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アルム四神編

第一話 : とある青年の夢

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――暗い階段を降り続ける夢を見たんだ。

 一段、また一段と階段の軋む音を狭い空間に響かせながら降りていくんだ。
底の見えない暗くて不気味な長い階段を。
俺は、此処がどこなのか、何故俺はここにいるのかと
幾度となく考えを巡らせていたが、
それも長くは続かず、とりあえず降りる事しかできなかった。
何度か上へ行こうと考えたのだが、体は言う事を聞かず勝手に降りていく。
降りる度に濃くなってくる禍々しい空気に嫌な予感を抱かせながら。

 階段を降り始めてから何時間経っただろうかわからない。
考え事すら面倒になってただただ降りようと思った時、
ふと、ある話が頭をよぎった。
数年前、祖母が俺に教えてくれたとある伝承の話。
 伝承曰く、この世界の深層部には"深淵"というものがあるという。
深淵に行くための手段は一つしかなく、
暗く長い螺旋階段をひたすら下り続ける事でしか到達しないらしい。
実際、深淵までたどり着いた人間は未だおらず、
冒険の魅力に魅了されて挑戦するも大抵の人間は道半ばで引き返すか、
どこかで足を滑らせて暗い闇の中へと落ち続けて息絶えるからしい。

 当時の俺は、あまりにも現実的でなかったため、
というよりかは馬鹿馬鹿しいとすら思っていたため、その伝承なんて信じてはいなかった。
しかし、そんな馬鹿馬鹿しい伝承ですら否が応でも信じたくなるほど、
今ここに立っているこの空間を説明できるものはなかったのだ。

「さーて、どうすっかなぁ......」

 独り事をブツブツと溢していると、ある瞬間に階段から足を踏み外した。
暗い闇の中へ落ちた体は、より勢いを増して加速し留まる事を知らない。
ついに体から鈍い音がした。
その瞬間、頭にとんでもない衝撃が走った......

「俺の人生は、ここで終わるのか......」

そこで俺は夢から覚めた。

 はっと目を覚ますと、そこはいつもの俺の部屋。
しかし、夢だったとは思えない程頭が痛い。
なんで俺はあの場所にいたのかと考えるが、
どうしても頭の痛さが勝って思考する事すら許してくれない。
なんとか重い体を起こすが、全身に汗をかいて動くだけで非常に体が気持ちが悪い。
兎に角汗に塗れた服を脱ぎ、少し気分が爽やかになったところで顔を洗いに行った。
何故だか視界がぼやけており、あまりはっきりとした意識がない中、
服やペットボトルで散らかった部屋を出ようとする。

 俺は小さな一軒家を借りていて、幸いな事に寝室から洗面台と風呂は近い。
あまり距離がない筈なのに、部屋の汚さと言えば、ゴミ屋敷予備軍と言ったところだろうか。
普段から俺は一日中PCと向き合う生活をしていてまともに片づける事はなかった。
しかしまぁ、ここまで汚いと何故俺がこんな部屋でまともに生きていたのか疑う程歩くのは大変だ。
なるべく綺麗なところを踏むようにして部屋を抜けると、先ほどの部屋より何倍も綺麗な廊下に出た。
 洗面台の前まで来たところでタオルを取り出し顔を洗う。
とても気持ちが良いのだが、少し額と左頬に違和感があった。
薄汚い鏡を取り出し俺の顔を写す。
すると、額と頬に謎の刻印がつけられていた。

「は!?なんだこれ......」

 どれだけ洗っても、どれだけ擦っても取れない刻印。
どこぞの魔法使いのような額の刻印とかだったらまだしも、
三つの図形でできたあまりかっこよくない刻印に軽く凹んでしまった。
しかし、やはり頭は回らないようで、この刻印が何なのかすら考えられない。
どんよりとした重い気持ちと体を洗い流すようにシャワーを浴びた後、
唐突に今日が祖母の誕生日であったことを急に思い出す。

「やっべ......!!今日、ばあちゃんの誕生日じゃねぇか!今の時間は......!」

 時計を見ると、針がちょうど正午をさそうとしている所だった。
しかし、非常に時間がまずい。約束の時間まであと一時間。
ここから祖母の家まで徒歩30分.......
急いでアイロンのかけてないしわくちゃなスーツに着替え荷物の準備をする。
今日は大事な日だからこそ、綺麗な孫の姿を見せたいものだ。
そのつもりだった。何故なら、一番の難点は...

「この刻印の所為で、全然かっこよくねぇ......ばあちゃんごめんよ......
 かっこいい孫の姿見せられなくて......」

 こんなとこでウジウジしてても仕方がないので忘れ物がないか丁寧に確認し、勢いよく玄関を開けた。
朝からとんでもない事の連続だった。しかし、終わりよければすべて良し。
今日一日はとにかく祖母のお祝いをして良い日にしたいと心に誓ったのだった。
そして、俺は気持ちを切り替えて元気よく玄関から出た。

「さーて、今日も張り切って行きますか!」

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