【完結】逆行の代償に悪魔と契約してしまった子爵令嬢、悪魔に殴り勝ってハッピーエンドを目指します。 婚約者も親友も救ってみせますとも!

はづも

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11 ミュール、顕現。 ……ネコチャン!

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 同じような流れで、何度か悪魔を祓ったころ。
 私の中の悪魔・ミュールが『そろそろいけるかのう』と呟きました。
 今は自室に一人ですので、人目を気にせずミュールと会話することができます。

「ミュール? なんのはな、し……」

 私の言葉はそこで止まりました。
 どうしてって、私の胸の辺りから、ぐぐぐ、と黒い球体が出てきていたのです。
 普通に話している場合じゃありません。

「ひっ……!?」

 女性の両手で包み込めるほどの大きさのそれは、ぽんっと、どこか可愛らしい音とともに私の身体から抜け出ました。
 上手く言えませんが……。自分からなにかが生まれた。そんな感覚でした。

「なっ……! なに……!? なんですか……!?」
『おお、いけたいけた。暴力娘でもこれには流石にビビるんじゃの』

 ミュールの声。
 確かに彼女の声なのですが、聞こえる方向といいますか、場所といいますかが……今までと違います。
 私の中ではなく、目の前の球体から聞こえているような気がします。

「えっ……? え? ミュール……なのですか?」

 おそるおそる黒い球体に指を伸ばし、つつきます。触ることができました。
 ぷにぷにしていて、と意外と柔らかです。

『そうじゃ、ミュール様じゃぞ! 気安く触るでない!』
「なに、なにこれ……? なんですこれは……」

 ぷにぷにぷにぷに。ぷにぷにぷにぷに。
 ミュールの言葉を無視してつつきまくりました。クセになる感触です。

『だーっ! やめろ小娘! これから姿を作るところなのじゃ、邪魔をするな!』
「姿を……?」
『いいから黙って見てろ! ……黙って触ればいいという話でもない!』

 黒い球体がふわっと浮き上がり、私が手を伸ばしても届かない高さへ移動。
 逃げられてしまいました。
 
『くくっ……見ておれ! これが高等悪魔・ミュール様の姿じゃ!』

 その言葉と同時に、私の部屋が暗闇に包まれました。
 目が慣れていないこともあり、何も見えません。
 元の明るさに戻ったときには――

「か、可愛い……」

 羽の生えた、小さな生き物――黒猫によく似ています――が、ぱたぱたと翼を動かしながら宙に浮いていました。

「ミュール、あなた、こんな姿だったんですか!? そういうことは早く言ってください! 殴りまくってしまったではないですか!」
『ち、違うのじゃ! 本当の我はもっと威厳のある姿をしておる! お前の魔力が足りないせいでこうなったのじゃ!』
「ああ……とっても可愛いです。ご飯は何を食べるのでしょうか」
『聞け!』
「猫に似ているなら肉食ですか? それとも雑食ですか? このお菓子は食べられますか?」
『もう嫌じゃこいつ……。見守る月って絶対嘘じゃろ……』



 後で聞いたところ、この黒猫のような姿は顕現に失敗して生まれたものとのことでした。
 悪魔に取り憑かれた状態で他の悪魔を祓うと、その力の一部……魔力が私に移るとか。
 ミュールは、私に蓄えられた魔力を使って実体を作ったそうです。

 けれど、本来の姿を作るほどの力はまだなかったようで。
 ミュールは愛らしい小動物になってしまいました。
 可愛いのでこのままでいいと思います。
 自我を保った契約者と魔力の両方が必要なため、高等悪魔であっても、実体を作る機会はかなり少ないと話していました。

 実体を持ってはいるのですが、ミュールの姿が見えるのも、声が聞こえるのも私だけです。
 小動物の姿なら殴られないことを理解したミュールは、危険を感じるとぽんっと私の中から出てくるようになりました。
 可愛い猫ちゃんの形をとられてしまったら、暴力に訴えることはできません。
 私は猫好きなのです。
 



『この男、スケベなことを考えておるぞ! むっつりじゃ! むっつりスケベじゃ!』

 グラジオ様とのお話し中、私の周囲を飛び回るミュールがいちいち騒ぎます。
 グラジオ様のことをこんな風に言われても、猫ちゃんの姿である以上、殴ることなどできません。
 なんと卑怯な……! でも、見た目が可愛いので許します。

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