パラサイト~レッツ異世界寄生ライフ~

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1章

第17話 虎は今日も生きる

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 ケプッ。美味かった。こんがり焼けた竜の肉は程よく脂が溶け、舌の上で踊っていた。さながらドラゴンステーキだ。
 腹が膨れたので、残りを口に咥え巣穴へ戻る。備蓄しておくという目的もあるが、別の目的がある。

「ミィ」

 これだ。俺には守るべき子供がいる。養うべき妻子の為にも、俺が稼ぐしかないのだ。
 持ち帰ったドラゴンステーキに貪りつく子供たち。美味そうに喰っている。時にポテッと転がるところもまた可愛い。

 子供たちのお腹が膨れた頃合で妻が肉を口にする。もうすでに子供たちは乳離れを済ましている。だが、この子たちはまだ狩りをする事は出来ない。この弱肉強食な世界。生き残る為に技術を向上し、狩る側に回らないといけない。

 食後は狩りの練習だ。子供たちは俺の尾骨から伸びるマーブル模様の尻尾。先端には白い毛玉のついた尾に飛びついてくる。じゃれているようにしか見えないが、こちらは至って真面目だ。今後生き抜く力を身につけて、自立して生きていけるように。そう願いながら……
 尻尾を巧みに動かして、右から左、左から右。時には上下に動かす。また攻撃された時も想定し、子供たちを弾くように尻尾を動かす。可愛い我が子たちは必死に尻尾に攻撃し、また攻撃を躱そうとしている。躱しきれず、ポテッコロコロと転がる時もある。しかし、そこもまた可愛い。我が子たち可愛い。

 そうして、子供たちとたわむれた。いつしか疲れた子供たちは寝息を立てる。子供たちが寝てからは大人の時間だ。俺はおもむろに妻に覆いかぶさり……

 *****

 そんな感じで日々を過ごしていた。今日も狩りに出る。
 時々何かを忘れているような違和感を感じる時があるが、それがなんだったのかはすっかりわからない。それにわからなくてもいいかな、とも思う。俺は今、幸せだ。
 妻や子供たちに囲まれ、何気ない日々を過ごす。成長を見守り、時に妻と激しく愛し合う。なんという満ち足りた生活だろうか。

 それにしても――俺は足元に掘った穴から芋虫を掘り出してから、森の中を見回す。
 うむ、中々クリーミィでイケる。モチャモチャと口の中の芋虫を咀嚼そしゃくしながら今日の成果を振り返る。今日はえらく獲物が少ない気がする。
 兎一羽、子狸一頭、芋虫三匹。特によく見かける竜の姿がない。
 自分の小腹を満たす程度の獲物しか取れておらず、今日はまだ巣穴に帰る事が出来ない。しかし、何かいいようのない違和感と胸騒ぎを感じる。ひとまず今日の狩りはこれくらいにしとこうか……
 いや、このまま帰ってはおとことしての誇りに関わる。それに育ち盛りの子供たちには食事が必要だ。
 俺は気合を入れ直し、普段よりも少し遠い場所まで移動し狩りを続行した。

 *

 いやぁ! あんなところで予想外にレアな獲物に巡り会えたもんだ。
 俺の口には今日のご馳走が咥えられている。全てを運ぶには少々大きかった為、一部は先に頂いたが……美味かった。

 遠征先で出会ったのは、季節の大半を寝て過ごし、ごく僅かな期間地上で活動する熊だ。
 起きている間は寝るための栄養を確保するため、辺りの動植物を手当たり次第に食い散らかす。
 寝ている間に体のごく一部にその栄養を蓄え、熟成させる為、とても美味い部位があるのだ。
 寝込みを襲えた為、比較的楽に狩る事ができた。とはいえ、やはり強敵だった為、結構な怪我を負ってしまった。
 だが、これで家族を喜ばせられると思えば安いものだ。

 巣穴に向けて意気揚々とスキップをするように足取り軽く歩く。しかし――

 ――なんだ……? この匂いは……

 近づくに連れその香りは強くなる。俺はさっきまでと一転して焦燥感に駆られる。早足から段々と速度をあげ、いつしか全速力で巣穴へと向かった。

 巣穴の入り口を潜り、左に右に。上がったり下がったり。通い慣れた道を通り、家族が待つ場所へと。
 俺が辿り着くと……可愛い我が子は「ミィ」と小さく鳴き、チョコチョコとこちらに歩いてくる。愛する妻はそれを愛おしい表情で、柔らかい顔でこちらを見る。そうだ、良かった。何事も無かったのか。

 ほら、今日はとびきり美味い飯を取ってきたんだ。滅多に食えないレアものだぞ? どうしたんだよ、もっと喜べよ。あ、わかったぞ。信じてないんだな?

 俺は愛する家族の元へとゆっくりと歩く。今日はえらく中があったかいな。氷が溶けて足元が濡れている。足にまとわりつく液体をうざったく思いながらも歩を進める。
 ビチャパチャという音を立てて進む。液体は泥と混じってしまっているのか、白と黒の毛は足先から色を変えていく。
 足を止めた頃には、膝関節の辺りまでその色が変わってしまっていた。あとで洗わないといけないな。

 ボチャ――

 口から落ちた熊肉はそんな音を立てた。
 ほら、食えよ。うまそうだろ? あ、つまみ食いしたのバレたか? いや、ほらさ。大きかったもんで、全部持ってくるには大変だったんだよ。ちょっと帰りが遅くなったのもさ、コイツが暴れるもんで。
 許してくれないか?

 ポタッ

 泣くことないだろう。そんなに怒ってるのか? ほら、口をきいてくれよ。チビたちまでそんなにそっぽを向いて黙ってないでさ。な? 許してくれよ。

 俺は愛する妻と子供たちにキスをする。それでも彼女たちは動かない。動いてくれない。





 俺の目の前の彼女たちは血だまりに沈んでいた。
 涙は俺の瞳から流れていた。わずか数十歩歩いただけで血濡れた足。白と黒のマーブルはそこに赤のグラデーションを足している。その赤も血液の変色で決して綺麗とはいえない色に染まっていた。
 子供たちは原型が残っている子もいれば、ただの肉片に変わっている子もいる。そして妻は子供たちを庇うように倒れていた。それでも息をしている子はいなかった。





 虎は血だまりに伏せ鳴いた。泣いた。亡骸に縋り付き汚れた顔は、まるで血の涙を流しているように。しばらくの間、洞穴の中には獣の慟哭が満ちた――
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