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第2章

第4話 サリクス林道。

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 コルサ村を後にした私達は順調に旅を続けていた。

 野宿も何度か行ったが、特に危険な魔物や魔獣に襲われる事もなく、シルとの二人っきりにも慣れてきた。
 まぁ、未だに距離感が急に近い時があってドキドキする事もあるけど……

 あと、たまに凄く優しい瞳で見つめられる。
 あれは何なんだろう。

 途中、何度か魔獣が出たこともあったけど、角兎ホーンラビット迷犬ストレイドッグ迷猫ストレイキャットくらいだ。
 この魔獸達は、特に群れを作るわけでもなく、案外何処にでもいる。

 角兎は、頭に鋭い角が生えた魔獣で、蛙兎フロッグラビットの近類種だ。
 角にさえ気を付ければ危険がある訳じゃない。
 自分からは襲ってこないけど、お肉が美味しい、あと、毛皮が暖かい。
 角と毛皮は、街でちょっとした小遣い程度の値段で売れるらしく、見かけたらとりあえず、狩っていた。

 迷犬は、犬が少し大きくなった様な魔獣で、基本一匹で出てくる。
 群れから離れた野犬が魔獸化したものじゃないかって言われてるらしい。
 噛みつく力は強く、小鬼族よりも素早いけど、シルや私の速度に勝てる程じゃない。
 単体で出てくることもあって、近付かれる前に倒すことができた。
 この子もお肉が中々美味しい。

 迷猫は、ちょびっとだけ厄介者。
 迷犬と同じ様に基本は一匹でしか出ないんだけど、幻惑魔法を使ってくるから、攻撃が中々当たらない。
 攻撃力自体はあまり強くないから、やられることはないけどね。
 あと、厄介なのは、お肉が美味しくない……

 そんな感じで、旅を進めて五日。
 私達は、サリクス林道に入っていた。


 ▼△▼△▼△▼△▼△


「ルべリアの街までは、あと二日ってとこかな」

 焚き火の火に照らされて、シルは残りの道のりを告げる。

「はい。熱いから気を付けてね」

 シルは紅茶を携帯用のカップに注いで渡してくれた。

「ありがと。あちちっ! フーッフーッ! そういえば、コルサ村のおばさんが言ってたサリクス林道ってこの辺りだよね?」

 私は紅茶を一口啜って、辺りをキョロキョロと見渡してみる。
 ルレージュ大森林程ではないが、鬱蒼とした林が広がっている。
 今、私達が野宿している場所は、サリクス林道の途中にある、拓けた場所だ。

「そうだね。林道はもう少し続くけど、今のところ襲われる気配もないし、大丈夫じゃないかな?」

「襲われても、シルがいれば安心だしね!」

「いや……そこまで信頼されると、逆にプレッシャーだよ」

 シルは私の言葉に、苦笑いをしながらポリポリと頬を掻いている。

「ふふふ。そろそろ休もっか! 今日は私から見張りをする番だからね! 安心して!」

 トンッと胸を叩いた私を見て、シルは「無茶はしないでね」と一声かけて、眠りについた。

 私達は、夜営の時に見張りを交代でする事にした。
 最初はシルが見張りを受け持つって言ってたんだけど、七日も夜営をするのに、休み無しとかあり得ない。

『私達は仲間なんだから、役割は分担! それに休まずに進んで、もし戦闘中にミスを犯したりしたら、私も危ないんだから! だから、見張りは、こ! う! た! い!』

 と、シルに有無を言わせずに決めたのだ。
 こっちに来てから、シルと接して分かった事がある。
 シルは、妙に過保護な所があるから、ちゃんと意見を通すには意志を見せないといけない。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 シルが眠ってから、私は焚き火の火を絶やさない様にして、スーちゃんと戯れていた。

「スーちゃんは『使い魔』なのに、何が出来るのかなぁ? 今のところ可愛いだけだよねー?」

「キュ?」

 スーちゃんは木の実を齧るのを止めて、小首を傾げている。

「可愛いなぁ! もう!」

 スーちゃんの鼻先を軽く弾くと、顔を洗う様な動作で、両手をクシクシしている。
 うむ。我が使い魔ながら、最高に愛らしいではないか。

「ンムッ!?」

 そんなやり取りをしていたら、急に後ろから口を押さえられた。
 何!? 誰!?

「んー! んー!「ギュ!」「イテェ! 何だコイツ!? 黄色栗鼠か!?」

 私の口を押さえていた方の手を、スーちゃんが噛み付いた。

「誰!?」「!? シュンどうしたの!? お前! 何者だ!? シュンを離せ!」

 私が声を上げた瞬間、シルが飛び起きた。

「何するの!? 離しンングッ!?」

「少し黙ってな!」

 私は、また口を押さえられて、お腹を殴られて、気絶した。
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