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最終章 数多の未来への選択編
※※※
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三、四時間程車を走らせてやっと到着しました、私の別荘。
住宅街から結構離れていて、パッと見、山の中の一軒家です。でも畑も、井戸だけど飲み水も、電気にネット環境だってフル装備しております。はい。
周りは木しかないけどねー。でも侵入者用の罠もあるよー?牛や豚はいないけど鶏はいるから、卵も手に入るし。結構良い場所だよ、ここ。
「えっと鍵、鍵~」
車ごと敷地内へ入り、駐車スペースや車庫なんてものはないから、家の前にどんと車を止めて、私達は車から降りた。
奏輔お兄ちゃんが車にロックをかけてる間に、私はスマホを取りだし、そのスマホカバーに挟んで置いたカードキーを取りだして、家の鍵を開けた。
中へ入ると、窓が閉めきられている所為で、むわっと熱気が来る。
「まずは換気かなー?」
「掃除はあまり必要なさそうじゃね?」
「掃除はちょくちょく私がしてたり、真珠さんにして貰ったり、ママの執筆監禁場所に使ってたりしてたから比較的綺麗なままだと思う」
言いながら靴を脱いで、中へ入る。
てくてくと進み、真っ直ぐ続く廊下を歩く。
「えっと、右手にある扉がトイレでー、左手にあるのが掃除用具入れでー」
案内しつつ、正面のドアを開ける。
すると下に降りる階段がある。そこをまたてくてっくと降りて行くと、結構な広さのキッチン・ダイニング一体型リビングに着く。
「広っ!?」
「おいおい、マジか。流石白鳥財閥総帥の別荘だな」
「成程。山の斜面に建ってるからパッと見解らへんのか。窓から見える景色が圧巻や」
「右手側の奥にある階段を下れば寝室。反対の左手側の奥にある階段を下りればお風呂とか、洗面所とかあるよ~」
歩いて、換気の為に窓を開けて行く。
お兄ちゃん達もそれぞれカーテンを開いたり、窓を開けてくれたりと手伝ってくれた。
さ、寝室も換気して来よう。
自分がさっき言ったように右側の奥にあるドアを開けて階段を下りると、廊下が続き、寝室のドアが右左に交互に並んでいる。
お兄ちゃん達と、私の分。それから恐らくこれから来るであろう、華菜ちゃんと愛奈、近江くんの分。
ってなると、私達女は同じ部屋で構わないから一番奥のベッドが三つある部屋だね。で男の人達は一人一部屋で割り当てようかな。
丁度寝室は五部屋あるしね。
まずは一番奥の私達の部屋から。
ドアを開けて、部屋を見回す。すると寝室の小さな机の上に、本来ここにある筈がないものがある事に気づく。
「え?何でー?」
近寄って手に取って見ても、確かに自分の部屋に置いてきたものだと解る。
試しにパラパラと中を確認したら、間違いなく『セーブの本』だった。
「マジかー」
ご丁寧にペンまで横に置いてある。
…仕方ない。セーブしとくか。
窓を開けるのもそこそこ、私はセーブの本に現状を書く。
「姫ちゃーん?花崎達が来たよー?」
コンコンとドアを叩かれて、大地お兄ちゃんがそう言いながら顔を出した。
私の手元を見て、怪訝そうな顔をする。そりゃそうだよね。私だって不思議だもの。
「それって、セーブの本ー?」
「うん。なんでかあったんだよね」
本来セーブ機能ってのは、主人公が落ち着ける場所、記録を残せるような場所にあるもの。
って事は、だ。ここも私にとって安全地って事だよね。私の自室もそうだけど、そう言う場所では襲撃されないみたいだし。
いざとなったらここに逃げ込む事も考えて置いた方が良いよね。
まぁ、それは良いとして。
「大地お兄ちゃん。ついセーブするの優先しちゃって換気終わってないんだ。手伝って貰える?」
「オッケー」
部屋を出て他の寝室も次から次へと窓を開けて軽く掃除していく。
二人で協力してやったからあっという間に終わったので、急ぎリビングへ戻るとそこには既に華菜ちゃんと愛奈、近江くんがいた。
「三人共いらっしゃい。ごめんね、遠くまで」
「そんなことっ。美鈴ちゃんの為なら何処まででも行くよっ!」
「華菜ちゃんっ」
「美鈴ちゃんっ」
ひしっ!
抱き合って友情を確かめる。
「ほら、姫さん。今は友情愛を確かめてる場合やないやろ。本題入るで」
「あ、うん。そうだね」
「一先ず私は持って来たPC起動するね」
華菜ちゃんがリビングの机の上にノーパソを置いて確認している間に、何やら相談し合っている近江くんと愛奈の側へと行く。
「王子。今コタが真珠さんや銀川さんに聞いた情報を華菜が印刷してくれている地図にトレースしてるからちょっと待ってて」
「うん。解った。じゃあ、今の内ご飯作っておくね」
リビングにくっ付いているキッチンへ行き、私は簡単に食事を作る事にする。
材料をまだ確保してないので、作れるものは限られる。
前にママが来た時に使って保管してた米とルーがあるからカレーにしようかな。
「大地お兄ちゃん。外にある畑に植わってる野菜取って来てくれる?人参と玉葱、じゃがいも、他にも野菜を適当に持って来てー」
「オッケー」
…大地お兄ちゃん。ずっとニコニコと了承してくれてるけど、良いのかな?
無理だったり腹が立ったら断ってくれていいのよ?
リビングを出て行った大地お兄ちゃんを見送りつつお米を砥ぐ事にする。
「持って来たよー、姫ちゃん」
「はっやっ!?」
「えっと人参と玉葱、それから…」
「しかもちゃんと土が落とされてるっ!?大地お兄ちゃん、…凄いねー…」
はぁー、すっごいわー。
尊敬の眼差しをおくっておこう。きらきらきら…。
「そんな事ないってー。そもそも姫ちゃん、オレ八百屋の息子だぞ?」
「いや、それはそうかもしれないけどねー」
採って来てくれた野菜を受け取り、ざぶざぶと水で洗う。
「手伝おうかー?」
「いいのー?」
「勿論っ」
「なぁーにが、『勿論っ』だっ。大地、お前はこっちでセキュリティの確認だっ」
「うげっ」
透馬お兄ちゃんが突然現れて、大地お兄ちゃんの首に腕を回してずるずると連れて行ってしまった。
とりあえず手を振って見送っておこう。
そこから暫くは料理に集中して、肉なしゴロゴロ野菜カレーを完成させて、後はお米が炊けるまで寝かせる。
すると、丁度良く愛奈が皆を呼んだのでソファの前にある四角いテーブルに皆が集合した。
キュポッと赤いマジックペンの蓋を外して、愛奈が一か所に丸をつけた。
「現在位置はここね。それで、私が真珠さんに聞いた裏門の管理する、表門の連中が狙いそうな金品を置いた場所がこのシールが貼られてる場所ね」
シールが貼られてる場所…結構あるね。
ひー、ふー、みー……21か所?わお。
「で、表門だと絶対見つけられなそうな場所が…」
言いながら愛奈はシールの上に×印をしていく。
殆ど×されてってる。
「更に、表門の人間の行動範囲を考えて行けそうにない場所は…」
今度は△印がシールの上に書かれる。
…一気に三つまで絞られたよ…。
表門の人はどんだけ…や、言わないでおこう。これは優しさですよ。本当ですよ。
「で、絞られたのが、この三つ。その中でも一番怪しいのが、ここ」
愛奈が指さした場所は、この別荘の丁度真東にある山の中。
「どうしてここが怪しいと思うの?」
「ここの山の付近で言い伝えられてる昔話って言うのかな?それが子供に関する事なの」
「えっと、…あったあった。この山に言い伝えられてる事とか、それにまつわる事件とかをまとめたのがこれ」
愛奈の話を華菜ちゃんが引き継ぎ、プリントアウトした紙を一枚真ん中に置いた。
神隠し…子供立ち入り禁止…無事に帰宅した家族の子供が謎の病にて死亡…。
記事の内容は全て子供に何らかの異変が起き、最悪の場合死に至っている。
「成程。確かに、怪しいね。子供に異変が起きている辺りも、表門の人の子供の状況に酷似してるし」
「ならまずはそこの調査に行くか」
「幸い私達は子供じゃないし、子供もいない。丁度いいよね」
「じゃあ、明日はそこから調査開始だな」
「念の為に武器になるものを持って行った方がいいかもしれない」
「薙刀持って行きたいなー。何処にあったかなー」
「コタ。コタも王子に付いて行って。私と華菜はここに残るから」
「大丈夫なんでござるか?」
「大丈夫。ヤバかったらコタを呼ぶから。秒で来て」
「任せて欲しいでござるっ!」
近江くん…秒で来るの?出来るの?
……大地お兄ちゃんもさっき秒で帰って来たし、出来るのかもしれない…。
うっかり遠い目をしてしまった。
ぐぅぅぅ~。
…誰のお腹の音?
「……姫ちゃん。ご飯にしないー?良い匂いだけが室内に充満して、もう限界ー」
大地お兄ちゃんのお腹の音だったらしい。
確かにお腹空いたよね。
大地お兄ちゃんが可愛くて、つい笑ってしまった。
「ふふふっ。そうだね、そろそろご飯にしようか。広げた物一旦片づけて、地図はあそこの壁のコルクボードに貼っとこう」
「じゃあ、俺が貼るわ」
「ついでやから風呂も簡単に掃除してこよか」
「それじゃあ、オレは外の見回り行ってくるー。近江、ついて来い」
「了解でござる」
「王子。布巾何処ー?」
「そっちの棚の二番目の引出しにあるよ~。華菜ちゃん。今ご飯よそうから、カレーを上にかけてくれる~?」
「任せてー」
「じゃあ、テーブル拭いたら、私が運ぶわ」
自然に役割分担が出来、皆直ぐに動いた。
ご飯をよそって、華菜ちゃんに渡す。
華菜ちゃんがカレーをご飯の上にかけて、トレイに置く。
トレイに置かれたカレーに福神漬けを角に盛って、スプーンと一緒に運んでテーブルにセッティングする。
それを七回繰り返した頃にはお兄ちゃん達も戻って来て、コップや飲み物を用意して、食事にした。
食事が終わり、暫く談笑をしながら、順番にお風呂に入る。
この別荘にはお風呂が二つあるので、男風呂と女風呂に分ける事が出来る。
皆がお風呂へ行ったり、寝室へ荷物を置きに行っている間に、私はコルクボードに貼られている地図を確認していた。
この裏門の管理地の配置。なーんか規則性がありそうなんだよねー…。
繋ぎ合わせたら何かになりそうなんだけど…うーん…。恐らく地図の上の方から見ていく限り、円…なのかなぁ。
でも円の中に何か所か……うん?何か引っかかるなぁ。その一番上にある管理地、良く見ると小さく地図に1って書いてある。
もしかしたら2もあるのかな?
2をさがしたら、左下の方にある。あー、これってもしかして…。右上の方に視線を動かすと3とある。
間違いないね。これ、五芒星だ。…円に五芒星?これも何かデジャヴ感があるなぁ…。
「姫ちゃん?」
五芒星…何処で見たんだっけ?円の中の五芒星…。
「おーい、姫ちゃーん?」
顔の前で手を振られて、大地お兄ちゃんが呼んでいた事に気づく。
「どしたー?何か気になる事でもあるのかー?」
「あー、うん。この地図、繋ぎ合わせると円と五芒星が出来上がるんだよね~。で、それどっかで見たなーって。でも思い出そうとすると中々出て来ないんだよね~」
「円に五芒星?あれじゃないのー?藤硬貨」
「あぁっ!そっかっ!!」
私はステータスを開いて、藤硬貨を取りだす。すると、確かに円の中の五芒星がある。
「大地お兄ちゃん、賢いっ!さっすがーっ!」
「ふっふっふー。もっと褒めて良いんだよー」
「偉いっ!カッコいいっ!!超人っ!!」
「……姫ちゃん、超人は褒め言葉ー?」
「あれ?」
二人で顔を見合わせて笑い合う。
実質今は藤硬貨はあんまり関係ない事だとは思うけど、思い出せない事を思い出した時ってスッキリするよね。
うんうんと頷いて、そう言えばと思い至る。
「大地お兄ちゃん、お風呂は?」
「先に透馬を行かせたー。オレはちょっともう一度外行ってくるー。見回りしてて気になる所があったからー」
「そうなの?私も一緒に行こうか?」
「大丈夫大丈夫ー。姫ちゃんはお風呂に入って寝ててー。こう言うのは男の仕事だよー」
「でも…」
一応、警護システムとかあるし、付いて行った方が…。
と思って、大地お兄ちゃんを見上げたけれど、ニッコリと微笑まれ頭をポンポンと叩かれた。
「大丈夫だって。オレが強いの、姫ちゃんだって知ってるだろ?安心して寝とけ」
「ッ!…、わ、解った。ありがとう、大地お兄ちゃん」
…急に真剣に話すのは卑怯だと思うの。
大地お兄ちゃんの急に魅せられた一面に、私の顔は熱を持ち、恐らく真っ赤だ。
そんな私をまた笑顔で撫でて、大地お兄ちゃんは階段を登って行った。
残された私は大地お兄ちゃんの色家を消化するのに、必死だった。
住宅街から結構離れていて、パッと見、山の中の一軒家です。でも畑も、井戸だけど飲み水も、電気にネット環境だってフル装備しております。はい。
周りは木しかないけどねー。でも侵入者用の罠もあるよー?牛や豚はいないけど鶏はいるから、卵も手に入るし。結構良い場所だよ、ここ。
「えっと鍵、鍵~」
車ごと敷地内へ入り、駐車スペースや車庫なんてものはないから、家の前にどんと車を止めて、私達は車から降りた。
奏輔お兄ちゃんが車にロックをかけてる間に、私はスマホを取りだし、そのスマホカバーに挟んで置いたカードキーを取りだして、家の鍵を開けた。
中へ入ると、窓が閉めきられている所為で、むわっと熱気が来る。
「まずは換気かなー?」
「掃除はあまり必要なさそうじゃね?」
「掃除はちょくちょく私がしてたり、真珠さんにして貰ったり、ママの執筆監禁場所に使ってたりしてたから比較的綺麗なままだと思う」
言いながら靴を脱いで、中へ入る。
てくてくと進み、真っ直ぐ続く廊下を歩く。
「えっと、右手にある扉がトイレでー、左手にあるのが掃除用具入れでー」
案内しつつ、正面のドアを開ける。
すると下に降りる階段がある。そこをまたてくてっくと降りて行くと、結構な広さのキッチン・ダイニング一体型リビングに着く。
「広っ!?」
「おいおい、マジか。流石白鳥財閥総帥の別荘だな」
「成程。山の斜面に建ってるからパッと見解らへんのか。窓から見える景色が圧巻や」
「右手側の奥にある階段を下れば寝室。反対の左手側の奥にある階段を下りればお風呂とか、洗面所とかあるよ~」
歩いて、換気の為に窓を開けて行く。
お兄ちゃん達もそれぞれカーテンを開いたり、窓を開けてくれたりと手伝ってくれた。
さ、寝室も換気して来よう。
自分がさっき言ったように右側の奥にあるドアを開けて階段を下りると、廊下が続き、寝室のドアが右左に交互に並んでいる。
お兄ちゃん達と、私の分。それから恐らくこれから来るであろう、華菜ちゃんと愛奈、近江くんの分。
ってなると、私達女は同じ部屋で構わないから一番奥のベッドが三つある部屋だね。で男の人達は一人一部屋で割り当てようかな。
丁度寝室は五部屋あるしね。
まずは一番奥の私達の部屋から。
ドアを開けて、部屋を見回す。すると寝室の小さな机の上に、本来ここにある筈がないものがある事に気づく。
「え?何でー?」
近寄って手に取って見ても、確かに自分の部屋に置いてきたものだと解る。
試しにパラパラと中を確認したら、間違いなく『セーブの本』だった。
「マジかー」
ご丁寧にペンまで横に置いてある。
…仕方ない。セーブしとくか。
窓を開けるのもそこそこ、私はセーブの本に現状を書く。
「姫ちゃーん?花崎達が来たよー?」
コンコンとドアを叩かれて、大地お兄ちゃんがそう言いながら顔を出した。
私の手元を見て、怪訝そうな顔をする。そりゃそうだよね。私だって不思議だもの。
「それって、セーブの本ー?」
「うん。なんでかあったんだよね」
本来セーブ機能ってのは、主人公が落ち着ける場所、記録を残せるような場所にあるもの。
って事は、だ。ここも私にとって安全地って事だよね。私の自室もそうだけど、そう言う場所では襲撃されないみたいだし。
いざとなったらここに逃げ込む事も考えて置いた方が良いよね。
まぁ、それは良いとして。
「大地お兄ちゃん。ついセーブするの優先しちゃって換気終わってないんだ。手伝って貰える?」
「オッケー」
部屋を出て他の寝室も次から次へと窓を開けて軽く掃除していく。
二人で協力してやったからあっという間に終わったので、急ぎリビングへ戻るとそこには既に華菜ちゃんと愛奈、近江くんがいた。
「三人共いらっしゃい。ごめんね、遠くまで」
「そんなことっ。美鈴ちゃんの為なら何処まででも行くよっ!」
「華菜ちゃんっ」
「美鈴ちゃんっ」
ひしっ!
抱き合って友情を確かめる。
「ほら、姫さん。今は友情愛を確かめてる場合やないやろ。本題入るで」
「あ、うん。そうだね」
「一先ず私は持って来たPC起動するね」
華菜ちゃんがリビングの机の上にノーパソを置いて確認している間に、何やら相談し合っている近江くんと愛奈の側へと行く。
「王子。今コタが真珠さんや銀川さんに聞いた情報を華菜が印刷してくれている地図にトレースしてるからちょっと待ってて」
「うん。解った。じゃあ、今の内ご飯作っておくね」
リビングにくっ付いているキッチンへ行き、私は簡単に食事を作る事にする。
材料をまだ確保してないので、作れるものは限られる。
前にママが来た時に使って保管してた米とルーがあるからカレーにしようかな。
「大地お兄ちゃん。外にある畑に植わってる野菜取って来てくれる?人参と玉葱、じゃがいも、他にも野菜を適当に持って来てー」
「オッケー」
…大地お兄ちゃん。ずっとニコニコと了承してくれてるけど、良いのかな?
無理だったり腹が立ったら断ってくれていいのよ?
リビングを出て行った大地お兄ちゃんを見送りつつお米を砥ぐ事にする。
「持って来たよー、姫ちゃん」
「はっやっ!?」
「えっと人参と玉葱、それから…」
「しかもちゃんと土が落とされてるっ!?大地お兄ちゃん、…凄いねー…」
はぁー、すっごいわー。
尊敬の眼差しをおくっておこう。きらきらきら…。
「そんな事ないってー。そもそも姫ちゃん、オレ八百屋の息子だぞ?」
「いや、それはそうかもしれないけどねー」
採って来てくれた野菜を受け取り、ざぶざぶと水で洗う。
「手伝おうかー?」
「いいのー?」
「勿論っ」
「なぁーにが、『勿論っ』だっ。大地、お前はこっちでセキュリティの確認だっ」
「うげっ」
透馬お兄ちゃんが突然現れて、大地お兄ちゃんの首に腕を回してずるずると連れて行ってしまった。
とりあえず手を振って見送っておこう。
そこから暫くは料理に集中して、肉なしゴロゴロ野菜カレーを完成させて、後はお米が炊けるまで寝かせる。
すると、丁度良く愛奈が皆を呼んだのでソファの前にある四角いテーブルに皆が集合した。
キュポッと赤いマジックペンの蓋を外して、愛奈が一か所に丸をつけた。
「現在位置はここね。それで、私が真珠さんに聞いた裏門の管理する、表門の連中が狙いそうな金品を置いた場所がこのシールが貼られてる場所ね」
シールが貼られてる場所…結構あるね。
ひー、ふー、みー……21か所?わお。
「で、表門だと絶対見つけられなそうな場所が…」
言いながら愛奈はシールの上に×印をしていく。
殆ど×されてってる。
「更に、表門の人間の行動範囲を考えて行けそうにない場所は…」
今度は△印がシールの上に書かれる。
…一気に三つまで絞られたよ…。
表門の人はどんだけ…や、言わないでおこう。これは優しさですよ。本当ですよ。
「で、絞られたのが、この三つ。その中でも一番怪しいのが、ここ」
愛奈が指さした場所は、この別荘の丁度真東にある山の中。
「どうしてここが怪しいと思うの?」
「ここの山の付近で言い伝えられてる昔話って言うのかな?それが子供に関する事なの」
「えっと、…あったあった。この山に言い伝えられてる事とか、それにまつわる事件とかをまとめたのがこれ」
愛奈の話を華菜ちゃんが引き継ぎ、プリントアウトした紙を一枚真ん中に置いた。
神隠し…子供立ち入り禁止…無事に帰宅した家族の子供が謎の病にて死亡…。
記事の内容は全て子供に何らかの異変が起き、最悪の場合死に至っている。
「成程。確かに、怪しいね。子供に異変が起きている辺りも、表門の人の子供の状況に酷似してるし」
「ならまずはそこの調査に行くか」
「幸い私達は子供じゃないし、子供もいない。丁度いいよね」
「じゃあ、明日はそこから調査開始だな」
「念の為に武器になるものを持って行った方がいいかもしれない」
「薙刀持って行きたいなー。何処にあったかなー」
「コタ。コタも王子に付いて行って。私と華菜はここに残るから」
「大丈夫なんでござるか?」
「大丈夫。ヤバかったらコタを呼ぶから。秒で来て」
「任せて欲しいでござるっ!」
近江くん…秒で来るの?出来るの?
……大地お兄ちゃんもさっき秒で帰って来たし、出来るのかもしれない…。
うっかり遠い目をしてしまった。
ぐぅぅぅ~。
…誰のお腹の音?
「……姫ちゃん。ご飯にしないー?良い匂いだけが室内に充満して、もう限界ー」
大地お兄ちゃんのお腹の音だったらしい。
確かにお腹空いたよね。
大地お兄ちゃんが可愛くて、つい笑ってしまった。
「ふふふっ。そうだね、そろそろご飯にしようか。広げた物一旦片づけて、地図はあそこの壁のコルクボードに貼っとこう」
「じゃあ、俺が貼るわ」
「ついでやから風呂も簡単に掃除してこよか」
「それじゃあ、オレは外の見回り行ってくるー。近江、ついて来い」
「了解でござる」
「王子。布巾何処ー?」
「そっちの棚の二番目の引出しにあるよ~。華菜ちゃん。今ご飯よそうから、カレーを上にかけてくれる~?」
「任せてー」
「じゃあ、テーブル拭いたら、私が運ぶわ」
自然に役割分担が出来、皆直ぐに動いた。
ご飯をよそって、華菜ちゃんに渡す。
華菜ちゃんがカレーをご飯の上にかけて、トレイに置く。
トレイに置かれたカレーに福神漬けを角に盛って、スプーンと一緒に運んでテーブルにセッティングする。
それを七回繰り返した頃にはお兄ちゃん達も戻って来て、コップや飲み物を用意して、食事にした。
食事が終わり、暫く談笑をしながら、順番にお風呂に入る。
この別荘にはお風呂が二つあるので、男風呂と女風呂に分ける事が出来る。
皆がお風呂へ行ったり、寝室へ荷物を置きに行っている間に、私はコルクボードに貼られている地図を確認していた。
この裏門の管理地の配置。なーんか規則性がありそうなんだよねー…。
繋ぎ合わせたら何かになりそうなんだけど…うーん…。恐らく地図の上の方から見ていく限り、円…なのかなぁ。
でも円の中に何か所か……うん?何か引っかかるなぁ。その一番上にある管理地、良く見ると小さく地図に1って書いてある。
もしかしたら2もあるのかな?
2をさがしたら、左下の方にある。あー、これってもしかして…。右上の方に視線を動かすと3とある。
間違いないね。これ、五芒星だ。…円に五芒星?これも何かデジャヴ感があるなぁ…。
「姫ちゃん?」
五芒星…何処で見たんだっけ?円の中の五芒星…。
「おーい、姫ちゃーん?」
顔の前で手を振られて、大地お兄ちゃんが呼んでいた事に気づく。
「どしたー?何か気になる事でもあるのかー?」
「あー、うん。この地図、繋ぎ合わせると円と五芒星が出来上がるんだよね~。で、それどっかで見たなーって。でも思い出そうとすると中々出て来ないんだよね~」
「円に五芒星?あれじゃないのー?藤硬貨」
「あぁっ!そっかっ!!」
私はステータスを開いて、藤硬貨を取りだす。すると、確かに円の中の五芒星がある。
「大地お兄ちゃん、賢いっ!さっすがーっ!」
「ふっふっふー。もっと褒めて良いんだよー」
「偉いっ!カッコいいっ!!超人っ!!」
「……姫ちゃん、超人は褒め言葉ー?」
「あれ?」
二人で顔を見合わせて笑い合う。
実質今は藤硬貨はあんまり関係ない事だとは思うけど、思い出せない事を思い出した時ってスッキリするよね。
うんうんと頷いて、そう言えばと思い至る。
「大地お兄ちゃん、お風呂は?」
「先に透馬を行かせたー。オレはちょっともう一度外行ってくるー。見回りしてて気になる所があったからー」
「そうなの?私も一緒に行こうか?」
「大丈夫大丈夫ー。姫ちゃんはお風呂に入って寝ててー。こう言うのは男の仕事だよー」
「でも…」
一応、警護システムとかあるし、付いて行った方が…。
と思って、大地お兄ちゃんを見上げたけれど、ニッコリと微笑まれ頭をポンポンと叩かれた。
「大丈夫だって。オレが強いの、姫ちゃんだって知ってるだろ?安心して寝とけ」
「ッ!…、わ、解った。ありがとう、大地お兄ちゃん」
…急に真剣に話すのは卑怯だと思うの。
大地お兄ちゃんの急に魅せられた一面に、私の顔は熱を持ち、恐らく真っ赤だ。
そんな私をまた笑顔で撫でて、大地お兄ちゃんは階段を登って行った。
残された私は大地お兄ちゃんの色家を消化するのに、必死だった。
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エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
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