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完結後の小話
後日談その三(家族)
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「…報告は以上です」
「…分かった。ここにある内容が全てか?社員の総意って事で間違いないな?」
「は、はい…」
目の前の若い男は社長でも何でもない。なのに何故この場に、白鳥財閥の総帥代理の前にいるのか。
少し考えれば解ることだ。こいつが今持って来たのは報告書だ。多額の負債を出してしまった案件の。
「君は…これで良いのか?」
「…え?」
渡された報告書を机に投げて、椅子の背もたれにゆったりと背を預けた。
「会社の上司が失敗した事を、新人である菅原、君が全ての責任を負ってこれからの人生を棒に振っても良いのか?」
「そ、れは…」
じっと言葉の続きを待つ。だが、やはり新人で若い男は俯き言葉を発する事はなかった。
…当然と言えば当然だ。自分の所の上司より遥か上の上司に会ってる訳だしな。しかもその理由が謝罪と報告。だがこいつは仕事を辞めるではなくきちんと謝罪に来た。それだけ根性があるって事だ。失うには勿体ない新人だ。
俺は言葉を失ったそいつの代わりに言葉を繋ぐ。
「この事案は君の様な新人が請けもてる案件ではない。そんな事は上の人間が一目見れば解る。もし解らないとでも思われていたのなら、…随分舐めた真似をしてくれるな」
「ち、ちがっ」
「分かっている。これは君がやれる上司への復讐だったんだろう?」
「え…?」
ゆっくりとそいつは青褪めた顔を俺へ向けた。
「君の様な人間は貴重だ。失うのは惜しいからな。一つ、君に頼みがある」
「頼み?」
「そうだ。それが出来たなら君をうちで引き抜こう」
「やりますっ!!」
一も二もなく頷くそいつに頷き返す。
「私は一体何をすれば…」
「…君の所の上司を連れて来い。何を言って誤魔化しても俺の立場を利用してでも良い。ここへ連れて来い。…出来るな?」
コクリと頷き、直ぐに踵を返して勢いよく部屋を出て行った。
多分、やり遂げるだろう。自分に失敗の責任を全て押し付けた上司に恨みはあれど同情はないだろうからな。それに、部下に自分の失敗を全て押し付ける様な輩は部下を率いて上に立つ資格はない。
自分でやり返さないと、恨みだけ残り続けるしな。
…さて。菅原を配属させる場所を選んで置かないと、だな。
今、何時だ?
…………………23時?
ちょっと待て?ちょっと待てよ?
今日は何日だ…?
………カレンダーの方から、威圧感を感じる。誰かがいる訳じゃない。忍者は側にいるが、その忍者の気配でもない。
ギギギッと錆びたロボットのように、首をカレンダーへと向ける。
『パパ。明日は早く帰って来てね』
『ぜったいぜったい早く帰って来てね』
数日前からずっと言われて、態々カレンダーに赤丸まで付けていたというのに…やってしまった。
よりによって愛する娘二人の誕生日に時間を忘れて仕事に没頭するなんて…。
と、とにかく電話だ。美鈴に電話してっ、……携帯何処だっ!?
ポケットにも鞄にもないっ。机に置いた記憶もないっ。…やってしまった。どうやら家に忘れてきたらしい…。
はぁ~…、マジか。
代わりの携帯もあるにはあるが、確か充電が…。最悪固定から電話するしか…。
固定電話の受話器をとって電話番号を…080の…。ボタンを押して、コールを待つ。
―――トゥルルルー……ブツッ。
……切られた…。これは、本格的に怒ってるな…。
美鈴は、それこそ前世から怒ると手がつけられない。そして、俺の娘達はそれをしっかりと受け継いで…。
急ぐしかない。仕事用の携帯を取りだして、繋がるまで呼び出し続ける。
呼び出しをかけつつ、鞄に適当に荷物を突っ込んでドアへと急ぐ。まだ今日やらなくてはいけない業務はある。だが、それは明日に回す。今は放置だっ。
ドアノブに手をかけて―――。
―――ガチャッ。
「どーんっ!!」
「どどーんっ!!」
「うおっ!?」
突然ドアが開き、足に何かが突撃して来た。
一体何が…?
「美鶴、千鶴…?」
驚きながらも足に引っ付いている娘の頭を撫でていると、
「どどどーんっ!!」
「うおぁっ!?」
胸に更に突撃を喰らって、後ろに倒れそうになる。
だが、そこは男のプライドとしてぐっと持ちこたえる。
「美鈴。全力で来過ぎだろ…」
「ふみ?そんな事言える立場かな~?」
「うっ……悪かった」
腕の中で美鈴が優しく微笑む。
「パパっ」
「パーパっ」
足に抱き着いて、娘達も幸せそうに笑う。
美鈴がゆっくりと離れてくれたから、俺は足下にいる娘二人を抱き上げた。
「パパー。私達におめでとうはー?」
「パパ、おめでとうはー?」
「パパ、私に産んでくれてありがとうはー?」
「美鈴。お前、ちゃっかり参加してるんじゃねぇ」
むぎゅむぎゅっと娘達が俺の首に抱き付く。昔の美鈴を思い出してついつい笑ってしまう。
「で、何でお前達こんな時間にここにいるんだ?」
「美鶴も千鶴も、パパが帰ってくるまで待つーって言って聞かなかったの」
「成程?…ん?誰に送って貰ったんだ?直ぐに捕まる奴いたか?」
「え?いないよ?自分で運転して来たのー」
「…待て。お前ペーパーだろうが」
「ペーパーでも免許は免許っ」
どやっ。おい、美鈴。美鶴と千鶴が震えてるんだが、一体どんな運転して来たんだ…。
「帰りは俺が運転する」
「えー…私が運転するよー?」
「駄目だ。とりあえず俺に鍵を寄越せ」
「むー。じゃあ私に書類くれる?」
「は?」
「今日は鴇お兄ちゃんの仕事は私が引き継ぐよ~。だから、鴇お兄ちゃんは美鶴と千鶴に構ってあげて。ここんとこ仕事続きで二人共しょんぼりしてるんだから」
言いながら美鈴はさっさと座り慣れた総帥の椅子へと座り仕事をバリバリ始めてしまった。
「パパ、あのね。今度学校で運動会、あるの」
「パパ、来てくれる?」
「あぁ、勿論行く」
「パパ、一位、とれる?」
「楽勝だな」
「パパ、ママと二人三脚出れる?」
「二人三脚?そんな競技があるのか?」
「あるみたいだよー。父兄参観競技って奴。いっそ葵お兄ちゃんと棗お兄ちゃんに出て貰った方が最強な気がするんだけどね」
「確かにな」
暫く娘達と会話を楽しむ。正直滅茶苦茶癒される。
「あ、そうだ。忘れてた」
「美鈴?」
席を立ち美鈴がドアの外へ行って、バスケットを持って戻って来た。
一体何が?不思議に思いつつ美鈴の行動を見守っていると、バスケットの中から等分に切られたケーキが現れた。多分バースデーケーキだろう。
「二人共、鴇お兄ちゃんと一緒に食べるって聞かなくて」
「成程」
美鶴と千鶴。二人と一緒に食べてやりたいのは山々なんだが…。
「………ふみ~……」
「……ふみみ~………」
「時間が時間で、しかも興奮してたからな。疲れて当然だな。…もう眠ってる」
二人を抱っこしたままソファに移動して座って、眠ってしまった二人を膝のうえに座らせる。
ケーキは明日の朝だな。自分の胸に凭れさせるようにして眠らせる。…本当に癒される。
っと、そうだ。忘れてた。
「美鈴。プレゼントだが…」
「あ、うん。ちゃんと届いたよ。二人共滅茶苦茶喜んでたよ~。問題集セット」
「本当なら人形とか、アクセサリーとか買ってやりたかったんだがな」
「ふふっ。前買い物に行って買おうとしたら要らないって言われちゃったもんね」
「それよりも本が良いって本屋に走ったよな。俺達に似て勉強好きになってしまったな」
「だね~。でも下手すると私達より賢いかもよ?」
「確かに。…ははっ。すっかり親バカだな。俺達も」
「やだな~。可愛いんだから仕方ないよ」
「……だな。やっと手に入れた美鈴との子だからな。可愛くて当然だ」
眠ってる二人の頭を優しく撫でる。すると無意識に頭を擦り寄せてくる。可愛いな、ほんと。
「にしても、鴇お兄ちゃん。どんだけ仕事抱えてたの?多くなったら連絡してって言ったでしょー」
「いや、お前だって毎日子育てでぐったりしてるだろうが。ならこっちのフォローは俺が」
「子育てなんてもう何年もやってるんだから大丈夫だよ。この世界に生まれてからほぼずっとやってるんだから」
「それはまぁ、そうなんだが…」
「ママの代わりに旭達を育てたのは私ですっ。それに鴇お兄ちゃんはちゃんと一緒に子育てしてくれてるじゃない」
「当り前だろ。俺と美鈴の子なんだから」
「そう。当り前なの。だから鴇お兄ちゃんと仕事もちゃんと分け合うんだよっ」
どやっと再び胸を張る美鈴に笑って答えながら、愛おしい娘達の頭を撫で続ける。
まぁ、会話の流れ的に佳織母さんの立場がないような気もするが、事実だから仕方ない。
「…美鶴、千鶴。誕生日おめでとうな。それから待っててくれてありがとう。お前達みたいな可愛い娘を持てて俺は幸せだな」
「ふふっ」
美鈴が俺達を見ながら嬉しそうに微笑む。そんな美鈴の手元はえげつない程のスピードで書類を片付けているが…。
「あ、そう言えばさ、鴇お兄ちゃん」
「うん?」
「この間樹先輩が家に来てさー。美鶴と千鶴が樹先輩の所に嫁に行くって騒いでたんだけど」
「………美鈴。金山と親父に刀を持たせろ」
「あ、大丈夫。既に葵お兄ちゃんと棗お兄ちゃんが手配してた」
なら一安心だな。
こんな可愛い俺の子達を嫁に貰おうなんて…それ相応の覚悟をして貰わないとな。
「…ぱ、ぱ……」
「…だいしゅ、き……」
可愛過ぎる…。可愛くて仕方ない。
前世の柵が俺と美鈴を苦しめたが、こんな未来が待っていたのなら戦い続けて良かったと、俺は心の底からそう思った…。
「…分かった。ここにある内容が全てか?社員の総意って事で間違いないな?」
「は、はい…」
目の前の若い男は社長でも何でもない。なのに何故この場に、白鳥財閥の総帥代理の前にいるのか。
少し考えれば解ることだ。こいつが今持って来たのは報告書だ。多額の負債を出してしまった案件の。
「君は…これで良いのか?」
「…え?」
渡された報告書を机に投げて、椅子の背もたれにゆったりと背を預けた。
「会社の上司が失敗した事を、新人である菅原、君が全ての責任を負ってこれからの人生を棒に振っても良いのか?」
「そ、れは…」
じっと言葉の続きを待つ。だが、やはり新人で若い男は俯き言葉を発する事はなかった。
…当然と言えば当然だ。自分の所の上司より遥か上の上司に会ってる訳だしな。しかもその理由が謝罪と報告。だがこいつは仕事を辞めるではなくきちんと謝罪に来た。それだけ根性があるって事だ。失うには勿体ない新人だ。
俺は言葉を失ったそいつの代わりに言葉を繋ぐ。
「この事案は君の様な新人が請けもてる案件ではない。そんな事は上の人間が一目見れば解る。もし解らないとでも思われていたのなら、…随分舐めた真似をしてくれるな」
「ち、ちがっ」
「分かっている。これは君がやれる上司への復讐だったんだろう?」
「え…?」
ゆっくりとそいつは青褪めた顔を俺へ向けた。
「君の様な人間は貴重だ。失うのは惜しいからな。一つ、君に頼みがある」
「頼み?」
「そうだ。それが出来たなら君をうちで引き抜こう」
「やりますっ!!」
一も二もなく頷くそいつに頷き返す。
「私は一体何をすれば…」
「…君の所の上司を連れて来い。何を言って誤魔化しても俺の立場を利用してでも良い。ここへ連れて来い。…出来るな?」
コクリと頷き、直ぐに踵を返して勢いよく部屋を出て行った。
多分、やり遂げるだろう。自分に失敗の責任を全て押し付けた上司に恨みはあれど同情はないだろうからな。それに、部下に自分の失敗を全て押し付ける様な輩は部下を率いて上に立つ資格はない。
自分でやり返さないと、恨みだけ残り続けるしな。
…さて。菅原を配属させる場所を選んで置かないと、だな。
今、何時だ?
…………………23時?
ちょっと待て?ちょっと待てよ?
今日は何日だ…?
………カレンダーの方から、威圧感を感じる。誰かがいる訳じゃない。忍者は側にいるが、その忍者の気配でもない。
ギギギッと錆びたロボットのように、首をカレンダーへと向ける。
『パパ。明日は早く帰って来てね』
『ぜったいぜったい早く帰って来てね』
数日前からずっと言われて、態々カレンダーに赤丸まで付けていたというのに…やってしまった。
よりによって愛する娘二人の誕生日に時間を忘れて仕事に没頭するなんて…。
と、とにかく電話だ。美鈴に電話してっ、……携帯何処だっ!?
ポケットにも鞄にもないっ。机に置いた記憶もないっ。…やってしまった。どうやら家に忘れてきたらしい…。
はぁ~…、マジか。
代わりの携帯もあるにはあるが、確か充電が…。最悪固定から電話するしか…。
固定電話の受話器をとって電話番号を…080の…。ボタンを押して、コールを待つ。
―――トゥルルルー……ブツッ。
……切られた…。これは、本格的に怒ってるな…。
美鈴は、それこそ前世から怒ると手がつけられない。そして、俺の娘達はそれをしっかりと受け継いで…。
急ぐしかない。仕事用の携帯を取りだして、繋がるまで呼び出し続ける。
呼び出しをかけつつ、鞄に適当に荷物を突っ込んでドアへと急ぐ。まだ今日やらなくてはいけない業務はある。だが、それは明日に回す。今は放置だっ。
ドアノブに手をかけて―――。
―――ガチャッ。
「どーんっ!!」
「どどーんっ!!」
「うおっ!?」
突然ドアが開き、足に何かが突撃して来た。
一体何が…?
「美鶴、千鶴…?」
驚きながらも足に引っ付いている娘の頭を撫でていると、
「どどどーんっ!!」
「うおぁっ!?」
胸に更に突撃を喰らって、後ろに倒れそうになる。
だが、そこは男のプライドとしてぐっと持ちこたえる。
「美鈴。全力で来過ぎだろ…」
「ふみ?そんな事言える立場かな~?」
「うっ……悪かった」
腕の中で美鈴が優しく微笑む。
「パパっ」
「パーパっ」
足に抱き着いて、娘達も幸せそうに笑う。
美鈴がゆっくりと離れてくれたから、俺は足下にいる娘二人を抱き上げた。
「パパー。私達におめでとうはー?」
「パパ、おめでとうはー?」
「パパ、私に産んでくれてありがとうはー?」
「美鈴。お前、ちゃっかり参加してるんじゃねぇ」
むぎゅむぎゅっと娘達が俺の首に抱き付く。昔の美鈴を思い出してついつい笑ってしまう。
「で、何でお前達こんな時間にここにいるんだ?」
「美鶴も千鶴も、パパが帰ってくるまで待つーって言って聞かなかったの」
「成程?…ん?誰に送って貰ったんだ?直ぐに捕まる奴いたか?」
「え?いないよ?自分で運転して来たのー」
「…待て。お前ペーパーだろうが」
「ペーパーでも免許は免許っ」
どやっ。おい、美鈴。美鶴と千鶴が震えてるんだが、一体どんな運転して来たんだ…。
「帰りは俺が運転する」
「えー…私が運転するよー?」
「駄目だ。とりあえず俺に鍵を寄越せ」
「むー。じゃあ私に書類くれる?」
「は?」
「今日は鴇お兄ちゃんの仕事は私が引き継ぐよ~。だから、鴇お兄ちゃんは美鶴と千鶴に構ってあげて。ここんとこ仕事続きで二人共しょんぼりしてるんだから」
言いながら美鈴はさっさと座り慣れた総帥の椅子へと座り仕事をバリバリ始めてしまった。
「パパ、あのね。今度学校で運動会、あるの」
「パパ、来てくれる?」
「あぁ、勿論行く」
「パパ、一位、とれる?」
「楽勝だな」
「パパ、ママと二人三脚出れる?」
「二人三脚?そんな競技があるのか?」
「あるみたいだよー。父兄参観競技って奴。いっそ葵お兄ちゃんと棗お兄ちゃんに出て貰った方が最強な気がするんだけどね」
「確かにな」
暫く娘達と会話を楽しむ。正直滅茶苦茶癒される。
「あ、そうだ。忘れてた」
「美鈴?」
席を立ち美鈴がドアの外へ行って、バスケットを持って戻って来た。
一体何が?不思議に思いつつ美鈴の行動を見守っていると、バスケットの中から等分に切られたケーキが現れた。多分バースデーケーキだろう。
「二人共、鴇お兄ちゃんと一緒に食べるって聞かなくて」
「成程」
美鶴と千鶴。二人と一緒に食べてやりたいのは山々なんだが…。
「………ふみ~……」
「……ふみみ~………」
「時間が時間で、しかも興奮してたからな。疲れて当然だな。…もう眠ってる」
二人を抱っこしたままソファに移動して座って、眠ってしまった二人を膝のうえに座らせる。
ケーキは明日の朝だな。自分の胸に凭れさせるようにして眠らせる。…本当に癒される。
っと、そうだ。忘れてた。
「美鈴。プレゼントだが…」
「あ、うん。ちゃんと届いたよ。二人共滅茶苦茶喜んでたよ~。問題集セット」
「本当なら人形とか、アクセサリーとか買ってやりたかったんだがな」
「ふふっ。前買い物に行って買おうとしたら要らないって言われちゃったもんね」
「それよりも本が良いって本屋に走ったよな。俺達に似て勉強好きになってしまったな」
「だね~。でも下手すると私達より賢いかもよ?」
「確かに。…ははっ。すっかり親バカだな。俺達も」
「やだな~。可愛いんだから仕方ないよ」
「……だな。やっと手に入れた美鈴との子だからな。可愛くて当然だ」
眠ってる二人の頭を優しく撫でる。すると無意識に頭を擦り寄せてくる。可愛いな、ほんと。
「にしても、鴇お兄ちゃん。どんだけ仕事抱えてたの?多くなったら連絡してって言ったでしょー」
「いや、お前だって毎日子育てでぐったりしてるだろうが。ならこっちのフォローは俺が」
「子育てなんてもう何年もやってるんだから大丈夫だよ。この世界に生まれてからほぼずっとやってるんだから」
「それはまぁ、そうなんだが…」
「ママの代わりに旭達を育てたのは私ですっ。それに鴇お兄ちゃんはちゃんと一緒に子育てしてくれてるじゃない」
「当り前だろ。俺と美鈴の子なんだから」
「そう。当り前なの。だから鴇お兄ちゃんと仕事もちゃんと分け合うんだよっ」
どやっと再び胸を張る美鈴に笑って答えながら、愛おしい娘達の頭を撫で続ける。
まぁ、会話の流れ的に佳織母さんの立場がないような気もするが、事実だから仕方ない。
「…美鶴、千鶴。誕生日おめでとうな。それから待っててくれてありがとう。お前達みたいな可愛い娘を持てて俺は幸せだな」
「ふふっ」
美鈴が俺達を見ながら嬉しそうに微笑む。そんな美鈴の手元はえげつない程のスピードで書類を片付けているが…。
「あ、そう言えばさ、鴇お兄ちゃん」
「うん?」
「この間樹先輩が家に来てさー。美鶴と千鶴が樹先輩の所に嫁に行くって騒いでたんだけど」
「………美鈴。金山と親父に刀を持たせろ」
「あ、大丈夫。既に葵お兄ちゃんと棗お兄ちゃんが手配してた」
なら一安心だな。
こんな可愛い俺の子達を嫁に貰おうなんて…それ相応の覚悟をして貰わないとな。
「…ぱ、ぱ……」
「…だいしゅ、き……」
可愛過ぎる…。可愛くて仕方ない。
前世の柵が俺と美鈴を苦しめたが、こんな未来が待っていたのなら戦い続けて良かったと、俺は心の底からそう思った…。
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