没落伯爵家の私が嫁いだ相手は、呪われた次期公爵様でした ~放っておけずにいたら、夫と甥っ子くんに溺愛されています!~

はづも

文字の大きさ
上 下
13 / 23
1章

11 両親を亡くした子供

しおりを挟む
 レオンハルトの手当てを終えたアリアは、夫が連れてきた謎の子供の元へ向かっていた。
 その子が寝ているはずの部屋のドアを、静かに開ける。
 音を立てないようゆっくりと奥へ進んでいくと、ベッドで眠っているのが見えた。
 まだ熱は下がらないようで苦しそうだが、額には濡れタオルがのせられており、寝具や衣服も清潔だ。
 ベッドサイドには、水差しや薬も用意してある。
 どれもアリアが使用人に指示したことではあるが、それらがしっかりと実行されていることを確認し、彼女はほっと胸をなでおろした。
 レオンハルトの話が本当なら、この子は彼の妹の息子だ。
 二人の髪色が同じことからしても、信憑性は高い。
 けれど、一度強く持ってしまった疑いを晴らすのは、簡単なことではない。
 アリアは、甥っ子だと信じたい気持ちと、もしかしたらという疑いのあいだで揺れ動いていた。

「……でも、もしもがあったとしても、あなたが悪いわけじゃないものね」

 眠る幼子にそっと笑いかける。
 もしもこの子が夫の隠し子であったとしても、幼子にはなんの罪もない。
 ましてや、4歳や5歳ほどの男の子だ。そんな年齢の子に責任などありはしない。
 この子と夫の関係をはっきりさせるべきだとは思うが、治療を行うべきであるという意思に変わりはなかった。

「……早く元気になってね」

 起こさないよう、そっとその頬に触れる。
 ぷにぷにとした感触は、今まで面倒を見てきた弟たちを思い起こさせるもので。
 これまで幾度となく下の子たちの看病もしてきた彼女は、なんだか懐かしいな、なんて思ってしまった。

***

 それから、1週間ほどの時が経過した。
 重篤な病気などではなかったようで、幼子――ルカという名前だそうだ――はすっかり元気になった。年齢は5歳だとかで、このぐらいだろうというアリアの見立ては当たっていた。
 さらさらの銀の髪に、アイスブルーの瞳。
 公爵家に飾られた美形ぞろいの家族の肖像に混ざっても、なんの違和感もない美少年である。
 天使が舞い降りたのだと言われたら、うっかり信じてしまうかもしれない。
 赤みがかった茶髪に緑の瞳を持つアリアも、家族に可愛いとは言われてきたが、ブラント公爵家の面々はもはや格が違うように思える。
 この美形っぷりからしても、ルカがブラント家の血筋の者であることがわかる。

 この1週間のあいだに、アリアは長年ブラント公爵家に仕える執事から、ルカはレオンハルトの甥で間違いないと聞いていた。
 旦那様と妹君の麗しの幼少期の話もたらふく聞かされたから、レオンハルトを庇って嘘をついているわけでもないのだろう。
 聞けば、父親も既に亡くなっているという話だった。
 隠し子疑惑は消えたものの、5歳にして両親を亡くしていることを知ったアリアは、ルカを一人にしておけなくなっていた。



「ルカ。食べたいものはあるかしら?」
「は、はい……」

 今はルカとアリア、二人でのお茶の時間だ。
 テーブルに並ぶ見事なスイーツたちを示しながらそう聞いてみたのだが、ルカの顔色は優れない。
 一応返事はしてくれたが、俯くばかりでアリアの質問には答えてくれなかった。
 ルカの好みも、なにが食べたいのかもわからないので、アリアはちらちらと彼の様子を見ながらお菓子を皿にのせていく。
 どうしてか、彼は「自由に食べていい」と言っても、食べ物に手を付けてくれないのだ。
 なのでアリアのほうで選んで皿にのせ、目の前に差し出すようにしている。

 彼は確かに元気になったのだが、それはあくまで体調面の話。
 熱も下がり、自分で歩けるようになった今でも、ルカはあまり喋らない。
 呼吸器の調子が悪いわけでもなさそうだから、気持ち的な問題なのだろう。
 どうぞ、と特製スイーツ盛り合わせ――アリアは本当に盛っただけである――を彼の前に置くと、向かい側の席に戻った。

(それにしても、旦那様はなにをしてるのかしら!? ご両親を亡くした甥っ子だっていうのに、全然様子も見に来ないで!)

 そんなことを考えながら、アリアはじっとルカを見つめる。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

公爵家の跡継ぎ事情

satomi
恋愛
公爵家当主、エトール=ルル(ルが多い)は女性にモテまくって女性不審になり、当主でありながら独身。 養子をとり、その子・ショルドを次期当主に指名した。当然、自分の方が血統でいえば公爵家にふさわしい。と言ってきた輩(甥)もいたが、ショルドはイケメンだし、体格いいし、知性も運動神経もある。しかも王家の覚えもめでたく、功績も多い。のでなぁ。 いろいろあると思うけど、頑張れショルド!私の希望は孫の顔を見ること。 ショルドが第3王女の降嫁先だし…。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜

ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。 けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。 ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。 大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。 子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。 素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。 それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。 夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。 ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。 自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。 フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。 夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。 新たに出会う、友人たち。 再会した、大切な人。 そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。 フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。 ★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。 ※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。 ※一話あたり二千文字前後となります。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

日向はび
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...