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完結後の小話
夢子と未のデート(高校生)
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「えっと…あっ、まーくんっ!あそこの店に入っても良いっ?」
夢芽が嬉しそうに私の手を取り、立ち並ぶショッピングモールのテナントを一つ指さした。
私は夢芽といられれば、それだけで幸せだからただ頷く。
とは言え、あの店は少しハードルが高い…?ブティックや雑貨屋なら普通に入れるが、あそこは…。
「あ、勿論、あそこは私だけで行ってくるよっ。ランジェリー専門店だもんね。ごめんね、直ぐ戻って来るからっ。…まーくんが好きそうなの選んでくるねっ」
「なっ!?」
にぃんまり…。
夢芽。悪役の笑い方だ、それは。
「まーくんが照れるの可愛いから私好き」
…私が照れてるなんて解るのは夢芽くらいだろう。だが、一つ言わせて貰うなら。
ぐいっ。
「えっ?」
引かれていた手を逆に引っ張って夢芽を自分の胸へと引き寄せて抱きしめる。
「ま、まーくんっ?」
「私も、私の腕の中で顔を真っ赤にして照れる夢芽が好きだよ」
ぼんっ。
ははっ、夢芽の顔真っ赤だ。可愛い。
「も、もうっ、まーくんったら」
ポスポスと夢芽が私の胸を叩くが全然痛くない。むしろ可愛い。
夢芽の可愛さを堪能していると、横に人の気配がした。
「…………道の真ん中で何してるんだ?夢姉…」
「陸実くんっ!しっ!折角ユメが可愛い顔してるんだからっ!写真撮ってからにしてっ!」
「いや。美鈴センパイ。オレに隠れてる風にしても無駄だと思うぞ。滅茶苦茶バレバレ」
「大丈夫っ。さっと撮ってさっと立ち去るからっ」
「いやいやいやっ、そもそも友達のデートを隠し撮りってっ」
「だって、だって可愛いんだもんっ!私のユメ可愛いのーっ!」
「白鳥。夢芽は白鳥のモノではなく私のモノだ」
二人の言い合いに割り込み主張だけはしっかりとしておく。
「うぅぅーっ…王子と彼氏に取り合われるとか、幸せー…」
「夢姉。帰ってこい。弟として色々心配過ぎる」
「……例え愚弟の声が聞こえても私幸せー」
「おおーいっ!夢姉っ!さっくりディスってるぞーっ!」
夢芽の弟が叫んでいる。
それに対して夢芽はこっそりと笑っていた。多分、抱き締めてる私にしか解らないだろうが。
「うんっ。堪能したっ。それで?どうして王子と陸がここにいるの?」
「私が誘ったの。私の渡したテストで陸実くんだけがボーダーライン越せなかったので、これから参考書を買いに行くの。……ね?」
キランッ。
……成程。白鳥がご立腹なのは理解した。目が怪しく輝いている。
「あれだけ勉強しなきゃ駄目だよ、って言ってた筈なんだけどなぁー…?」
「う…」
「抜き打ちでテストするよーって言ってた筈なんだけどなぁー…?」
「ううぅ…」
段々と夢芽の弟が真っ白な灰に変わっていく。憐れな…。
「違う違う。まーくん。あれは自業自得。勉強しなさいってあれだけ言われてるのにやらなかった陸が悪いの」
あっさりと言ってのける夢芽。扱いが厳しいな。
「あ、そうだっ。王子、王子っ。一緒にインナー見ようよっ」
「へ?」
「ここのブラ可愛いの揃ってるんだよーっ」
「えっ?えっ?」
突然の展開に夢芽以外目が点になる。が、こんな事で止まる夢芽ではない。
「行こう行こうっ!」
私の腕から抜け出し、白鳥の手を引いて店の中へと入って行った。
「…夢姉。折角美鈴センパイとのデート…」
「もしかして、態と問題を間違えたのか?」
「へ?まっさかー。素直に実力の赤点だぜっ」
「胸を張って言う事でもあるまい」
「さーせん…」
さて、私達はどうするか。
かと言って女性物の下着専門店の前にいるのも…。私と夢芽の弟は顔を見合わせ、せめてその店からは離れようと数歩進む。
ん?丁度良く、隣の隣にメンズブティック店がある。
「そこに入るか?」
「おっ、いいっすねっ」
趣味に合うか合わないかはともかく、暇は潰せるだろう。
今隣の隣の店にいると夢芽にメールを送り、私達はゆったりと服を見る事にした。
一通り見て回って、ある程度時間を潰して店を出る。まだ、夢芽達は来ていないようだ。
ぼんやりと二人で店の前にあったベンチに座って待っていると、
「すみませーん。ちょっと良いですか~?」
誰だ?夢芽の弟の友達か?
横を見ると、必死に顔を左右に振っている。何だ、違うのか。
「今お暇ですか~?」
「良かったら一緒に遊びませんかぁ?」
…一人、二人と増殖していく女。結局五人の女に囲まれてしまった。
「……(所謂逆ナンって奴ですよね)」
こっそりと教えてくれた夢芽の弟に感謝しつつ、逆ナンなんてしている目の前の女達に呆れかえる。
「暇ではないし、邪魔だ。どっかに消えろ」
「えー?暇そうですよぉ。それに男二人で遊ぶ位なら女子もいた方が華やぐでしょぉ?」
「鬱陶しい」
「酷ぉい。傷ついたぁ。責任とってくれますぅ?」
面倒臭い。そうだ。女ってこんな生き物だった。夢芽や夢芽の友達と話していると面倒臭さなど無縁だったから忘れていた。
どうにかしろ。夢芽弟。ジロリと睨みつけると、無理無理と頭を振り返されてしまった。
…なら、もうこの場を去るしかないか。
移動する事を夢芽に連絡しようと携帯を取りだす。
「え?ちょっと…その待ち受けの写真。まさかコジユメ?」
「うそー?あ、ほんとだっ」
「マジー?もしかしてお兄さん、コジユメと付き合ってるの?」
「趣味悪ー」
あははははっ!
一斉に笑いだす理由が解らないが、一つ解るのはこいつらが夢芽を馬鹿にしている屑だって事だ。
立ち上がり女達を見降ろし睨みつける。
「な、なによっ」
「……屑に用はない。どけっ」
女達を押し退けて、私は歩きだす。夢芽が心配になったからだ。白鳥がいるから大丈夫だとは思うが…。
早足で夢芽がいるはずのランジェリー店に入る。
すると、何故か奥から話声が聞こえた。言い合いとそれを止める声。顔には出ていないかもしれないが私はかなり焦っていた。
「夢芽っ!」
私の目に入ったのは、泣きそうな夢芽とそれを守る様に立つ白鳥、そしてそれに対峙する見知らぬ女二人と間に入っておろおろしている店員。
私はすぐに夢芽を抱きしめた。
「……まーくん…」
最初拒む様に私を押しやってきたが、夢芽には悪いが離す気はない。泣きそうな恋人を離す訳ないだろう?
「…未くん。夢芽頼むね」
ぞわっ。
何だ?鳥肌が…?
「さってと。さっきユメに言ってた事。私にもう一度聞かせて頂戴?何だったかしら?っと、あぁ、いけない。お店の中だったね。アンタ達、外に出なさい」
有無を言わせぬ威圧感を出しながら顎で外に出ろと指示を出す。
「店員さん。ごめんなさい。後でしっかりと上の人間に通しておくからね。ちょっと、何してるの?さっさと外に出なさいよ」
店員にはしっかりと謝罪をして、白鳥はそいつらを引き連れて店の外へ行く。
夢芽も追たげにしていたので、肩を抱いて一緒に店を出た。すると、そこにはさっき私達に絡んできた女達と店にいた二人が合流して一団と白鳥が対峙していた。
相手の方が圧倒的に人数が多いのに、白鳥は一切引けをとらない。むしろ…白鳥の方が強そうだ。
「一から説明しなさい。私の、大事な大事なユメを、学校中の女子で何て呼んでたんですって?」
「あ、あんたに関係ないでしょっ」
「これは私達と同級生であるそこのぶりっ子女との問題なのっ」
「そうよっ。関係ない奴は引っ込んでなさいよっ」
「そうよそうよっ」
そうよそうよっ!と徒党を組んだ女達が馬鹿みたいに同じ言葉を繰り返している。
「あー…あー…やっちまったよ。美鈴センパイが滅茶苦茶怒ってる。夢姉の事になるとキレるんだよな」
「陸っ、ねぇっ、王子を止めてっ」
「いや、無理っ」
「無理って、でもっ」
「悪い、夢姉。これで美鈴センパイを止めたとして、後日『どうして止めた?』と美鈴センパイに叩き斬られる方がオレ怖ぇ」
「でもでもっ」
「大丈夫だって。夢姉。美鈴センパイ、こんな奴らに負けないし。負ける訳ねぇし」
夢芽の弟が何故か自信満々に言いきった。だが、私もそう思う。
夢芽達が話している間、私は夢芽を守る為にずっと白鳥達の会話に耳を傾けているが。
「ぶりっ子?え?誰の事?あっ、分かったぁっ。アンタ達の事?自分の事分かってるんだぁ」
「ななな、なんですってぇっ!?」
「だってそうでしょう?相手を陥れて自分を棚上げ、更に男に媚売って。―――私の大事なユメを傷つけて覚悟、出来てるわね?」
怒りの冷気が私達にまで刺さってくるような気がした。それくらい白鳥は怒っていた。
「…未くん。私この子達と色んな意味でお話があるの。えぇ、色んな意味でね…。悪いんだけどユメを連れてここから離れてくれるかな?」
「えっ!?王子っ!?」
「大丈夫だって。夢姉。オレがセンパイの側にいるからさ」
「全ッ然、大丈夫じゃないっ!アンタがいて何になるってのよっ!」
夢芽は抗っているけれど、私は…正直白鳥の意見に賛成だ。これ以上夢芽が傷つく必要はない。
「行こう、夢芽」
「だ、だってっ、まーくんっ」
「…ここに夢芽がいた方が、多分長引く。早くこの争いを終わらせるには白鳥に任せた方が早い」
「そ、れは…」
「行こう」
私は夢芽の肩を抱いたままその場を離れる。私達はモールの端にあるカフェへと入った。席について、店員に飲み物を適当に頼んでおく。
俯いたまま夢芽は暫くの間何も言葉を発しなかった。こういう時自分の口下手が悔やまれる。何を夢芽に言ったらいいのか、全然思い付かない。
でも、そうだ。一つだけ、これだけは断言出来る。
「夢芽」
「…なぁに?まーくん」
ゆっくりと顔を上げて目に入ったその表情に胸が痛んだ。そっと手を伸ばして、隣に座る夢芽の肩を抱き寄せた。
「愛してる」
「…まーくん…」
夢芽が愛おしくて堪らない。それだけは間違いのない事実。それを伝えると、夢芽は目を瞬かせて、嬉しそうに微笑み私に自分から抱き付いた。
「うん。私もっ。…あのね?まーくん。あの子達私の小学校時代の同級生なの。どうしてあの子達が私をコジユメって呼ぶか、解る?」
正直解らない。あれか?アイドルとか良く名前を略して言ったりする、あれと同じか?
さっぱり解らないのが多分夢芽には分かったんだろう。夢芽は苦笑して、ぎゅっと私を抱きしめた。
「コジユメの意味。孤児の夢見る馬鹿女、って意味だよ。私、孤児って皆に馬鹿にされてたから」
「……そうか。…辛かったな」
「そう、だね…。でも辛いだけじゃなかったの。小学校時代が辛かったから、私は聖女に進学しようって思ったんだ。そしたら私を助けてくれた恩人に…王子に会えて、王子に会えたから友達も出来て、彼氏も出来た。だから」
泣きそうに微笑む夢芽に胸が締め付けられる。私はぐっと夢芽を両手で抱き寄せた。
そんな夢芽の背後に回った手で携帯を操作する。携帯をいつの間に取りだした?夢芽を抱きしめる前に。誰にメールする?勿論、白鳥に。
『未:突然に連絡すまない。夢芽が泣いている。涙を流さずに泣いている。私の代わりに奴らを潰してくれ』
『白鳥:はーい。了解しましたー。この女共、マジで叩き潰す。粉にしてくれるわ。未くん。ユメのことよろしくね』
『未:粉?あ、いや、潰せとは言ったが、ほどほどに』
『未:…………白鳥?』
『未:白鳥?』
『未:おい?』
……。
反応が消えた。どうした?何があった?
一瞬不安に思っていると、謎な番号からメールが届いた。
『申護持陸実:先輩、すみません。美鈴センパイからの伝言です。『怒りのあまり携帯ぶち壊しちゃったので返信出来ないの、ごめんね、てへ☆』だそうです。夢姉、よろしくお願いします』
道理で返信が来ないと…。私は何か早まっただろうか…?
「また王子に迷惑かけちゃった。まーくんにも…。ごめんね」
私がメールを見て遠い目をしていると、腕の中の夢芽が呟いた。
「謝らなくていい。私にはそんな気を使わなくていい。私は夢芽が側にいてくれるだけでいいんだから。笑ってくれ」
「まーくん…」
「それから白鳥に関しては、謝るよりも礼を言ってやったらいい。白鳥ならそれだけで幸せだろう」
「うん。…そうだね。そうするっ。まーくんっ、王子にお礼に何かプレゼントしたいのっ。付き合ってくれる」
「あぁ、勿論だ」
やっと夢芽に笑顔が戻ってくれた。
それと同時に注文していたものを店員が置いて行った。追加注文をしながら白鳥に何を買うか相談して。
ゆっくり休んでから私達はまたデートへと戻ったのだった。
翌日、夢芽は白鳥にお礼の品を渡したらしい。一緒に雑貨屋を回ったり何だりしたけれど結局何を買ったのか私は知らない。店から出て来た時にはもうラッピングされた袋を持ってたからな。
いつものように理科室から出て、夢芽の所へ行こうとしたら、誰もいない所で夢芽に貰ったプレゼントを開けている白鳥を見かけた。嬉しそうに袋を開けて中から出て来たものは…うっ。
「…そう言えば、ユメの友情アイテムっていつもラッピングされた袋の絵しかなかったっけ…。…雑学上昇アップアイテムって、下着だったの…?って言うかユメ。こんなスケスケな下着、私着る機会ないと思うのー…」
……色々夢芽に言いたい事あるが、取りあえず白鳥の事は見なかった事にした…。
夢芽が嬉しそうに私の手を取り、立ち並ぶショッピングモールのテナントを一つ指さした。
私は夢芽といられれば、それだけで幸せだからただ頷く。
とは言え、あの店は少しハードルが高い…?ブティックや雑貨屋なら普通に入れるが、あそこは…。
「あ、勿論、あそこは私だけで行ってくるよっ。ランジェリー専門店だもんね。ごめんね、直ぐ戻って来るからっ。…まーくんが好きそうなの選んでくるねっ」
「なっ!?」
にぃんまり…。
夢芽。悪役の笑い方だ、それは。
「まーくんが照れるの可愛いから私好き」
…私が照れてるなんて解るのは夢芽くらいだろう。だが、一つ言わせて貰うなら。
ぐいっ。
「えっ?」
引かれていた手を逆に引っ張って夢芽を自分の胸へと引き寄せて抱きしめる。
「ま、まーくんっ?」
「私も、私の腕の中で顔を真っ赤にして照れる夢芽が好きだよ」
ぼんっ。
ははっ、夢芽の顔真っ赤だ。可愛い。
「も、もうっ、まーくんったら」
ポスポスと夢芽が私の胸を叩くが全然痛くない。むしろ可愛い。
夢芽の可愛さを堪能していると、横に人の気配がした。
「…………道の真ん中で何してるんだ?夢姉…」
「陸実くんっ!しっ!折角ユメが可愛い顔してるんだからっ!写真撮ってからにしてっ!」
「いや。美鈴センパイ。オレに隠れてる風にしても無駄だと思うぞ。滅茶苦茶バレバレ」
「大丈夫っ。さっと撮ってさっと立ち去るからっ」
「いやいやいやっ、そもそも友達のデートを隠し撮りってっ」
「だって、だって可愛いんだもんっ!私のユメ可愛いのーっ!」
「白鳥。夢芽は白鳥のモノではなく私のモノだ」
二人の言い合いに割り込み主張だけはしっかりとしておく。
「うぅぅーっ…王子と彼氏に取り合われるとか、幸せー…」
「夢姉。帰ってこい。弟として色々心配過ぎる」
「……例え愚弟の声が聞こえても私幸せー」
「おおーいっ!夢姉っ!さっくりディスってるぞーっ!」
夢芽の弟が叫んでいる。
それに対して夢芽はこっそりと笑っていた。多分、抱き締めてる私にしか解らないだろうが。
「うんっ。堪能したっ。それで?どうして王子と陸がここにいるの?」
「私が誘ったの。私の渡したテストで陸実くんだけがボーダーライン越せなかったので、これから参考書を買いに行くの。……ね?」
キランッ。
……成程。白鳥がご立腹なのは理解した。目が怪しく輝いている。
「あれだけ勉強しなきゃ駄目だよ、って言ってた筈なんだけどなぁー…?」
「う…」
「抜き打ちでテストするよーって言ってた筈なんだけどなぁー…?」
「ううぅ…」
段々と夢芽の弟が真っ白な灰に変わっていく。憐れな…。
「違う違う。まーくん。あれは自業自得。勉強しなさいってあれだけ言われてるのにやらなかった陸が悪いの」
あっさりと言ってのける夢芽。扱いが厳しいな。
「あ、そうだっ。王子、王子っ。一緒にインナー見ようよっ」
「へ?」
「ここのブラ可愛いの揃ってるんだよーっ」
「えっ?えっ?」
突然の展開に夢芽以外目が点になる。が、こんな事で止まる夢芽ではない。
「行こう行こうっ!」
私の腕から抜け出し、白鳥の手を引いて店の中へと入って行った。
「…夢姉。折角美鈴センパイとのデート…」
「もしかして、態と問題を間違えたのか?」
「へ?まっさかー。素直に実力の赤点だぜっ」
「胸を張って言う事でもあるまい」
「さーせん…」
さて、私達はどうするか。
かと言って女性物の下着専門店の前にいるのも…。私と夢芽の弟は顔を見合わせ、せめてその店からは離れようと数歩進む。
ん?丁度良く、隣の隣にメンズブティック店がある。
「そこに入るか?」
「おっ、いいっすねっ」
趣味に合うか合わないかはともかく、暇は潰せるだろう。
今隣の隣の店にいると夢芽にメールを送り、私達はゆったりと服を見る事にした。
一通り見て回って、ある程度時間を潰して店を出る。まだ、夢芽達は来ていないようだ。
ぼんやりと二人で店の前にあったベンチに座って待っていると、
「すみませーん。ちょっと良いですか~?」
誰だ?夢芽の弟の友達か?
横を見ると、必死に顔を左右に振っている。何だ、違うのか。
「今お暇ですか~?」
「良かったら一緒に遊びませんかぁ?」
…一人、二人と増殖していく女。結局五人の女に囲まれてしまった。
「……(所謂逆ナンって奴ですよね)」
こっそりと教えてくれた夢芽の弟に感謝しつつ、逆ナンなんてしている目の前の女達に呆れかえる。
「暇ではないし、邪魔だ。どっかに消えろ」
「えー?暇そうですよぉ。それに男二人で遊ぶ位なら女子もいた方が華やぐでしょぉ?」
「鬱陶しい」
「酷ぉい。傷ついたぁ。責任とってくれますぅ?」
面倒臭い。そうだ。女ってこんな生き物だった。夢芽や夢芽の友達と話していると面倒臭さなど無縁だったから忘れていた。
どうにかしろ。夢芽弟。ジロリと睨みつけると、無理無理と頭を振り返されてしまった。
…なら、もうこの場を去るしかないか。
移動する事を夢芽に連絡しようと携帯を取りだす。
「え?ちょっと…その待ち受けの写真。まさかコジユメ?」
「うそー?あ、ほんとだっ」
「マジー?もしかしてお兄さん、コジユメと付き合ってるの?」
「趣味悪ー」
あははははっ!
一斉に笑いだす理由が解らないが、一つ解るのはこいつらが夢芽を馬鹿にしている屑だって事だ。
立ち上がり女達を見降ろし睨みつける。
「な、なによっ」
「……屑に用はない。どけっ」
女達を押し退けて、私は歩きだす。夢芽が心配になったからだ。白鳥がいるから大丈夫だとは思うが…。
早足で夢芽がいるはずのランジェリー店に入る。
すると、何故か奥から話声が聞こえた。言い合いとそれを止める声。顔には出ていないかもしれないが私はかなり焦っていた。
「夢芽っ!」
私の目に入ったのは、泣きそうな夢芽とそれを守る様に立つ白鳥、そしてそれに対峙する見知らぬ女二人と間に入っておろおろしている店員。
私はすぐに夢芽を抱きしめた。
「……まーくん…」
最初拒む様に私を押しやってきたが、夢芽には悪いが離す気はない。泣きそうな恋人を離す訳ないだろう?
「…未くん。夢芽頼むね」
ぞわっ。
何だ?鳥肌が…?
「さってと。さっきユメに言ってた事。私にもう一度聞かせて頂戴?何だったかしら?っと、あぁ、いけない。お店の中だったね。アンタ達、外に出なさい」
有無を言わせぬ威圧感を出しながら顎で外に出ろと指示を出す。
「店員さん。ごめんなさい。後でしっかりと上の人間に通しておくからね。ちょっと、何してるの?さっさと外に出なさいよ」
店員にはしっかりと謝罪をして、白鳥はそいつらを引き連れて店の外へ行く。
夢芽も追たげにしていたので、肩を抱いて一緒に店を出た。すると、そこにはさっき私達に絡んできた女達と店にいた二人が合流して一団と白鳥が対峙していた。
相手の方が圧倒的に人数が多いのに、白鳥は一切引けをとらない。むしろ…白鳥の方が強そうだ。
「一から説明しなさい。私の、大事な大事なユメを、学校中の女子で何て呼んでたんですって?」
「あ、あんたに関係ないでしょっ」
「これは私達と同級生であるそこのぶりっ子女との問題なのっ」
「そうよっ。関係ない奴は引っ込んでなさいよっ」
「そうよそうよっ」
そうよそうよっ!と徒党を組んだ女達が馬鹿みたいに同じ言葉を繰り返している。
「あー…あー…やっちまったよ。美鈴センパイが滅茶苦茶怒ってる。夢姉の事になるとキレるんだよな」
「陸っ、ねぇっ、王子を止めてっ」
「いや、無理っ」
「無理って、でもっ」
「悪い、夢姉。これで美鈴センパイを止めたとして、後日『どうして止めた?』と美鈴センパイに叩き斬られる方がオレ怖ぇ」
「でもでもっ」
「大丈夫だって。夢姉。美鈴センパイ、こんな奴らに負けないし。負ける訳ねぇし」
夢芽の弟が何故か自信満々に言いきった。だが、私もそう思う。
夢芽達が話している間、私は夢芽を守る為にずっと白鳥達の会話に耳を傾けているが。
「ぶりっ子?え?誰の事?あっ、分かったぁっ。アンタ達の事?自分の事分かってるんだぁ」
「ななな、なんですってぇっ!?」
「だってそうでしょう?相手を陥れて自分を棚上げ、更に男に媚売って。―――私の大事なユメを傷つけて覚悟、出来てるわね?」
怒りの冷気が私達にまで刺さってくるような気がした。それくらい白鳥は怒っていた。
「…未くん。私この子達と色んな意味でお話があるの。えぇ、色んな意味でね…。悪いんだけどユメを連れてここから離れてくれるかな?」
「えっ!?王子っ!?」
「大丈夫だって。夢姉。オレがセンパイの側にいるからさ」
「全ッ然、大丈夫じゃないっ!アンタがいて何になるってのよっ!」
夢芽は抗っているけれど、私は…正直白鳥の意見に賛成だ。これ以上夢芽が傷つく必要はない。
「行こう、夢芽」
「だ、だってっ、まーくんっ」
「…ここに夢芽がいた方が、多分長引く。早くこの争いを終わらせるには白鳥に任せた方が早い」
「そ、れは…」
「行こう」
私は夢芽の肩を抱いたままその場を離れる。私達はモールの端にあるカフェへと入った。席について、店員に飲み物を適当に頼んでおく。
俯いたまま夢芽は暫くの間何も言葉を発しなかった。こういう時自分の口下手が悔やまれる。何を夢芽に言ったらいいのか、全然思い付かない。
でも、そうだ。一つだけ、これだけは断言出来る。
「夢芽」
「…なぁに?まーくん」
ゆっくりと顔を上げて目に入ったその表情に胸が痛んだ。そっと手を伸ばして、隣に座る夢芽の肩を抱き寄せた。
「愛してる」
「…まーくん…」
夢芽が愛おしくて堪らない。それだけは間違いのない事実。それを伝えると、夢芽は目を瞬かせて、嬉しそうに微笑み私に自分から抱き付いた。
「うん。私もっ。…あのね?まーくん。あの子達私の小学校時代の同級生なの。どうしてあの子達が私をコジユメって呼ぶか、解る?」
正直解らない。あれか?アイドルとか良く名前を略して言ったりする、あれと同じか?
さっぱり解らないのが多分夢芽には分かったんだろう。夢芽は苦笑して、ぎゅっと私を抱きしめた。
「コジユメの意味。孤児の夢見る馬鹿女、って意味だよ。私、孤児って皆に馬鹿にされてたから」
「……そうか。…辛かったな」
「そう、だね…。でも辛いだけじゃなかったの。小学校時代が辛かったから、私は聖女に進学しようって思ったんだ。そしたら私を助けてくれた恩人に…王子に会えて、王子に会えたから友達も出来て、彼氏も出来た。だから」
泣きそうに微笑む夢芽に胸が締め付けられる。私はぐっと夢芽を両手で抱き寄せた。
そんな夢芽の背後に回った手で携帯を操作する。携帯をいつの間に取りだした?夢芽を抱きしめる前に。誰にメールする?勿論、白鳥に。
『未:突然に連絡すまない。夢芽が泣いている。涙を流さずに泣いている。私の代わりに奴らを潰してくれ』
『白鳥:はーい。了解しましたー。この女共、マジで叩き潰す。粉にしてくれるわ。未くん。ユメのことよろしくね』
『未:粉?あ、いや、潰せとは言ったが、ほどほどに』
『未:…………白鳥?』
『未:白鳥?』
『未:おい?』
……。
反応が消えた。どうした?何があった?
一瞬不安に思っていると、謎な番号からメールが届いた。
『申護持陸実:先輩、すみません。美鈴センパイからの伝言です。『怒りのあまり携帯ぶち壊しちゃったので返信出来ないの、ごめんね、てへ☆』だそうです。夢姉、よろしくお願いします』
道理で返信が来ないと…。私は何か早まっただろうか…?
「また王子に迷惑かけちゃった。まーくんにも…。ごめんね」
私がメールを見て遠い目をしていると、腕の中の夢芽が呟いた。
「謝らなくていい。私にはそんな気を使わなくていい。私は夢芽が側にいてくれるだけでいいんだから。笑ってくれ」
「まーくん…」
「それから白鳥に関しては、謝るよりも礼を言ってやったらいい。白鳥ならそれだけで幸せだろう」
「うん。…そうだね。そうするっ。まーくんっ、王子にお礼に何かプレゼントしたいのっ。付き合ってくれる」
「あぁ、勿論だ」
やっと夢芽に笑顔が戻ってくれた。
それと同時に注文していたものを店員が置いて行った。追加注文をしながら白鳥に何を買うか相談して。
ゆっくり休んでから私達はまたデートへと戻ったのだった。
翌日、夢芽は白鳥にお礼の品を渡したらしい。一緒に雑貨屋を回ったり何だりしたけれど結局何を買ったのか私は知らない。店から出て来た時にはもうラッピングされた袋を持ってたからな。
いつものように理科室から出て、夢芽の所へ行こうとしたら、誰もいない所で夢芽に貰ったプレゼントを開けている白鳥を見かけた。嬉しそうに袋を開けて中から出て来たものは…うっ。
「…そう言えば、ユメの友情アイテムっていつもラッピングされた袋の絵しかなかったっけ…。…雑学上昇アップアイテムって、下着だったの…?って言うかユメ。こんなスケスケな下着、私着る機会ないと思うのー…」
……色々夢芽に言いたい事あるが、取りあえず白鳥の事は見なかった事にした…。
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