7 / 9
7
しおりを挟む
二人の距離は、どんどん縮まっていく。
互いに恋心を抱くのに、そう時間はかからなかった。
しかし、出会った頃のヴィヒトは婚約者決めの真っ最中。
子爵家の生まれのアリーシャは、もちろん婚約者候補には入っていない。
だから、アリーシャへの恋心を自覚しながらも、ヴィヒトはなかなか彼女にアプローチをかけることができなかった。
状況が変わったのは、出会いから2年ほどが経ったころ。
アリーシャが、国一番の聖女として、その名をとどろかせるようになった時期だ。
聖女の力を王家のものにする、という意味もあり、アリーシャが婚約者候補の一人にまで押し上げられた。
アリーシャを物扱いしているようで、理由は気に食わなかったが、彼女に懸想していたヴィヒトにとっては願ってもないチャンスだった。
最初のデートの誘いは、ヴィヒトから。
「あの、さ。アリーシャ。街で評判の喫茶店があるらしいんだけど、一緒にどうかな。男だけだと行きづらくてさ」
「喫茶店、ですか……。その、私は構いませんが、ヴィヒト様の周りの方は、面白くないのでは?」
アリーシャは、自分が子爵家の出であることを気にして答えを濁した。
第二王子と、子爵家の娘。どう考えても不釣り合いだ。
ヴィヒトがどんな意図で自分を誘っているのかは、この時のアリーシャにはわからなかった。
もしも、ヴィヒトも同じ気持ちだったら。異性として、自分に好意を抱いていてくれるなら。
そうだったらいいなあ、なんて、ちょっぴり思ったりもしたけれど、やはり身分の差がありすぎる。
この時には既に、ヴィヒトを通じてレイナとも知り合っていたアリーシャは、女性が必要ならレイナと行ってみてはどうか、と提案する。
レイナは、ヴィヒトと同い年の公爵令嬢。
容姿、家柄、能力のどれをとっても、王子の婚約者として申し分のない女性だった。
彼女はアリーシャよりもずっと早くに、ヴィヒトの婚約者候補となっていた人でもある。
最近になって候補に押し上げられたばかりの、身分の低いアリーシャは、他の女性たちに遠慮した。
しかし、ヴィヒトだって、アリーシャの気持ちや立場は理解している。
理解したうえで、アリーシャを誘っているのだ。
そのくせに「男だけでは」なんて、逃げの言葉を使ってしまったことを、ヴィヒトは反省した。
アリーシャと恋仲になりたいのなら、彼女を婚約者としたいのなら、もっとストレートにいくべきだ。
「……さっきは、男だけだと行きにくいだなんて、言い訳を使ったけど。本当は、きみと一緒に行きたいんだ。アリーシャ。他の誰でもない、きみと」
「ヴィヒト様……」
ヴィヒトの言葉に、一瞬、ぽうっとしてしまったアリーシャだが、すぐに気を取り直す。
「ヴィヒト様。あなたにそのようなことを言われたら、多くの女性は勘違いをしてしまいます。トラブルの元になりますから、異性に向ける言葉には、もう少し気を付けていただけたらと……」
「……きみがどう感じたのかは、わからないけど。多分、勘違いじゃないよ。きみ以外には、こんなふうに言わない」
「で、ですから! そのような言葉、王子のあなたが気軽に言っては……」
「勘違いじゃないし、気軽に言っているわけでもないよ。アリーシャ」
「……!」
ヴィヒトの言葉に、アリーシャの瞳が驚きで開かれた。
「それは、その……。つまり……えっと……」
「僕とデート、してくれるかな?」
「はい……」
デートだとはっきりと言われ、アリーシャは耳まで赤く染め上げる。
そんな彼女を、ヴィヒトは愛おしそうに見つめていた。
互いの言葉や反応から、気持ちの確認はできたも同然だった。
以降も、二人はデートを重ねていく。
国一番の聖女とはいえ、アリーシャはぽっと出の子爵令嬢。
ヴィヒトとの仲が深まったことで、他のご令嬢からの嫌がらせはそれなりに受けた。
そんなとき、アリーシャを助けてくれたのが、公爵家のレイナだ。
あくまで婚約者候補だったとはいえ、長年の付き合いの王子を身分の低い聖女に奪われたのにも関わらず、彼女は優しかった。
聞けば、家柄の関係で候補にはなっていたが、レイナにはヴィヒトとは別に想い人がいるらしい。
アリーシャがヴィヒトを奪ってくれたら、むしろ自分は助かるのだと、彼女は笑った。
互いに恋心を抱くのに、そう時間はかからなかった。
しかし、出会った頃のヴィヒトは婚約者決めの真っ最中。
子爵家の生まれのアリーシャは、もちろん婚約者候補には入っていない。
だから、アリーシャへの恋心を自覚しながらも、ヴィヒトはなかなか彼女にアプローチをかけることができなかった。
状況が変わったのは、出会いから2年ほどが経ったころ。
アリーシャが、国一番の聖女として、その名をとどろかせるようになった時期だ。
聖女の力を王家のものにする、という意味もあり、アリーシャが婚約者候補の一人にまで押し上げられた。
アリーシャを物扱いしているようで、理由は気に食わなかったが、彼女に懸想していたヴィヒトにとっては願ってもないチャンスだった。
最初のデートの誘いは、ヴィヒトから。
「あの、さ。アリーシャ。街で評判の喫茶店があるらしいんだけど、一緒にどうかな。男だけだと行きづらくてさ」
「喫茶店、ですか……。その、私は構いませんが、ヴィヒト様の周りの方は、面白くないのでは?」
アリーシャは、自分が子爵家の出であることを気にして答えを濁した。
第二王子と、子爵家の娘。どう考えても不釣り合いだ。
ヴィヒトがどんな意図で自分を誘っているのかは、この時のアリーシャにはわからなかった。
もしも、ヴィヒトも同じ気持ちだったら。異性として、自分に好意を抱いていてくれるなら。
そうだったらいいなあ、なんて、ちょっぴり思ったりもしたけれど、やはり身分の差がありすぎる。
この時には既に、ヴィヒトを通じてレイナとも知り合っていたアリーシャは、女性が必要ならレイナと行ってみてはどうか、と提案する。
レイナは、ヴィヒトと同い年の公爵令嬢。
容姿、家柄、能力のどれをとっても、王子の婚約者として申し分のない女性だった。
彼女はアリーシャよりもずっと早くに、ヴィヒトの婚約者候補となっていた人でもある。
最近になって候補に押し上げられたばかりの、身分の低いアリーシャは、他の女性たちに遠慮した。
しかし、ヴィヒトだって、アリーシャの気持ちや立場は理解している。
理解したうえで、アリーシャを誘っているのだ。
そのくせに「男だけでは」なんて、逃げの言葉を使ってしまったことを、ヴィヒトは反省した。
アリーシャと恋仲になりたいのなら、彼女を婚約者としたいのなら、もっとストレートにいくべきだ。
「……さっきは、男だけだと行きにくいだなんて、言い訳を使ったけど。本当は、きみと一緒に行きたいんだ。アリーシャ。他の誰でもない、きみと」
「ヴィヒト様……」
ヴィヒトの言葉に、一瞬、ぽうっとしてしまったアリーシャだが、すぐに気を取り直す。
「ヴィヒト様。あなたにそのようなことを言われたら、多くの女性は勘違いをしてしまいます。トラブルの元になりますから、異性に向ける言葉には、もう少し気を付けていただけたらと……」
「……きみがどう感じたのかは、わからないけど。多分、勘違いじゃないよ。きみ以外には、こんなふうに言わない」
「で、ですから! そのような言葉、王子のあなたが気軽に言っては……」
「勘違いじゃないし、気軽に言っているわけでもないよ。アリーシャ」
「……!」
ヴィヒトの言葉に、アリーシャの瞳が驚きで開かれた。
「それは、その……。つまり……えっと……」
「僕とデート、してくれるかな?」
「はい……」
デートだとはっきりと言われ、アリーシャは耳まで赤く染め上げる。
そんな彼女を、ヴィヒトは愛おしそうに見つめていた。
互いの言葉や反応から、気持ちの確認はできたも同然だった。
以降も、二人はデートを重ねていく。
国一番の聖女とはいえ、アリーシャはぽっと出の子爵令嬢。
ヴィヒトとの仲が深まったことで、他のご令嬢からの嫌がらせはそれなりに受けた。
そんなとき、アリーシャを助けてくれたのが、公爵家のレイナだ。
あくまで婚約者候補だったとはいえ、長年の付き合いの王子を身分の低い聖女に奪われたのにも関わらず、彼女は優しかった。
聞けば、家柄の関係で候補にはなっていたが、レイナにはヴィヒトとは別に想い人がいるらしい。
アリーシャがヴィヒトを奪ってくれたら、むしろ自分は助かるのだと、彼女は笑った。
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。
かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。
ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。
二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

契約破棄された聖女は帰りますけど
基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」
「…かしこまりました」
王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。
では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。
「…何故理由を聞かない」
※短編(勢い)
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる