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最終章 数多の未来への選択編
※※※(誠視点)
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大学からの帰り道。実家への道を歩いていた。
親が財閥の総帥と言えど、私には関係ない。誘拐も喧嘩も似たようなもので。そこそこ強かった私は一人道を歩いていても全く問題なかった。
そして、自分以外の人間を守る事も、問題なかった。一人ならね。さしあたって私が守るべきは一人だけ。
「澪」
「何よ、バカ兄」
打てば響く、とはこういう事だろうか?
…ちょっと言葉の使い方は違うかもしれないが、だが、澪を呼ぶと必ずこう返ってくる。この呼ばれ方にもともと違和感はなく、あっという間に慣れてしまった。
「前から聞きたかったんだが。君と私は大して年の差はなかったはずだよな?なんで兄なんだ?普通なら婚約したって事で旦那扱いだろう?」
「えー?なんでって言われてもね。バカ兄の顔見たら、こう呼ぶしかない、って思ったんだよね」
「なんだ、それは」
「んー…、ま、いいじゃない。別に迷惑してる人がいる訳でもなし」
「……私が迷惑してるとは考えないのかい?」
「え?バカ兄はもとより計算に入ってないよ」
「酷いな」
にやりと笑う澪に苦笑で返す。
父さんが連れてきた彼女に、既に敵う気がしない。
「しかし、今日の呼び出しは一体なんなのか」
「顔見せって聞いたけど?」
「顔見せって。澪の?父さんが連れてきたのに今更顔見せが必要かい?」
「はて?」
澪が首を傾げる。釣られて私も傾げてしまう。
だが実際、今日何でここに呼び出されたのか、解らない。こういう呼び出しは昔からあるが、その時の用件が真っ当だった事はない。
眉間に皺が寄る。
すると、そこを人差し指でどつかれた。地味に痛い。
「澪?」
「大丈夫よ。何があっても私が守ってあげるからっ!」
……澪。それは男である私のセリフでは?
「私の婚約者には指一本触れさせないわっ!」
「…うん。本当、頼りになるな。私の婚約者は」
ドヤァッと胸を張る澪を可愛く思いつつ、私は家のドアを開けた。自宅のドアだから何遠慮する事はない。
中へと入って真っ直ぐにリビングへと向かう。念の為に澪は私の後ろにいて貰う。
リビングの前につくと、何やら話し声が聞こえた。一体何をもめているのやら。頼むから巻き込まないで欲しい。
はぁ…。
とっとと終わらせて澪を送り届けよう。
ノックもせずにドアを開けると、そこには両親、兄姉以外に金山さんと弁護士がいた。
「一体何の騒ぎなんです?父さん、母さん、兄さん達」
声をかけると、皆こちらに視線を集め沈黙した。
そこで黙られるのも困るんだが。
どうせ騒ぐのなら、私の言葉も聞かないくらい騒いでくれないものか…。
大体いつもはこちらを無視して騒ぐ癖に何故今日に限って、黙る?
「おぉっ、帰ったか。誠、澪さん」
「ただいま、父さん」
「お邪魔致します。お義父様」
並んで中へ入ると、私達の背後で金山さんがドアを閉めてくれた。
「それで、一体何の騒ぎなんですか?」
中途半端に聞くと面倒だから、直球勝負でサッパリと聞いてしまう。
「なに、簡単な話だ。白鳥財閥の後継者を選ぼうと思ってな。末っ子の誠も無事婚約し、大学に入った事だしな」
…また、面倒なことを言いだしたな。
けど今聞いた父さんの言葉に、リビングが何故こんなにも騒がしかったのか、納得がいった。
「…それで?一体誰が継ぐんだい?」
私が、言った瞬間。
「継ぐのは当然長男の私だろうっ」
「何言ってるのっ!?この家は昔から女が継いで来てるのよっ!なら当然私でしょうっ!」
「こんな馬鹿な兄さんと姉さんになんて任せてられないだろ?俺が継ぐよ」
「ふざけないでっ!二治に継がせる位なら私がっ!」
「一典兄さん、園江姉さん、二治兄さん、珠美姉さん。落ち着いて。兄さんや姉さんには少し荷が重いんじゃない?私が責任もって継ぐわよ」
「いやっ、多恵姉さんっ!俺がっ!」
…正直、誰が跡継ごうが変わらないと私は思う。思うんだが…世の為人の為にも止めといた方がいいか?
「……ねぇ?バカ兄?」
「?、どうかしたかい?澪」
「バカ兄は継ぐ気ないの?」
ド直球な問いかけに、一瞬言葉を失う。継ぐ気があるのか、ないのか。その二択で言うなら…。
「澪には悪いが、ハッキリ言って継ぐ気はない」
政略結婚で、澪の両親は自分より上の家に嫁がせた訳で。色々利用価値があると思って娘を差し出したとは思う。だが私には跡を継ぐ事も白鳥の財産にも一切興味がない。
「母さんはきっと継いで欲しいと思ってるだろうが、正直私にはその気がないんだよ」
「何故?」
「……見て、解らないかい?」
そう言いながら私は顎で目の前の光景を示した。
醜く言い争って、しかもそれを優越そうに父さんが眺めているのがまた腹立たしくなる。
この家の人間は誰もかれも自分の事しか考えていない。当然、私もだ。だから腹立たしくはなれど、それを口に出すつもりはない。
そんな私の気持ちを正確に読み取ったのか、澪は小さくため息を吐いた。
「…まぁ、お金持ちの家は何処も一緒よね。けどまぁ、私に悪い何て思わなくても良いわ。私、バカ兄と婚約したと同時に家族の縁、切ったから」
「はっ!?」
さらっと予想外の事を言われて、思わず横に立つ澪をマジマジと見てしまった。
「澪、一体何を考えてっ」
「バカ兄が跡を継ぐ気がないなら丁度良かった。私と一緒に庶民の暮らししましょうよ。そっちの方が幸せになれそうだし」
腕を組んでうんうんと勝気に頷く澪に開いた口が塞がらない。
庶民になる?澪と二人で?
素直に驚いたけれど…良いかも知れない。
父さんとの約束を反故にした事にはならないし。明子を助ける際に父さんと交わした約束は、『父さんが連れてきた人間と婚約する』ことだったから。
「バカ兄なら家族一つ養うくらいどうってことないでしょ?……期待してるわよ、誠」
にやりと笑って言う澪。
そんな澪の反応に私はつい苦笑してしまう。
「そんな風に言われたら、出来ないなんて言えないじゃないか。…ちゃんと君も、そしてこれから出来るであろう家族も養ってみせるさ」
肩を抱き寄せると、澪もすんなりと私に身を寄せてきた。
さて。そうと決まったら。
「兄さん、姉さん。私は白鳥の相続権を放棄する。後は勝手に決めてくれ」
断言した。
これ以上ここにいても何の意味もない。
父さんは何かしら叫んでいたが、家を出ると決めた私と澪は一切気にすることなく家を出た。
そう。この日を境に私は言葉通り家を出たのだ。
学生時代にアルバイトをしてコツコツ貯めていたお金でマンションの一室を借り、そこで澪と二人暮らし始めた。
同棲の期間を経て、澪と結婚し、その一年後に鴇が産まれる。
…鴇は本当に手のかからない子で。あっという間に五年の月日が過ぎた。
そんなある日。
私の下へ、再び白鳥家の全員招集がかかった。
その届いた手紙をテーブルの上に置き、私はただ面倒だなと手紙を睨みつけていた。
「…父さん。これ誰からの手紙?」
五歳時が何故こんなにもしっかりと喋れるのか。それはもう家の子が優秀過ぎるからだと納得済。だが、それ以上にその質問をされた事に驚き私は鴇を見た。優秀過ぎて色々気付いているんではないかと内心ドキドキものである。
すると鴇は純粋に疑問に思っただけだったのか、首を傾げていた。
「…私の父からの手紙だよ」
「父さんの父?祖父さん?」
「あぁ、そうだ」
「たしか、父さんは白鳥財閥の相続権を放棄したんだよな?」
…そら恐ろしい子もいるものだ。五歳で相続権の事を知ってるとは…。私は話した覚えはないのに…。
「父さん。聞いた事なかったから聞く。父さんって一人っ子?」
「いや。九人兄弟だ」
言うと、鴇以上にお茶を運んできた澪が驚き目を丸くしていた。
「九人?八人じゃなくて?」
「澪。知らなかったのか?」
「知らないわ。だって、あの時あの場所にいたのはあなた込みで八人だったじゃない」
あの時と言うのは、私達が家を出た時の事だろう。だとするならば確かにあの時は私を含めて八人しかいなかった。間違えて覚えても仕方ない、か。
「九人だ。あの場にいなかったのは、文美(ふみ)姉さん。私の一つ上の姉さんで、私にとって唯一姉弟と認めている姉だ」
「そう、なの?」
「あぁ。私の兄弟が皆母親違いだって事は知っているな?」
「えぇ」
「私の兄弟は上から順に、一典(かずのり)、園江(そのえ)、珠美(たまみ)、二治(つぐはる)、多恵(たえ)、勢津子(せつこ)、三郎(さぶろう)、文美(ふみ)だ。その中で『一典兄さんと多恵姉さん』『珠美姉さんと三郎兄さん』は母親が一緒だ」
「…初めて知ったわ。ぶっちゃけて言えば、私、自分家族が幸せであればばそれだけで幸せで旦那の家族って興味ないものっ!」
澪らしい。昔から興味のあるものとないものの区別がハッキリしている。
「それでいなかったのは文美さんなのは解ったけど。どうしてあの場にいなかったの?」
「…多分、呼ばれなかったんだろう。他の兄姉と文美姉さんは一つ違う所があるんだ」
「違う所?」
「…文美姉さん以外の兄姉は父さんと相手の女性と『合意の上』で出来た子だ。だが、文美姉さんは父さんが『無理矢理手を出した家政婦の子』だ」
「うっわ、最低」
「屑だな」
五歳時に屑と言われる祖父。事実だから仕方ないが。だが、その所為か知らないが、母さんは文美姉さんにだけは同情して、血の繋がっている私よりも優しく接していた。父さんに無理矢理孕まされた家政婦と母さんは仲が良かったと聞いた。多分それも優しく接していた理由に含まれているだろう。
「父さんとしては認知したくないんだろう。だが、母さんが大事にしているから認知しざるを得ない。だから文美姉さんは高校卒業してすぐに家を出たんだ。それから家には一度も帰って来ていない」
「じゃあ父さんも会ってないのか?」
「いや。私は時々様子を見に行ってるよ。父さんにばれないように籍は入れてないが結婚もしている。これを白鳥家で知ってるのは母さんと私だけだ」
「そう。じゃあ今は幸せなのね?」
「あぁ。いつ会いに行っても笑顔で出迎えてくれるよ」
私が笑顔で二人に言うと、二人も嬉しそうに微笑んでくれた。
「それで?話を戻すけど、実家に行くの?」
「断るつもりでいたんだが…」
どう断るべきか。毎度毎度こうやって手紙を寄越される度に、断りの文言を考えるのがいい加減面倒だ。いっそ電話で済ませてしまおうか…。それとも金山さんに…。
「ねぇ、あなた?」
「うん?」
「私ね。何か嫌な予感がするのよね。今回は実家に帰ってみない?」
「え?」
「…私の嫌な予感ってあたるのよ。今、あなたから文美さんの話を聞いた途端、胸がずっとざわついてるの」
予感、か。何故か解らないが、私は澪のその言葉に逆らう気が起きなかった。むしろ、すんなりと納得してしまったのだ。
「分かった。なら行こう。…明後日、日曜日だな」
出来る限りの対策を取って行こう。澪が胸騒ぎがすると言っただけだ。何もないならそれでいい。だが何かあってからじゃ遅いんだ。
しっかりと準備を整えて。
明後日。
私達は実家へと向かった。
何年かぶりの実家は以前と変わった様子など無く、いつも通り居心地の悪い空間のままだった。
玄関のドアを開けて、中へ入る。
「鴇。念の為に私の側を離れるなよ」
「分かった。母さんと手繋いでおく」
私の側にいろって言ったのに…父さん泣いちゃうぞ?
澪と鴇はしっかりと手を繋ぎ合い、私の後ろを付いてくる。
家を出た時と同様に、私達はリビングへと入った。
相変わらず無駄に広いリビングで、ソファにどっかりと座りこんでいる父さんとその横でまるで人形のようにニコニコと笑顔を浮かべている母さん。
そして、各々適当な位置についている兄さんと姉さん、そしてその配偶者達。
空気が最悪の中、何でここに皆で固まってるんだ。
「来たか。誠。ふむ。ではこれからお前達に重要な事を言い渡す。遺産相続についてだ」
……は?
まだそんな事言ってたのか?もうとっくに決めたものだと思っていた。
って事は何か?五年以上もずっとそれについて揉めてたのか?馬鹿か?
「お前達は全く協調性がないからな。儂が決めて置いた。良いか。『白鳥総帥の座は、白鳥の血が一番濃い人間に継がせる』っ!!」
白鳥の血が一番濃い人間?
…私じゃないか。冗談じゃない。
私はこの家を出たんだ。継ぐつもりはない。
改めてそう断言しておこう。
「それは…父様の血が濃いという事ですか?それとも母様の血が濃いと言う事ですか?それとも両方?」
勢津子姉さん?
私が口を開く前に勢津子姉さんが父さんを問い詰めた。
だが父さんはその様子を疑問にも思わず、
「勿論、総帥である私の血が優先だ」
そう言ってのけた。すると勢津子姉さんの顔が嬉しそうに、けれど醜く歪んだ笑みを浮かべる。
「……父さん。父さん」
くいくいっと手を引っ張られた。誰だと悩む必要もなく鴇だと気付き、そちらを見ると鴇は目を細め勢津子姉さんを睨んでいた。
「…あの伯母さん。お腹、大きくなってないか?」
「勢津子姉さんの腹?」
言われてみれば確かに。
元々ふっくらしていた姉さんだが、あんなにお腹は出ていなかったはず。
という事は義兄さんの子を宿していると考えるのが妥当なのだが…。
ふと横に立っている澪の方へと見てみると、澪が誰かを睨みつけている。
あれは、一典兄さんか?
―――ッ!?
驚き一瞬息を呑む。
…何で勢津子姉さんの腹を見て笑っている?それも勢津子姉さんと同じような笑みを…。
澪の言う嫌な予感ってのはこれかっ?
兄妹で?跡を継がせる為に子を作ったって言うのかっ!?
「……気分が悪い。帰るぞ、澪、鴇」
自分の兄姉がここまで馬鹿だったとは思わなかったっ。
リビングの外で控えていた金山さんに帰ると告げ急いで家を出た。こんな空間に長々といられる程、私は異常者じゃない。
家へと帰った後。
何度も実家から電話や手紙が届いたが全て無視した。
澪も鴇も何か異常さを感じたのか、私のやる事に異議を唱える事はなかった。
その後は私も安定した職に付き、引っ越した事もあり電話や手紙に悩まされる事もなくなり平穏無事な生活を手に入れる事が出来た。
そして、私はあの時あの場で対処し無かった事を後悔する事になる。
また数年の月日が流れ、葵と棗が産まれた。
平和な日常に、実家の事など忘れかかったある日。
私の携帯が予想もしなかった人物からの連絡で鳴り響いた。
その日はたまたま休日で、家族で昼食後の団欒を楽しんでいた所だった。
電話の相手は、文美姉さんで。私は躊躇う事なく電話に出た。
「もしもし?文美姉さん?」
『……………誠?』
小さく小さく蚊の鳴くような声で、
『お願い…お願い、助けて…っ』
助けてと、ただそれだけを繰り返して姉さんは泣いていた。
勿論、助けない訳がない。
「今、どこにいる?」
『………実家、…きゃあああっ!!』
「姉さんっ!?文美姉さんっ!?」
―――ブツッ。
通話が、切れたっ?
駄目だ。今は一刻も早く姉さんの所へ向かわないとっ!
「澪っ」
「分かってるっ!はいっ、これっ!!」
私が電話をしている間に全てを察した澪が車のキーを渡してくれた。
ほんとに有難い。
キーを受け取って、戸締りだけはしっかりしておくよう言い残して、私は車に飛び乗り走らせた。
姉の無事を祈りながら走らせていると、
「無事でいてくれよっ、姉さんっ」
「伯母の無事も大事だが、安全運転も大事だぞ、親父」
「あ、あぁ。そうだな。身を守る仕事の人間が違法を犯す訳にはいかないな…って鴇っ!?」
何で後部座席に鴇が乗ってるんだっ!?
「おふくろに積まれた」
「積まれたって荷物じゃあるまいし」
「戻ってる時間もないだろ。大丈夫だ。邪魔はしねぇし役に立つぞ?」
事実役に立ちそうだから困る。
鴇に言われたように戻る時間も惜しい。止まる訳には行かず、私は鴇を守る覚悟を決めて実家への道を急いだ。
車を家の前に停めて、鴇と一緒に家へと駆けこむ。
―――バキッ。
「やめてっ!!やめてぇっ!!お母さんっ!!お母さんっ!!」
殴る音と女の子の甲高い悲痛な叫び声が響き渡っていた。
靴を脱ぐのももどかしい。
この際土足でも構うものかっ!
声は何処からっ!?
「親父っ!向こうだっ!あっちの奥っ!!」
鴇が指さした方向は、父さんの書斎かっ!?
駆け出す。
ドアを開けるなんてまどろっこしい事はしないっ!
書斎のドアを蹴破って、目に飛び込んできた光景に一瞬で血が頭に登る。
文美姉さんが床に血まみれで倒れて、その上に馬乗りになって一典兄さんがもう既に気を失っている姉さんを殴りつけていた。
これで怒らない訳がないだろっ!
『俺』は全力で一典兄さんを殴り飛ばした。
普通の人より力が強い事は自覚している。だが手加減なんて出来なかった。
顔面を殴りつけた事により、吹っ飛び本棚に体をぶつけ、二段階の衝撃で一典兄さんは気を失う。
一典兄さんの事はどうでも良いか。
それよりも、姉さんだっ!
「姉さんっ!文美姉さんっ!!大丈夫かっ!?」
「親父っ!救急車呼んどいたぞっ!」
「鴇っ、応急処置するっ!金山さんに聞いて救急セット持ってこいっ!!」
「了解っ!!」
鴇が前もって呼んでいてくれたお蔭で、救急車は直ぐに到着し姉さんを病院へと運んでくれた。
騒ぎを聞きつけ、パーティから急ぎ帰宅した母さんが金山さんと共に病院へと向かってくれる。
「お、母さん…。良かった、良かったぁ…」
そこでやっと俺は彼女の存在に意識を向けた。
後ろから羽交い絞めにされている彼女に。羽交い絞めにしているのは、勢津子姉さんか…?
「勢津子姉さん。何している?その子をいい加減に離せ」
「あ、姉の私に口答えする気」
「黙れっ!俺に殴られたくないならその手を離せっ!」
「ヒッ!?」
睨みつけただけで、怯えた勢津子姉さんの腕からその子が急いで逃げてきた。それを鴇が背後に庇う。
「父さん。これは一体どう言う事だ?何故、文美姉さんが殴られている?何故年端もいかない文美姉さんの子が頬を赤く腫らせて泣き叫んでいるっ!?」
鴇ごとその子を守る為に前へと一歩踏み出す。
「お前には関係ない。跡を継ぐ気がない人間は白鳥にはいらぬ。出て行け」
「良くもまぁ、そんなセリフを白々と…っ。人を一人っ!しかも自分の娘を殺しかけてるんだぞっ!!俺はこんな奴の血を引いているのかっ!?白鳥の血の何が尊いんだっ!!こんな腐った連中の何がっ!!」
「親父、落ち着け」
鴇が俺の手を引っ張った。だが、怒りは収まらない。
「子供が口を出すなっ!!」
そう八つ当たりの様に叫んでしまったが、
「親父。落ち着け。その子供の俺じゃない方が、青い顔して今にも倒れそうだ」
鴇の言葉にハッと我に返る。
振り返ると確かにその女の子は青い顔をして、荒い呼吸を繰り返していた。
すぐにこの子も病院に連れて行かなければ。…だが。
「鴇。この子を俺の車に連れて行け」
「分かった」
どうしても、腹の虫が収まらず。
俺は全力で親父を殴り飛ばして、鴇の後を追った。
車を走らせ病院へ向かい、看護師達にその子を預けて『私』と鴇は先に処置の終わった文美姉さんの下へと向かった。
病室の前には母さんの姿があったが、何故か病室へ入ろうとはしない。
入れないのか?なら私も止めといた方が良いだろうか?
そう思ったのだが、母さんは笑って言った。
「……目を覚ましたみたいよ。私はやる事があるから、誠。貴方が代わりに話してあげて。……私にはまだあの子と話す勇気はないわ」
「母さん…」
そう言って母さんはその場を去った。
残された私と鴇はこのまま帰ったら、確実に澪に怒られると互いに無言で頷き合い病室をノックして中へと入った。
文美姉さんはまだ体を動かせないのか、頭だけこちらを向けてふんわりと微笑んだ。
「誠…。ありがとう、助けてくれて」
「…文美姉さん。すまない。遅くなって…」
「そんなことないわよ。むしろ巻き込んでごめんね。でも紫を助けれるのは貴方しかいないと思って…」
あの子は紫って言うのか。やはり文美姉さんの子なのか?
だが、文美姉さんの子だとして、文美姉さんの内縁の夫には似てないような…?
説明を求め、文美姉さんを見つめると、文美姉さんは微笑みを崩さず、視線を鴇へと向けた。
「……誠の子?」
「うん?あぁ、そうだよ。鴇、挨拶を」
「分かってる。初めまして。白鳥鴇と申します。体は、大丈夫ですか?」
鴇の挨拶を聞いて、文美姉さんは目を見開いて、それからクスクスと笑った。
「やだ…ふふっ…。誠の小さい時にそっくりっ…ふふふっ。痛っ…傷が痛ぃっ…ふふふふっ」
「姉さん…。傷が痛いなら笑わないでくれ」
「だって…ふふっ」
ベッドの脇にある椅子を持って来て私がそこに座ると、鴇が隣に立った。
「……鴇って確か一人目よね?後二人は?」
「葵と棗の事かい?家で澪と一緒に待機してるよ」
「…そう。ねぇ?誠?澪さんに連絡しておいた方が良いんじゃないかしら?きっと心配してると思うし」
「そうか、それもそうだな」
ポケットから携帯を取りだすと、それを鴇があっさりと奪い取った。
「俺がしとく。文美伯母さん、親父と二人っきりで話がしたいみたいだしな」
「そうか。じゃあ頼んだ」
私と鴇のやりとりを聞いて、また笑って痛い痛いと文美姉さんは苦しむ。鴇はそれに苦笑して病室を出て行った。
「何から何まで、誠そっくりね」
「そうでもないさ。たまに澪そのものの時があるしね」
「良いじゃない。強い子に育つわ。………誠。あの子は、紫は無事?」
一気に声のトーンが下がり、言葉が震える。
「今医者に診て貰ってる。顔色が悪かったから私が連れてきた」
「…そう。…あの子は体が弱いから。…あの子…紫(ゆかり)は、私の血の繋がった子じゃないのよ」
「…一典兄さんと勢津子姉さんの子、か?」
妙な確信があった。文美姉さんと義兄さんに似ている気はしなかった。だが、白鳥の血を間違いなく引いている顔でもあった。
文美姉さんは苦笑した。
「やはり、知ってたのね…」
「以前に一度実家に戻った時、あの二人には何かあると思っていた。鴇が勢津子姉さんの腹の膨らみに、澪が一典兄さんの狂った視線に気付いたんだ」
「……そう。勢津子姉さんと一典姉さんが、赤子だった紫を連れて突然私の家に押しかけて来たわ。白鳥の跡継ぎとしてあの子を育てろと。家政婦の子である私には似合いの仕事だろうと。戸惑いはしたけれど、子供に罪はないわ。良子お母さんも私をそう言って育ててくれた。だから私は紫を育てたの。…でも嬉しかったのよ。私は子供の出来ない体で。養子をとろうか悩んでいた時だったから尚更。でもね。とてもとても愛おしい子なの」
「そうか…」
「血が近い人間同士の子。必ずどこかしらに異常が生じる。あの子は心臓に欠陥があるの。…成人出来るかどうか解らないと言われたわ。けれど私はあの子には精一杯人生を楽しんで欲しい。そう思って育ててきた。なのに今日の朝。一典兄さんと勢津子姉さんが乗りこんできて。あの子を連れ出そうと…」
文美姉さんの目尻に涙が流れた。
「義兄さんは…?」
「……去年、亡くなったわ。事故だったの…」
「そうか」
「連れて行かれそうなあの子を追って、実家まで来たけれど…。父さんは聞き耳持たず連れ去ろうとして。私は必死で紫を奪い取って逃げ出して誠に連絡したけれど結局見つかって…」
「文美姉さん…」
涙が何度も目尻を伝う。私は近くにあったタオルで姉さんの涙を拭う。
「ごめんなさい。巻き込んでしまって。弟に助けを求める情けない姉でごめんなさいっ」
「良いんだ、姉さん。良いんだよ…。大丈夫。私達家族はそんなに弱くない。何時でも頼ってくれて構わないから」
謝り続ける姉さんに私は、何度も何度も頼ってくれと支えるからと訴え続けた。
だが、姉さんはその後一切私に助けを求める事はなかった…。
親が財閥の総帥と言えど、私には関係ない。誘拐も喧嘩も似たようなもので。そこそこ強かった私は一人道を歩いていても全く問題なかった。
そして、自分以外の人間を守る事も、問題なかった。一人ならね。さしあたって私が守るべきは一人だけ。
「澪」
「何よ、バカ兄」
打てば響く、とはこういう事だろうか?
…ちょっと言葉の使い方は違うかもしれないが、だが、澪を呼ぶと必ずこう返ってくる。この呼ばれ方にもともと違和感はなく、あっという間に慣れてしまった。
「前から聞きたかったんだが。君と私は大して年の差はなかったはずだよな?なんで兄なんだ?普通なら婚約したって事で旦那扱いだろう?」
「えー?なんでって言われてもね。バカ兄の顔見たら、こう呼ぶしかない、って思ったんだよね」
「なんだ、それは」
「んー…、ま、いいじゃない。別に迷惑してる人がいる訳でもなし」
「……私が迷惑してるとは考えないのかい?」
「え?バカ兄はもとより計算に入ってないよ」
「酷いな」
にやりと笑う澪に苦笑で返す。
父さんが連れてきた彼女に、既に敵う気がしない。
「しかし、今日の呼び出しは一体なんなのか」
「顔見せって聞いたけど?」
「顔見せって。澪の?父さんが連れてきたのに今更顔見せが必要かい?」
「はて?」
澪が首を傾げる。釣られて私も傾げてしまう。
だが実際、今日何でここに呼び出されたのか、解らない。こういう呼び出しは昔からあるが、その時の用件が真っ当だった事はない。
眉間に皺が寄る。
すると、そこを人差し指でどつかれた。地味に痛い。
「澪?」
「大丈夫よ。何があっても私が守ってあげるからっ!」
……澪。それは男である私のセリフでは?
「私の婚約者には指一本触れさせないわっ!」
「…うん。本当、頼りになるな。私の婚約者は」
ドヤァッと胸を張る澪を可愛く思いつつ、私は家のドアを開けた。自宅のドアだから何遠慮する事はない。
中へと入って真っ直ぐにリビングへと向かう。念の為に澪は私の後ろにいて貰う。
リビングの前につくと、何やら話し声が聞こえた。一体何をもめているのやら。頼むから巻き込まないで欲しい。
はぁ…。
とっとと終わらせて澪を送り届けよう。
ノックもせずにドアを開けると、そこには両親、兄姉以外に金山さんと弁護士がいた。
「一体何の騒ぎなんです?父さん、母さん、兄さん達」
声をかけると、皆こちらに視線を集め沈黙した。
そこで黙られるのも困るんだが。
どうせ騒ぐのなら、私の言葉も聞かないくらい騒いでくれないものか…。
大体いつもはこちらを無視して騒ぐ癖に何故今日に限って、黙る?
「おぉっ、帰ったか。誠、澪さん」
「ただいま、父さん」
「お邪魔致します。お義父様」
並んで中へ入ると、私達の背後で金山さんがドアを閉めてくれた。
「それで、一体何の騒ぎなんですか?」
中途半端に聞くと面倒だから、直球勝負でサッパリと聞いてしまう。
「なに、簡単な話だ。白鳥財閥の後継者を選ぼうと思ってな。末っ子の誠も無事婚約し、大学に入った事だしな」
…また、面倒なことを言いだしたな。
けど今聞いた父さんの言葉に、リビングが何故こんなにも騒がしかったのか、納得がいった。
「…それで?一体誰が継ぐんだい?」
私が、言った瞬間。
「継ぐのは当然長男の私だろうっ」
「何言ってるのっ!?この家は昔から女が継いで来てるのよっ!なら当然私でしょうっ!」
「こんな馬鹿な兄さんと姉さんになんて任せてられないだろ?俺が継ぐよ」
「ふざけないでっ!二治に継がせる位なら私がっ!」
「一典兄さん、園江姉さん、二治兄さん、珠美姉さん。落ち着いて。兄さんや姉さんには少し荷が重いんじゃない?私が責任もって継ぐわよ」
「いやっ、多恵姉さんっ!俺がっ!」
…正直、誰が跡継ごうが変わらないと私は思う。思うんだが…世の為人の為にも止めといた方がいいか?
「……ねぇ?バカ兄?」
「?、どうかしたかい?澪」
「バカ兄は継ぐ気ないの?」
ド直球な問いかけに、一瞬言葉を失う。継ぐ気があるのか、ないのか。その二択で言うなら…。
「澪には悪いが、ハッキリ言って継ぐ気はない」
政略結婚で、澪の両親は自分より上の家に嫁がせた訳で。色々利用価値があると思って娘を差し出したとは思う。だが私には跡を継ぐ事も白鳥の財産にも一切興味がない。
「母さんはきっと継いで欲しいと思ってるだろうが、正直私にはその気がないんだよ」
「何故?」
「……見て、解らないかい?」
そう言いながら私は顎で目の前の光景を示した。
醜く言い争って、しかもそれを優越そうに父さんが眺めているのがまた腹立たしくなる。
この家の人間は誰もかれも自分の事しか考えていない。当然、私もだ。だから腹立たしくはなれど、それを口に出すつもりはない。
そんな私の気持ちを正確に読み取ったのか、澪は小さくため息を吐いた。
「…まぁ、お金持ちの家は何処も一緒よね。けどまぁ、私に悪い何て思わなくても良いわ。私、バカ兄と婚約したと同時に家族の縁、切ったから」
「はっ!?」
さらっと予想外の事を言われて、思わず横に立つ澪をマジマジと見てしまった。
「澪、一体何を考えてっ」
「バカ兄が跡を継ぐ気がないなら丁度良かった。私と一緒に庶民の暮らししましょうよ。そっちの方が幸せになれそうだし」
腕を組んでうんうんと勝気に頷く澪に開いた口が塞がらない。
庶民になる?澪と二人で?
素直に驚いたけれど…良いかも知れない。
父さんとの約束を反故にした事にはならないし。明子を助ける際に父さんと交わした約束は、『父さんが連れてきた人間と婚約する』ことだったから。
「バカ兄なら家族一つ養うくらいどうってことないでしょ?……期待してるわよ、誠」
にやりと笑って言う澪。
そんな澪の反応に私はつい苦笑してしまう。
「そんな風に言われたら、出来ないなんて言えないじゃないか。…ちゃんと君も、そしてこれから出来るであろう家族も養ってみせるさ」
肩を抱き寄せると、澪もすんなりと私に身を寄せてきた。
さて。そうと決まったら。
「兄さん、姉さん。私は白鳥の相続権を放棄する。後は勝手に決めてくれ」
断言した。
これ以上ここにいても何の意味もない。
父さんは何かしら叫んでいたが、家を出ると決めた私と澪は一切気にすることなく家を出た。
そう。この日を境に私は言葉通り家を出たのだ。
学生時代にアルバイトをしてコツコツ貯めていたお金でマンションの一室を借り、そこで澪と二人暮らし始めた。
同棲の期間を経て、澪と結婚し、その一年後に鴇が産まれる。
…鴇は本当に手のかからない子で。あっという間に五年の月日が過ぎた。
そんなある日。
私の下へ、再び白鳥家の全員招集がかかった。
その届いた手紙をテーブルの上に置き、私はただ面倒だなと手紙を睨みつけていた。
「…父さん。これ誰からの手紙?」
五歳時が何故こんなにもしっかりと喋れるのか。それはもう家の子が優秀過ぎるからだと納得済。だが、それ以上にその質問をされた事に驚き私は鴇を見た。優秀過ぎて色々気付いているんではないかと内心ドキドキものである。
すると鴇は純粋に疑問に思っただけだったのか、首を傾げていた。
「…私の父からの手紙だよ」
「父さんの父?祖父さん?」
「あぁ、そうだ」
「たしか、父さんは白鳥財閥の相続権を放棄したんだよな?」
…そら恐ろしい子もいるものだ。五歳で相続権の事を知ってるとは…。私は話した覚えはないのに…。
「父さん。聞いた事なかったから聞く。父さんって一人っ子?」
「いや。九人兄弟だ」
言うと、鴇以上にお茶を運んできた澪が驚き目を丸くしていた。
「九人?八人じゃなくて?」
「澪。知らなかったのか?」
「知らないわ。だって、あの時あの場所にいたのはあなた込みで八人だったじゃない」
あの時と言うのは、私達が家を出た時の事だろう。だとするならば確かにあの時は私を含めて八人しかいなかった。間違えて覚えても仕方ない、か。
「九人だ。あの場にいなかったのは、文美(ふみ)姉さん。私の一つ上の姉さんで、私にとって唯一姉弟と認めている姉だ」
「そう、なの?」
「あぁ。私の兄弟が皆母親違いだって事は知っているな?」
「えぇ」
「私の兄弟は上から順に、一典(かずのり)、園江(そのえ)、珠美(たまみ)、二治(つぐはる)、多恵(たえ)、勢津子(せつこ)、三郎(さぶろう)、文美(ふみ)だ。その中で『一典兄さんと多恵姉さん』『珠美姉さんと三郎兄さん』は母親が一緒だ」
「…初めて知ったわ。ぶっちゃけて言えば、私、自分家族が幸せであればばそれだけで幸せで旦那の家族って興味ないものっ!」
澪らしい。昔から興味のあるものとないものの区別がハッキリしている。
「それでいなかったのは文美さんなのは解ったけど。どうしてあの場にいなかったの?」
「…多分、呼ばれなかったんだろう。他の兄姉と文美姉さんは一つ違う所があるんだ」
「違う所?」
「…文美姉さん以外の兄姉は父さんと相手の女性と『合意の上』で出来た子だ。だが、文美姉さんは父さんが『無理矢理手を出した家政婦の子』だ」
「うっわ、最低」
「屑だな」
五歳時に屑と言われる祖父。事実だから仕方ないが。だが、その所為か知らないが、母さんは文美姉さんにだけは同情して、血の繋がっている私よりも優しく接していた。父さんに無理矢理孕まされた家政婦と母さんは仲が良かったと聞いた。多分それも優しく接していた理由に含まれているだろう。
「父さんとしては認知したくないんだろう。だが、母さんが大事にしているから認知しざるを得ない。だから文美姉さんは高校卒業してすぐに家を出たんだ。それから家には一度も帰って来ていない」
「じゃあ父さんも会ってないのか?」
「いや。私は時々様子を見に行ってるよ。父さんにばれないように籍は入れてないが結婚もしている。これを白鳥家で知ってるのは母さんと私だけだ」
「そう。じゃあ今は幸せなのね?」
「あぁ。いつ会いに行っても笑顔で出迎えてくれるよ」
私が笑顔で二人に言うと、二人も嬉しそうに微笑んでくれた。
「それで?話を戻すけど、実家に行くの?」
「断るつもりでいたんだが…」
どう断るべきか。毎度毎度こうやって手紙を寄越される度に、断りの文言を考えるのがいい加減面倒だ。いっそ電話で済ませてしまおうか…。それとも金山さんに…。
「ねぇ、あなた?」
「うん?」
「私ね。何か嫌な予感がするのよね。今回は実家に帰ってみない?」
「え?」
「…私の嫌な予感ってあたるのよ。今、あなたから文美さんの話を聞いた途端、胸がずっとざわついてるの」
予感、か。何故か解らないが、私は澪のその言葉に逆らう気が起きなかった。むしろ、すんなりと納得してしまったのだ。
「分かった。なら行こう。…明後日、日曜日だな」
出来る限りの対策を取って行こう。澪が胸騒ぎがすると言っただけだ。何もないならそれでいい。だが何かあってからじゃ遅いんだ。
しっかりと準備を整えて。
明後日。
私達は実家へと向かった。
何年かぶりの実家は以前と変わった様子など無く、いつも通り居心地の悪い空間のままだった。
玄関のドアを開けて、中へ入る。
「鴇。念の為に私の側を離れるなよ」
「分かった。母さんと手繋いでおく」
私の側にいろって言ったのに…父さん泣いちゃうぞ?
澪と鴇はしっかりと手を繋ぎ合い、私の後ろを付いてくる。
家を出た時と同様に、私達はリビングへと入った。
相変わらず無駄に広いリビングで、ソファにどっかりと座りこんでいる父さんとその横でまるで人形のようにニコニコと笑顔を浮かべている母さん。
そして、各々適当な位置についている兄さんと姉さん、そしてその配偶者達。
空気が最悪の中、何でここに皆で固まってるんだ。
「来たか。誠。ふむ。ではこれからお前達に重要な事を言い渡す。遺産相続についてだ」
……は?
まだそんな事言ってたのか?もうとっくに決めたものだと思っていた。
って事は何か?五年以上もずっとそれについて揉めてたのか?馬鹿か?
「お前達は全く協調性がないからな。儂が決めて置いた。良いか。『白鳥総帥の座は、白鳥の血が一番濃い人間に継がせる』っ!!」
白鳥の血が一番濃い人間?
…私じゃないか。冗談じゃない。
私はこの家を出たんだ。継ぐつもりはない。
改めてそう断言しておこう。
「それは…父様の血が濃いという事ですか?それとも母様の血が濃いと言う事ですか?それとも両方?」
勢津子姉さん?
私が口を開く前に勢津子姉さんが父さんを問い詰めた。
だが父さんはその様子を疑問にも思わず、
「勿論、総帥である私の血が優先だ」
そう言ってのけた。すると勢津子姉さんの顔が嬉しそうに、けれど醜く歪んだ笑みを浮かべる。
「……父さん。父さん」
くいくいっと手を引っ張られた。誰だと悩む必要もなく鴇だと気付き、そちらを見ると鴇は目を細め勢津子姉さんを睨んでいた。
「…あの伯母さん。お腹、大きくなってないか?」
「勢津子姉さんの腹?」
言われてみれば確かに。
元々ふっくらしていた姉さんだが、あんなにお腹は出ていなかったはず。
という事は義兄さんの子を宿していると考えるのが妥当なのだが…。
ふと横に立っている澪の方へと見てみると、澪が誰かを睨みつけている。
あれは、一典兄さんか?
―――ッ!?
驚き一瞬息を呑む。
…何で勢津子姉さんの腹を見て笑っている?それも勢津子姉さんと同じような笑みを…。
澪の言う嫌な予感ってのはこれかっ?
兄妹で?跡を継がせる為に子を作ったって言うのかっ!?
「……気分が悪い。帰るぞ、澪、鴇」
自分の兄姉がここまで馬鹿だったとは思わなかったっ。
リビングの外で控えていた金山さんに帰ると告げ急いで家を出た。こんな空間に長々といられる程、私は異常者じゃない。
家へと帰った後。
何度も実家から電話や手紙が届いたが全て無視した。
澪も鴇も何か異常さを感じたのか、私のやる事に異議を唱える事はなかった。
その後は私も安定した職に付き、引っ越した事もあり電話や手紙に悩まされる事もなくなり平穏無事な生活を手に入れる事が出来た。
そして、私はあの時あの場で対処し無かった事を後悔する事になる。
また数年の月日が流れ、葵と棗が産まれた。
平和な日常に、実家の事など忘れかかったある日。
私の携帯が予想もしなかった人物からの連絡で鳴り響いた。
その日はたまたま休日で、家族で昼食後の団欒を楽しんでいた所だった。
電話の相手は、文美姉さんで。私は躊躇う事なく電話に出た。
「もしもし?文美姉さん?」
『……………誠?』
小さく小さく蚊の鳴くような声で、
『お願い…お願い、助けて…っ』
助けてと、ただそれだけを繰り返して姉さんは泣いていた。
勿論、助けない訳がない。
「今、どこにいる?」
『………実家、…きゃあああっ!!』
「姉さんっ!?文美姉さんっ!?」
―――ブツッ。
通話が、切れたっ?
駄目だ。今は一刻も早く姉さんの所へ向かわないとっ!
「澪っ」
「分かってるっ!はいっ、これっ!!」
私が電話をしている間に全てを察した澪が車のキーを渡してくれた。
ほんとに有難い。
キーを受け取って、戸締りだけはしっかりしておくよう言い残して、私は車に飛び乗り走らせた。
姉の無事を祈りながら走らせていると、
「無事でいてくれよっ、姉さんっ」
「伯母の無事も大事だが、安全運転も大事だぞ、親父」
「あ、あぁ。そうだな。身を守る仕事の人間が違法を犯す訳にはいかないな…って鴇っ!?」
何で後部座席に鴇が乗ってるんだっ!?
「おふくろに積まれた」
「積まれたって荷物じゃあるまいし」
「戻ってる時間もないだろ。大丈夫だ。邪魔はしねぇし役に立つぞ?」
事実役に立ちそうだから困る。
鴇に言われたように戻る時間も惜しい。止まる訳には行かず、私は鴇を守る覚悟を決めて実家への道を急いだ。
車を家の前に停めて、鴇と一緒に家へと駆けこむ。
―――バキッ。
「やめてっ!!やめてぇっ!!お母さんっ!!お母さんっ!!」
殴る音と女の子の甲高い悲痛な叫び声が響き渡っていた。
靴を脱ぐのももどかしい。
この際土足でも構うものかっ!
声は何処からっ!?
「親父っ!向こうだっ!あっちの奥っ!!」
鴇が指さした方向は、父さんの書斎かっ!?
駆け出す。
ドアを開けるなんてまどろっこしい事はしないっ!
書斎のドアを蹴破って、目に飛び込んできた光景に一瞬で血が頭に登る。
文美姉さんが床に血まみれで倒れて、その上に馬乗りになって一典兄さんがもう既に気を失っている姉さんを殴りつけていた。
これで怒らない訳がないだろっ!
『俺』は全力で一典兄さんを殴り飛ばした。
普通の人より力が強い事は自覚している。だが手加減なんて出来なかった。
顔面を殴りつけた事により、吹っ飛び本棚に体をぶつけ、二段階の衝撃で一典兄さんは気を失う。
一典兄さんの事はどうでも良いか。
それよりも、姉さんだっ!
「姉さんっ!文美姉さんっ!!大丈夫かっ!?」
「親父っ!救急車呼んどいたぞっ!」
「鴇っ、応急処置するっ!金山さんに聞いて救急セット持ってこいっ!!」
「了解っ!!」
鴇が前もって呼んでいてくれたお蔭で、救急車は直ぐに到着し姉さんを病院へと運んでくれた。
騒ぎを聞きつけ、パーティから急ぎ帰宅した母さんが金山さんと共に病院へと向かってくれる。
「お、母さん…。良かった、良かったぁ…」
そこでやっと俺は彼女の存在に意識を向けた。
後ろから羽交い絞めにされている彼女に。羽交い絞めにしているのは、勢津子姉さんか…?
「勢津子姉さん。何している?その子をいい加減に離せ」
「あ、姉の私に口答えする気」
「黙れっ!俺に殴られたくないならその手を離せっ!」
「ヒッ!?」
睨みつけただけで、怯えた勢津子姉さんの腕からその子が急いで逃げてきた。それを鴇が背後に庇う。
「父さん。これは一体どう言う事だ?何故、文美姉さんが殴られている?何故年端もいかない文美姉さんの子が頬を赤く腫らせて泣き叫んでいるっ!?」
鴇ごとその子を守る為に前へと一歩踏み出す。
「お前には関係ない。跡を継ぐ気がない人間は白鳥にはいらぬ。出て行け」
「良くもまぁ、そんなセリフを白々と…っ。人を一人っ!しかも自分の娘を殺しかけてるんだぞっ!!俺はこんな奴の血を引いているのかっ!?白鳥の血の何が尊いんだっ!!こんな腐った連中の何がっ!!」
「親父、落ち着け」
鴇が俺の手を引っ張った。だが、怒りは収まらない。
「子供が口を出すなっ!!」
そう八つ当たりの様に叫んでしまったが、
「親父。落ち着け。その子供の俺じゃない方が、青い顔して今にも倒れそうだ」
鴇の言葉にハッと我に返る。
振り返ると確かにその女の子は青い顔をして、荒い呼吸を繰り返していた。
すぐにこの子も病院に連れて行かなければ。…だが。
「鴇。この子を俺の車に連れて行け」
「分かった」
どうしても、腹の虫が収まらず。
俺は全力で親父を殴り飛ばして、鴇の後を追った。
車を走らせ病院へ向かい、看護師達にその子を預けて『私』と鴇は先に処置の終わった文美姉さんの下へと向かった。
病室の前には母さんの姿があったが、何故か病室へ入ろうとはしない。
入れないのか?なら私も止めといた方が良いだろうか?
そう思ったのだが、母さんは笑って言った。
「……目を覚ましたみたいよ。私はやる事があるから、誠。貴方が代わりに話してあげて。……私にはまだあの子と話す勇気はないわ」
「母さん…」
そう言って母さんはその場を去った。
残された私と鴇はこのまま帰ったら、確実に澪に怒られると互いに無言で頷き合い病室をノックして中へと入った。
文美姉さんはまだ体を動かせないのか、頭だけこちらを向けてふんわりと微笑んだ。
「誠…。ありがとう、助けてくれて」
「…文美姉さん。すまない。遅くなって…」
「そんなことないわよ。むしろ巻き込んでごめんね。でも紫を助けれるのは貴方しかいないと思って…」
あの子は紫って言うのか。やはり文美姉さんの子なのか?
だが、文美姉さんの子だとして、文美姉さんの内縁の夫には似てないような…?
説明を求め、文美姉さんを見つめると、文美姉さんは微笑みを崩さず、視線を鴇へと向けた。
「……誠の子?」
「うん?あぁ、そうだよ。鴇、挨拶を」
「分かってる。初めまして。白鳥鴇と申します。体は、大丈夫ですか?」
鴇の挨拶を聞いて、文美姉さんは目を見開いて、それからクスクスと笑った。
「やだ…ふふっ…。誠の小さい時にそっくりっ…ふふふっ。痛っ…傷が痛ぃっ…ふふふふっ」
「姉さん…。傷が痛いなら笑わないでくれ」
「だって…ふふっ」
ベッドの脇にある椅子を持って来て私がそこに座ると、鴇が隣に立った。
「……鴇って確か一人目よね?後二人は?」
「葵と棗の事かい?家で澪と一緒に待機してるよ」
「…そう。ねぇ?誠?澪さんに連絡しておいた方が良いんじゃないかしら?きっと心配してると思うし」
「そうか、それもそうだな」
ポケットから携帯を取りだすと、それを鴇があっさりと奪い取った。
「俺がしとく。文美伯母さん、親父と二人っきりで話がしたいみたいだしな」
「そうか。じゃあ頼んだ」
私と鴇のやりとりを聞いて、また笑って痛い痛いと文美姉さんは苦しむ。鴇はそれに苦笑して病室を出て行った。
「何から何まで、誠そっくりね」
「そうでもないさ。たまに澪そのものの時があるしね」
「良いじゃない。強い子に育つわ。………誠。あの子は、紫は無事?」
一気に声のトーンが下がり、言葉が震える。
「今医者に診て貰ってる。顔色が悪かったから私が連れてきた」
「…そう。…あの子は体が弱いから。…あの子…紫(ゆかり)は、私の血の繋がった子じゃないのよ」
「…一典兄さんと勢津子姉さんの子、か?」
妙な確信があった。文美姉さんと義兄さんに似ている気はしなかった。だが、白鳥の血を間違いなく引いている顔でもあった。
文美姉さんは苦笑した。
「やはり、知ってたのね…」
「以前に一度実家に戻った時、あの二人には何かあると思っていた。鴇が勢津子姉さんの腹の膨らみに、澪が一典兄さんの狂った視線に気付いたんだ」
「……そう。勢津子姉さんと一典姉さんが、赤子だった紫を連れて突然私の家に押しかけて来たわ。白鳥の跡継ぎとしてあの子を育てろと。家政婦の子である私には似合いの仕事だろうと。戸惑いはしたけれど、子供に罪はないわ。良子お母さんも私をそう言って育ててくれた。だから私は紫を育てたの。…でも嬉しかったのよ。私は子供の出来ない体で。養子をとろうか悩んでいた時だったから尚更。でもね。とてもとても愛おしい子なの」
「そうか…」
「血が近い人間同士の子。必ずどこかしらに異常が生じる。あの子は心臓に欠陥があるの。…成人出来るかどうか解らないと言われたわ。けれど私はあの子には精一杯人生を楽しんで欲しい。そう思って育ててきた。なのに今日の朝。一典兄さんと勢津子姉さんが乗りこんできて。あの子を連れ出そうと…」
文美姉さんの目尻に涙が流れた。
「義兄さんは…?」
「……去年、亡くなったわ。事故だったの…」
「そうか」
「連れて行かれそうなあの子を追って、実家まで来たけれど…。父さんは聞き耳持たず連れ去ろうとして。私は必死で紫を奪い取って逃げ出して誠に連絡したけれど結局見つかって…」
「文美姉さん…」
涙が何度も目尻を伝う。私は近くにあったタオルで姉さんの涙を拭う。
「ごめんなさい。巻き込んでしまって。弟に助けを求める情けない姉でごめんなさいっ」
「良いんだ、姉さん。良いんだよ…。大丈夫。私達家族はそんなに弱くない。何時でも頼ってくれて構わないから」
謝り続ける姉さんに私は、何度も何度も頼ってくれと支えるからと訴え続けた。
だが、姉さんはその後一切私に助けを求める事はなかった…。
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