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最終章 数多の未来への選択編

※※※(大地視点)

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七層に降りた。
……何にもない、ただ、だだっ広い空間がそこにあった。
暗くはない。
天井に光る石が敷き詰められている。
怪し過ぎる空間。
…同じ失敗はしない。罠が、呪いが姫ちゃんに行く可能性が少しでもあるのなら、慎重に行く。
オレにかけられる分にはいくらでも構わないが、姫ちゃんに行くのなら話は別だ。
「……特に何もないように見えるっスね」
「…あぁ。だからこそ怪しいんだ」
「そうっスね」
オレと小次郎は慎重かつ確実に前へと進んだ。
それと同時に覚悟も固めて行く。
この広さは何かある。
ゲームで言うなら、ボス戦がありそうな場所だ。
普段予想とか勘とか一切当たらない癖に、こう言う時だけ勘が鋭くなるのは何故なのか。
ざわりと空気が動く。
足下から、横から、上から、後ろから。
奇妙な感覚が辺りからオレ達の前方へ集まって行くのを感じる。
ざわざわと見えない何かが何もないそこに何かを形成していく。
「こ、これヤバくないっスか?」
「間違いなくやべぇな。これは最悪だぞ。姿が見えない、不用意に動けない、更に時間もない」
「ど、どうするっスか?」
「まず、相手を見えるようにするのが先だ。透明なままで攻撃を挑まれても回避も攻撃も出来ない」
「成程。ならこれはどうっスか?」
小次郎がポケットから何か小さな球体を数個取りだした。
「これは?」
「痴漢撃退ボール小っス」
「痴漢撃退?」
「そうっス。防犯ペイントボールの改良版みたいなもんっスね。これを投げるとボールが弾けて中からインクが出てくる仕組みっス」
「色を付ける、か。いいな。やってみよう。…所で」
「?」
「何でペイントボールをこんなに持ってんだ?」
「彼女に持たせる為に決まってるじゃないスかー」
…良い笑顔だな、おい。
でもその気持ちは少し理解出来る、いや大分理解出来るから突っ込みは入れない。
兎に角、今は見えない敵に集中。どんどん膨れ上がる気配の塊に投げつけるタイミングを見計らう。
この敵は何の部類に入るんだろうか?
透明人間?
幽霊?
それが解らない事には次の行動手段に移れない。
敵が集まるのを警戒しつつ見ていると、何処からかシュルシュルと謎の音が聞こえて来た。
まるで蛇が動いている様な音に毒持ちだった場合を考えてオレ達は少し後方へ下がる。
「……何が動いてるんスかね?」
「……長い何かが床を擦る音に似ているが…」
「蛇、とかスかね?」
「そう考えるのが妥当かもしれねぇけど…その割には音が軽いような…」
一体何だ?
そう思って、ふと足下を見ると、そこには巻かれている古びた包帯が落ちていた。
包帯?
包帯はコロコロと転がってひとりでに気配の集合体の方へ進んで行く。気配の集合体に辿り着くと、包帯は勝手に解け、まるで何かがそこにあるかのように巻き付いて行く。
「やべぇっ、あれはミイラかっ!?」
「ミイラっ!?」
「見ろっ!気配が集まってる所の下をっ!包帯が巻き付いて、両足が形成されてってるっ!」
「あぁっ!?マジヤバっス!!」
ミイラ系の弱点は何だったかっ?
基本的にはアンデット系モンスターには火か光。これはもう間違いない筈だ。
ただ、注意すべきは幽霊系と違って、ゾンビやミイラ、特にミイラは物理攻撃が強い。
それは恐らく、奴らには痛みという物が無いからだ。衝撃で弾き飛ばす事は出来ても、痛みで怯ませると言う事は出来ない。
どうやらここは完全にアンデット系のダンジョンと確定しても良いらしい。
問題は火を使いたくても洞窟の、しかも地下だと言う事だ。
正直言って火はなるべく使いたくはない。光系も使えるのは使って、もう残っていない。
となると…物理で行くしかない、か。
いや、でも待て。
今はそんな事を気にしてる余裕もないはずだ。使えるものは使って、早期決着をつける方が大事だ。
「なぁ、小次郎。お前火属性関係の何か技は使えるか?」
「火属性って、なんスかそれ。まるでゲームみたいっスね」
「いいから。使えるのか?使えないのか?」
「んー…あるのは火鼠の牙、火遁の術くらいっスかね」
「どんな技だ?」
「火鼠の牙は、単純に熱を放つ小太刀の事っス。火遁の術は、札を使って対象に火を纏わせる事が出来るっス」
なんてことない風に言っているが、かなり有難いじゃないかっ。
「オレにそれ貸してくれ」
「いいっスよ。俺っちはどうしたらいいっスか?」
「オレが止めを刺すタイミングにこの小太刀に火遁の術をかけて欲しい」
「了解っス!」
「包帯が全て巻き終わった時に勝負をかけるっ。それまではこのペイントボールと通常攻撃でアイツを弱らせるっ。いいなっ」
「っス!」
決まったら、即行。
即座に動き、オレはまだ包帯が巻かれていない場所へペイントボールを投げつける。
オレが投げた場所は恐らく顔になるであろう場所。
だが、そこはまだ気配に過ぎなかったらしく、擦り抜けて壁に当たってしまった。壁は中からインクが飛び出して七色に染まっている。
なんで無駄にカラフルにした…。いや、今はそんな事言ってる場合じゃないな。
気を取り直して、次は腹部にペイントボールを投げつけてみる。
腹部は半分まで包帯が巻かれていた為、包帯にも、そして何も見えない場所にもボールが弾けて七色に色がついた。
こうして見るとかなりデカくなる。
オレよりも圧倒的にデカい。成程。この層が広くて天井が高い訳だ。
オレが投げた事により、小次郎も要領を得たのだろう。
投げつける場所も解り、ガンガンと力の限りペイントボールが投げられる。
当たる度に、ミイラは包帯の巻かれるスピードが落ちて行く。
間違いなくダメージが行ってる。
この調子で行けば、何とかなるか?
ミイラになる前に片を付けれたら、それはそれで越した事はない。
が、ゲームでもあるあるだが、道具には個数制限という物がある。
要するに、
「これでもう最後っ、スっ!!」
全部投げちゃえば後は無い、って奴で。
出来る限りの攻撃はした。
だが、やっぱりあれで倒すのは無理だったようだ。
七色の本体が包帯で覆い隠されて、最後に顔まで覆われて。
一か所だけ…右目だけが赤く光りこちらを睨みつけた。
行くか…っ!
小太刀を構え、一気に走り抜ける。
まずは足を狙うっ!
振り上げられた拳。当たったら怪我どころか死を覚悟しなきゃならない。
繰り出された拳を寸でで避け、足元へ転がりつき、両手で小太刀を握り斬りつける。
しかし、あくまでもこの小太刀は熱だ。火ではない。
致命傷にはならない。元々ミイラの中身は透明だ。傷なんてなく、直ぐに新たな包帯が巻きつき、今の攻撃は無かったことにされてしまう。
中身にダメージを与えなきゃ意味がない。
しかし、中身は透明だからダメージを与え難い。
そう考えると、先にペイントボールを投げて置いたのは正解だった。
ミイラの中身にダメージを与えるには、『実体化』が鍵になる。
可視化させなければ、ダメージにならないんだ。
と言う事は、だ。
ミイラとは言えど人型をしているのだから、心臓にこの小太刀を刺して、一気に燃やし尽くしてしまえば倒せる。
いや、念の為だ。
オレは直ぐに態勢を立て直し、一気に小次郎がいる場所まで戻る。
「小次郎、小太刀はあとどれだけある」
「後、五本あるっス」
「なら、全部つぎ込むぞ。小次郎は両足の太ももに刺してくれ。オレは頭と両腕、胴体の四か所に行く。刺し終わったら」
「火遁の術っスね。任せるっス」
頷き、巨大ミイラを見据える。
どちらかが合図した訳ではない。
だが、自然とタイミングを見計らっていた。
5…4…3…2…1…GO!
同時に駆け出す。
ミイラの拳が地面を削り揺らす。
だが、同時に跳ねてえしまえば問題はない。
デカい拳の上に着地して、一気にその腕を駆け上がる。
反対の腕を小次郎が駆け上がる。
そしてオレは肩から頭へ、小次郎は肩から飛び降りて背後へ。
これだけ側に来てしまえばこちらのものだ。
頭の包帯を切り裂き、七色のペイントされた場所へ一本。
頭から飛び降りて、落ちて行きがてら両腕の内側の包帯を切り裂いて、そこへ一本ずつ投げつける。
最後に、腹部の包帯に捕まり、斬るなんてまどろっこしくて、包帯を千切り、空いて見えた七色の本体へ一本。
「小次郎っ!!」
そのままミイラをばねに蹴り飛ばして離れた瞬間に、
『火遁っ!!』
小次郎の言葉が聞こえて、六つの小太刀に炎が落ちる。
炎はどんどん広がって、暴れるミイラを飲みこんでいく。
炎は大火になり、そして黒い墨だけを残して消えた。
…地下の洞窟内。
酸素が薄くなったりとの可能性も考え火系の技は使いたくなかったが、どこからか風は入っている様だし、何とか大丈夫そうだ。
戦いが終わり、ホッと一息を吐く。
「…ん?」
「どうした?小次郎」
「向うに、何か見えるっス」
「…梯子だな」
「っスね」
「行くぞ」
「了解っス」
次の階層への道が見えたオレ達は直ぐにそこへと向かった。

八層に辿り着いた。
そこは明らかに人工に作られた場所だった。
赤い絨毯が敷かれており、一歩足を進めると、絨毯の脇にある蝋燭が勝手に青い火を灯す。
「まるで魔王かラスボスがいそうな雰囲気っスねー…」
確かにその通りだ。
頷いて、オレ達は一歩また一歩と足を進める。
すると目の前に透明な壁のようなものがあった。
とは言え気にする必要はあまりない。
何せ普通に通り抜け出来るから。
結界か何かなんだろう。
あっさりとそこを通り抜け数歩足を進めると、まるで玉座のような大きな椅子があり、そしてそこに誰かが座っている。
誰かがなんて言ったが、想像はついていた。

「…佳織さん…」
「遅かったわね、大地くん」

佳織さんの柔らかな声が耳に届いた。
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