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1章 突然のプロポーズまでの道のり

8 妖精姫の再来

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 ドレスは既に仕立て始めている。
 髪や肌の手入れを担当する者は、近々マニフィカ家に送る。
 パーティー当日は、アークライト家で送迎を行う。
 当日の準備から、解散までのスケジュール。

 そんなことを、アーロンと共に確認していく。
 貴族のお嬢さんらしいことなどしてこなかったマリアベル。
 ドレスの好みを聞かれてもちんぷんかんぷんだったため、デザインはアーロンとアークライト家にお任せしてある。

 先に行われたドレスの打ち合わせと採寸の際、マリアベルがおずおずと

「あのう……。まっっったく、それはもうびっくりするほど、今の流行も、なにが似合うのかもわからないので、お任せしてもよろしいでしょうか……?」

 と言ってきた際には、アーロンは天にも昇る気持ちになったものだ。
 自分好みの、彼女に似合うと思ったドレスを着せていい。
 大事な晴れ舞台で身に着けるものを、自分が選んでいい。
 好きな子が、自分という男の選んだドレスを身に着ける――!
 そういうことだからだ。
 申し訳なさそうにする彼女への、アーロンの答えは。

「もちろん! 任せて!」

 だった。



 ほどなくして、アークライト家の使用人が、マニフィカ家に出入りするようになった。
 普段は、アーロンの姉妹の身の回りの世話を担当しているメイドだそうだ。
 そんな人を私につけていいの!? と思ったものだったが、メイド――ディーナは、なんの不満も疑問もなさそうだ。

「マリアベル様は、アーロン様の大切な人ですから」

 そんなことを言いながら、彼女はマリアベルの世話をする。
 朝と夜の手入れが大事だとかで、ディーナはパーティーの日までマニフィカ家に泊まり込むことになっている。
 入浴中も肌を磨かれ、そのあとは髪にオイルを揉みこまれ、丁寧に乾かされて……。
 同性とはいえ、他者に裸を見せる機会などほとんどなかったマリアベルは、「ひゃー!」と恥ずかしい気持ちになったものだった。

 手入れの効果は、徐々に現れ始めた。
 長さはそれなりだったものの、ぱさぱさのもさもさで、おろして人前に出ることはほとんどなかった髪は、ふわふわのつやつやに。
 かさつき、日に焼けた肌も白く透き通り始めた。
 ふと鏡を見たときに、これは本当に自分なのかと疑ってしまうほどの変わりようだった。

「……お嬢さんっぽい!」

 美しきご令嬢へと変わりつつある本人の感想は、これだったが。



 アーロンとの打ち合わせも重ね、髪や肌の手入れをされ。
 そんな風に過ごしているうちに、あっという間に入学を迎えた。
 入学式の朝。
 制服に着替えたマリアベルは、鏡の前でくるっと一回転する。

 美より修業と戦いよ! だった彼女だが、見た目がきれいになれば、やはり嬉しくはなるもので。
 ふわふわの銀髪に自分で触れて、えへへと笑った。
 こうなるよう手配してくれたアーロンには、大大大感謝である。

 自宅から通学するか、学院内の寮で暮らすか。
 通学に使える馬車などないマリアベルは、迷った。迷ったというか、通学手段がないのだから通常なら寮一択である。
 そんなマリアベルが自宅から学校へ迎える理由。それは――

「お嬢様、アーロン様がお迎えにいらっしゃいましたよ」
「今行くわ!」

 執事の言葉に、マリアベルは元気に返事をした。
 ついでだからと、アーロンが送迎をしてくれることになったからである。
 流石に甘えすぎではと思ったが、学園生活と寮暮らしが同時に始まるのは大変だろう、せめて慣れるまでは送らせて欲しい、と言ってくれたので、彼の優しさを素直に受け取ることにした。
 後々、寮暮らしに移行するつもりだ。

「お待たせしました!」
「……!」

 髪をおろし、制服に身を包んだマリアベルを見て、アーロンが息をのむ。
 マリアベルは、過去、その見目のよさを称賛されていた。
 その頃の輝きが、戻ってきていた。

「……妖精姫」
「アーロン様?」

 アーロンが、ぽつりとなにか呟いた。
 その声はとても小さくて、目の前のマリアベルでも聞きとることができなかった。
 どうかしましたか、というマリアベルの言葉にはっとしたアーロンは、柔和な笑みを浮かべる。

「なんでもないよ。さあ、出発しようか」

 こうして、マリアベルの学園生活が始まる。
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