き出して貰えば良かった。
でも正直あの状態のクローンと一緒にとか…無理だし。
あぁ、もう…後悔しても意味ないし。やれることを今やるだけ。それで樹先輩とここを脱出してお兄ちゃん達と皆でご飯食べるんだっ!
トイレを出て、もう一度パソコンと向き合う。
そうだそうだ。さっきのミッションの続きを、ガタンッ。
……ガタン?
ねぇ、ちょっと待って?
さっき私クローン倒したよね?倒したばっかりだよね?
え?もう次のが来たの?違うよね?誰か違うと言って…。試験管を握りしめてまたトイレへと近づく。
さっき覗いた時も滅茶苦茶怖かったし…覗くのも怖いんだけど。
それでも身の安全の為に覗かない訳にはいかない。
そっと、ホントに少しだけ1センチくらいだけ開けて、中を覗くとそこには一人の女性が立っていた。
服も髪もボロボロで、異様に痩せている。
「………」
キョロキョロと辺りを見ては、何かを探している。
「……ハズレ、かしら?」
背中しか見えないけど…クローンの様によたよたと歩いてる訳じゃないし。もしかしてクローンじゃない普通の人間なんだろうか?
「念の為、そっちも見て行こうかしら」
くるっとこっちを向いた顔は半分前髪で隠れているのだけど、その前髪は真っ白で。露わになっている方の髪は真っ黒だけれど途中から茶髪に切り替わっている。
細いけれど、半分だけ見えるその顔は意志の強さが感じられる顔をしていた。
あ、こっちに来る。
逃げようとしたけれど、あちらの方が早かった。
あっさりとドアを開けられて、動けなかった私と視線がバッチリ合ってしまう。
「……白鳥、総帥?」
「は、はい。そうです、が…」
頷くしかないじゃない。私が答えた瞬間彼女の瞳は一際大きく見開かれ、そして泣きそうな程に目を潤ませて微笑まれたんだから。
「あぁ…やっと、やっとまともな人に会えたっ…」
ぐっと手を握られる。
「えっと、どちら様でしょう?」
物凄い気の抜けた返答をしちゃったよ。
けれど彼女は気にも止めずに微笑み、そして言った。
「ご挨拶が遅れました。私は都貴心愛と申します」
「ときここあさん?」
「はい。白鳥総帥をずっとずっと探しておりました」
「探してたって…何で?」
彼女は微笑みはするものの答えてはくれない。悪い人ではなさそうだけど…。
「きっとここに閉じ込められているだろうと、思ってました。【あの人達】なら絶対にそうすると」
「あの人達って?」
「私の家族だった人達です」
「だったって、どう言う意味?」
聞き返したけれど、やはり笑顔だけで。
「とにかく、今はここから出ましょう。出口に案内します」
「……何故?」
「何故?とは?」
「色々含まれてるわ。【何故、案内してくれるの?】【何故、出口を知っているの?】【何故、私を助けようとするの?】【何故、貴女はここにいるの?】他にもまだまだあるわ。貴女に対して私は今疑問しかないの」
「…それは…」
「それに出口に行けない理由はもう一つあるわ」
握られた手をそっと撫でて彼女に離して貰って、私は背筋を伸ばして真っ直ぐに向き合う。
「ここには先輩が…私の夫もいますから」
「夫…まさか、樹龍也総帥もここにっ!?」
私は頷いた。
瞬間彼女の顔がどんどん青褪めていく。
「そんな…まさか、あの人達が、ここまで馬鹿だったなんてっ…」
「ここあさん?」
「…っ、いえ…何でもありません。…そうですか。ならば、二人分の逃げ道が必要ですね。解りました。どうぞここでもう暫くだけお待ちくださいっ。必ずお二人を逃がしてみせますっ」
そう言って彼女はくるっと引き返し、トイレのダクト穴に戻って行った。
気になる所があり過ぎる。一体何だったのだろう?
…樹先輩が戻ってきたら何か解るかな?
なんてぼんやり考えていたら。
「…あー…くそっ。せめぇ…」
樹先輩の声がした。
ダクト穴から樹先輩が顔を出した。
「ん?美鈴?んな所で何してんだ…って、これっ、この液体っ。まさかクローンがここまで来たのかっ!?」
「え?あ、うん。そうだ、ごめん樹先輩。こいつに二本使っちゃった」
「いや、無事なのが優先だろ。お前に怪我がなきゃそれでいい」
ダクト穴から降りて、直ぐに私の側に来る樹先輩の慣れてきた感が凄い。
「…こいつ、変に復活されても厄介だな」
言って樹先輩は近くにあったサニタリーボックスを手に取りそれで液体を掬い取ってトイレに流した。
「これで復活は出来ないだろ。…なんだよ?」
「あ、うぅん。珍しく頼れるなぁって思って」
「…おい、珍しくってなんだ」
「さぁてと。樹先輩、下の階、どうだった?」
「無視か」
樹先輩に下の階の様子を聞いている癖に無視して先に進むと言う高等技術を駆使して私は部屋に戻ると樹先輩ももう慣れたものなのか普通に後を追ってきた。
トイレのドアをしっかりと閉めて、樹先輩は持っていたものを床に置いた。
さっきは気付かなかったけど、樹先輩背中に携帯型のガスコンロを持っていたらしく、それと薬缶、それからカップ麺を何個か床に転がした。
「カップ麺とか、どうしたの、これ」
「金を手に入れたから、自販機で買ってきた」
「お金?何処にあったの?」
「それも含めて今説明する」
言いながら樹先輩はテーブルに向かうので私もそれに倣って樹先輩の反対に立つ。
それから暫く樹先輩の説明を聞いて、地図に書き込みを入れて行く。
「で、金庫を開けたんだ」
「…成程。点灯パズルだったんだね。全てを点灯させるってなると…順番は、15729の順番で嵌めた?」
「……お前、なんでそうあっさりと」
「パズルの基本だよ、き・ほ・ん」
「何が基本だ。ったく」
「で、樹先輩?」
「なんだよ」
「その他の石は入れてみた?」
「?、何でだ?」
「樹先輩がやったのは基本。なら応用編が何処かにあってもおかしくないじゃない?」
「応用?」
「そう。例えば石を違う順番で入れてみる、とか。点灯する形を意味のあるものにするーとか」
「……いや。そう言うのは全く考えなかった」
「そっかぁ」
「だが待て?違う石を入れたら弾かれたのは覚えてる」
「あ、そうなんだ。じゃあ、点灯かな?もしかしたら何処かに違うのがあるかもしれないし。そこはまた要捜索かな」
「あぁ。そうだな。後は…そうだ。書斎があったんだがそこにはパソコンがあって…」
樹先輩の説明を聞いて驚く。
「ちょっと待って。先輩。さっき私も…」
私もさっき会った都貴心愛さんの事を樹先輩に話す。すると、樹先輩も不審に思ったのか、眉間に皺が寄った。
「待て。俺が見た【ここあ】って奴とイメージが違い過ぎるぞ」
「うん。私もそう思う」
考えられる事は多々あるけど…今は情報が少なすぎて断定が出来ない。
「…一つ思ったんだが、俺はそんな女の姿見なかったぞ?」
「うん?だって出て行ったのは結構前で、私トイレで大分考え事してたし」
「それは、そうかもしれない。だが、そいつも動いていたのなら、何かしら俺が気付いても良さそうなもんだろ」
「確かに」
「……胡散臭いな。美鈴。そいつにあまり気を許すなよ」
「え?でも」
それじゃあ情報集められなくね?
そう言おうとしたけど、樹先輩がガンガン睨んでくるからその言葉は大人しく飲みこんだ。
「…もう、暗くなるな。美鈴。飯食うぞ」
「はいはーい」
樹先輩もそれ以上話に触れたくないのか、話を逸らしたので私もそれに便乗した。
さて、夜が明けるまで私達は待機タイムだ。
その間に出来る事ってなんだろうか?
樹先輩が持って来てくれたペットボトルの水を薬缶に入れながら私は考えるのだった。
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