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完結後の小話
お姉ちゃんと合唱?(小学生)
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ピンポーン。ピンポーン。ポンピーン。
「……ん?」
「なんやチャイムの音が違った気せぇへん?」
「気のせいかなー」
本当に気の所為なんだろうか、と思いつつも白鳥家は何でもありだから気にしない事にする。それが自分の為だ。
暫く待ってると、ゆったりとした足音が聞こえて、ドアが開いた。
「いっつもチャイムも鳴らさずに入って来る癖に、何で今日はまたお行儀よくここで待機してるんだ、お前らは」
「前に二階の窓から入ったら、姫ちゃんに怒られちゃったんだよねー」
「大地。お前そんな所から入ったのか。じゃあ俺はまだマシだな。俺は庭からだし」
「どこがマシやねん。俺が一番マシやで。ただ玄関に逃げ込んだだけやし」
「…まともに来れる奴はいねぇのか。…まぁ、奏輔。お前には同情してやる」
ポンッ。玄関のドアから顔を出した鴇にそっと肩を叩かれる奏輔。俺も同情するぞ。ポンッと肩を叩いておく。
「なんやろ…優しさが嬉しい…」
「奏輔ー。オレん所の一番上あげようかー?」
「むしろ、お前んトコに家の姉やるわ」
「大地の所の枠はあと一枠だぞ。奏輔の所は二人だろ?…争いがおきんじゃね?」
一枠はうちの七海がとっちまったしな。
俺達三人、わいわいと玄関先で騒いでいると、
「鴇お兄ちゃーん?だぁれー?」
鴇の後ろからひょこんっと可愛いの結晶体が現れた。
「あ、お兄ちゃん達、いらっしゃーい」
か、可愛いっ!
……ん?姫の手にあるの、絵本か?
「鴇お兄ちゃん、あがって貰わないの?」
「美鈴。お前の目に見えてるのは幻であって本物ではないから」
「ふみっ!?幻っ!?え?ちょ、カメラっ!写真っ!」
トテテテテッ!
カメラを取りに走って行ってしまった。
そもそも幻って写真に撮れないだろ。姫、いつも賢い癖に変な所天然だよな。
「で?お前らは何しに来たんだ?」
「うん?あぁ、これ」
「これ?」
俺はポケットから二つ折にしたハガキを取りだして鴇に手渡した。
「なんだ?これ…って、差出人は蓮?」
「因みに俺のは蘭くんからやで」
「オレのは燐くんからー」
内容は、ただ単に遊びのお誘いだ。レベル上げしたいから一日付き合ってくださいって言うゲームのお誘い。しかし今あの子ら何歳だったか…。
全部しっかりとした文章でこの年齢で理解出来ないはずの漢字も使って、手本のような文字で綺麗に書かれてるんだよな、これ…。
「しかしゲームのレベル上げって何の…、って、あぁ、成程。あれか。あれ意外とはまるからなぁ。とうとうお前達まで巻き込まれるに至ったか」
何やら鴇が呟きながらドアを開けて俺達に入る様に促してくる。
素直に中へ入れて貰いリビングへと行くと、そこには既に白鳥の三つ子と旭が待機していた。
「あ、やっと来てくれた」
旭がこっちを見て手招きしている。俺達も素直にそれに従い、リビングのソファに座った。
…うん?テーブルの上に箱がある?
レベル上げってこれの事か?
俺達が顔を見合わせ首を傾げていると、トテテテテッと走る音がして、
「カメラ取ってきたっ!幻は何処っ!?ってあれ?いない?本当に幻だったっ?」
姫。本気でカメラ取りに行ってたのか…。
玄関できょろきょろしている姿が目に浮かぶようだ。
「おーい、姫ー。幻じゃねーからー。お邪魔してるぜー」
ソファに座りながら玄関にいる姫に聞こえる程度の声で叫ぶと、足音が再び聞こえてリビングに姫が顔を出した。
「あれ?ホントだ。なんだ、やっぱり幻じゃなかったんだー。鴇お兄ちゃんの嘘つきー」
「こんな一目で分かる嘘を信じるのがおかしいだろ」
「むー…」
ポテポテと歩いてカメラをテーブルの上に置いて姫はキッチンへ入って行った。
「おねえちゃんっ」
「ごほんっ」
「よむやくそくっ」
旭と三つ子が姫に付いて歩く。…こいつら、姫の前では相変わらず猫被ってるな。一体誰に似たんだか…。
「鈴ちゃん」
「鈴。僕達もお茶貰っていいかな?」
言うまでもなかったな。こいつらに似たんだ。
「はーい。皆冷たいミルクティーで良い?」
姫の淹れるお茶に不味いものはないので全く問題ない。全員で頷き、姫がお茶をトレイに乗せて戻って来た。
「あ、そっか。成程。皆、レベル上げする為にお兄ちゃん達呼んだんでしょ」
三つ子はコクコクと必死に頷く。
「旭は鴇お兄ちゃんと対決でもする?」
「んーん。まだ勝てないから三人のたたかい見てる」
「そっか。…鴇お兄ちゃん達も見て行く?」
三人も素直に頷く。しかも妙にわくわくと期待しているのが気になる。そんなに楽しいゲームなのか?これ。
俺達三人はいまだに何の事やら分からず首を傾げるのみだ。
「だとしたらここだと狭いね。三階に行こうよ。あそこならのびのび出来るし」
「あぁ、いいな。そっちのが見やすいしな」
鴇が同意して俺達は各自、渡された自分のコップを持って三階へと移動した。
何故か三階には既に畳が敷かれており、多少はしゃいでも平気なようにとコップを置く場所も何か所か設置されていた。
「どうせなら優兎も呼ぼうか」
「今日確か予定ないって言ってたしね」
携帯を取りだして葵が手早く電話をしている。
「さて、じゃあ今日はどんなお題にするの?」
「これっ!」
姫。いつの間にそんな職人エプロンを…?
「イカロスの翼?童話とも言えないし、結構ハードな内容だけど良いの?」
「やるっ!」
「レベル上げには」
「コンナンがつきものっ!」
「ふむ…。皆が良いならやろっかっ♪えっと対戦相手はお兄ちゃん達だね。透馬お兄ちゃん達のカードはまだ作ってないんだ。だからゲストカードでいいかな?」
そう言いながら姫が俺達三人の前にゲストカードと書かれたカードを一枚ずつ置いた。
「美鈴。俺達の時はその場で書いたりしてなかったか?」
「鴇お兄ちゃん達はいつか一緒にやるかなって思ってたから脳内でまとめて置いたんだけど。まさか透馬お兄ちゃん達もやるとは思ってなかったから」
「成程」
「それに、今回のメインがイカロスの翼だからね。最初からそこそこ強いカードを持たせないと負けちゃうし」
そこそこ強いカード?
目の前に置かれたカードを手に取って内容を見てみると、ゲストカード。レベルは対戦相手のレベルに合わせられると書いてある。人の絵も書いているが、まるで人の影だ。顔とか色とかは一切無い。
「って、ちょい待ち。このカード姫さんが作ったんか?」
同じくカードを眺めていた奏輔が問う。そう言えばさっき鴇がその場で書いてるって言ってたな。って事はこれが手造り?クオリティ高過ぎるだろ。
「えへへ。ゲストカードはちょっと手抜きなの」
手抜きでこのレベル?…姫、すげぇな。今度何か合作でもしてみるか?可愛いの作れると思うんだよ。いや、姫がいるだけでかなり俺の士気が上がる。今度本気で交渉してみよう。
「それじゃあ、今回はイカロスの翼だし、レベル上げの意味も込めて経験値獲得特化型のストーリーで行きますっ!」
『おー!』
三つ子が手早く自分の前にカードを一枚出した。多分個人カード?か?カードにプレイヤーカードって書いてるからな。
「では物語、はじまりはじまりー」
パチパチパチ。
何故か皆で拍手しているので俺達も釣られて拍手をする。
「ダイダロス、通称ダイたんは思いました。『ミーちゃんは陸と海を支配出来るじゃん?でもさー、空は無理っしょ?無理っしょ?したら、俺は空から逃げるしかなくね?』と」
めっちゃチャラいなっ!
「物語は遡ります。アテーナイにお住いのテーセウス事、テーぴょんが迷宮の怪獣、ミノタウロスをぐるぐるバットで方向感覚を狂わせ、見知らぬ洞窟へ誘導。そして逃走しました。迷宮から脱出出来たのは、クレタ島お住いの王様ミーちゃんこと、ミーノースの娘、アリアドネーことアリアのおかげ。なんでかーって言うと。アリアは、ミノタウロスことミノさんの生贄として連れられたテーぴょんに一目惚れ。自分の物にしたいと欲望にかられたアリアはテーぴょんに教えました」
……話の筋はあってる。あってるけど何でだ。滅茶苦茶突っ込みたい。奏輔もその衝動にかられているのか、横で突っ込みたい衝動を必死に堪えている。
「『生贄にされる為に来たって?大変だよねー。そこで良い案があるんだけど兄さん聞いて行かない?』『良い案?よし。聞こうじゃないか』『ただし条件あるんだけど』『条件?』『アタイとの結婚』『結婚?いや、俺女じゃたたな…』『構わん』『あ、そう?じゃ良いぞ。その条件で』『マジ?じゃあ…』ででででーんっ!!」
うおっ!?
行き成り何だっ!?
姫のテンションがいきなりあがったぞっ!?
「ミッション発動っ!!『アリアの糸を入手しろっ!』」
アリアの糸?
突然姫のテンションが変わったかと思ったら、姫がポケットへ手を突っ込み、小さな箱に先が隠れている…良く出店とかであるあみだくじの様な物を取りだした。あのポケットは四次元ポケットか?なんであんな小さなポッケにあの箱が入ってるんだ。
「引いた糸に寄って勝負が決まるっ!運試しっ!さぁっ、選んで選んでっ!」
運試し…?
俺達はそれぞれ意味も解らず紐の先を握る。意味が分かっている三つ子は楽しそうに先を握った。
「では、一斉に引っ張ってっ!」
全員同時に引っ張ったその先にはカードが付いていた。
「ぼく、ししゅういとー」
「ぼくは、しつけいとー」
「ぼくのは、つりいとー?」
釣り糸って頑丈だな。仕付け糸に刺繍糸は、まぁ妥当な所か。
それで俺達のは?
「……針金、って糸じゃねぇし」
「蜘蛛の糸って、ほぼほぼ見えへんやんか」
「綱引きの綱ー」
こっち碌なの回って来てねぇぞっ!
「いと、いっと~♪」
「いと、いっと~♪」
姫と旭が踊りだした。くっ、…可愛いなっ!
胸の前で手をぐるぐるして、左右にふりふり。二人揃って踊ってる。
「鈴ちゃん、可愛い…っ」
「鈴、可愛いっ」
「…渡してるカードはえげつないけどな」
鴇の突っ込みより双子の言葉に同意している俺達。じっと踊ってるのを眺めていると、途中優兎が部屋に入って来て。
「おっつぎのカードは~♪こ~れ~だ~♪」
「いと、いっと~♪」
「い、いと、いっと~?」
強制的に巻き込まれた。憐れな…。踊りは三人に増えました。
「糸の長さを決めるぞ~♪でででんっ!」
再びエプロンのポケットから取り出された箱。きっとさっきと同じようなカードが入っているんだろう。紐を同時に手に取り、一斉に引っ張る。
「うっ…ぼく一ミリ…」
「蓮は刺繍糸一ミリ手に入れた~♪」
「ぼくは…百センチだ」
「蘭は仕付け糸、百センチゲット~♪」
「ぼくは、十メートルだ」
「燐は釣り糸十メートル手に入れた~♪」
…取りあえず蓮はもう脱出不可能だな。刺繍糸で一番まともそうだったのに、一ミリって。目印になりもしねぇ。
そうだ。俺のはどうだったんだ?
「?、百センチ束が10本?」
「透馬お兄ちゃん、百センチの針金10本ゲット~♪」
「俺は…魔法?長さやないん?」
「奏輔お兄ちゃん、魔法効果ゲット~♪お好みのサイズをお選びいただけま~す♪」
「オレはー…一万キロメートル…?」
「大地お兄ちゃん、綱を一万キロメートルゲット~♪」
なぁ、俺達どっから突っ込んで良い?
奏輔が突っ込み入れたくて入れたくて、とうとう右手を抑え始めたぞ。
「連続ミッションっ!『迷宮を抜けろ』発動っ!旭っ!」
「らじゃっ!」
旭が何やら箱の中からごそごそと紙を取り出し、広げた。
「すげぇな。迷宮の地図って所か?」
「迷宮の入り口がこの一番右の端っこ。ここからミノタウロスのいる場所までは五百メートルあります。さぁ、頑張ってミノタウロスの所へ進んで脱出してくださいっ!」
「五百…」
五百、か…。
「ししゅういと、一ミリ…これおとしてもみつけられないし、まきつけられない…。でもいくしかないっ!いっきまーすっ!カード2まい、しようっ!」
「蓮、一ミリの刺繍糸を使用っ!迷宮を潜り、遭難っ!でれでれでん…ゲームオーバー…」
「うぅ、やっぱり…」
「蓮のかたきうちだーっ!カード2まいしようっ!」
「蘭、仕付け糸百センチ使用っ!迷宮を潜り遭難っ!迷宮クリア失敗っ!でれでれでん…ゲームオーバー…」
ふぅん。成程?
「なら、俺が行こうかな。姫。俺もカードを使用。ただし、50メートル進んだ時点で一本使用。更に曲がった方向の形に折り曲げで壁に設置」
「…うぬぬ…。やっぱり透馬お兄ちゃんは騙されないね…。カード二枚使用っ!透馬お兄ちゃん、ミノタウロスに到着っ!戦闘入りますっ!てってれーっ♪ミノタウロスの先制攻撃っ!『迷宮は俺の住処なのに何で俺が倒されなきゃならないんだっ!』が発動っ!」
「ぶくっ…」
後ろから鴇の噴き出す声が聞こえたが、今はスルー。
特に技の指定とかはない…?あ、プレイヤーカードの裏に今回だけの技設定がある。今姫が出したのがある種の通常攻撃だから、反撃出した方がいいな。
「反撃スキル発動『こっちだって不法侵入したくてしてるわけじゃねぇよ』を発動」
「反撃スキル『こっちだって不法侵入したくてしてるわけじゃねぇよ』が発動。ミノタウロスの攻撃ダメージの二倍の反撃。透馬お兄ちゃん、ミノタウロス撃破っ!更に見事脱出成功っ!ミッションクリアっ!」
「よし。オッケー」
こう言うのは先に条件を提示した方が勝ちってね。
俺のターンは終了だな。
「じゃあ、俺もいこかな。カード二枚使用で、蜘蛛の糸を大量に出して紡いでそこそこの太さの糸に変化させて、ミノタウロスへ」
「『蜘蛛の糸』が『加工済蜘蛛の糸』に変化っ!迷宮に突入っ!奏輔お兄ちゃん、ミノタウロスと戦闘開始っ!『えっ!?来るの一人じゃないのっ!?』が発動っ!!」
「…う~ん…ミノタウロスは基本的に物理攻撃やろし…なら拘束させて貰おかな。攻撃スキル『肉体改造』を使用」
「ふみみっ。ミノタウロスの攻撃を受け流しつつ、攻撃スキル使用。サブスキルで石化効果発動。奏輔お兄ちゃん、ミノタウロス撃破っ!更に脱出も成功っ!ミッションクリアっ!」
奏輔もクリア、か。あとは大地と燐だな。
「えっと…ぼくもカード2まいつかうっ!ただし、十メートルを一メートルずつに千切ってつかう」
「釣り糸十メートルを分断っ!迷宮に使用っ!ミノタウロスの所へ到着っ!戦闘開始っ!」
「せんてひっしょうっ!『マッチいりませんか』をはつどうっ!」
「先手必勝で燐、マッチ売りの少女固有スキル『マッチいりませんか』を発動っ!ミノタウロスに炎の属性攻撃っ!ミノタウロス撃破っ!脱出も成功っ!ミッションクリアっ!」
「やったーっ!」
燐がクリアした。残す所は大地のみ。
「オレもカード使いたい所だけどなー。何となく嫌な予感がするんだよなー。まぁ、いいやー。二枚使ってみよー」
「大地お兄ちゃん、綱を一万キロメートルを使って迷宮へっ!でけでんっ!重過ぎるっ!!それでも頑張って頑張って進み、なんとミノタウロスの所へ辿り着きましたっ!」
「おおー」
「『おいおい。お前大丈夫か?んな重たいロープ持ってくる奴があるかよ』『あー、悪い悪い』『お?お前話しやすいな。どうだ?俺と一杯』『いいね~』和解した二人は一生迷宮で暮らす事に決めました。でれでれでん。ゲームオーバー」
「まさかの終わり方ー。オレびっくりー」
生き残ったのは、三人か。
…どうする?ちょっと楽しくなって来たぞ。
次の話展開を待つ事にする。
「糸を辿って入り口に戻って来たテーぴょんとアリアは幸せになりました。めでたしめでたしと言いたい所ですが。なんとっ!自分の娘がバカ娘だと理解していた王様ミーちゃんは言いました。『アリアにそんな知識ある訳ねぇべさー。誰か教えだんでねが?んだぁっ、あれだあれっ。迷宮つぐったダイって男いだべや?あいつだべ。アリアさ無駄なごとおしえだの。だいだ、あれなばー。余計なごどしてー。まず牢さいれでまえ』と」
「な、なまってる…」
「東北訛りだねー」
「あぁ、突っ込みたいっ。ボケを見逃していたくないんや…くぅっ」
「八つ当たりをしたい王様ミーちゃんはダイたんの息子諸共牢にポイッされてしまいましたっ!」
スクッ。
姫が突然立った。
それにならって旭も隣に立ち上がり、何故か巻き込まれた優兎も立ち上がる。
「ごほんっ。あー、あー…うぅんっ。では…『む~か~し~ギリシャ~のイカロスは~♪蝋で固めた鳥の羽~♪』」
「わわわわ~♪」
歌いだしたっ!?
「『両手にも~って、飛び立っ~た~♪雲よ~り、た~か~く、まだ遠~く~♪』」
「わわわわ~♪」
「わ、わわわわ~?」
一体何がしたいんだ…。いや、上手いぞ?歌は上手いし、三人共可愛いは可愛いんだが…。
「と言う事でイカロスの翼争奪戦っ!神経衰弱ーっ!!」
姫の宣言と同時に旭が準備を始めた。
俺達の前に12枚のカードが伏せて並べられる。
「なっにがでるかな~♪」
「でるかな~♪」
「で、るかな~?」
優兎…お前ホント付き合い良いな…。俺涙が出そうだわ…。
「じゃあ、ぼくからめくるよっ!」
先手、燐。一枚めくるとそこにはペリカンが描かれていた。そして、もう一枚。めくって出た絵はペンギン。
「あー…しっぱい…」
「じゃ、次は俺行こうかな?」
奏輔がカードに手を伸ばす。一枚はダチョウ。そして、もう一枚。おっ、ダチョウだっ。
「奏輔お兄ちゃん、翼ゲット~♪」
「翼って…もしかしてダチョウのかっ?」
やべぇ。これもしかしてイカロスが作った蝋の翼が決まるって奴か?
こりゃ慎重に行かなきゃ、だな。
手を伸ばして、一枚裏返す。…骨?鶏の骨が描かれてるぞ。翼ですらねぇぞ?羽がない、羽が。もう一枚…めくってみよう。手に取って裏返す。…白鳥?
「透馬お兄ちゃん失敗っ!」
チャンスはあと一回だけらしい。
「これと…これっ!」
燐が捲ったのは白鳥と、鴉。
「燐。蝋の羽製作に失敗っ!ゲームオーバー。でれでれでん」
「うぅ…おわっちゃった…」
次はまた俺だな。今まで一度も開いてないカードを開いて……骨だ。くそっ。場所は解る。解るがこれを手に入れても絶対無駄だろっ!
…でもまぁ、仕方ないな。
一度開いて知っていたカードを裏返す。
「透馬お兄ちゃん、骨の羽ゲットーっ!さぁ、二人共飛び立とうっ!」
「いや、無理じゃね?」
「その通りっ!透馬お兄ちゃん、骨の羽では空を飛べずっ!ゲームオーバーっ!でれでれでんっ」
一瞬にして終わったし。いや、なんだ、この中途半端感は。
「次にダチョウの翼をゲットした奏輔お兄ちゃんっ!ダチョウの翼を作って大空に舞い上がったっ!」
おおっ?進めるのか?
「が、何分ダチョウの翼っ!飛べませんっ!」
「そやろなっ!」
「落下っ!複雑骨折っ!イカロス、即行で訪れた死っ!ゲームオーバーっ!でれでれでんっ!」
……。
えーっと…。
視線を三つ子に向ける。すると、
「けいけんちがー」
「げっとしたカードがー」
「でも、これをごうせいするとー」
真剣に対策を考えており、双子の方を向くと、双子は笑いを堪えていた。
「……何だろー。姫ちゃんの手の平で転がされた感じがするー」
「あぁ、解る。俺も今そんな感じだ」
「俺はそんな事より今の流れを突っ込みたいっ!もうええやろっ!!なんで登場人物皆おかしいんっ!?なんで突然歌いだすんっ!?滅茶苦茶可愛いけど何でなんっ!?ふおおおおおぉぉぉぉっ!!」
奏輔御乱心だな。
「…楽しかっただろ?いいか?このゲームは先手必勝だ。美鈴の手をいかに塞ぐかが勝利の鍵だ」
そう言いながら鴇はポケットからカードを一枚取り出した。
「美鈴っ。今度は俺と勝負だ」
「ふみみっ!?ま、負けないんだからーっ!!」
その後、鴇と姫の勝負を見て、俺は思った。
俺達の分のプレイヤーカードも作って貰おうと。
そして今度は絶対にリベンジしようと、そう決めたのだった。
「……ん?」
「なんやチャイムの音が違った気せぇへん?」
「気のせいかなー」
本当に気の所為なんだろうか、と思いつつも白鳥家は何でもありだから気にしない事にする。それが自分の為だ。
暫く待ってると、ゆったりとした足音が聞こえて、ドアが開いた。
「いっつもチャイムも鳴らさずに入って来る癖に、何で今日はまたお行儀よくここで待機してるんだ、お前らは」
「前に二階の窓から入ったら、姫ちゃんに怒られちゃったんだよねー」
「大地。お前そんな所から入ったのか。じゃあ俺はまだマシだな。俺は庭からだし」
「どこがマシやねん。俺が一番マシやで。ただ玄関に逃げ込んだだけやし」
「…まともに来れる奴はいねぇのか。…まぁ、奏輔。お前には同情してやる」
ポンッ。玄関のドアから顔を出した鴇にそっと肩を叩かれる奏輔。俺も同情するぞ。ポンッと肩を叩いておく。
「なんやろ…優しさが嬉しい…」
「奏輔ー。オレん所の一番上あげようかー?」
「むしろ、お前んトコに家の姉やるわ」
「大地の所の枠はあと一枠だぞ。奏輔の所は二人だろ?…争いがおきんじゃね?」
一枠はうちの七海がとっちまったしな。
俺達三人、わいわいと玄関先で騒いでいると、
「鴇お兄ちゃーん?だぁれー?」
鴇の後ろからひょこんっと可愛いの結晶体が現れた。
「あ、お兄ちゃん達、いらっしゃーい」
か、可愛いっ!
……ん?姫の手にあるの、絵本か?
「鴇お兄ちゃん、あがって貰わないの?」
「美鈴。お前の目に見えてるのは幻であって本物ではないから」
「ふみっ!?幻っ!?え?ちょ、カメラっ!写真っ!」
トテテテテッ!
カメラを取りに走って行ってしまった。
そもそも幻って写真に撮れないだろ。姫、いつも賢い癖に変な所天然だよな。
「で?お前らは何しに来たんだ?」
「うん?あぁ、これ」
「これ?」
俺はポケットから二つ折にしたハガキを取りだして鴇に手渡した。
「なんだ?これ…って、差出人は蓮?」
「因みに俺のは蘭くんからやで」
「オレのは燐くんからー」
内容は、ただ単に遊びのお誘いだ。レベル上げしたいから一日付き合ってくださいって言うゲームのお誘い。しかし今あの子ら何歳だったか…。
全部しっかりとした文章でこの年齢で理解出来ないはずの漢字も使って、手本のような文字で綺麗に書かれてるんだよな、これ…。
「しかしゲームのレベル上げって何の…、って、あぁ、成程。あれか。あれ意外とはまるからなぁ。とうとうお前達まで巻き込まれるに至ったか」
何やら鴇が呟きながらドアを開けて俺達に入る様に促してくる。
素直に中へ入れて貰いリビングへと行くと、そこには既に白鳥の三つ子と旭が待機していた。
「あ、やっと来てくれた」
旭がこっちを見て手招きしている。俺達も素直にそれに従い、リビングのソファに座った。
…うん?テーブルの上に箱がある?
レベル上げってこれの事か?
俺達が顔を見合わせ首を傾げていると、トテテテテッと走る音がして、
「カメラ取ってきたっ!幻は何処っ!?ってあれ?いない?本当に幻だったっ?」
姫。本気でカメラ取りに行ってたのか…。
玄関できょろきょろしている姿が目に浮かぶようだ。
「おーい、姫ー。幻じゃねーからー。お邪魔してるぜー」
ソファに座りながら玄関にいる姫に聞こえる程度の声で叫ぶと、足音が再び聞こえてリビングに姫が顔を出した。
「あれ?ホントだ。なんだ、やっぱり幻じゃなかったんだー。鴇お兄ちゃんの嘘つきー」
「こんな一目で分かる嘘を信じるのがおかしいだろ」
「むー…」
ポテポテと歩いてカメラをテーブルの上に置いて姫はキッチンへ入って行った。
「おねえちゃんっ」
「ごほんっ」
「よむやくそくっ」
旭と三つ子が姫に付いて歩く。…こいつら、姫の前では相変わらず猫被ってるな。一体誰に似たんだか…。
「鈴ちゃん」
「鈴。僕達もお茶貰っていいかな?」
言うまでもなかったな。こいつらに似たんだ。
「はーい。皆冷たいミルクティーで良い?」
姫の淹れるお茶に不味いものはないので全く問題ない。全員で頷き、姫がお茶をトレイに乗せて戻って来た。
「あ、そっか。成程。皆、レベル上げする為にお兄ちゃん達呼んだんでしょ」
三つ子はコクコクと必死に頷く。
「旭は鴇お兄ちゃんと対決でもする?」
「んーん。まだ勝てないから三人のたたかい見てる」
「そっか。…鴇お兄ちゃん達も見て行く?」
三人も素直に頷く。しかも妙にわくわくと期待しているのが気になる。そんなに楽しいゲームなのか?これ。
俺達三人はいまだに何の事やら分からず首を傾げるのみだ。
「だとしたらここだと狭いね。三階に行こうよ。あそこならのびのび出来るし」
「あぁ、いいな。そっちのが見やすいしな」
鴇が同意して俺達は各自、渡された自分のコップを持って三階へと移動した。
何故か三階には既に畳が敷かれており、多少はしゃいでも平気なようにとコップを置く場所も何か所か設置されていた。
「どうせなら優兎も呼ぼうか」
「今日確か予定ないって言ってたしね」
携帯を取りだして葵が手早く電話をしている。
「さて、じゃあ今日はどんなお題にするの?」
「これっ!」
姫。いつの間にそんな職人エプロンを…?
「イカロスの翼?童話とも言えないし、結構ハードな内容だけど良いの?」
「やるっ!」
「レベル上げには」
「コンナンがつきものっ!」
「ふむ…。皆が良いならやろっかっ♪えっと対戦相手はお兄ちゃん達だね。透馬お兄ちゃん達のカードはまだ作ってないんだ。だからゲストカードでいいかな?」
そう言いながら姫が俺達三人の前にゲストカードと書かれたカードを一枚ずつ置いた。
「美鈴。俺達の時はその場で書いたりしてなかったか?」
「鴇お兄ちゃん達はいつか一緒にやるかなって思ってたから脳内でまとめて置いたんだけど。まさか透馬お兄ちゃん達もやるとは思ってなかったから」
「成程」
「それに、今回のメインがイカロスの翼だからね。最初からそこそこ強いカードを持たせないと負けちゃうし」
そこそこ強いカード?
目の前に置かれたカードを手に取って内容を見てみると、ゲストカード。レベルは対戦相手のレベルに合わせられると書いてある。人の絵も書いているが、まるで人の影だ。顔とか色とかは一切無い。
「って、ちょい待ち。このカード姫さんが作ったんか?」
同じくカードを眺めていた奏輔が問う。そう言えばさっき鴇がその場で書いてるって言ってたな。って事はこれが手造り?クオリティ高過ぎるだろ。
「えへへ。ゲストカードはちょっと手抜きなの」
手抜きでこのレベル?…姫、すげぇな。今度何か合作でもしてみるか?可愛いの作れると思うんだよ。いや、姫がいるだけでかなり俺の士気が上がる。今度本気で交渉してみよう。
「それじゃあ、今回はイカロスの翼だし、レベル上げの意味も込めて経験値獲得特化型のストーリーで行きますっ!」
『おー!』
三つ子が手早く自分の前にカードを一枚出した。多分個人カード?か?カードにプレイヤーカードって書いてるからな。
「では物語、はじまりはじまりー」
パチパチパチ。
何故か皆で拍手しているので俺達も釣られて拍手をする。
「ダイダロス、通称ダイたんは思いました。『ミーちゃんは陸と海を支配出来るじゃん?でもさー、空は無理っしょ?無理っしょ?したら、俺は空から逃げるしかなくね?』と」
めっちゃチャラいなっ!
「物語は遡ります。アテーナイにお住いのテーセウス事、テーぴょんが迷宮の怪獣、ミノタウロスをぐるぐるバットで方向感覚を狂わせ、見知らぬ洞窟へ誘導。そして逃走しました。迷宮から脱出出来たのは、クレタ島お住いの王様ミーちゃんこと、ミーノースの娘、アリアドネーことアリアのおかげ。なんでかーって言うと。アリアは、ミノタウロスことミノさんの生贄として連れられたテーぴょんに一目惚れ。自分の物にしたいと欲望にかられたアリアはテーぴょんに教えました」
……話の筋はあってる。あってるけど何でだ。滅茶苦茶突っ込みたい。奏輔もその衝動にかられているのか、横で突っ込みたい衝動を必死に堪えている。
「『生贄にされる為に来たって?大変だよねー。そこで良い案があるんだけど兄さん聞いて行かない?』『良い案?よし。聞こうじゃないか』『ただし条件あるんだけど』『条件?』『アタイとの結婚』『結婚?いや、俺女じゃたたな…』『構わん』『あ、そう?じゃ良いぞ。その条件で』『マジ?じゃあ…』ででででーんっ!!」
うおっ!?
行き成り何だっ!?
姫のテンションがいきなりあがったぞっ!?
「ミッション発動っ!!『アリアの糸を入手しろっ!』」
アリアの糸?
突然姫のテンションが変わったかと思ったら、姫がポケットへ手を突っ込み、小さな箱に先が隠れている…良く出店とかであるあみだくじの様な物を取りだした。あのポケットは四次元ポケットか?なんであんな小さなポッケにあの箱が入ってるんだ。
「引いた糸に寄って勝負が決まるっ!運試しっ!さぁっ、選んで選んでっ!」
運試し…?
俺達はそれぞれ意味も解らず紐の先を握る。意味が分かっている三つ子は楽しそうに先を握った。
「では、一斉に引っ張ってっ!」
全員同時に引っ張ったその先にはカードが付いていた。
「ぼく、ししゅういとー」
「ぼくは、しつけいとー」
「ぼくのは、つりいとー?」
釣り糸って頑丈だな。仕付け糸に刺繍糸は、まぁ妥当な所か。
それで俺達のは?
「……針金、って糸じゃねぇし」
「蜘蛛の糸って、ほぼほぼ見えへんやんか」
「綱引きの綱ー」
こっち碌なの回って来てねぇぞっ!
「いと、いっと~♪」
「いと、いっと~♪」
姫と旭が踊りだした。くっ、…可愛いなっ!
胸の前で手をぐるぐるして、左右にふりふり。二人揃って踊ってる。
「鈴ちゃん、可愛い…っ」
「鈴、可愛いっ」
「…渡してるカードはえげつないけどな」
鴇の突っ込みより双子の言葉に同意している俺達。じっと踊ってるのを眺めていると、途中優兎が部屋に入って来て。
「おっつぎのカードは~♪こ~れ~だ~♪」
「いと、いっと~♪」
「い、いと、いっと~?」
強制的に巻き込まれた。憐れな…。踊りは三人に増えました。
「糸の長さを決めるぞ~♪でででんっ!」
再びエプロンのポケットから取り出された箱。きっとさっきと同じようなカードが入っているんだろう。紐を同時に手に取り、一斉に引っ張る。
「うっ…ぼく一ミリ…」
「蓮は刺繍糸一ミリ手に入れた~♪」
「ぼくは…百センチだ」
「蘭は仕付け糸、百センチゲット~♪」
「ぼくは、十メートルだ」
「燐は釣り糸十メートル手に入れた~♪」
…取りあえず蓮はもう脱出不可能だな。刺繍糸で一番まともそうだったのに、一ミリって。目印になりもしねぇ。
そうだ。俺のはどうだったんだ?
「?、百センチ束が10本?」
「透馬お兄ちゃん、百センチの針金10本ゲット~♪」
「俺は…魔法?長さやないん?」
「奏輔お兄ちゃん、魔法効果ゲット~♪お好みのサイズをお選びいただけま~す♪」
「オレはー…一万キロメートル…?」
「大地お兄ちゃん、綱を一万キロメートルゲット~♪」
なぁ、俺達どっから突っ込んで良い?
奏輔が突っ込み入れたくて入れたくて、とうとう右手を抑え始めたぞ。
「連続ミッションっ!『迷宮を抜けろ』発動っ!旭っ!」
「らじゃっ!」
旭が何やら箱の中からごそごそと紙を取り出し、広げた。
「すげぇな。迷宮の地図って所か?」
「迷宮の入り口がこの一番右の端っこ。ここからミノタウロスのいる場所までは五百メートルあります。さぁ、頑張ってミノタウロスの所へ進んで脱出してくださいっ!」
「五百…」
五百、か…。
「ししゅういと、一ミリ…これおとしてもみつけられないし、まきつけられない…。でもいくしかないっ!いっきまーすっ!カード2まい、しようっ!」
「蓮、一ミリの刺繍糸を使用っ!迷宮を潜り、遭難っ!でれでれでん…ゲームオーバー…」
「うぅ、やっぱり…」
「蓮のかたきうちだーっ!カード2まいしようっ!」
「蘭、仕付け糸百センチ使用っ!迷宮を潜り遭難っ!迷宮クリア失敗っ!でれでれでん…ゲームオーバー…」
ふぅん。成程?
「なら、俺が行こうかな。姫。俺もカードを使用。ただし、50メートル進んだ時点で一本使用。更に曲がった方向の形に折り曲げで壁に設置」
「…うぬぬ…。やっぱり透馬お兄ちゃんは騙されないね…。カード二枚使用っ!透馬お兄ちゃん、ミノタウロスに到着っ!戦闘入りますっ!てってれーっ♪ミノタウロスの先制攻撃っ!『迷宮は俺の住処なのに何で俺が倒されなきゃならないんだっ!』が発動っ!」
「ぶくっ…」
後ろから鴇の噴き出す声が聞こえたが、今はスルー。
特に技の指定とかはない…?あ、プレイヤーカードの裏に今回だけの技設定がある。今姫が出したのがある種の通常攻撃だから、反撃出した方がいいな。
「反撃スキル発動『こっちだって不法侵入したくてしてるわけじゃねぇよ』を発動」
「反撃スキル『こっちだって不法侵入したくてしてるわけじゃねぇよ』が発動。ミノタウロスの攻撃ダメージの二倍の反撃。透馬お兄ちゃん、ミノタウロス撃破っ!更に見事脱出成功っ!ミッションクリアっ!」
「よし。オッケー」
こう言うのは先に条件を提示した方が勝ちってね。
俺のターンは終了だな。
「じゃあ、俺もいこかな。カード二枚使用で、蜘蛛の糸を大量に出して紡いでそこそこの太さの糸に変化させて、ミノタウロスへ」
「『蜘蛛の糸』が『加工済蜘蛛の糸』に変化っ!迷宮に突入っ!奏輔お兄ちゃん、ミノタウロスと戦闘開始っ!『えっ!?来るの一人じゃないのっ!?』が発動っ!!」
「…う~ん…ミノタウロスは基本的に物理攻撃やろし…なら拘束させて貰おかな。攻撃スキル『肉体改造』を使用」
「ふみみっ。ミノタウロスの攻撃を受け流しつつ、攻撃スキル使用。サブスキルで石化効果発動。奏輔お兄ちゃん、ミノタウロス撃破っ!更に脱出も成功っ!ミッションクリアっ!」
奏輔もクリア、か。あとは大地と燐だな。
「えっと…ぼくもカード2まいつかうっ!ただし、十メートルを一メートルずつに千切ってつかう」
「釣り糸十メートルを分断っ!迷宮に使用っ!ミノタウロスの所へ到着っ!戦闘開始っ!」
「せんてひっしょうっ!『マッチいりませんか』をはつどうっ!」
「先手必勝で燐、マッチ売りの少女固有スキル『マッチいりませんか』を発動っ!ミノタウロスに炎の属性攻撃っ!ミノタウロス撃破っ!脱出も成功っ!ミッションクリアっ!」
「やったーっ!」
燐がクリアした。残す所は大地のみ。
「オレもカード使いたい所だけどなー。何となく嫌な予感がするんだよなー。まぁ、いいやー。二枚使ってみよー」
「大地お兄ちゃん、綱を一万キロメートルを使って迷宮へっ!でけでんっ!重過ぎるっ!!それでも頑張って頑張って進み、なんとミノタウロスの所へ辿り着きましたっ!」
「おおー」
「『おいおい。お前大丈夫か?んな重たいロープ持ってくる奴があるかよ』『あー、悪い悪い』『お?お前話しやすいな。どうだ?俺と一杯』『いいね~』和解した二人は一生迷宮で暮らす事に決めました。でれでれでん。ゲームオーバー」
「まさかの終わり方ー。オレびっくりー」
生き残ったのは、三人か。
…どうする?ちょっと楽しくなって来たぞ。
次の話展開を待つ事にする。
「糸を辿って入り口に戻って来たテーぴょんとアリアは幸せになりました。めでたしめでたしと言いたい所ですが。なんとっ!自分の娘がバカ娘だと理解していた王様ミーちゃんは言いました。『アリアにそんな知識ある訳ねぇべさー。誰か教えだんでねが?んだぁっ、あれだあれっ。迷宮つぐったダイって男いだべや?あいつだべ。アリアさ無駄なごとおしえだの。だいだ、あれなばー。余計なごどしてー。まず牢さいれでまえ』と」
「な、なまってる…」
「東北訛りだねー」
「あぁ、突っ込みたいっ。ボケを見逃していたくないんや…くぅっ」
「八つ当たりをしたい王様ミーちゃんはダイたんの息子諸共牢にポイッされてしまいましたっ!」
スクッ。
姫が突然立った。
それにならって旭も隣に立ち上がり、何故か巻き込まれた優兎も立ち上がる。
「ごほんっ。あー、あー…うぅんっ。では…『む~か~し~ギリシャ~のイカロスは~♪蝋で固めた鳥の羽~♪』」
「わわわわ~♪」
歌いだしたっ!?
「『両手にも~って、飛び立っ~た~♪雲よ~り、た~か~く、まだ遠~く~♪』」
「わわわわ~♪」
「わ、わわわわ~?」
一体何がしたいんだ…。いや、上手いぞ?歌は上手いし、三人共可愛いは可愛いんだが…。
「と言う事でイカロスの翼争奪戦っ!神経衰弱ーっ!!」
姫の宣言と同時に旭が準備を始めた。
俺達の前に12枚のカードが伏せて並べられる。
「なっにがでるかな~♪」
「でるかな~♪」
「で、るかな~?」
優兎…お前ホント付き合い良いな…。俺涙が出そうだわ…。
「じゃあ、ぼくからめくるよっ!」
先手、燐。一枚めくるとそこにはペリカンが描かれていた。そして、もう一枚。めくって出た絵はペンギン。
「あー…しっぱい…」
「じゃ、次は俺行こうかな?」
奏輔がカードに手を伸ばす。一枚はダチョウ。そして、もう一枚。おっ、ダチョウだっ。
「奏輔お兄ちゃん、翼ゲット~♪」
「翼って…もしかしてダチョウのかっ?」
やべぇ。これもしかしてイカロスが作った蝋の翼が決まるって奴か?
こりゃ慎重に行かなきゃ、だな。
手を伸ばして、一枚裏返す。…骨?鶏の骨が描かれてるぞ。翼ですらねぇぞ?羽がない、羽が。もう一枚…めくってみよう。手に取って裏返す。…白鳥?
「透馬お兄ちゃん失敗っ!」
チャンスはあと一回だけらしい。
「これと…これっ!」
燐が捲ったのは白鳥と、鴉。
「燐。蝋の羽製作に失敗っ!ゲームオーバー。でれでれでん」
「うぅ…おわっちゃった…」
次はまた俺だな。今まで一度も開いてないカードを開いて……骨だ。くそっ。場所は解る。解るがこれを手に入れても絶対無駄だろっ!
…でもまぁ、仕方ないな。
一度開いて知っていたカードを裏返す。
「透馬お兄ちゃん、骨の羽ゲットーっ!さぁ、二人共飛び立とうっ!」
「いや、無理じゃね?」
「その通りっ!透馬お兄ちゃん、骨の羽では空を飛べずっ!ゲームオーバーっ!でれでれでんっ」
一瞬にして終わったし。いや、なんだ、この中途半端感は。
「次にダチョウの翼をゲットした奏輔お兄ちゃんっ!ダチョウの翼を作って大空に舞い上がったっ!」
おおっ?進めるのか?
「が、何分ダチョウの翼っ!飛べませんっ!」
「そやろなっ!」
「落下っ!複雑骨折っ!イカロス、即行で訪れた死っ!ゲームオーバーっ!でれでれでんっ!」
……。
えーっと…。
視線を三つ子に向ける。すると、
「けいけんちがー」
「げっとしたカードがー」
「でも、これをごうせいするとー」
真剣に対策を考えており、双子の方を向くと、双子は笑いを堪えていた。
「……何だろー。姫ちゃんの手の平で転がされた感じがするー」
「あぁ、解る。俺も今そんな感じだ」
「俺はそんな事より今の流れを突っ込みたいっ!もうええやろっ!!なんで登場人物皆おかしいんっ!?なんで突然歌いだすんっ!?滅茶苦茶可愛いけど何でなんっ!?ふおおおおおぉぉぉぉっ!!」
奏輔御乱心だな。
「…楽しかっただろ?いいか?このゲームは先手必勝だ。美鈴の手をいかに塞ぐかが勝利の鍵だ」
そう言いながら鴇はポケットからカードを一枚取り出した。
「美鈴っ。今度は俺と勝負だ」
「ふみみっ!?ま、負けないんだからーっ!!」
その後、鴇と姫の勝負を見て、俺は思った。
俺達の分のプレイヤーカードも作って貰おうと。
そして今度は絶対にリベンジしようと、そう決めたのだった。
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