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最終章 数多の未来への選択編

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さて、皆様問題です。
今私は何を考えているでしょうか。
1、大地お兄ちゃんが私に囁いた事について。
2、大地お兄ちゃんがほっぺにキスした事について。
3、大地お兄ちゃんが辛そうな顔をして引き返していった事について。
……。
……全部じゃーっ!
え?なに?なんなのっ?
どっから悩んで良いのっ?これっ。
大地お兄ちゃんに一体何があったのっ!?
そもそもあれは大地お兄ちゃんだったのっ!?本物っ!?あってるっ!?
「透馬お兄ちゃん。今大地お兄ちゃん来たよね?幻?」
「いや。来たぞ。間違いなく大地だった」
「だよね」
「ただ、あいつの表情。あれ、何だ?」
「え?」
表情?あの辛そうな顔してたあれのこと?
でも何だと聞かれても、私には解らない。
首を傾げると、何か考え込んでいた透馬お兄ちゃんが私を見た。
「…姫。悪いがちょっとデコ見せてくれ」
「おでこ?はーい」
あっさりと前髪を上げて透馬お兄ちゃんに見せる。恥ずかしさ?ないない。だっておでこだし。あ、勿論、女子の中にはおでこ見せるの恥ずかしい人がいるって知ってるよ?私は恥ずかしくないだけで。
透馬お兄ちゃんが私のおでこをマジマジと観察する。
「…あいつ、何を見てやがったんだ?それらしき怪しいのは何も…」
そっと触れられるけど、痛みとかは何もないし、自分で触ってみても特に変化はない。
私が再び首を傾げると、透馬お兄ちゃんが再び何かを考え込み始めた。
さっきの大地お兄ちゃんが残した謎なキスを思い出すと私はまた思考が停止しそうなので、他の何かを考えよう。
あぁ、でも、大地お兄ちゃんが辛そうなのは私も嫌だな。
…何が、あったんだろう?
私の額と頭上を見てたっけ…。
見上げてみるも何もない。おでこは透馬お兄ちゃんが確認したしなぁ。念の為に鏡でも見てみる?
立ち上がって手っ取り早い鏡のある場所。洗面所へ向かう。
洗面所の鏡の前に立ち自分の姿を映してみても、特に変わりはない。おでこも…何もないよねー?
んんん?大地お兄ちゃんは何にそんな衝撃を受けたんだろう?
他に何か変化してる所あるかな?…パッと見、見当たらないけど…。自分の変化が何か数値化でもしてたら解りやすいのに……って、してるじゃん。私の能力しっかりと数値化されとるやん?
ステータス画面を開く。
あ、レベルが上がってる。
それに伴って、他の数値もそこそこの上昇をみせている。
……ん?私の名前の所にある髑髏マークはなんぞ?
え?ちょっとチュートリアル的な何かはないの?一先ず触って見る?触って見ちゃう?
トスッとな。何故ポチッじゃないのかって?タッチパネルってボタンって感じしなくない?…って今はそんな事どうでも良いか。
髑髏マークに触れてみると、そこにマークの意味が表示された。
『悪魔の呪い』
ふーん。呪いかぁ…。ゲームっぽいなぁ。
「……呪いっ!?」
はいぃっ!?
え?誰が呪い?え?もしかして私?私に呪いがかけられたのっ!?
あ、あー…そっか、成程。
多分額と頭上に私には見えないけど呪いと解る何かがあったんだ。だから大地お兄ちゃんは私の額を見て顔色変えて駆けだして行っちゃった訳だ。納得。
けど、この悪魔の呪いってどんな呪い何だろう?
表門の子達と同じ呪いだとしたら、熱なり何なり同じ反応が出そうなもんだけど…。
私は至って健康体のままである。
何処にも、発疹とかそれらしき病状とかないし…ふみ?
あんまり効果が無いって事かな?
それとも私には解らないだけで、実は結構なきつい呪いがかかってたり?
…うん。正直さっぱり解らない。
解る事と言えば、多分大地お兄ちゃん、責任感じてるんだろうなぁって事くらい。
あれで大地お兄ちゃんは責任感が強いから。普段の様子や話し方を見ると分かり辛いかもだけどね。
大地お兄ちゃん、無茶したりしないかなぁ…。
考え始めたら、心配になってきた。…大地お兄ちゃんを、追いかけようか。
大地お兄ちゃんがこんな失敗をするとは思えないけど、でも、想定外の事が起きて私を巻き込んだって事は、それほど大地お兄ちゃんが苦戦する場所って事だよね?
そんな場所に大地お兄ちゃんを一人で行かせるのは、やっぱりどうかと思うんだ。
だから、うんっ。追い掛けようっ。
透馬お兄ちゃん達にはここで華菜ちゃんを守って貰う為に、勿論一人で行く。
山の中だし、男の人が一人で出歩いたりはしてないだろうしっ。
そうと決まれば、早速行動っ!
洗面所から出て、寝室へ行って動きやすい服に着替えて、透馬お兄ちゃんが用事があるとリビングから透馬お兄ちゃんの泊まっている客室に入った瞬間を見つけて、今がチャンスとリビングを抜けて階段を上がり外へと飛び出した。
えっと、トラックは確か二台あったはず。一台は大地お兄ちゃんが乗って行ったからもう一台…奥の方に…あ、あったあった。
車に乗りこみ、私は早速鍵を捻って車を動かした。
ふふふ…実は車の免許は取得済みです。
真っ直ぐ走るの苦手だけどねっ!どやっ!
なんでかなー。私、どうやら車の運転ド下手らしいの。前世の時は普段から車を使ってたはずなのになー…。運動神経もリズム感もそう悪くない筈なのになー…。はて?
私の運転に乗ると、お兄ちゃん達も弟達も青い顔するんだよねー。ママだけは平然として、むしろ楽しそうにしてたんだけど。…今度ママと二人でドライブに行こうっと。下手なら練習すればいいだけの話だしねっ!
山の中をガタガタと走り、私は大地お兄ちゃんが向かったであろう場所、管理地に辿り着いた。
トラックがある。
ここで間違いない。
トラックを並べてとめて、車を降りる。
「………ふみ?」
誰かが縛られてる。芋虫みたいに。
「ふみみ?」
この感じ。男の人だ。
なるべく距離を取りつつ、でも縛られてるからちょっと安心して。一先ず近くの枝を持って、その人を突く。
「駄目でござるよ。白鳥殿」
「?、近江くん?」
私の男性恐怖症を知っている彼は、私から少し距離を取りつつ、話しかけてくれた。
「そいつは丑而摩先生が逃げ出さないように見張ってろって言ってた奴でござる。危険があるかもしれないから近づいちゃ駄目でござる」
「そうなんだ?…って事は、ここに大地お兄ちゃんが来たって事だよね?」
「?、そうでござるよ」
「そっか。解った。ありがとう」
近江くんにしっかりとお礼を言ってから、私は入口を探す事にする。
真正面から入るような馬鹿はしませんよ~。何せ忍びが管理している場所だもんね。
キョロキョロと辺りを見渡すと、マンホールの様な不自然な蓋がある場所を見つけた。
近寄ると蓋はただ置かれているだけ。
下へと行く梯子が蓋の横にあった。
「ここが入口ね。よしっ、じゃあ、早速っ」
「ま、待つでござるっ」
「ふみ?」
やっぱり一定の距離を取りつつ、待ったがかけられた。
「ど、何処に行くでござるか?」
「大地お兄ちゃんの所に行くでござる?」
おっと、口調がうつっちゃった。
近江くんの口調って移るよね。うん。
「それは待つでござる」
「ふみみ?どうして?」
「どうしてって。危険でござるから」
「うん。だから大地お兄ちゃんの応援に行くんだよっ」
ぐっと拳を握る。
けど、近江くんは、そうじゃないそうじゃないと首を振った。
「ここは忍びの管理地にござる」
「うん」
「魑魅魍魎が蔓延る空間でござる。あの丑而摩先生ですら、苦戦する所でござる。そこへ女子が一人飛び込むなんて駄目でござる」
「うんうん。だから華菜ちゃんは置いてきたよっ。私だけで十分だもんねっ」
「ああぁー…。そうじゃないでござるぅー…」
なんちゃって。
近江くんの言いたい事はちゃんと理解している。
危ないから行くな。私が行った所で変わらないと、そう言いたいんだよね。
でも、近江くんには悪いんだけど、大地お兄ちゃんが危険な目にあってるのに私は何もせずにいるとか耐えられないの。
ましてや、私の為に大地お兄ちゃんは危険な目にあってるんだもの。だったら一緒に苦しみたい。
「……白鳥殿は」
「なぁに?」
「…白鳥殿は、丑而摩先生の事を好いておられるのか?」
「え?」
「それともそれは家族愛や友愛でござるか?…もしも、それが家族愛や友愛だと言うのであれば、拙者は足を止めさせて貰うでござるよ」
「近江くん…」
「もう一度、考えてみて欲しいでござる。丑而摩先生を助けに行くのに、それだけの覚悟があるのか、を。…恐らく、丑而摩先生は今同じ事を自分自身に問うてるでござるよ」
その身を危険に合わせても、大地お兄ちゃんの私の身の安全を守ると言う決意を無にしてでも、大地お兄ちゃんの所へ行く覚悟…。
どうして、そうまでして助けに行きたいか?
そんなの深く考えた事なかった。
「大地お兄ちゃんは私の為に、危険な場所へ向かってる。それを助けたいと思うのは間違い?」
「間違いでは無いでござる。でも、そこに白鳥殿が行かねばならない理由にはならないでござる」
「私の事なのに?私の所為で危険な場所に行ってるのに?大地お兄ちゃんが命を張ってるのに?」
「だったら、それこそ白鳥殿の最強の剣と盾である周りの人間に頼めば良いだけの話でござる。丑而摩先生は白鳥殿を助けたい一心で向かったでござる。白鳥殿がそこへ行けば、丑而摩先生の願いが叶う可能性はマイナスに向くでござる。こんな事、拙者に問うまでもなく白鳥殿ならば考え着く事でござろう?」
「……特別な理由なんてないの…」
「…白鳥殿?」
「ただ大地お兄ちゃんが大事なの…」
そう。他に理由を考えたけど、全く出て来ない。
正直な話大地お兄ちゃんを異性として見た事が無い。それは多分、私が男性恐怖症だって大地お兄ちゃんが知った時から、大地お兄ちゃんは意図してそんな空気を作らなかった。
何かあっても直ぐに場の空気を和ませてくれた。危険な目にあった時は、率先して先に出て私から危険を遠ざけてくれた。そんな大地お兄ちゃんだったから、私の中では親戚の様な枠にいて。
だからここ最近の大地お兄ちゃんの行動に逆に驚いていたのだ。
まるで愛おしくて堪らないって言ってるみたいに、そっと触れて、そっとキスをしてきて。
ボンッ。
今日の大地お兄ちゃんの行動を振り返り恥ずかしさに脳が沸騰する。
脳内沸騰中だけど、ふと思う。
どうして嫌じゃないんだろう、って。
勿論、鴇お兄ちゃん達含め兄弟では頬とかにキスとかはあった。弟達は可愛過ぎてちゅーの嵐である。
でも、透馬お兄ちゃんや奏輔お兄ちゃんにキスされて、こんな恥ずかしくなるだろうか?……ううん。ならない。
あれ?もしかしてそこに答えがあるんじゃ…?
だって、私しっかりと大地お兄ちゃんを意識してるじゃない。男性として。男性恐怖症の私が意識してる。
たった今近江くんに言った特別な理由、あるじゃん…私。
いつの間に私こんなに大地お兄ちゃんの事好きになってたんだろう。
思わず頬に笑みが浮かぶ。
いつからこんな気持ちになってたのかは解らない。…もしかしたら大地お兄ちゃんが少しずつ私の中で恋愛の芽を育てていたのかもしれない。
そう思うと何処か可笑しくて、ふと大地お兄ちゃんの顔が思い浮かぶ。
一杯の表情を姿を思い出す度に、好きだなぁと胸がほんわかする。それと同時に好きだって、失いたくないんだ、って自分の中ではっきりすると、今度は危険な目にあっているであろう大地お兄ちゃんが心配で堪らなくなる。
「…ありがとう、近江くん」
「何がでござる?」
「自分の気持ちがハッキリと解ったから。だから、ありがとう」
「???」
「いいの。解らなくて。ただ受け取ってくれるだけでいいの」
「??、どういたしまして?でござる??」
さっぱり解らんと首を傾げる近江くんにもう一度笑顔で答えると、私は梯子に足をかけた。
そんな私を慌てて止めようとする近江くんを今度は私が止める。
「大丈夫。近江くんは大地お兄ちゃんが言ったように、そこで転がってるのを見張ってて。私は大地お兄ちゃんの所に行く」
「でもっ」
「一緒にいたいの。…大地お兄ちゃんだけ苦しい目に合わせたくないの。側に、いたいの。…お願い」
私がかかった呪いがどんな風に発動するか解らない。
もしかしたら、死が待っているのかもしれない。
だけど、だからこそ、私は大地お兄ちゃんの側にいたい。
私は欲深い人間だから、大地お兄ちゃんが苦しむと解ってても、私の事を見ていて欲しい。
「…解ったでござる。でも白鳥殿、念の為にこれを」
目の前に何かが置かれる。これは…?
「お守りでござる。どうしようもなくなった時、これを開けて欲しいでござる」
「どうしようもなくなった時…」
置かれたお守りは変哲もない普通のお守りに見えるけれど…。忍びの近江くんが言うからには何かあるに違いない。
「解った。大事にするね」
「白鳥殿。お気をつけて」
「うん。ありがとう、近江くん。―――またね」
お守りをジーパンにポケットにしまい、私は梯子を降りた。
「洞窟の中、ってのは間違いなさそうだけど…これは、あれだね。乙女ゲームと言うかRPGゲームで言う所のダンジョンって奴だね。まさか、本当にダンジョンに入る事になるとは思わなかったなぁ」
「全くだぜっ!」
「ふみゃあああっ!?」
慌てて飛びのく。
何で今男の声がしたのっ!?
ってか、どっからしたのっ!?
「何でそんな驚いてんだよ。っつーか、その声、美鈴センパイだろーっ!なぁなぁーっ!オレ迷子なんだけど助けてくれーっ!」
「は?その声、もしかして、陸実くんっ!?」
「おうっ!!」
「何でここに、って言うかそもそも何処にいるのっ!?」
「だからー、迷子なんだってーっ!師匠から美鈴センパイの足止め頼まれてーっ!」
声はどっちからしてるんだろう?
一先ず恐らく大地お兄ちゃんが使う為に置いてあった何個もある電池と懐中電灯の内懐中電灯と電池を数個持って歩きだす。そこまで暗くないけど念の為ね。
「美鈴センパイ来なくなったからどうすっか相談しようと思いつつ、病院に友達の見舞いに行ったら、師匠がすんごい勢いで病院飛び出して行くから気になって後を追ったんだーっ!」
「うん。それでーっ?」
「したらやったらでっかい家に入ってったじゃーんっ!?」
「それは私の別荘の事だねーっ、それでーっ?」
「そんな時を待たずに出て来てまた車でどっかいったから、追いかけた訳だーっ!そしたら、一悶着後こんな怪しい場所に入るから別の入り口から入って追い掛けようって思ったんだーっ!」
「成程ーっ!?」
「したら迷ったーっ!!」
「このお馬鹿さーんっ!!」
一歩一歩声のする方に近づいて行く。
何かおかしなもの。所謂ダンジョンに出てくるモンスター的なものは出て来ないようなので、慎重に、かつ速やかに声のする方へと向かった。
陸実くんがいたのはそう遠くなかった。まぁ、声が届く位置だし当然と言えば当然か。
陸実くんがいた場所は暗く周りが見えない所だった。
そんな陸実くんを懐中電灯で照らすと、心のどこかでそっくりさんとか罠と思っていた期待が何処かへ消えた。
彼は間違いなく陸実くんである。
「人気アイドルがこんなとこで何してんの、もう」
「仕方ないだろっ。師匠と美鈴センパイの一大事だぜっ!?ほっとけるかよっ!!」
「仕事は?」
「海と空に理由話して、何とかして貰った」
「マジかー」
ありがたいやら辛いやら。
頭を抱えた私とは裏腹に、
「美鈴センパイっ!何か良く解らねぇけどっ、師匠を探しに行くんだろっ!手伝うぜっ!」
相変わらずの人の話を聞かず歩きだす。
いやむしろ走りだしている陸実くんに私は更に頭を抱えつつも、その優しさに少しだけ感謝するのであった。
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