30 / 36
29 メフィー、という名前。
しおりを挟む
ヘレス様の許可を得て、呪術や伝承についての資料が集まる場所へ。
自国では、悪魔に関する情報はほとんど見つかりませんでした。
悪魔、という名称そのものは存在しましたが……。精霊関係の資料の数が圧倒的でした。
ミュールはアルティリア王国に根付く精霊信仰まで知っていて、守護精霊を名乗ったのでしょうか。
国が変われば、文化も変わるもので。
ミルヴァーナ王国では、悪魔に関する資料をたくさん見つけることができました。
「どこからどこまで本当なのかはわかりませんが……。頻出する内容もありますね」
「悪魔は、元々は人間だった。強い無念を残して死んだ人間が悪魔として転生する、あたりか」
「ええ。それから……弱った人間の心につけこんで、負の感情や壊れた心を食う。こちらはミュールから聞いた通りで、私も実際に見て来ましたから、事実なのでしょうね」
その他にも、悪魔に取りつかれた人が登場する物語など。
悪魔を取り扱う文献の数が、自国とは比べ物になりません。
どうしてここまで差があるのでしょうか。
「メフィー……」
私がぽつりと呟いたのは、度々登場する悪魔の名前です。
悪魔の名前が出る際、多くの文献や物語はメフィーという名称を使っています。
これが少し気になりました。
「このメフィーという悪魔、実在しているのではないでしょうか。ミュールと同じように、取り憑いた相手に自分の名前を教えたのかもしれません」
「そうだな。ミュールだって、守護精霊として名が残るだろうからな。悪魔だと名乗れば、メフィーと似た扱いになったはずだ」
グラジオ様の言う通りです。
ミュールは自称守護精霊ですから、そのように書き残されます。
ですが、悪魔だと名乗っていたら。人の心を食う悪魔のミュールとして、語り継がれていたことでしょう。
更に資料を探せば、メフィーと会話する人がいたという記録も見つかりました。
虚ろな瞳で、メフィー、と悪魔の名を呼びながら、語りかけていたと。
ずいぶん昔の話のようで、ここから伝承が広まり始めたように思えます。
「実在しているなら、おそらく高等悪魔……。ミュールはなにか知りませんか?」
『……』
珍しく人の姿で顕現していた彼女は、何も答えてくれませんでした。
資料探しを始めてからの彼女は、妙に静かです。
「暇なようでしたら、離れていてもかまいませんよ。なるべく目立たないようお願いしますが」
『……いや、ここにおるよ。知識のない人間たちを見るのもなかなか愉快じゃからのう』
「あなたがもっと色々教えてくれてもいいのですよ?」
『面倒だから嫌じゃ、自分で探せ』
そう言って、ミュールはまた静かになりました。
ふわふわと宙に浮いたまま、私たちを眺めています。
互いの力が強まったせいなのか、彼女は私から離れることもできるようになりました。
最初の頃は周囲を飛び回るぐらいしかできなかったのに、今ではルーカハイト家やリーシャン家を勝手に散歩しているぐらいです。
ちょろちょろしては、ミュールが見える人たちにおやつをもらっています。
だから今回も、暇しているようなら遊びに行けばいいと思ったのですが……。
ミュールは、ずっと私たちのそばにいました。
どういう心境なのでしょう。
まだまだ調べ物をしたかったのですが、時間切れです。
私もグラジオ様も、自国での立場がある身。あまり長くあけることはできません。
ヘレス様から荷物を受け取って、帰路に着きます。
食べ物にお茶に装飾品に……。結構な量です。これらは全て、フォルビア様への贈り物なのです。
これでもかなり絞ったのだと、ヘレス様は恥ずかしそうに笑っていました。
愛情は、贈り物の量や質だけでは計れません。けれど、この品々には。フォルビア様への想いが、たっぷり詰まっているのでしょう。
自国では、悪魔に関する情報はほとんど見つかりませんでした。
悪魔、という名称そのものは存在しましたが……。精霊関係の資料の数が圧倒的でした。
ミュールはアルティリア王国に根付く精霊信仰まで知っていて、守護精霊を名乗ったのでしょうか。
国が変われば、文化も変わるもので。
ミルヴァーナ王国では、悪魔に関する資料をたくさん見つけることができました。
「どこからどこまで本当なのかはわかりませんが……。頻出する内容もありますね」
「悪魔は、元々は人間だった。強い無念を残して死んだ人間が悪魔として転生する、あたりか」
「ええ。それから……弱った人間の心につけこんで、負の感情や壊れた心を食う。こちらはミュールから聞いた通りで、私も実際に見て来ましたから、事実なのでしょうね」
その他にも、悪魔に取りつかれた人が登場する物語など。
悪魔を取り扱う文献の数が、自国とは比べ物になりません。
どうしてここまで差があるのでしょうか。
「メフィー……」
私がぽつりと呟いたのは、度々登場する悪魔の名前です。
悪魔の名前が出る際、多くの文献や物語はメフィーという名称を使っています。
これが少し気になりました。
「このメフィーという悪魔、実在しているのではないでしょうか。ミュールと同じように、取り憑いた相手に自分の名前を教えたのかもしれません」
「そうだな。ミュールだって、守護精霊として名が残るだろうからな。悪魔だと名乗れば、メフィーと似た扱いになったはずだ」
グラジオ様の言う通りです。
ミュールは自称守護精霊ですから、そのように書き残されます。
ですが、悪魔だと名乗っていたら。人の心を食う悪魔のミュールとして、語り継がれていたことでしょう。
更に資料を探せば、メフィーと会話する人がいたという記録も見つかりました。
虚ろな瞳で、メフィー、と悪魔の名を呼びながら、語りかけていたと。
ずいぶん昔の話のようで、ここから伝承が広まり始めたように思えます。
「実在しているなら、おそらく高等悪魔……。ミュールはなにか知りませんか?」
『……』
珍しく人の姿で顕現していた彼女は、何も答えてくれませんでした。
資料探しを始めてからの彼女は、妙に静かです。
「暇なようでしたら、離れていてもかまいませんよ。なるべく目立たないようお願いしますが」
『……いや、ここにおるよ。知識のない人間たちを見るのもなかなか愉快じゃからのう』
「あなたがもっと色々教えてくれてもいいのですよ?」
『面倒だから嫌じゃ、自分で探せ』
そう言って、ミュールはまた静かになりました。
ふわふわと宙に浮いたまま、私たちを眺めています。
互いの力が強まったせいなのか、彼女は私から離れることもできるようになりました。
最初の頃は周囲を飛び回るぐらいしかできなかったのに、今ではルーカハイト家やリーシャン家を勝手に散歩しているぐらいです。
ちょろちょろしては、ミュールが見える人たちにおやつをもらっています。
だから今回も、暇しているようなら遊びに行けばいいと思ったのですが……。
ミュールは、ずっと私たちのそばにいました。
どういう心境なのでしょう。
まだまだ調べ物をしたかったのですが、時間切れです。
私もグラジオ様も、自国での立場がある身。あまり長くあけることはできません。
ヘレス様から荷物を受け取って、帰路に着きます。
食べ物にお茶に装飾品に……。結構な量です。これらは全て、フォルビア様への贈り物なのです。
これでもかなり絞ったのだと、ヘレス様は恥ずかしそうに笑っていました。
愛情は、贈り物の量や質だけでは計れません。けれど、この品々には。フォルビア様への想いが、たっぷり詰まっているのでしょう。
0
お気に入りに追加
159
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる