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最終章 数多の未来への選択編
第三十三話 白猫が奏でるは魔學士の夢
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「奏輔お兄ちゃんっ!」
叫んで。
トスっと背中に衝撃がきた…と思ったけど、あれ?痛くない?
閉じていた目を開いて、そっと振り返ってみると。
確かに私の背中に矢はぶつかっていた。
けど刺さってない。
むしろくっついているが正しい。吸盤でこうぴったりと。
あれ?もしかして使われた矢って玩具の矢だった?
でも、あっちから感じた気配は完全に狙ってきたものだと思ったけど…。
首を傾げていると、私が庇った筈の奏輔お兄ちゃんが急に私の腕を肩から引っ張り上げて背負った。
しかもそのままくるんと半回転。
「ふみっ!?」
慌てて奏輔お兄ちゃんの首に腕を回してしがみつく。
「姫さんの性格上、こうなる気はしとったんや。前もって対策しといて正解やったわ」
ふーやれやれと言いたげに奏輔お兄ちゃんは大きく息を吐いた。
そして少しずれた眼鏡のブリッジを指で戻したかと思うと、
「透馬。大地。屋根の上や」
と、二人に指示をした。透馬お兄ちゃんも大地お兄ちゃんも気付けば私達の横に立っており、
「屋根上だな」
「了解ー」
二人は一斉に駆け出す。
残されたのは奏輔お兄ちゃんとそれにぶら下がる私。
「えーっと…?」
「ちょっと待っとってな。直ぐにアイツらが連れて来るやろうから」
「う、うん。でもこのままでいいの?重くない?」
「全然。お姉達に比べたら軽いし可愛ぇしで何も問題あらへんよ」
「ふみ?桜お姉ちゃん達も可愛いよ?美人よ?」
「姫さん。とうとう目が悪くなってもうたんやなぁ。後で眼鏡買いに行こな」
そんな心底『可哀想に』と同情するような目で私を見なくても…。
なんでー?お姉ちゃん達は奏輔お兄ちゃんと同じでとっても美人なのに。
美人だけどまだ独身なのは、きっと高嶺の華だからだと思うの。うんうん。
「所で奏輔お兄ちゃん」
「うん?」
「そろそろ降りても良い?腕が痛くなって来たの」
「もう少し頑張りぃ。あんまり広範囲の盾(シールド)はまだ使えへんのや」
「盾(シールド)?って?」
「スキルや。どうやら俺はスキル特化型らしくてな。透馬や大地より一回に覚えれるスキルが多いんよ」
「へぇ~。じゃあ、私の背中に刺さってるこれもスキル?」
「そや。武器変化のスキルを使うた。言うてもこのスキルは使用者の体に触れてる事が大前提や」
「って事は?」
「俺から離れると矢に戻る」
「って事は、奏輔お兄ちゃんとくっついたまま矢を取って貰えば良い?」
「そういうこと。因みにこれは第三者に取って貰う必要がある」
「って事はお兄ちゃん達が戻ってくるまでこのまま?」
「そやね」
「…頑張るー」
よじよじと奏輔お兄ちゃんによじ登って、がっしりとしがみつく。
すると奏輔お兄ちゃんが腕を回しておんぶの形をとってくれた。優しい。
そして待つ事数分。
お兄ちゃん達が私達を狙っていた裏門の人間を引きずって戻って来た。
現役の忍びより強いって凄いよね~…。
しっかりと縛り上げてぽいっと私達の前に放り投げられる。
「捕まえたぜ。…ってお前ら、何だ、その恰好」
「諸事情です。その為にも透馬お兄ちゃん、私の背中のこれ取ってー」
奏輔お兄ちゃんが私ごとくるっと回転してくれたので、私は透馬お兄ちゃんが矢を取ってくれるのを待つ。
透馬お兄ちゃんは躊躇う事なく私の矢を外してくれた。
ホッと一安心。
奏輔お兄ちゃんの背中から降りて、急いで奏輔お兄ちゃんの影に隠れつつ、私達を狙った連中を見る。
しっかりと覆面をしているから解らないけど、ただ言える事が一つある。
「この現代社会で忍びの格好してるって逆に目立つよね」
言うと三人は大きく頷き、何故か縛られてる人達も頷いていた。
同意するんかいっ!
って入れたい突っ込み衝動を抑えつつ、私はその人達を観察した。
隙あらばまだ狙って来そうな気がする。
「どうする?」
「まずは色々聞き出すー?」
「こいつらが本当に忍びのつもりなら口は割らなそうやで?」
三人が会議を始めた。
結論がなかなか出ず、あーでもないこーでもないと話し合っていると、
「ほほぅ。これはまた珍しいのがおるのぅ」
予想外の声が私達の会議に割り込んできた。この声は…。
「源お祖父ちゃん?」
「おおー、我が孫よっ!」
両手広げてくる源お祖父ちゃんに全力でタックル…もとい抱き付いた。
「ごふぉっ」
お祖父ちゃんの変な声が聞こえるけど気のせい気のせい。うんうん。
「源お祖父ちゃん、何でここに?」
「嫌な予感がしてのぅ。胸騒ぎがして、とも言うかの」
お祖父ちゃん…何かカッコいい風に言ってるけど…。
「ヨネお祖母ちゃんと喧嘩した?」
「儂は悪くないっ!悪くないぞぉーっ!」
うん。喧嘩確定。
一体何したんだろう?
源お祖父ちゃんが喧嘩してこっちに逃げてきたり、ヨネお祖母ちゃんが怒って源お祖父ちゃんを放置してこっちに遊びに来るのは良くある事だけどね。
「しかし、何だ。そこら中から馬鹿共の気配がするのぅ」
「馬鹿共?」
「忍びの癖に満足に気配も消せないとは、情けない。…どれ。儂が一つ、指導してやろう」
言った瞬間、源お祖父ちゃんの姿が消えた。
そしてもう一度瞬きした瞬間に源お祖父ちゃんは、また私の隣に立っていた。
と、同時に。
ぼたぼたとお兄ちゃん達が縛り上げて連れてきた忍び達の上に次から次へと忍びの恰好をした老若男女が落ちていた。
「ふみみ~…源お祖父ちゃん、凄いね」
「そうじゃろそうじゃろ。儂にかかればこの程度の小物、造作もないわいっ」
カーッカッカッカッ。
高笑い源お祖父ちゃん。
……腰、大丈夫なのかな?剃り過ぎて海老反り状態だけど…。
まぁ、いいや。
「あのね。源お祖父ちゃん。実はね、私達、この人達に命狙われてて」
「ぬわぁにぃっ!?」
どっかにいたなぁ。そう言うお笑い芸人さん。
おっといけない。話を進めよう。
今のままじゃ源お祖父ちゃん、事情解らないだろうし。
「実は…」
私は今までの経緯を源お祖父ちゃんに説明した。
すると源お祖父ちゃんは、笑って私の頭をぐりぐりと撫でた上で山積みになっている忍びの人の側に行き、何やらぼそぼそと説明し始めた。
私達は何を話しているのか聞き取れない程小さい声で話されていたので顔を見合わせて首を傾げるしかない。
源お祖父ちゃんは、山積みになっている人達の中でも一番偉そうな人の頭を拳固で叩くと笑いながら戻って来た。
「これで大丈夫じゃ。もう心配せんでもいい」
「源お祖父ちゃん。一体何を話したの?」
忍びの皆様、全員が整列して膝を付いてるんだけど、本当に何話したの?
「むぅ…。色々あるんじゃよ」
「そうなの?」
「うむ。後でヨネからでも聞くが良い」
「ふみみ?」
良く解らないけど、これは解決したって事でいいのかな?
「一先ず家の中に戻ろうか。源お祖父ちゃんももう大丈夫って言ってたし」
「そやね」
RPG要素何処行った?
って感じであっさり片付いたからちょっと拍子抜けかも。
家の中に戻って、お兄ちゃん達は私に部屋に戻る様に言って、源お祖父ちゃんと念の為に家の中の見回りに行った。
私は自室に戻り、机の上を見た。
あれ?セーブの本がない。
「ステータス」
言っても画面も出ない。
もしかして、源お祖父ちゃんが争いを鎮めた所為でゲームが強制終了した、とか?
あり得なくはないよね?
ゲームの世界でありゲームの世界ではないんだから。
ゲームの流れに反した事があれば、その時点でゲームで描かれた未来は来ないんだし。
ヒロイン補正がいくら入ったからって、修正出来ない位に剃れてしまえばそこまでだしね。
……一応一通り探しておこう。
部屋の掃除のついでに探してみたけれど、本はなかった。
本当に終わった?
ママが言っていた本編終了?
ちょっとまだ半信半疑。
なにか納得出来なくて、終わったと言う確信が欲しくて部屋の中をぐるぐるしていると、ドアをノックされた。
はーいと返事すると、奏輔お兄ちゃんがドアを開けて入って来た。
「姫さん。一通り確認したんやけど、特に怪しい所はなかった。表門の連中が仕掛けてった罠は源祖父さんが全部外したし」
「…源お祖父ちゃんって何者なんだろう…?」
「それを俺に聞かれても困るわ」
「だよね」
リビングに行くかと言われたので頷いて、私と奏輔お兄ちゃんは並んでリビングへと戻った。
暫く警戒態勢を解除しなかったけれど、どれだけ待っても何かが起こる事はなく、例えまだ事情の解らない表門の人間が攻めて来ても源お祖父ちゃんが逸早く対応してくれたから全く問題なかった。
もう本当に大丈夫かもしれない。
こうなるなら最初から源お祖父ちゃんの所に逃げ込めば良かった。
「源お祖父ちゃんが解決してくれたなら、ママや皆を呼び戻しても良いかな?」
「ふむ。儂も暫くここにいる予定じゃからな。大丈夫じゃろ」
「源祖父さんがチート過ぎる」
「こんな強いとは思わなかったー」
「いや、最強はそんな源祖父さんを抑え込むヨネ祖母さんやろ」
透馬お兄ちゃんと奏輔お兄ちゃんが何故か深くふかーく頷いてる。
携帯を取りだしてママに連絡を取る。
今の状況、状態をなるべく詳細に書いて送信。
すると直ぐに返信が来た。
『私もステータスが開けなくなったわ。大丈夫そうだし、旭達を連れて明日に戻るわ』
とあり、了解と返信を返す。
それからお兄ちゃん達と相談し合って、本当にゲームの流れに添わなくなったのか。他に問題はないのかと検証しあって。
でもなーんにも出て来なくて。
安心して私達はその日を終えた。
翌日。
私達は朝ご飯を食べてまったりしていると。
外で車が止まる音がした。
「ママ達かな?」
「こら、姫さん。一人で行かない。俺らも行くから」
「そうそうー」
「食器流しに置いてから行こうぜ」
「ああー、構わん。儂が洗うから行ってこい」
源お祖父ちゃんの優しさに感謝しつつ私達は玄関へと向かう。
サンダル履いて、ドアノブに手をかけていざ開こうとした瞬間。
ぞわっ!
全身の毛が逆立つかのような恐怖感。
この感覚に覚えがあった。
脳内を前世の記憶が駆け巡る。
どうして?
高校生の時に鴇お兄ちゃん達がどうにかしてくれた筈なのに―――。
「姫さん?どうした?」
肩に置かれた手に縋る様に震える手を重ねる。
「そ、うすけ、おにいちゃん…」
一気に血の気が抜け冷え切った手に奏輔お兄ちゃんが驚いたのが解る。
慌てて私の肩を引っ張り私をその腕の中に迎え入れてくれる。
「真っ青やんかっ。どうしたっ!?」
「そ、とに、いる…。男の、人が…っ」
ママじゃない。
絶対にママじゃない。
そう伝えるだけで精一杯で。
でも意図を察してくれたお兄ちゃん達は、私を隠すようにしてから、大地お兄ちゃんが代表で覗き穴から外を覗いてくれた。
ドアの向うにいるのは誰?
「…あの男、誰だ?」
「見た事ある奴か?大地」
「いや、ない―――ッ!?」
大地お兄ちゃんが勢いよくドアから離れた。
「どうしたっ!?」
「『…見つけた』って、姫ちゃんの事かっ!?」
「姫さんっ!急いで源祖父さんの所へ行くでっ!」
言いながらも奏輔お兄ちゃんが私を担ぎ上げてくれて、リビングへ戻る。
急に戻って来た私達に驚きはしつつも、直ぐに察してくれた源お祖父ちゃんは私達を守る様に神経を研ぎ澄ます。
「何じゃ、アイツは…人とは、思えない気配を放っておる」
源お祖父ちゃんが気配だけで危ない奴だと判断してしまう位の人が外にいる。
怖い。
怖くて怖くて堪らない。
必死に奏輔お兄ちゃんに抱き付く。
バァンッ!!
ドアが破られた音が響く。
「……どこにいるのぉかなぁ…。華ぁ?」
聞こえた声に思わず叫び声を上げかけて、でも奏輔お兄ちゃんが私の口を塞いでくれた。
「儂が結界を張ってやろう。その隙に外へ逃げるんじゃ」
源お祖父ちゃんの言葉にお兄ちゃん達が頷き私達は窓から外へと飛び出す。
庭を経由して裏口から出ようと走る。
私はせめて叫び声だけでも上げないようにと口を自分の手で塞ぐ。
怖くて、手が冷え切って震える。息が触れてるはずなのに一向に温かくならない。
ボロボロと知らず涙が溢れだす。
そんな私を担いでいる奏輔お兄ちゃんの手がポンポンと背中を叩いてくれる。
奏輔お兄ちゃんの温かさだけが今の私の意識を繋ぎとめてくれていた。
「邪魔だなぁ…。華の横に男は要らないんだよ」
遠くから声が聞こえて、同時に、
ドォンッ!
爆音と風圧が襲って来た。
庭に全員が転がる。
私は奏輔お兄ちゃんが身を挺して守ってくれたから痛みはない。
「ほぉら、追い付いた…」
スタイルの良い男。
顔も良い。
けどあんな人見た事ないっ。
見た事ないのに、怖いっ!
それでも、ここにいたらお兄ちゃん達を巻き込む。
ふと脳裏に過って。
私は震える足を叱咤して、走りだした。
せめて、せめてお兄ちゃん達は守れますように、と。
裏を回って道路を駆け抜ける。
あいつは凄い勢いで追ってきた。
逃げなきゃ、逃げなきゃっ、逃げなきゃっ!
何処へ?
でも逃げなきゃっ!!
必死に走った。
そして向うから、私の絶対の味方がこちらへ向かって来てくれた。
「美鈴っ!!」
「ママっ!!」
ママに必死に手を伸ばして、触れあいそうになった―――その時。
『凍結(フリジット)』
私の耳に声が響いて。
次の瞬間、私の意識は完全に閉ざされた―――。
叫んで。
トスっと背中に衝撃がきた…と思ったけど、あれ?痛くない?
閉じていた目を開いて、そっと振り返ってみると。
確かに私の背中に矢はぶつかっていた。
けど刺さってない。
むしろくっついているが正しい。吸盤でこうぴったりと。
あれ?もしかして使われた矢って玩具の矢だった?
でも、あっちから感じた気配は完全に狙ってきたものだと思ったけど…。
首を傾げていると、私が庇った筈の奏輔お兄ちゃんが急に私の腕を肩から引っ張り上げて背負った。
しかもそのままくるんと半回転。
「ふみっ!?」
慌てて奏輔お兄ちゃんの首に腕を回してしがみつく。
「姫さんの性格上、こうなる気はしとったんや。前もって対策しといて正解やったわ」
ふーやれやれと言いたげに奏輔お兄ちゃんは大きく息を吐いた。
そして少しずれた眼鏡のブリッジを指で戻したかと思うと、
「透馬。大地。屋根の上や」
と、二人に指示をした。透馬お兄ちゃんも大地お兄ちゃんも気付けば私達の横に立っており、
「屋根上だな」
「了解ー」
二人は一斉に駆け出す。
残されたのは奏輔お兄ちゃんとそれにぶら下がる私。
「えーっと…?」
「ちょっと待っとってな。直ぐにアイツらが連れて来るやろうから」
「う、うん。でもこのままでいいの?重くない?」
「全然。お姉達に比べたら軽いし可愛ぇしで何も問題あらへんよ」
「ふみ?桜お姉ちゃん達も可愛いよ?美人よ?」
「姫さん。とうとう目が悪くなってもうたんやなぁ。後で眼鏡買いに行こな」
そんな心底『可哀想に』と同情するような目で私を見なくても…。
なんでー?お姉ちゃん達は奏輔お兄ちゃんと同じでとっても美人なのに。
美人だけどまだ独身なのは、きっと高嶺の華だからだと思うの。うんうん。
「所で奏輔お兄ちゃん」
「うん?」
「そろそろ降りても良い?腕が痛くなって来たの」
「もう少し頑張りぃ。あんまり広範囲の盾(シールド)はまだ使えへんのや」
「盾(シールド)?って?」
「スキルや。どうやら俺はスキル特化型らしくてな。透馬や大地より一回に覚えれるスキルが多いんよ」
「へぇ~。じゃあ、私の背中に刺さってるこれもスキル?」
「そや。武器変化のスキルを使うた。言うてもこのスキルは使用者の体に触れてる事が大前提や」
「って事は?」
「俺から離れると矢に戻る」
「って事は、奏輔お兄ちゃんとくっついたまま矢を取って貰えば良い?」
「そういうこと。因みにこれは第三者に取って貰う必要がある」
「って事はお兄ちゃん達が戻ってくるまでこのまま?」
「そやね」
「…頑張るー」
よじよじと奏輔お兄ちゃんによじ登って、がっしりとしがみつく。
すると奏輔お兄ちゃんが腕を回しておんぶの形をとってくれた。優しい。
そして待つ事数分。
お兄ちゃん達が私達を狙っていた裏門の人間を引きずって戻って来た。
現役の忍びより強いって凄いよね~…。
しっかりと縛り上げてぽいっと私達の前に放り投げられる。
「捕まえたぜ。…ってお前ら、何だ、その恰好」
「諸事情です。その為にも透馬お兄ちゃん、私の背中のこれ取ってー」
奏輔お兄ちゃんが私ごとくるっと回転してくれたので、私は透馬お兄ちゃんが矢を取ってくれるのを待つ。
透馬お兄ちゃんは躊躇う事なく私の矢を外してくれた。
ホッと一安心。
奏輔お兄ちゃんの背中から降りて、急いで奏輔お兄ちゃんの影に隠れつつ、私達を狙った連中を見る。
しっかりと覆面をしているから解らないけど、ただ言える事が一つある。
「この現代社会で忍びの格好してるって逆に目立つよね」
言うと三人は大きく頷き、何故か縛られてる人達も頷いていた。
同意するんかいっ!
って入れたい突っ込み衝動を抑えつつ、私はその人達を観察した。
隙あらばまだ狙って来そうな気がする。
「どうする?」
「まずは色々聞き出すー?」
「こいつらが本当に忍びのつもりなら口は割らなそうやで?」
三人が会議を始めた。
結論がなかなか出ず、あーでもないこーでもないと話し合っていると、
「ほほぅ。これはまた珍しいのがおるのぅ」
予想外の声が私達の会議に割り込んできた。この声は…。
「源お祖父ちゃん?」
「おおー、我が孫よっ!」
両手広げてくる源お祖父ちゃんに全力でタックル…もとい抱き付いた。
「ごふぉっ」
お祖父ちゃんの変な声が聞こえるけど気のせい気のせい。うんうん。
「源お祖父ちゃん、何でここに?」
「嫌な予感がしてのぅ。胸騒ぎがして、とも言うかの」
お祖父ちゃん…何かカッコいい風に言ってるけど…。
「ヨネお祖母ちゃんと喧嘩した?」
「儂は悪くないっ!悪くないぞぉーっ!」
うん。喧嘩確定。
一体何したんだろう?
源お祖父ちゃんが喧嘩してこっちに逃げてきたり、ヨネお祖母ちゃんが怒って源お祖父ちゃんを放置してこっちに遊びに来るのは良くある事だけどね。
「しかし、何だ。そこら中から馬鹿共の気配がするのぅ」
「馬鹿共?」
「忍びの癖に満足に気配も消せないとは、情けない。…どれ。儂が一つ、指導してやろう」
言った瞬間、源お祖父ちゃんの姿が消えた。
そしてもう一度瞬きした瞬間に源お祖父ちゃんは、また私の隣に立っていた。
と、同時に。
ぼたぼたとお兄ちゃん達が縛り上げて連れてきた忍び達の上に次から次へと忍びの恰好をした老若男女が落ちていた。
「ふみみ~…源お祖父ちゃん、凄いね」
「そうじゃろそうじゃろ。儂にかかればこの程度の小物、造作もないわいっ」
カーッカッカッカッ。
高笑い源お祖父ちゃん。
……腰、大丈夫なのかな?剃り過ぎて海老反り状態だけど…。
まぁ、いいや。
「あのね。源お祖父ちゃん。実はね、私達、この人達に命狙われてて」
「ぬわぁにぃっ!?」
どっかにいたなぁ。そう言うお笑い芸人さん。
おっといけない。話を進めよう。
今のままじゃ源お祖父ちゃん、事情解らないだろうし。
「実は…」
私は今までの経緯を源お祖父ちゃんに説明した。
すると源お祖父ちゃんは、笑って私の頭をぐりぐりと撫でた上で山積みになっている忍びの人の側に行き、何やらぼそぼそと説明し始めた。
私達は何を話しているのか聞き取れない程小さい声で話されていたので顔を見合わせて首を傾げるしかない。
源お祖父ちゃんは、山積みになっている人達の中でも一番偉そうな人の頭を拳固で叩くと笑いながら戻って来た。
「これで大丈夫じゃ。もう心配せんでもいい」
「源お祖父ちゃん。一体何を話したの?」
忍びの皆様、全員が整列して膝を付いてるんだけど、本当に何話したの?
「むぅ…。色々あるんじゃよ」
「そうなの?」
「うむ。後でヨネからでも聞くが良い」
「ふみみ?」
良く解らないけど、これは解決したって事でいいのかな?
「一先ず家の中に戻ろうか。源お祖父ちゃんももう大丈夫って言ってたし」
「そやね」
RPG要素何処行った?
って感じであっさり片付いたからちょっと拍子抜けかも。
家の中に戻って、お兄ちゃん達は私に部屋に戻る様に言って、源お祖父ちゃんと念の為に家の中の見回りに行った。
私は自室に戻り、机の上を見た。
あれ?セーブの本がない。
「ステータス」
言っても画面も出ない。
もしかして、源お祖父ちゃんが争いを鎮めた所為でゲームが強制終了した、とか?
あり得なくはないよね?
ゲームの世界でありゲームの世界ではないんだから。
ゲームの流れに反した事があれば、その時点でゲームで描かれた未来は来ないんだし。
ヒロイン補正がいくら入ったからって、修正出来ない位に剃れてしまえばそこまでだしね。
……一応一通り探しておこう。
部屋の掃除のついでに探してみたけれど、本はなかった。
本当に終わった?
ママが言っていた本編終了?
ちょっとまだ半信半疑。
なにか納得出来なくて、終わったと言う確信が欲しくて部屋の中をぐるぐるしていると、ドアをノックされた。
はーいと返事すると、奏輔お兄ちゃんがドアを開けて入って来た。
「姫さん。一通り確認したんやけど、特に怪しい所はなかった。表門の連中が仕掛けてった罠は源祖父さんが全部外したし」
「…源お祖父ちゃんって何者なんだろう…?」
「それを俺に聞かれても困るわ」
「だよね」
リビングに行くかと言われたので頷いて、私と奏輔お兄ちゃんは並んでリビングへと戻った。
暫く警戒態勢を解除しなかったけれど、どれだけ待っても何かが起こる事はなく、例えまだ事情の解らない表門の人間が攻めて来ても源お祖父ちゃんが逸早く対応してくれたから全く問題なかった。
もう本当に大丈夫かもしれない。
こうなるなら最初から源お祖父ちゃんの所に逃げ込めば良かった。
「源お祖父ちゃんが解決してくれたなら、ママや皆を呼び戻しても良いかな?」
「ふむ。儂も暫くここにいる予定じゃからな。大丈夫じゃろ」
「源祖父さんがチート過ぎる」
「こんな強いとは思わなかったー」
「いや、最強はそんな源祖父さんを抑え込むヨネ祖母さんやろ」
透馬お兄ちゃんと奏輔お兄ちゃんが何故か深くふかーく頷いてる。
携帯を取りだしてママに連絡を取る。
今の状況、状態をなるべく詳細に書いて送信。
すると直ぐに返信が来た。
『私もステータスが開けなくなったわ。大丈夫そうだし、旭達を連れて明日に戻るわ』
とあり、了解と返信を返す。
それからお兄ちゃん達と相談し合って、本当にゲームの流れに添わなくなったのか。他に問題はないのかと検証しあって。
でもなーんにも出て来なくて。
安心して私達はその日を終えた。
翌日。
私達は朝ご飯を食べてまったりしていると。
外で車が止まる音がした。
「ママ達かな?」
「こら、姫さん。一人で行かない。俺らも行くから」
「そうそうー」
「食器流しに置いてから行こうぜ」
「ああー、構わん。儂が洗うから行ってこい」
源お祖父ちゃんの優しさに感謝しつつ私達は玄関へと向かう。
サンダル履いて、ドアノブに手をかけていざ開こうとした瞬間。
ぞわっ!
全身の毛が逆立つかのような恐怖感。
この感覚に覚えがあった。
脳内を前世の記憶が駆け巡る。
どうして?
高校生の時に鴇お兄ちゃん達がどうにかしてくれた筈なのに―――。
「姫さん?どうした?」
肩に置かれた手に縋る様に震える手を重ねる。
「そ、うすけ、おにいちゃん…」
一気に血の気が抜け冷え切った手に奏輔お兄ちゃんが驚いたのが解る。
慌てて私の肩を引っ張り私をその腕の中に迎え入れてくれる。
「真っ青やんかっ。どうしたっ!?」
「そ、とに、いる…。男の、人が…っ」
ママじゃない。
絶対にママじゃない。
そう伝えるだけで精一杯で。
でも意図を察してくれたお兄ちゃん達は、私を隠すようにしてから、大地お兄ちゃんが代表で覗き穴から外を覗いてくれた。
ドアの向うにいるのは誰?
「…あの男、誰だ?」
「見た事ある奴か?大地」
「いや、ない―――ッ!?」
大地お兄ちゃんが勢いよくドアから離れた。
「どうしたっ!?」
「『…見つけた』って、姫ちゃんの事かっ!?」
「姫さんっ!急いで源祖父さんの所へ行くでっ!」
言いながらも奏輔お兄ちゃんが私を担ぎ上げてくれて、リビングへ戻る。
急に戻って来た私達に驚きはしつつも、直ぐに察してくれた源お祖父ちゃんは私達を守る様に神経を研ぎ澄ます。
「何じゃ、アイツは…人とは、思えない気配を放っておる」
源お祖父ちゃんが気配だけで危ない奴だと判断してしまう位の人が外にいる。
怖い。
怖くて怖くて堪らない。
必死に奏輔お兄ちゃんに抱き付く。
バァンッ!!
ドアが破られた音が響く。
「……どこにいるのぉかなぁ…。華ぁ?」
聞こえた声に思わず叫び声を上げかけて、でも奏輔お兄ちゃんが私の口を塞いでくれた。
「儂が結界を張ってやろう。その隙に外へ逃げるんじゃ」
源お祖父ちゃんの言葉にお兄ちゃん達が頷き私達は窓から外へと飛び出す。
庭を経由して裏口から出ようと走る。
私はせめて叫び声だけでも上げないようにと口を自分の手で塞ぐ。
怖くて、手が冷え切って震える。息が触れてるはずなのに一向に温かくならない。
ボロボロと知らず涙が溢れだす。
そんな私を担いでいる奏輔お兄ちゃんの手がポンポンと背中を叩いてくれる。
奏輔お兄ちゃんの温かさだけが今の私の意識を繋ぎとめてくれていた。
「邪魔だなぁ…。華の横に男は要らないんだよ」
遠くから声が聞こえて、同時に、
ドォンッ!
爆音と風圧が襲って来た。
庭に全員が転がる。
私は奏輔お兄ちゃんが身を挺して守ってくれたから痛みはない。
「ほぉら、追い付いた…」
スタイルの良い男。
顔も良い。
けどあんな人見た事ないっ。
見た事ないのに、怖いっ!
それでも、ここにいたらお兄ちゃん達を巻き込む。
ふと脳裏に過って。
私は震える足を叱咤して、走りだした。
せめて、せめてお兄ちゃん達は守れますように、と。
裏を回って道路を駆け抜ける。
あいつは凄い勢いで追ってきた。
逃げなきゃ、逃げなきゃっ、逃げなきゃっ!
何処へ?
でも逃げなきゃっ!!
必死に走った。
そして向うから、私の絶対の味方がこちらへ向かって来てくれた。
「美鈴っ!!」
「ママっ!!」
ママに必死に手を伸ばして、触れあいそうになった―――その時。
『凍結(フリジット)』
私の耳に声が響いて。
次の瞬間、私の意識は完全に閉ざされた―――。
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