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第1章 転移~小鬼族対戦編
第7話 長い一日の終わり。
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シルのおうちに着いてからは、シルのお手伝いをしながら、おうちの中を案内してもらった。
「シュンはこの部屋を使って。自分の部屋だと思って、好きにしていいからね」
私には一つの部屋を割り当ててくれた。
僅かに埃を被った他の部屋と違って、綺麗に掃除が行き届いている。
陽当たりも良く、中には可愛らしいベッドや小物、クローゼットなんかがあった。
「シル、この部屋って」
問い掛けようとした私と目が合ったシルは、出会った時から見せていた笑顔ではなく、ぎこちない、今にも泣きそうな顔で笑っていた。
その顔を見た瞬間、言葉を紡げなくなってしまった。
「さぁ、そろそろ夕食の準備をしないとね。シュン、手伝ってくれるかい?」
「あ、うん」
聞きそびれてしまった。
夕食は、豆と兎のシチュー、香草のサラダ。
「シュンはとても手際がいいんだね。兎を捌くのも上手かったし、どこかで習ったのかい?」
「お父さんが、ちょっとね……」
私の父は少し特殊な人だった。
まだ3歳の私は父に連れられて、色々な所に行った。
それこそサバイバルもやった。
母が義務教育は普通に受けさせると父に猛抗議をした為、小学生に上がるまでの間だったけど。
しかし、父は隠れて私に色々と教えてきた。
母に見つかると怒られるので、近場で出来る程度のことだったけど。
私が現在の特殊な環境でも、何とか適応できているのは、ある意味、父のお陰とも言えるだろう。
感謝はしたくないことだが。
「それで、シュンはこれからどうするつもりだい?」
ポリポリと食べているサラダを咀嚼してから、シルに答える。
「んっと、ひとまず色々知らないといけないけど、まずは闘えるようになりたい」
シルは眉尻を下げて苦笑している。
「シュンはまだ子供だ。闘う必要はないんじゃないかな? 故郷に帰る方法が見つかるまでは僕が護衛も出来る事だし」
「ううん、それは違うわ。帰る方法を探す為にはこの森を離れる事もあるだろうし、そうするといつまでもシルに着いてきてもらうわけには行かないでしょ?」
「それは……そうかもしれないけど! それでも君が危険な事をする必要はないはずだよ!?」
シルは過剰とも思える心配をしてくれる。
気持ちは嬉しいけど、それでも私はやらなくちゃいけないと思う。
なんとなくだけど、他人に頼るだけでは帰れる気がしない。
ただ、頑張る事自体があのジジイの思惑な気もするけど。
「それでもだよ。此処に来た時にゴブリンに殺されかけてるんだもん。自分を守れるくらいの力はつけておかないと、自分が困るのよ。シルの心配は嬉しいけど、私は強くならないといけないの」
「でも! それは……っ!」
シルは俯いてしまった。
テーブルの上にある拳は握られて震えている。
「シル……?」
「わかった。そこまで言うなら、僕に止められる事じゃないんだろう。ただ、出来れば、その強くなる手伝いは僕にさせてくれないか?」
「もちろんよ! 私からお願いしようと思ってたの! 良かったぁ」
シルは笑顔で頷いてくれた。
ただ、その瞳はどこか寂しそうに見えた。
食事を終えて、疲れた事もあって、先に部屋に戻らせてもらった。
「はぁ。大変な事になっちゃったなぁ……これからどうしたらいいんだろう。そもそもあのジジイは何者だったんだろう」
夜の月にヒョッヒョッと嗤うジジイが映る。
よし、次に会ったら絶対殴る。
「あぁ……すき焼き食べたかったぁ……」
ベッドにボスッとうつ伏せに倒れ込み、大好きなすき焼きを思い浮かべる。
甘辛い割下を泳ぐ牛肉に卵のドレスを着せて、舌の上の舞踏会を踊らせたい。
「うぅぅぅ……」
枕を涙と涎で濡らしながら、私は長い一日の終わりへと沈んでいった。
「シュンはこの部屋を使って。自分の部屋だと思って、好きにしていいからね」
私には一つの部屋を割り当ててくれた。
僅かに埃を被った他の部屋と違って、綺麗に掃除が行き届いている。
陽当たりも良く、中には可愛らしいベッドや小物、クローゼットなんかがあった。
「シル、この部屋って」
問い掛けようとした私と目が合ったシルは、出会った時から見せていた笑顔ではなく、ぎこちない、今にも泣きそうな顔で笑っていた。
その顔を見た瞬間、言葉を紡げなくなってしまった。
「さぁ、そろそろ夕食の準備をしないとね。シュン、手伝ってくれるかい?」
「あ、うん」
聞きそびれてしまった。
夕食は、豆と兎のシチュー、香草のサラダ。
「シュンはとても手際がいいんだね。兎を捌くのも上手かったし、どこかで習ったのかい?」
「お父さんが、ちょっとね……」
私の父は少し特殊な人だった。
まだ3歳の私は父に連れられて、色々な所に行った。
それこそサバイバルもやった。
母が義務教育は普通に受けさせると父に猛抗議をした為、小学生に上がるまでの間だったけど。
しかし、父は隠れて私に色々と教えてきた。
母に見つかると怒られるので、近場で出来る程度のことだったけど。
私が現在の特殊な環境でも、何とか適応できているのは、ある意味、父のお陰とも言えるだろう。
感謝はしたくないことだが。
「それで、シュンはこれからどうするつもりだい?」
ポリポリと食べているサラダを咀嚼してから、シルに答える。
「んっと、ひとまず色々知らないといけないけど、まずは闘えるようになりたい」
シルは眉尻を下げて苦笑している。
「シュンはまだ子供だ。闘う必要はないんじゃないかな? 故郷に帰る方法が見つかるまでは僕が護衛も出来る事だし」
「ううん、それは違うわ。帰る方法を探す為にはこの森を離れる事もあるだろうし、そうするといつまでもシルに着いてきてもらうわけには行かないでしょ?」
「それは……そうかもしれないけど! それでも君が危険な事をする必要はないはずだよ!?」
シルは過剰とも思える心配をしてくれる。
気持ちは嬉しいけど、それでも私はやらなくちゃいけないと思う。
なんとなくだけど、他人に頼るだけでは帰れる気がしない。
ただ、頑張る事自体があのジジイの思惑な気もするけど。
「それでもだよ。此処に来た時にゴブリンに殺されかけてるんだもん。自分を守れるくらいの力はつけておかないと、自分が困るのよ。シルの心配は嬉しいけど、私は強くならないといけないの」
「でも! それは……っ!」
シルは俯いてしまった。
テーブルの上にある拳は握られて震えている。
「シル……?」
「わかった。そこまで言うなら、僕に止められる事じゃないんだろう。ただ、出来れば、その強くなる手伝いは僕にさせてくれないか?」
「もちろんよ! 私からお願いしようと思ってたの! 良かったぁ」
シルは笑顔で頷いてくれた。
ただ、その瞳はどこか寂しそうに見えた。
食事を終えて、疲れた事もあって、先に部屋に戻らせてもらった。
「はぁ。大変な事になっちゃったなぁ……これからどうしたらいいんだろう。そもそもあのジジイは何者だったんだろう」
夜の月にヒョッヒョッと嗤うジジイが映る。
よし、次に会ったら絶対殴る。
「あぁ……すき焼き食べたかったぁ……」
ベッドにボスッとうつ伏せに倒れ込み、大好きなすき焼きを思い浮かべる。
甘辛い割下を泳ぐ牛肉に卵のドレスを着せて、舌の上の舞踏会を踊らせたい。
「うぅぅぅ……」
枕を涙と涎で濡らしながら、私は長い一日の終わりへと沈んでいった。
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