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2章 学園生活
17 両者、勝ち誇る
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「ねえ、お二人とも。今度の週末、うちに遊びにきませんか?」
「グラセス伯爵家に?」
「ええ! もしよかったら、なのですが……。三人でお茶会などいかがでしょう」
「素敵ね! ぜひお邪魔させていただくわ。コレットはどう?」
「えっと……。お誘いは、とても嬉しいのですが……」
うちでお茶会をしましょう、というクラリスの提案を、マリアベルは快諾。
コレットは、嬉しい、と答えつつも恥ずかしそうに視線を泳がせている。
「その……。伯爵家にお呼ばれするとなると、マナーなど、自信がなく……」
「でしたら、うちで練習すればいいのですわ。他の参加者は私とベルお姉さまのみ。友人だけの空間で練習できると思うと、気楽でしょう?」
「……! たしかに、そうですね」
伯爵家へのお呼ばれだからと、気を張る必要はない。
これからのための、練習の場だと思っていい。
そう取れる言葉に、コレットも友人同士のお茶会への参加を決めた。
これまで、領地の守りで忙しく、「友人」と呼べる人もほとんどいなければ、こうしてお呼ばれすることなどもなかったマリアベルは、この時を心から楽しんでいた。
――やっぱり、王立学院に来てよかったわ!
友人たちとのお茶会の約束をし、マリアベルはご機嫌だった。
ただ、ちょっと気になることもあったりはして。
マリアベルは、ちら、と傍らに座るアーロンを見やった。
今は、恒例の中庭でのランチタイム。
当然、アーロンもそばにいるのである。
「ねえ、クラリス。三人、じゃないとダメかしら」
そう問うマリアベルの視線は、ちらちらとアーロンに向いている。
アーロンも一緒にどうだろうかと、クラリスに確認しているのである。
恋愛感情か、と聞かれるとなんともいえないところではあったが、マリアベルにとって、アーロンは大切な人だ。
鮮血のマリアベル、なんて呼んで令息たちが逃げ出していく中、アーロンだけはそばにいてくれた。
王立学院入学後も、ずっと自分のことを気にかけてくれている。
アーロンがマリアベルに向けるものとは、気持ちの種類は違うかもしれない。
けれど確かに、アーロンはマリアベルにとっての「特別」で。
同性の友人ができたことはもちろん嬉しいが、アーロンもこの場にいるというのに、女子三人だけで遊びの予定を立てるのは、なんとなく気が引けた。
クラリスも、マリアベルの表情や視線の動きから、彼女の言わんとすることは理解した。
けれど、ここで「では四人で」とならないのがクラリス・グラセスだ。
「ベルお姉さま。今回は『女子会』でしてよ」
「……!」
女子会。その甘い響きに、マリアベルは陥落した。
領地血濡れマリアベル。女子会という響きに、憧れていたのである。
「じょし、かい……! 楽しみだわ!」
マリアベルは、女子三人で、という方向に頭を切り替えた。
――ベル、僕のことも気にかけてくれるんだね!
と、アーロンが思ったのも束の間。
やはり女子のみで話が進み、クラリスにはふふん、と笑みを向けられた。
「……!」
アーロンも、クラリスの挑発的な態度に気が付き、二人のあいだではばちばちと火花が散っている。
もしもこれが、男子がマリアベルを誘う場面であれば、なにがなんでも邪魔したことだろう。
しかし、クラリスは女子。
それも、コレットも含めた「女子会」をしたいと話している。
男子であるアーロンが、マリアベルから「女子会」の機会を奪うことは、できなかった。
お弁当タイムにクラリスが混ざるようになってから、少しの時が経過していた。
女子三人はすっかり仲良くなり、こうして休日の予定を立てるまでになっている。
クラリスはアーロンにライバル心があるようだが、完全に無視されているわけでもない。
もちろん、マリアベルとコレットは、一人混ざる男子と化したアーロンにも、普通に接してくれる。
しかし、疎外感。休日の予定も「女子三人」前提で話が進んでおり、疎外感――!
邪魔だどけと割って入れない分、男子よりも女子のほうが面倒かもしれない。
そんな風に思いつつある、アーロンであった。
だが、ここでめげる男ではない。
入学当初と変わらず、登下校はマリアベルと二人きり。
そろそろ寮暮らしに移行しようと思う、と彼女は話してはいるが、まだ自分と一緒にいてくれるだろう。
なにやら魔力目当てと勘違いされてしまったが、プロポーズだって済んでいる。
それになにより――。
――勝ち誇っていられるのも今のうちだ、クラリス・グラセス伯爵令嬢……!
女子会であることを強調され、のけ者にされようと、アーロンはまだ負けていない。
むしろこれから、マリアベルと自分の関係に、はっきりとした名前がつくはずだ。
婚約者、という名が。
そう、マリアベル・マニフィカに婚約を打診すると、アークライト家が正式に決定したのだ。
そう日もかからず、この話はマニフィカ家にも届くだろう。
だからアーロンは、クラリスに挑発されようと、男子だからとのけ者にされようと、まだ余裕がある。
今度はアーロンが、己の勝ちを確信したかのように、ふっと笑みを浮かべた。
「グラセス伯爵家に?」
「ええ! もしよかったら、なのですが……。三人でお茶会などいかがでしょう」
「素敵ね! ぜひお邪魔させていただくわ。コレットはどう?」
「えっと……。お誘いは、とても嬉しいのですが……」
うちでお茶会をしましょう、というクラリスの提案を、マリアベルは快諾。
コレットは、嬉しい、と答えつつも恥ずかしそうに視線を泳がせている。
「その……。伯爵家にお呼ばれするとなると、マナーなど、自信がなく……」
「でしたら、うちで練習すればいいのですわ。他の参加者は私とベルお姉さまのみ。友人だけの空間で練習できると思うと、気楽でしょう?」
「……! たしかに、そうですね」
伯爵家へのお呼ばれだからと、気を張る必要はない。
これからのための、練習の場だと思っていい。
そう取れる言葉に、コレットも友人同士のお茶会への参加を決めた。
これまで、領地の守りで忙しく、「友人」と呼べる人もほとんどいなければ、こうしてお呼ばれすることなどもなかったマリアベルは、この時を心から楽しんでいた。
――やっぱり、王立学院に来てよかったわ!
友人たちとのお茶会の約束をし、マリアベルはご機嫌だった。
ただ、ちょっと気になることもあったりはして。
マリアベルは、ちら、と傍らに座るアーロンを見やった。
今は、恒例の中庭でのランチタイム。
当然、アーロンもそばにいるのである。
「ねえ、クラリス。三人、じゃないとダメかしら」
そう問うマリアベルの視線は、ちらちらとアーロンに向いている。
アーロンも一緒にどうだろうかと、クラリスに確認しているのである。
恋愛感情か、と聞かれるとなんともいえないところではあったが、マリアベルにとって、アーロンは大切な人だ。
鮮血のマリアベル、なんて呼んで令息たちが逃げ出していく中、アーロンだけはそばにいてくれた。
王立学院入学後も、ずっと自分のことを気にかけてくれている。
アーロンがマリアベルに向けるものとは、気持ちの種類は違うかもしれない。
けれど確かに、アーロンはマリアベルにとっての「特別」で。
同性の友人ができたことはもちろん嬉しいが、アーロンもこの場にいるというのに、女子三人だけで遊びの予定を立てるのは、なんとなく気が引けた。
クラリスも、マリアベルの表情や視線の動きから、彼女の言わんとすることは理解した。
けれど、ここで「では四人で」とならないのがクラリス・グラセスだ。
「ベルお姉さま。今回は『女子会』でしてよ」
「……!」
女子会。その甘い響きに、マリアベルは陥落した。
領地血濡れマリアベル。女子会という響きに、憧れていたのである。
「じょし、かい……! 楽しみだわ!」
マリアベルは、女子三人で、という方向に頭を切り替えた。
――ベル、僕のことも気にかけてくれるんだね!
と、アーロンが思ったのも束の間。
やはり女子のみで話が進み、クラリスにはふふん、と笑みを向けられた。
「……!」
アーロンも、クラリスの挑発的な態度に気が付き、二人のあいだではばちばちと火花が散っている。
もしもこれが、男子がマリアベルを誘う場面であれば、なにがなんでも邪魔したことだろう。
しかし、クラリスは女子。
それも、コレットも含めた「女子会」をしたいと話している。
男子であるアーロンが、マリアベルから「女子会」の機会を奪うことは、できなかった。
お弁当タイムにクラリスが混ざるようになってから、少しの時が経過していた。
女子三人はすっかり仲良くなり、こうして休日の予定を立てるまでになっている。
クラリスはアーロンにライバル心があるようだが、完全に無視されているわけでもない。
もちろん、マリアベルとコレットは、一人混ざる男子と化したアーロンにも、普通に接してくれる。
しかし、疎外感。休日の予定も「女子三人」前提で話が進んでおり、疎外感――!
邪魔だどけと割って入れない分、男子よりも女子のほうが面倒かもしれない。
そんな風に思いつつある、アーロンであった。
だが、ここでめげる男ではない。
入学当初と変わらず、登下校はマリアベルと二人きり。
そろそろ寮暮らしに移行しようと思う、と彼女は話してはいるが、まだ自分と一緒にいてくれるだろう。
なにやら魔力目当てと勘違いされてしまったが、プロポーズだって済んでいる。
それになにより――。
――勝ち誇っていられるのも今のうちだ、クラリス・グラセス伯爵令嬢……!
女子会であることを強調され、のけ者にされようと、アーロンはまだ負けていない。
むしろこれから、マリアベルと自分の関係に、はっきりとした名前がつくはずだ。
婚約者、という名が。
そう、マリアベル・マニフィカに婚約を打診すると、アークライト家が正式に決定したのだ。
そう日もかからず、この話はマニフィカ家にも届くだろう。
だからアーロンは、クラリスに挑発されようと、男子だからとのけ者にされようと、まだ余裕がある。
今度はアーロンが、己の勝ちを確信したかのように、ふっと笑みを浮かべた。
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