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最終章 数多の未来への選択編
※※※(樹視点)
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「…一先ず美鈴の無事を確認出来ただけでも儲けものか」
はぁと息を吐いて俺が今現在閉じ込められている部屋を改めて見回した。
「…にしても、酷ぇな。いくら誘拐と言えどもっとましな部屋に入れるだろう。普通は。これでも俺は財閥の総帥なんだがな」
床は汚いズタボロの絨毯が敷かれていて、所々穴からはコンクリートの部分が見え隠れしている。
天井も壁も煤だらけ。天井の隅にいたっては蜘蛛が綺麗な六角形の巣を作っていた。
ベッドもほぼ布団に近い。足が四本とも折れてる。クローゼットらしきものはないが、代わりに薬品棚が何個も並んでいる。
まぁ、その薬棚の中に至っては、地震でもあったのかと思いたくなる程ぐちゃぐちゃだ。……一部棚が溶けてる所を見ると酸でも入ってたんだろう。
座れる椅子があるのはまだマシと取るべきか否か。
あと、問題はこれだよな。
腕を動かすとジャラッと鎖が鳴る。
拘束されるのは予想してたとは言え、こんな風に鎖で腕と床とが繋がれるのは想定外だった。しかもだ。
窓には何とか届くが、二つあるドアには全く届かない。
「どうやってトイレや風呂に行くんだよ、これ」
引っ張って見ても頑丈過ぎて壊れる気がしない。そもそもトイレと風呂があるかどうかも謎なんだがな。
「…葵だったら壊しそうだけどな」
いや…葵に限らないか。あいつの兄貴連中だったら誰でも破壊しそうだ。…もしかして俺が非力…いや、いやいやいや。そんな事はない。あの兄弟と兄の仲間がおかしいだけだ。
俺は普通よりは強い筈だ。……多分。
さて。そんな事よりも、だ。
美鈴とどうにかして合流しなきゃならない。
使えそうな道具を探してみるか。
一歩をそっと踏み出す。ぶっちゃけて言えば、この床はもろい。下手すると崩れる可能性だってある。
俺は生身の普通の人間だからな。落ちそうになった所を跳ねて回避など出来ない。
なら俺に出来る事はそっと歩く事位だ。
慎重に数歩歩いてる最中に、ガコンッと何かが落ちた音がした。
…あっちのドアの方か。壊れたベッドの脇にあるドア。
確かめたいのは山々なんだが…届かない。
となると、やっぱり先にこの鎖をどうにかしないといけない。
……この鎖、鉄で出来てるな。…この部屋にあるのは薬品棚くらいだ。ペンチとか工具があれば良いんだが、それも期待出来そうにない。
鎖をどうにかする。手段としては、まず真っ当な手でこの俺を拘束している枷の鍵を開ける、なんだろうがまぁ、無理だよな。普通に考えて捕らえた人間の側に拘束をしている枷の鍵を置くような馬鹿はいないだろう。
じゃあ、次にこの鎖を切断する、なんだが…こんな頑丈な鎖、切れる道具となると余程立派な挟みじゃないと無理だ。
後、使えるモノってなんだ?
開ける…切る…消す…溶かす……溶かす?
あぁ、そうか。溶かすって手があるな。幸いここは薬品棚だらけ。塩酸の一つや二つあるだろ。例え溶けきらずとも多少でも脆くなってくれれば破壊する術は出てくる。
薬品棚を順番に覗いて…無事な薬品、そうでない薬品、変化した薬品と見て行くが、流石に全部暗記は不可能だ。
いつもの様に胸ポケットに入れている手帳を取りだそうとして、入っていない事に気づく。
「ちっ。やっぱり持ってかれたか」
機密事項等は全部俺の頭の中にしかない。だから手帳やペンなんかいくら持って行かれても構わないんだが…なんて事のない内容しか書いてないからこそ返して貰いたい。
メモをする道具が無いってのは本当に困るんだ。
どっかにメモ出来そうな紙とペンは無いか?
どうせなら薬の他にも部屋の見取り図も書いておきたい。
それを書いてさえ置けば美鈴に渡す事も出来る。状況の把握も楽になるだろうし。
…ん?あの棚に入ってるの筆記用具だな。
ガラス戸を開けようとして、ガタンと音を鳴らしただけで戸は開かなかった。どうやら鍵がかかっているらしい。
鍵とか何の意味があるのか理解出来ない。薬を使われないようにする為だとしたら愚か以外の何物でもない。
普通に壊すだろ、こんなもの。
近くに落ちていたベッドの足を手に取って、いっそ鬱憤晴らしの勢いでガラス戸を割った。
ガシャンッと音を立てたけれど、外から誰かが来るような事はない。目が覚めた時点で外に人の気配がないかどうかは確認済みだ。
あっさりとガラスは割れて、穴をなるべくベッドの足で破片を落としてから、慎重に中からペンと側にあった書類束を手に取った。
「……ん?」
メモ代わりにしてやろうと思ったら、これ…『研究成果報告書』って書いてるな。
クローンの事とか載ってるかもしれない。…が一先ずは裏紙をメモとして使わせて貰おう。
薬品棚にある薬品を素早くメモして、全て書き切った所で、塩酸の瓶を取りなるべく体から離れた位置の鎖にそれをかける。
じゅわっと鉄が溶ける音がした。…これで多少脆くなってくれてると良いが…。
力を腕に集中して、一気に引っ張る。
すると、パキッと音がしたが、壊れた気配はない。
けれど、壊れそうな予感はある。同じ動きを数度繰り返し、五回目にして鎖に入っていたヒビが大きくなり鎖の一部が割れた。
「良し。これでいいな」
これで拘束物は何もない。
俺はメモをした『研究成果報告書』を片手に、急ぎ音がしたドアへと走った。
ドアを開けるとそこはトイレで。臭いも凄ければ汚さも凄い。
で?さっきの音は?一体何の音だったんだ?
あまりにも汚れ過ぎてて、長居はしたくないんだが……うん?
周囲を見回して、最後天井を見上げていると、一か所…あれは、換気のダクトか?正しくはダクトを通す穴って所か?
何でそこが開いている?
ん?待てよ?
この位置から考えて、隣は美鈴のいる部屋だ。
だったら…あの穴の大きさなら行けるか?
便座を足場に穴に手をかけて、登ると四つん這いでどうにか進める位の大きさの穴が横へ伸びている。尚且つ直ぐ奥に下から隙間明かりの入る場所があった。
あそこが美鈴のいる場所か。
なら行くしかないだろ。
どうにか四つん這いで進み、その隙間明かりが入る場所へと来ると、金網がある。一回軽く叩いてみる。…この程度なら。金網を殴って一気に取り外す。
網はガランガランと音を立てて下へと落下した。
ついでに俺も足から下へと降りると、
「何の音っ!?って、樹先輩っ!?」
ドアが開くと同時に美鈴が飛び込んできた。
「え?どっから来たのっ?まさか上っ!?」
美鈴が埃を払っている俺と天井を交互に見て目を真ん丸にしていた。
「樹先輩、大胆ですね…」
「仕方ないだろ。お前がこんな部屋に一人いるなんて危な過ぎ……うん?」
ちょっと待て?
何だ?この綺麗な部屋は。
清潔感もある上に風呂まで付いてる。
ちらっと美鈴の立っているドアの奥を見ると、ふかふかの絨毯が見えた。
「…なんだ?この綺麗さは」
「ふみ?」
「俺のいた所なんて、汚くて座るのも嫌だったぞっ」
ここまで違うと流石に腹立つぞっ。
俺を拉致ってあの部屋に入れた奴。絶対見つけ出して裁いてやるっ!
「……とにかく、樹先輩と合流出来て良かった。先輩は繋がれたりしなかったんですか?」
「お前の目にはこの腕が映らねぇのか?」
ジャラッと態と音を立てて腕にはめ込まれた枷を見せると、美鈴は静かーに視線を逸らして、笑って誤魔化した。
と言うか、俺はって事は美鈴は繋がれてない…訳じゃなさそうだな。
足首に枷が付いてる。…塩酸持ってくるべきだったか。
美鈴が歩くままに付いて行くと、部屋は俺の部屋と真反対だった。
勿論汚くなく豪華だって事が一番だが、それ以外にも、部屋の配置がまるで鏡写しのように真反対だったって意味もある。
同じ総帥と言う立ち位置で誘拐されたってのにこの差は何だ。贔屓が過ぎる。
中に入って俺はベッドに、美鈴は椅子に座る。
「先輩、遠い。こっちに来て」
……こいつ、本当に俺を年上だと思ってないよな…。
そもそも椅子は一脚しかない。となると俺に立ってろと?
まぁ、いい。女でしかも男が怖いこいつにベッドに近寄れとは余程の事態じゃない限り言えないからな。
立ち上がって美鈴の側に行く。……いつもならここで抱き締める位はするが、今はそんな状況じゃない。
美鈴が呼んだ場所はテーブル前だった。
テーブルの上にはこの部屋の見取り図らしきものがある。そして、あれは…鍵か?
「美鈴。それは?」
「この部屋の鍵。…なんだけどね。この部屋、上と下にも鍵が付いてるの」
「その鍵の意味がないってことか」
「そういうこと」
言いながら美鈴は立ち上がる。
何だ?何処かに行くのか?と思ったら、そのまま部屋の見取り図の説明に入った。
「?、美鈴、座らないのか?」
「?、樹先輩を立たせてるんだから、私だって立ちますよ?」
何を当り前の事をと言いたげに首を傾げる。
あぁ、ホントにこいつは…。
そうだよな。こいつはそう言う奴だった。
「こう言う場面でお前はふざける奴でもなかったな」
ぼそっと呟いて苦笑したが、美鈴には聞こえなかったようでただただ首を傾げている。
「それ以上傾げると首落ちるぞ。それよりも、これを見ろ」
「それよりって言いだしたのは樹先輩なのに…むぅ」
俺は美鈴の部屋の見取り図の横に自分が書いた見取り図を置いた。念の為に資料に刺し障りのない所に書いて置いて良かった。
その見取り図はテーブルに置く前に破いておいた為、それとは別に俺は『研究成果報告書』を机に置く。
「『研究成果報告書』?」
「俺も中を確認してはいない。机に広げてくれ」
「うん。分かった」
結構な厚さのある資料だったから、俺と美鈴は中から重要そうな物だけを選び並べて行く。書類を束にしていた紐などとうに床に投げ捨てている。
「クローンの作り方が主だね」
「だな。しかも失敗例だらけだ。報告書だしこんなもんかもな。鍵がかけられていたとは言え、薬品棚に放置されてた訳だし」
「薬品棚?」
「俺の監禁されてた場所は、恐らく薬品保存部屋だったんだろ。薬品がゴロゴロと並んでいた。ついでに言えばお化け屋敷並に荒れ果てた部屋だったぞ」
「そうなの?だから樹先輩の服、汚れてるんだね。私はてっきりあの穴を通って来たからだと」
「いや、それも間違いじゃねぇけど」
「でも、そっか。もしかして樹先輩、鎖を薬品で溶かして断ち切った?」
「あぁ」
「おぉー。じゃあ私もその手でいけるかもっ」
「分かってる。戻ったら直ぐに持ってくる。それより、今は他にも情報を共有すべきだろ」
「うん。でも私の部屋にはそれらしきものは何もなくて。あってこの鍵なんだよね」
「鍵、か。ここに書いてるのは天秤座のマークだな」
「そうなの。だからここはきっと天秤座の部屋なんだろうなと思って。…って考えるとさ?」
「少なくとも12部屋はあるって事だな」
「そうなの。樹先輩の部屋は何の部屋だろう?」
「順当に行けば天秤の横だから蠍か乙女のどちらかだろうが…」
「…この部屋を見ただけじゃ何とも言えないよね」
「地図が、欲しいな。この場所が何階なのか解らねぇし」
「ここが何処かもわからないもんね」
ここが何処なのか、か。確かに。
「俺が目を覚ましたのは昨日だ。その間に連れ去られたとしても、結構な日時が経ったと思っていいだろうな」
「昨日?そうなの?じゃあ、私がヘリから落下してから何日経ってるの?」
「カレンダーも時計もないから、正直俺も解らない。ただ解ってるのは、俺は落下するお前を見つけて、パラシュート片手に落ちた事位だ」
「ふみっ!?そうなのっ!?」
「あのクローンと一緒に落下なんてさせられる訳ないだろ。大事な俺の新妻だぞ?」
「新妻…って言われると違和感しかないけど、確かに結婚式上げたからそうなるね」
「何で違和感しかねぇんだよ。…違和感、なくしてやろうか?」
ニヤリと敢えて笑うと、ゆっくりと椅子を持ちあげられたので、ひとまず今の言葉は無かった事にしよう。
「何とか美鈴をクローンから奪い返して、直ぐにパラシュートを開いたが、俺達の乗っていたヘリを操縦していたクローンが飛びついて来て、対処していたら強風に当てられて。お前だけは離さないように頑張ったが風に流されに流されて途中で意識を失ったんだ」
「それで目が覚めたらここにいた?」
「そうだ」
「…どっかに不時着してそれをクローン達を使って回収されたと考えた方がいいかもね」
「まぁ、それが妥当だよな」
……あの時、猪塚と花島も一緒にヘリから飛び出した。
確実に無事だとは思うが…捕まっていない事を祈る。
「樹先輩。手が自由になってから、外覗いてみた?」
「いや」
「下にね。クローンが大量に徘徊してるの。もしかしたらこの建物全体にいるのかもしれない」
「面倒だな」
「うん。ねぇ、樹先輩。私が思うにここって、多分失敗したクローンの捨て場なんじゃないかな?」
「…いや、捨て場兼製作所と考えた方がいい。その資料見ても解る通り、ここでも実験は行われていた。ただ、失敗作が増えすぎて自分達研究者の命も危うくなったからここを放棄したに過ぎない」
「世界にこう言う場所がまだあるって事?」
「可能性は高いな」
「………絶対生きて帰ってここを摘発しなきゃ」
「だな。その為にもまずは脱出だ」
議題は原点に戻る。
俺達は再び資料に視線を戻した。
「ねぇ、樹先輩」
「どうした?」
「…ここ。この『薬品Aと薬品Bを調合すると薬品Cが精製される』ってあるよ」
「どこだ?」
美鈴が指さした所を俺も改めて読み返す。
『薬品調合方法 薬品A + 薬品B = 薬品C
薬品F + 薬品G = 薬品M
薬品K + 薬品A = 薬品L
二つの薬を調合しなければ結果は出ない。同じ薬を足しても【0】にしかならない。クローンを消すには三つの薬品を組み合わせる必要がある』
「…クローンを消すには三つの薬品を組み合わせる必要がある?」
最後の一文を俺はもう一度読み直した。
「でも載ってるのは二つの薬品を足した結果のみだよね?」
「あぁ」
「……何か法則性があるのかもしれないね」
「重要な所は、その法則性が何かって事だよな」
「うぅ~ん…他にも載ってないかな?」
資料を隅々まで確認したが、後はクローンの失敗報告だらけで詳しい事は載っていなかった。
「実験するしかないのかな?」
「なら、これは俺がやろう。お前の鎖を溶かす塩酸も取りに行かなきゃならないからな」
「でも、先輩。失敗して毒薬が出来たらどうするの?」
「…失敗しなきゃいいんだろ?」
「そんなご都合主義ある訳ないって」
ハッキリ言いやがるな、こいつ。
事実だから言い返せないのが、腹立つ。
「…私も薬品見に行けたらなぁ」
「だからあっちに戻って塩酸持ってくるって言ってるだろ」
「行くなら私も一緒に行きたいのっ。それに出来る限り移動回数を少なくしたい。どんな時に誘拐犯にばれるか解らないでしょ」
「……成程。不安だから俺と一緒にいたい、って事だな?」
「そうは言ってないっ!言ってなくもないっ!言ってるかもっ!言ったねっ!一人は嫌ーっ!」
「……突っ込みを入れる前に一人でどんどん発言を変えて行くな」
一人は嫌、か。
俺でも側にいてくれた方が良いと言ってくれるだけ俺への嫌悪感が減ってくれてる事に安堵する。
なら美鈴が少しでも安心出来るようにしてやるか。
何か、無かったか?
あの薬品の謎が解ける様な何か…あぁ、そう言えば。
思い出して、報告書を裏返す。
「ふみ?」
そこには、俺が書きなぐった薬品棚の薬品のメモがあった。
「あっちの部屋にある薬品を全部メモってたんだった。すっかり忘れてたぜ」
「……イソプロピル…家庭用の薬品から医療事業者じゃないと手に入らない薬品、本来販売されてはいけない薬品まであるのね」
「…それを理解しているお前の方が怖ぇぞ」
「ねぇ、樹先輩?これはなに?」
問われて、指さされている所を見ると、そこには雑な瓶の柄と色だけが書かれていた。
「あぁ、そこか。薬品名書いてなかったから適当に色だけ書いたんだよ。後、蓋にかかれていたのを忠実に書いた」
「へぇ……。ちょっとまとめてみようかな」
「まとめる?」
「そう。例えば…赤がかってるのを一つのグループにーって」
「…けどそれって、どれがどれだか解らなくならないか?」
「それもそうだね。何か特徴ってなかったの?」
「いや、俺は見たまま書いただけだから…あぁ、でもちょっと待てよ?確かその赤い液体にBって書いてたな。B-2って」
「B-2?」
「そうそう。確か意味わからなくて、でもメモしとくだけしとこうって…」
俺は書類を手に取り、何枚かペラペラと捲り目当ての物を取りだした。
そこには薬品と番号の羅列があった。
『紫A1、赤B2、黄C3、灰G7、青O15、紫U21、緑X24、橙Z26』
ただ書きなぐっただけだから、深い意味を考えもしなかったが…。美鈴はどうやら違うらしい。
「Bー2…………Cが3……あ、何か解ったかもっ」
羅列だけを見て何かを思い付き、紙に何やら書き始めた。嘘だろ?あれだけで何か解るのか?
これだけの事で一体何が解るって言うんだ。
「先輩先輩。一先ず塩酸持って来てっ。私も隣の部屋に一緒に行くからっ。急いで急いでっ。でも直ぐに戻って来てね?」
謎が解けた美鈴が嬉しそうに、それはそれは嬉しそうに可愛く笑うものだから、俺はただただ言う事を聞いて塩酸を取りに戻るしかなかった。
…今だったら、キスの一つや二つ受け入れてくれたかもしれない…と思わなくもない。
はぁと息を吐いて俺が今現在閉じ込められている部屋を改めて見回した。
「…にしても、酷ぇな。いくら誘拐と言えどもっとましな部屋に入れるだろう。普通は。これでも俺は財閥の総帥なんだがな」
床は汚いズタボロの絨毯が敷かれていて、所々穴からはコンクリートの部分が見え隠れしている。
天井も壁も煤だらけ。天井の隅にいたっては蜘蛛が綺麗な六角形の巣を作っていた。
ベッドもほぼ布団に近い。足が四本とも折れてる。クローゼットらしきものはないが、代わりに薬品棚が何個も並んでいる。
まぁ、その薬棚の中に至っては、地震でもあったのかと思いたくなる程ぐちゃぐちゃだ。……一部棚が溶けてる所を見ると酸でも入ってたんだろう。
座れる椅子があるのはまだマシと取るべきか否か。
あと、問題はこれだよな。
腕を動かすとジャラッと鎖が鳴る。
拘束されるのは予想してたとは言え、こんな風に鎖で腕と床とが繋がれるのは想定外だった。しかもだ。
窓には何とか届くが、二つあるドアには全く届かない。
「どうやってトイレや風呂に行くんだよ、これ」
引っ張って見ても頑丈過ぎて壊れる気がしない。そもそもトイレと風呂があるかどうかも謎なんだがな。
「…葵だったら壊しそうだけどな」
いや…葵に限らないか。あいつの兄貴連中だったら誰でも破壊しそうだ。…もしかして俺が非力…いや、いやいやいや。そんな事はない。あの兄弟と兄の仲間がおかしいだけだ。
俺は普通よりは強い筈だ。……多分。
さて。そんな事よりも、だ。
美鈴とどうにかして合流しなきゃならない。
使えそうな道具を探してみるか。
一歩をそっと踏み出す。ぶっちゃけて言えば、この床はもろい。下手すると崩れる可能性だってある。
俺は生身の普通の人間だからな。落ちそうになった所を跳ねて回避など出来ない。
なら俺に出来る事はそっと歩く事位だ。
慎重に数歩歩いてる最中に、ガコンッと何かが落ちた音がした。
…あっちのドアの方か。壊れたベッドの脇にあるドア。
確かめたいのは山々なんだが…届かない。
となると、やっぱり先にこの鎖をどうにかしないといけない。
……この鎖、鉄で出来てるな。…この部屋にあるのは薬品棚くらいだ。ペンチとか工具があれば良いんだが、それも期待出来そうにない。
鎖をどうにかする。手段としては、まず真っ当な手でこの俺を拘束している枷の鍵を開ける、なんだろうがまぁ、無理だよな。普通に考えて捕らえた人間の側に拘束をしている枷の鍵を置くような馬鹿はいないだろう。
じゃあ、次にこの鎖を切断する、なんだが…こんな頑丈な鎖、切れる道具となると余程立派な挟みじゃないと無理だ。
後、使えるモノってなんだ?
開ける…切る…消す…溶かす……溶かす?
あぁ、そうか。溶かすって手があるな。幸いここは薬品棚だらけ。塩酸の一つや二つあるだろ。例え溶けきらずとも多少でも脆くなってくれれば破壊する術は出てくる。
薬品棚を順番に覗いて…無事な薬品、そうでない薬品、変化した薬品と見て行くが、流石に全部暗記は不可能だ。
いつもの様に胸ポケットに入れている手帳を取りだそうとして、入っていない事に気づく。
「ちっ。やっぱり持ってかれたか」
機密事項等は全部俺の頭の中にしかない。だから手帳やペンなんかいくら持って行かれても構わないんだが…なんて事のない内容しか書いてないからこそ返して貰いたい。
メモをする道具が無いってのは本当に困るんだ。
どっかにメモ出来そうな紙とペンは無いか?
どうせなら薬の他にも部屋の見取り図も書いておきたい。
それを書いてさえ置けば美鈴に渡す事も出来る。状況の把握も楽になるだろうし。
…ん?あの棚に入ってるの筆記用具だな。
ガラス戸を開けようとして、ガタンと音を鳴らしただけで戸は開かなかった。どうやら鍵がかかっているらしい。
鍵とか何の意味があるのか理解出来ない。薬を使われないようにする為だとしたら愚か以外の何物でもない。
普通に壊すだろ、こんなもの。
近くに落ちていたベッドの足を手に取って、いっそ鬱憤晴らしの勢いでガラス戸を割った。
ガシャンッと音を立てたけれど、外から誰かが来るような事はない。目が覚めた時点で外に人の気配がないかどうかは確認済みだ。
あっさりとガラスは割れて、穴をなるべくベッドの足で破片を落としてから、慎重に中からペンと側にあった書類束を手に取った。
「……ん?」
メモ代わりにしてやろうと思ったら、これ…『研究成果報告書』って書いてるな。
クローンの事とか載ってるかもしれない。…が一先ずは裏紙をメモとして使わせて貰おう。
薬品棚にある薬品を素早くメモして、全て書き切った所で、塩酸の瓶を取りなるべく体から離れた位置の鎖にそれをかける。
じゅわっと鉄が溶ける音がした。…これで多少脆くなってくれてると良いが…。
力を腕に集中して、一気に引っ張る。
すると、パキッと音がしたが、壊れた気配はない。
けれど、壊れそうな予感はある。同じ動きを数度繰り返し、五回目にして鎖に入っていたヒビが大きくなり鎖の一部が割れた。
「良し。これでいいな」
これで拘束物は何もない。
俺はメモをした『研究成果報告書』を片手に、急ぎ音がしたドアへと走った。
ドアを開けるとそこはトイレで。臭いも凄ければ汚さも凄い。
で?さっきの音は?一体何の音だったんだ?
あまりにも汚れ過ぎてて、長居はしたくないんだが……うん?
周囲を見回して、最後天井を見上げていると、一か所…あれは、換気のダクトか?正しくはダクトを通す穴って所か?
何でそこが開いている?
ん?待てよ?
この位置から考えて、隣は美鈴のいる部屋だ。
だったら…あの穴の大きさなら行けるか?
便座を足場に穴に手をかけて、登ると四つん這いでどうにか進める位の大きさの穴が横へ伸びている。尚且つ直ぐ奥に下から隙間明かりの入る場所があった。
あそこが美鈴のいる場所か。
なら行くしかないだろ。
どうにか四つん這いで進み、その隙間明かりが入る場所へと来ると、金網がある。一回軽く叩いてみる。…この程度なら。金網を殴って一気に取り外す。
網はガランガランと音を立てて下へと落下した。
ついでに俺も足から下へと降りると、
「何の音っ!?って、樹先輩っ!?」
ドアが開くと同時に美鈴が飛び込んできた。
「え?どっから来たのっ?まさか上っ!?」
美鈴が埃を払っている俺と天井を交互に見て目を真ん丸にしていた。
「樹先輩、大胆ですね…」
「仕方ないだろ。お前がこんな部屋に一人いるなんて危な過ぎ……うん?」
ちょっと待て?
何だ?この綺麗な部屋は。
清潔感もある上に風呂まで付いてる。
ちらっと美鈴の立っているドアの奥を見ると、ふかふかの絨毯が見えた。
「…なんだ?この綺麗さは」
「ふみ?」
「俺のいた所なんて、汚くて座るのも嫌だったぞっ」
ここまで違うと流石に腹立つぞっ。
俺を拉致ってあの部屋に入れた奴。絶対見つけ出して裁いてやるっ!
「……とにかく、樹先輩と合流出来て良かった。先輩は繋がれたりしなかったんですか?」
「お前の目にはこの腕が映らねぇのか?」
ジャラッと態と音を立てて腕にはめ込まれた枷を見せると、美鈴は静かーに視線を逸らして、笑って誤魔化した。
と言うか、俺はって事は美鈴は繋がれてない…訳じゃなさそうだな。
足首に枷が付いてる。…塩酸持ってくるべきだったか。
美鈴が歩くままに付いて行くと、部屋は俺の部屋と真反対だった。
勿論汚くなく豪華だって事が一番だが、それ以外にも、部屋の配置がまるで鏡写しのように真反対だったって意味もある。
同じ総帥と言う立ち位置で誘拐されたってのにこの差は何だ。贔屓が過ぎる。
中に入って俺はベッドに、美鈴は椅子に座る。
「先輩、遠い。こっちに来て」
……こいつ、本当に俺を年上だと思ってないよな…。
そもそも椅子は一脚しかない。となると俺に立ってろと?
まぁ、いい。女でしかも男が怖いこいつにベッドに近寄れとは余程の事態じゃない限り言えないからな。
立ち上がって美鈴の側に行く。……いつもならここで抱き締める位はするが、今はそんな状況じゃない。
美鈴が呼んだ場所はテーブル前だった。
テーブルの上にはこの部屋の見取り図らしきものがある。そして、あれは…鍵か?
「美鈴。それは?」
「この部屋の鍵。…なんだけどね。この部屋、上と下にも鍵が付いてるの」
「その鍵の意味がないってことか」
「そういうこと」
言いながら美鈴は立ち上がる。
何だ?何処かに行くのか?と思ったら、そのまま部屋の見取り図の説明に入った。
「?、美鈴、座らないのか?」
「?、樹先輩を立たせてるんだから、私だって立ちますよ?」
何を当り前の事をと言いたげに首を傾げる。
あぁ、ホントにこいつは…。
そうだよな。こいつはそう言う奴だった。
「こう言う場面でお前はふざける奴でもなかったな」
ぼそっと呟いて苦笑したが、美鈴には聞こえなかったようでただただ首を傾げている。
「それ以上傾げると首落ちるぞ。それよりも、これを見ろ」
「それよりって言いだしたのは樹先輩なのに…むぅ」
俺は美鈴の部屋の見取り図の横に自分が書いた見取り図を置いた。念の為に資料に刺し障りのない所に書いて置いて良かった。
その見取り図はテーブルに置く前に破いておいた為、それとは別に俺は『研究成果報告書』を机に置く。
「『研究成果報告書』?」
「俺も中を確認してはいない。机に広げてくれ」
「うん。分かった」
結構な厚さのある資料だったから、俺と美鈴は中から重要そうな物だけを選び並べて行く。書類を束にしていた紐などとうに床に投げ捨てている。
「クローンの作り方が主だね」
「だな。しかも失敗例だらけだ。報告書だしこんなもんかもな。鍵がかけられていたとは言え、薬品棚に放置されてた訳だし」
「薬品棚?」
「俺の監禁されてた場所は、恐らく薬品保存部屋だったんだろ。薬品がゴロゴロと並んでいた。ついでに言えばお化け屋敷並に荒れ果てた部屋だったぞ」
「そうなの?だから樹先輩の服、汚れてるんだね。私はてっきりあの穴を通って来たからだと」
「いや、それも間違いじゃねぇけど」
「でも、そっか。もしかして樹先輩、鎖を薬品で溶かして断ち切った?」
「あぁ」
「おぉー。じゃあ私もその手でいけるかもっ」
「分かってる。戻ったら直ぐに持ってくる。それより、今は他にも情報を共有すべきだろ」
「うん。でも私の部屋にはそれらしきものは何もなくて。あってこの鍵なんだよね」
「鍵、か。ここに書いてるのは天秤座のマークだな」
「そうなの。だからここはきっと天秤座の部屋なんだろうなと思って。…って考えるとさ?」
「少なくとも12部屋はあるって事だな」
「そうなの。樹先輩の部屋は何の部屋だろう?」
「順当に行けば天秤の横だから蠍か乙女のどちらかだろうが…」
「…この部屋を見ただけじゃ何とも言えないよね」
「地図が、欲しいな。この場所が何階なのか解らねぇし」
「ここが何処かもわからないもんね」
ここが何処なのか、か。確かに。
「俺が目を覚ましたのは昨日だ。その間に連れ去られたとしても、結構な日時が経ったと思っていいだろうな」
「昨日?そうなの?じゃあ、私がヘリから落下してから何日経ってるの?」
「カレンダーも時計もないから、正直俺も解らない。ただ解ってるのは、俺は落下するお前を見つけて、パラシュート片手に落ちた事位だ」
「ふみっ!?そうなのっ!?」
「あのクローンと一緒に落下なんてさせられる訳ないだろ。大事な俺の新妻だぞ?」
「新妻…って言われると違和感しかないけど、確かに結婚式上げたからそうなるね」
「何で違和感しかねぇんだよ。…違和感、なくしてやろうか?」
ニヤリと敢えて笑うと、ゆっくりと椅子を持ちあげられたので、ひとまず今の言葉は無かった事にしよう。
「何とか美鈴をクローンから奪い返して、直ぐにパラシュートを開いたが、俺達の乗っていたヘリを操縦していたクローンが飛びついて来て、対処していたら強風に当てられて。お前だけは離さないように頑張ったが風に流されに流されて途中で意識を失ったんだ」
「それで目が覚めたらここにいた?」
「そうだ」
「…どっかに不時着してそれをクローン達を使って回収されたと考えた方がいいかもね」
「まぁ、それが妥当だよな」
……あの時、猪塚と花島も一緒にヘリから飛び出した。
確実に無事だとは思うが…捕まっていない事を祈る。
「樹先輩。手が自由になってから、外覗いてみた?」
「いや」
「下にね。クローンが大量に徘徊してるの。もしかしたらこの建物全体にいるのかもしれない」
「面倒だな」
「うん。ねぇ、樹先輩。私が思うにここって、多分失敗したクローンの捨て場なんじゃないかな?」
「…いや、捨て場兼製作所と考えた方がいい。その資料見ても解る通り、ここでも実験は行われていた。ただ、失敗作が増えすぎて自分達研究者の命も危うくなったからここを放棄したに過ぎない」
「世界にこう言う場所がまだあるって事?」
「可能性は高いな」
「………絶対生きて帰ってここを摘発しなきゃ」
「だな。その為にもまずは脱出だ」
議題は原点に戻る。
俺達は再び資料に視線を戻した。
「ねぇ、樹先輩」
「どうした?」
「…ここ。この『薬品Aと薬品Bを調合すると薬品Cが精製される』ってあるよ」
「どこだ?」
美鈴が指さした所を俺も改めて読み返す。
『薬品調合方法 薬品A + 薬品B = 薬品C
薬品F + 薬品G = 薬品M
薬品K + 薬品A = 薬品L
二つの薬を調合しなければ結果は出ない。同じ薬を足しても【0】にしかならない。クローンを消すには三つの薬品を組み合わせる必要がある』
「…クローンを消すには三つの薬品を組み合わせる必要がある?」
最後の一文を俺はもう一度読み直した。
「でも載ってるのは二つの薬品を足した結果のみだよね?」
「あぁ」
「……何か法則性があるのかもしれないね」
「重要な所は、その法則性が何かって事だよな」
「うぅ~ん…他にも載ってないかな?」
資料を隅々まで確認したが、後はクローンの失敗報告だらけで詳しい事は載っていなかった。
「実験するしかないのかな?」
「なら、これは俺がやろう。お前の鎖を溶かす塩酸も取りに行かなきゃならないからな」
「でも、先輩。失敗して毒薬が出来たらどうするの?」
「…失敗しなきゃいいんだろ?」
「そんなご都合主義ある訳ないって」
ハッキリ言いやがるな、こいつ。
事実だから言い返せないのが、腹立つ。
「…私も薬品見に行けたらなぁ」
「だからあっちに戻って塩酸持ってくるって言ってるだろ」
「行くなら私も一緒に行きたいのっ。それに出来る限り移動回数を少なくしたい。どんな時に誘拐犯にばれるか解らないでしょ」
「……成程。不安だから俺と一緒にいたい、って事だな?」
「そうは言ってないっ!言ってなくもないっ!言ってるかもっ!言ったねっ!一人は嫌ーっ!」
「……突っ込みを入れる前に一人でどんどん発言を変えて行くな」
一人は嫌、か。
俺でも側にいてくれた方が良いと言ってくれるだけ俺への嫌悪感が減ってくれてる事に安堵する。
なら美鈴が少しでも安心出来るようにしてやるか。
何か、無かったか?
あの薬品の謎が解ける様な何か…あぁ、そう言えば。
思い出して、報告書を裏返す。
「ふみ?」
そこには、俺が書きなぐった薬品棚の薬品のメモがあった。
「あっちの部屋にある薬品を全部メモってたんだった。すっかり忘れてたぜ」
「……イソプロピル…家庭用の薬品から医療事業者じゃないと手に入らない薬品、本来販売されてはいけない薬品まであるのね」
「…それを理解しているお前の方が怖ぇぞ」
「ねぇ、樹先輩?これはなに?」
問われて、指さされている所を見ると、そこには雑な瓶の柄と色だけが書かれていた。
「あぁ、そこか。薬品名書いてなかったから適当に色だけ書いたんだよ。後、蓋にかかれていたのを忠実に書いた」
「へぇ……。ちょっとまとめてみようかな」
「まとめる?」
「そう。例えば…赤がかってるのを一つのグループにーって」
「…けどそれって、どれがどれだか解らなくならないか?」
「それもそうだね。何か特徴ってなかったの?」
「いや、俺は見たまま書いただけだから…あぁ、でもちょっと待てよ?確かその赤い液体にBって書いてたな。B-2って」
「B-2?」
「そうそう。確か意味わからなくて、でもメモしとくだけしとこうって…」
俺は書類を手に取り、何枚かペラペラと捲り目当ての物を取りだした。
そこには薬品と番号の羅列があった。
『紫A1、赤B2、黄C3、灰G7、青O15、紫U21、緑X24、橙Z26』
ただ書きなぐっただけだから、深い意味を考えもしなかったが…。美鈴はどうやら違うらしい。
「Bー2…………Cが3……あ、何か解ったかもっ」
羅列だけを見て何かを思い付き、紙に何やら書き始めた。嘘だろ?あれだけで何か解るのか?
これだけの事で一体何が解るって言うんだ。
「先輩先輩。一先ず塩酸持って来てっ。私も隣の部屋に一緒に行くからっ。急いで急いでっ。でも直ぐに戻って来てね?」
謎が解けた美鈴が嬉しそうに、それはそれは嬉しそうに可愛く笑うものだから、俺はただただ言う事を聞いて塩酸を取りに戻るしかなかった。
…今だったら、キスの一つや二つ受け入れてくれたかもしれない…と思わなくもない。
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