【完結】鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~

はづも

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3章 新しい関係

7 初めてのジェラシー

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 大好き、という気持ちがだだ漏れのアーロンと、そんな彼との婚約を受け入れたものの、どうしたら彼に応えられるのかも、彼の言う「好き」の意味もよくわからないマリアベル。
 二人の関係に「婚約者」という名前がついたことを除けば、二人の関係はあまり進展していないようにも思えた。
 しかし、転機は突然訪れる。

 1・2年生合同での魔法実習の際、マリアベルは、アーロンと親し気に話す女子に対して、嫉妬した。
 感情の種類はすぐに理解できなかったものの、「むむ」と思ったのだ。
 
 これまでのマリアベルは領地にこもりっぱなしで、アーロンに会うときは二人のことが多く。
 王立学院入学後も、自分に笑顔を向ける彼ばかり見ていた。
 そんなことだから、彼が自分抜きで他の女性と話す場面は、あまり見たことがなかったのである。
 マリアベル・マニフィカ。今年で16歳。初のジェラシーであった。
 

 合同授業は、2年生が1年生に魔法の使い方について指導をする形で行われる。
 1年生は、同じ苦労をした先輩からの指導を受けることができ、2年生は、他者に教えることで自身の理解を深めることができる。
 毎年好評で、こういった授業は毎年複数回行われている。
 マリアベルは1年生だから、本来なら教わる側。しかし、魔法特待生のマリアベルとコレットは、指導をしたり、実技を披露したりする側にまわっていた。

「魔法陣を簡略化する際は、そのぶん自分の中のイメージをしっかり固めて……」
「正式な手順での発動を何度も繰り返してから、自分の感覚に従って陣や詠唱にアレンジを……」
 
 マリアベルの説明に真剣に耳を傾けるのは、1年生の中でも魔法関連の成績がよい者たちだ。
 それぞれの成績や特性を考慮して、班が決められているのだ。
 アーロンは2年生で、剣技が目立つが魔法の腕も優秀なため、もちろん指導側。
 同じく指導にまわるマリアベルとは、別の班だった。
 婚約者と班が分かれたことなど気にしていなかったし、彼を目で追ったりもしていなかった。
 授業も中盤に差し掛かったころ、女生徒の歓声に誘われて顔を上げ、彼女らの視線の先を見てみれば。そこには、実技を披露するアーロンの姿が。
 剣に炎をまとわせてふるう、彼らしい魔法の使い方だ。

――かっこいい。

 それが、マリアベルの素直な感想だった。他の女生徒も同じ気持ちなようで、きゃあきゃあと黄色い悲鳴をあげている。
 剣技と魔法を融合させた技を披露し終えた彼は、班員の元へと戻っていった。
 その時点で、自身の班に意識を戻そうとしたマリアベルだったが――そのタイミングが少し遅れたために、見てしまった。
 アーロンが、他の女生徒と親し気に話す場面を。

 彼はいつだってにこやかだが、今の彼が浮かべているものは、普段の笑顔とはちょっと違う。
 上手くできただろ、とでも言いたげに、ふふんと悪い顔をしていた。
 相手の女性も、ただの同級生や後輩、といった雰囲気ではなく。
 得意げにするアーロンをおちょくるように、くすくすと笑っていた。

 マリアベルは、二人が醸し出す特別感のある空気に驚き、目を離せなくなってしまった。
 続けて、近くにいた女子たちの「あの二人って、婚約者候補だったこともあるんでしょ?」なんて言葉まで聞こえてきてしまい、マリアベルはぽろりと杖を落とした。

 特別親し気な、元・婚約者候補たち。
 どくん、とマリアベルの心臓が変な音をたてる。
 二人が仲良さげに話すのを、嫌だ、と感じた。
 その人じゃなくて私のほうを見て、とも思う。

「……?」

 それは、これまでの彼女が知らなかった感情だった。
 自分が置かれた状況が自分で理解できず、マリアベルは戸惑う。
 アーロンに対して、他の女性と話さないで、なんてふうに思ったことはこれまでなかったのだ。

「マリアベルさん?」
「どうした、マニフィカ嬢」

 硬直してしまったマリアベルに、班員の一年生たちが心配げに声をかける。
 ハッとしたマリアベルは、きっちり授業に参加する方向に気持ちを切り替えて、なんとかその場を乗り切ったのであった。
 
 しかし、その後の座学では集中を欠いて。
 昼休みも、せっかくのみんなでのお弁当タイムなのに、どこかぼうっとしていた。

「ベル、どうかした? もしかして、体調が優れない?」

 そうアーロンに声をかけられても、

「いえ、そういうわけでは……」

 ぐらいの返ししかできない。
 アーロンを見ると、なんだかもやもやする。
 合同授業のとき、他の女性と話していた場面を思い出してしまう。
 元婚約者候補、という言葉も何度もちらついて。
 最終的に、マリアベルは自分を心配する彼から視線も顔もそらし、そっぽを向いてしまった。

――ごめんなさい、アーロン様。

 マリアベルに無視されてショックを受けた様子のアーロンを横目に見つつ、心の中でだけ彼に謝罪した。
 こんな気持ちになるのは初めてで、マリアベル自身、制御ができなかったのだ。
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