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第一章
第九話 草原
しおりを挟むパンッ――
目の前で弾けるのは、スライムと風船を足して二で割ったような魔物。見た目的にはシャボン玉が近いだろうか。
倒したのは俺――ではない。光だ。俺はちょうど良い大きさの岩に腰掛けて戦闘を眺めている。
なんか知らんがアイツは戦闘になるとスイッチが入ったようにテンションを上げて戦う。だから正直俺が手を出すタイミングが無い。
豚頭を倒した翌朝。前日の宣言通り、メチャクチャ早い時間から光は起きた。そしてハイテンションに叩き起こされた。
今俺たちがいるのは、そこから更に東へ進んだ草原にいる。ここはそこそこ魔物がいるようだが、明らかに弱い。正直いってRPGでいえば始まりの草原だ。某有名RPGでいうところのスライム相当の魔物しか出てこない。
「なぁ……」「ん? なにー?」
暴れる光の後方で声をかけると、光は目の前の色違いのスライム風船を割りながら返事をした。
「お前がコッチだっていうから進んでるけどさ。大人しく街道を進むべきだと思うわけだが?」
そう。俺は最初、街道を進むつもりだった。だが、光が「ボクの勇者の勘がコッチだって言ってる!」とか言い出したのだ。
おかげで道なき道を進み、そして今はこの草原ってわけだ。その上なぜかは知らんが、魔物は光を見るなり襲ってくる。そして、墓標作り。この繰り返しのせいで、歩みは亀の如く遅い。
本気でいつになったら目的地に着けるかわからんぞコレ……
「いや、大丈夫だってば! 根拠はないけど、ボクの勘がコッチで合ってるって言ってる!」
本気で根拠がないから困る。それでも自信満々な光。頭が痛い。
コイツを殺そうとした昨夜のことがふと頭をよぎる。なんでコレが殺せないのか……そう考えると余計に頭を抱えたくなってきた。頭痛が痛い。
パンパン叩き割る作業がひと段落し、光がこっちに寄ってくる。
「どした? 今日は墓掘りせんのか?」
「んー……してあげたいのはやまやまなんだけどね。あの子たち倒したら消えちゃうから……」
光の背中越しに戦闘跡を見ると、地面が濡れてはいるが姿形は残っていない。
「なるほどな。それで? さっきの話の続きだがこのまま進むのか? 正直食糧も多いわけじゃねぇぞ?」
「うっ!? ……ご飯のことを持ち出されると弱いなぁ。じゃあもうちょっとだけ……ダメ?」
光は手を合わせて小首を傾げながら上目遣いにウインクで訴えてくる。普通の男なら仕草だけでもイチコロだろう。
「俺としては反対だが、どうせお前は聞きゃしねぇし。それに俺は所詮勇者様のお供ですからね。勝手にどーぞ。ただし餓死しそうになったら見捨てる」
「えへへー。さすがは睡蓮! ボクのことよくわかってるね! あとそんなにいじけないのー」
だからなんでそこで照れ笑いだよ。しかし、餓死か。そういう手もアリだな。毒も試してみたいところだが、今のところ都合よく毒薬が手に入るツテなんてもんはない。手にいれる機会がないか探してみよう。
「……っておい。頭撫で回すのやめろ」
「ん? いじけてるからさ。慰めてあげようかなぁーって。イヤなの?」
考えてる間にいつの間にか頭を撫でられていた。
「イヤだよ」
ペシっと手を払う。光は払われた手を見て、ちょっと考えたあと
「まったく睡蓮は女の子の扱いがなってないなぁ」
そう言って、踵を返した。
「ほらほら! 従者くん! 置いていくよー」
俺が起き上がる間に、光は既に10m程先に進んでいた。
「お前と違ってこっちは荷物持ってんだよ。そんなこというなら食糧全部置いてくぞ」
「わぁー! ダメダメダメー! ていうかそれすると睡蓮もご飯抜きになっちゃうからね!?」
「俺はお前と燃費が違う。それにどうにかして自分が食う分くらいは確保できる」
慌てながら腕を前でブンブンしてる光に追いつき、追い抜きながらそんなことを言ってやった。
*
その後、3時間程戦闘を挟みながら歩いた。日もそろそろ落ちてきそうだ。
「おい。勇者様の勘とやらは当てにならないんじゃねぇのか?」
そう、歩けど歩けど一向に何かがある様子はない。ジト目と嫌味を浴びせてやると光はちっちゃくなりながら、肩を落としている。
「うぅぅ……うん? あっ! 睡蓮睡蓮! アレ! アレ見て!」
「なんだよ。疲れてるんだからくだらねぇもんならデコピンじゃ済まないから――お? 村か?」
くいくいっと腕を引くやかましい光を睨んでから前を見ると、生活の気配を感じさせる煙がまず目に入った。それから視点を下げていくと、小さいが確かに人の住む村が見える。
「ほらほらぁ! ボクの勘は間違ってなかったでしょ!」
得意げに鼻を鳴らし、いつものように胸を張る光。
「じゃかぁしいわ。一直線に進めばよっぽどのことがなけりゃ何かにぶつかるに決まってるだろう――がっ」
デコピンを一撃。『あうっ』と声を上げて額をさする光を置いて、村に向かう。
──────────────────────
皆様いつも本作をお読みいただき、ありがとうございます。
一つお知らせがありまして、普段なら書かないあとがきを書いております。
気づかれてる方もいらっしゃると思いますが、Miさんが色々とあり、いなくなりました。
事情については、私から明言するのもアレなので控えます。
死んだり、体調を崩したりしたわけではないので、そういった心配をしている方はご安心ください。(いや、体調に関しては飲み過ぎてる可能性は大いにあるけど)
というわけでコラボについては、現状私のアイデアのみで進めております。といっても世界の名前くらいしか二人で立てていなかった状況なので、大きく何かが変わるといったことはありません。
本作を純粋に楽しんでいただいている方は今後も続いていきますので、よろしければ今後ともご愛読のほど、お願い致します。
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これは、ダークヒーローものということでいいのだろうか? 純真無垢なヒロインが倒すべき勇者で、それを擁する腐った世界。
これからの展開が楽しみになってくる冒頭部分と思います。
これからも期待してます。
駿河防人様
感想ありがとうございます!
あぁ、言われてみればそれが一番しっくりする表現ですね。
物語全体のイメージ像は朧気ながらあるのですが、闇堕ちという部分にだけ焦点を当てて導入部を作っていたので気づいていませんでしたw
確かに分類するとダークヒーローものといえるのかと思います。
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その辺りについても、これから更に視野を拡張していきますので、どうなるかという部分も楽しんで頂ければと思います。
今後もご愛読よろしくお願い致します!