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最終章 未来への選択編
※※※(鴇視点)
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母は強しと昔から言うが。
正直ここまで強いものとは思わなかった。
まさか、美鈴本人が囮になると言いだす程の強さを娘に与えるなんてな…。
確かに美鈴が囮になるのが一番、解決には早い方法だ。
あくまでも前世の流れとゲームの流れを汲んで動いていますと、そう思わせ、新たに転生した奴の記憶を消し、最後に都貴静流の美鈴に対する記憶を消すのが一番だ。
その為の薬の依頼は既に未と新田に依頼済みだ。
だが…この作戦を使うつもりはなかった。
美鈴が怖がる。それもある。しかしそれ以上に、【俺が】嫌だったんだ。美鈴に都貴が近寄るだけで許せない。
当然だろう?俺は幾度となく都貴に美鈴を殺されて来たんだから…。それに、俺は今まで散々腕の中で美鈴を失って来たんだ。だから、美鈴をどろどろに甘やかしてやりたい。もっと言うなら、自分の腕の中に閉じ込めて他の男を視界にいれなくてもすむようにして、美鈴を愛したい。
だが、そんな事は不可能だって知ってる。だからせめて、
「美鈴…俺は…」
危険な目にあわせたくない。そう言おうとしたのだが、
「鴇。…男なら戦おうとする惚れた女ごと守れるようになりなさい。助けやすい女を助けるのではなく、戦おうとする女を全力で守れるような男になりなさい。…漢気を見せなさい」
美鈴を止めようとした俺を佳織母さんはバッサリと斬りつけた。
母さん。…貴女の親友の佳織母さんは、貴女以上に強い女性だったようだ。
「やっぱり、ママは私の理想の女性像だよ」
ニコニコと笑う美鈴は可愛いが、出来ればアレの半分くらいで頼む…。
きっとこれ以上は何を言っても無駄だろう。
なら、美鈴を守れるような完璧な作戦を立てるしかない。
「まずは普通通りに日々を過ごすのが良いわね」
「だな。美鈴の側にいつも通り誰かしら付いてて貰った方が良い。その指輪も残念だが外して何処かにしまっておいてくれ」
「いいえ。それは駄目よ、鴇」
「なんでだ?」
「相手をもう少し焦らせといた方が、冷静な判断力を奪う為にも良いわ。今回は私の存在の所為で少し違うと思わせておきましょう。その証拠が鴇と恋人同士になったその指輪」
「成程。逆に俺のものだと見せつける訳か」
「それである意味ゲームの流れに添わせていると思わせることも出来るわ」
等々話し合いを繰り返す。そこから導き出された佳織母さんが持ってた情報と俺の情報を照らし合わせた結果とストーカーを潰す作戦はこうだ。
照合結果
1.俺達の前世について。
これは多分俺の方がより正確な情報を持っていたと思われる。
それも当然だろう。美鈴は何度か美鈴に転生しているが、大抵、一個前の記憶を持つ事しかない。佳織母さんはさっきも言ったように今回何故記憶を持ってるのか不思議な程だ。佳織母さんには前世の記憶はないのが通常。だから今回も前世の知識について持っている訳がない。
だが、そんな佳織母さんが無意識に提示した情報。それは、【覚醒転生者】と【条件付き転生者】の事だ。こんな言葉、人として転生した記憶を全て保持する俺ですら知らなかった言葉だ。
【覚醒転生者】は美鈴達のような天然の記憶持ち。
【条件付き転生者】は俺のような条件を満たす事によって記憶を取り戻す記憶持ち
の事を言うようだ。
佳織母さんは無意識に俺が知っているだろうと提示した情報だったんだろうが、そんな言葉聞いたこともない。
それに違和感もある。転生を繰り返している俺が知らないと言う事もそうだが、それ以上に。
美鈴達は本当に【天然】なのか?
確かに天然っぽくもあるが…。まるで誰かにそうなるように操作されてるような…。
条件付き転生者と言う言い方も気になる。そんな言い方をするって事は、他にも沢山同じような人物がいるって事だろう?名称があるってのはそう言う事だ。
転生者なんてそんなに目撃するのだろうか?
俺の予想だと、佳織母さんは詳しい事を誰かに説明されたんだろうと思う。が、それはきっと都貴静流の転生体であった奴らではないだろう。何故なら、アイツの知識は俺と似たり寄ったりだからだ。どうやら俺も奴も必ず美鈴の側に転生する運命にあるようだからな。
都貴静流でないとしたら、誰か。
まぁ、普通に考えて親父、だよな。佳織母さんが意図的に名前を出さないのも何か意味があるのか?
最近、それこそ美鈴が高校卒業したあたりから、親父は忙しく同じ職場にいるのに顔を合わせる事も少なくなった。それも関係している?とは言え、親父が俺達に、ましてや溺愛している美鈴にとって不利になるように動くとは思えない。
…今は、親父の事は放置して良いかもしれないな。
話し戻して。
美鈴と俺、そして都貴静流の三人は同じ流れで転生を繰り返している。佳織母さん達の事もあるから、脳内で考えると混乱しがちだが。沢山の紙の束から赤い紙と青い紙を取りだしたと考えると分かりやすい。
赤い紙が俺達三人の転生の本流だとする。青い紙は佳織母さん達の転生の本流だ。この二つの紙は個体が別物だ。重なったりくっつけたり折ったり破いたりとする事は出来ても、この二枚の紙を紫の一枚の紙に加工する事は出来ない。
けれど、佳織母さんと話を合わせてる内に、誰かがそれをやってのけているような気がしてきた。
それは誰か。
普通に考えると、親父、なんだろうが…。
何故かは解らないが、親父もどちらかと言えば俺達と同じように流されているような気がするんだよな…。確固たる自信はないんだがな。
2.乙女ゲームについて。
美鈴と佳織母さんが説明してくれたが、正直これといった実感はない。
まず、男を落とす恋愛ゲームがある事は二人がコソコソとやっているのを知っていたから、認知はしていたが…。
まさか、自分が対象のゲームが前世の現代日本で出来ているとは思わなかった。まして、美鈴が主人公で、俺以外の男を落とす可能性があるゲーム…。正直、叩き割りてぇ…。
そのゲームがあったから美鈴が今まで、それこそ俺に抱かれるまでストーカー含む他の野郎のものにならなかったとは言え…複雑だ。
そして、そのゲームだが。
美鈴が詳しく知っていたのは【輝け青春☆エイト学園高等部】と言うパラメータ系乙女ゲームだったらしい。
落としたい男が好む女になって、男に自分の魅力をみせつけて告らせる。その為のパラメータ上げを楽しむゲーム。
佳織母さんは美鈴以上に詳しかったらしく、【輝け青春☆エイト学園高等部】の前に発売されたゲーム【無限―エイト―】の事まで網羅していた。
二人にゲームの事を詳しく聞いたが、…聞くんじゃなかったと若干後悔する位ヒートアップした…。
二人共。俺が聞きたいのはそこじゃないんだ。透馬の水着姿がどうとか、樹の眼鏡姿がどうとか、ぶっちゃけどうでもいいぞ。…いや、美鈴に関してはどうでも良くないな。後で他の男の萌えポイントなんて語った事を後悔する位愛してやろう。
さて。美鈴へのお仕置きはさておき。
乙女ゲームに関して、気になるのは出来たタイミングの話だ。
俺は何度ともなく白鳥鴇に生まれ変わっている。そして俺が転生した時は必ず美鈴も前世の記憶を持って転生している。それは揺るがない。揺るがないが、今まで乙女ゲームについて美鈴が話した事はなかった。
そもそも美鈴と早く出会う事はなかったしな。美鈴とは大抵早くても高卒後に合っている。勿論、その時の俺に前世の記憶はない。美鈴は生きているからな。だが美鈴は前世がある所為か、たまにゴモゴモと口ごもる事が多かった。謎が多いと言うか、何をしても追い越す事の出来ない女に出会って目が離せなくなったんだよな。
勿論佳織母さんはそんな記憶なんて持ってなさそうだったし。親父は佳織母さんと仲睦まじい様子だったが、二人共前世だと美鈴を置いて家から出て行くことが多かった。それの所為で美鈴は一人夜のホスト街を歩いてたりした訳だから。俺達の出会いは毎回そこだしな。
あぁ、でも一回だけ、美鈴が不思議な行動をとっている時があったな。この世界に転生した時だけをカウントして、一回前だ。あの時美鈴はエイト学園がどうのって言っていた気がする。…やっぱり膨大な記憶ってのは維持できないな。忘れてしまう。そうだ、俺もさっき言ったじゃないか。前の美鈴がゲームの事をメモしていた、と。
となると、だ。
【初代の俺と美鈴、都貴の行動】が転生した現代日本で【誰か】がゲームとして美鈴を救う手立てとして作った。それが【無限―エイト―】だった訳だな。
だがそのゲーム情報通り美鈴が自分を鍛えるだけでは、都貴の行動を御する事が出来なかった。何故なら都貴は同じ人間に転生出来ない。都貴を警戒した所で無駄だった訳だ。この時点で俺と美鈴はまだ恋仲にはなってなく、美鈴も俺に隠れてゲームの情報を書いている程度だった。
その後、何度となく俺達は転生を繰り返した。その間に乙女ゲームの話は一切出て来なかった。
そして、今世だ。佳織母さんが前世の記憶を持ったまま転生した。その為に俺と美鈴の出会いは恐ろしく早まった。能力や親密さも前世の比でない位に上昇し、更に現代日本で【無限―エイト―】がもっと精密に作り直されて、【輝け青春☆エイト学園高等部】と言う能力補填、危機回避情報も佳織母さん経由で入手させる事が出来た、と。
要は、こうだ。
【エイト学園世界】―【現代日本(【無限―エイト―】が作成される。大雑把な作りだった為、同人ゲームレベル。それを美鈴の転生体がプレイ)】―【エイト学園世界(美鈴が記憶を頼りに死亡フラグを回避しようとしたが、俺共々失敗し都貴に殺される)】
―【間にアースラウンドを含め他多数の世界でも転生を繰り返す。勿論中にはエイト学園世界も入っているが、結果は全て同じで鴇と共に殺されている】―【現代日本(美鈴が華として転生し、【輝け青春☆エイト学園高等部】をプレイ。佳織の前世である薫が【無限―エイト―】をプレイ)】
―【エイト学園世界(今現在)】
と言う流れが俺達の転生の流れだ。時系列の視点がややこしいから面倒だ。
しかし、こう考えると、一番最初に美鈴がプレイした【無限―エイト―】はどうにも乙女ゲームっぽくないな。まぁ、今となっては詳しく知る事は出来ないだろう。
以上の事を考えるにやはり、俺達の転生の流れに介入している人物がいる事は間違いない。
多分そいつが、俺が佳織母さん達に言ったような人間だ。
『この世界で生きた俺達以外の人間が記憶を持ったまま転生し、前世の現代日本で美鈴を幸せに導くためにゲームを作った人間がいる』
のはやはり間違いなさそうだ。
美鈴達が言うヒロイン補正。それもきっとそいつが絡んでいる。美鈴の周辺を整える、進むべき道へ誘導する事が出来る様な人間?
…一体誰だ?
3.ストーカーについて。
ストーカーの初代が都貴静流である。
これは間違いない。今現在は美鈴が気になる、程度だろう。だが、これからどうなるか、だ。
初代のストーカーである都貴静流はまだ、自分に呪いをかけていない。呪いをかけるのは、来世で美鈴の事を思い出してかけるのだ。
俺と美鈴が初代だった頃。
ホストだった俺は美鈴の大学生活に興味がなかった。そもそも親が再婚したと言われても、あっそ程度だった。
それはどうやら精密に作られた【無限―エイト―】でもバッドエンドとして語られていた。しかし、今回は違う。俺も記憶を取り戻しているし、何より都貴の転生体である奴らの大半の記憶を消去しているからだ。佳織母さんの事もある。
都貴静流本人は自覚がなくとも、都貴静流の残留転生体はかなり追い詰められているに違いない。その証拠に転生体の一人である武蔵と言う美鈴の元教師が自殺を試みている。
そもそも都貴静流は自分に呪いをかけて転生しているから転生の仕方も記憶の取り戻し方も俺達とは違う。
同じ世界に何人もの転生体がいるのはその所為だ。どいつもこいつも美鈴の周囲に集まってくる。砂糖に群がる蟻のように。
そして、美鈴はどの世界でも都貴に犯され、命を落としている。美鈴の男性恐怖症はそこから生まれた。どの運命でも見知らぬ男に突然襲われ、人生を全うする事なく命を奪われた恐怖が美鈴の魂そのものに刻み込まれているんだ。
ぽつぽつと小さい声で話してくれた美鈴の証言を聞くと、華の時は小さい頃から襲われたらしい。特徴を聞く限り間違いなく都貴の転生体だろう。美鈴が言っていた自分に欲を向ける男が嫌いな理由は、無意識に都貴の転生体と重ねて見てしまっていたからだ。
俺は美鈴を殺されてから記憶を取り戻す。冷たくなった美鈴を抱きながら、敵を討つが最後には俺も命を失っていたのだが、やはり記憶がないと都貴の転生体を見定める事が出来ない。常に後手に回ってしまって美鈴を失ってしまっていた。
俺は奴の転生を大体は理解出来ているが、全てあげていくと切りがないから代表的な所を上げていく。
【都貴静流】―【薫を殺し華を犯した医者】―【武蔵麗子】―【先代金山】―【華を殺したストーカー】―【早乙女蠍三】―【早乙女蟹次】―【近江虎太郎】
の順だろう。勿論、今代表で上げた連中の間にもこいつは数知れない量の転生を繰り返している。例え別の世界だとしても美鈴が側にいないと知ると即行で自殺している筈だ。
そして、以前の闘いで記憶消去の薬を使い、早乙女蠍三以降の転生体の記憶はなくなっているだろう。
だが、問題はそいつ以前の奴の記憶は生きていると言う事だ。やはり初代である都貴静流の記憶を消すのが一番だろう。
都貴静流が美鈴に惚れた瞬間は何処だ?
初代の美鈴は、気付けば男が背後を歩いていたり、自分の物を無くしたりしたと言っていた。それも都貴の仕業だろう。そんな都貴と体の関係はあったのか?と聞いた時、酒に飲まれて一度だけ寝たと言ってたか…。今の美鈴だと想像もつかないような事だが、あの時の美鈴ならばあり得るか。人の愛情に飢えに飢えていたから。と、脱線したな。
美鈴と都貴が寝た時にあいつは惚れたのか。それとも寝たのも計画の内でその前から惚れていたのか。…判断がつかないな。
奴が美鈴に惚れている状況は喜ばしい事ではない。
だが、奴の記憶を無くすために作った丸薬は、【一番忘れたくない人物の記憶を消す】薬だ。となると、惚れていないのであれば消す事は不可能だ。
それ以外に手段も考えておくべきか。しかし、あの丸薬ですら様々な手を尽くして作った物だ。それに先代金山から転生した人間がまだいたとしたら、そいつらは丸薬を回避する手段を身につけるかもしれない。
そんな事を察知して動くなんてそれこそ【神様】でもない限り不可能だ。
佳織母さんも言っていたが、
『この世に神様なんていない』
のだから。
自分達で解決の糸を手繰り寄せて今度こそ美鈴を守る必要があるんだ。
以上が照合の結果だ。これらで分かった事は、【全てを理解して操っている人物】の存在だ。それが誰なのかは解らない。だがこちらの味方なのは間違いない。何せ、行動が全て美鈴の為なのだから。
それから、以上の事を踏まえて。今度は、ストーカーを潰す作戦だ。
○ 作戦内容。
まずは都貴静流の記憶を消そうと動く必要がある。勿論美鈴に惚れていないのであれば、そのまま行けば何も問題はなくなるだろう。都貴静流が美鈴に惚れたが為に次の世に転生した都貴静流の転生体は美鈴を取り戻そうとするのだ。だったら惚れなければ美鈴を思いだす事もなくなる。だが今までの事を顧みるにその可能性は低そうだ。
何より、あの接待飲みの時。都貴静流は美鈴と俺のキスを見て、まるで俺を射殺さんとせんばりに睨みつけてきた。あれで惚れてない訳がない。あいつもなんだかんだで美鈴に惚れる運命にあるのだ。
となると、まず都貴静流の行動を見張っておくのが第一。そして都貴静流の記憶を消そうとすると、必ず記憶を維持したい転生体達は都貴静流にもしくは美鈴に接触をしてくる。顔ばれしている人間は来ないだろうから、新たな転生体としてくるだろう。新たな転生体となると、…武蔵だな。あの女教師が自殺して命を絶てば、行動を起こしてくると思った方が良いだろう。
美鈴が武蔵の所に見舞いに行くと言っていたから、行かせる。…自殺に導くのかって、美鈴に言われたが。そんな事はしない。念の為に、記憶を消す薬を飲ませるつもりだ。だが、恐らく飲まないだろう。あいつはもう完全に都貴の記憶に動かされているはずだからな。…あの薬を作る為には必ず必要な素材がある。【忘却の川の水】が必要だ。これはもう残存していないと金山が言っていた。もう里にあるのが限りだと。無駄遣いは出来ない。作れて、もう二つって所だ。
だから出来る事ならば都貴静流に使いたい。もとを絶てば解決する話だからだ。
作戦をざっくり説明するならばこうだ。
1、美鈴が囮になり、都貴を油断させる。
2、美鈴が既に俺のものになっていると知らしめて、都貴を焦らせる。
3、美鈴に対して行動を起こした瞬間を捕まえて、美鈴に手を出す前に記憶を消去する。
となる。
この間、俺は記憶を取り戻していないふりを。
佳織母さんはゲームの流れに添っているふりをしなくてはならない。
都貴の持っている金山経由の情報を逆手に取って利用する流れに持って行くのだ。
これが今佳織母さんと美鈴の三人で話し合った結果だ。
俺は足の間に座る美鈴をぎゅっと抱きしめた。
「?、どうしたの?鴇お兄ちゃん」
「…本音を言えば、俺はお前を甘やかしたくて仕方ないんだがな」
「あ、ぅ…」
顔を真っ赤にして、恥ずかしがる美鈴の姿を見ていると、幸福感で満たされる。
「息子と娘のイチャつきねぇ…。何か新鮮だわ」
「ま、ママッ。なんで凝視してんのっ!?」
「あら?じゃあ、カメラ置くだけにしとく?」
「見ないでって言ってるのーっ」
「…冗談よ。美鈴が幸せそうにしてるのが嬉しいだけ」
ふわりと微笑む佳織母さんは美鈴の微笑み方に似ている。本当に喜んでくれてるんだなと思っていると、
「ママ。騙されないからね。そっとカメラ置いて行こうとしないで」
娘は早々簡単には騙されないようだ。
にしても、佳織母さんも昔から美鈴の為を思って行動してる癖に、こうやって照れ隠しするよな。照れ屋って所も母娘そっくりってことか。
「それじゃあ、私は部屋に戻るから。後は二人でごゆっくりどうぞ」
「佳織母さん?」
ソファを立ち、手を振りながらリビングを出て行く佳織母さんを止めようとしたが、
「締め切り明けで眠気MAXなんだよ。ほっといてあげて」
と美鈴に言われて頷くしかなかった。
「なぁ、美鈴?」
「なぁに?鴇お兄ちゃん」
「…絶対無理はするなよ?無茶も駄目だ。今度こそ二人で幸せになるんだからな」
「うん。解ってる。大丈夫だよ、鴇お兄ちゃん」
すりすりと額を寄せてくる美鈴は、マジで可愛い。
そんな美鈴を素直に受け入れながら、金色のほわほわとした髪を撫でる。やっと甘やかす事が出来るのかと思うと感動も一入だ。
「あ、ねぇねぇ。鴇お兄ちゃん」
「うん?どうした?」
「確かめたい事があるんだけど」
「確かめたい事?」
「うん。聞くのは怖いけど、知らないでいるともっと怖いから」
一体何だ?首を傾げると、美鈴は抱きしめている俺の手を重ねて握る。
「中学の時、皆は隠してくれてたけど私宛に沢山手紙、来てたよね?あれって武蔵先生が書いてたの、かな?」
「……そうだろうな。そう考えると納得出来る点が多々ある」
「じゃあ、お兄ちゃん達とかが見てたメールは?前世の私が写ってる、んだよね?」
「あれは、メールを作ったのは武蔵で、サイトを作ったり送信したりしたのは他の転生体の誰かって所だろうな」
「って事は、前世の私の写真をこっちに持って来たって訳じゃないの?」
「そんな事は不可能だろう。普通に考えて。それに俺もその画像を確かめたが、良く見ると合成ってのが丸わかりだった」
「…因みに、小学生の時私が一人でいた時に感じた男性の気配と昔旅行で里帰りした時のホテルで感じた視線は?」
「あれは先代の金山と考えるのが妥当だろう」
「…となると、まさか露見尾くんはっ!?」
「あれはただの妖怪だ」
最後のだけは俺には理解出来ない生き物だ。
「露見尾くんが転生体じゃなくて良かったね」
「……確かに。あれに転生されたら人類は滅ぶ」
と言うか何でそこを掘り返してきた…?
あれは忘れても良いものだと思うが…?
「ねぇ、鴇お兄ちゃん?」
「今度は何だ?」
「ゲームだと、私が他の人とくっつくルートがあるじゃない?」
「あるな」
腹立たしいがな。だが、もしゲームを作った誰かが美鈴の為を思って作ったのならば俺とはくっつけたがらないだろう。確実に死が待っているとしたら危機を回避させたいのは当然の感情だ。
「そこでもまた事件が起きるよね?」
「うん?まぁ、そうだろうな」
「それって、どうなるのかな?」
あぁ、成程。その問題がこっちに降ってくるのか、そのルートのキャラ達が一人で戦う事になるのか、とか気にしてる訳だ?
「…問題ないだろう。俺の予想では美鈴がそのルートを選ぶことで発生する事件だったり、事が大きくなったりするんだろうから。ヒロインってのはトラブル体質と同義語だしな」
「それ、ママにも言われた」
「もっと言うなら、ヒロインがって言うより、元々美鈴がトラブル体質とも言えるぞ」
「ふみっ!?」
「正義感を持つのも良いが、自分の力量をちゃんと把握しておけよ?他の攻略対象キャラだって、本来は一人で乗り越えれる問題だ。それに…皆佳織母さんに鬼の様に鍛えられたから大丈夫だろ」
俺も度々思うからな。…佳織母さんのストレス発散に付き合うより、仕事の接待してた方が万倍楽だってな…。
思わず遠い目をすると、何か美鈴も思い当たる節があるのか同じく遠い目をしていた。
暫く何も話さずに、二人ぼんやりとソファに体を預け微睡む。
そして気付けば二人揃って眠ってしまっていた。まぁ、遅く起きたとは言え明け方までほぼほぼ寝ていないしな。
そうして、二人で眠って。目を覚ました時には隣のソファに葵と棗が、俺達の横には旭と三つ子が一緒になって眠っていた。
しっかりとタオルケットがかけられている。これは…佳織母さんか?
きっと嬉しそうに微笑んでかけてくれたんだろう。佳織母さんの優しさに思わず笑みが浮かぶ。
だが、佳織母さん?
俺の肩までタオルケットをかけると、足の間にいる美鈴と、隣でひっついている弟四人は…。
「ふみーっ!あっつーいっ!」
「苦しーっ!」
「ぷはーっ!」
「酸素ーっ!」
「つらーっ!」
全力で起き上がって、タオルケットをぺいっと放り投げていた。
まぁ、こうなるよな。
「んー…?」
「どうしたのー?」
五人の叫びに双子が起きる。結局いつもの騒がしさに戻る訳だ。
まぁ、これはこれで嫌いじゃない。
最初の白鳥鴇だった頃に比べたら、これはかなり幸せな事だと分かるから。
佳織母さんが皆で幸せになる為に頑張った結晶だ。
俺がその事を心の底から実感していると、振り返った美鈴が首を傾げていた。
「なんでもない。…ただ、幸せだと思っただけだ」
そう本音で答えると、美鈴は微笑んだ。そして、
「もっともっと幸せになろう?」
そう言って頬に触れるだけのキスをくれたのだった。
正直ここまで強いものとは思わなかった。
まさか、美鈴本人が囮になると言いだす程の強さを娘に与えるなんてな…。
確かに美鈴が囮になるのが一番、解決には早い方法だ。
あくまでも前世の流れとゲームの流れを汲んで動いていますと、そう思わせ、新たに転生した奴の記憶を消し、最後に都貴静流の美鈴に対する記憶を消すのが一番だ。
その為の薬の依頼は既に未と新田に依頼済みだ。
だが…この作戦を使うつもりはなかった。
美鈴が怖がる。それもある。しかしそれ以上に、【俺が】嫌だったんだ。美鈴に都貴が近寄るだけで許せない。
当然だろう?俺は幾度となく都貴に美鈴を殺されて来たんだから…。それに、俺は今まで散々腕の中で美鈴を失って来たんだ。だから、美鈴をどろどろに甘やかしてやりたい。もっと言うなら、自分の腕の中に閉じ込めて他の男を視界にいれなくてもすむようにして、美鈴を愛したい。
だが、そんな事は不可能だって知ってる。だからせめて、
「美鈴…俺は…」
危険な目にあわせたくない。そう言おうとしたのだが、
「鴇。…男なら戦おうとする惚れた女ごと守れるようになりなさい。助けやすい女を助けるのではなく、戦おうとする女を全力で守れるような男になりなさい。…漢気を見せなさい」
美鈴を止めようとした俺を佳織母さんはバッサリと斬りつけた。
母さん。…貴女の親友の佳織母さんは、貴女以上に強い女性だったようだ。
「やっぱり、ママは私の理想の女性像だよ」
ニコニコと笑う美鈴は可愛いが、出来ればアレの半分くらいで頼む…。
きっとこれ以上は何を言っても無駄だろう。
なら、美鈴を守れるような完璧な作戦を立てるしかない。
「まずは普通通りに日々を過ごすのが良いわね」
「だな。美鈴の側にいつも通り誰かしら付いてて貰った方が良い。その指輪も残念だが外して何処かにしまっておいてくれ」
「いいえ。それは駄目よ、鴇」
「なんでだ?」
「相手をもう少し焦らせといた方が、冷静な判断力を奪う為にも良いわ。今回は私の存在の所為で少し違うと思わせておきましょう。その証拠が鴇と恋人同士になったその指輪」
「成程。逆に俺のものだと見せつける訳か」
「それである意味ゲームの流れに添わせていると思わせることも出来るわ」
等々話し合いを繰り返す。そこから導き出された佳織母さんが持ってた情報と俺の情報を照らし合わせた結果とストーカーを潰す作戦はこうだ。
照合結果
1.俺達の前世について。
これは多分俺の方がより正確な情報を持っていたと思われる。
それも当然だろう。美鈴は何度か美鈴に転生しているが、大抵、一個前の記憶を持つ事しかない。佳織母さんはさっきも言ったように今回何故記憶を持ってるのか不思議な程だ。佳織母さんには前世の記憶はないのが通常。だから今回も前世の知識について持っている訳がない。
だが、そんな佳織母さんが無意識に提示した情報。それは、【覚醒転生者】と【条件付き転生者】の事だ。こんな言葉、人として転生した記憶を全て保持する俺ですら知らなかった言葉だ。
【覚醒転生者】は美鈴達のような天然の記憶持ち。
【条件付き転生者】は俺のような条件を満たす事によって記憶を取り戻す記憶持ち
の事を言うようだ。
佳織母さんは無意識に俺が知っているだろうと提示した情報だったんだろうが、そんな言葉聞いたこともない。
それに違和感もある。転生を繰り返している俺が知らないと言う事もそうだが、それ以上に。
美鈴達は本当に【天然】なのか?
確かに天然っぽくもあるが…。まるで誰かにそうなるように操作されてるような…。
条件付き転生者と言う言い方も気になる。そんな言い方をするって事は、他にも沢山同じような人物がいるって事だろう?名称があるってのはそう言う事だ。
転生者なんてそんなに目撃するのだろうか?
俺の予想だと、佳織母さんは詳しい事を誰かに説明されたんだろうと思う。が、それはきっと都貴静流の転生体であった奴らではないだろう。何故なら、アイツの知識は俺と似たり寄ったりだからだ。どうやら俺も奴も必ず美鈴の側に転生する運命にあるようだからな。
都貴静流でないとしたら、誰か。
まぁ、普通に考えて親父、だよな。佳織母さんが意図的に名前を出さないのも何か意味があるのか?
最近、それこそ美鈴が高校卒業したあたりから、親父は忙しく同じ職場にいるのに顔を合わせる事も少なくなった。それも関係している?とは言え、親父が俺達に、ましてや溺愛している美鈴にとって不利になるように動くとは思えない。
…今は、親父の事は放置して良いかもしれないな。
話し戻して。
美鈴と俺、そして都貴静流の三人は同じ流れで転生を繰り返している。佳織母さん達の事もあるから、脳内で考えると混乱しがちだが。沢山の紙の束から赤い紙と青い紙を取りだしたと考えると分かりやすい。
赤い紙が俺達三人の転生の本流だとする。青い紙は佳織母さん達の転生の本流だ。この二つの紙は個体が別物だ。重なったりくっつけたり折ったり破いたりとする事は出来ても、この二枚の紙を紫の一枚の紙に加工する事は出来ない。
けれど、佳織母さんと話を合わせてる内に、誰かがそれをやってのけているような気がしてきた。
それは誰か。
普通に考えると、親父、なんだろうが…。
何故かは解らないが、親父もどちらかと言えば俺達と同じように流されているような気がするんだよな…。確固たる自信はないんだがな。
2.乙女ゲームについて。
美鈴と佳織母さんが説明してくれたが、正直これといった実感はない。
まず、男を落とす恋愛ゲームがある事は二人がコソコソとやっているのを知っていたから、認知はしていたが…。
まさか、自分が対象のゲームが前世の現代日本で出来ているとは思わなかった。まして、美鈴が主人公で、俺以外の男を落とす可能性があるゲーム…。正直、叩き割りてぇ…。
そのゲームがあったから美鈴が今まで、それこそ俺に抱かれるまでストーカー含む他の野郎のものにならなかったとは言え…複雑だ。
そして、そのゲームだが。
美鈴が詳しく知っていたのは【輝け青春☆エイト学園高等部】と言うパラメータ系乙女ゲームだったらしい。
落としたい男が好む女になって、男に自分の魅力をみせつけて告らせる。その為のパラメータ上げを楽しむゲーム。
佳織母さんは美鈴以上に詳しかったらしく、【輝け青春☆エイト学園高等部】の前に発売されたゲーム【無限―エイト―】の事まで網羅していた。
二人にゲームの事を詳しく聞いたが、…聞くんじゃなかったと若干後悔する位ヒートアップした…。
二人共。俺が聞きたいのはそこじゃないんだ。透馬の水着姿がどうとか、樹の眼鏡姿がどうとか、ぶっちゃけどうでもいいぞ。…いや、美鈴に関してはどうでも良くないな。後で他の男の萌えポイントなんて語った事を後悔する位愛してやろう。
さて。美鈴へのお仕置きはさておき。
乙女ゲームに関して、気になるのは出来たタイミングの話だ。
俺は何度ともなく白鳥鴇に生まれ変わっている。そして俺が転生した時は必ず美鈴も前世の記憶を持って転生している。それは揺るがない。揺るがないが、今まで乙女ゲームについて美鈴が話した事はなかった。
そもそも美鈴と早く出会う事はなかったしな。美鈴とは大抵早くても高卒後に合っている。勿論、その時の俺に前世の記憶はない。美鈴は生きているからな。だが美鈴は前世がある所為か、たまにゴモゴモと口ごもる事が多かった。謎が多いと言うか、何をしても追い越す事の出来ない女に出会って目が離せなくなったんだよな。
勿論佳織母さんはそんな記憶なんて持ってなさそうだったし。親父は佳織母さんと仲睦まじい様子だったが、二人共前世だと美鈴を置いて家から出て行くことが多かった。それの所為で美鈴は一人夜のホスト街を歩いてたりした訳だから。俺達の出会いは毎回そこだしな。
あぁ、でも一回だけ、美鈴が不思議な行動をとっている時があったな。この世界に転生した時だけをカウントして、一回前だ。あの時美鈴はエイト学園がどうのって言っていた気がする。…やっぱり膨大な記憶ってのは維持できないな。忘れてしまう。そうだ、俺もさっき言ったじゃないか。前の美鈴がゲームの事をメモしていた、と。
となると、だ。
【初代の俺と美鈴、都貴の行動】が転生した現代日本で【誰か】がゲームとして美鈴を救う手立てとして作った。それが【無限―エイト―】だった訳だな。
だがそのゲーム情報通り美鈴が自分を鍛えるだけでは、都貴の行動を御する事が出来なかった。何故なら都貴は同じ人間に転生出来ない。都貴を警戒した所で無駄だった訳だ。この時点で俺と美鈴はまだ恋仲にはなってなく、美鈴も俺に隠れてゲームの情報を書いている程度だった。
その後、何度となく俺達は転生を繰り返した。その間に乙女ゲームの話は一切出て来なかった。
そして、今世だ。佳織母さんが前世の記憶を持ったまま転生した。その為に俺と美鈴の出会いは恐ろしく早まった。能力や親密さも前世の比でない位に上昇し、更に現代日本で【無限―エイト―】がもっと精密に作り直されて、【輝け青春☆エイト学園高等部】と言う能力補填、危機回避情報も佳織母さん経由で入手させる事が出来た、と。
要は、こうだ。
【エイト学園世界】―【現代日本(【無限―エイト―】が作成される。大雑把な作りだった為、同人ゲームレベル。それを美鈴の転生体がプレイ)】―【エイト学園世界(美鈴が記憶を頼りに死亡フラグを回避しようとしたが、俺共々失敗し都貴に殺される)】
―【間にアースラウンドを含め他多数の世界でも転生を繰り返す。勿論中にはエイト学園世界も入っているが、結果は全て同じで鴇と共に殺されている】―【現代日本(美鈴が華として転生し、【輝け青春☆エイト学園高等部】をプレイ。佳織の前世である薫が【無限―エイト―】をプレイ)】
―【エイト学園世界(今現在)】
と言う流れが俺達の転生の流れだ。時系列の視点がややこしいから面倒だ。
しかし、こう考えると、一番最初に美鈴がプレイした【無限―エイト―】はどうにも乙女ゲームっぽくないな。まぁ、今となっては詳しく知る事は出来ないだろう。
以上の事を考えるにやはり、俺達の転生の流れに介入している人物がいる事は間違いない。
多分そいつが、俺が佳織母さん達に言ったような人間だ。
『この世界で生きた俺達以外の人間が記憶を持ったまま転生し、前世の現代日本で美鈴を幸せに導くためにゲームを作った人間がいる』
のはやはり間違いなさそうだ。
美鈴達が言うヒロイン補正。それもきっとそいつが絡んでいる。美鈴の周辺を整える、進むべき道へ誘導する事が出来る様な人間?
…一体誰だ?
3.ストーカーについて。
ストーカーの初代が都貴静流である。
これは間違いない。今現在は美鈴が気になる、程度だろう。だが、これからどうなるか、だ。
初代のストーカーである都貴静流はまだ、自分に呪いをかけていない。呪いをかけるのは、来世で美鈴の事を思い出してかけるのだ。
俺と美鈴が初代だった頃。
ホストだった俺は美鈴の大学生活に興味がなかった。そもそも親が再婚したと言われても、あっそ程度だった。
それはどうやら精密に作られた【無限―エイト―】でもバッドエンドとして語られていた。しかし、今回は違う。俺も記憶を取り戻しているし、何より都貴の転生体である奴らの大半の記憶を消去しているからだ。佳織母さんの事もある。
都貴静流本人は自覚がなくとも、都貴静流の残留転生体はかなり追い詰められているに違いない。その証拠に転生体の一人である武蔵と言う美鈴の元教師が自殺を試みている。
そもそも都貴静流は自分に呪いをかけて転生しているから転生の仕方も記憶の取り戻し方も俺達とは違う。
同じ世界に何人もの転生体がいるのはその所為だ。どいつもこいつも美鈴の周囲に集まってくる。砂糖に群がる蟻のように。
そして、美鈴はどの世界でも都貴に犯され、命を落としている。美鈴の男性恐怖症はそこから生まれた。どの運命でも見知らぬ男に突然襲われ、人生を全うする事なく命を奪われた恐怖が美鈴の魂そのものに刻み込まれているんだ。
ぽつぽつと小さい声で話してくれた美鈴の証言を聞くと、華の時は小さい頃から襲われたらしい。特徴を聞く限り間違いなく都貴の転生体だろう。美鈴が言っていた自分に欲を向ける男が嫌いな理由は、無意識に都貴の転生体と重ねて見てしまっていたからだ。
俺は美鈴を殺されてから記憶を取り戻す。冷たくなった美鈴を抱きながら、敵を討つが最後には俺も命を失っていたのだが、やはり記憶がないと都貴の転生体を見定める事が出来ない。常に後手に回ってしまって美鈴を失ってしまっていた。
俺は奴の転生を大体は理解出来ているが、全てあげていくと切りがないから代表的な所を上げていく。
【都貴静流】―【薫を殺し華を犯した医者】―【武蔵麗子】―【先代金山】―【華を殺したストーカー】―【早乙女蠍三】―【早乙女蟹次】―【近江虎太郎】
の順だろう。勿論、今代表で上げた連中の間にもこいつは数知れない量の転生を繰り返している。例え別の世界だとしても美鈴が側にいないと知ると即行で自殺している筈だ。
そして、以前の闘いで記憶消去の薬を使い、早乙女蠍三以降の転生体の記憶はなくなっているだろう。
だが、問題はそいつ以前の奴の記憶は生きていると言う事だ。やはり初代である都貴静流の記憶を消すのが一番だろう。
都貴静流が美鈴に惚れた瞬間は何処だ?
初代の美鈴は、気付けば男が背後を歩いていたり、自分の物を無くしたりしたと言っていた。それも都貴の仕業だろう。そんな都貴と体の関係はあったのか?と聞いた時、酒に飲まれて一度だけ寝たと言ってたか…。今の美鈴だと想像もつかないような事だが、あの時の美鈴ならばあり得るか。人の愛情に飢えに飢えていたから。と、脱線したな。
美鈴と都貴が寝た時にあいつは惚れたのか。それとも寝たのも計画の内でその前から惚れていたのか。…判断がつかないな。
奴が美鈴に惚れている状況は喜ばしい事ではない。
だが、奴の記憶を無くすために作った丸薬は、【一番忘れたくない人物の記憶を消す】薬だ。となると、惚れていないのであれば消す事は不可能だ。
それ以外に手段も考えておくべきか。しかし、あの丸薬ですら様々な手を尽くして作った物だ。それに先代金山から転生した人間がまだいたとしたら、そいつらは丸薬を回避する手段を身につけるかもしれない。
そんな事を察知して動くなんてそれこそ【神様】でもない限り不可能だ。
佳織母さんも言っていたが、
『この世に神様なんていない』
のだから。
自分達で解決の糸を手繰り寄せて今度こそ美鈴を守る必要があるんだ。
以上が照合の結果だ。これらで分かった事は、【全てを理解して操っている人物】の存在だ。それが誰なのかは解らない。だがこちらの味方なのは間違いない。何せ、行動が全て美鈴の為なのだから。
それから、以上の事を踏まえて。今度は、ストーカーを潰す作戦だ。
○ 作戦内容。
まずは都貴静流の記憶を消そうと動く必要がある。勿論美鈴に惚れていないのであれば、そのまま行けば何も問題はなくなるだろう。都貴静流が美鈴に惚れたが為に次の世に転生した都貴静流の転生体は美鈴を取り戻そうとするのだ。だったら惚れなければ美鈴を思いだす事もなくなる。だが今までの事を顧みるにその可能性は低そうだ。
何より、あの接待飲みの時。都貴静流は美鈴と俺のキスを見て、まるで俺を射殺さんとせんばりに睨みつけてきた。あれで惚れてない訳がない。あいつもなんだかんだで美鈴に惚れる運命にあるのだ。
となると、まず都貴静流の行動を見張っておくのが第一。そして都貴静流の記憶を消そうとすると、必ず記憶を維持したい転生体達は都貴静流にもしくは美鈴に接触をしてくる。顔ばれしている人間は来ないだろうから、新たな転生体としてくるだろう。新たな転生体となると、…武蔵だな。あの女教師が自殺して命を絶てば、行動を起こしてくると思った方が良いだろう。
美鈴が武蔵の所に見舞いに行くと言っていたから、行かせる。…自殺に導くのかって、美鈴に言われたが。そんな事はしない。念の為に、記憶を消す薬を飲ませるつもりだ。だが、恐らく飲まないだろう。あいつはもう完全に都貴の記憶に動かされているはずだからな。…あの薬を作る為には必ず必要な素材がある。【忘却の川の水】が必要だ。これはもう残存していないと金山が言っていた。もう里にあるのが限りだと。無駄遣いは出来ない。作れて、もう二つって所だ。
だから出来る事ならば都貴静流に使いたい。もとを絶てば解決する話だからだ。
作戦をざっくり説明するならばこうだ。
1、美鈴が囮になり、都貴を油断させる。
2、美鈴が既に俺のものになっていると知らしめて、都貴を焦らせる。
3、美鈴に対して行動を起こした瞬間を捕まえて、美鈴に手を出す前に記憶を消去する。
となる。
この間、俺は記憶を取り戻していないふりを。
佳織母さんはゲームの流れに添っているふりをしなくてはならない。
都貴の持っている金山経由の情報を逆手に取って利用する流れに持って行くのだ。
これが今佳織母さんと美鈴の三人で話し合った結果だ。
俺は足の間に座る美鈴をぎゅっと抱きしめた。
「?、どうしたの?鴇お兄ちゃん」
「…本音を言えば、俺はお前を甘やかしたくて仕方ないんだがな」
「あ、ぅ…」
顔を真っ赤にして、恥ずかしがる美鈴の姿を見ていると、幸福感で満たされる。
「息子と娘のイチャつきねぇ…。何か新鮮だわ」
「ま、ママッ。なんで凝視してんのっ!?」
「あら?じゃあ、カメラ置くだけにしとく?」
「見ないでって言ってるのーっ」
「…冗談よ。美鈴が幸せそうにしてるのが嬉しいだけ」
ふわりと微笑む佳織母さんは美鈴の微笑み方に似ている。本当に喜んでくれてるんだなと思っていると、
「ママ。騙されないからね。そっとカメラ置いて行こうとしないで」
娘は早々簡単には騙されないようだ。
にしても、佳織母さんも昔から美鈴の為を思って行動してる癖に、こうやって照れ隠しするよな。照れ屋って所も母娘そっくりってことか。
「それじゃあ、私は部屋に戻るから。後は二人でごゆっくりどうぞ」
「佳織母さん?」
ソファを立ち、手を振りながらリビングを出て行く佳織母さんを止めようとしたが、
「締め切り明けで眠気MAXなんだよ。ほっといてあげて」
と美鈴に言われて頷くしかなかった。
「なぁ、美鈴?」
「なぁに?鴇お兄ちゃん」
「…絶対無理はするなよ?無茶も駄目だ。今度こそ二人で幸せになるんだからな」
「うん。解ってる。大丈夫だよ、鴇お兄ちゃん」
すりすりと額を寄せてくる美鈴は、マジで可愛い。
そんな美鈴を素直に受け入れながら、金色のほわほわとした髪を撫でる。やっと甘やかす事が出来るのかと思うと感動も一入だ。
「あ、ねぇねぇ。鴇お兄ちゃん」
「うん?どうした?」
「確かめたい事があるんだけど」
「確かめたい事?」
「うん。聞くのは怖いけど、知らないでいるともっと怖いから」
一体何だ?首を傾げると、美鈴は抱きしめている俺の手を重ねて握る。
「中学の時、皆は隠してくれてたけど私宛に沢山手紙、来てたよね?あれって武蔵先生が書いてたの、かな?」
「……そうだろうな。そう考えると納得出来る点が多々ある」
「じゃあ、お兄ちゃん達とかが見てたメールは?前世の私が写ってる、んだよね?」
「あれは、メールを作ったのは武蔵で、サイトを作ったり送信したりしたのは他の転生体の誰かって所だろうな」
「って事は、前世の私の写真をこっちに持って来たって訳じゃないの?」
「そんな事は不可能だろう。普通に考えて。それに俺もその画像を確かめたが、良く見ると合成ってのが丸わかりだった」
「…因みに、小学生の時私が一人でいた時に感じた男性の気配と昔旅行で里帰りした時のホテルで感じた視線は?」
「あれは先代の金山と考えるのが妥当だろう」
「…となると、まさか露見尾くんはっ!?」
「あれはただの妖怪だ」
最後のだけは俺には理解出来ない生き物だ。
「露見尾くんが転生体じゃなくて良かったね」
「……確かに。あれに転生されたら人類は滅ぶ」
と言うか何でそこを掘り返してきた…?
あれは忘れても良いものだと思うが…?
「ねぇ、鴇お兄ちゃん?」
「今度は何だ?」
「ゲームだと、私が他の人とくっつくルートがあるじゃない?」
「あるな」
腹立たしいがな。だが、もしゲームを作った誰かが美鈴の為を思って作ったのならば俺とはくっつけたがらないだろう。確実に死が待っているとしたら危機を回避させたいのは当然の感情だ。
「そこでもまた事件が起きるよね?」
「うん?まぁ、そうだろうな」
「それって、どうなるのかな?」
あぁ、成程。その問題がこっちに降ってくるのか、そのルートのキャラ達が一人で戦う事になるのか、とか気にしてる訳だ?
「…問題ないだろう。俺の予想では美鈴がそのルートを選ぶことで発生する事件だったり、事が大きくなったりするんだろうから。ヒロインってのはトラブル体質と同義語だしな」
「それ、ママにも言われた」
「もっと言うなら、ヒロインがって言うより、元々美鈴がトラブル体質とも言えるぞ」
「ふみっ!?」
「正義感を持つのも良いが、自分の力量をちゃんと把握しておけよ?他の攻略対象キャラだって、本来は一人で乗り越えれる問題だ。それに…皆佳織母さんに鬼の様に鍛えられたから大丈夫だろ」
俺も度々思うからな。…佳織母さんのストレス発散に付き合うより、仕事の接待してた方が万倍楽だってな…。
思わず遠い目をすると、何か美鈴も思い当たる節があるのか同じく遠い目をしていた。
暫く何も話さずに、二人ぼんやりとソファに体を預け微睡む。
そして気付けば二人揃って眠ってしまっていた。まぁ、遅く起きたとは言え明け方までほぼほぼ寝ていないしな。
そうして、二人で眠って。目を覚ました時には隣のソファに葵と棗が、俺達の横には旭と三つ子が一緒になって眠っていた。
しっかりとタオルケットがかけられている。これは…佳織母さんか?
きっと嬉しそうに微笑んでかけてくれたんだろう。佳織母さんの優しさに思わず笑みが浮かぶ。
だが、佳織母さん?
俺の肩までタオルケットをかけると、足の間にいる美鈴と、隣でひっついている弟四人は…。
「ふみーっ!あっつーいっ!」
「苦しーっ!」
「ぷはーっ!」
「酸素ーっ!」
「つらーっ!」
全力で起き上がって、タオルケットをぺいっと放り投げていた。
まぁ、こうなるよな。
「んー…?」
「どうしたのー?」
五人の叫びに双子が起きる。結局いつもの騒がしさに戻る訳だ。
まぁ、これはこれで嫌いじゃない。
最初の白鳥鴇だった頃に比べたら、これはかなり幸せな事だと分かるから。
佳織母さんが皆で幸せになる為に頑張った結晶だ。
俺がその事を心の底から実感していると、振り返った美鈴が首を傾げていた。
「なんでもない。…ただ、幸せだと思っただけだ」
そう本音で答えると、美鈴は微笑んだ。そして、
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そう言って頬に触れるだけのキスをくれたのだった。
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