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2章

5 レオにいさまと冷たい拒絶

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 今日は騎士としての仕事はないらしく、昼間の今もレオンハルトが屋敷にいる。
 冷遇されてはいるものの、アリアとて彼の奥様。ざっくりではあるが、レオンハルトのスケジュールは使用人から伝えられているのだ。
 知らぬ間に外出でもしていない限り、彼も私室や執務室あたりにいるはずなのである。
 さあ木苺を収穫しにいきましょう! お菓子を作るのよ! と二人で張り切っている場面も見られているため、彼もこちらの動きはなんとなく把握しているだろう。

(家にいるってわかってるのに、声をかけないのもよくないかしら……)

 ただのお茶会であればまだいいが、今日のメニューは彼の甥っ子であるルカが仕上げを担当したタルトだ。
 ここで声すらかけずに仲間外れにするのは流石によくない、気がした。
 だが、ルカを引き続きこの屋敷におくことを決めた今も、彼はルカにほとんど近づかない。
 使用人を通して様子を聞くなどして気にかけてはいるようだが、二人が話している場面も見たことはない。
 なにをそんなに気にしているのかわからないが、とにかくルカと交流を持とうとはしないのである。
 明らかにルカを避けている男を誘うべきか、やめておいたほうがいいのか。
 ううーんと悩み始めてしまいそうになったが、一人でぐるぐるしたって仕方がない。
 ここはルカの意見を聞こうじゃないか。

「ねえルカ。旦那様……レオンハルト伯父さんとも一緒がいいかしら?」
「レオにいさまと?」

 レオにいさま呼びだと……!? と内心動揺しながらも、アリアは笑顔を作る。
 これまで、伯父と甥でそれなりに親しくしてきたのであろうことが、呼び方1つからうかがえた。
 レオンハルトは次期公爵だ。彼の立場を考えれば、「おじさま」あたりがふさわしいだろう。……まあ、年齢によっては「おじたま」「おじたん」といった言い方になってしまうかもしれないが。
 冷たい夫しか知らないアリアからすれば、「レオにいさま」と呼ばせているだなんて驚きしかない。
 可愛がっていた形跡は残るのに頑なに甥を避け続けるなんて、一体どういうことなのか。

「れ、レオにいさまもお茶に誘おうかなーって思ってるんだけど、ルカはどうしたい?」

 ルカに合わせて呼び方を変えてみたが、慣れない。

(レオにいさま。あの冷徹男がレオにいさま……)

 甥にこう呼ばれて破顔していた時代もあるのかもしれないと思うと、なかなかに面白いが全くイメージがわかない。
 さて、ルカの返答は。

「……わかんない」
「……わからない?」
「わかんないの」

 それだけ言うと、俯いてしまった。大きなアイスブルーの瞳は、ゆらゆらと揺れている。
 わからない、とはどういうことだろう。どういうことなのか詳しく聞きたい気持ちもあったが、これ以上レオンハルトの話をすれば泣き出してしまいそうだ。

「じゃあ、今日は二人でお茶会にしましょうか! ルカが作ったタルト、早く食べたいわ。絶対美味しいわよ~」

 幼子を傷つける可能性のある話題は避け、彼も楽しみにしているであろう話へと移行させる。
 しゅんとしていたルカだったが、アリアが「明日の朝ごはんには、ルカが収穫した木苺で作ったジャムが出る」「タルトを食べるのが楽しみだ」と場を盛り上げれば、表情が和らいでいった。

「さ、お茶にしましょ?」
「……うん!」

 そんな言葉とともに差し出された手をとったときには、ルカは笑顔になっていた。
 アリア以外の大人にも徐々に慣れてもらう意味もあり、食器やお茶の準備はヘレンに進めてもらう。
 タルトも最初に切り分けてもらい、大き目の一切れは皿にのせてよけておいた。
 可愛い可愛い甥が作ったものだ。きっとあの男も食べたかろうと、レオンハルトの分を取り分けておいたのである。

 ルカとの楽しい時間を終えたアリアは、レオンハルトの私室へ向かう。執事のウォルトに確認したところ、今は私室で休んでいるという話だったのだ。
 甥と関わろうとしない彼でも、二人で作ったお菓子ぐらいは受け取ってくれるだろう。
 そう期待していたのだが――。

「どうぞ旦那様! ルカと一緒に作った木苺のタルトです! 木苺はルカが収穫したもので……」
「いらない」
「……は?」
「いらないと言っている」

 ドアを開けたレオンハルトにタルトを差し出すアリアに浴びせられたのは、こんな言葉だった。
 扉を閉められそうになり、足を挟んで阻止する。

「……もう一度、言っていただけますか?」

 
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