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最終章 数多の未来への選択編

第三十二話 純粋な片翼、夏に芽吹く恋

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目を覚まして、視界に映ったのは見知らぬ天井。

一体ここは何処ーーーっ!?

天井は木っ!床は木っ!ドアも木っ!
完全に私の部屋じゃないっ!!

ここは何処ーーーーっ!?

……や、待て私。落ち着け、私。
まず確認すべきは、私の存在だよね。だって、確かに私の視界には天井が映ってるよ?ただね?近すぎだよね?
手を伸ばせば、触れそう。
ほーら、手を伸ばして…そうすれば手がすり抜けて…えええっ!?
手が、腕が透けてるーっ!?
なぁーんだ、私今幽体なんじゃーん、納得………出来る訳ねぇわっ!!
ふみーーーっ!!
どゆことーっ!?
ここどこなのーーーっ!?
私死んだのーっ!?
……もう一度、落ち着け私。心を落ち着けて。くるっと体を反転させてみよう。
あれ…?ベッドに誰か寝てる?
誰だろう?あの女の人。金髪ウェーブ?かかっている毛布越しにも凄くスタイルが良さそうなのが解る。顔見えないけど、きっと美人さんなんだろうなぁ。
あれ?って事は、私不法侵入してるの?この女性の部屋に?
突然部屋に浮いてるって事?それはどうなのー?
ここが何処かは今一まだ理解出来てないけど、雰囲気的に、なんだろう。こう…古代ギリシャ建築、って言うのかな?中世より前の…そうそう、例えて言うなら漫画とかで見る異世界物の神々の時代、見たいな、ギリシャ神話、見たいな感じだ。
よしっ。折角の幽体なんだから、この部屋から出て周辺を調査してみようかな。
ここにこうして浮いているだけじゃ何も解決しないしねっ!
っと、これどうやって動くんだろう?手足は動かせるんだけど、移動となると話は別だよね?
空中歩いてみる?
浮かんでるんだし歩くと言うよりかは泳ぐ?
思考錯誤の上、どうにか移動感覚を掴み、私は上昇してみる。
案の定天井をすり抜けて、外に出た。キョロキョロと辺りを見渡してみる限り、私の想像は案外間違いではなかったみたい。
木より石や岩が多い。
一般的な家は木で。公共の建物は石を削って建てられている。
さて。どうしようかな?
私は何処に行ったら良いんだろう?
状況は掴めないけど、私は俯いて自分の姿を確認する限りは、美鈴であることは確かなようだった。壁とかはすり抜けるけれど、自分には触れる事が出来る。だから髪を引っ張って確認したらと金色のふわふわが見えて尚更確実性を得る。
となると、
「私は白鳥美鈴です」
うん。日本語を話している。これも問題ない。うん。やっぱり私は今『美鈴』な事は間違いない。
自分の確認はおっけー。じゃあ次は、ここがどういう世界なのか、確認しよう。移動はもう問題ないから、よいせっとー。
体をふよふよと動かして、人がいるであろう声がする方に向かう。すると石畳の公園へと辿り着いた。噴水もある。あれどんな仕組みで動いてるんだろう?機会とかポンプとかはなさそうな世界なんだけど…。
あ、掲示板?みたいな場所がある。いこいこー。
何人かの見ている人がいる。白の布を腰で縛るような服…何て言うんだっけ?キトン…だったかな?本来は麻布なんだろうけど、あれは違うっぽい。
皆色白だなぁ…。白人が多いのかな?金髪碧眼がここでは普通みたいだね。
っといけない。掲示板を見るんだった。
えーっと………うんっ、読めないっ☆
これは予想通りだから良いとして。さて、ちょっと人々の会話に耳を傾けてみようか。
ふよふよと掲示板の前に立っている二人の男性の会話を盗み聞く。

「※※※※※※※※※」
「※※※※※※※※?」
「※※※※※ー?」

うんっ、さっぱり解らんっ!地球上の言語であれば何であれ解りそうなものだけど。全然わっかんねーっ☆
……もっと解りやすい所に行こう。言葉がはっきりと解るような行動をしている人を探そう。
とりあえず今私に必要なのは、私が見える人間を探す事、もしくは私と同じような境遇の幽体を探す事。幽体の方だとあんまり良い印象がないから出来れば私を視認出来る人を探したい。
その為にも、まず言葉を理解しなければ。探すにしても何にしても必要なのは情報。情報は言語から始まる。
ふよふよと移動する。行くなら何処が良いだろう?
食堂とか衣料品店とか?でも、正直ここにそんなお店があるのか解らない。だとしたら…噴水の側でどうだろう?
絶対いるよね、女子が。待ち合わせとか、水に自分を映してたりとか。その人達だったら、どんな会話をしているか予想はつく。そこから言葉の意味を導き出そう。
噴水の側に行って、その噴水の淵に座る。お誂えむきにカップルがいる。会話に耳を澄まし、行動を観察する。

「ウアイン?」
「ウアインオユ」
「イイヘシェレウッ!」

……意識して聞いてみると大体の想像はつくね。女の子の方が髪に触れて小首を傾げてた。しかもその髪には髪飾り。となると、

『似合う?』
『似合うよ』
『嬉しいっ!』

みたいな事を言っていると思われる。ふむ。もう少し、聞いてようかな。

「アッ、エチムエチムッ!」
「エロドゥ?」
「※※※※ッ!!」

はえーっ!興奮して早口言葉になったのか、聞き取れなかったっ!
でも最初の方は想像ついたぞっ。彼女はエチムエチムと言いながら空を指さしてた。そこには鳥が飛んでて、彼氏にそれを見せたかったんだろうと。だとしたら、【エチム】というのは【見て】って意味だと思う。
うんっ!知りたかった言葉ゲットっ!!
後は見える人を探して、自分を指さしてエチムと言えば自分が見えてるかどうか確認出来るっ!探そうっ!これで本当は【エチム】って【鳥】って意味だったら泣こうっ!
何処飛んだら良いかな?幽体が見える人間の立場って大きく分けて二通りだと思うんだよね。
【神様的な超人扱い】か【悪魔的な呪われ人扱い】の二通り。前者だとしたら、神殿系の建物にいる可能性が高い。逆に後者なら人がいない、立ち寄らないような場所にいるはず。
でどちらに行くか…なんだけど。神殿ってある意味危険だと思うんだ。下手すると浄化されて消えそうじゃない?私。何せ幽体。何も解らない状態で消されても困る。
という訳で、人気のない所へゴーゴーッ!
移動して、ガンガン移動して。
誰もいなさそうな森の中へ辿り着いた。幽体だから獣に襲われたり、男に襲われたりって心配がないから良いねっ!
森と言ってもお日様の光が入るような場所だから、そんなに問題もなさそうだし。
あれ?男の人が歩いてる。金髪ふわふわ髪の男の人。それを一つにまとめてる。なんか私のふわふわ具合にそっくり。
そーっと近づいて…うわっ!?
急に振り返ってこっちをガン見してるっ!?
え?もしかして、私が見えてるっ!?見えてないっ!?どっちっ!?
あ、そうだそうだっ!
自分を指さして、
『エチムッ?』
「??」
あれ?反応がない?見えてない?じゃあ私の後ろを見てるって事かな?でも目線はあってたよね?あれ?
きょろきょろと周りを見ると、
「ふっ…あははっ」
男性が突然笑いだした。どゆこと?脳内異常者?
「※※※?」
言ってる事が分からん。…ふみみ?
「※※※?」
何か言ってるのは解るんだけど、何を言っているのかが解らない。それに私に言ってるのかもわからない。
首を傾げると男性も何故か首を傾げ、一言、二言、声を発したら首を捻って、また一言、二言発する。そして、それを数回繰り返して、突然―――。
「これなら通じるかい?」
日本語っ!?うそっ!?
目を見開いて、驚きを現していると、彼は首を捻って、また何やら呟いている。もしかして、彼は色んな言語を試して通じるか試みてくれてたんだろうか?
じゃあ私驚いている場合じゃないじゃないっ!
空中にて正座して、挙手をしながらハッキリと。
『通じますっ!』
宣言すると、今度は彼が驚いて目をぱちくりさせた。
『さっきの言葉通じてますっ!』
「この言葉かい?」
『はいっ!』
「成程。という事は【彼】と同じ世界から来たのか。客が来るのは毎度の事だが、今日はまた珍しい事がおきたものだね」
『ふみ?』
同じ世界?何を言ってるのか、今度は意味が理解出来ない。
「…とりあえず、ここにいたって何も出来ないだろ?おれに付いてくると良い」
確かにここにいて首を傾げているより、話が通じている人間について行った方が何かと情報得る分にも得だね。
男の人だから、なるべく距離をとっておこう…。触れないとは思うけど、話が通じていたり私が見えてる地点でもしかしたら触れる可能性だってあるかもしれないから。
歩きだした彼の後ろをふよふよと浮かびつつ追い掛けた。
辿り着いたのは、ひっそりとした森の中に建つ、小さな小屋。彼はここに住んでるのかな?
ドアを開けて、彼は「ただいまー」と入っていく。私は幽体だからドアを開ける必要がないので、そのまま窓をすり抜けて中に入る。
おお、便利だ。

――ドンッ。

『ふみっ!?』
何かにぶつかったーっ。
……うん?ぶつかった?今幽体なのに?一体何にぶつかったの?
壁すり抜けた筈なのにぶつかったのは一体?咄嗟に閉じた目を開けてみると、そこには黒い何かがあって。
『ふみ?』
『……鈴?』
この声、もしかしてっ!?
バッと頭を上げると、そこには振り返って私を見て驚く棗お兄ちゃんの姿があった。って事は私がぶつかったのは棗お兄ちゃんの背中?いや、そんな事よりもっ!
『棗お兄ちゃーんっ!』
ぎゅーっ!!すりすり、ぎゅーっ!!
はぁ~…私の癒しぃ~……………はっ!?
条件反射で抱き付いちゃったけど、そうじゃないでしょ、私。
手から力を抜くと、棗お兄ちゃんが反転して、ぎゅっ。
あれ?棗お兄ちゃんも抱きしめてくれてる?
『鈴。良かった…無事で。あの状況で、僕だけこっちに来てる訳ないと思ってたから。本当に心配したんだよ』
…あの状況?
そう言えば現状の把握ばっかりに意識がいって、どうしてこうなったのか、全然考えてなかった。
『鈴。もしかして覚えてないの?』
『……実は、どうしてこうなったか、全く…』
『そう…。じゃあ、教えてあげる』
そう言って棗お兄ちゃんがきょろきょろと周囲に視線を巡らせて、森の中で会った彼を見つけて、そちらへ声をかけた。
『リョウイチっ!悪いけど、鈴と合流出来たから少し話してくるっ!』
リョウイチ?彼の名前かな?私のパパと同じ名前だ。
パパと同じ名前の彼は、何やらテーブルで書き物をしていたようだけど、顔を上げて、
「彼女?」
とただそう言って笑ってひらひらと手を振った。
棗お兄ちゃんは何も答えずに私を抱きしめたまま、上昇した。天井をすり抜けて外に出る。
『鈴。どこまで覚えてる?』
『どこまでと言われても…。棗お兄ちゃんはどこまで覚えてるの?』
『大体の流れは全て言えるし、想像がつくよ。少なくとも鈴程の混乱はしてないつもりだよ』
そうなんだ…。
確かに棗お兄ちゃんはパパと同じ名前の彼と既に意思疎通をとって時間は経ってるみたいだった。何気に阿吽の呼吸的な感じだったし。
『棗お兄ちゃんはあの人と何処で?』
『リョウイチの事かい?僕が目を覚ましたのは、二週間前なんだ』
『二週間っ!?そんな誤差があるのっ!?』
『誤差、と言って良いものかどうか解らないけどね。僕が二週間早くこの世界に辿り着いた可能性もあれば、鈴が二週間意識を回復させなかった可能性もある』
『あぁ、そうか。そうだね』
私も棗お兄ちゃんも同時にこの世界に現れた可能性もあるし、時間軸がずれて現れた可能性もあると言う事だよね。だから単に誤差と言い切る訳にはいかない訳だ。
『でもだとしたら、棗お兄ちゃんはこっちの世界の事、色々調べ始めてるんでしょう?何か解った?』
『…正直、大きな情報はない。リョウイチから情報を仕入れてはいるけれど、ほら、この体じゃ仕入れれる情報も限りがある』
『そうだね』
『ただ、これだけは確かだと思う事が一つあるよ』
『それは何?』
『それは僕達の体の事だ』
体?この透け透けの体?
『僕達は幽体だ。という事は、僕達の本体である体はいまだ僕達の世界にあると言う事だ』
『成程。それは確かに』
普通に考えると肉体から精神が切り離されてここにいる訳だから、肉体は元の世界にあると考えた方が良さげだよね。
『でもこっちに体も飛ばされているって可能性もあるんじゃない?』
私が言うと、棗お兄ちゃんは静かに首を振った。
『僕達の本体は多分眠ってるんだと思う』
『眠ってる?』
『そう。鈴。順番に思いだして行こう?昨日僕と鈴は、父さんの書斎の整理をしていたよね?』
誠パパの書斎の整理?……あ、あー…そうだ。思い出してきた。
昨日は確か…。
自分の記憶を辿りながら、私は静かに棗お兄ちゃんの話を聞いた。

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