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2章 学園生活

16 クラリス・グラセスは気に入らない 4

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 クラリスの話を聞き、アーロンは納得した。
 マニフィカ領でも、似たようなことが起きていたからだ。
 マニフィカ伯爵は、魔物から領民を守るために尽力した。
 私財を売り払い、借金までしたのだ。
 マニフィカ伯爵は、本気で民を守ろうとしていた。
 それは、協力を要請されたアークライト家のアーロンだって、よく知っている。

 しかし、もっと被害を小さくすることができたのではないか、もっと早くに収束させられたのではないか、という見方をするものも、少数ではあるが存在した。
 となると、その娘であるマリアベルに対しても、厳しい目を向ける者はいたのだ。
 だが、マニフィカ伯爵家を非難する者も、自分自身や家族をマリアベルに救われて、彼女のファンになっていったものだった。
 マニフィカ領には、今のクラリスのような、マリアベルのファンが多いのである。
 マリアベルの幼馴染であるアーロンからすれば、「よくあるやつ……」といったところだった。

 クラリスの変わりっぷりに驚きはしたし、「ベルに嫌がらせをしていたのに」という気持ちも、全く存在しないわけではないが……。
 嫌がらせを受けていた張本人であるマリアベルが、クラリスを拒絶する様子はないのだから、まあいいのだろう。

 事実、マリアベルはクラリスの過去と今の違いを、さほど気にしていなかった。
 領地での経験もあり、実績や実力によって相手の態度が変わることには、もう慣れっこなのである。
 助けたことで、相手に感謝される。好かれる。
 過去はどうあれ、助けられた事実と実力を認め、「ありがとう」と言ってくれるのなら、その思いまで拒絶する理由はない。
 自分の力で助けられるなら、誰だって助ける。それで感謝してもらえるのなら、素直に嬉しい。
 マリアベルは、そういう人だった。



 一通り話し終えると、クラリスはマリアベルとコレットのほうへ戻っていく。
 笑い合う三人を見て、アーロンは小さくため息をついた。

――ベルが受け入れてるなら、まあいいか。

 大切な人を傷つけられたのだ。アーロンからすれば、まあ、ちょっとは思うところがある。
 けれどマリアベル本人が気にしていないし、彼女の魅力を知ってもらえたことは嬉しいし、友人が増えてよかったとも感じる。
 マリアベルの見た目だけに惹かれて群がる男たちよりも、クラリスのほうがマリアベルのよさを理解しているとも思える。
 アーロンにしてみれば、容姿しか見ていない男どもより、マリアベルの実力や人柄に惚れ込んだクラリスのほうが、「わかっている」存在であった。

 この感じなら、これから仲のいい女子も増えていくだろう。
 友人が欲しい、とマリアベルが意気込んでいたことを知るアーロンは、彼女を見守る姿勢になっていた。

――よかったね、ベル。

 そんな気持ちでマリアベルを眺めていると、「ベルお姉さま!」とクラリスがマリアベルに抱き着いた。
 その後も、クラリスはマリアベルに対して妙に近いし、なんだか頬が上気しているように見える。
 まるで、恋する乙女のような――。
 
 
――女子同士の可愛らしいスキンシップ、女子同士の気軽なスキンシップだよね!?

 クラリスの態度がなんとなく引っかかってしまい、アーロンはそう己に言い聞かせる。
 しかし、クラリスは。

「ベルお姉さまの髪、とってもきれいだわ」

 と、マリアベルの銀の髪に触れ、器用にアレンジをしつつ、ちらりとアーロンを見やった。

「……!」

 アーロンを見るクラリスの表情は「羨ましいでしょ?」「私は堂々と触れるのよ」と言わんばかりに、勝ち誇っていた。
 婚約者ですらないあなたでは、こんなことできませんよね。そんな気持ちが伝わってくるような笑みである。

 マリアベルに惚れ込んだクラリス・グラセス伯爵令嬢のライバルは、同じくマリアベルに惚れるアーロンに変更された。
 クラリス・グラセスは、幼馴染だからという理由で、マリアベルの隣をキープし続けるアーロン・アークライトのことが、気に入らない。
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