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二人の距離は、どんどん縮まっていく。
互いに恋心を抱くのに、そう時間はかからなかった。
しかし、出会った頃のヴィヒトは婚約者決めの真っ最中。
子爵家の生まれのアリーシャは、もちろん婚約者候補には入っていない。
だから、アリーシャへの恋心を自覚しながらも、ヴィヒトはなかなか彼女にアプローチをかけることができなかった。
状況が変わったのは、出会いから2年ほどが経ったころ。
アリーシャが、国一番の聖女として、その名をとどろかせるようになった時期だ。
聖女の力を王家のものにする、という意味もあり、アリーシャが婚約者候補の一人にまで押し上げられた。
アリーシャを物扱いしているようで、理由は気に食わなかったが、彼女に懸想していたヴィヒトにとっては願ってもないチャンスだった。
最初のデートの誘いは、ヴィヒトから。
「あの、さ。アリーシャ。街で評判の喫茶店があるらしいんだけど、一緒にどうかな。男だけだと行きづらくてさ」
「喫茶店、ですか……。その、私は構いませんが、ヴィヒト様の周りの方は、面白くないのでは?」
アリーシャは、自分が子爵家の出であることを気にして答えを濁した。
第二王子と、子爵家の娘。どう考えても不釣り合いだ。
ヴィヒトがどんな意図で自分を誘っているのかは、この時のアリーシャにはわからなかった。
もしも、ヴィヒトも同じ気持ちだったら。異性として、自分に好意を抱いていてくれるなら。
そうだったらいいなあ、なんて、ちょっぴり思ったりもしたけれど、やはり身分の差がありすぎる。
この時には既に、ヴィヒトを通じてレイナとも知り合っていたアリーシャは、女性が必要ならレイナと行ってみてはどうか、と提案する。
レイナは、ヴィヒトと同い年の公爵令嬢。
容姿、家柄、能力のどれをとっても、王子の婚約者として申し分のない女性だった。
彼女はアリーシャよりもずっと早くに、ヴィヒトの婚約者候補となっていた人でもある。
最近になって候補に押し上げられたばかりの、身分の低いアリーシャは、他の女性たちに遠慮した。
しかし、ヴィヒトだって、アリーシャの気持ちや立場は理解している。
理解したうえで、アリーシャを誘っているのだ。
そのくせに「男だけでは」なんて、逃げの言葉を使ってしまったことを、ヴィヒトは反省した。
アリーシャと恋仲になりたいのなら、彼女を婚約者としたいのなら、もっとストレートにいくべきだ。
「……さっきは、男だけだと行きにくいだなんて、言い訳を使ったけど。本当は、きみと一緒に行きたいんだ。アリーシャ。他の誰でもない、きみと」
「ヴィヒト様……」
ヴィヒトの言葉に、一瞬、ぽうっとしてしまったアリーシャだが、すぐに気を取り直す。
「ヴィヒト様。あなたにそのようなことを言われたら、多くの女性は勘違いをしてしまいます。トラブルの元になりますから、異性に向ける言葉には、もう少し気を付けていただけたらと……」
「……きみがどう感じたのかは、わからないけど。多分、勘違いじゃないよ。きみ以外には、こんなふうに言わない」
「で、ですから! そのような言葉、王子のあなたが気軽に言っては……」
「勘違いじゃないし、気軽に言っているわけでもないよ。アリーシャ」
「……!」
ヴィヒトの言葉に、アリーシャの瞳が驚きで開かれた。
「それは、その……。つまり……えっと……」
「僕とデート、してくれるかな?」
「はい……」
デートだとはっきりと言われ、アリーシャは耳まで赤く染め上げる。
そんな彼女を、ヴィヒトは愛おしそうに見つめていた。
互いの言葉や反応から、気持ちの確認はできたも同然だった。
以降も、二人はデートを重ねていく。
国一番の聖女とはいえ、アリーシャはぽっと出の子爵令嬢。
ヴィヒトとの仲が深まったことで、他のご令嬢からの嫌がらせはそれなりに受けた。
そんなとき、アリーシャを助けてくれたのが、公爵家のレイナだ。
あくまで婚約者候補だったとはいえ、長年の付き合いの王子を身分の低い聖女に奪われたのにも関わらず、彼女は優しかった。
聞けば、家柄の関係で候補にはなっていたが、レイナにはヴィヒトとは別に想い人がいるらしい。
アリーシャがヴィヒトを奪ってくれたら、むしろ自分は助かるのだと、彼女は笑った。
互いに恋心を抱くのに、そう時間はかからなかった。
しかし、出会った頃のヴィヒトは婚約者決めの真っ最中。
子爵家の生まれのアリーシャは、もちろん婚約者候補には入っていない。
だから、アリーシャへの恋心を自覚しながらも、ヴィヒトはなかなか彼女にアプローチをかけることができなかった。
状況が変わったのは、出会いから2年ほどが経ったころ。
アリーシャが、国一番の聖女として、その名をとどろかせるようになった時期だ。
聖女の力を王家のものにする、という意味もあり、アリーシャが婚約者候補の一人にまで押し上げられた。
アリーシャを物扱いしているようで、理由は気に食わなかったが、彼女に懸想していたヴィヒトにとっては願ってもないチャンスだった。
最初のデートの誘いは、ヴィヒトから。
「あの、さ。アリーシャ。街で評判の喫茶店があるらしいんだけど、一緒にどうかな。男だけだと行きづらくてさ」
「喫茶店、ですか……。その、私は構いませんが、ヴィヒト様の周りの方は、面白くないのでは?」
アリーシャは、自分が子爵家の出であることを気にして答えを濁した。
第二王子と、子爵家の娘。どう考えても不釣り合いだ。
ヴィヒトがどんな意図で自分を誘っているのかは、この時のアリーシャにはわからなかった。
もしも、ヴィヒトも同じ気持ちだったら。異性として、自分に好意を抱いていてくれるなら。
そうだったらいいなあ、なんて、ちょっぴり思ったりもしたけれど、やはり身分の差がありすぎる。
この時には既に、ヴィヒトを通じてレイナとも知り合っていたアリーシャは、女性が必要ならレイナと行ってみてはどうか、と提案する。
レイナは、ヴィヒトと同い年の公爵令嬢。
容姿、家柄、能力のどれをとっても、王子の婚約者として申し分のない女性だった。
彼女はアリーシャよりもずっと早くに、ヴィヒトの婚約者候補となっていた人でもある。
最近になって候補に押し上げられたばかりの、身分の低いアリーシャは、他の女性たちに遠慮した。
しかし、ヴィヒトだって、アリーシャの気持ちや立場は理解している。
理解したうえで、アリーシャを誘っているのだ。
そのくせに「男だけでは」なんて、逃げの言葉を使ってしまったことを、ヴィヒトは反省した。
アリーシャと恋仲になりたいのなら、彼女を婚約者としたいのなら、もっとストレートにいくべきだ。
「……さっきは、男だけだと行きにくいだなんて、言い訳を使ったけど。本当は、きみと一緒に行きたいんだ。アリーシャ。他の誰でもない、きみと」
「ヴィヒト様……」
ヴィヒトの言葉に、一瞬、ぽうっとしてしまったアリーシャだが、すぐに気を取り直す。
「ヴィヒト様。あなたにそのようなことを言われたら、多くの女性は勘違いをしてしまいます。トラブルの元になりますから、異性に向ける言葉には、もう少し気を付けていただけたらと……」
「……きみがどう感じたのかは、わからないけど。多分、勘違いじゃないよ。きみ以外には、こんなふうに言わない」
「で、ですから! そのような言葉、王子のあなたが気軽に言っては……」
「勘違いじゃないし、気軽に言っているわけでもないよ。アリーシャ」
「……!」
ヴィヒトの言葉に、アリーシャの瞳が驚きで開かれた。
「それは、その……。つまり……えっと……」
「僕とデート、してくれるかな?」
「はい……」
デートだとはっきりと言われ、アリーシャは耳まで赤く染め上げる。
そんな彼女を、ヴィヒトは愛おしそうに見つめていた。
互いの言葉や反応から、気持ちの確認はできたも同然だった。
以降も、二人はデートを重ねていく。
国一番の聖女とはいえ、アリーシャはぽっと出の子爵令嬢。
ヴィヒトとの仲が深まったことで、他のご令嬢からの嫌がらせはそれなりに受けた。
そんなとき、アリーシャを助けてくれたのが、公爵家のレイナだ。
あくまで婚約者候補だったとはいえ、長年の付き合いの王子を身分の低い聖女に奪われたのにも関わらず、彼女は優しかった。
聞けば、家柄の関係で候補にはなっていたが、レイナにはヴィヒトとは別に想い人がいるらしい。
アリーシャがヴィヒトを奪ってくれたら、むしろ自分は助かるのだと、彼女は笑った。
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