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最終章 数多の未来への選択編

※※※

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「……って所ね。解った?」
「うん。ありがとう、ママ」
お祖父ちゃん家の一室で上半身を起こした状態で私はママから説明と説教を受けていた。因みに華菜ちゃんと愛奈にはしこたま怒られた。ふみぃ~…。
少し休みなさいと行って出て行くママを見送る。
それにしても…ママから今までの一連の流れを聞いても、正直あんまり実感がない。
実は裏世界に行って、城を逃げ出した辺りから記憶がないんだよね…。毒の所為で猫化が進んでいた所為だと思うけど。
ただ…。
顔を横の布団へと向ける。
透馬が大の字で寝ている。
私が意識と元の姿を取り戻した直後、透馬が倒れたのを見て私は慌てて駆けよろうとした。だけど自分も病み上がりだって事をすっかり忘れてて、急激に動いた所為で頭がふらついてぶっ倒れちゃったんだよね、うん。
そんな私と透馬を、皆でお祖父ちゃんの家の布団まで運んでくれて寝かせてくれたみたい。
私の方が先に目が覚めて、ママからこれまで一体何があったのか、透馬がどれだけ頑張ってくれたのかを教えて貰った。
何でママが知ってるんだろうと疑問のまま問いかけたら、なんとママは私達をずっとつけていたらしいの。
裏世界にも付いて来てたんだって。でもママってラスボスじゃない?裏世界にだってママはいるはずで。じゃあ、どうやって?と首を傾げていたら、問答無用で裏世界の自分をこっちに放り投げたって言ってた。ママ、強いね…。娘は遠い目をしたくなるね…。
裏世界にいる間は、あちらの世界のママとして動かなければならなかったってのもあったけど一番の理由はいつ自分の血をあげても良い様にして置く為だったって。だから透馬にもなるべくあちらのママとして認識させる為途中戦闘もした。一人でずっと魔物と戦い続けてたって。カッコ良かったってママは笑ってた。うんうん。総評して言えば、何してるのママは、ってとこだけど…結果オーライで良しとしよう。
私も透馬も誰も死なない道を目指して進んでいたから、元よりママの命を使うつもりはなかった。ママの立ち位置はラスボス。下手に動いたら本当に私達が戦ってどちらかが命を落としていたかもしれない。結果として、誰一人として命を落としていない訳だし。これほど幸せな結末はあるだろうか?
そう思うと嬉しさで笑みが浮かぶ。
「うぅ~…」
そんな私とは逆に悪い夢でも見てるのか透馬が唸りながら寝がえりをうった。
横向きになって、手がポスポスッと何かを探している。
私はそれに引き寄せられるように透馬の側へ移動していた。
布団をこっそりと開けて隣に入って透馬に抱き付く。
(えへへ…透馬をぎゅー)
胸にすり寄ると、寝ている筈の透馬の腕が私を抱き込む様に抱き寄せた。
「…なーに可愛い事してんだ?美鈴」
「ふみ?透馬、起こしちゃった?」
「気にすんな。まだ半寝惚け状態だ。っつーか、きっとこれは夢だ。元に戻った美鈴が俺の布団の中にいる訳がねぇ。夢だ夢」
「ふみ?」
「………すー……すー…」
…本当に半寝惚け状態だったんだ…。
言った直後またすやすやとおねむになってしまった。
透馬の顔や手を見ると手当てされてはいるけれど傷だらけ。
全力で私を助けようとしてくれていたんだと、全身で感じる。
眠る透馬の頬の傷にそっと触れる。
(…一杯一杯頑張ってくれたんだ。私の分まで戦って頑張って…)
目の前にある透馬の胸に、軽く触れるだけのキスをして。
「ありがとう…。透馬。大好き」
心の底からの感謝と愛情を込めて、今度はその唇へとキスをして、私は透馬と一緒に眠った。

―――翌朝。

「うおあああっ!?」

ゴロゴロゴロバァンッ!

「ふみみっ!?」
何々っ!?何事っ!?
寝惚けつつもガバッと起き上がると、横にいる筈の透馬がいない。はて?
一体何処に?
キョロキョロ…あ、いたっ。
何故か壁に背を預け、真っ赤な顔してこっちを見ている。
さっきのゴロゴロってのは透馬が回転して壁に激突した音らしい。
「透馬?」
「え?あ、えっ?」
「ふみ?」
四つん這いになりつつ、透馬の前まで移動して、下から覗き込む。
「ちょっと待て、俺。落ち着け、俺」
「?、うんうん。良く解らないけど、透馬落ち着いて。まずは挨拶。おはよ。えへへ」
透馬の背に腕を回してぎゅーと抱き付く。
「うおおおっ、ぜんっぜん落ち着けねぇっ。ちょっと待てっ。美鈴。ちょっとだけ待ってくれ」
「うん?」
待つよー?なになにー?
「じょ、状況が理解出来ねぇ。えっと、何がどうなってこうなった?」
おおー、透馬の心音ばっくばく。…私も人の事言えないかも。透馬に抱き付いてると安心する。するけど、同時にドキドキもする。
「…落ち着け。落ち着け落ち着け…。美鈴?俺は美鈴が回復したのを確認して気を失った、んだよな?」
「うん。そう。その後私も気を失っちゃって、私も透馬も皆でここに担ぎこまれたんだよ」
「だよな。うん。それはなんとなく理解した。で?美鈴が俺の腕の中にいたのは誰かの悪戯か?」
「うぅん。私が透馬にぎゅーしたかったから侵入しちゃった」
「だ、だよなー、美鈴が自分から入る訳、ってなにをぅっ!?」
透馬。キャラが崩壊して行ってるよ?日本語もおかしくなってるし。へい、カムバック。
「な、なんで自分からっ?」
「透馬にぎゅーしたかったから」
「……美鈴。いいか?男相手にそんな事したら普通は勘違いされるからな?美鈴は鴇達にしなれてるかもしれないが、本来そう言うのは好きな男にすべき事で」
「私、透馬の事好きだよ?」
「……ふぅー…」
何故天井を見上げるかな。私ちゃんと告白したのに。
「一つ、聞くぞ?姫」
む、なんで姫呼び?
「…それは御三家の中で俺が一番好きって事だよな?」
「何で?違うよ。私は、異性の、恋人になりたいって意味で透馬お兄ちゃんが好き。透馬お兄ちゃん、解ってるでしょう?この世界は私がヒロインの世界で、私が恋する相手のルートに入ればその人としかゲームが終わるまでの間は交流が持てなくなるって事」
「……なら、姫は俺が好きなのか?」
「さっきからそう言ってるよね?なぁに?透馬お兄ちゃん。もしかして、私の言葉聞いてなかった、とか?」
だったら怒るよ?既に怒ってるけどねっ!
ずももももっと背後に黒いオーラが漂う。
「なぁに?じゃあもしかして透馬お兄ちゃんは私の事が実は嫌いなの?」
「はぁ?何でそうなるんだ」
「だって、まるで私が恋人になると迷惑みたいな言い方してるし…。確かに私は透馬お兄ちゃんに迷惑ばっかりかけてるけど。今回だってもしかしたら銀細工も作れない程の傷を手につけさせる所だったかもしれないし?恨まれても仕方ないって解ってるけど」
だけどさ、だけど…透馬お兄ちゃんに嫌われてるなんて思いたくないよ…うぅ…。
怒りを通り越してしょんぼりしていると、透馬お兄ちゃんは真っ向からそれを否定してくれた。
「何言ってんだっ。迷惑になんて思った事ねぇよっ」
「……本当に?」
「当り前だっ」
透馬の腕が私の背中に回されて、きつく抱き寄せられた。
「俺は、俺はただっ、一度認めてしまうと二度と離せなくなるから、確認してるだけだっ」
「確認?」
「これだけ惚れた女に好き好き言われて何も感じない奴がいる訳ねぇだろっ!ただ、これで俺の勘違いだったら、泣くになけないって思って、いや、いっそ泣くぞっ!号泣するっ!だから、泣きたくないからっ、確認してるだけだっ!」
ぎゅっと腕に力が籠る。透馬お兄ちゃんの言葉と腕の温かさに知らず笑みが溢れる。
「惚れた女って事は、透馬お兄ちゃんは私の事好きって事で良いんだよね?ね?」
「あぁっ。惚れた女じゃなきゃ誰が命張ってまで助けるかっ」
「透馬お兄ちゃんっ」
嬉しくて私も抱き締める腕に力が入る。
「私も好きっ。大好きっ」
「……やべぇ。これが夢なら覚めないでくれ。このままで良い。いっそ永遠の眠りでも構わねぇわ。今の俺なら鴇にも勝てる」
「鴇お兄ちゃんに挑むなら私も行く。今度こそ勝つ。負けたら噛む」
ふふふふふと二人で怪しい笑みを浮かべて、互いに顔を見合わせてまた笑い合う。
「姫。最後にもう一度だけ聞かせてくれ。本当に俺で良いのか?」
「透馬お兄ちゃんが良いのっ。…って、違った」
「即行で手の平返すのかっ!?」
「うぅん。そうじゃなくて。透馬お兄ちゃんじゃなくて、『透馬』が良い。他の誰よりも『透馬』が良いの」
「…あぁ、そっか。俺達無意識に呼び方戻ってたんだな」
「ふふ。動揺しまくりだね。私達」
「だな。……まぁ、うん。俺も『美鈴』が良い。『美鈴』が好きだ」
柔らかい微笑みを浮かべて、透馬は私を優しく抱きしめてくれた。
透馬の言葉が嬉しくて。
どちらからともなく、瞳を閉じて、顔を近づける。
透馬の髪が私の額に触れて、吐息を感じるほどで。
唇が触れる―――その時。

「鈴先輩ーーーーーっ!!透馬兄ーーーーーーっ!!無事ですかーーーーーっ!!」

盛大な勢いで障子戸が開かれて、海里くんが飛び込んできた。

「ふみゃあああああっ!!」

負けない大声で私が透馬の後ろに隠れたのは言うまでもない。
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