おうちに帰してください!~私は異世界からの帰宅を目指す~

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第1章 転移~小鬼族対戦編

第8話 スリングさんは冗談がお好き。

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「シュン。起きて」

「ふぇ? お兄さん誰!? 私の部屋で何してるの!?」

 見覚えのないイケメンお兄さんが、私の部屋で私を起こすとか、どういうシチュエーション!?
 いや、あれ?
 待て、見覚え……あるぞ?

「シュンは朝が弱いの? 僕だよ。シル」

 あ。そうだった、訳の解らない世界に来たんだった。
 頭を押さえてる私を見ながら、シルは苦笑している。

「もう朝の見廻りは終わったから、今日は夕方まで付き合えるよ。ひとまず朝御飯にしようか。用意が出来たら、昨日ご飯を食べたとこまで出てきてね」

 それだけ言って、シルは部屋を後にする。
 外の様子を見てみると、太陽は真上近くに昇っていた。
 日本でいうところの10時~11時くらいだろうか。

 きっとシルの事だから、乙女の部屋に勝手に入るのを躊躇って、この時間まで待ってくれたか、単純に疲れている事に気を遣ってくれたのかもしれない。

 私は手早く、水瓶の水を桶に入れて顔だけ洗って部屋を出た。

「シル、おはよう。ごめんね、疲れてたみたいで寝坊しちゃった」

「いいんだよ。シュンも昨日は大変な目にあったしね、本当はもう少し寝かせてあげたかったんだけど、スリングさんに呼ばれていてね、シュンも一緒に来てほしいって言うんだ」

 シルは手に持ったお皿を置きながら笑顔を向けてくる。

「スリングさんが? どうしたのかな? 昨日お話した時には特にそんな話はしてなかったよね?」

 席に着くと玉子の香ばしい香りがしている。

 朝食は、目玉焼きとサラダ、それに兎のお肉を薄くスライスして焼いたものだった。
 お肉からは香草の香りがすることから、ハーブ焼きの様な感じかな?
 パンが欲しくなる。

「わぁ、今日のご飯も美味しい」

「お気に召して頂けた様で光栄です」

 シルはそう言って、ニッコリ笑ってくれる。

 朝食をとった後、スリング雑貨店へと向かう。

「よう、シュン嬢。よく来たな」

 スリングさんはニカッと笑って手を振ってくれた。

「スリングさん。おはようございます。私の事を呼んでたって聞いたんですが、どうしたんですか?」

「おう。シルから聞いたんだが、何でも嬢ちゃんは、これから闘いの訓練をするんだろ? 闘うにも、武器防具は必要だろってんで、必要そうなもんを見繕ってるから、好きなもんを持ってきな」

 スリングさんが、後ろの木箱から、色々なものを出してくれる。

「え? あの、でも私お金とか持ってないし……」

「なに、心配すんな! お代はシルから貰ってるからよ。余った分の代金は残しとくから、装備を新調するなり、道具を揃えるなりで、また用意するからよ」

 バッとシルの方を見ると、目を逸らされた。

「シル! 命を助けてもらって、色々お世話にもなって、ここまでしてもらえないよ!」

 シルは苦笑しながら、頬を掻いている。

「シュン。良いんだよ。昨日も言ったけど、僕は君が強くなる為の手助けがしたいんだ。それに、助けた命だからって言うと恩着せがましくなっちゃうけど、シュンに死なれたくないからね。その為の準備はしないと、過去の英雄や長耳族の誇りに胸を張れなくなってしまう」

 シルは困ったような笑顔でそう言った。

「でも!」

「嬢ちゃん。ここは大人しく好意に甘えときな。子供は甘えるもんだし、シルも意外と頑固だから引かねぇと思うぞ。それに俺としては買ってってもらった方が得だしな」

 スリングさんはニヤニヤと笑いながら、私の頭をポンポン撫でた。

「うー。わかりました。じゃあお代に関しては、後々シルに返します」

「別に返さなくてもいいよ」

 シルはそう言うけど、お金の貸し借りはダメだってお母さんからも言われている。
 お父さんが金銭感覚にズボラな部分があるから、余計にそういうことはしっかりする様に言われてきた。
 シルが受け取らないって言っても、この世界でお金が手に入ったらしっかり返そう。

「それで? 嬢ちゃん。どうするんだ?」

 スリングさんは目の前に幾つか武器や防具を置いてくれている。
 防具に関しては、昨日セフィさんに見繕ってもらった服で大丈夫だそうなので、武器を選ばせてもらった。

 鞭と小型の弓、それと。

「あの、スリングさん? これって……」

「あん? それか? それはこの辺に生えてる木の中で、加工すると伸び縮みする性質があるもんがあるんだが、ソイツを使ったもんだ。面白いだろ? 弓程殺傷能力があるもんじゃないが、弓が使えない時なんかには役に立ったりするもんだ」

 私が手にしていたのは、パチンコ。
 所謂、スリングショットだ。
 スリングさんがこれを売るって冗談でしかない。

 結局、私は鞭、弓、スリングショットを頂いた。

「嬢ちゃん、近接用のもんが一個もないが、それでいいのか?」

「はい。私は元々力が強いわけでもないですし、近付かれたら負けちゃいますから」

 正直な話をすると、昨日のゴブリンがダガーを振るった事への恐怖から、刀剣類に関しては、怖い。
 しかし、そんな事は関係なく、スリングさんから一つのナイフを渡される。

「頼りないが、護身用に持っとけ。サービスで付けてやるよ」

 お礼を言って受け取ったが、私はこれを使うことが出来るんだろうか。
 遠距離武器に偏ったのも、動物の命を奪うという事に忌避感を持ったのもある。
 お父さんとのサバイバル訓練で野性動物を狩ったり、捌いたりした事はあるけど、闘って命を奪うという経験があるわけじゃない。
 こんな調子でやっていけるのだろうか。

 その後、スリングさんから、必要そうな薬などを幾つか購入し、雑貨店を後にする。

「じゃあ、まずは、怪我しない為にも、シュンの運動神経を見ておこうか」

 ということで、村を降りて、少し開けた所までシルが連れていってくれることになった。

 当然、私は降りる時にも酔った。
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