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世話が焼けるにゃん……。
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エルレインとラキリオの婚約は、盛り上がった親が勝手に取りつけたものだった。
けれどラキリオなりに、エルレインに歩み寄ろうとしていたのだ。
しかし彼女は猫ばかり見ている。
婚約から10年近く経っても、全く自分のことを見てくれない。
流石に寂しくなったラキリオ、互いのために、婚約解消を考えた。
そして、エルレインに承諾され、晴れて自由の身。
のはずだったのだが。
婚約を解消してから、ラキリオの心を埋め尽くしたのは、後悔だった。
確かに、エルレインは変わっているし、猫のことばかりで、婚約相手のことなんて全く見ちゃいない。
けれどラキリオは――そんな彼女に、心惹かれていたのだ。
彼女が自分を見てくれなくても。1番に愛してもらうことなどできなくても。
自由な彼女を、近くで見ていたかった。
解消を告げてから自分の気持ちに気が付いたラキリオ、エルレインと話し合おうと彼女の部屋にやってきた。
そうしたら、毛布ぐるぐる全裸の男の登場だ。
気分は最悪である。
「僕は……君は猫にしか興味がないのだと……思って……。他に男がいたなんて」
婚約解消の翌日、相手が部屋に男を連れ込んでいたのだから、そりゃあもう、つらくてたまらない。
あまりのことに、ラキリオも床に座り込み、ぐすぐすと泣き出してしまった。
二人の男が泣いている。
元婚約者と、元愛猫が、自分の部屋で、揃って泣いている。
これには、エルレインもおろおろするしかない。
とりあえず、エルレインはラキリオに話しかけた。
「ラキリオ様。話したいこととは……?」
ラキリオは話した。
自分の気持ちに気が付いたこと。
1番じゃなくてもいい、自分を見てくれなくてもいいから、一緒にいたいと思っていることを。
それを聞いたエルレインは、やっぱりびっくりびっくりで。
「……では、ラキリオ様を婚約者だと思っていいのですか?」
「え?」
今度はラキリオが驚いた。
思っていいもなにも、10年近く婚約者をやっていた。
どういうことなのかと聞けば、エルレインは話し出す。
「親が勝手に決めたこと、でしたから……。私はてっきり、ラキリオ様が無理をなさっているのかとばかり。本当は嫌なのに、婚約を解消できずにいるのではと」
「ええ……?」
「婚約解消でも、お飾りの妻でも、愛人をお作りになっても。ラキリオ様のお心のままにしていただければと。そう思いながら過ごしてまいりました」
「そ、そうだったんだ……?」
「はい……。そんな具合でした……」
「「……」」
ずっとすれ違っていたことを認識し、黙りこくる二人の耳に届くのは、ルークの泣き声。
「そうだ、その男は!? エル、誰なんだこの男! 君の方が男を作っていたんじゃないのか!?」
「そ、その人は……。ルークです」
「ルーク? ルークは猫だ。いくらなんでも、それはくるし、い……」
二人の会話を聞きながら、ルークは考えていた。
自分の役目は、終わったのだと。
すれ違いが発覚し、互いを大事に思っていたことが判明した二人。
彼らはこれから、婚約者として、夫婦として、歩んでいくのだろう。
人間のルークは、もうお役御免なのだ。
ルークは願う。
もういいみたいだから、猫に戻してください、と。
そうすれば、ぽんっと音を立てて、猫に戻った。
急に男がいなくなり、ぱさっと落ちた毛布の中からは、猫が一匹。
つやっつやのグレーの毛並み。間違いなくルークである。
「……ルークだ」
「ルークです。さっきの男も、この子も、ルークです。婚約解消された私を心配し、人間になって結婚しようと考えたみたいです」
「嘘みたいな話だけど、君たちの仲の良さを知っていると、否定できないよ……」
ラキリオはルークを抱き上げて、長い長い溜息をついた。
エルレインとラキリオの婚約解消騒動は、これにて決着。
今更ながらも、二人は婚約者として歩み始めた。
ルークは、今日も特等席で――主人の膝に乗って、撫でられている。
世話の焼ける主人だ。
そう思いながら、猫のルークはくああと欠伸をした。
けれどラキリオなりに、エルレインに歩み寄ろうとしていたのだ。
しかし彼女は猫ばかり見ている。
婚約から10年近く経っても、全く自分のことを見てくれない。
流石に寂しくなったラキリオ、互いのために、婚約解消を考えた。
そして、エルレインに承諾され、晴れて自由の身。
のはずだったのだが。
婚約を解消してから、ラキリオの心を埋め尽くしたのは、後悔だった。
確かに、エルレインは変わっているし、猫のことばかりで、婚約相手のことなんて全く見ちゃいない。
けれどラキリオは――そんな彼女に、心惹かれていたのだ。
彼女が自分を見てくれなくても。1番に愛してもらうことなどできなくても。
自由な彼女を、近くで見ていたかった。
解消を告げてから自分の気持ちに気が付いたラキリオ、エルレインと話し合おうと彼女の部屋にやってきた。
そうしたら、毛布ぐるぐる全裸の男の登場だ。
気分は最悪である。
「僕は……君は猫にしか興味がないのだと……思って……。他に男がいたなんて」
婚約解消の翌日、相手が部屋に男を連れ込んでいたのだから、そりゃあもう、つらくてたまらない。
あまりのことに、ラキリオも床に座り込み、ぐすぐすと泣き出してしまった。
二人の男が泣いている。
元婚約者と、元愛猫が、自分の部屋で、揃って泣いている。
これには、エルレインもおろおろするしかない。
とりあえず、エルレインはラキリオに話しかけた。
「ラキリオ様。話したいこととは……?」
ラキリオは話した。
自分の気持ちに気が付いたこと。
1番じゃなくてもいい、自分を見てくれなくてもいいから、一緒にいたいと思っていることを。
それを聞いたエルレインは、やっぱりびっくりびっくりで。
「……では、ラキリオ様を婚約者だと思っていいのですか?」
「え?」
今度はラキリオが驚いた。
思っていいもなにも、10年近く婚約者をやっていた。
どういうことなのかと聞けば、エルレインは話し出す。
「親が勝手に決めたこと、でしたから……。私はてっきり、ラキリオ様が無理をなさっているのかとばかり。本当は嫌なのに、婚約を解消できずにいるのではと」
「ええ……?」
「婚約解消でも、お飾りの妻でも、愛人をお作りになっても。ラキリオ様のお心のままにしていただければと。そう思いながら過ごしてまいりました」
「そ、そうだったんだ……?」
「はい……。そんな具合でした……」
「「……」」
ずっとすれ違っていたことを認識し、黙りこくる二人の耳に届くのは、ルークの泣き声。
「そうだ、その男は!? エル、誰なんだこの男! 君の方が男を作っていたんじゃないのか!?」
「そ、その人は……。ルークです」
「ルーク? ルークは猫だ。いくらなんでも、それはくるし、い……」
二人の会話を聞きながら、ルークは考えていた。
自分の役目は、終わったのだと。
すれ違いが発覚し、互いを大事に思っていたことが判明した二人。
彼らはこれから、婚約者として、夫婦として、歩んでいくのだろう。
人間のルークは、もうお役御免なのだ。
ルークは願う。
もういいみたいだから、猫に戻してください、と。
そうすれば、ぽんっと音を立てて、猫に戻った。
急に男がいなくなり、ぱさっと落ちた毛布の中からは、猫が一匹。
つやっつやのグレーの毛並み。間違いなくルークである。
「……ルークだ」
「ルークです。さっきの男も、この子も、ルークです。婚約解消された私を心配し、人間になって結婚しようと考えたみたいです」
「嘘みたいな話だけど、君たちの仲の良さを知っていると、否定できないよ……」
ラキリオはルークを抱き上げて、長い長い溜息をついた。
エルレインとラキリオの婚約解消騒動は、これにて決着。
今更ながらも、二人は婚約者として歩み始めた。
ルークは、今日も特等席で――主人の膝に乗って、撫でられている。
世話の焼ける主人だ。
そう思いながら、猫のルークはくああと欠伸をした。
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