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最終章 数多の未来への選択編

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私の中の毒がなくなり、透馬と恋人同士になった時点で乙女ゲーム『無限ーエイトー』のルートは終わりを迎えた。
要はエンディングを迎えたって奴だよね。
…とは言え、私は猫になっていた時の記憶はないし、透馬が頑張ってくれたって事しか解らないんだけどさ。
「…姉さん。美鈴姉さんってばっ」
「ふみ?」
顔の前で手を振られて私は我に返る。
「話の途中で止めないでよ。続きは?海里さんが来てどうなったの?」
「あぁ、それはねー」
旭がネクタイを緩めつつ、話の続きを求めてきたから、私はあの時の事を思い出す。
あの後。
海里くんが私と透馬の所へ乗り込んできた後、皆がいると海里くんに言われ、皆が集まっているであろう居間へ二人で向かったら、そこには鴇お兄ちゃんがいた。鴇お兄ちゃんの背後には葵お兄ちゃんも棗お兄ちゃんもいた。
私と透馬は顔を見合わせて、でも直ぐに互いに頷き合った。
透馬は真っ直ぐ鴇お兄ちゃんの前に行き、
「妹さんを俺に下さいっ」
土下座した。
「断る」
「消えろ」
「消し炭になれ」
ん?……デジャヴ?
何か昔もこんな光景があったような…?
かなり昔にあったような…?
でも、お兄ちゃん達に認めて貰えないの嫌だな…。
じっ…。
棗お兄ちゃん、認めてくれないかな…じーっ…。
「…うぐ…、鈴、そんな目で僕を見ないで」
見るなって言われた。
…じゃあ、葵お兄ちゃん。…じー…。
「……鈴ちゃん。…いや、でも…ここは曲げたら駄目なシーンでっ…」
あ、顔逸らされた。
じゃあじゃあ、鴇お兄ちゃんだっ!じーっ……。
鴇お兄ちゃんをじっと、じーっと見つめる。
すると鴇お兄ちゃんは、私の視線を受け止め、大きく息を吐いた。
「……美鈴。いいのか?これで」
「え?」
「出会いが出会いだっただろう?本当に、後悔しないか?」
「そうだよ、鈴っ。鈴だって忘れた訳じゃないよね?この人が鈴を一番最初に怖がらせたんだよっ?」
何を言われるかと思えば、そんな昔の事、お兄ちゃん達覚えててくれたんだね。
お兄ちゃん達の優しさに心がほっこりする。逆に透馬は鴇お兄ちゃんの足下でぎゃんぎゃん言葉の刃で刺されてるけど。
私はそんな透馬の横に行き、隣で正座する。
「透馬があの時私の所に来た理由は、鴇お兄ちゃん達を想っての事。透馬はずっとずーっと優しかったよ。そんな透馬が私は好きなの。必要であれば自分を悪にしてでも大事なものを守る、そんな透馬が好き」
「……美鈴…。俺、今死にそう」
何でか震えて顔を覆っている透馬が意味解らないけど、無視してピタッと体をくっつける。
すると目の前で私達を見ていた鴇お兄ちゃんがフッと少し悲し気に笑った。
「……知ってたよ。不本意だが、な。…お前は俺の親友だったから」
「ちょい待てーいっ。今のセリフ聞き捨てねぇぞっ」
土下座態勢から、一気に立ち上がり鴇お兄ちゃんに迫る。ふみー、いきなり立たれたら体預けてた私は転がっちゃうんだけどー。
透馬はそんな私に気付かずに鴇お兄ちゃんに詰めよった。
「何で過去形だっ。俺は今もお前の親友だろうがっ」
「ほう。親友で良いのか。そうかそうか。俺はお前が『義弟』になるのかと思っていたが、そうか」
「不束者ですがよろしくお願いします。お義兄様っ」
シュバッ。
即土下座に戻る透馬。切り替え速いねっ!?
「美鈴。…透馬はこう見えて、誰よりも義理堅く、俺の知る誰よりも優しい男だ。絶対に幸せにしてくれるだろう。…幸せになれ」
「う、ん…っ。ありがとう、鴇お兄ちゃんっ」
鴇お兄ちゃんの言葉に胸がジーンとする。感動して思わず鴇お兄ちゃんに抱き付いた。
そんな私を受け止めて、いつものように頭を撫でてくれる。
鴇お兄ちゃんは私をひょいっと抱き上げて、
「それから、何か一つでも腹の立つ事があったら、即帰って来い。何時でも受け入れてやる」
「うんうんっ。僕も待ってるからっ。鈴ちゃんっ」
「当然僕もだよ、鈴」
サクッと透馬に牽制をした。
そこから私達のお付き合いは始まった。
「その後からも色々あったなぁ。誠パパに結婚前提のお付き合いを認めて貰う為に一悶着あったし、嫁入りする為に白鳥財閥を誰に譲るかって騒動もあったり…まぁ、全部懐かしいけどねー」
「……ちょっと待って、美鈴姉さん」
「うん?なぁに?」
私が小首を傾げながら、テーブルの上で頬杖をつくと、旭はこれまた真剣な顔して私の眼前に迫ってきた。
「美鈴姉さんが結婚して、もう大分経つのは知ってるよ?知ってるけど、まだ最後の騒動については認めてないよっ!?」
「うん?」
にこにこにこ。満面の笑顔攻撃を喰らえぃ。にこにこにこにこ。反撃は許しません。
「うぐっ…」
旭が一瞬怯んだ。だけど、どうしても今回は譲れないらしく、キッと眦を吊り上げてもう一度私に挑んできた。
「美鈴姉さん、生活が落ち着くまでの代理って言ったよねっ!?透馬さんにお嫁に行く前にそう言ったよねっ!?」
「うん。言ったねぇ」
「もう、落ち着いてるよねっ!?」
「うぅ~ん、旭、残念。お姉ちゃん、今三人目妊娠中」
「ふえっ!?」
てへっ☆
笑う私に旭が机に崩れ落ちた。
「お姉ちゃーん…、僕折角彼女出来たのにぃー…」
「あらま?それ本当?旭」
「そうだよー。中学から口説いて口説いてやっと落としたのー。なのに、仕事してたらぜんっぜんデート出来ないよー」
「……旭」
ポンッと肩を叩く。旭はその瞳に期待を込めて私を見上げる。
「両立、ふぁいっとっ☆」
「うわあああんっ、お姉ちゃんの馬鹿ああああっ」
どうやら止めを刺してしまったようだ。うむ、仕方ない。
そもそも旭は誠パパとママの血を色濃く引いたおかげで私や鴇お兄ちゃん以上に賢い。三つ子も姉の欲目抜きで見ても賢いが、旭には及ばない。
「旭。…本当に両立出来ないの?」
「……うっ…」
「私はちゃーんと両立してたわよ?勿論、お兄ちゃん達の手伝いはあったけどね。…本当に、出来ない?」
「そ、れは…」
「……他に、理由があるんでしょう?」
じーっと旭を見詰めていると、旭は観念したように溜息を吐いて、椅子へと戻りずるずると体を沈めた。
「実は…彼女がよそ見をしちゃいそうで…」
「成程っ。じゃあその彼女は諦めなさいっ」
「えぇーっ!?なんでなんでぇーっ!?」
「何でって当然でしょう?1に彼女が余所見しそうなくらい旭に魅力がない、2に旭が彼女を引きとめて置ける自信がないダメ男、3に彼女を信じてあげられないヘタレな男、4に」
「お、お姉ちゃん、勘弁して…」
胸を抑え、うぐぐぐと唸りながら滝涙を流す。
指折り駄目な点を上げて行った手が止まる。
ちょっと苛めすぎたかな?
旭の涙が古典的なギャグよろしく顎の下で振り子状態だし。
「旭。お姉ちゃんが、カッコいい男がどんなものか教えてあげ…」
「ただいまー」
「お帰りーっ」
透馬が帰って来たっ!
パタパタと店の方まで降りて、透馬を出迎える。
「ただいま、美鈴」
「お帰り、透馬っ」
ぎゅーっと抱き付くと、透馬も自分から迎え入れて抱きしめてくれる。これだけは結婚当初も今も変わらない。
「……うん?誰か来てるのか?」
「うん。旭が来てるの」
「旭が?珍しいな」
二人仲良く歩き、居間へと戻る。
そこには相変わらず泣き崩れている旭がいた。
「…旭、沈んでねぇ?」
「えへっ☆」
「……手加減してやれよ。おーい、旭、生きてっかー?」
透馬が相手してくれるなら、それでいっか。
私がキッチンへいそいそと晩御飯の準備の為に向かうと、復活した旭が透馬に詰め寄っていた。
「透馬さんっ!家にお婿に来て下さいっ!それで全て解決しますからっ!」
「いや、俺はそれでも構わなかったんだけどよ」
「やーっ!!」
「って美鈴が言うもんだから」
「うぅ…」
「何だよ、どうした?義兄さんに話してみろって」
泣きながら話し始めた二人を見守りつつ、野菜を洗う。
そんな光景を幸せだなと思う。
失いたくないとも思う。
透馬と出会った当初は、透馬とこんな事になるとは想像もつかなかった。
実際御三家ルートに入った時だって、こんな結果になるとは思いもしなかった。
けど、私の為に透馬は自分の大事な腕や命さえも捨てる覚悟で助けてくれた。
結婚した時も、透馬は最後まで私の意志を尊重してくれた。

『俺の家に嫁に入るって事は、今までの生活水準を大幅に落とす事になるし、店番で毎日男と合わなきゃいけない。…それでも、俺の嫁になってくれるか?』

透馬がくれたプロポーズの言葉。
確かに男の人は今だに苦手だ。
でも、透馬はそんな私の心ごと守ってくれている。
私はそんな優しい透馬と一緒にいたかったから。ずっと一緒にいたかったから一も二もなく頷いた。

『生活水準なんて私がいくらでも上げて見せるし、男の人の接客はお義父さんやお義母さんがやってくれる。何の問題もないよ。だから、私を透馬のお嫁さんにしてください』

と宣言して。
私にとって大事なのは透馬と一緒にいること。それ以外必要ないってくらい透馬に惚れていたとその時に改めて実感したのだ。
だからこそ不安になる時もあった。
ここまで透馬に依存しても良いのかと。
だけど、そんな私にママは言った。嬉しそうに微笑んで。

『透馬くんを信じて、大丈夫。今度こそ、幸せになれるわ』

と、そう言ってくれた。
そして、それは事実だった。
私は今とても幸せだ。

「美鈴。俺等の天使はどうした?」
ぼんやりと幸せをかみしめていたら、透馬に唐突に声をかけられた。
「ふみ?あの子達だったらお義母さんと遊びに行ってまだ帰ってないよ~」
それに答えると、透馬は苦い顔をした。
「…孫、溺愛し過ぎだろ。っつーかっ、俺の娘達だぞっ!?俺だって触れあいたくて早く帰って来たのにっ!」
さめざめと顔を覆って泣く透馬に私は苦笑しつつ、付近で手を拭いてパタパタとスリッパを鳴らして透馬の横に行き抱き付く。
「私だけじゃ、駄目?旦那様」
「駄目な訳あるかっ!ああーっ、俺の嫁さんは何年経っても可愛いなっ!!くそっ!!」
すりすり…いや、ぐりぐりと頭に頬擦りをされる。
「……美鈴姉さん、透馬義兄さんも、僕の存在忘れてるよね…」
抱き着きながら、透馬の胸の中で旭の言葉に笑みが浮かぶ。

まだまだ、これからの人生で大変な事も、辛い事もあるだろう。
今だって男性恐怖症がなくなった訳じゃない。
でも、透馬がいれば、私は前に進める。
透馬となら幸せ。
前世の辛い記憶はいまだ残ってる。
けれど、それさえもいつかは癒えると断言出来る。

私は、転生してきて、最上の幸せを手に入れたから―――。

透馬編完
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