27 / 36
26 自分でも、わからない。
しおりを挟む
そんなやり取りの後。
私は、ミュールに身体の主導権を譲りました。
出会ってすぐの頃だったら、こんなこと、絶対にしなかったでしょう。
一緒にいるうちに、私はミュールを信頼するようになっていたのです。
1つの身体に、2つの精神。ミュールを通じて見る世界。
なんだか不思議な感覚です。
「ははっ、あの娘、本当に身体を渡しおった」
「ミュール……なのか?」
「ああ。見た目はリリィベルじゃがな。小娘の力だけでは、こいつを祓えそうにないものでなあ。我が協力することになったのじゃよ」
「そう、か……。リリィが納得しているならそれでいい。これ以上押さえつけておくと、ご子息が可哀相だ。早く祓ってやってくれ」
「……ええ。今すぐに、グラジオ様」
ミュールがわざとらしく私の口調を真似ます。
ふざけていないで、さっさと祓って欲しいものです。
「約束は約束じゃからな、ささっと祓ってやるか」
ミュールが立ち上がり、グラジオ様たちから少し距離を取ります。
悪魔を祓うためには、相手に触れる必要があるはず。
ミュールは、なにをするつもりなのでしょう。
「人間の身体を使っているとはいえ、我は悪魔じゃぞ? 悪魔には悪魔のやり方が……あるんじゃよ!」
グラジオ様たちの下で、床が光り始めました。
それは徐々に大きくなり、文字のようなものが刻まれた円に。
魔法陣、とでも呼べばいいのでしょうか。
押さえつけられた男性が……いえ、その中の悪魔が、陣から逃れようと必死に暴れ始めます。
それでもグラジオ様の力には敵わず、その場に縫い留められていました。
「悪いがさよならじゃ、同胞よ」
にいっと笑ったミュールが、ぱちん、と指を弾きます。
それとほぼ同時に、陣から炎の柱が出現。
悪魔は悲鳴とともに焼き付くされました。
ごうっと炎が立ち昇ったものですから、グラジオ様たちは大丈夫なのかと焦ってしまいましたが……。
人間には影響がないようで、熱さすら感じていないようでした。
暴れていたのが嘘のように大人しくなり、ご子息が意識を失います。
悪魔祓い、完了です。
『ありがとうございます、ミュール。申し訳ありませんが、早めに身体を……』
「おん? 返して欲しいならさっさと殴ればよかろうに」
『素直に返して欲しかったのですが……。仕方ありませんね、殴ります』
以前、ミュールから身体を取り返したときのように、彼女を殴ろうとしました。
そうしようと、したのです。身体が動きません。
先程、高等悪魔のいる空間と接続したときと同じ。
『ミュール!? あなた……』
「やはり動けんか。強まったのは、お前の力だけじゃなかったわけじゃ。まさか本当に可愛い猫ちゃんや守護精霊だと思っていたのか? 我は悪魔だと、何度も言ったろう」
『……!!』
私は、ミュールに負けたことを理解しました。
彼女の言う通り、私とミュール、両者の力が強くなっていたのでしょう。
前のように、ミュールを殴って身体を取り返すことはできそうにありません。
悪魔を信頼した私が、いけなかったのです。
「……ミュール? リリィはどうした? どうしてお前のままなんだ?」
「……バカな女、じゃったよ」
「何を言ってるんだ、ミュール。早くリリィに戻ってくれ。なあ、ミュール……!」
ご子息を床に寝かせ、グラジオ様がふらふらとミュールに近づきます。
「ミュール! リリィはどうしたと聞いている! 何故戻らない!」
グラジオ様に肩を掴まれても、ミュールは何も言いません。
私の身体ですから、表情はわかりませんが……彼女は、俯いていました。
「ミュール……!」
懇願するような、グラジオ様の声。
そんな顔をさせてしまってごめんなさい、グラジオ様。
私はもう、自力ではリリィベルに戻れないみたいです。
ミュールが、考え直しでもしてくれない限りは――
「……なーんての!」
ミュールがぱっと笑顔になったのがわかります。
同時に、私と交代。
このまま奪われてしまうかと思われた肉体が、私に返ってきました。
『冗談じゃよ、マジになりおって』
ミュールは黒猫の姿で顕現し、してやったと大笑い。
流石のグラジオ様もこの「いたずら」にはかんかんで、黒猫スタイルのミュールをがしっと掴んで「ミュール……?」とすごんでいました。
***
悪魔退治は成功。
リーシャン家まで送っていただき、グラジオ様と別れました。
「ミュール。あなた、本気でしたよね? どうして私に身体を返したのですか」
『……さあのう』
身体を奪われた張本人だから、わかります。
あのときのミュールは、本気で「リリィベル」を奪い取るつもりでした。
どういうつもりなのかと聞いても、ミュールからはまともな答えが得られません。
よくわからないままこの騒動は幕を閉じましたが、これ以降、私がミュールに身体を使わせることはありませんでした。
『どうしてかなんて……自分が知りたいわ』
私は、ミュールに身体の主導権を譲りました。
出会ってすぐの頃だったら、こんなこと、絶対にしなかったでしょう。
一緒にいるうちに、私はミュールを信頼するようになっていたのです。
1つの身体に、2つの精神。ミュールを通じて見る世界。
なんだか不思議な感覚です。
「ははっ、あの娘、本当に身体を渡しおった」
「ミュール……なのか?」
「ああ。見た目はリリィベルじゃがな。小娘の力だけでは、こいつを祓えそうにないものでなあ。我が協力することになったのじゃよ」
「そう、か……。リリィが納得しているならそれでいい。これ以上押さえつけておくと、ご子息が可哀相だ。早く祓ってやってくれ」
「……ええ。今すぐに、グラジオ様」
ミュールがわざとらしく私の口調を真似ます。
ふざけていないで、さっさと祓って欲しいものです。
「約束は約束じゃからな、ささっと祓ってやるか」
ミュールが立ち上がり、グラジオ様たちから少し距離を取ります。
悪魔を祓うためには、相手に触れる必要があるはず。
ミュールは、なにをするつもりなのでしょう。
「人間の身体を使っているとはいえ、我は悪魔じゃぞ? 悪魔には悪魔のやり方が……あるんじゃよ!」
グラジオ様たちの下で、床が光り始めました。
それは徐々に大きくなり、文字のようなものが刻まれた円に。
魔法陣、とでも呼べばいいのでしょうか。
押さえつけられた男性が……いえ、その中の悪魔が、陣から逃れようと必死に暴れ始めます。
それでもグラジオ様の力には敵わず、その場に縫い留められていました。
「悪いがさよならじゃ、同胞よ」
にいっと笑ったミュールが、ぱちん、と指を弾きます。
それとほぼ同時に、陣から炎の柱が出現。
悪魔は悲鳴とともに焼き付くされました。
ごうっと炎が立ち昇ったものですから、グラジオ様たちは大丈夫なのかと焦ってしまいましたが……。
人間には影響がないようで、熱さすら感じていないようでした。
暴れていたのが嘘のように大人しくなり、ご子息が意識を失います。
悪魔祓い、完了です。
『ありがとうございます、ミュール。申し訳ありませんが、早めに身体を……』
「おん? 返して欲しいならさっさと殴ればよかろうに」
『素直に返して欲しかったのですが……。仕方ありませんね、殴ります』
以前、ミュールから身体を取り返したときのように、彼女を殴ろうとしました。
そうしようと、したのです。身体が動きません。
先程、高等悪魔のいる空間と接続したときと同じ。
『ミュール!? あなた……』
「やはり動けんか。強まったのは、お前の力だけじゃなかったわけじゃ。まさか本当に可愛い猫ちゃんや守護精霊だと思っていたのか? 我は悪魔だと、何度も言ったろう」
『……!!』
私は、ミュールに負けたことを理解しました。
彼女の言う通り、私とミュール、両者の力が強くなっていたのでしょう。
前のように、ミュールを殴って身体を取り返すことはできそうにありません。
悪魔を信頼した私が、いけなかったのです。
「……ミュール? リリィはどうした? どうしてお前のままなんだ?」
「……バカな女、じゃったよ」
「何を言ってるんだ、ミュール。早くリリィに戻ってくれ。なあ、ミュール……!」
ご子息を床に寝かせ、グラジオ様がふらふらとミュールに近づきます。
「ミュール! リリィはどうしたと聞いている! 何故戻らない!」
グラジオ様に肩を掴まれても、ミュールは何も言いません。
私の身体ですから、表情はわかりませんが……彼女は、俯いていました。
「ミュール……!」
懇願するような、グラジオ様の声。
そんな顔をさせてしまってごめんなさい、グラジオ様。
私はもう、自力ではリリィベルに戻れないみたいです。
ミュールが、考え直しでもしてくれない限りは――
「……なーんての!」
ミュールがぱっと笑顔になったのがわかります。
同時に、私と交代。
このまま奪われてしまうかと思われた肉体が、私に返ってきました。
『冗談じゃよ、マジになりおって』
ミュールは黒猫の姿で顕現し、してやったと大笑い。
流石のグラジオ様もこの「いたずら」にはかんかんで、黒猫スタイルのミュールをがしっと掴んで「ミュール……?」とすごんでいました。
***
悪魔退治は成功。
リーシャン家まで送っていただき、グラジオ様と別れました。
「ミュール。あなた、本気でしたよね? どうして私に身体を返したのですか」
『……さあのう』
身体を奪われた張本人だから、わかります。
あのときのミュールは、本気で「リリィベル」を奪い取るつもりでした。
どういうつもりなのかと聞いても、ミュールからはまともな答えが得られません。
よくわからないままこの騒動は幕を閉じましたが、これ以降、私がミュールに身体を使わせることはありませんでした。
『どうしてかなんて……自分が知りたいわ』
0
お気に入りに追加
159
あなたにおすすめの小説
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜
ぐう
恋愛
アンジェラ編
幼い頃から大好だった。彼も優しく会いに来てくれていたけれど…
彼が選んだのは噂の王女様だった。
初恋とさよならしたアンジェラ、失恋したはずがいつのまにか…
ミラ編
婚約者とその恋人に陥れられて婚約破棄されたミラ。冤罪で全て捨てたはずのミラ。意外なところからいつのまにか…
ミラ編の方がアンジェラ編より過去から始まります。登場人物はリンクしています。
小説家になろうに投稿していたミラ編の分岐部分を改稿したものを投稿します。

純白の檻からの解放~侯爵令嬢アマンダの白い結婚ざまあ
ゆる
恋愛
王太子エドワードの正妃として迎えられながらも、“白い結婚”として冷遇され続けたアマンダ・ルヴェリエ侯爵令嬢。
名ばかりの王太子妃として扱われた彼女だったが、財務管理の才能を活かし、陰ながら王宮の会計を支えてきた。
しかしある日、エドワードは愛人のセレスティーヌを正妃にするため、アマンダに一方的な離縁を言い渡す。
「君とは何もなかったのだから、問題ないだろう?」
さらに、婚儀の前に彼女を完全に葬るべく、王宮は“横領の罪”をでっち上げ、アマンダを逮捕しようと画策する。
――ふざけないで。
実家に戻ったアマンダは、密かに経営サロンを立ち上げ、貴族令嬢や官吏たちに財務・経営の知識を伝授し始める。
「王太子妃は捨てられた」? いいえ、捨てられたのは無能な王太子の方でした。
そんな中、隣国ダルディエ公国の公爵代理アレクシス・ヴァンシュタインが現れ、彼女に興味を示す。
「あなたの実力は、王宮よりももっと広い世界で評価されるべきだ――」
彼の支援を受けつつ、アマンダは王宮が隠していた財務不正の証拠を公表し、逆転の一手を打つ!
「ざまあみろ、私を舐めないでちょうだい!」

【完結】婚約破棄されたので国を滅ぼします
雪井しい
恋愛
「エスメラルダ・ログネンコ。お前との婚約破棄を破棄させてもらう」王太子アルノーは公衆の面前で公爵家令嬢であるエスメラルダとの婚約を破棄することと、彼女の今までの悪行を糾弾した。エスメラルダとの婚約破棄によってこの国が滅ぶということをしらないまま。
【全3話完結しました】
※カクヨムでも公開中
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる