【完結】【短編】婚約解消されたご主人のために人間になったのに、猫に戻れと言われました。

はづも

文字の大きさ
上 下
2 / 3

どうしてだにゃん……。

しおりを挟む
 翌朝、エルレインのベッドには、ベッドの持ち主であるエルレインと、全裸の男がいた。
 目を覚ましたエルレイン。流石の彼女も、これには驚いて悲鳴をあげた。

「きゃああああああっ! だだだ、だれ、誰なんです!? 私になにを……!?」

 その声を聞いて目を覚ました男は、眠たそうに目をこすりながらも、起き上がる。

「……ご主人! 俺です! ルークです! ご主人のために人間になりました! 俺と結婚しましょう!」

 突然現れた全裸の男。その正体は、エルレインの愛猫・ルークだった。
 願いが叶ったルークは大はしゃぎ。
 その場で主人に結婚を申し込んだ。
 
 エルレインは、自分を溺愛している。
 だから、人間になったことも、結婚できることも、エルレインは喜んでくれる。
 ルークは、そう信じて疑わなかった。

 しかし、現実は非情なもので。

「えっ……。嫌です」
「えっ……? どうしてですご主人! 俺のこと大好きじゃないですか! あっ、本当にルークなのか疑ってるんですね! なら……!」

 ルークは、愛猫の自分でないと知りえない話をたくさんした。
 その間に、全裸でいるなと毛布を巻きつけられたりしつつも、とにかく話した。
 自分がルークだと、信じて欲しくて。

 いくつもの話を披露すれば、エルレインは目の前の男がルークだと信じた。
 ルークを溺愛していたエルレイン。
 愛猫でなければ知るはずのないエピソードが、たくさんあるのだ。

「……本当に、ルークなのですね」
「ご主人……! そうです! ルークです! ご主人、俺と結婚しましょう!」
「嫌です。猫に戻ってください」
「ルークですよ!?」
「猫に戻ってください」
「うええん……」

 せっかく人間になれたのに、これである。
 あまりのショックに、ルークはぐすぐすと泣き始めた。



 そこに響く、ノックの音。

「エル。朝早くにごめん。昨日のこと、ちゃんと話したくて」

 名乗りはしなかったが、ラキリオの声だ。
 昨日の昼間に婚約解消を申し出た男である。
 今更なんの用だというのか。

 いつもならどうぞと返すところだが、エルレインは迷った。
 だって、自分の部屋には全裸の男――毛布で肌を隠しているが、全裸である――がいるのだから。
 返事に困っていると、

「エル? あんなことを言った直後に押しかけるなんて、困らせてしまったかな」

 とラキリオ。
 エルレインは、確かに困っている。
 ラキリオが思っているのとは、違う方向に。

「ごめん。どうしても君と話したいんだ。開けるよ」

 そう言って、ラキリオは扉を開けてしまった。
 ラキリオの視界に飛び込んだのは、毛布を巻かれた見知らぬ男と、ベッドに乗ったままの婚約者。

「えっ……」

 ラキリオの表情が、凍った。
 

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

欲しいものが手に入らないお話

奏穏朔良
恋愛
いつだって私が欲しいと望むものは手に入らなかった。

伯爵令嬢の苦悩

夕鈴
恋愛
伯爵令嬢ライラの婚約者の趣味は婚約破棄だった。 婚約破棄してほしいと願う婚約者を宥めることが面倒になった。10回目の申し出のときに了承することにした。ただ二人の中で婚約破棄の認識の違いがあった・・・。

婚約破棄させてください!

佐崎咲
恋愛
「ユージーン=エスライト! あなたとは婚約破棄させてもらうわ!」 「断る」 「なんでよ! 婚約破棄させてよ! お願いだから!」 伯爵令嬢の私、メイシアはユージーンとの婚約破棄を願い出たものの、即座に却下され戸惑っていた。 どうして? 彼は他に好きな人がいるはずなのに。 だから身を引こうと思ったのに。 意地っ張りで、かわいくない私となんて、結婚したくなんかないだろうと思ったのに。 ============ 第1~4話 メイシア視点 第5~9話 ユージーン視点  エピローグ ユージーンが好きすぎていつも逃げてしまうメイシアと、 その裏のユージーンの葛藤(答え合わせ的な)です。 ※無断転載・複写はお断りいたします。

王子が親友を好きになり婚約破棄「僕は本当の恋に出会えた。君とは結婚できない」王子に付きまとわれて迷惑してる?衝撃の真実がわかった。

window
恋愛
セシリア公爵令嬢とヘンリー王子の婚約披露パーティーが開かれて以来、彼の様子が変わった。ある日ヘンリーから大事な話があると呼び出された。 「僕は本当の恋に出会ってしまった。もう君とは結婚できない」 もうすっかり驚いてしまったセシリアは、どうしていいか分からなかった。とりあえず詳しく話を聞いてみようと思い尋ねる。 先日の婚約披露パーティーの時にいた令嬢に、一目惚れしてしまったと答えたのです。その令嬢はセシリアの無二の親友で伯爵令嬢のシャロンだったというのも困惑を隠せない様子だった。 結局はヘンリーの強い意志で一方的に婚約破棄したいと宣言した。誠実な人柄の親友が裏切るような真似はするはずがないと思いシャロンの家に会いに行った。 するとヘンリーがシャロンにしつこく言い寄っている現場を目撃する。事の真実がわかるとセシリアは言葉を失う。 ヘンリーは勝手な思い込みでシャロンを好きになって、つきまとい行為を繰り返していたのだ。

【完結】離縁など、とんでもない?じゃあこれ食べてみて。

BBやっこ
恋愛
サリー・シュチュワートは良縁にめぐまれ、結婚した。婚家でも温かく迎えられ、幸せな生活を送ると思えたが。 何のこれ?「旦那様からの指示です」「奥様からこのメニューをこなすように、と。」「大旦那様が苦言を」 何なの?文句が多すぎる!けど慣れ様としたのよ…。でも。

【完結】真実の愛を見出した人と幸せになってください

紫崎 藍華
恋愛
婚約者の態度は最初からおかしかった。 それは婚約を疎ましく思う女性の悪意によって捻じ曲げられた好意の形。 何が真実の愛の形なのか、理解したときには全てが手遅れだった。

こんな人とは頼まれても婚約したくありません!

Mayoi
恋愛
ダミアンからの辛辣な一言で始まった縁談は、いきなり終わりに向かって進み始めた。 最初から望んでいないような態度に無理に婚約する必要はないと考えたジュディスは狙い通りに破談となった。 しかし、どうしてか妹のユーニスがダミアンとの縁談を望んでしまった。 不幸な結末が予想できたが、それもユーニスの選んだこと。 ジュディスは妹の行く末を見守りつつ、自分の幸せを求めた。

処理中です...