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1章

9 Sideレオンハルト 疎ましく思っていた、彼女は

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 レオンハルトの制止もきかず、アリアはずかずかと部屋に入り込んでくる。
 どうやら火傷痕を放置していることが気になったらしく、

「ちゃんと手当てしましたか!?」
「こういうのは早めの対応が大事なんですよ!」
「呪いのことを知られたくないなら、薬ぐらいは私が塗りますから!」

 矢継ぎ早にそんなことを言いながら、塗り薬の入ったケースを持ってぐいぐいと近づいてくる。
 このままでは、先ほどと同じように無理やり服を奪われてしまいそうだった。
 妻の勢いに負けたレオンハルトは、強引に裸にされるよりはマシだと己に言い聞かせ、自ら服を脱いだ。
 上半身裸になりソファに腰かけるレオンハルトの前に膝をつき、アリアが薬を塗っていく。
 夫婦ではあるが、彼女に裸を見せたのは初めて――正確には二度目であるが――だ。
 それなのに、アリアが恥じらう様子はない。四人の弟の面倒を見てきたという話だから、異性の身体に慣れているのかもしれない。

「やっぱり、あのまま放置してたんですね。まったく、うちの弟たちじゃないんですから……。どうしてすぐに言わないで放っておくんだか……。男の人って、何歳になってもこうなのかしら」

 なにやらぶつぶつと言われているが、彼女の手つきは優しい。
 表情だって真剣そのもので、ろくな夫ではないはずの自分を本心で心配しているのが伝わってくる。
 さきほど、勝手に幼子を連れて帰ってきたときだってそうだ。
 あの子は、レオンハルトの甥っ子だ。間違いないと断言できる。
 しかしアリアからすれば、新婚の旦那が突然子供を連れ帰ってきただなんて、疑惑の場面にしか見えないことだろう。
 それでも彼女は、夫に詰め寄ることよりも、高熱を出して苦しむ子供の治療を優先してくれた。
 怒鳴られでもするだろうと思っていたから、アリアが子を助けるために使用人に指示を出し始めたとき、レオンハルトは驚いたのだ。

(……こういう人、なんだな)

 アリアに薬を塗られながら、そんなことを考えた。
 初日にアリアに話した通り、結婚は王命によるものだ。
 相手を決めたのだって第一王子で、結婚そのものにも、相手選びにも、レオンハルトの意思はなかった。
 だから、妻になど興味はなかったのだ。疎ましいとすら思っていた。
 けれど少しだけ、もう、と言われながら世話をされるこの状況が、どこか懐かしく温かいものにも感じられた。

 文句交じりに手を動かしていたアリアだったが、ふと、動きも言葉もとめる。

「……痛いとか、悲しいとか。早く言ってくれれば、治せるかもしれないのに。どうして話してくれないのかしら」

 そう言う彼女はどこか寂し気で。
 俯く妻の姿が、今は亡き妹にも重なる。
 彼の妹も心配性で、レオンハルトはよく叱られていた。
 親友と一緒に剣の稽古をしたあとなどは、傷だらけになった男二人を前にぷんぷんと怒ったあと、今のアリアと同じように悲し気な顔をしたものだった。
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